魔法戦記エメラルえりなResonance

第5話「夢の星、煌く瞬間(とき)

 

 

 地球に赴いたスバルたちは、続発する魔法エネルギーの調査のために街に繰り出した。今現在、彼らの視界に入る光景は、平和に満ちたものだった。

「少し驚きました。地球もミッドチルダと少し似ているんですね。」

「そうだね。でも文化はまだまだミッドチルダのほうが上だし、第一魔法は空想上のものなのが基本的だよ。なのはさんやえりなちゃんのように高い魔法資質を持っている人は稀なんだって・・」

 感嘆の声をかけるナディアに、スバルが微笑んで答える。

 地球は長い年月をかけて、文化や技術を発展させてきた。だがミッドチルダは地球の文化、技術を大きく上回っていた。

「地球もいつか、魔法を扱うほどに成長するでしょうか・・・?」

「どのくらい先かは、あたしにも分かんない。でも、いつか必ず地球もミッドチルダのような魔法と科学を手に入れるはずだよ・・」

「そうですね・・いつかそうなるって、信じたいですよね・・・」

 スバルの言葉を受けて、ナディアが笑顔で頷く。2人は未来のために今を頑張ろうと、決意を新たにするのだった。

“大人しくしなさい、そこの青い髪のお嬢さん。”

 そこへ突然声をかけられて、スバルとナディアが立ち止まり振り替える。その先にいたのはシーマだった。

“私についてくれば、周りに危害を加えることはないわ。”

“あなたは誰なの?あたしに何の用なの・・?”

“あなたに質問する権利はないの。早くしないと周りにいる人間に攻撃を仕掛けるわよ。”

 念話を繰り返す中、シーマの言葉に危機感を覚えるスバルとナディア。

“あなたたちはこんな群集の中で魔法を使うことはできない。でも私にはそんな制約は存在しないから、自由に攻撃を仕掛けられる。”

“卑怯ですよ!正々堂々とかかってきてくださいよ!あたしたちは逃げも隠れもしません!”

 嘲ってくるシーマに、ナディアが抗議する。

“私は勝負を望んでいるんじゃないの。あなたたちの体を手に入れられればそれでいいの。”

 淡々と呼びかけるシーマの顔から笑みが消える。

“言うことを聞かないと、取り返しがつかなくなるよ・・・!”

 シーマに追い込まれ、焦りを募らせるスバルとナディア。ナディアがやむなくブーツ型アームドデバイス「シティランナー」を起動させようとした。

 そのとき、シーマが突如頭に衝撃を受ける。突然のことに彼女だけでなく、スバルたちも驚きを覚える。

 さらにスバルたちを中心に、球状の結界が展開される。彼女たちの前から、街を歩く人々の姿が消える。

「しまった!結界が・・・!」

 毒づくシーマが周囲を見回す。結界が展開されたことで、スバルたちは別次元に隔離されたのである。

「あなたが怯んでいる間に、コロナが結界を展開してくれたようね。」

 スバルたちに声をかけ、姿を現したのはティアナだった。バリアジャケットを身にまとったティアナは、銃型インテリジェントデバイス「クロスミラージュ」で発砲。「シュートバレット」でシーマを狙撃し、体勢を崩したのである。

「これで結界を破らねぇ限り、おめぇは街の連中を襲えねぇってわけだ。」

 腕輪型アームドデバイス「ブレスセイバー」を起動させているロッキーが、シーマに言い放つ。4人を相手にして勝利できる可能性は、シーマにはなかった。

「残念ですが、あなたは逃げることもできません!」

 さらに声がかかり、シーマが上空を見上げる。その空には巨大な竜の影があった。

 それは真の姿を見せたフリードリヒだった。フリードリヒはキャロの竜魂召喚によって力を解放し、彼女とエリオ、クオン、ネオンを乗せて駆けつけたのである。

「おいおい、ずい分と派手な登場じゃねぇかよ、おめぇら!」

 ロッキーが高らかにエリオたちに呼びかける。だが彼らはすぐに真剣な面持ちを見せて、シーマを見据える。

「大人しくしなさい。武装を解除して、あたしたちの指示に従えば危害は加えないわ。」

 ティアナがクロスミラージュの1機の銃口をシーマに向けて言いかける。包囲されたシーマは焦りを募らせていた。

(これでは確実に捕まってしまう・・それでも、何とかしてこの危機を回避しないと・・・!)

「生憎、大人しく捕まってやるほど、私は落ちぶれていないのよ!」

 いきり立ったシーマが右手をかざし、光線を周囲に発した。奇襲を回避しようと、スバルたちがとっさに動く。

 だが彼らが視線を戻したときには、シーマの姿はなくなっていた。

「しまった・・・!」

 毒づくティアナが周囲を見回す。

“コロナ、敵の居場所と逃走ルートを割り出して!”

“はい!海岸に向かって移動しています!距離11、12・・!”

 ティアナの呼びかけに、別荘にいるコロナが分析する。その解析データがティアナたちに送られる。

「エリオたちはこのまま追って!あたしたちは先回りするから!」

「分かりました!ではお先に!」

 ティアナの指示にエリオが答え、フリードリヒが前進していく。

「あたしたちも行くわよ。2手に別れて、左右から挟み撃ちにする。」

 ティアナのさらなる指示にスバル、ナディア、ロッキーが頷く。4人もシーマの追跡に繰り出すのだった。

 

 突然のイースの攻撃に、ミッドチルダは騒然となっていた。デルタ本部でも動揺の色を隠せないでいた。

「デルタが時空管理局への復讐を企んでいるなら、これはオレたちにも少なからず責任があるな・・」

「そうですね。そのためにも、私たちがみんなを守らなあかんやな・・」

 ユウキとはやてが深刻な面持ちで語りかける。フェイトも続けて言葉をかける。

「イースはミッドチルダと同等のレベルの科学と文明を持った惑星だった。ところが3年前、イースは管理局の過激派が起こした新型兵器の実験で、壊滅的な被害を受けた・・」

 フェイトは語りかけながら、持っていた書類をユウキに手渡す。

「実験の執行を行った人物の中には、かつてレジアス・ゲイズ中将の部下だった人も含まれていました。」

「レジアス中将か・・あの人の武闘派が伝染したのか・・・?」

 フェイトの口から語られた言葉に、ユウキが肩を落とす。

 レジアスは局内でも指折りの武闘派で、地上部隊に誇りを持っている。そのため他の部隊やレアスキルに嫌疑を抱いており、デルタや起動六課にも因縁をつけられたことがある。

「実験に参加、あるいは加担した人たちは全員拘束、処分を受けている。でもイースに刻まれた傷痕は、それで消せるほど浅くないのです・・」

「せやかて、復讐が正当化されるわけでも、関係ない人まで巻き込んでえぇわけでもない。私たちで何とかせな・・・」

 フェイトの言葉に深刻さを浮かべるはやて。ユウキも2人に同意見だった。

「ですがイースの人々には特殊能力を持っています。戦闘能力の向上や対象の変質など、効果は様々です。」

「その能力の総称が、“シンギュラーシステム”・・・」

 書類を読み返すユウキが呟きかける。そこへライムとジャンヌがやってくる。

「過激派が実験をイースで行ったのは、新型兵器の威力を確認するだけじゃなく、そのシンギュラーシステムを恐れたからって理由もあったんだね・・」

「どんな力だって、壊すこともできれば助けることもできる。使い方次第で、どっちにも傾いてしまう・・シンギュラーシステムも、兵器も、私たちの使う魔法も・・・」

 苦笑を浮かべるライムと、沈痛の面持ちを浮かべるジャンヌ。2人の言葉にフェイトたちも頷く。

 力は壊すことも守ることもできる。それはどの力においても同じことがいえる。

 なのはやえりなたちが使う魔法も、何かを傷つけかねない諸刃の剣なのである。

「何にしても、イースの攻撃がこれ以上ミッドチルダに加わるのは避けないといけない。どこか近くにイースの基地があるはずだ。まずはそこを見つけ出す。」

 ユウキは呼びかけると、フェイトに書類を返す。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、ライムちゃん、ジャンヌちゃん、明日香はミッドチルダ全土のパトロールをしてくれ。ただし魔法は極力使わないこと。イースに気付かれる可能性があるからね。」

 ユウキがなのはたちに指示を出していく。

「僕もパトロールに出る。仁美、ここの指揮を頼む。」

「任せて。ここの守りは、私たちでするから。」

 ユウキの言葉を受けて、仁美が笑顔で答える。

「はやてちゃんと玉緒もここで待機。シグナムさんたちやヴィッツたちをまとめてくれ。」

「私がまとめなくても、シグナムたちはしっかりしてはるって・・」

「ヴィッツもアクシオもダイナも、あたしがいなくても向かうところ敵なしですよ♪」

 仲間たちへの信頼を寄せるはやてと玉緒。イース前線基地を突き止めるべく、なのはたちは行動を本格化させた。

 

 8人もの魔導師や騎士に追い込まれ、シーマは必死に逃亡を図っていた。

(このままやられてたまるか!結界を破れば、私にはいくらでも方法がある!)

 打開の糸口を必死に探るシーマ。行動を起こすのは、スバルたちとの決定的な距離を取ったとき。

 だがフリードリヒに乗るエリオ、キャロ、クオン、ネオンが上空からシーマを追跡していた。

(しつこいね。これじゃ結界を破壊できないじゃないの・・・!)

 苛立ちを募らせていくシーマ。だがその苛立ちが、周囲への注意を散漫にさせた。

 路地に通じる左右の道から、数発の光の弾丸が飛び込んできた。シーマはとっさにこれを回避し、光線で撃ち抜いて破壊していく。

 だがそこへアームドデバイス「リボルバーナックル」とローラーブーツ型インテリジェントデバイス「マッハキャリバー」を起動させたスバルと、シティランナーを装備したナディアが飛び込んできた。

「まずい!けん制された!?

「一撃必倒!」

「あたしはいつでも全力疾走!」

 声を荒げるシーマに、スバルとナディアが攻撃を仕掛ける。

「ディバインバスター!」

「一蹴突破!シャトルストライカー!」

 なのはが使用していた魔法をアレンジしたスバルの拳と、加速と自身の魔力を併用したナディアの一蹴。2人の同時攻撃が、シーマの体に叩き込まれる。

「ぐあっ!」

 痛烈な攻撃を受けて突き飛ばされ、シーマが近くの建物の壁を突き破る。爆煙の中から彼女の姿を確かめようとするスバルとナディア。

 だがその先にシーマの姿はなかった。

「い、いません!」

「どこに行ったの!?

 声を荒げ、周囲を見回すナディアとスバル。ティアナたちもコロナも、シーマの行方を必死に追い求めていた。

 満身創痍に追い詰められながらも、逃亡を続けるシーマ。彼女の危機感は頂点に達していた。

(な、何とかしないと・・何でもいい!何とかしないと!)

 もはや必死でしかないシーマは、ひたすら結界の中の街を駆け抜けていた。

 そのとき、シーマは街中を歩く1人の少女を発見する。

(しめたわよ!まさか人間が結界の中に迷い込んでいたなんてね!)

 千載一遇のチャンスと思い、シーマがその少女、霞美に襲い掛かった。

 

 ララとフューリーのために手料理を振舞おうと、霞美は買い物に出ていた。その途中、彼女は自分が魔力を持っていることを改めて自覚していた。

(私の中にある魔力・・私の力は、ララやフューリー、みんなを守るためにある・・そう信じたい・・・)

 胸に宿る決意を思い返して、気持ちを固める霞美。彼女は待機状態のトリニティクロスを手にする。

(トリニティクロス、私はどうしたら・・・?)

You decided it by you. It was decided that it wanted to defend your important one. I will also give my power for such you. (あなたはあなた自身で決めたのです。あなたの大切なものを守りたいと決めたのです。私もそんなあなたのために、私の持つ力を与えましょう。)

 霞美の心の声を受けて、トリニティクロスが答える。その言葉に励まされて、霞美が笑顔を取り戻す。

(そうだね・・ここで私が諦めたら、みんなが辛い思いをするんだからね・・・これからもよろしくね、トリニティクロス。私、頑張るから・・)

Please continue your favors only toward here. (こちらこそよろしく。)

 結束を固める霞美とトリニティクロス。彼女はララとフューリーのため、急いで買い物をしようとした。

 そのとき、霞美は異変を目の当たりにした。自分以外の人々が、街から一瞬にしていなくなった。

「あれ・・・?」

 突然のことに驚きを隠せなくなる霞美。周囲を見回してみても、彼女以外に人の姿はない。

「どういうことなの・・何が起こったの・・・!?

It was confined in another space. (結界に閉じ込められました。)

 困惑する霞美にトリニティクロスが答える。

「け、結界・・・!?

Magic that moves the space so that harm should not extend it to surroundings when magic is used might be practiced. Perhaps, this seems a high-ranking level. (魔法の使用の際には、周囲に危害が及ばないように、空間をずらす魔法が使われることがあります。おそらくこれは上位のレベルと思われます。)

「ど、どうしたらいいの・・・!?

Is it forcibly broken or is the person who put magic ascertained?It is an action method in which the two are the main. (強引に破るか、魔法を張った人を突き止めるか。その2つが主な対処法です。)

「魔法・・いったい誰がこんなことを・・・!?

 トリニティクロスの助言を受けて、霞美が考えを巡らせる。

 そのとき、霞美が突然何かに捕まる。

「悪いけど、ちょっと人質になってもらうよ!」

「だ、誰!?人質って!?

 声をかけてきた女性、シーマに霞美が声を荒げる。そこへスバルたちが駆けつけ、シーマを取り囲む。

「えっ!?一般人がどうして!?

「まずいです!人質を取られてしまいました!」

 スバルとナディアが緊迫を膨らませる。人質を取られたことで、スバルたちは窮地に追い込まれることとなった。

(どういうことなの、コロナ!?一般人は完全に隔離させたはずじゃないの!?

“確かに結界で完全に隔離させました!ですが巻き込まれてしまったみたいです!”

 問い詰めるティアナに、コロナが慌しく答える。

 結界は一般の人や建物に危害を及ぼさないために用いられるのが基本だが、完全な隔離をもたらすわけではない。稀に結界で隔離されるべき人が紛れ込んでしまうこともある。

(とにかく、あたしたちが何とかしてあの人を引き離すから、コロナはすぐに結界の外に転送して。)

“了解しました!ティアナさんたちも気をつけて!”

 ティアナの指示にコロナが答える。フリードリヒも駆けつけるが、エリオたちも迂闊に手が出せなかった。

「竜を大人しくさせて、全員降りてきなさい!そして全員武装を解除しなさい!」

 呼びかけるシーマに、ティアナたちが毒づく。このままでは徐々に劣勢を強いられてしまう。

「人質を取ってくるなんて、相当追い詰められてる証拠だぜ!」

 そこへロッキーが高らかに言い放ってきた。彼の態度が、スバルたちの緊張を煽る。

「寝ぼけてるの、お前!?この人質が見えてないわけじゃないわよね!?

「それがどうした!?そんなことじゃオレは止まらねぇよ!」

「待ちなさい、ロック!人質の救出を優先して!」

 右手を霞美に向けるシーマの言葉にも耳を貸さないロッキー。ティアナが呼び止めるが、身構える彼は止まろうとしない。

「オレを止められるのは、オレだけだ!」

Slash saver.”

 ロッキーがシーマに向かって、真正面から一閃を繰り出す。だがシーマが放った光線で、ブレスセイバーの光の刃を弾かれる。

「ぐうっ!」

「だったら望みどおり、この女の死に様を見てるといいわ!」

 うめくロッキーと、いきり立って霞美に牙を向けるシーマ。

(ダメ!あの人たちの前で魔法は使えない・・・!)

 スバルたちの前でトリニティクロスを起動することをためらう霞美。彼女は他の魔力を感知する能力が弱く、スバルたちが魔導師や騎士、時空管理局の局員であることを知らなかった。

 シーマが魔法を使えずにいる霞美に、光線を放とうとする。スバルたちが止めに入ろうとするが、間に合わない。

Meteor shoot.”

 そこへ一蹴が飛び込み、シーマが頭を蹴り飛ばされる。その衝撃で意識を失い、彼女がこの場に倒れ込む。

「今の攻撃は・・・!?

 眼を見開くスバル。シーマに攻撃し、スバルたちと霞美の危機を救ったのは、マコトだった。

「さっきのヤツがいたと思って攻撃したら、管理局のヤツらを助けることになってしまった・・・」

 マコトが呆れてため息をつく。彼女の登場にスバルたちは驚きを感じていた。

「秋月マコト・・・!?

「マコトちゃんだよ・・マコトちゃんが帰ってきたー♪」

 エリオが呟く横で、ネオンが歓喜の声を上げる。だがティアナがクロスミラージュをマコトに向ける。

「あなたは特別保護施設から逃走して指名手配されているわ。このままあなたを逃がすわけにはいかない。」

「勘違いするな。僕は今はお前たちと戦うために来たんじゃない。お前たちに会わせたいヤツがいるんだ。」

 マコトの言葉に眉をひそめるティアナ。マコトの促しで現れた人物を眼にして、スバルたちが動揺を覚える。

 それはレイとともに姿を現したジュン。様々な世界を旅してきたジュンだった。

「ジュン・・・」

「ジュンちゃん・・ジュンちゃんなの・・・?」

 突然のジュンの登場に、クオンとネオンが戸惑いを覚える。だが2人の動揺は、すぐに再会の喜びへと変わった。

「ジュンちゃん!ジュンちゃんだー♪」

 ネオンが満面の笑みを浮かべて、ジュンに駆け寄る。彼女にいきなり飛びつかれて、ジュンが苦笑いを浮かべる。

「こんな形の再会なんてね、アハハハ・・・」

「よかった・・よかったよ・・ジュンちゃんとまた会えて・・・」

 大粒の涙をこぼすネオンの頭を、ジュンが優しく撫でる。そしてジュンはクオンに眼を向ける。

「久しぶりだね、クオン・・・」

「いきなりでビックリしたよ・・君も驚いているんだろうけど・・・」

 声を掛け合うジュンとクオンだが、言葉が思い浮かばずに当惑を浮かべるばかりだった。そこへそのモヤモヤした空気をさえぎるように、ティアナが声をかけてきた。

「感動の再会に水を差すようで悪いんだけど、後始末をしなければならないから。それと、いろいろと話を聞く必要もあるから・・・」

 ティアナが言いかけて、マコトに視線を移す。ティアナはマコトを逃がすまいとにらみを利かせていた。

「僕もイースと戦う。だけど勘違いするな。お前たち管理局のためじゃない。ジュンを傷つけたことを後悔させるためだから・・」

「それでもいいわ。何にしても話を聞きたいの。ついてきて。」

「ちょっと待てって!脱獄したヤツを逮捕せずに連れてく気かよ!?

 マコトの言葉を受け入れつつ呼びかけるティアナに、ロッキーが反論する。

「彼女も今回の事件の重要参考人よ。前科や脱走について問い詰める前に、事件について聞くことが重要よ。」

 ティアナに言いとがめられて、ロッキーが返す言葉が見つからず押し黙ってしまう。

「それともうひとつ・・フレイムスマッシャーとフレアブーツが、機能停止にさせられてる・・・」

「えっ・・・!?

 マコトが告げた言葉にスバルが驚きを覚える。それを耳にしてジュンが沈痛の面持ちを浮かべる。

「イースにやられたんですね・・何にしても戻ったほうがいいですよ。ここではとても対処できませんから・・」

 エリオの呼びかけにスバルたちが頷く。きょとんとしているレイに、キャロが手を差し伸べる。

「一緒に行きましょう、レイちゃん・・」

「お姉ちゃん・・・うん・・・」

 呼びかけるキャロにレイは笑顔を見せて、その手を取って握手を交わした。

「あっ!さっきの人がいません!」

 突然大声を上げるナディア。そのとき既に霞美の姿がなくなっていた。

「怖くなって逃げちゃったのかな・・まずいことになりそう・・・」

「そんなに問題視することもないわよ。結界を解けば日常に戻れるから・・」

 不安を浮かべるスバルだが、ティアナはさほど気にしていなかった。

「これから戻るわ。コロナ、結界を解除して。」

“了解です。建物の修復も行います。”

 ティアナの指示を受けたコロナが、結界の解除と中の建物の修復を開始する。スバルたちも一路コテージへと戻ろうとした。

「うっ・・・!」

 そのとき、意識を失っていたシーマが突如苦しみ出した。突然のことにスバルたちが緊迫を覚える。

「どうしたんだ!?何があったんだ!?

 クオンがシーマに駆け寄って声をかける。だがシーマは激痛を浮かべた後、操り人形の糸が切れたように動かなくなる。

「・・・死んでる・・・!?

 シーマの右の手首の脈を確かめたクオンが息を呑む。シーマは事切れて、全く反応を示さなくなった。

「どうしたっていうの・・あたしたち、あれから何もしてないですよ・・・!」

「失敗したときに、命を奪う仕掛けがかけられていたのかもしれない・・・」

「イース・・何てひどいことを・・・!」

 声を荒げるネオン。分析するティアナ。怒りを覚えるジュン。

「とにかく戻るわよ。急いでこの人の体をチェックしないと・・」

 ティアナの呼びかけにスバルたちが頷く。彼らは改めてコテージへ帰還するのだった。

 

 シーマとの戦いを繰り広げたスバルたち。その彼らの戦いの様子を、ソニカが見つめていた。

 結界の外にいた彼女は、結界の中の様子をうかがうこともできた。

「なかなかやるじゃない、管理局の若者たちは・・エースには及ばないけど、侮らないで正解ってところね・・」

 スバルたちを見つめて、ソニカが妖しく微笑む。

「でもこんな子供たちまで戦わせるなんて・・時空管理局を、ミッドチルダつぶさないと、幼い子供まで悲劇に巻き込まれてしまう・・・!」

 ソニカは苛立ちを感じていた。彼女とコペンは幼い頃から荒廃した町で暮らしてきた。子供が虐待される光景も何度も見てきた。その悲劇を受ける子供たちと、戦いに身を投じているスバルたちを、彼女は重ねていた。

「戦いから切り離したい・・そのためには、この力も・・・」

 ソニカは言いかけて、右目を隠す眼帯に手を当てる。そのとき、彼女の脳裏にコペンからの忠告が蘇る。

“くれぐれも力を使ってはいけませんよ。”

「分かってるよ、姉さん・・この力はシンギュラーシステムの中でも、威力はすごいけどリスクも高い・・私もできることなら使いたくない・・・」

 自分に抑制をかけるソニカ。気持ちを落ち着けたところで、彼女は結界の解除された街に視線を戻す。

「次は私が相手になる。シーマやハリアーのようにはいかないから、覚悟することね・・・」

 ソニカは再び笑みを浮かべると、音もなく姿を消した。

 

 コロナの待つコテージへと戻ってきたスバルたち。すぐにシーマの検査が行われ、死因が追求された。

 その結果は心臓麻痺。シーマの体内に埋め込まれた電気信号から発せられた電気ショックがもたらしたものだった。

「ひどいことをします・・電気信号ひとつで、こうも簡単に命を奪うことができるのですから・・・」

「こんなことをするイース・・私も許せません・・・」

 コロナに続いて、キャロが沈痛さを込めて言いかける。

「それで、フレイムスマッシャーとフレアブーツはいかがですか?」

 そこへエリオが声をかけ、コロナが微笑んで頷く。

「異常を起こしていた箇所を修繕しました。通常通り活動可能です。」

「よかった・・これでジュンさんも戦えますね。」

 コロナの報告を聞いて、キャロが安堵の笑みを浮かべる。

「みなさんのデバイスもチェック中です。みなさんも体を休めてください。」

 コロナの言葉にエリオとキャロが頷いた。

 その頃、スバル、ティアナ、クオン、ネオンはジュンとマコトから話を聞いていた。イースが地球、ミッドチルダの両方に攻撃の矛先を向けてきていることを。

「まさかミッドチルダまで狙っていたなんて・・・」

「イースはミッドチルダが行った新型兵器の実験で危機的状況にある。その実験を行った局員は既に拘束されているけど・・」

 スバルが困惑を浮かべ、ティアナが深刻な面持ちで呟く。

「多分、ミッドチルダにも攻撃が行われてるはずです・・早く連絡しないと・・」

「もう連絡したわ。攻撃があったけど、なのはさんたちが切り抜けたそうよ。」

 ジュンの不安にティアナが答える。

「今のあたしたちがやるべきことは、次の戦闘に備えて体を休め、デバイスの修繕を行い、手に入れた情報を分析、整理すること。ジュン、あなたも今は休んだほうがいいわ・・」

「そうだよ、ジュン。これからもよろしくね。」

 ティアナに続いてスバルが笑顔を見せて呼びかける。2人の言葉に励まされて、ジュンは笑顔を取り戻した。

「僕はお前たちに協力するつもりはない。イースを倒すため、ジュンを守るため、お前たちを利用するだけだ。」

「釈然としないけど、今は猫の手も借りたい状況だからね・・」

 憮然とした態度を見せるマコトに、ティアナが淡々と答える。事件は新たな佳境へと差し掛かるのだった。

 

 インターポールに所属する女性警部、牧野(まきの)カナ。的確な判断力と行動力で、周囲の人間を度々驚かせている。

 カナはインターポール日本支部に赴いていた。

「牧野くん、現在発生している奇怪な現象を調査したいと?」

「はい。もしかしたら、日本に甚大な被害を及ぼしかねないものかもしれません。是非私を鈴宮市に向かわせてください。」

 カナが支部長に鈴宮市への出向を志願する。これに対し支部長が答える。

「君は今まで多くの事件調査に志願し、その解決に貢献してきた。その経験を踏まえて、その見解と志願を抱いているのだろう?」

「はい。今回は特に危険視されるものと私は判断しました。行かせてください。」

 あくまで考えを変えようとしないカナ。その意思を受けて、支部長がため息をつく。

「お前は真面目で誠実だが、頑固でもある。私でもお前を引き止めるのは骨が折れるだろう・・・いいだろう。その調査、君に任せよう。」

「ありがとうございます。では早速現場に向かいます。」

 カナは支部長に敬礼を送ると、出動の準備に入った。

 彼女は知らなかった。次に踏み入ろうとしている事件が、普通の人間の手に余るものであることを。

 

 

次回予告

 

息詰まる戦いの中の束の間の休息。

心身の疲れを癒すスバルたちに起きる騒動。

そんな彼らに迫るカナ。

次の攻撃の準備を進めるイース。

事態は次の局面に向かって加速する。

 

次回・「蒼い遊戯」

 

その戯れを脅かすものは・・・?

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system