魔法戦記エメラルえりなResonance

第11話「非情の追跡」

 

 

 カナに捕まったスバルは、近くの人気のない建物の中に連れて来られていた。手錠をかけられたまま、スバルは尋問を受ける羽目になった。

「あなたたちは何者なのか。今度こそ何もかも話してもらうわよ。」

「うぅ・・あんまり言っちゃいけないことだし・・言ってもこの世界じゃ信じてもらえない確率のほうが強いし・・」

「ここ最近非現実的なことが多発しているのよ!知っていることをすぐに話しなさい!」

 カナに強く言われて、スバルは渋々話すことにした。魔法、ミッドチルダ、時空管理局。自分たちに関わることを簡潔に語っていった。

「くぅ・・予感していたけど、やっぱりわけの分からないことばかりね・・」

「でもこれはホントのことなんです・・この世界では精通していませんが・・」

 悩まされるカナに、スバルも困り顔を浮かべる。

「それで、その魔法というのはどういうものなの?危険がない程度で見せてみて。」

「わ、分かりました・・ちょっとだけですよ・・」

 カナの呼びかけに、スバルは待機状態のマッハキャリバーを取り出した。

「マッハキャリバー、リボルバーナックル、セットアップ。」

Stand by ready.set up.”

 スバルの呼びかけを受けて、マッハキャリバーとリボルバーナックルが起動する。同時に彼女もバリアジャケットを身につける。

「できるだけ魔力をセーブして・・・リボルバーシュート。」

 スバルが地面に向けて光を発する。出力を最小限に抑えていたが、床をへこませるほどの威力はあった。

「なるほどね。今のがあなたたちの言う魔法というわけね。ここまで見せられたら、信じないわけにいかないわね・・」

「何とか信じてもらえてよかったです・・アハハハ・・・」

 ようやく納得したカナに、スバルが苦笑いを浮かべる。

「それで、このことはみんなには・・・」

「分かってるわ。こんなこと、話しても信じてもらえそうにないから・・」

 スバルの申し出をカナは受け入れる。その答えにスバルが安堵をこぼす。

「それであなたの仲間たちは?あなたたちは、ここで何をしているの?」

「はい・・この地球で起きている異常現象・・魔法エネルギーの発生についての調査のために来ました・・」

「異常現象?・・私もその調査のために日本に戻ってきたのよ。といっても、独断専行の調査だから、面子は私だけだけどね・・」

 事情を打ち明けたスバルの言葉を聞いて、カナも自身の事情を語った。

「えっ?でも魔法エネルギーは、この世界の人には感じられないはずじゃ・・・」

「詳しくは分からないわ。ただの勘。今まで続けてきた刑事としての勘よ・・」

 疑問を投げかけるスバルに、カナが憮然さを込めて答える。

「で、あなたの仲間はどこなの?その人たちにも話を聞かせてもらうわよ。」

「で、でもいくらなんでもそれはまずいって・・・」

「でないと捜査妨害と見なされても文句は言えないわよ!」

 カナに問い詰められて、スバルはやむなく受け入れるしかなかった。

 

 ジュンとスバルを追っていたティアナは、エリオ、キャロ、ロッキーと合流していた。

「ホントにスバルさん、捕まったみたいです・・全然応答がないです・・」

「ジュンさんとも連絡取れないし・・・」

 エリオとキャロが不安の声を上げる。だがティアナは冷静だった。

「連絡を取りながら2人を追いかけるわよ。あたしとロックはジュン。エリオとキャロはスバルを探す。あと、ナディア、クオン、ネオンもコテージを出たから、エリオたちは3人と合流して。」

「マコトさんとレイちゃんはどうするのですか・・?」

「あたしたちが連れて行くわ。ジュンのことならすぐに駆けつけてくれるはずだから・・」

 キャロの心配にティアナが答える。ティアナはマコトとレイの位置を把握していた。

「それじゃ解散。連絡を取りながら動くわよ。」

「はい!」

 ティアナの呼びかけにエリオたちが答える。彼らはそれぞれの目的に向けて、行動を開始するのだった。

 

 スバルを追い求めて街の中にいたジュン。だが念話を送っても、スバルからの応答がないままだった。

(こんなときに連絡がつかないなんて・・・スバルさん、ホントにどこなの・・・!?

 困惑するばかりのジュン。彼女を見守る霞美とララ、バックから顔を出してきたフューリーも心配していた。

「ねぇ、ジュンちゃん・・友達を探しているんだよね?・・何をしているの・・・?」

 そこへ霞美がジュンに声をかけてきた。

「念話です。テレパシーともいいますね・・これで仲間と連絡を取ろうとしているのですが・・」

「念話・・私にもできるかな・・・?」

「そんなに難しいことじゃないですから、すぐに慣れると思いますよ・・」

 戸惑いを見せる霞美の問いかけに、ジュンが微笑みかける。

“ジュン!聞こえるか、ジュン!?”

 そこへマコトからの念話が飛び込んできた。

(マコト!?今、街の中で、広場のすぐ近く・・スバルさんを探してるんだけど・・)

“アイツは他のヤツらが探してる。僕たちはジュンを探してる最中なんだ・・”

(そうなんだ・・ゴメンね、みんなに迷惑かけちゃって・・)

“いや、気にするなって・・それより、そこを動かないでよ。すぐに行くから・・”

 マコトのこの言葉を最後に、ジュンは連絡を終えた。

(このことはティアナさんたちに話さないといけなくなるけど、まずマコトに打ち明けたほうが分かってもらえると思う・・・)

 マコトへの信頼を心の中で膨らませていたジュン。ロア事件で崩れかけたものの、2人の絆は今も健在だった。

「それにしても、ララさん、記憶喪失なんですよね?・・不安になったりしますよね・・・?」

 ジュンが唐突に霞美に問いかける。すると霞美は沈痛さを浮かべて小さく頷く。

「自分のことが何も分からないのは、とても怖いことだと思う・・だから私は、ララを支えていきたいと思っている・・今も、記憶を取り戻した後も・・・」

「すごいですね・・友達や家族のように接しようとしていて・・・」

「ジュンちゃんにもそういうのはいるんだよね・・・?」

「はい・・でもちょっとしたことでケンカになっちゃって・・・今は仲直りしてますけど、あのままケンカしたままだと思ったら・・・」

 霞美の問いかけに、ジュンは物悲しい笑みを浮かべる。ロア事件でのマコトとの対立は、彼女にとってはできれば思い出したくないことだった。

「私もケンカはしたくないよ・・辛くなるばかりだから・・・」

 ジュンの気持ちを受け止めて、霞美も沈痛さを浮かべる。絆が断ち切れてしまう悲しみを、彼女も理解していた。

「ジュン!どこだ、ジュン!?

 そこへマコトに声が響いてきた。その呼び声を聞き取って、ジュンが振り返る。

「マコトの声・・ここにいることを知らせないと・・・」

 広場から大きく手を振るジュン。それを眼にしたマコトとレイが、人込みをかき分けてやってきた。

「ジュン、ここにいたんだ・・心配したんだよ・・・」

「ゴメン、マコト、レイちゃん・・みんなにも連絡しなきゃいけなかったんだけど・・」

 言いかけるマコトに、ジュンが苦笑いを見せる。レイはジュンと会えたことに微笑むと、霞美の後ろにいるララに眼を向ける。

「お姉ちゃん・・レイと同じ気がする・・・」

「えっ・・・?」

 レイの言葉にララが戸惑いを見せる。レイも過去の記憶を失っており、マコトから教えられた本名以外の記憶は今も戻っていない。

「レイちゃんも、記憶喪失だったんだ・・・」

「えっ?その子も・・・!?

 ジュンが口にした言葉に、霞美が困惑を覚える。

「あなたがマコトちゃんだね・・記憶を失った家族や友達の気持ち、私も一応は分かるよ・・・」

「アンタ・・その人も、記憶喪失だっていうのか・・・!?

 霞美が切り出した言葉に、マコトが戸惑いを見せる。

「ホントの名前も分からない・・“ララ”という名前も、私がつけたものなの・・」

「そうか・・自分のことが分からないのは、やっぱり辛いよね・・・」

 霞美の気持ちを悟って、マコトも微笑んで頷く。彼女は霞美に手を差し伸べてきた。

「これからもよろしく。秋月マコトと秋月レイ。」

「私は三重野霞美。よろしくね、マコトちゃん、レイちゃん・・」

 霞美もその手を取って、マコトと握手を交わす。霞美はまたも新しい友達を得たのだった。

「あ、そういえばそろそろここにティアナたちが来るぞ。」

「あ、いけない・・いい加減に連絡しておかないと・・」

 マコトに教えられて、ジュンがティアナへの連絡を取ろうとした。

「ジュン!マコト!レイちゃん!」

 そこへティアナの声が飛び込んできた。彼女はロッキーとともに広場にやってきた。

「あ、あなたは・・・!?

 霞美の姿を目撃すると、ティアナが緊張を覚える。

「どういうことなの、これは!?・・・まさかあなたたち・・・!?

「待って、ティアナさん!この人たちは悪い人じゃないって!」

 問い詰めてくるティアナに、ジュンが弁解を入れる。だがティアナは警戒を強めていた。

(コロナ、あたしたちのいる場所に結界を張って。中から外に出れないように頑丈に。)

“り、了解です・・・!”

 ティアナの念話を受けてコロナが答え、広場を中心に結界が展開される。

「ティアナさん!」

 その行為にジュンが声を荒げる。ティアナがクロスミラージュを1機手にして、その銃口を霞美に向ける。

「武装を解除して、あたしたちの指示に従って。場所を変えて、詳しく話を聞かせてもらうわよ。」

「ちょっと待ってください、ティアナさん!霞美さんとララさんは悪い人じゃありません!こんな強引にしなくても・・!」

「ううん。彼女は魔導騎士。どんな力を持っているのか分からないわ。多分、彼女自身も知らない力かもしれないし・・」

「だからって、こんな無理矢理なんて・・・!」

 ティアナの判断に納得がいかず、さらに時空管理局局員としての責務にも迫られ、ジュンは返す言葉を失っていた。

「人の気持ちを考えず、強引に話を進めるところは相変わらずのようだな・・・!」

 ジュンとティアナの沈黙を破ったのはマコトだった。マコトはティアナの判断に憤りを感じていた。

「自分たちが正しいと思ったなら何をやっても許される・・そんなふざけた考えを振りかざせば、状況は逆に悪化することが、まだ分かんないっていうのかよ!?

 怒鳴りかけるマコトに、ジュンもティアナも困惑していた。自分たちが所属する部隊が、マコトの嫌う非情の集団ではないと思っていた。

「ジュンの話を聞く限りでも、あのえりなって魔導師も、強引なやり方に反発してたらしいじゃないか!」

 さらにティアナに怒鳴るマコト。そのとき、ララが突如頭を押さえて、苦痛をあらわにしてきた。

「えっ!?どうしたの、ララ!?ララ!」

「い、痛い・・頭が・・頭がすごく痛い・・・!」

 霞美が呼びかける前で、頭痛を訴えるララ。

「ち、ちょっと、どうしたの、ララ・・!?

「イヤ!・・ララに、痛いのを与えないで・・・!」

 駆け寄ろうとしたジュンをララが拒絶する。激痛から逃れようと、ララはたまらず駆け出していった。

「待って、ララ!行かないで!」

 霞美が慌ててララを追いかけ、ジュンとマコトが続く。だが悲観的になっているララの体から、突如まばゆい光が発せられ、その衝撃と爆発で霞美たちは視界をさえぎられてしまう。

「やばい!見失っちまう!」

「コロナ、今強まった魔力の移動を見失わないで!絶対に結界から出したらダメよ!」

“はい!”

 ロッキーが毒づき、ティアナがコロナに呼びかける。だが光を強めていくララが飛翔し、結界を突き破って外に飛び出してしまった。

「なっ!?

 驚愕の声を上げるマコト。ララは簡単にコロナの展開した結界を突き破ってしまった。

「何てヤツだよ、アイツ・・・!」

「行方を追って、コロナ!絶対に見失わないで!」

 毒づくロッキーと、コロナに指示を出すティアナ。

「ナディア、今結界から飛び出した少女を追いかけて!危害を及ぼすと判断したら止めて!」

“分かりました!急行します。”

 ティアナが立て続けに出した指示に、エリオとキャロと合流していたナディアが答える。

「ララ・・・トリニティクロス、イグニッションキー・オン!」

Standing by.Complete.”

 霞美がトリニティクロスを起動し、騎士服を身にまとう。彼女はララを追って飛翔していく。

「待って!あなたはここにいて!」

「フレイムスマッシャー、フレアブーツ!」

「ライトスマッシャー、メテオブーツ!」

 ティアナの呼びかけを聞かない霞美を、ジュンとマコトも追っていく。

「もう、あなたたちまで・・・あたしたちも行くわよ、ロック!」

「ったく!人使いが荒いんだから!」

 舌打ちするロッキーも、ティアナ、レイとともにララたちを追いかけていった。

 

 カナとともに街の中を移動していたスバル。その途中、スバルは強い魔力の発現を感知して、唐突に足を止めた。

「ん?どうしたの、スバルさん?」

 カナが声をかけるが、魔力に気を取られていたスバルは気付かない。腹を立てたカナが、スバルの頬を引っ張ってきた。

「い、いひなりなひを・・(い、いきなり何を・・)」

「どうしたのかって聞いてるの!私にきちんと説明しなさい!」

 涙目になるスバルに怒鳴るカナ。彼女の手から解放されて、スバルがため息をつく。

「強い魔力が現れたんです・・もしかしたら現象の正体かも・・・」

「現象の!?・・なら私も放っておくわけにはいかないわね・・・行くわよ!」

「ち、ちょっと待ってください!危険ですって!」

「危険を恐れてたら刑事にはならないわよ!方向を教えなさい!分かってるのはあなただけなんだから!」

 カナに押し切られて、スバルが先行する。それを追ってカナも駆け出すのだった。

 街外れの浜辺に来た2人。そこにはララが倒れ込んでいた。

「あ、あれ?あの子・・・?」

 疑問符を浮かべながら、スバルがララに駆け寄っていく。ララは気絶していて動かなくなっていた。

「ねぇ!しっかりして、ララちゃん!」

 スバルが呼びかけるが、ララは眼を覚まさない。

(でもどうしてララちゃんがここに・・・それに、さっきの魔力、ララちゃんから・・・)

 不安を募らせていくスバルが、ララをじっと見つめていた。

「近くの病院に運んだほうがいいわ。すぐに運ぶわよ。」

 カナがスバルとララに駆け寄ろうとした。

「まさかこんなところで、あの子を見つけられるなんてね・・」

 そこへ声がかかり、スバルとカナが振り向く。その先の海の上を、1人の少女が浮いていた。

「あなたは誰!?イースなの!?

「そうよ。私はルネッサ。その子を渡してもらうわよ。」

 スバルの呼びかけに少女、ルネッサが妖しく微笑む。

「その子は私たちの仲間なの。だから渡してもらうわよ。」

「勝手なこと言わないで!お前たちイースに渡せるわけないじゃない!」

「ダメよ、そんな意地悪を言ったら・・渡してもらう前に、あなたにお仕置きしないといけないみたいね・・」

 スバルに拒絶されると、ルネッサが眼つきを鋭くする。彼女の周囲に氷の刃が出現する。

「私のシンギュラーシステムは“スノードロップ”。相手を凍らせたり、氷の武器を作り出したりできるのよ。その子とあの人を守りながら、この氷をどこまでかわせるかしらね?」

 妖しく言いかけるルネッサに、スバルは危機感を感じていた。ララとカナを守りながら攻守していくことは厳しいことだった。

「ララ!」

「スバルさん!」

 そこへ霞美、ジュン、マコトが飛び込んできた。

「バーニングドライブ!」

 霞美がルネッサに向けて、炎をまとったトリニティクロスを突き出す。ルネッサは氷の膜を張って、その突きを防ぐ。

「邪魔をするなら、あなたにもお仕置きをしないといけないわね。」

 ルネッサは妖しく微笑むと、霞美に向けて氷の刃を放つ。

Flame wall.”

 だが、トリニティクロスが自動発動させた炎の壁が、氷の刃をかき消していく。

「やってくれるわね。でもこれならどうかしら?」

 ルネッサが全身から吹雪を放つ。その冷たい風に霞美が取り囲まれる。

「えっ!?

 驚きの声を上げる霞美が冷気に包まれる。その冷気から生まれた氷塊の中に、彼女は閉じ込められてしまった。

「霞美さん!」

「くっ!このっ!」

 ジュンが声を荒げ、マコトがいきり立ってルネッサに飛びかかる。そこへフリードリヒに乗ったエリオ、キャロ、クオン、ネオン、ナディアがやってきた。

「スバルさん!・・大丈夫ですか、スバルさん!?

「エリオ・・あたしは大丈夫。でも霞美さんが・・」

 エリオの呼びかけにスバルが答える。氷付けにされた霞美が、海の上を浮いていた。

「エリオとキャロは霞美さんを助けて!あたしがイースを食い止めるから!」

「スバルさん・・・分かりました!任せてください!」

 スバルの呼びかけにキャロが答える。彼女はエリオとともに霞美を助けようとした。

 だがそのとき、氷塊が突如粉々に吹き飛び、霞美が解放された。彼女は炎の力を駆使して、自力で氷を打ち破ったのだった。

「す、すごい力・・こんなに力があったなんて・・・」

 霞美の発揮した力に、エリオが驚きを感じていた。

「みんなを傷つける人は許さない・・みんなのために、私は戦うよ・・・!」

「私を許さない?強気なことを言うわね・・」

 決意を言い放つ霞美をあざ笑うルネッサ。

Water mode.”

 トリニティクロスがウォーターモードへと形状を変え、霞美の騎士服も青く染まっていく。

 水の力を駆使する霞美。水流がルネッサ目がけて飛んでいく。

「水の攻撃じゃ、私には全然効かないわよ。」

 ルネッサが全身から冷気を発し、向かってきた水流を凍結させてしまった。にもかかわらず、霞美はさらに水流での攻撃を続ける。

「しつこい人は嫌われるわよ。男も女も・・」

 ルネッサが呆れながら、水流を次々と凍らせていく。

 だが、凍りついた水流がいつしかルネッサの周囲を取り囲んでいた。結果、彼女は動きを封じられてしまった。

「しまった!氷に閉じ込められた!」

「油断したね。こうなったらすぐには動けないよ。」

 驚愕するルネッサに霞美が言いかける。自分の氷で墓穴を掘ったことに、ルネッサが余裕を消す。

「誰か炎で攻撃して!」

「えっ!?・・フリード、ブラストレイ!」

 霞美の呼びかけを受けて一瞬驚くも、キャロが指示を出す。フリードリヒがルネッサに向けて炎を吹きかける。

「私を閉じ込めている氷を解かすなんて、何を考えてるのかしら?」

 その炎をあざ笑うルネッサ。氷は炎を受けて、水になって滴り落ちていた。

Thunder mode.”

 その間に、霞美はトリニティクロスをサンダーモードに変化させていた。

「まさかあなた、そのために炎を・・!?

 驚愕の声を上げるルネッサ。彼女の周囲は水と水蒸気で満たされていた。

「雷の力を使うと、炎の力が使えなくなるからね。」

「そのためにわざと氷を炎で解かして・・・!」

「これでこの電撃も、威力を一気に上げられる・・・!」

Drive charge.”

 息を呑むルネッサに狙いを定めて、霞美が魔力を集束させる。

「金色の衝撃・・スパーキングソニック!」

 霞美がトリニティクロスを振りかざし、稲妻を放出する。その電撃がルネッサを完全に取り囲む。

「ぐ、ぐああっ!」

 電撃と水が入り混じり、ルネッサに強い衝撃が襲う。痛烈なダメージを受けて、彼女が落下して海に落ちる。

「やった・・ありがとうね。あなたの協力がなかったら、かなり危なかったと思う・・」

「いいえ。あなたの判断があればこそですよ・・」

 微笑みかける霞美に、キャロも笑顔を見せる。時空管理局と騎士の結束が、イースの刺客を撃退したのだった。

「そこまでよ、騎士!」

 そこへ声がかかり、霞美が振り向く。クロスミラージュを構えたティアナが、ロッキーとレイを連れて現れた。

「三重野霞美さん、いい加減にあたしたちの指示に従ってもらうわよ。」

「待って、ティア!霞美さんもララちゃんも、悪い人じゃないって!今だって・・!」

 霞美に呼びかけるティアナに、スバルが口を挟む。しかしティアナはクロスミラージュを下げない。

「彼女の力は強い。だからこそ警戒しないといけない。強い力は諸刃の剣だってこと、スバルも分かってるでしょ!?

 ティアナのこの言葉にスバルは息を呑む。かつて彼女は、姉を傷つけられたために怒りを爆発させた。暴走した激情に駆られた彼女は、自身やデバイスの危険を顧みずに攻撃を繰り返した。

「絶対に悪いことはしない。あなたに危害を加えることは絶対にしない。だから・・」

 ティアナが霞美に向けて呼びかけていたときだった。その最中、ティアナはララの顔を見て、驚愕を覚える。

「この顔・・まさか・・・!?

「どうしたの、ティア・・・?」

 彼女の様子を気にして、スバルが問いかける。クオンとネオンもララを見て驚愕する。

「この人、もしかして・・・!?

「そのもしかしてだよ・・間違いない・・えりなさんと・・・!」

 2人もエリオたちも驚愕をあらわにしていた。どういうことなのかを分かっていないのは、ジュン、マコト、レイ、スバル、霞美、カナ、フューリーだった。

「どうしたの、クオンくん、ネオンちゃん・・・?」

「ジュンはそのとき管理局にいなかったんだよね・・・惑星リーンで起きた戦闘を・・・」

 疑問を投げかけるジュンにネオンが言いかけ、クオンが話を続ける。

「リーンに現れた1人の少女・・破壊活動を行いながらミッドチルダに進行していた・・出撃した管理局の武装隊も苦戦して・・・」

「えりなと交戦して進行は食い止められたわ。でも少女を発見することはできなかった・・・そこにいる少女は、その事件の犯人と同じ顔なのよ・・・」

 ティアナが説明すると、ララを指差す。しかしジュンもスバルも納得できなかった。

「そんなことないって・・だってララちゃん、霞美さんと仲良くしているんだよ・・そのララちゃんが、みんなを傷つけるなんて・・・!」

「もし、事件から前のことを覚えていなかったとしたら・・・」

 弁解しようとしたスバルに、ナディアが口を挟む。ララが記憶を失っていることに、ジュンとスバルは一抹の不安を覚えた。

「確かに、記憶喪失になっているなら、誰かと仲良くしていられるのも納得できる・・だけど・・・」

「記憶を取り戻したら、また暴走して・・・」

「そんなはずないって!あれだけ霞美さんと仲良くしていられるララちゃんが、ただ破壊の限りを尽くす怪物みたいなこと・・・!」

 言いかけるクオンとネオンに、ジュンが抗議の声を上げる。

「記憶喪失なら、可能性がゼロとは言い切れないわ!もしも記憶を取り戻して、その人に危害を加える危険だってあるのよ!」

「だからって、有無を言わさずに邪険にするなんて・・・」

「そうなる前に、最低でも拘束はしておかないと・・・!」

 歯がゆさを見せるジュンと、ララに敵意を向けるティアナ。

「みんなも注意して。拘束の際に眼を覚まして、抵抗してくるかもしれないから・・」

「待って!」

 ララに迫ろうとしていたティアナに前に、霞美が立ちはだかった。霞美はララを守ろうと、トリニティクロスの切っ先をティアナに向けていた。

「そこをどきなさい!あなたにも危害を加えてしまうことになるわよ!」

「ララは傷つけさせない!たとえスバルちゃんやジュンちゃんの友達でも、それは許さない!」

 ティアナの警告を聞き入れない霞美。2人の少女が正義と友情を秘めて対峙しようとしていた。

 

 ジュンたちの迎撃と霞美の乱入に阻まれて、撤退を余儀なくされたソニカ。自分の作戦室にいる彼女を、コペンが訪ねてきた。

「想定外のことに驚かされたようですね、ソニカ。」

「そうね。でも同じ失敗はしないわ。今度は確実にいい成果を上げられる・・」

 コペンの言葉にソニカが妖しく微笑んで答える。

「敵の戦法もデバイスの性能も理解した。そうすれば対処法はいくらでもある。想定外のことがまた起きても、うまく切り替えていくわ。」

「自信があるようですね。でもそういうときこそ油断は禁物です。くれぐれもあの力は・・」

「分かってる。そうやって何度も言われると逆に滅入るわよ・・」

 注意を促すコペンに、ソニカがため息をつく。するとコペンがソニカを後ろから優しく抱きしめてきた。

「私はあなたのことをとても大切にしています。ですのであなたが危険に陥るのを、私は快く思いません・・」

「姉さん・・ありがとう、姉さん・・あの力は使わない・・使うのは本当に、最後の最後だから・・・」

 コペンの心配を受けて、ソニカが微笑む。

「私はもう1度、地球にいる局員を仕留めに行くわ。姉さんもそろそろ出撃するのよね?」

「えぇ。セヴィルさんが倒され、ディオンさんとリオさんも苦戦しているようですから・・」

 ソニカの問いかけを受けて、コペンが眼つきを鋭くする。

(待っていなさい。Fの遺産と呼ばれたあなたの秘密と技術、暴かせてもらいますよ・・フェイト・テスタロッサ・ハラオウン・・・)

 敵意と野心を募らせていくコペン。彼女は「プロジェクトF」のキーパーソンであるフェイトを、最大の標的としていた。

 

 

次回予告

 

平和を守ろうとするティアナと、親友を守ろうとする霞美。

2つの信念の対立に、ジュンとスバルの心は揺れる。

その揺らぎに拍車をかけるように、忍び寄るソニカの魔手。

少年少女の戦いは、激化の一途を辿っていく。

 

次回・「ブラット」

 

血塗られた存在に、差し伸べるものとは・・・?

 

 

作品集

 

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