魔法戦記エメラルえりなResonance

第10話「トリニティ」

 

 

 セヴィルが仕組んだ暗躍部隊によるクラナガン襲撃。だがそれはアレンたちの迎撃に阻まれた。

 アレンはある部隊を伴って、クラナガンの防衛に当たっていた。それは、かつて「ロア」のメンバーだった者たちである。

 シグマ・ハワード、ジュリア・ファミリア、ギーガ・タイタンをフォワードとし、後方には医務官としてポルテ・セラティが控えている。

「久しぶりの大きな任務だが、腕はなまってはいないようだ・・」

「こういうときのために訓練を続けてきたのに、なまってたらシャレになんないって・・」

 淡々と呟きかけるシグマに、ギーガが呆れて肩を落とす。

「2人とも集中して。敵はまだいるのだから・・」

「分かっている。まだ敵の攻撃は終わってはいない・・」

 そこへジュリアが声をかけ、シグマが答える。

「ポルテ、敵の動きはどうなっている?」

“北北西25、路地に2人隠れているわ。”

 シグマの呼びかけに、ポルテが念話で答える。暗躍部隊は予期せぬ迎撃を受けたことで動揺を隠せなくなり、魔力を抑えて感知を避けることに気が向きすぎてしまい、レーダーには彼らの位置が筒抜けになっていた。

「他はレーダーを気にして、魔力を抑えるのがおろそかになっているわね・・これでは自滅同然ね。」

「被害を最小限に食い止めつつ、イースを拘束するぞ。」

 ジュリアの言葉に続けるように、シグマが指示を送る。3人が散開して、イースの暗躍部隊の残党への攻撃を仕掛けた。

 アレンが率いる彼らこそが、特別編成部隊「トリニティ」である。

 トリニティの活躍により、イースの暗躍は失敗に終わった。

 

 暗躍部隊の拘束という事実を聞かされ、セヴィルは愕然となっていた。

「まさかクラナガンへの攻撃が防がれるとは・・・!」

「私たちの力を甘く見たのが敗因です・・あなたたちの企みは、私たちが必ず阻止します・・」

 うめくセヴィルに、明日香が真剣な面持ちで言いかける。

「ヴィッツたちの戦いも終わりを迎えそうだよ・・」

 フェイトが言いかけて、ヴィッツたちのほうに眼を向ける。

 だがそのとき、戦況を見守っていたえりなが、突如力なく落下を始めた。

「えりな!?

 なのはが慌てて降下して、えりなを受け止める。えりなは顔色が悪くなっており、余裕がなくなっていた。

「しっかりして、えりな!?・・まさか、まだ目が治っていないんじゃ・・・!?

「やっぱり、黙って見ているなんてできなかったです・・健一やシャッハさんに強く止められたんですけど・・」

 声をかけるなのはに、えりなが苦笑いを見せる。彼女の言い分に、なのはが呆れて肩を落とす。

「もう・・あなたは相変わらずムチャばかりするんだから・・・」

「ムチャはエースの専売特許になってますよ・・なのはさんも口ではムチャを嫌うようなこと言っても、まだけっこうムチャしてますよ・・」

「それだけ口数が多いんじゃ・・心配して損だよ・・」

 憎まれ口を叩くえりなに、なのはは呆れ果てていた。

「すぐにデルタ本部に戻るよ・・ユウキさん、高町なのは、帰還します!」

“分かった。シャマルさんとアクシオに任せるんだ。”

 なのはの呼びかけを受けて、ユウキが指示を出す。

“他のみんなはトリニティと合流して、街の防衛に当たってくれ。オレもヴィッツたちの援護のため、出撃する。”

 さらなる指示を出して、ユウキも前線に赴くのだった。

 

 ヴィッツに代わってリオに戦いを挑む健一。だがリオはヘルフレイムの多用のため、これ以上の戦闘を危惧していた。

(もうここまでですね・・ディオン、引き上げましょう!)

(リオ・・そうだな。もはややむを得ない・・撤退だ!)

 リオの呼びかけを受けて、ダイナと交戦しているディオンが答える。2人は戦いを中断して、健一とダイナから離れる。

「待て!逃げる気か!?

「この勝負、次の機会に預けます!」

 呼び止める健一にリオが言い返す。

「私はリオ。あなたは?」

「健一。辻健一だ・・・」

 互いに名を名乗るリオと健一。そしてリオはディオンとともにこの場を離れた。

(すみません、セヴィルさん・・・あなたの仇、必ずとります・・・)

 セヴィルの無念を抱えて、リオたちは撤退していった。

「逃がすことになったか・・・ヴィッツ、リイン、無事か!?

「私は大丈夫だ。」

「私も平気です。ですがシグナムさんとザフィーラさんが・・」

 健一の呼びかけにヴィッツとリインフォースが答える。シグナムが疲弊し、ザフィーラも手傷を負っていた。

「それよりえりなは大丈夫なのか?目は治ったのか?」

「治った・・っていいたいとこだけど、完璧には治ってない。オレの言うことも聞きゃしねぇ・・」

 ヴィッツの質問に、健一が呆れながら答える。えりなはなのはに連れられて、デルタ本部での療養を課せられることとなった。

 

 まだ目が完治していないまま出撃してしまったえりな。彼女はデルタ本部内の医務室のベットで横たわっていた。

「もう、これでは庇いきれませんよ・・」

 えりなのムチャにシャマルも呆れていた。

「8割がた治っていたのに、症状を悪化させてしまいましたよ・・・」

「そうよ。ケガ人はケガを治してくるまで出しゃばらないの。」

 シャマルに続いてアクシオも不満を口にしてきた。

「すみません・・治るまで大人しくしています・・・」

 反論することができずに頭を下げるえりな。そこへ明日香、玉緒、健一、アレン、なのはがやってきた。

「えりな、本当に大丈夫なの・・?」

「明日香ちゃん・・もう治るまで休んでるよ。アハハハ・・・」

 心配の声をかける明日香に、えりなが苦笑いを浮かべる。

「これからは自分たちの休養も兼ねて、僕たちはえりなを見晴らせてもらうよ。またムチャするようなら、今度は全員全力で止めに入るから。」

 アレンの言葉を受けて、えりなは気落ちしてしまった。その反応を見て、明日香たちが笑みをこぼす。

「イースに関する情報はまだまだ少なすぎる。そこであの人に頼ることにしたの。」

「あの人って・・もしかして彼のことですね。」

 なのはが切り出した言葉に玉緒が答える。

「となると、無限書庫は慌しくなっているかな・・」

 健一も続けて呟きかけていた。

 

 時空管理局が管理しているデータベースが置かれている無限書庫。書庫には書物を収めた棚が縦横無尽に広がっており、ひとつの資料を探すのもかなりの重労働である。

 その司書長を務めているのは、ユーノ・スクライアである。ユーノはなのはの親友であり、彼女が魔導師となるきっかけとなった人物である。リッキーの親戚であり、彼の魔法の師でもある。

 ユーノはユウキからの連絡を受けて、イースに関する情報を探していた。

「お久しぶりです、ユーノさん。僕たちも手伝いと護衛を任されてきました。」

 その無限書庫を訪れた1人の青年。えりなの親友であり、彼女に魔導師の道を歩ませるきっかけを作った人物、リッキー・スクライアである。

 リッキーの隣には1人の少女がいた。明日香の使い魔であり相棒のラックスである。

「久しぶりだね、リッキー、ラックス。無限書庫でも収められている情報が少なくて苦労しているよ・・」

「そんなに謎だらけなのかい、そのイースっていうのは?」

 言いかけてくるユーノを前にして、ラックスが疑問を投げかける。

「時空管理局でも、イースに関する情報は収集が難しかった。無限書庫に収められているものでも、数えられるほどでしか・・」

「そうですか・・・ですがないよりは全然いいです。情報をできる限り集めて、対策を練り上げましょう。」

 ユーノの言葉を受けて、リッキーが呼びかける。

「あたしも手伝うって。難しいことはよく分かんないけど、荷物運びとかならやれるからさ。」

「ありがとう、リッキー、ラックス・・それじゃお言葉に甘えて手伝ってもらおうかな・・」

 意気込みを見せるラックス。2人に後押しされて、ユーノは笑顔を見せた。

 

 クラナガンにおける被害の後処理を進めていたトリニティ。そこへユウキがやってきて、シグマと対面していた。

「久しぶりだな、神楽ユウキ・・お前の保護がなければ、我々は平穏を取り戻すことができなかった・・」

「こちらこそ久しぶり、シグマ。貫こうとしている君たちの信念を壊したくなかった。その一心でオレたちは君たちの保護を買って出たわけさ。」

 真剣な面持ちで言いかけるシグマに、ユウキが気さくに答える。2人は固い握手を交わし、街を見回す。

「不思議なものだ・・かつて復讐の刃を向けていた時空管理局に身を置き、クラナガンを守っているのだから・・」

「オレたちが守っているのは、管理局とかクラナガンといった範囲の狭いものじゃない。たくさんの世界を守っていきたいっていう気持ちがある。」

「そういった通ずる部分があったからこそ、我らは手を組めたんだ・・」

「本当に大切なものが何なのか。オレたちはそれを理解して、守っていかなくちゃいけない・・」

 互いに決意を口にするシグマとユウキ。彼らは守るべきものが何なのかを気付かされ、そのために全身全霊を賭けてきたのである。

「あ、そうだ。伝え忘れていたことがあったんだ。」

 ユウキが切り出した言葉に、シグマが眉をひそめる。

「マコトとレイが、地球でスバルたちと合流したよ。ジュンも一緒だ。」

「マコトとレイが?・・そうか・・・」

 ユウキからの報告を受けて、シグマが喜びの微笑を浮かべた。旅立った仲間との再会が間近になったと感じて、彼は嬉しかった。

「大丈夫。スバルもジュンもクオンたちも、強くて優しいヤツばかりだ。信じてくれていい・・」

「あぁ。お前たちは、信頼に足る存在だと思っている・・・」

 絆を深めていくユウキとシグマ。かつてロアと呼ばれていた面々は、デルタや時空管理局に欠かせない支えとなっていた。

 

 新暦79年5月7日

 

 ソニカとの厳しい戦いを潜り抜けたジュンたち。彼らはイースの幹部の力に緊張を募らせていた。

「あのソニカという人、手強かった・・ホントに油断できない・・」

 スバル、ティアナとともに調査に出ていたジュンが、ソニカを警戒していた。

「心配ないって。今度はみんな一緒に力を合わせればいいんだから♪」

「相変わらず能天気なんだから、スバルは・・」

 明るく振舞うスバルに、ティアナが呆れてため息をつく。

「でもミッドチルダでも、イースの襲撃があったみたいだね・・でもなのはさんたちがいるから大丈夫だよね。」

「それにそろそろえりなさんも戻ってくる・・」

 スバルとジュンが期待を募らせる。そこへティアナが真面目に言いかける。

「あたしたちにはあたしたちの仕事がある。頼りきりになるのはよくないわよ。」

「分かっています。私は私の意思でここにいます。イースからみんなを守りたいと思ったから・・」

 ジュンがティアナに向けて自分の気持ちを告げる。時空管理局局員と一般の人間。ジュンはその狭間にいるのである。

「そういうのもありかもしれないわね・・みんな自分の意思で決めて、あたしたちはこうしてイースと戦い、地球を守っている・・」

「頑張っていこう♪ジュンの決心は、ジュンだけのものじゃないから♪」

 ティアナが言いかけ、スバルが笑顔を見せる。2人の気持ちを汲み取って、ジュンも笑みを見せた。

 

 短期大学での授業を終えて帰宅した後、霞美はララとフューリーを連れて散歩に出ていた。いろいろな場所に行ってみることで、ララの記憶に関することが見つかるかもしれないという、ジョンのアドバイスだった。

「ありがとう、霞美・・ララのために・・・」

 ララが微笑んで、霞美に感謝の言葉をかける。霞美とフューリーとの生活を経て、ララは難なく会話することができるようになった。

「いいよ、ララ・・ララを助けたい、守りたいって思ったから・・私がそう決めたから・・・」

「私もララさんと霞美さんのことを大切に思っています。2人とジョンさんに会えたことを、とても嬉しいです。」

 霞美とフューリーが自分の気持ちを率直に告げる。その優しさを感じ取って、ララが微笑みかける。

「ありがとう・・本当にありがとう・・・」

 再び感謝の言葉をかけるララ。

「さて、今日は街に出てみようかな。少し騒がしいところで、ララにはちょっとうるさいかもしれないけど・・」

「ううん、大丈夫・・霞美がそばにいるから・・・」

 霞美の呼びかけにララが微笑みかける。こうして3人は街に繰り出すことになった。

 平日であったものの夕方に近い時刻であったため、街は賑わいを見せていた。

「これは・・はぐれないように気をつけないといけないね・・・」

 その人込みを見回して、霞美が苦笑いを浮かべる。

「ララ、フューリー、はぐれないように気をつけて・・」

 霞美の呼びかけにララとフューリーが頷く。

(近くのレストランかファーストフードに立ち寄ったほうがいいかな・・・)

「霞美さん、大変です!ララさんが!」

 考え込んでいたところでフューリーに声をかけられて、霞美が我に返る。彼女は丁度、人の波に飲み込まれていくララを目撃する。

「ララ!」

 慌てて追いかけようとする霞美だが、ララの姿は人込みの中に消えていった。

「フューリー、バックの中にしっかり入っていて。」

「分かりました。ララさんをお願いします。」

 霞美の呼びかけにフューリーが答える。霞美はララを追い求めて、人込みの中に飛び込んでいった。

 

 調査を進めていくうちに、街に踏み込んでいたジュン、スバル、ティアナ。にぎわう街中にジュンたちは当惑していた。

「やっぱりいつ来ても、街には驚かされちゃうね・・」

「ビックリしてる場合じゃないって・・街はいつもミッドチルダで体感してるじゃない・・」

 照れ笑いを見せるスバルに、ティアナが呆れてため息をつく。

「でもこれだけ人が多いと、眼と足で探すのに限界がありますよ。ミッドチルダのように魔法は使えませんし・・」

「それでもあの騎士を探すしかないわ。高い建物の最上階から探ってみるわよ。」

 不安を口にするジュンに、ティアナが呼びかける。

「手分けして探すわよ。連絡は念話で行うこと。いいわね。」

「分かりました・・連絡を取り合って、後で合流しましょう。」

 ジュンたちは呼びかけあってから、散開していった。魔力が発せられておらず、彼女たちは霞美の居場所を特定するに至っていなかった。

(何か事件が起これば、騎士が見つかる可能性が大きくなるんだけど、そんなのに頼るわけにいかないよね・・)

 内心呟きかけるスバルが苦笑いを浮かべていた。

(それにしても、ホントにすごい人の数だね・・ここはこの波から出ないと・・)

 人込みに苦慮していたスバルは、そこから脱出した。その先のファーストフード店の前で、彼女は驚きを覚えた。

 彼女と同時に、ある少女も人込みから飛び出してきた。その顔はスバルそっくりだった。

「あたしと同じ・・どうなってるの・・・!?

 たまらず驚きの声を上げるスバル。少女も彼女を見つめて、きょとんとしている。

「ララと同じ顔・・もしかして、ララの記憶に関係している・・・?」

「えっ・・・?」

 少女、ララが口にした言葉に、スバルが眉をひそめる。

「もしかして君・・記憶喪失っていうの・・・?」

 スバルが問いかけると、ララが小さく頷く。

「記憶がない・・困っちゃったなぁ・・・何か覚えていることとかないかな・・・?」

「霞美・・霞美が、近くに・・・」

「かすみ?・・その人が君の知り合いなんだね・・・?」

 スバルの言葉にララが小さく頷く。

「でもこの人の数じゃ、簡単に見つけられないし・・・確か広場があったはずだよね、近くに・・・」

 思い立ったスバルが、広場のあるほうに振り向く。

「とりあえずあの広場に行ってみよう。あそこのほうが見通しがいいし・・」

 スバルの案にララが頷く。2人はひとまず広場に移動し、霞美を探すこととなった。

 だがそれでも人1人を見つけるのも難しく、逆に見つけてもらうのも不安があった。

「でもここのほうが見通しがいいよね・・・ここで待つことになるけど、いいよね・・・?」

「うん、いいよ・・霞美が見つかるなら・・・」

 スバルの呼びかけにララが答える。2人はひとまず広場に留まることになった。

 

 騎士の捜索のため、建物の最上階や屋上から人々を見下ろしていたジュンとティアナ。しかし騎士と思しき顔を見つけられず、ジュンは困惑していた。

(やっぱり難しいよね・・これだけの大人数から、1人を見つけ出すなんて・・・)

 完全に困り果てていたジュン。そのとき、彼女は広場にスバルがいるのを発見する。

(スバルさん、何をやってるのよ・・・スバルさん!)

 ジュンが不満を抱えたまま、スバルに念話を送る。

(何をやっているんですか!?あの騎士を探してください!)

“あ、ジュンちゃん・・ゴメン、ちょっと迷子がいて・・”

(迷子!?迷子は街の警察に任せればいいんですよ!私たちの仕事は他にあるんですから)

“ホントにゴメン!あたし、ほっとけないから!”

(あっ!ちょっと、スバルさん!・・・もう、しょうがない人・・・)

 スバルから念話を打ち切られて、ジュンが肩を落とす。

(ティアナさん・・スバルさんが勝手な行動を・・・)

“えっ!?・・もう、スバルったら・・この年になっても子供なんだから・・・

 ジュンが報告をすると、ティアナの呆れのこもった声が返ってくる。

(私が連れてきます。ティアナさんはみなさんを呼んでください。)

“分かったわ。あのバカをお願いね。”

 ジュンの呼びかけにティアナが答える。ジュンはスバルを連れ戻すべく、屋上から降りていった。

 

 霞美を探すララを手伝うスバル。しかし時間がたつにつれて、人の数が増していくばかりだった。

「どうしよう・・逆効果だったかな・・・」

「霞美・・・どこなの・・霞美・・・」

 苦笑いを浮かべるスバルと、霞美に会えないことに悲しむララ。

「大丈夫だって!必ず見つけてあげるから!」

 スバルがララを励まそうとする。だがスバルは必死さが隠せなくなっていた。

 不安を募らせながらしばらく待つと、2人は唐突に声をかけられた。

「何をやっているのですか、スバルさん!?

 声をかけてきたのは、スバルを追いかけてきたジュンだった。ジュンは眼を吊り上げて、スバルに詰め寄ってきた。

「だって、やっぱり放っておけないって!ジュンちゃんもそう思うよね?」

「それは放ってはおけないと私も思いますけど・・・」

 スバルの言葉に反論できず、ジュンは困惑する。困っている人を放っておくことは、本来ならジュンにできないことだった。

「待ちなさい、そこの2人!」

 そこへ再び声をかけられて、ジュンとスバルが振り返る。街中の人込みをかき分けて、カナが2人に迫ってきていた。

「あの人、この前の・・・!」

「もしかして、あたしたちを捕まえようとしているんじゃ・・・!?

 たまらず声を荒げるジュンとスバル。彼女たちの眼前に、ついにカナがたどり着いてきた。

「また会ったわね・・今度こそ話を聞かせてもらうわよ!」

「こ、怖い・・・」

 呼びかけてくるカナに、ララが怯えて震える。それを見かねたスバルが、いきなりカナに飛びついた。

「ジュンちゃんはその子を連れて逃げて!」

「スバルさん、ちょっと!」

 スバルの呼びかけにジュンが困惑する。だが迷う時間がないと痛感し、ジュンはやむなくララを連れて、広場から逃げ出した。

「ちょっとあなた!どういうつもりなの!?

 カナにはねつけられて、スバルがしりもちをつく。起き上がろうとしたところで、スバルがカナに手錠をかけられる。

「えっ!?

「じっくり話を聞かせてもらいますよ、お嬢さん・・・!」

 勝気な笑みを見せつけるカナに、スバルは愕然となった。

 

 ララを連れて街の中を駆けていくジュン。スバルが気がかりとなった彼女は、通りの真ん中で立ち止まる。

「スバルさん・・大丈夫なんでしょうか・・・」

 不安を募らせて、ジュンがスバルのいるはずの広場に戻ろうとした。

「ララ!」

 そこへ声をかけられて、ジュンが足を止める。駆け込んできた少女の姿に、ララが喜びの笑みを浮かべる。

「霞美・・・霞美!」

「えっ・・・!?

 ジュンが驚きを見せる前で、ララが霞美と抱擁を交わす。

「ララ・・やっと見つかった・・見つかって、よかった・・・」

「霞美・・ララ、霞美に会えてよかった・・よかった・・・」

 再会の喜びを浮かべて涙する霞美とララ。

「あの・・私のこと、忘れているみたいなんだけど・・・」

 そこへ唖然となりながら、ジュンが声をかける。彼女の顔を見た途端、霞美が血相を変える。

「あなた、この前の人・・・!?

「もしかしてあなた・・・待って!話を聞いて!」

 ジュンが慌てて霞美を呼び止める。

「私たちはあなたたちをどうこうするつもりはない。ただ話をしたいだけなの。」

「本当なの?・・本当に話だけ・・・?」

 呼びかけるジュンに、霞美が当惑する。するとジュンが微笑んで、霞美に手を差し伸べてきた。

「話してくれれば、私たちがあなたたちを守ることもできる・・だからお願い・・・」

「霞美・・この人がララを助けてくれた・・・」

 頭を下げるジュンに続けて、ララが霞美に言いかける。2人の言葉に突き動かされて、霞美はジュンの手を取った。

「ありがとう・・私は春日ジュン。あなたは?」

「霞美。三重野霞美・・よろしくね、ジュンちゃん・・」

 誤解を解消し、和解を果たしたジュンと霞美。ララも微笑んで、2人の手に自分の手を添えた。

「あ、ちょっと待っていてください。みんなと連絡を取りますから・・・って、スバルさん・・・!」

 霞美に呼びかけたところで、スバルを思い出し、ジュンが愕然となる。

「ホ、ホントに待っててくださいね・・・」

 体を震わせながら言いかけるジュンに、霞美とララが頷く。

(スバルさん・・応答してください、スバルさん・・・!)

 ジュンが念話で呼びかけるが、スバルからの応答がない。

(もしかして、あの人に捕まってしまったんじゃ・・あの人もけっこうしつこいよ・・・)

「霞美さん・・今度は私の人探しに付き合ってもらうことになりそうです・・・」

「えっ・・・?」

 ジュンが切り出した言葉に、霞美が当惑を見せた。

 

 コテージにてレーダー探査を行っていたコロナ。そこへスバルがカナに捕まった報告をジュンから聞かされ、コロナは驚きの声を上げる。

「スバルさんが捕まった!?

 その大声に、小休止を取っていたクオンとネオンがせき込む。

「だ、大丈夫ですか、2人とも・・・!?

「ぐふっ・・げほっ!・・だ、大丈夫です・・・」

 ナディアが心配の声をかけるが、クオンが弁解を入れる。

「それで、スバルさんが捕まったって、ホントなんですか・・・!?

「本当みたいです・・レーダーを見ながら調べてみたのですが、その人、インターポールの刑事みたいなんです・・・」

 ネオンの質問に、コロナが困惑しながら答える。だがその言葉にネオンが疑問符を浮かべる。

「インターポールって何なの?」

「この地球での国際警察。世界規模の事件を担当するって聞いているよ・・」

 そのネオンの疑問にクオンが説明する。

「そのインターポールが、あたしたちを怪しいって思ってるってことなの・・・!?

「少なくてもそれは否定できないかな・・魔法は地球では空想上のものって認識が強いから、話しても信じないのが普通だけど・・・」

「万が一受け入れて、さらに疑問と警戒を植えつけることになっちゃったら・・・」

 声を荒げるネオンにクオンが言いかけ、その言葉にナディアが困惑を見せる。

「とにかくティアナさんやエリオさんたちに連絡しましょう。僕たちもすぐに出ましょう。」

「そうだね、クオンくん・・コロナさん、ここをお願いします!」

 クオンとネオンがスバル救出のために、コテージを飛び出していった。

「あっ!2人とも待ってください!」

 ナディアも慌しく2人を追いかけていった。

「・・あう・・何だか頭が痛くなります・・・」

 悪化していく事態に、コロナは頭を抱えてため息をついていた。

 

 異次元航行を続けるアクレイム。その中でメガールはある映像を眼にしていた。

 その映像は、数日前の紅い髪の少女とえりなとの戦いを映していた。

(やはりすばらしい・・あのエースオブエースの片割れとも、互角以上の戦いを繰り広げていた・・)

 少女の力量に感心するメガール。

(惜しいことをしたと痛感していた・・だがまだ諦めるには早かった・・)

 メガールは新しい映像を眼にする。そこには霞美と一緒にいるララの姿が映し出されていた。

(まさか地球に落ちていたとはな・・お前の力、再び発揮してもらうぞ、ブラット・・・)

 不敵な笑みを浮かべるメガール。イースは新たに、ララを標的に加えたのだった。

 

 

次回予告

 

イースの脅威を辛くも退けたえりなたち。

だがイースの策略は、過激化に向かっていた。

そんな中、霞美たちとの交流を深めていくジュン。

だが、ティアナたちは霞美たちを警戒していた。

 

次回・「非情の追跡」

 

守りたい・・その決意の果てにあるのは・・・?

 

 

作品集

 

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