魔法戦記エメラルえりなResonance
第12話「ブラット」
ララをリーンで消息不明となった襲撃者と認識して攻撃をしようとするティアナ。だがその前に霞美が立ちはだかる。
「そこをどきなさい!あなたにも危害を加えてしまうことになるわよ!」
「ララは傷つけさせない!たとえスバルちゃんやジュンちゃんの友達でも、それは許さない!」
対立する2人の少女。この状況にジュンもスバルも、動揺の色を隠せなくなっていた。
「そこまで彼女を庇うというなら、あたしたちは容赦はしないわ・・・!」
“Shoot barret.”
鋭く言いかけるティアナが射撃を行う。その光の弾を、霞美がトリニティクロスを振りかざして弾き飛ばす。
「家族や友達を傷つけられる痛み、あなたには分からないの・・・!?」
「その友達が悪さをすることに、あなたは辛くならないの!?」
鋭く言い放つ霞美とティアナ。霞美の激情が徐々に強まっていく。
「ララは悪い子じゃない・・何も知らないのに、勝手なこと言わないで!」
叫ぶ霞美が飛びかかっていく。迎撃の射撃を行うティアナだが、霞美に素早くかわされ、その速度による突進を受けてしまう。
「うっ!」
突き飛ばされて横転するティアナだが、手で砂地を叩いて体勢を立て直す。
「大丈夫、ティア・・・!?」
「あたしは平気・・でも彼女は・・・」
駆け寄るスバルにティアナが答え、霞美に視線を戻す。霞美はトリニティクリスを構えて、ティアナを見据えていた。
「これ以上の妨害は公務執行妨害になるわ。あなたが望むなら、力だけを封じ込めて保護することだってできるから・・」
「信じてほしいなら銃を下ろして・・そんな敵意を見せつけられたら、とても信じられないじゃない・・・!」
呼びかけるティアナの言葉を、霞美が拒絶する。彼女はあくまでララを守ろうとしていた。
「あらあら。ダメよ、ケンカなんてしたら・・」
そこへ聞き覚えのある声が届き、ジュンたちが緊迫を覚える。ソニカが姿を現し、妖しい笑みを浮かべていた。
「今回はあなたたちにお願いがあってきたの。そこの女の子を渡してもらえる?」
「あなたまで・・ララちゃんもフューリーも、あなたたちには渡さない!」
言いかけてくるソニカの言葉さえも、霞美は拒絶する。霞美はララを抱えて、徐々に後退をしていく。
「逃がさないよ、あなたたち・・渡さないと言われて、素直に引き下がる私じゃないわ・・」
ソニカが笑みを消して、霞美たちを追いかけようとする。だがその前にジュンとマコトが立ち塞がる。
「霞美さんとララさんに手は出させない!」
「お前たちの勝手にはさせないぞ、イース!」
高らかに言い放つジュンとマコトが身構える。
「邪魔をするなら容赦しないよ。たとえ子供であってもね・・・」
ソニカが眼を見開くと、全身から魔力を放出する。その衝撃に怯んだジュンとマコトが、飛び込んできたソニカの打撃を受けて吹き飛ばされる。
「このまま逃がす私じゃないと言ったはずよね?」
ソニカが逃げようとしていた霞美たちに魔力を放つ。
「一撃必倒!」
だがその間に、リボルバーナックルとマッハキャリバーを起動したスバルが割って入ってきた。
「ディバインバスター!」
スバルが放った閃光がソニカの光の弾とぶつかり、相殺される。
「そんなに私の邪魔をしたいようね・・・だったら覚悟してもらうわよ!」
ソニカは言い放つと、スバルとの距離を一気に詰める。不意を突かれたスバルに、ソニカが次々と打撃を叩き込んでいく。
「魔力を放出しての遠距離攻撃だけだと思わないことね。」
妖しい笑みを見せながら、スバルに連打を浴びせていくソニカ。そこへティアナのシュートバレットが飛び込み、ソニカの背中を叩く。
「複数相手でも、私は構わないわよ・・」
ソニカは周囲を見回して、自分の相手の人数を確かめる。
「それじゃ、くれぐれもすぐにやられないようにね・・・」
ソニカが魔力の弾丸を出現させて、ティアナたちに向けて放つ。ティアナたちが回避行動を取るが、飛び込んできたソニカに突き飛ばされてしまう。
「ほら。動きもなかなかのものでしょう?」
余裕を見せるソニカに、ジュンたちは緊迫を募らせていた。
「どうやら、あのイースを先に倒したほうがよさそうですね・・」
「それが現状の最善策のようです・・・」
エリオとキャロが言いかける。ティアナたちはララと霞美の追跡ではなく、ソニカの撃退を優先した。
えりなたちの活躍で拘束されたセヴィル。彼はユウキと仁美からの取調べを受けていた。
「お前たちイースがミッドチルダやオレたちへ攻撃を仕掛けたのは、管理局の人間がイースへの攻撃を仕掛けた。その報復なんだろう?」
ユウキが真剣な面持ちでセヴィルに問い詰める。だがセヴィルは不敵な笑みを浮かべるばかりだった。
「何がおかしいんだ?間違ったことでも言ったか?」
「いや。貴様の言うとおりだ。我々イースは故郷の復興とミッドチルダへの復讐のためにやってきた。少なくとも私は、貴様らへの復讐を目的としていた。」
「だったら何がおかしい?お前は今、オレたちに拘束されてるんだぞ。」
「私1人捕らえたところで、我々と貴様らの攻防に新たな展開が起こるわけではない。むしろ我々は、着実に貴様らを追い詰めつつあるのだぞ・・」
眉をひそめるユウキに、セヴィルが哄笑を続ける。
「我々イースの力は、貴様らの理解を大きく超えている。貴様らが辿る末路は破滅だけだ。」
「勝ち誇っているところ悪いが、お前はオレたちの力を甘く見ているぞ・・」
言いかけるセヴィルを前にして、ユウキが言葉を返す。
「オレたちデルタは、他の部隊と比べたらひよっ子揃いだ。だがその小さな体と心の中には、大人を大きく超える力と信念を持っている。オレはそう信じている・・・」
「言ってくれるな・・その強がりがどこまで続くか。楽しみにさせてもらうぞ・・・」
決意を込めて言い放つユウキに対し、セヴィルは不敵な笑みを崩さなかった。
セヴィルへの取調べを終えて、デルタ本部に戻ってきたユウキと仁美。セヴィルの強気な態度に、ユウキは覇気を揺さぶられていた。
「アイツ、どこまでも余裕を見せてきて・・」
「私たちを甘く見ているというのもあるけど、勝算があってのことでもあるね・・」
ため息をつくユウキに、仁美も肩を落としていた。
「とにかくイースの攻撃をミッドチルダや一般市民に及ぼさないことがノルマだ。」
「イースの居場所をつかむことができれば、もっと有利なんだけど・・」
八方塞の気分を感じる2人が、同時にため息をつく。そこへクラウンがやってきて、2人に声をかけてきた。
「ユウキさん、仁美さん、デルタのレーダーが膨大な魔法エネルギーを感知しました。」
「魔法エネルギー?場所は?」
報告をするクラウンに、ユウキが問いかける。
「ミッドチルダ北部、ポイント224。地球で発生していた魔法エネルギーと同種の反応です。」
「それじゃ、地球でのエネルギー発生をしている人と同一犯ってこと・・!?」
「それは分からない・・でも共通点は他にもあるかも・・」
声を荒げる仁美に、クラウンが深刻な面持ちを浮かべて答える。
「みんなを集めてくれ。この情報をみんなに伝えて、行動を開始する。」
「分かりました。」
ユウキの指示にクラウンが答える。デルタ本部の司令室に、えりなたちが集結した。
えりなの眼は激しい運動を行っても支障がないまでに回復したと判断はされている。だが実際に激しい運動や戦闘を行ってはいない。
クラウンの報告がえりなたちに伝えられる。彼らはその魔法エネルギーについて考え込み、深刻な面持ちを浮かべていた。
「その魔法エネルギーの正体は、まだ分かっていないのですね?」
「あぁ。そこで調査をする人を何人か現場に向かう。そこでエネルギーが危険だと判断したら即時殲滅。状況に応じて、残りのメンバーも救援に向かう。」
フェイトの言葉を受けて、ユウキが指示を出していく。
「それで、誰が現場に向かうのですか?」
「えっと・・それなんだけど・・どうしたもんかなぁ・・・」
ジャンヌの質問を受けて、ユウキが考え込む。そこで出る彼の案は決まって適当だった。
「昨夜、カレー食べた人いるか?」
「あ、はい・・」
「僕も・・」
「私もです・・」
ユウキの質問にフェイト、ライム、明日香が答える。
「よし。この3人に調査に行ってもらいましょうか。」
「やれやれ。相変わらず適当なんだから、ユウキさんは・・」
ユウキの指示にライムが苦笑いを浮かべる。明日香、フェイト、ライムが敬礼を送り、調査に乗り出すのだった。
魔法エネルギーの調査に向かった明日香、フェイト、ライム。3人は発生地点の付近で降下し、森の中に降り立った。
「ここからは慎重に。誰かの罠だってことも考えられるから・・」
「正体が分かっていたら、僕が先に行って終わらせてこれるのに・・」
呼びかけるフェイトと肩を落とすライム。
「この辺りは、何の異常も見られないですね・・近くに人もいますし・・・」
明日香の言葉を受けて、フェイトとライムが視線を移す。森の中にある広場で、村人たちが賑わいを見せていた。
その中で笑顔を見せ合う親子を眼にして、フェイトは戸惑いを覚える。彼女の脳裏に幼い頃の記憶が蘇ってきた。
母、プレシアとの親子の思い出。だがそれは眼の前にいる親子のようなあたたかなものでは決してなかった。
「お母さん・・・」
「フェイト・・・プレシアとのことは、僕からしても辛いことだと思う・・だけどフェイト、お前はそれを乗り越えてきたじゃないか・・」
フェイトに呼びかけるライム。その言葉を耳にして、フェイトが我に返る。
「ゴメン、ライム・・割り切ったと思っていても、なかなか割り切れるものじゃないね・・・」
「そうかもね・・みんなそんな気持ちを抱えて、今を生きて頑張ってるんだから・・僕だって・・・」
謝るフェイトに、ライムも深刻な面持ちを見せる。ライムもフェイトとの確執など、様々な思いと経験を身に宿していた。
「人は人である以上、ほしいもの全てを手に入れることはできない・・どんなに手を伸ばしても手に入れられないもの、手に入れるために他の何かを捨てなくてはならないもの・・・」
明日香も同意して呟きかける。そして3人の決意は同じになった。
「他の人に、私たちと同じ辛さを味わわせるわけにいかないね・・・」
「そうですね・・そのために、私たちが体を張っているんですから・・・」
フェイトと明日香が声を掛け合う。彼女たちは改めて、魔法エネルギーの発生源を目指して歩を進めていった。
しばらく進んだ明日香たちは、岩場の洞窟を発見する。
「魔法エネルギーはその中から感じます・・」
「私が先に行く。ライムと明日香はここで待っていて・・」
明日香が言いかけると、フェイトが呼びかけてくる。
「1人で大丈夫なの?僕も一緒に・・」
「ううん。ここは私だけでいいよ。みんなで行って何かあったら、なのはやユウキさんたちに知らせる人がいなくなっちゃう・・」
言いかけるライムを制するフェイト。
「危なくなったらすぐに引き返すから・・・では行ってくるね・・・」
「フェイトさん・・・」
洞窟の中に入っていくフェイトに、明日香は困惑の色を隠せなくなっていた。
洞窟の中を慎重に進んでいくフェイト。彼女の手にはバルディッシュが握られていた。
「バルディッシュ、エネルギー発生地点までのルートは?」
“Advance straight to the road as it is. (このまま道なりに真っ直ぐ進んでください。)”
フェイトの呼びかけにバルディッシュが答える。彼女は洞窟の道を真っ直ぐに進んでいった。
そしてフェイトは、洞窟の暗闇の中にある淡い光を発見する。バルディッシュを構えて、フェイトはさらに歩を進めていく。
だがその光の中の光景に、フェイトは眼を疑う。
「ま、まさか・・・!?」
動揺をあらわにするフェイト。彼女が眼にしていたのは、彼女の母親、プレシアだった。
(本物!?・・・そんなはずない・・だって母さんは、あのとき・・・)
フェイトは必死に眼前の光景を否定しようとする。プレシアは虚数空間に消えてしまい、生死さえも不明となっている。
「フェイト・・フェイトなのね・・・」
プレシアが微笑みかけて、フェイトに声をかけてきた。その優しく感じられる笑顔に、フェイトの心は揺さぶられていた。
「今まで心配をかけてしまってごめんなさい、フェイト・・母さんもあなたに会いたくてたまらなかった・・・」
立ち上がったプレシアが、フェイトにゆっくりと近づいていく。困惑のあまり、フェイトはその場から動くことができない。
「あなたにばかり迷惑をかけてしまったわね・・でもこれからはそんなことはしない・・あなたが望むことを、私は叶えていくわ・・・」
プレシアは言いかけて、フェイトに手を差し伸べる。
「一緒に行きましょう、フェイト・・あなたに辛い思いをさせた分、今度は私が、あなたを守るから・・・」
「・・・あなた、誰ですか・・・?」
優しさを見せるプレシアに、フェイトが心を落ち着かせて言いかけた。彼女は眼の前にいるプレシアに心を許さなかった。
「何を言っているの?私はあなたのお母さんで・・」
「ううん。あなたは私の母さんではないです・・母さんがそのような笑顔を向けていたのは、私ではなくアリシア。私には一切の愛情を傾けてはくれませんでした・・そんな母さんの本当の姿を知っているから、私はあなたが母さんではないと気づけた・・・」
当惑を見せるプレシアに、フェイトが淡々と言いかける。
「あなたは誰ですか?・・母さんの姿と声を真似たところで、私を完全に惑わすことはできませんよ・・・」
眼つきを鋭くして問い詰めるフェイト。するとプレシアが突如笑みをこぼすが、その声色が先ほどと違っていた。
「さすがですね。やはり親子の絆を完全に欺くことはできないようですね・・」
呟きかけるプレシアの姿が徐々に乱れていく。やがてその姿が、別の女性のものへと変化する。
「あなたは何者ですか・・もしかしてイース・・・!?」
「ご明察。私はイース攻撃兵団の1人、コペンです。はじめまして、フェイト・テスタロッサさん・・今はフェイト・ハラオウンさんとお呼びしたほうがよろしいですか?」
問いかけるフェイトに、コペンが自己紹介をする。
「そのような言い回し・・プロジェクトFに関連しているのですか・・・!?」
「関連というよりもその通りです。私の目的は、プロジェクトFにおける技術を習得し、発展させることにあるのです。」
「プロジェクトFの発展・・・!?」
コペンの言葉にフェイトが眉をひそめる。
「プロジェクトFは高度のクローン技術。姿かたちだけをコピーするだけでなく、記憶まで引き継がせることができます。ですが人格や能力まではコピーや移行を行うには至っていません。オリジナルの皮を被った別人といってもおかしくありません。それでは命の継続にはなりません。」
「命の継続・・・あなた、何を企んでいるの・・・!?」
「私たちイースが滅亡の危機にさらされていることは知っていますね?時空管理局の実験で荒廃して寿命を縮めた私たちは、生存のための技術を会得しなければなりません。そこで私はプロジェクトFから、完全なる命と魂の継承を見出そうとしているのです。」
「命と魂の継承・・・!?」
「命と記憶だけでなく、魂と人格まで継承させることができれば、それは寿命の延長、命の継続につながるわけです。プロジェクトFに関する情報は入手してはいますが、それだけでは完全な解析や発展を行うことは極めて困難です。そこでフェイトさん、プロジェクトFで生まれた最初のFであるあなたに協力を求めます。」
コペンは説明をしながら、フェイトを指差す。
「あなたの体には、Fの遺産としての情報と技術が秘められています。その体を調べさせてもらいますよ・・」
「そういうことですが・・・その手の人間が、次々に私をFとして狙ってきた・・でも私は、その人たちに絶対に屈しない・・もちろんあなたにも・・・」
“Haken Form.”
コペンの要求を拒否するフェイト。金色の鎌を発したバルディッシュを、フェイトがコペンに向ける。
「純粋な雰囲気を持っていながら、意外と頑固なところがあるのですね・・」
コペンは妖しく微笑みかけると、全身から淡い光を発してきた。
「その魔力・・今まで多発していた魔力反応・・・!」
「そうです・・正確には私と、私の妹が発していたものです・・ミッドチルダの施設の攻撃を行うと同時に、あなたをうまくおびき寄せる布石です・・」
驚きを覚えるフェイトに、コペンが淡々と言いかける。
「私の主義ではありませんが、力ずくであなたを連れて帰りますよ・・・!」
コペンは鋭く言い放つと、光を右手に集束させてフェイトに向けて投げつける。光は鞭のような動きで、フェイトを捕らえようとする。
フェイトは後退しながら、光を回避していく。コペンは前進して、フェイトとの距離を詰めていく。
「逃げてばかりでは、私に勝つことはできませんよ。」
悠然と声をかけながら、コペンがフェイトに迫る。2人は攻防の中、洞窟から外に飛び出していった。
「待っていたよ、フェイト!」
そこで待ち受けていたのはライムだった。フェイトが飛び出したと同時に、光刃を発したクリスレイサーをコペンに向けて振りかざした。
「くっ!」
不意を突かれたコペンが光を操り、ライムの一閃を受け止める。
「ずい分と姑息な手段を使ってくるのですね。」
「真剣勝負だったらこんな手は使いたくないんだけどね・・話は僕たちも聞かせてもらったよ・・・!」
笑みを見せるコペンに言い返しながら、ライムがクリスレイサーを振りかざす。だがコペンは即座に体勢を整えて、フェイト、明日香、ライムに視線を向ける。
「3人ですか・・高い魔力を秘めているものの、3人だけで私を止められますかな?」
「私たちの力を甘く見ないことですよ・・・」
余裕を見せるコペンに、明日香が真剣な面持ちで言葉を返す。
「みんなには知らせてある?」
「もちろん。少し粘ればやってくるさ。」
フェイトの問いかけにライムが答える。
「でも気をつけて。彼女の力は特殊で、今見た限りでは、魔力を武器や盾にしてきている・・」
「分かってる。他にも何かおかしな力を持っているだろうね・・」
言葉を交わすフェイトとライム。明日香も小さく頷きながら、コペンの動きを伺う。
「残念ですが、あなた方が予測しているほど、仲間は早くは来ませんよ。」
「何?それはどういうことだ!?」
コペンが突然口にした言葉に、ライムが声を荒げる。
「リオとディオンがこことデルタ本部までのルートで待機しています。少なくともすぐにここに来る戦力は低下を余儀なくされるでしょう。」
「厄介なことになりましたね・・今は私たちで何とかするしかないということですね・・・」
悠然さを見せるコペンを前にして、明日香が毒づく。
「そろそろお話はやめましょう。時間がないのはお互い様ですから・・」
コペンは言いかけて、全身から光を発して明日香たちへの攻撃を仕掛けようとしていた。
ライムからの連絡を受けて、明日香たちの救援に向かったえりなたち。だがその前にディオンとリオが行く手をさえぎっていた。
「残念ですから、ここから先へは行かせません。」
剣を手にしたリオがえりなたちに言いかける。
「厄介だ、あの2人は・・蒼い炎の力には、まさに手を焼くってもんだ・・・!」
アギトが2人の力量を思い返して、焦りを覚える。その隣にダイナが出てくる。
「恐怖は誰でも体感するものだ。その恐怖に背を向けたときこそが敗北だ。」
「ダイナ・・・」
「“烈火の剣精”と呼ばれたお前の力、今回も借りさせてもらうぞ。」
「・・・誰がビビってるっていうんだよ?あたしとお前が力を合わせた炎は、ヴィータとグラーフアイゼンに負けない力なんだ。今度こそイースに眼にもの見せてやるって!」
ダイナの言葉を受けて、アギトが自信を取り戻す。えりなたちもリオとディオンを見据えて、出方を伺っていた。
「オレがアイツらを引き付ける。えりなたちは先に行ってくれ。」
「健一・・・」
健一が告げた言葉にえりなが戸惑いを見せる。
「今は急いでフェイトちゃんたちと合流して、もう1人のイースを迎撃すること。それが最優先だよ・・」
なのはも続いて呼びかける。気持ちを切り替えたえりなが小さく頷く。
「分かったよ、健一・・なのはさん、行きますよ。」
「うん。」
えりなの呼びかけになのはが頷く。2人が明日香たちを援護するため、加速していった。
「行かせませんよ、あなたたち。」
リオが2人の行く手を阻もうとしたが、ラッシュを手にした健一が駆けつける。
「アンタの相手はオレだ。2人の邪魔はさせねぇぜ。」
「まずいですね・・これではコペンさんに負担をかけることに・・・」
不敵な笑みを見せる健一と、焦りを浮かべるリオ。ディオンもダイナとアギトと対峙していた。
「ここは他に気を回すよりも、眼の前の相手を倒すことだけに集中すべき・・・参ります!」
リオは明日香たちの救援に向かうえりなたちを無視して、健一に向かって剣を振りかざす。その一閃を、健一がラッシュを構えて受け止める。
「この前の決着、着けたいところだな!」
「その意見には私も同意します。」
リオと言葉を交わすと、健一が彼女の剣を払いのける。一方、ディオンとヴィオスを構えるダイナと交戦していた。
「どうした?以前に私と戦ったときは、この程度ではなかったはずだ。」
「それはお前も同じことだ。獣の姿よりも、人の姿のほうが力を発揮していたぞ。」
低い声音で言いかけるディオンとダイナ。2人の攻防も拮抗状態にあった。
明日香、フェイト、ライムの力は、コペンがはじき出していたデータを上回っていた。予想外のこともあると念頭に入れている彼女だったが、それでも予想の外れは大きいものだった。
「人というのは本当にすごいものですね・・私の集めたデータや、それを基にした予想を簡単に上回ってしまう・・・これはFや才能の高さだけとはいえないようですね・・・」
明日香たちの力量を垣間見て、コペンが呟きかける。
「その点の解析の意味でも、あなたたちを連れて帰りたいものですね・・・」
興味の色を強めて、コペンが笑みを浮かべる。
「もう1度聞きます。私と一緒に来る気はありませんか?」
「何度聞かれても同じです。あなたの申し出を受けるつもりはありません。」
コペンの申し出をフェイトが拒絶する。明日香もライムも受け入れようとしていなかった。
「やむを得ないようですね・・これは負担が大きいので使いたくはなかったのですが・・・」
コペンは言いかけると、魔力を両手に集束させていく。その光の色が淡い白から赤褐色に変化していく。
「気をつけてください・・この力を受ければ、あなたたちの敗北は確実です・・・」
コペンが口にした言葉に、明日香たちは緊迫を募らせていた。
ジュンたちと激しい攻防を繰り広げるソニカ。その力にジュンたちは追い込まれていた。
「どうしたの?これだけ大勢でかかってきても、私を止められないっていうの?」
妖しく微笑みかけるソニカ。だがティアナは冷静に彼女の力を分析していた。
(ティア、あの人の対処法は見つかった?)
(やっとね・・どうやら彼女自身の過信が弱点になりそうね・・)
スバルからの念話にティアナが答える。
(群れを成している魔法の弾はあたしとネオンが対処するわ。エリオ、ナディア、ロック、クオンは注意を引き付けて、スバルとジュンで攻撃。キャロはフォーメーションが崩れたときの穴埋めをお願い。)
(待った。僕たちも攻撃に参加させてもらうよ。レイもやる気になってるし・・)
指示を出すティアナに、マコトが呼びかけてくる。
(分かったわ。あたしたちとうまく連携してよね。)
承諾したティアナが、ソニカに視線を戻す。
「何を企んでいるのか知らないけど、私には通じないわよ。」
「何事も、やってみなくちゃ分からないわよ・・・!」
悠然と言いかけるソニカに、ティアナが不敵な笑みを見せる。その笑みに眉をひそめるも、ソニカが光の弾による攻撃を再開する。
“Load cartridge,barret-F.”
だがティアナが発射し、さらに続々と出現させた魔力の弾丸に撃ち抜かれる。弾丸には熱源に対する自動追尾が施されていた。
(彼女の射撃は、発射の前に魔力の弾をあらかじめ出現させて停滞させている。その魔力を追撃すれば、発射自体も阻止できる・・)
自動射撃によって自身の行動の自由を獲得し、攻撃の手を緩めないティアナ。ネオンもライフル型インテリジェントデバイス「レールストーム」で、レイもクレセントで光の弾を撃破していく。
「やってくれるわね・・・」
毒づくソニカに向けて、エリオ、ナディア、ロッキーが飛び込んでくる。ストラーダ、シティランナー、ブレスセイバー、ブレイドデバイス「スクラム」による攻撃をかわすあまり、ソニカが体勢を崩される。
その隙を狙って、ジュン、マコト、スバルが攻撃を繰り出す。
「こんなことで・・・!」
毒づきながら迎撃に出るソニカ。だがキャロの放ったシューティングレイが、彼女の迎撃を阻む。
「何っ!?」
驚愕するソニカに、ジュンたちの打撃が叩き込まれる。大きく跳ね上げられるも、ソニカはすぐに体勢を整えて着地する。
ジュンたちの連携を受けて、ソニカが劣勢を感じて苛立ちを覚える。だがティアナが練り上げた連携を崩すには、彼女1人では困難を極めていた。
「なかなかやるじゃないの・・さすがの私もお手上げになりそうね・・・」
笑みを作ってジュンたちを見回すソニカ。
「中には子供もいるじゃないの・・こんな戦いに出てきて、かわいそう・・・」
「えっ・・・?」
物悲しい笑みを浮かべてきたソニカに、ジュンとマコトが眉をひそめる。ソニカは子供が傷ついたり戦いに借り出されることを快く思っていなかった。
「子供だけは、この戦いに引き込むわけにはいかない・・・」
ソニカは低く告げると、集中力を高めていく。彼女の様子に、ジュンたちが警戒を強める。
(ゴメン、姉さん・・姉さんからきつく言われてたけど・・この力、使わせてもらうわ・・・)
姉、コペンへの謝意を抱えながら、ソニカは右眼を隠す眼帯に手をかけた。彼女の中に秘められた力が今、明かされようとしていた。
次回予告
ついにヴェールを脱いだコペンとソニカ。
隠された恐るべき能力が、ジュンたちを、明日香たちを襲う。
そしてついに、イースの希望を自らつかむべく、メガールが動き出す。
邪なる力、打ち破る術はあるのか・・・?