魔法戦記エメラルえりなResonance

第8話「騎士と魔導師」

 

 

 変化を果たしたトリニティクロスと霞美の騎士服。赤から黄色への変化は、彼女に新たなる加速を与えていた。

「何が起こったのか知らないけど、そんなもので私に勝てるのかしらね!」

 いきり立ったソニカが霞美に迫る。だがソニカが拳を繰り出した瞬間、霞美の姿が突然消えた。

「何っ!?

 驚愕を覚えるソニカが周囲を見回すが、霞美の姿が見当たらない。

 しかし実際に消えたわけではない。霞美は眼にも留まらぬ速さで、ソニカの周囲を周回していた。

「どこに隠れているか知らないけど、まとめて吹き飛ばしてしまえばいいだけのこと・・・!」

 ソニカは言い放つと、周囲に魔力の弾を出現させていく。どんなに姿をくらましていても、誘導弾ならばその行方を追える。

 解き放たれる光の弾。だが霞美はその弾を次々とかいくぐり、ソニカの懐に飛び込んできた。

「なっ!?

「サンダースラッシュ!」

 眼を見開くソニカに、霞美が速い一閃を放つ。その攻撃を受けてソニカが突き飛ばされ、激しく横転する。

「す、すごいです!あの人に攻撃を加えたのです!」

 霞美の優勢にナディアが声を上げる。窮地に追い込まれたソニカが苛立ちを覚える。

(まさか私が、あんな子に速さで負けるなんて・・あんなのが出てくるなんて想定外だわ・・・)

「だったら華々しく叩き潰してやるわよ・・・!」

 霞美の力に毒づいたソニカが、彼女だけでなく、ジュンたちをもまとめて倒そうと目論む。ソニカの両手に魔力の光が集束されていく。

(トリニティクロス、みんなを守ることのできる力はあるの・・・?)

If you hope, I will also work effectively. (あなたが望むなら、私も力を発揮しましょう。)

 霞美の心の声にトリニティクロスが答える。その言葉を受けて、霞美が意識を集中する。

(みんなを守る力を、今、私に・・・!)

Water mode.”

 そのとき、霞美の騎士服とトリニティクロスに変化が起こった。黄色から青へと変色し、トリニティクロスの刀身の形状も変わる。

「ウォーターフィールド!」

 霞美はジュンたちの前に立ち、水の障壁を作り出した。その障壁が、ソニカの光の弾を受け止め、かき消した。

「まさか私の攻撃を防ぐなんて・・これは出直したほうがいいかもしれないわね・・」

 危機感を覚えたソニカが撤退を決め込む。

「今度会うときはこうはいかないからね。覚悟しておくことね。ウフフフフ・・・」

 哄笑を上げて、ソニカは姿を消した。危機を脱したと感じて、霞美は安堵を覚える。

「やった・・何とかなったみたい・・・」

「悪いけど、安心するのはまだ早いわよ。」

 そこへティアナが呼びかけ、霞美にクロスミラージュの銃口を向ける。この事態に霞美だけでなく、スバルとナディアも困惑を覚える。

「ち、ちょっと待って、ティア・・この人はあたしたちを助けてくれたんだよ・・」

「確かにね。でも彼女は管理局の人間じゃない。にもかかわらず、オールラウンドデバイスを持っていて、あれだけの力を発揮してる。絶対に危険とは言い切れないけど、野放しにするわけにもいかない・・」

 スバルが呼びかけるが、ティアナはクロスミラージュを下ろさない。

「詳しく事情を聞かせてもらうわ。もしかしたら、イースの関係者かもしれないし・・」

「ちょっと待って!私はイースに追われていた友達を助けただけだって!」

 ティアナの呼びかけに霞美が抗議の声を上げる。

「断定しているわけじゃないの。話を聞きたいだけよ。」

 ティアナに問い詰められて、霞美は言葉を詰まらせる。ララやフューリーのためを思うなら、従うべきか、逆らうべきか。彼女は迷いを抱いていた。

「もしもあなたや、あなたの周りにいる人がいるなら、あたしたちがあなたたちを守ります!ですから・・!」

 ナディアが続けて霞美に呼びかけたときだった。

「あなたたち、そこで何をしているの!?

 突然かかった声にジュンたちが振り返る。その先には銃を構えたカナの姿があった。

(どういうことなの!?彼女ならともかく、あの人は魔力が感じられず、結界の中に入ってこれるわけが・・・!)

 ティアナは胸中で声を荒げていた。強い魔力を持たないカナが結界の中に入れるはずがない。

(コロナ、どういうことなの!?なぜ無関係の人が・・!?

“分かりません!なぜ結界に入ってきてしまったのか・・・!?”

 ティアナの呼びかけに、コロナが慌てふためく。カナはジュンたちに銃を向けて、忠告を送る。

「武器を捨てて大人しくして!詳しく話を聞かせてもらうわよ!」

「冗談じゃない!そんなことに付き合う義理はないね!」

 マコトがカナに対して敵意を見せる。だが飛び出そうとした彼女をティアナが手で制する。

「ダメよ、マコト。攻撃したらいけないわ。」

 ティアナに制されてマコトが苛立ちを浮かべる。

「あっ!あの人がいない!」

 そこへスバルが声を荒げる。ジュンたちの注意がカナに向けられている間に、霞美は姿を消していた。

 その直後、カナの足元に円形の魔法陣が展開した。転送された彼女は、ジュンたちの前から姿を消した。

「消えた・・・!?

「まさか・・・コロナ、アンタの仕業ね!?

 声を荒げるスバルとティアナ。

“す、すみません・・ですが、こうでもしないとみなさんが・・・”

「ハァ・・しょうがないわね・・・後処理をして、コテージに戻りましょう・・」

 コロナからの通信を聞いて、ティアナがため息混じりに呼びかける。そのとき、彼女たちのいる上空に、エリオたちを乗せたフリードリヒがやってきた。

「みんなも丁度やってきたみたいね・・・」

 苦笑を浮かべるティアナ。霞美とカナとの遭遇によって、彼女たちの問題は増加の一途を辿ることとなった。

 

 ジュンたちとカナのいざこざの間に、霞美は結界の外まで逃げていた。

「ふぅ・・とっさに逃げてきちゃったけど、大丈夫かな・・・?」

 安堵と不安を同時に感じて、霞美は困惑を浮かべる。

「ララとフューリーが心配しているからね。とりあえず急いで帰らないと・・」

The life reaction that approaches more than southwest is perceived. It is a civilian. (南西より接近する生命反応を感知。民間人です。)

「えっ・・・!?

 霞美が帰ろうとしたとき、トリニティクロスが呼びかけてきた。彼女は慌てて、近くの物陰に隠れる。

 しばらくしてトリニティクロスが感知した人物がやってきた。その人物に霞美は見覚えがあった。

(ジョンさん・・・!)

 霞美の緊張が一気に増す。ここしばらく教会にいなかったジョンがやってきていた。

 だがやってきたのはジョンだけではなかった。彼と一緒にいたのはララだった。

(ララ!?どうしてララがジョンさんと!?

「う、うわっ!」

 予想だにしていなかったことに驚くあまり、霞美は思わず倒れてしまう。騎士服姿の彼女が、ジョンに見られてしまった。

「あれ?君、霞美さん・・?」

「あ、ジョンさん!・・えっと、その、あの・・・!」

 ジョンが声をかけると、霞美が慌てふためく。うまく説明できないでいる彼女に、ジョンが微笑みかけてきた。

「話はここにいる小さな女の子から聞いているよ。」

「小さな女の子・・・?」

 ジョンが口にした言葉に、霞美が疑問符を浮かべる。するとララの上着の中からフューリーが顔を見せてきた。

「す、すみません・・帰り道でばったり会っちゃって・・・」

「フューリー・・・すみません、ジョンさん・・連絡しようと思ったのですが・・」

 フューリーの言葉を聞くと、霞美がジョンに頭を下げる。

「いや、別の教会に呼ばれてしまってね。連絡先を伝えなかった僕が悪いから・・」

 ジョンが弁解を入れると、霞美が安堵の笑みを浮かべる。

「詳しい話をしたいので・・それと、このことは他の人には内緒にしてもらえませんでしょうか・・・?」

「心配しないで。僕は人の秘密を無闇に話すようなことはしないよ。でも霞美さん、あまり危ないことはしないこと。いいね?」

 和解を果たした霞美とジョンが微笑みかける。

「では教会に行こうか。奥の部屋なら話が外に伝わることはないから・・」

「奥の部屋って・・懺悔室ですか・・・?」

「アハハハ・・大丈夫だよ。霞美ちゃんたちは悪いことしてないからね。」

 不安を浮かべる霞美に、ジョンが笑みをこぼす。彼らはひとまず教会に行くことになった。

 

 ひとまずコテージに戻ってきたジュンたち。カナを結界の中に入れてしまったことで、コロナは落ち込んでいた。

「すみません・・私がしっかりしていれば・・・」

「今さら責めたって仕方がないわ。問題なのは、そのミスを繰り返さないこと。」

 謝るコロナにティアナが諭す。

「問題なのはイースですね・・」

「うん・・あたしたちも手も足も出なかった・・あの人がやってこなかったら、負けていたかもしれない・・」

 エリオの言葉にスバルが頷く。彼らはソニカの力に脅威を感じていた。

「その騎士は誰なんですか?みなさんを助けてくれたってことは、敵ではないのですよね・・?」

「それはまだ分かんねぇよ。味方のフリをしてかき乱してくる魂胆なのかもしれねぇ・・」

 キャロが問いかけると、ロッキーが不満混じりに言いかける。

「それを確かめるためにも、彼女に会う必要があるわね・・今日はみんな休むこと。コロナはレーダーから眼を離さないで。」

「分かりました・・絶対に見逃しません。」

 ティアナの指示にコロナが真剣な面持ちで答える。気を引き締めた彼女が、レーダーが指し示す情報を細大漏らさずに捉えていく。

「ちょっと発破をかけすぎたわね・・でもこれでお互い、気が引き締まるというものね・・」

 その後ろ姿を見て、ティアナは苦笑を浮かべていた。

 

 その頃、コロナによって転送されたカナは、街外れの通りの木に宙ぶらりになっていた。

「いったい、何がどうなってるのよ・・・」

 人知を超えた出来事に遭遇して、カナはうめいていた。だが彼女は謎と事件の追及を諦めてはいなかった。

「やっと事件の謎が見えてきたところよ・・この程度でへこたれるわけにいかないわよ・・・!」

 

 教会へと向かった霞美たち。そこで彼女はジョンに、これまでのいきさつを話した。

 ララ、フューリー、トリニティクロス、イース。謎が謎を呼ぶ内容を話すことに、霞美は不安を募らせていた。

「魔法か・・ファンタジーにあふれた話だけど、現実として捉えるのは難しいね・・」

 ジョンが深刻な面持ちを浮かべると、霞美がさらに困惑する。

「でも霞美さんが経験してきたことなら、信じないわけにいかないね。」

「ありがとうございます、ジョンさん・・ジョンさんがそばにいてくれると、一気に勇気が膨らんできます・・」

 ジョンの優しさに霞美が笑顔を見せる。

「それで、ララさんの記憶の手がかりは見つかったのかい?」

「それがまだ・・ただ、イースがフューリーを狙っていることぐらいしか・・」

「そうか・・今現在、普通に生活できているから大きな問題はないかな・・・」

 深刻な面持ちで考え込む霞美とジョン。そこへララが2人に向けて手を伸ばしてきた。

「おなか・・すいた・・・霞美・・・」

「ララ・・・分かった。帰ったらすぐにご飯の支度をするからね・・」

 霞美が優しく言いかけると、ララは小さく頷いた。

「ララはとっても優しいんです。いろいろなことを覚えて、私やフューリーの手伝いをするようにもなりました・・」

「記憶がないからこそ、いろんなことを学習しようという気持ちが働くんだと思う。まるで赤ちゃんのように・・」

 霞美の言葉を受けて、ジョンが言いかける。

 全ての記憶を失っていたララ。その真っ白な心に、霞美やフューリーとの生活の中で、多くのことを勉強し、思い出や新しい記憶を培っている。それは彼女にとってかけがえのないものとなると、霞美は信じていた。

「今は信じて、ララさんに記憶が戻ることを祈ること。でもララさんのためにも、霞美さん、危ないことはしないこと。」

 ジョンに再び注意をされて、霞美は苦笑いを見せて頷いた。

 

 イースの行方を追ってクラナガンとその周辺地域のパトロールを行っていたデルタの面々。しかし明日香たちの捜索でも、デルタや時空管理局のレーダー網でも、イースの行方を探知することはできなかった。

「イース、どこに潜んでいるのでしょうか・・・?」

 フェイトと行動をともにしていた明日香が呟きかける。

「惑星イースでは大きな動きは探知されていない。クラナガンの周辺で見つけられないのはおかしい・・異次元空間に潜んでいる可能性もある・・」

「異次元空間・・時空管理局の局員や研究員でも、行き来が極めて困難とされている・・あの虚数空間は特に、入ったら2度と出られないですから・・」

 フェイトと言葉を交わす明日香。その言葉を耳にして、フェイトが表情を曇らせる。

 フェイトは母、プレシアを失っている。フェイトの気持ちを受け止めず、アリシアを連れて虚数空間へと落ちていった。それ以後、プレシアを発見したという報告は出なかった。

「す、すみません!・・フェイトさんの気持ちも考えないで・・・」

 明日香が慌ててフェイトに弁解する。だがフェイトは明日香に微笑みかけてきた。

「気にしないで。明日香も家族を失っているのだから・・・」

「すみません、フェイトさん・・・」

 励ましてくるフェイトに、明日香が物悲しい笑みを浮かべる。

 明日香は両親を亡くし、親代わりになっていた兄もカオスコアの擬態だった。肉親を失った悲しみは、彼女も理解していた。

「今の私には、新しい家族と友達がいる・・明日香、あなたもその1人だよ・・・」

「ありがとうございます、フェイトさん・・フェイトさんは、私のお姉さんですよ・・・」

 互いに心の絆を深めていくフェイトと明日香。その絆は親友を超えて、姉妹といっても過言ではないほどになっていた。

「そんな余裕を見せていていいのか?」

 そこへシグナムが声をかけてきた。その隣にはヴィータ、リインフォース、アギト、バサラもいた。

「こういうときだからこそ、気持ちを落ち着けたいものですよ。さらにこじれてしまったら大変でしょう?」

「そうだよな・・なのはとえりなみたいになったらイヤだもんな・・」

 フェイトの言葉にヴィータが頷く。犬猿の仲になりたくないのは、誰の願いでもある。

「みなさん、捜査の連続でお疲れですよね?少し休んでください。いつまたイースの襲撃があるか分かりませんから・・」

 バサラの呼びかけに明日香たちが頷く。しかし後手に回ってばかりの状況に、彼女たちは楽観視できなかった。

「イース・・いったいどこに・・・」

 深まっていく謎に、明日香は不安を募らせていた。

“こちらに接近するエネルギーを発見!先日襲撃してきたイースです!”

 そこへクラウンからの通信が入り、明日香たちに緊張が走った。

 

 再びクラナガンへの攻撃を行おうとしていたセヴィル。彼は前回での戦いでの敗北に、苛立ちを隠せないでいた。

「時空管理局・・デルタ・・・このままでは済まさんぞ・・・必ずこの手で引導を渡してやるぞ・・・!」

「少しは落ち着いたらどうだ、セヴィル?」

 そこへディオンが声をかけてきた。続いてリオも姿を現した。

「また貴様らか。邪魔をするなと何度いわせるつもりだ?」

「何度でもいいますよ。セヴィルさんが独断専行を続けようとする限りは・・」

 苛立ちを見せるセヴィルだが、リオは冷静さを崩さずに言いかける。

「全く貴様は・・次に邪魔をするなら、たとえ貴様らでも容赦なく始末するぞ。それでもいいなら好きにしろ・・」

 セヴィルは鋭く言いかけると、クラナガンに向けて飛翔していった。

「仕方がない人です・・もしかしたら、シンギュラーシステムを使いかねません・・」

「その可能性は否定できんな。だがこれはヤツがまいた種。それを自分で始末できないなら、ヤツは未来のイースを生きていくことなど不可能だ・・」

 不安を口にするリオと、セヴィルの行動に呆れ果てるディオン。

「ヤツの相手が定まり次第、我々も攻撃を開始する。」

「分かりました。私もあの騎士との決着を着けないといけません・・」

 ディオンの呼びかけにリオが答える。2人もクラナガンに向けて飛翔していった。

 

 接近してくるセヴィル、リオ、ディオンの姿を、デルタ本部のモニターが映し出していた。

「アイツら、性懲りもなくやってきたかよ・・・」

 ヴィータが苛立ちを込めて言いかける。

「相手も本腰を入れて攻めてくるでしょうね。私たちも気を引き締めてやっていこう。」

 仁美の呼びかけに明日香たちが頷く。

「くれぐれもシンギュラーシステムには気をつけて。特殊な効果のものが多いから、一気にやられる危険もあるからね。」

「大丈夫。僕の速さで、イースをかき乱してやるさ。」

 仁美からの注意に対し、ライムが意気込みを見せる。

「今回は明日香やなのはちゃんたちにも出撃してもらう。相手がそれなりの強さを持っていて、なおかつ力を温存しているなら、こっちも出し惜しみをしている場合じゃない。」

「任せてください、ユウキさん。これ以上、みんなを傷つけさせません。」

 ユウキの言葉になのはが答える。緊張感を適度に保った彼らが、イースの攻撃を迎え撃とうとしていた。

「全員出動!」

 ユウキの呼びかけを受けて、明日香たちが出撃する。セヴィルが先行して、ミッドチルダに侵入してきた。

「やはり現れたか、管理局。この前の借りを返してやるぞ。」

「これ以上、お前たちの勝手にはさせないぞ!」

 不敵な笑みを見せるセヴィルに、ライムがインテリジェントデバイス「クリスレイサーソリッド」を構えて飛び出す。

「真っ向勝負か・・面白い!」

 セヴィルが大剣を手にして、ライムが振りかざしてきたクリスレイサーの一閃を受け止める。

「素早いようだが、攻撃に重みが足りないようだな・・・!」

 眼を見開いたセヴィルが大剣を振り上げる。上空に跳ね上げられるライムだが、すぐに体勢を整える。

「ライム、大丈夫?」

 ジャンヌが声をかけると、ライムが笑みを見せてきた。

「僕は大丈夫だよ。だがアイツ、力も武器も重みがある・・油断してるとお陀仏だ・・・」

 真剣な面持ちを浮かべるライム。油断できない相手であることは、彼らは重々承知だった。

「死にたいヤツからかかって来い。私の剣の錆にしてくれる。」

「そう焦るな。お前の相手は私だ。」

 鋭く言い放つセヴィルに声をかけてきたのはシグナムだった。

「貴様か・・この前のようにはいかんぞ!」

「生憎これは試合ではない。悪いが、すぐに終わらせてもらうぞ。」

 言い放つセヴィルに、シグナムが冷静沈着に言いかける。そこへアギトが駆けつけ、セヴィルに不敵な笑みを見せる。

「あたしが来たからには勝利確定だ!すぐに大人しくするなら、手荒なマネはしないぞ!」

「威張るな。早く終わらせるぞ、アギト。」

 高らかに言い放つアギトに、シグナムが口を挟む。2人が互いに向けて意識を傾ける。

「ユニゾンイン!」

 アギトがシグナムの体に入り込んでいく。シグナムの騎士服と髪の色に変化が生じる。

「ユニゾン・・融合か・・だがどんな小細工を仕掛けようと、私を止めることはできん!」

 いきり立ったセヴィルが大剣を振り上げて飛びかかる。だが振り下ろされた重みのある一閃が、シグナムの掲げたレヴァンティンに止められる。

「何っ!?

 攻撃を受け止められたことに驚愕するセヴィル。レヴァンティンの刀身から炎が巻き上がる。

「ぐっ!」

 その炎に焼かれてうめき、セヴィルがたまらず後退する。

「これが私とアギト、そしてレヴァンティンの炎だ。お前の力では我らを止めることはできない。」

 シグナムは言いかけると、レヴァンティンを構える。この劣勢にセヴィルが苛立ちをあらわにする。

「貴様・・この私にそこまで言い切るか!」

「いい加減にしなさい、セヴィルさん!」

 敵意をむき出しにしたセヴィルに怒鳴りかけたのは、遅れて駆けつけたリオだった。

「リオ、貴様・・私に刃向かう気か!?

「死ぬつもりならお前など捨て置くがな。」

 反発するセヴィルに、ディオンが続けて言いかける。

「敵は本物だ。しっかりと相手の力量を見定めなければ、勝つことなど到底不可能だ。敵を倒すならばどうすべきか。お前のほうが我らよりも熟知しているはずだ。」

 ディオンに諭されて、セヴィルは冷静さを取り戻す。

「いいだろう・・ヤツらが本気になっているならば、私も出し惜しみはしない・・」

「シンギュラーシステムを使うつもりですか?でしたら私も・・」

「いや、貴様は私に合わせる必要はない。貴様自身の判断で、使う頃合いを見計らえ。」

 セヴィルがリオをいさめると、シグナムに視線を戻す。

「私は上の2人をやる。お前たちはあの騎士を押さえろ。」

「分かりました。相手はユニゾンを果たしている騎士。油断はしません。」

 セヴィルの呼びかけにリオが答え、下げていた剣を引き抜く。

「あなた方の相手は私がします!シグナム、レヴァンティン、私も全力で戦わせていただきます!」

 リオがシグナムに剣の切っ先を向ける。セヴィルも上空にいるライムとジャンヌに眼を向ける。

「覚悟するのだな、時空管理局・・私の本当の力はこの程度ではないぞ・・・!」

 セヴィルは言い放つと、大剣を構えて意識を集中する。

「魔力がどんどん上がっていく・・もしかして、シンギュラーシステムが・・・!」

「油断しないで・・何が出てくるのか分からないから・・・」

 緊張を募らせるライムとジャンヌ。明日香たちも緊張の色を隠せなかった。

「シンギュラーシステム・・・バーストリミット!」

 高らかに叫んだセヴィルの体の筋肉が、突如膨張を起こした。巨体となった彼の姿に、ライムたちが眼を見開く。

「これが私のシンギュラーシステム、バーストリミット。筋力を増強させ、戦闘力を増加させる効果を持つ。」

 セヴィルは言いかけると、ライムを鋭く見据える。

「まずは貴様からだ。いつまで羽虫のように動き回れるかな?」

「確かにすごい筋肉だけど、それじゃ逆に素早く動けないんじゃないの?」

「それはどうかな・・・?」

 ライムの言葉に言い返すと、セヴィルが彼女に向かっていく。彼はその巨体からは想像できない速さを見せてきた。

 とっさに上昇してセヴィルの突進をかわすライム。突然のことに明日香とジャンヌも身構えていた。

「速さに自信のないのはすぐに離れろ!見かけよりも全然速い!」

 ライムが周囲に向けて呼びかける。彼女はすぐにセヴィルに視線を向ける。

「この筋肉に騙されるな。言ったはずだ。バーストリミットが戦闘力を増加させると。パワーだけでなく、スピードも大きく増す。」

「こんなすごい力を発揮してくる・・イースは、こんな連中揃いなのか・・・!」

 不敵な笑みを浮かべるセヴィルに、ライムが毒づく。

「では続きと行こうか。どこまで持つかな?」

 セヴィルが再びライムに向かっていく。素早い動きがもたらす突進力と大剣の重みが、ライムとクリスレイサーにのしかかる。

「うわっ!」

 突き飛ばされたライムがうめく。彼女はその下の森の中に落下した。

「さすがの貴様も、私のこの速さには敵わなかったようだな。」

 不敵な笑みを浮かべたセヴィルが、ライムに追撃を加えようとする。

 そのとき、セヴィルが何かに体を締め付けられる。彼は見えない枷に動きを封じられていた。

「こ、これは・・!?

「グラビティバインド・・眼では見えないバインドだよ・・」

 声を荒げるセヴィルに声をかけたのはジャンヌだった。重力増加の効果も備わった見えない枷が、セヴィルの動きを封じた。

「フン。この程度の拘束で、私を止められると思っているのか?」

 だがすぐに不敵な笑みを見せると、セヴィルが強引にグラビティバインドを引きちぎった。引きちぎられる瞬間だけ、見えない枷に輝きが視認された。

「この私に小細工は通用しないぞ。」

 哄笑を上げるセヴィルに、ジャンヌは緊迫を募らせていた。

 

 アギトとのユニゾンを果たしたシグナムと対峙するリオ。リオはシグナムの力を感じて、緊張をも感じていた。

(経験と実力に長けた騎士・・経験に関しては、私では足元にも及ばないでしょう・・ですが・・・!)

 その緊張を振り払い、リオがシグナムを見据える。

(実力で完全に劣っているとは思いません!)

「炎の化身との融合を果たしたあなたの力、この手で確かめさせていただきます!」

 高らかに言い放つリオと、あくまで冷静な態度を見せるシグナム。

 そしてザフィーラもディオンの前に立ちはだかった。

「お前とは因縁が生じているようだ・・守護獣故の宿命か・・」

「宿命か・・己に課せられたことは、宿命や運命と見がちだが・・この戦いは、我々自身が選んだことだ。」

 互いに呟きかけるディオンとザフィーラ。2体の守護獣が今、世界の命運を賭けて牙を交えようとしていた。

 

 

次回予告

 

シンギュラーシステム。

イースが発揮するその異質の能力に、デルタの面々は苦戦を強いられる。

この窮地から彼らを救う者は誰か?

そして、その中で交わされるジュンと霞美の邂逅・・・

 

次回・「シンギュラーシステム」

 

打ち砕け、その驚異の力・・・

 

 

作品集

 

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