魔法戦記エメラルえりなResonance

第6話「蒼い遊戯」

 

 

 シーマから辛くも逃げることができた霞美。結界が解除されたことで、彼女は元の世界に戻ってきていた。

 多くの謎と困惑を抱えたまま、霞美は自宅へと戻った。彼女の帰りをララとフューリーが迎えた。

「ゴメンね、ララ、フューリー・・ちょっと遅くなっちゃった・・エヘへ・・・」

 霞美が照れ笑いを浮かべて、2人に謝る。だがフューリーは沈痛の面持ちを消さない。

「さっき、強い魔力と結界が張られたのを感じました・・・巻き込まれませんでしたか・・・?」

「・・・うん・・思いっきり巻き込まれちゃった・・・周りに誰もいなくなったと思ったら、人質にされて・・魔法を使おうと思ったら、武器を持った人たちがどんどんやってきて・・・」

 フューリーに問いかけられて、霞美は先ほど起きたことを打ち明けた。

「もしかしてその人たち、時空管理局じゃなかったんですか・・・?」

「時空管理局?・・何なの、それは・・・?」

「えっと・・・たくさんの世界を管理する、この世界でいう警察みたいなところでしょうか・・・?」

 霞美の問いかけにフューリーが説明する。

「時空管理局は、イースの逮捕を目的にこの世界に来たみたいです。もしかしたら、私も捕まえようとしているのかも・・・」

「そんなことないって!フューリー、何も悪いことしてないから、捕まるはずないよ!」

「いえ・・私、イースに働かされてきましたから・・この世界の危機を招いた人の1人なんです・・」

「それはイースに無理矢理やらされてただけでしょう!フューリーには何の非もないって!」

 霞美に強く言いかけられて、フューリーが戸惑いを覚える。その励ましが、彼女の心に安らぎを与えていた。

「私、本当に大丈夫なのでしょうか・・・?」

「大丈夫だよ。もしその管理局がフューリーを捕まえようとしてきたら、私が追い返すから・・」

「気持ちは嬉しいのですが・・管理局の局員は、強い魔法と技術を使う凄腕ばかりです・・いくら霞美さんでも・・・」

「大丈夫。私は1人じゃない。フューリーがめぐり合わせてくれた、トリニティクロスがいるんだから・・・」

 フューリーの不安に答えながら、霞美がトリニティクロスを手にする。この出会いが、彼女に、大切なものを守る力と勇気を与えたのである。

「だから心配しなくていいよ、フューリー。そして、ララも・・・」

 霞美は言いかけると、視線をフューリーからララに移す。

「怖がらなくていいよ・・私が守るからね、ララ・・・」

「霞美・・・」

 霞美からの優しい言葉に、ララが気持ちを落ち着ける。その言葉のひとつひとつが、彼女にとってかけがえのないものになっていた。

「それじゃ、これからご飯を作るね。今日は腕によりをかけて作るからね♪」

「霞美さんの料理、とても美味しいですから好きです♪」

 キッチンに向かう霞美に、フューリーが笑顔を見せる。ララも微笑みかけて、2人を見つめていた。

 

 新暦79年4月21日

 

 紅い髪の少女との戦いで眼を負傷したえりな。聖王医療院での療養を続けていた彼女は、徐々に視力を取り戻しつつあった。

 今、えりなは視力検査を行っていた。看護師は彼女の回復が順調であると認識していた。

「7割がた回復していますね。日常生活を過ごすには支障はありません。」

「ですが、激しい運動をするには危険、ということですね・・・」

 看護師の報告を受けて、えりなが言い返す。その言葉に看護師が頷く。

「もう少し休養が必要ですね・・またしばらくお世話になります・・・」

「町井空尉や高町空佐から、あなたはよくムチャをすると聞いていますよ。この際ですから、しっかりと体を休めておいてくださいね。」

 頭を下げるえりなに、看護師が注意を促す。こうして検査を終えて、えりなは病室に戻った。

「病み上がりが1番危ないんだからな。無闇に飛び出していくなよ。」

 戻ってくるなり、いきなり健一から注意をされるえりな。

「デルタには明日香やなのはさんたちが、地球にはスバルさんたちがいるんだから。まだ私が出て行くこともないよ。」

「おいおい、ずい分殊勝な発言に聞こえるんだけどな・・」

 信頼を込めて告げるえりなに、健一がからかってくる。一瞬ふくれっ面を見せるえりなだが、すぐに笑顔を取り戻した。

「まだ体を動かすのはムリだけど、イメージトレーニングは十分にできるよ。」

「やれやれ。お前には敵わねぇよ・・さて、オレもみんなに後れを取らないように自主練でもするかな・・」

 屈託のない会話を行っていくえりなと健一。2人は自分たちの戦いに備えて、休息を取るのだった。

 

 地球での調査を続けていたスバルたち。だがイースは目立った行動を起こしておらず、スバルたちも決定的な情報を得るに至っていなかった。

「これだけ捜査しても、あれから手がかりが出てこない・・・」

「イースもあれから動きがありませんね。デルタのほうもイースの動きが見られないと・・」

 深刻な面持ちを浮かべるティアナに、エリオが言いかける。イースの行動が見られないことに、彼らは嵐の前の静けさのような不安を感じていた。

「あまり気を張り詰めすぎるのはよくないわ。熱しすぎず冷めすぎず、適度の緊張を保つことが重要よ。」

 ティアナがエリオに向けて言いかける。そのとき、彼女が突然後ろから胸をわしづかみにされて、驚きを覚える。

「キャッ!」

「そうだよ、ティア。気持ちを楽にするのも重要だって♪」

 悲鳴を上げるティアナに明るく声をかけてきたのはスバルだった。彼女に胸をもまれるティアナを目の当たりにして、エリオと、そばにいたクオンが赤面する。

「コラ、スバル!エリオやクオンの前で何をするのよ!?

「たまにはこういう気楽なのもいいと思って・・エヘへ・・」

 怒るティアナだが、スバルは笑顔を絶やさない。するとティアナがスバルに4の字固めを仕掛ける。

「い、痛い、痛い!ギブ、ギブ!」

「その腑抜けた性根を、今ここで叩きなおしてやるわよ!」

 痛がるスバルだが、ティアナは技を外そうとしない。

「スバルさんとティアナさん、普段もこんな感じなんですか・・・?」

「仲良くなってから、ずっとこんな感じだったって聞いてますよ・・・」

 クオンが唖然となりながら問いかけると、エリオが微笑んで答える。そこへジュンとマコトがやってきて、スバルとティアナの姿を見て唖然となる。

「お前たち、何をやってるんだ・・・?」

「エヘへ、ちょっとしたスキンシップを・・そうだ。これからナディアちゃんとネオンちゃんと一緒にお風呂入ろうと思ってね、ジュンちゃんとマコトちゃんも入ろうよ♪」

 呆れるマコトに、スバルが入浴に誘ってくる。

「僕はそんなに長い時間入ることはないよ。僕とレイはいろんな世界を回ってきているんだ。いつもお風呂に入れたわけじゃない。海か湖で水浴びすれば十分だよ。」

「でもみんなと一緒に入れば、イヤなこともあかと一緒に洗い流せるって♪いこ、いこ♪」

 マコトがこれまでのいきさつを告げるが、スバルは構わずに彼女とジュンを連れて行こうとする。

「あっ!ちょっと!」

「コラ!放せ、おい!」

 2人が声を荒げるのも構わずに、スバルは風呂場に行ってしまった。

「もう、しょうがないんだから・・しょうがないからあたしも行ってくるわね。エリオ、クオン、ここはお願いね。」

「分かりました。いってらっしゃい、ティアナさん。」

 呆れながら声をかけるティアナに、エリオが答える。結局コテージにいる女性全員が入浴することとなった。

 

 コテージの風呂場でありながら、銭湯の大浴場ほどの広さがあった。スバル、ナディア、ネオンはお風呂に浸かって極楽気分になっていた。

「はぁ・・天国に昇りそうだよ〜・・・」

「こんな気分を感じたのは、久しぶりです〜・・・」

「みんなと一緒に入るお風呂は楽しいですね〜・・・」

 スバル、ナディア、ネオンが呟きかける。その3人のだらけきった姿に、ティアナとマコトは呆れていた。

「ホントに呆れてものが言えないわね・・」

「僕も珍しくアンタに賛成するよ・・・」

 肩を落として呟きかける2人。その後、気持ちを落ち着けてから、ティアナはマコトに声をかけた。

「マコト、あたしたちは間違いをした。その間違いが、あなたたちを傷つけた人の逮捕を生み出し、遅らせてしまった・・・」

「今さら謝ってくれるな。そんなことをしても僕たちは昔に戻れないし、僕は自分のしたことが何もかも悪いことだとは思っていない。」

「分かってる・・あたしだって、家族を、お兄さんを失っているから・・・」

「えっ・・・?」

 ティアナが切り出した言葉に、マコトが眉をひそめる。

 ティアナには兄がいた。時空管理局に所属し、執務官を目指していたエリート空士、ティーダ・ランスターである。

 だがティーダはとある任務にて命を落としてしまう。彼の行動を蔑む局の人間もいた。

 そんな薄情な上官に対して、ティアナの代わりに怒ったのはライムだった。

 感情的な性格のライムは、身勝手な上官に反抗的になることが多々あった。そのため同年代の中で彼女が最も謹慎処分を受けていた。

「心から許せないことに立ち向かっていくのは勇敢だと思う。でもそれには覚悟と代償が生まれてくるものよ・・」

「僕もそれには賛成。それでもやらなくちゃいけないことだと思ったから、僕はアンタたちと戦った・・・」

 ティアナの言葉に頷きながら、マコトが心境を告げる。かつて一方は法を守る者として、もう一方はその法に疑念を持った者として対峙した。その両者が今、ひとつ屋根の下で会話をしていた。

「僕は今も管理局を信じ切れていない・・だけど、信じないことには、絆が生まれるはずもない・・・」

「ジュンと仲のよかったあなただもの。他の人とも仲良くなれるわよ・・」

「そうかな・・どうだといいんだけど、ホントに・・・」

 ティアナの言葉に励まされて、マコトが困惑を浮かべる。どう接していけばいいのか、マコトは答えを見出せていなかった。

「そこのおふたりさ〜ん・・」

「そんなかなしいかおをしてたらダメですよ〜・・・」

 そこへスバルたちが声をかけてきた。彼女たちの異様な様子に、ティアナとマコトが顔を引きつらせる。

「ち、ちょっとアンタたち・・・!」

「く、来るな・・そんな不気味な姿で近づくな・・・!」

「いいではないか、いいではないか〜・・・」

 声を荒げる2人だが、ネオンたちは接近をやめない。

「ちょ〜っと2人の胸の具合を確かめてちょうだいね〜♪」

 スバルがにやけ顔で迫ってくる。だが直後、ティアナの鉄拳を受けて、スバルは浴槽の中に沈んでしまった。

「今度やってきたら射殺するわよ!」

 眼を吊り上げたティアナに、ナディアもネオンも体を震わせるしかなかった。

 そんな慌しいやり取りを見つめて、ジュンは微笑みかけていた。久しぶりの管理局の仲間との楽しいひと時を過ごせて、彼女は嬉しかったのである。

「元気が戻ったみたいですね、ジュンさん。」

 そこへキャロに声をかけられ、ジュンが戸惑いを見せる。

「うん・・いつかまたみんなと一緒に仕事をしたいと思っていて・・今それが叶ったと思うと、自分がどういう気持ちになってるのか、分からなくなっちゃって・・・」

「私もみなさんと会うたびに、そう思ってしまいますよ・・今までどおりに過ごせばいいはずなのに、なかなかそうならなくて・・・」

 キャロに自分の心境を打ち明けていくジュン。語り合っていくうちに、彼女は安らぎを感じていった。

 そのとき、ジュンが突然後ろから胸をつかまれる。動揺を覚えた彼女が振り向くと、そのにはにやけ顔のスバルがいた。

「んん〜・・まだまだ発展途上だねぇ〜・・これは発育がよくなるかも〜・・」

 スバルがジュンの胸をもんでいたときだった。

 スバルの顔の横で火花が散った。恐怖を覚えた彼女がゆっくりと振り向くと、クロスミラージュを構えたティアナが鋭く睨んできていた。

「ゴ、ゴメン、ティア・・あたし、すぐに上がるから・・・」

 スバルは体を震わせながら、浴場から出て行った。

 

 ミッドチルダ、デルタ本部付近に設けられている宿舎。その大浴場で明日香たちは束の間の休息を取っていた。

「もう。やっぱりみんなとお風呂に入るのはイヤだったんだよ・・ヘンな眼で見るなって・・・」

 浴槽の中に身を潜めるライムが不満を口にする。

 ライムは巨乳だが、本人はそれを快く思っていない。からかわれたくないという気持ちから、常にさらしを巻いている。

「いいじゃねぇの、減るもんじゃねぇし。」

「シグナムも胸大きいし、ヴィッツもスタイルいいし・・あたしもそのくらいかっこよくなりたいなぁ・・」

 ヴィータが気さくな笑みを浮かべ、アクシオがため息をつく。その言動にシグナムとヴィッツが肩を落とす。

「胸は大きければいいというものではない。私も自慢にはしていない。」

「そんなに憧れるなら、変身魔法でも使ってなってみたらどうだ?」

 口々に不満を言いかけるシグナムとヴィッツ。

「そもそも、僕がこんな胸になったのは・・・」

 ライムが風呂から上がると、体を洗い終えたはやてを指差す。

「君が僕の胸を何度も何度ももみもみしたせいなんだからね!」

「やっぱり、それは私のせいになるん・・・?」

 苦笑いを浮かべるはやてに、ライムがずがずがと迫ってくる。

「今度は僕がはやての胸をもみもみしてやるんだからね〜・・・」

「な、何や、ライムちゃん・・顔、怖いよ・・・」

 にやけるライムに冷や汗を浮かべるはやて。そこへアクシオとジャンヌがやってきて、はやての腕を押さえてきた。

「何だか面白そうだね。参加させてもらうよ。」

「覚悟してちょうだいねぇ、はやてさ〜ん・・・」

「ご苦労、ジャンヌ、アクシオ。さーて、覚悟はいいかな、はーやーてー・・・」

 ライムが不気味な笑みを浮かべながら、はやての胸をわしづかみにする。胸を揉み解されて、はやてが動揺を隠せなくなる。

「やれやれ。いい年して大人気ねぇんだから・・」

「でも、こういうふれあいの時間も、楽しくていいよね。」

 呆れるヴィータと、ライムたちのやり取りを見て微笑むシャマル。そんな浴場になのは、フェイト、仁美がやってきた。

 3人の他にもう1人、少女がいた。

 剣術の一家、カワサキ家の娘で、強さを極めるために時空管理局に所属。現在はデルタにて活躍し、腕を磨いている。生真面目な性格だが、かわいいものを見ると眼の色を変えてしまい、時に見境を失くすこともある。

「挨拶が遅れて申し訳ありません。カタナ・カワサキ三等陸尉、ただ今帰還しました。」

 カタナがライムたちに向けて挨拶し、敬礼を送る。彼女は別部隊への遠征に出向し、今戻ってきたところだった。

「悪かったね、カタナ。クオンやスバルくんたちと入れ違いになってしまったね・・」

「そんなことはありません。今日までの遠征も任務の一環ですから。」

 仁美の言葉にカタナが答える。そしてカタナはシグナムに振り向く。

「お久しぶりです、シグナムさん・・・」

 カタナが続けて挨拶をしたときだった。彼女の視界にシグナムの大きな胸が入ってきた。

「お前も私の胸をジロジロ見るな。」

「す、すみません!あまりのすごさについ・・い、いえ、その・・・!」

 シグナムに言いかけられて弁解しようとするが、傷に塩を塗る言動を取ってしまい、カタナは困惑してしまう。

「カタナもいい体に成長するから・・ライムもその辺にしてあげて。」

 そこへフェイトが声をかけ、ライムたちがようやく手を止める。完全に弄ばれたはやてがその場に座り込む。

「ゴメン、ゴメン。ちょっとやりすぎちゃったね・・」

「エヘヘヘ。私への顛末がやっと来たわけやな。」

 謝るライムにはやてが照れ笑いを見せる。周囲が笑みをこぼす中、ライムが唐突に思いつめた面持ちを浮かべた。

「何だか、みんなすっかり変わっちゃったなぁ・・」

「どうしたの、ライムちゃん?いきなりそんなこと・・」

 呟きかけるライムに、なのはが疑問を投げかける。

「この10年以上の時間にいろいろなことがあった・・みんながそれぞれの道に進んで、経験を積んで考えも微妙に変わっていった・・僕はあの頃から全然変わってない・・ガムシャラに突っ走っていく子供のままだ・・・」

 ライムは昔の自分を思い返していた。

 ライムはフェイトとその母、プレシア・テスタロッサが引き起こしたPT事件の最中に起きた津波に母親が巻き込まれ、テスタロッサの一族であるフェイトを恨んでいた。だが錯綜と衝突を重ねることで和解し、その後は無二の親友の間柄となっている。

 自分の気持ちのままに突き進み、未来を切り開いていく。それは執務官となった今でも変わっていない。

「確かにこの長い年月だ。変わっていったものは多い。だが同時に、今でも変わらないものも少なくない。」

 そのライムの呟きに答えたのはシグナムだった。

「あのときもお前は、自分に正直だった・・お前の拳、相当効いたぞ・・」

「思い出させないでよ・・あれはイヤな過去なんだから・・・」

 不敵な笑みを見せるシグナムの言葉に、ライムが肩を落とす。

 それはティアナにまつわることだった。自分の力とその成長に疑問を感じていたティアナは、任務でのムチャや過度の自主練習を行い、それを危惧したなのはに打ちのめされてしまう。それに納得ができず反論と自分の気持ちを言い放ったティアナは、シグナムからの叱責を受けた。そのなのはとシグナムの態度に不満を覚えたライムは、シグナムとの対立を引き起こしてしまう。

 またこれらの件が沈静化しても、なのはとえりなの確執の原因となってしまった。それぞれの道を見出すきっかけになったものの、誰にとっても思い出したくない出来事だった。

「みんな、それぞれの道を歩んでいる・・私たちも、みんなも・・・」

 フェイトが微笑んで言いかけると、なのはたちも頷いた。高い力量だけでなく、揺るぎない信念も彼女たちの強さとなっていた。

「ゴメンね。連絡を受けてたら遅くなっちゃって・・」

 そこへ玉緒が遅れて浴場にやってきた。

「お疲れ様です、玉緒。アレン・ハントとの連絡でしたね?」

「うん。アレンくんも向こうで頑張ってるみたい・・」

 ヴィッツが訊ねると、玉緒が笑顔で頷く。アレンは今、トリニティの部隊指揮を行っており、デルタ本部を離れていた。

「シグマたちは元気でやっているようだし、肉体強化の影響も抑えられているし・・」

「みんなもイースとの戦いの戦力になる・・協力して、ミッドチルダを守っていこう・・・」

 明日香とジャンヌが言いかける。ミッドチルダ防衛のために、彼女たちは新たな誓いを打ち立てていた。

 そのとき、長く風呂に入っていたヴィータとアクシオが、のぼせて眼を回し始めた。

「えっ!?大丈夫、ヴィータちゃん、アクシオ!?

「な、なかなかやるな、アクシオ・・・」

「そ、そっちこそ・・ヴィータ・・・」

 声を荒げるなのはの前で、ヴィータとアクシオが声を掛け合う。2人は長く風呂に入っていられるか張り合っているうちに、のぼせてゆだってしまったのである。

「もう、2人とも・・ムチャしはったらあかんて・・」

 体を真っ赤にしたヴィータとアクシオに、はやてが呆れていた。

 

 多発する奇怪な現象の調査を志願し、カナは日本、鈴宮市に来ていた。だが彼女は依然としてその手がかりをつかめないでいた。

(この近辺で起きていることは分かっている。にもかかわらずこの町の人々が全く気付かないのはおかしい・・人為的に隠蔽されていると見るべきか・・・)

 町中の喫茶店で小休止しながら、カナは町で収集した情報を整理していた。

(最近起こった現象の地点を、徹底的に調べる必要があるわね・・何者かが介入してくるかもしれない・・・)

 決断をしたカナはコーヒーを飲み干すと、代金をテーブルに置いて喫茶店を後にした。

 彼女がやってきたのは、駅の近くにあるアリーナドームである。しかしこの日の使用予定はなく、整備員と警備員といった関係者が立ち入るだけだった。

(この近辺でも高いエネルギー変動が確認されているのに、誰一人気付いていない・・・)

 携帯式のエネルギー感知器の数値の変動を確認するカナ。

(これでは人々に避難を呼びかけることも・・・)

 そのエネルギーを危険視するも、周囲が誰も感知していないものに対しての避難を呼びかけることができず、カナは困り果てていた。彼女はせめてそのエネルギーの正体を確かめようと、ドーム周辺の調査に乗り出そうとした。

 そのとき、カナはそのドームの周辺を歩く少年少女を目撃する。

「あれは・・・?」

 カナはその2人に警戒の眼を向けた。これまで培ってきた刑事の勘が、彼女自身に呼びかけてきたのだ。

(あれは、何?・・鳥・・じゃない・・・龍・・・?)

 そのカナの眼に白い小型の竜が入ってくる。伝説か架空の話にしか存在しないはずの竜が、少女の肩に乗っていた。

「フリード、隠れてないとダメだって・・」

 少女が竜にかばんの中に隠れるように促す。その様子をカナは見逃していなかった。

(ストレートに聞こうとしても効果はないわね。子供でありながら冷静沈着だし・・)

 カナはドームから立ち去っていく少年少女を、カナは尾行することを決め込んだ。

(2人だけで行動しているとは限らない。他にまだ仲間がいるはず・・)

 警戒を強めながら、カナは尾行を続ける。だが少年少女は誰に会うことがないまま、街外れの裏路地に差し掛かった。

(この先は行き止まりのはず・・そこで待ち合わせているというの・・・?)

 確信を求めてその裏路地に向かうカナ。だがその路地の先を見たとき、彼女は眼を疑った。

 その先に少年少女の姿はなかった。2人はカナの視界から忽然と姿を消していた。

「えっ・・・!?

 飛び出して突き当りに向けて視線を巡らせる。それでも2人を見つけることができなかった。

「消えた!?・・いえ、そんなはずは・・・!?

 忽然と消えたことを受け入れられないでいるカナ。彼女は結局この日、2人も現象の手がかりも見つけることができなかった。

 

 カナが尾行しているのを、エリオとキャロは気付いていた。2人は人気のない裏路地に入り、覚醒したフリードリヒで空高く飛翔したのである。

「ふぅ・・何とか追いつかれずに済んだね・・」

「でもあの人、なんでしょうか?・・魔力を感じなかったので、普通の人間だと思うのですが・・・」

 眼下のカナを見下ろして、エリオとキャロが呟きかける。

「あれからイースの攻撃はないし、魔力の正体をつかめない・・平行線を辿るばかりだ・・」

「もう1度戻って、情報を整理してみたほうがいいかもしれない・・みんなに呼びかけるね・・」

 声を掛け合うエリオとキャロを乗せて、フリードリヒはコテージに向かって飛行するのだった。

 

 アクレイム内のソニカの作戦室。そこで彼女はモニター画面をじっと見つめていた。

 そこに映し出されていたのは、スバルたちの戦闘シーン。ジェイル・スカリエッティ事件、第2次魔女事件、ロア事件での彼らの戦いの中で、彼らの戦闘能力を細大漏らさず記憶していった。

「ずい分と熱心ですね、ソニカさん。」

 そこへ声がかかり、ソニカは映像を一時停止させる。彼女が振り返った先には、リオとディオンの姿があった。

「珍しいわね。あなたたちが私に声をかけてくるなんて。」

 ソニカが妖しい笑みを浮かべて、リオとディオンに声をかける。

「管理局局員たちの映像ですね。若いとはいえ、侮れませんから・・」

「お前も十分若いだろう、リオ・・・」

 リオの言葉に憮然となるディオン。

「それで用は何?メガール様からの呼び出し?」

「出撃命令です。地球にてフューリーの捕獲と、時空管理局局員の殲滅を遂行するように、とのことです。」

 ソニカの問いかけにリオが答える。

「まだ映像を全部記憶しているわけじゃないんだけど・・」

 ソニカはため息をつきながら、腰掛けていた椅子から立ち上がる。

「姉さんは?セヴィルはどうしたの?」

「コペンは作戦室にこもっている。セヴィルはまたしても先行して、ミッドチルダに向かった・・」

 ソニカが再び訊ねると、ディオンが淡々と答える。

「セヴィルも仕方のない人ね・・それじゃ、私は私の仕事をしてくるわ・・」

「気をつけろ。ヤツらは我々の認識をも凌駕する力を出してくる。赤子でも甘く見ると不覚を取るぞ。」

「私はセヴィルとは違うわ。油断はしない。私は時空管理局や地球人には絶対に負けない・・・」

 ディオンの告げた言葉を受けて、ソニカが笑みを消す。眼つきを鋭くした彼女が、そのまま作戦室を出る。

「殺気が膨らんでいる・・セヴィルのように攻を焦ることがなければいいが・・」

 ソニカの様子を危惧するディオン。その隣で、リオは冷静さを保っていた。

「では私たちも行きましょう、ディオン。セヴィルさんだけでは、先日の二の舞になりかねません・・」

「そうだな。行くぞ、リオ・・」

 声を掛け合うと、リオとディオンもミッドチルダに向けて出撃するのだった。

 

 

次回予告

 

沈黙を破り、攻撃を再開するイース。

フューリーとララを狙うソニカの魔手。

その前に立ちはだかるジュンたち。

イース、時空管理局、そして霞美の、三つ巴の戦いが開始される。

 

次回・「騎士の本領」

 

秘められた未知なる力が、ついにヴェールを脱ぐ・・・

 

 

作品集

 

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