魔法戦記エメラルえりなResonance
第9話「シンギュラーシステム」
シンギュラーシステム「バーストリミット」を発動したセヴィル。強大なパワーとスピードを発揮して、ライムとジャンヌを追い詰めていた。
「くっ・・まさか、ここまでレベルアップをしてくるなんて・・シンギュラーシステム・・予想以上の力・・・!」
疲弊してきてうめくジャンヌ。その姿を見てセヴィルが哄笑を上げる。
「気付いたところで、貴様らが我々の洗礼を受けることに変わりはない。己の過ちを、地獄で後悔するがいい。」
セヴィルは不敵な笑みを浮かべると、ジャンヌに向かって突っ込む。だが彼女の前にライムが立ちはだかり、クリスレイサーでセヴィルの突進を受け止める。
「ライム!」
「くっ!・・おりゃあっ!」
声を荒げるジャンヌの前で、ライムがクリスレイサーを振り上げて、セヴィルを跳ね上げる。
「大丈夫、ジャンヌ!?」
「うん・・私は平気・・でもライムが・・」
呼びかけるライムに、ジャンヌが不安を浮かべる。笑みを見せるライムだが、すぐに緊張の色を浮かべる。
「僕だって平気だ・・でもあのイース、ホントにすごい・・こんな相手に、リミッターを設けている場合じゃない・・・」
「そうだね・・・ユウキさん、リミッターの解除をお願いします!」
ライムとともに意を決したジャンヌが、ユウキに呼びかける。
上位レベルの魔導師や騎士には、「出力リミッター」と呼ばれる魔力制限がかけられている。魔法による周囲への被害を及ぼさないためにかけられており、それを解除する権限が与えられているのはほんの一握りの上官だけ。デルタにおいてはユウキ、そして彼とともにデルタ設立の立役者である査察官、リーザ・アルティスが、リミッターにおける権限を持っている。
“分かった。だけど街に被害を及ぼすな。街と人々の安全を最優先にするんだ。”
「了解です。」
ユウキの呼びかけにジャンヌが答える。彼女とライムがセヴィルに視線を戻す。
「久しぶりのフルドライブだよ。準備はいいかい、クリスレイサー?」
“It is possible to start at any time. (いつでも起動できます。)”
ライムの呼びかけにクリスレイサーが答える。
「よし。クリスレイサー、スマッシャーモード!」
“Smasher mode.Drive ignition.”
「シャイニングソウル、シャイニングフォーム!」
“Shining form.Drive ignition.”
ライムとジャンヌの呼びかけで、クリスレイサーとシャイニングソウルの形状が変化する。
一部のデバイスは最大出力のフルドライブ、それを超えた限界突破のリミットブレイクの形状を備えている。絶大な威力を発揮する反面、デバイスや使用者への反動も大きくなる。
「僕たちをここまでさせたのは久しぶりだよ・・そっちこそ油断しないでよ。こっちもそれなりにレベルアップしてるから・・・!」
“Silver smasher.”
ライムが鋭く言いかけると、クリスレイサーから白銀の閃光がほとばしる。その砲撃がセヴィルに向けて飛んでいく。
セヴィルが大剣を振りかざし、砲撃を弾き飛ばす。だが砲撃の威力に、彼は一瞬押された。
「これが本気となった局員の力か・・これのさらにもう1段、威力を増すことができるのか・・・」
ライムの底力に毒づくセヴィル。だが彼は気負ってはいなかった。
「寿命がわずかに延びたに過ぎない・・私のバーストリミットで、全てを粉砕することに変わりはない!」
いきり立ったセヴィルがライムに向かう。だが彼に向けて、無数の光の弾が飛び込んできた。
「おのれっ!」
毒づくセヴィルが視線を移すと、光の弾を展開しているジャンヌの姿があった。
「もう易々と、あなたに攻撃を許すわけにはいかない・・・!」
鋭く言いかけるジャンヌ、セヴィルが苛立ちを見せる。
「僕たちだけに気が向いていていいのかい?」
そこへライムが声をかけると、セヴィルが眉をひそめる。
そのセヴィルが突如、下から発せられた閃光に包まれる。直後、彼が爆発に襲われる。
それはなのはの砲撃魔法、エクセリオンバスターだった。彼女もリミッターの解除を受けており、レイジングハートもフルドライブ「エクシードモード」へと形状を変えていた。
「これ以上長引いたらみんなが危ないからね。撃ち抜かせてもらったよ。」
“Splendid,my master.(お見事です、マスター。)”
言いかけるなのはに、レイジングハートが賞賛の言葉をかける。
だがこの一撃で決着が着いたわけではなかった。エクセリオンバスターの直撃を受けたはずのセヴィルは、まだ倒れてはいなかった。
「今の一撃は聞いたぞ。もしもバーストリミットを発動させていなければ、確実に私は負けていただろう・・」
「何てヤツだよ・・なのはのエクセリオンバスターを耐えたっていうのか・・・!?」
不敵に言い放つセヴィルに、ライムが声を荒げる。
「だが・・バーストリミットの力は戦闘能力の増加だけではない・・・!」
言いかけるセヴィルが負った傷が徐々に消えていく。その回復力に、なのはたちが息を呑む。
「自然治癒力、再生能力も向上している・・一撃で私を倒さなければ、貴様らに勝機はない!」
高らかに言い放つセヴィルに、なのはたちは緊迫を募らせていた。
リオと激闘を繰り広げるシグナム。アギトとのユニゾンを果たしているシグナムは、リオを徐々に追い詰めつつあった。
「お前の力もなかなかのものだ。だが我々の力には及ばない。」
シグナムが鋭く言いかけると、レヴァンティンの刀身に炎が灯る。
「大人しく投降しろ。お前のように、純粋な心を持った者を手にかけたくはない・・」
「敵に情けをかけるのですか・・私個人としては快くて喜ばしいですが、騎士や剣士としては浅はかですよ・・・!」
シグナムの忠告を拒むリオ。ひとつ吐息をついてから、シグナムが眼つきを鋭くする。
「残念だ・・・紫電一閃!」
シグナムがリオに向けて炎の一閃を繰り出す。アギトとのユニゾンによって、シグナムの魔力は格段に底上げされている。
「やむを得ません・・・シンギュラーシステム、ヘルフレイム!」
リオがついにシンギュラーシステム「ヘルフレイム」の起動を敢行した。彼女の持つ剣に青い色の炎が湧き上がる。
その剣に受け止められるシグナムの一閃。赤と青の炎が入り混じり、破裂を引き起こす。
「ぐっ!」
その衝動に煽られてシグナムがうめく。爆発で発した煙からリオも出てきた。
その彼女に変化が起こっていた。紅い髪と瞳が蒼く変化していた。
「これが私のシンギュラーシステム、ヘルフレイムです。体から青い炎を放ち、攻防一体の武器と鎧とします。」
リオがシグナムに向けて鋭く言いかける。
「青い炎は普段は静寂ですが、燃え上がれば相手を芯まで焼き尽くします・・その勢いは、紅い炎をも凌駕する・・・!」
リオがシグナムに飛びかかり、炎をまとった剣を振りかざす。レヴァンティンで受け止めるシグナムだが、リオの一閃に押される。
「ぐっ!」
押されたシグナムがうめく。わずかでも気を抜いていたなら、レヴァンティンの刀身を損傷されるところだった。
「今までのようにはいきませんよ、シグナムさん。この信念のため、私はあなたを倒します!」
リオがシグナムへの追撃を繰り出す。毒づいたシグナムが飛翔し、リオが繰り出した一閃と炎をかわす。
「一気に叩き込むぞ!準備はいいか!?」
“言われるまでもないって!”
シグナムの呼びかけにアギトが答える。2人の意識が重なり、シグナムがレヴァンティンを構える。
「剣閃烈火!火龍一閃!」
シグナムとアギトの声が重なる。シグナムが左手で炎の刃を放ち、レヴァンティンで切りつけることで、絶大な威力を誇る火炎斬撃を生み出す。
シグナムが放った炎の一閃が、リオに向かって飛んでいく。これに対し、リオが意識を集中する。
「蒼き炎・・蒼炎斬!」
リオが炎をまとわせた剣を構え、振り上げる。その蒼い炎が刃となり、シグナムの放った紅い炎の刃とぶつかった。
2つの炎の一閃が激突し、荒々しい爆発を巻き起こした。その衝撃でシグナムとリオが吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「うわっ!」
うめくシグナムとリオ。一進一退の攻防に、2人は緊張を募らせていた。
(蒼炎斬と互角とは・・ヘルフレイムを発動させても、勝てるかどうか・・・)
「シグナムとアギトの力を合わせた攻撃を相殺するとは・・」
思考を巡らせていたところで、リオは声をかけられる。声をかけたのはシグナムではなく、リインフォースとともに現れたヴィッツだった。
「ヴィッツ!」
声を上げるシグナムに微笑みかけると、ヴィッツはリオに眼を向ける。
「ここから先は私たちが相手をする。真剣勝負なら水を差すべきではないのだがな・・」
「私はリオ。イース攻撃兵団の1人です・・」
「三銃士、雷の剣士、ヴィッツと、雷の剣、ブリット。」
互いに自己紹介をするリオとヴィッツ。
「時空管理局所属、リインフォース・ツヴァイ準空尉です。私たちの指示に従うなら、手荒なことはしません。」
リインフォースも名乗ると、リオに投降を求める。しかしリオはこれを受け入れない。
「残念ですが、あなた方の申し出を飲むことはできません。私たちはもう、後戻りすることができないのです・・・!」
「そうか・・・ならば仕方がない・・全力で食い止めるのみ!」
ヴィッツが構え、リインフォースに意識を傾ける。
「ユニゾンイン!」
リインフォースとの融合を行うヴィッツ。彼女の金髪が白んでいき、全身から光のような魔力のオーラを放つ。
「今度は私たちが相手をする!行くぞ、リオ!」
「望むところです!」
言い放つヴィッツとリオが飛び出す。振り下ろされた2つの刃がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
「炎を使う相手とは何度か相手をしているが、お前の炎は異質のようだ・・・!」
「そうです。私の炎は蒼・・芯のある蒼・・・!」
声をかけるヴィッツにリオが答える。競り合いから離れると、ヴィッツが一気に速度を上げる。
ライムに勝るとも劣らない速さで駆け抜けるヴィッツ。リオは感覚を研ぎ澄まして、ヴィッツの動きを捉えていた。
(速さもある・・このヘルフレイムも、あとどれだけ持つか・・・!)
ヴィッツの動きを追う中で、リオは焦りを感じていた。
シンギュラーシステムは強大かつ異質の力を発揮する。その反面、多用するだけでなく、能力によっては発動させるだけで反動を受けることになる。
(ヘルフレイムは使い続ければ、その蒼い炎が私自身をも焼き尽くしてしまう・・多勢に無勢になることは分かっていたはずなのに・・・!)
内心後悔するリオ。その焦りが彼女を劣勢へと追い込んでいた。
(シグナムさんとヴィッツさん、強い相手に出会えたことが、私を鼓舞させてくれたというのですか・・・)
「本当に残念です!あなた方のような相手と、今になって巡り会うことになるとは!」
冷静沈着なリオが、ヴィッツに対して感情をあらわにした。
魔力を大剣に込めて解き放つセヴィル。その勢いをなのはたちは止められず、回避が精一杯だった。
(エクシードモードのエクセリオンバスターに耐えた・・しかも急速な回復力・・もうブラスターモードを起動するしかないのかな・・・)
胸中で焦りを募らせるなのは。レイジングハートのリミットブレイクモードである「ブラスターモード」の使用は、レイジングハートだけでなく、彼女自身にも大きな負担をかけることになる。彼女は苦渋の選択を迫られていた。
思考を巡らせるなのはに、ライムとジャンヌ、そして駆けつけた明日香、玉緒、フェイト、はやてが駆けつける。
「大丈夫、なのは?」
「私なら大丈夫だよ、フェイトちゃん・・でも、あの力を止めるには、もうブラスターモードを使うしか・・」
声をかけるフェイトになのはが答える。するとレイジングハートを持つなのはの手に、明日香が手を添える。
「私たちの力を合わせましょう・・なのはさんだけに負担はかけられません・・」
「明日香・・・」
明日香の呼びかけになのはが戸惑いを浮かべる。するとはやてが微笑んで頷く。
「そうやね・・私たちの力を合わせれば、突破できん壁はない。」
「あたしと明日香、ラックスもいるんですから、このピンチ、絶対に切り抜けられます。」
はやてに続いて玉緒が笑顔で言いかける。その言葉で明日香たちが自信に満ちあふれる。
「私とライムであの人の注意を引き付ける。みんなは隙を突いて、一気に魔法を叩き込んで・・」
「大丈夫なの?フェイトとライムだけで・・あの人、力だけじゃなくて、スピードも上がってるのよ・・」
フェイトの提案にジャンヌが心配を口にする。しかしフェイトとライムの決心に揺るぎはない。
「注意を引き付けるくらいなら、僕とフェイトだけで十分だ。みんな、うまく集中砲火してよね。」
「任せてください。私のドライブチャージマックス、いつでも使えます。」
ライムが呼びかけ、明日香が言いかける。
「いつまでおしゃべりをしているつもりだ、時空管理局!?」
そこへセヴィルが高らかに声をかけてくる。同時に彼が大剣を振りかざし、魔力の刃を放つ。
「全員散開!」
はやての呼びかけで、明日香たちが散開し飛翔する。
「行くよ、ライム。」
「うん。」
フェイトの声にライムが頷く。フェイトが光の鎌をかたどるハーケンフォームとなっているインテリジェントデバイス、「バルディッシュ・アサルト」を構える。
「何人束になろうと、私のバーストリミットを止められはせん!」
「その強気がどこまで続くかな・・・!?」
言い放つセヴィルに挑発を返すライム。その言葉に反応して、セヴィルが苛立ちを浮かべる。
「どこまでも我々を愚弄する時空管理局・・虫唾が走る!」
怒号を放つと同時に、セヴィルが飛びかかる。フェイトとライムが横に回避を取り、セヴィルに一閃を放つ。
直撃のはずだった。だがセヴィルの勢いは止まらず、傷もすぐに消えてなくなった。
「この程度では蚊ほどのかゆみも感じんな!」
不敵な笑みを浮かべて振り返るセヴィル。フェイトとライムは2手に別れ、セヴィルの注意を散漫にしようとする。
「どこまでも小賢しい・・まとめて吹き飛ばしてやる・・・!」
眼を見開いたセヴィルが魔力を放出する。虚を突かれたフェイトとライムが、加速して回避を取る。
「もう、どこまで物騒なんだ、アイツは!」
たまらず毒づくライム。セヴィルとの距離を長く取って、フェイトとライムが体勢を整える。
(明日香、ドライブチャージマックスのチャージまでは?)
“あと20秒です。みなさんは準備完了です。”
フェイトの念話に明日香が答える。玉緒、なのは、はやて、ジャンヌは砲撃の準備を整えていた。
「そのまま逃げてもいいぞ。代わりに他の者たちを葬り去るだけだ。」
セヴィルがフェイトたちに背を向けて、明日香たちに大剣の切っ先を向けた。
「しまった!なのはたちが!」
声を荒げるフェイト。セヴィルが明日香たちに向けて、魔力を込めた大剣を振り下ろそうとする。
(いけない!チャージが間に合わない!)
焦りを覚える明日香。迎撃をするにも間に合わない。
そのとき、セヴィルが振り上げた大剣の刀身に爆発が起こる。
「何っ!?」
驚愕の声を上げるセヴィル。明日香たちも何が起こったのか分からず、一瞬当惑する。
「今の魔力は・・・!」
この爆発の正体にいち早く気付いたのは明日香だった。攻撃が飛んできたほうに、セヴィルが振り返る。
白と緑を基調としたバリアジャケット。明日香たちを救ったのは、ブレイブネイチャーを手にしたえりなだった。
「えりな!」
「危ないところだったね、明日香ちゃん。」
声を上げる明日香に、えりなが微笑みかけてくる。
「えりな、もう大丈夫なの?・・眼は治ったの・・?」
なのはが心配の面持ちを浮かべて訊ねてくる。そこへブレイドデバイス、ラッシュを手にした健一が姿を見せてきた。
「今はそんなことを気にしている場合じゃないはずっスよ。」
「健一・・健一の言うとおりだね・・今はみんなを守り、イースを撃退することが先決だよ。」
健一の言葉を受けてライムが言いかける。彼女の言葉になのはたちが頷く。
(えりなと健一はあの人の注意を引き付けて。私たちが隙を突いて砲撃を加える。)
(明日香ちゃん・・分かった。やってみるよ。)
明日香の念話での呼びかけにえりなが頷く。
(オレはシグナムとヴィッツを手伝ってくる。あっちも競ってるようだからな。)
健一は呼びかけると、リオと交戦しているヴィッツの元へ向かった。
「また新手か。何人集まろうがムダなこと!」
笑みを強めたセヴィルがえりなに飛びかかる。えりなは飛翔して、セヴィルが振りかざしてきた大剣をかわす。
(すごい相手だってことは分かってる・・ここは全力を一気に叩き込むだけ!)
「ブレイブネイチャー、スピリットモード!」
“Spirit mode,ignition.”
えりなの呼びかけでブレイブネイチャーがスピリットモードへと変形する。彼女は持てる魔力を叩き込もうとしていた。
(真正面から突っ込むのは危険・・遠距離で攻める!)
「ソウルブラスター!」
えりながセヴィルに向けて、高い出力の砲撃を放つ。閃光がセヴィルに直撃し、爆発を引き起こす。
決定打にならなかったものの、セヴィルの動きを止めるには十分だった。
「一斉砲撃、いきます!」
明日香が声を上げて、セヴィルに狙いを定める。
「オーシャンスマッシャー!」
“Ocean smasher max splash.”
セヴィルに向けて放たれた明日香の最大出力の砲撃。
「エクセリオンバスター!」
「シャイニングブラスター!」
なのはとジャンヌも立て続けに魔法を放出する。この集中砲火にセヴィルが苦悶を覚えていた。
「くっ!・・回復が追いつかない・・これでは・・・!」
この危機に毒づくセヴィル。だがえりなたちの攻撃は終わりではなかった。
「ラグナログ!」
「ミラクルフォース!」
はやてと玉緒が放った閃光がセヴィルを襲う。回復力がダメージに追いつかず、セヴィルが疲弊して落下する。
「回復を機能させないで!」
ジャンヌが呼びかけ、セヴィルにマジックバインドをかける。本来魔法を封じるために使用するバインドを、彼女は彼に仕掛けた。
(シンギュラーシステムが魔法と同種なら、マジックバインドで機能を止められるはず・・・!)
一縷の望みに賭けるジャンヌ。これでバーストリミットを封じられなければ、彼女たちの全力全開がムダになる。
だがしばらくしてもセヴィルが回復する様子はない。
「やった・・うまく再生能力を封じることができた・・・」
安堵を浮かべるジャンヌ。力を封じられて、セヴィルは戦う力を失った。
激しい攻防を繰り広げるザフィーラとディオン。2人は互いの力を見定めようとしていた。
「やはり守護獣。ただ者ではない。他の者たちも、お前に勝るとも劣らないのだろうな。」
淡々と言いかけるディオン。ザフィーラは無言でディオンを見据えていた。
「お前も人の姿を取れるのだろう?本気で牙を交えようではないか。」
「いいだろう・・人の姿を取るのは久しい・・・」
ディオンに促されて、ザフィーラは長らく取っていなかった人の姿へと変身する。ディオンも人の姿となり、ザフィーラを見据える。
「それがお前の人の姿か・・この体での力、どこまで引き出せるか・・・!」
ディオンは言葉をかけると、全身に力を込める。彼の全身の筋肉が引き締まり、覇気が放たれる。
「行くぞ、盾の守護獣!」
ディオンは高らかに言い放つと、ザフィーラに飛びかかる。ザフィーラも迎撃に出て、拳をぶつけ合う。
だがディオンの攻撃の重さにザフィーラが顔を歪める。徐々に全力に向かっていくディオンが、ザフィーラを追い込んでいく。
「くっ・・まさか私を上回る力を秘めていたとは・・・!」
この劣勢にザフィーラが毒づく。
「お前は魔力の燃費を考慮して、しばらく獣の姿を取っていたようだが、私は獣の姿だけでなく、人の姿でも体を慣らしている。そこで既に力の差が生まれていたようだな。」
ザフィーラに向けて淡々と語りかけるディオン。ディオンは両手を握り締めて、魔力を集束させる。
「だが守護獣と戦えたことは本当に久しかった・・礼を言うぞ、盾の守護獣・・」
ディオンは不敵な笑みを浮かべて、ザフィーラに拳を叩き込もうとした。だがその一打が大剣の刀身に阻まれる。
「ここから先、お前の相手はオレがさせてもらう・・」
ディオンに向けて声をかけてきたのはダイナだった。ダイナはブレイドデバイス「ヴィオス」を掲げて、ディオンの拳を防いだのである。
「お前は騎士・・守護騎士とは少し違うようだ・・」
ディオンが言いかけると、ダイナがヴィオスを振りかざして彼を払いのける。
「私はディオン。お前の名は?」
「三銃士、炎の剣士、ダイナ。そして炎の剣、ヴィオス。」
互いに名乗るディオンとダイナ。そこへザフィーラが声を振り絞ってきた。
「気をつけろ、ダイナ・・ただ者ではないぞ・・・」
「分かっている。今、アギトはシグナムとともに手傷を負っている。オレだけでどこまで持たせられるか、試してやろうか・・・」
ダイナはザフィーラに答えると、ヴィオスを構える。
「お前はシグナムとアギトと合流しろ。オレがヤツを食い止める。」
「お前だけで大丈夫なのか?」
ダイナの声にザフィーラが問いかける。ダイナの無言を、ザフィーラは肯定と捉えた。
「死ぬな。お前も1人ではないのだからな。」
「お前からそのような言葉を聞かされるとはな・・・お前も死ぬな。」
ザフィーラと声を掛け合うと、ダイナはディオンに向かっていった。ザフィーラもシグナムたちと合流すべく、移動を開始した。
リオとの激闘を繰り広げるヴィッツ。だがリオの発動しているヘルフレイムは、彼女の体に負荷をかけていた。
(セヴィルさんがやられた・・・これではとても戦況を立て直せません・・・!)
思考を巡らせて、取るべき手段を模索するリオ。
(ヘルフレイムもそろそろ限界・・やはり撤退するしかないか・・・!)
「ならばせめて、この眼前の相手だけでも!」
いきり立ったリオが、ヴィッツに果敢に攻め立てる。猛威を振るってきたリオに、ヴィッツが押され気味になる。
“大丈夫ですか、ヴィッツさん!?”
(リオは攻撃に集中してきている。だが焦りも混じっていて、攻撃が直線的になっている・・ここを耐えて、逆転を狙う・・・!)
リインフォースの声にヴィッツが答える。彼女はリオへの反撃のチャンスを狙っていた。
「ヴィッツ、そこをどくんだ!」
“Blast strush.”
そこへ声がかかり、ヴィッツがとっさにリオから離れる。直後、健一が飛び込み、リオにラッシュを振りかざしてきた。
「新手!?」
虚を突かれながらも、リオが剣と蒼い炎でラッシュを受け止める。だが健一の一閃の重みに押されて、彼女は突き飛ばされる。
「健一、どうして・・・えりなも一緒か!?」
驚きを見せるヴィッツに、健一が小さく頷く。
「これ以上の質問は後だ!ここから盛り返すぞ!」
「分かった・・改めて食い止めるぞ!」
健一の呼びかけを受けて、ヴィッツも構える。2人を前にして、リオは緊張感を膨らませる一方だった。
バーストリミットを封じられて、戦力を削がれたセヴィル。拘束された彼を明日香たちが取り囲んでいた。
「マジックバインドをさらに3重にかけています。もうあなたにあの力を発動することはできません・・」
真剣な面持ちで言いかけるフェイト。だがセヴィルは不敵な笑みを浮かべていた。
「何がおかしいの?もうあなたになす術はないのよ。」
「フン。私を捕らえたことで、全てが終わると思わないことだな。」
ジャンヌの言葉に対し、強気な態度を崩さないセヴィル。
「イースの戦力はこれだけではない。次の新手が貴様らを滅ぼすべくやってくる・・」
「それは心配ないよ。みんなを守るために、私たちは戦っていく・・」
セヴィルの言葉に対し、決意を告げる明日香。
「それに今回の攻撃が、我々だけだと思っているのか?」
「それはどういうこと・・・!?」
セヴィルの言葉に明日香たちが疑問を覚えたときだった。突如、クラナガンにて爆発が巻き起こった。
「何っ!?」
声を荒げるライム。爆発は街で次々と発生していた。
「あなた、何を仕掛けたの!?」
フェイトがたまらずセヴィルに問い詰める。
「暗躍部隊がクラナガンに侵入していたのだ。魔力を極力抑えての行動だから、時空管理局のレーダーに察知されることがなかった。」
セヴィルが説明を告げると、高らかに哄笑を上げる。
「管理局の主力である貴様らは我々に注意を向けてしまった。今やクラナガンの守りは手薄だ。」
勝ち誇ったセヴィル。だが明日香と玉緒は焦りを見せていなかった。
「クラナガンの守りが手薄・・それは大きな間違いだよ。」
「何・・・!?」
玉緒の言葉にセヴィルが眉をひそめる。
クラナガン上空で立て続けに起こる爆発。だがそれはイースの攻撃によるものではなかった。
イースに侵入していた暗躍部隊だが、彼らが予期していなかった迎撃に返り討ちにされていた。
「私たちの仲間はまだ、クラナガンにいるよ・・」
微笑みかける明日香。暗躍部隊と交戦していたのは、アームドデバイス「ストリーム・インフィニティー」を手にしたアレンだった。
次回予告
えりなの参戦。
アレンの登場。
イースとデルタの激闘は熾烈を極めていく。
アレンが導く新たなる部隊。
かつてロアとして戦った戦士たち。
その力、未来を守る鍵となるか・・・?