魔法戦記エメラルえりなResonance
第4話「2つの戦い」
ジュン、マコト、レイに向かって飛びかかっていくシーマとハリアー。だが2人の接近にジュンたちは気付いていた。
「何だ、お前たちは!?」
「邪魔をするな!」
「覚悟しろ、春日ジュン!」
マコトが呼びかけるが、シーマもハリアーもジュンだけに狙いを定めていた。
「レイ、ジュンと一緒に下がるんだ!」
マコトが呼びかけると、ジュンとレイが後ろに下がる。
「行くぞ、ライトスマッシャー、メテオブーツ・・・!」
“Standby ready,set up.”
マコトの呼びかけを受けて、アームドデバイス「ライトスマッシャー」、「メテオブーツ」が起動する。身構えるマコトが、シーマとハリアーを見据える。
「マコト、気をつけて!イースは私たちの魔法を封じる力を持ってる!」
ジュンの呼びかけを聞き入れると、マコトが大きく飛び上がる。
「たとえ封じ込められても、僕の力を抑えることはできない!」
いきり立ったマコトが、シーマに狙いを向ける。
“Light smash.”
マコトが繰り出した光の拳が、シーマの放つ光線ごと、彼女の右手を突き飛ばす。
「何っ!?」
驚愕するシーマが砂浜を横転する。マコトが繰り出した攻撃の威力に、ハリアーも緊迫を覚える。
「こんな強力な力を持ったヤツがまだいたとは・・何者よ、お前!?」
「僕は秋月マコトだ。僕たちに敵対するなら、容赦なく叩き潰すぞ!」
声を荒げるハリアーに、マコトが名乗り出す。その名を聞いて、ハリアーが眼を見開く。
(秋月マコト・・春日ジュンと並ぶタイプ・ジェネシスの1人・・まさかこんなところにいるとは・・・!)
「丁度いい。春日ジュンと一緒にお前も連れて行けば、私の大手柄よ・・・!」
期待を覚えたハリアーが、マコトに対して不敵な笑みを浮かべる。
「待ちなさいよ・・秋月マコトは私の獲物だからね・・・!」
そこへ起き上がったシーマが言いかける。
「そう言い張るんだったら、先に獲物を取ったほうが勝利よ・・・!」
「勝っても負けても恨みっこなしね・・・!」
声を掛け合うハリアーとシーマが、マコトを狙って同時に飛びかかる。
“Tornado spin.”
マコトは回転して回し蹴りを繰り出し、2人の突進を阻む。
“Meteor shoot.”
マコトは続けて一蹴をハリアーに叩き込んだ。だがハリアーは魔力の障壁を出現させ、その攻撃を受け止める。
「たとえ受け止められても、力押しで!」
マコトが強引に押しかけてくる。その勢いに押されて、ハリアーの仕掛けた障壁が打ち破られた。
力で押し切る攻めを得意とするマコトは、シーマとハリアーの策略をものともしなかった。
「このままでは・・・こうなったらアイツの魔力を・・・!」
ハリアーがマコトとの距離を取り、シーマがマコトに攻め立てる。その間にハリアーが魔力を集束させる。
「いけない!マコトの魔力が封じられてしまう!」
「レイに任せて・・お願い、クレセント・・」
声を荒げるジュンに言いかけると、レイがブーストデバイス「クレセント」に呼びかける。クレセントが起動することで、レイは魔力を解放する。
「マコトお姉ちゃんを傷つけさせたりしない・・・」
“Arrest block.”
レイがかざしたクレセントから魔力が放たれる。ハリアーが発した捕縛の力から、クレセントの魔力がマコトを守る。
「防がれた!?・・あの娘も魔導師か・・・!」
毒づいたハリアーがとっさに後退しようとする。だがマコトはシーマを突き飛ばすと、ハリアーに向かって飛びかかる。
「お前たちの好き勝手にはさせないよ!」
“Planet breaker.”
マコトがハリアーに貫通性のある打撃を叩き込む。
「がはっ!」
ハリアーが吐血して昏倒する。痛烈な打撃を受けた彼女は、倒れたまま動けなくなる。
「ハリアー・・ハリアーがやられるなんて・・・!」
マコトの底力を目の当たりにして、シーマはついに戦意を揺さぶられてしまった。
「これ以上やるっていうなら、お前も叩き潰してやるぞ・・・!」
「覚えてなさいよ!この恨み、決して忘れはしないわよ!」
マコトが忠告を送ると、シーマが慌ててこの場から離れていった。
「追わないの、マコト?・・以前のマコトなら、絶対に追いかけて倒すはずなのに・・・」
当惑を見せるジュンに、マコトがため息混じりに答える。
「今は気が進まないだけだよ。それに相手は謎の部分が多い・・下手に飛び込めなかったんだよ・・」
「マコト・・しばらく会わない間に、ちょっと変わったね・・・」
「あの勝負から長い時間がたってるんだ。変わらないほうがどうかしてるよ・・・」
互いに微笑みかけるジュンとマコト。4年の月日がたっても、長い年月が流れても、幼い頃からの2人の絆が完全に断ち切れることはない。
「早くフレイムスマッシャーとフレアブーツを直してくるんだね。僕の味方になってくれるにしても、敵になるにしても、話はそれからだ・・」
「そうだね・・そのためにもみんなに会わないと・・・」
マコトと言葉を交わすジュンの脳裏に、えりなやクオンたちのことを思い出していた。
(会いたい・・みんなと会いたい・・・)
ジュンの仲間たちへの思いは膨らむばかりだった。
一方、デルタでは待機状態が続いていた。そんな中、フェイトはエリオとキャロが気がかりになっていた。
「大丈夫かな、みんな?・・ケガとかしていないかな・・・?」
「心配性だね、フェイトは。みんなももうちゃんと仕事をこなしてるんだから、信じてやらないと悪いって・・」
不安になっているフェイトに、ライムが苦笑いを浮かべる。
「今、僕たちがしなくちゃいけないのは、みんなの留守をちゃんと守ること。戦力を分断したデルタを狙ってくる敵もいるかもしれない・・」
「そうですよ、フェイトさん。私たちには私たちの役割がある。今はそれをこなさないと・・」
ライムに続いて明日香も言いかける。仲間たちの励ましを受けて、フェイトが微笑む。
このような和やかな時間がその後も続くはずだった。
「クラナガンに接近する3つの魔力反応を確認!」
そこへクラウンからの報告が入る。デルタ本部内に緊張が走る。
「人間2人と狼・・使い魔なのか・・・?」
モニターに映し出されたセヴィル、リオ、ディオンの姿を見て、ユウキが呟きかける。
「魔力反応はあの3名から発せられています。人間2人の魔力は強いだけでなく、データにない魔力資質です・・」
「データにない魔力資質・・どんな能力を使ってくるか、予想を立てられないってことね・・・」
クラウンのさらなる報告に、仁美も続けて呟く。
「彼らと交信を試みる。有無を言わずに攻撃を仕掛けるのは危険を招くことになる。」
「了解しました。間もなく本部上空を通過します。」
ユウキの呼びかけにクラウンが答える。ユウキはセヴィルたちに向けて念話を送った。
(そこの3人、こちらは時空管理局特別捜査部隊、デルタ。君たちがミッドチルダに現れた目的は何だ?)
ユウキからの念話は、セヴィルたちに伝わっていた。
「この声、時空管理局の局員でしょうか・・・」
「そのようだな・・」
リオが言いかけると、ディオンが静かに言いかける。だがセヴィルは不敵な笑みを崩さない。
「戯言を。時空管理局の言葉など聞く耳持たん。」
セヴィルはユウキの呼びかけを一蹴すると、背負っていた巨大な剣を手にする。その刀身は身の丈ほどの大きさで、重みも並外れていた。
「先制攻撃だ。存分に味わうといい!」
セヴィルは力を大剣に込めて大きく振りかざす。その一閃がクラナガンの森林地帯に叩き込まれた。
「さぁ、出てくるなら出て来い!オレが全てなぎ払ってくれる!」
鋭く言い放つセヴィル。突然の襲撃は、デルタの緊張をさらに煽ることとなった。
「攻撃を開始しました!」
「森林エリアA3、B1が被害を受けました!炎上しています!」
エリィとカレンが被害状況を報告する。ユウキが即断即決をもって、的確な指示を出す。
「クラナガン全域に非常勧告!避難所への誘導を促すんだ!それと森の火災の消火も急げ!」
「了解!」
「消火はあたしに任せてちょうだい。」
ユウキの指示にクラインが答えるところへ、三銃士の水の剣士、アクシオが消火を買って出てきた。
「あたしとオーリスで一気に消してくる。敵はみんなに任せるよ。」
「いや。アクシオ、君だけに行かせるわけにはいかない。明日香ちゃん、シャマルさん、一緒に行ってあげてほしい。」
意気込みを見せるアクシオに言いとがめて、ユウキが明日香、そしてヴォルケンリッターの1人、湖の騎士、シャマルに呼びかける。
「分かりました。すぐに向かいます。」
「救護を必要としている人もいるはずです。急ぎましょう。」
「もう、しょうがないんだから・・・」
明日香とシャマルが言いかけると、アクシオがたまらず苦笑を浮かべる。
「それじゃ、連中の相手はあたしらがやるしかねぇな。」
ヴィータが不敵な笑みを浮かべて言いかける。シグナム、そして盾の守護獣のザフィーラ、ユニゾンデバイスのリインフォース・ツヴァイ、アギト、バサラも真剣な面持ちを浮かべている。
ユニゾンデバイスは「融合型デバイス」とも呼ばれ、融合による驚異的な能力の上昇を可能としている。しかし融合する2人の適合性がないと、融合事故を引き起こす危険が伴う。
「お前たちだけに手を煩わせるつもりはない。我々も出るぞ。」
そこへ三銃士の雷の剣士、ヴィッツが声をかける。炎の剣士、ダイナも臨戦態勢に入っていた。
「少人数で仕掛けるのはよくないが、大人数で押しかけてもどうかと思う。まずはヴォルケンリッターとヴィッツ、ダイナだけで迎え撃つ。残りのみんなは状況次第で出撃していく。」
「了解!」
ユウキの呼びかけになのはたちが答える。デルタは森の消火と同時に、セヴィルたちの迎撃に出るのだった。
クラナガンへの攻撃を開始したセヴィル。無差別攻撃をする彼は、悲惨な光景を見下ろして哄笑を上げる。
「いいぞ、いいぞ!今度は市街に攻撃を仕掛けてやるぞ!」
いきり立つセヴィルが街に狙いを向けた。そこへ数個の鉄球が飛び込み、気付いたセヴィルが回避を取る。
「好き勝手にやってくれるじゃねぇかよ・・・!」
そこへ現れたヴィータが、セヴィルに鋭く言いかける。続けてシグナムたちもセヴィルたちの前に立ちはだかる。
「攻撃をやめて大人しくしろ。そうすれば穏便に拘束する。」
シグナムが言いかけて、剣型のアームドデバイス、レヴァンティンの切っ先を向ける。だがそれで退くセヴィルではなかった。
「また戯言を・・我が故郷を絶滅の危機へと追いやったミッドチルダの時空管理局。貴様らの言葉に耳を貸すものか!」
怒号を放つと同時に、セヴィルが飛びかかる。彼の放つ巨大な一閃を受け止めたのは、ダイナのかざしたブレイドデバイス、ヴィオスだった。
「何っ!?」
驚愕の声を上げるセヴィル。ヴィオスの巨大な刀身にはねつけられて、セヴィルが後退する。
「聞く耳持たんか・・ならば力ずくもやむを得ないな・・」
ダイナが淡々と告げると、ヴィオスを構えてセヴィルを見据える。
「この男は私とダイナが相手をする。お前たちは他を頼む。」
ヴィッツもブレイドデバイス、ブリットを構えて、シグナムたちに呼びかける。セヴィルの後方にはリオとディオンの姿もある。
「分かった。だが油断するな。魔力も全くの異質。何を仕掛けてくるか分からないぞ。」
ヴィッツの言葉を受け入れるとシグナムたちがリオとディオンに眼を向ける。
「どうやら我々も戦いを強いられるようだな。」
「そのようですね・・」
ディオンの言葉にリオが落胆の面持ちを浮かべる。だが彼女はすぐに気持ちを切り替えて、シグナムたちを見据える。
「私は彼のように戦いを好みません。ですが私たちの生存のために、戦いに身を投じなければなりません。」
リオが真剣な面持ちを浮かべて、腰から下げていた剣を引き抜く。
「私はイース攻撃兵団の1人、リオ。私たちの故郷、イースの復興のため、あなたたちの力を貸してもらいます。」
「イース?かつて管理局の過激派が実験と称して攻撃を加えた星・・そのイースから来たというのか、お前たちは・・・?」
自己紹介をするリオに、シグナムが眉をひそめる。
「できることならば、このような形で剣を交えたくはなかった・・ですが未来には代えられない・・もしもあなた方が私たちに敵対するならば、全身全霊を賭けてあなた方を倒します。」
「未来には代えられねぇか・・少し違ってるが、昔のあたしたちと似てるな・・」
剣の切っ先を向けてくるリオに、ヴィータは共感を覚えていた。
かつてシグナムたちははやてを救うため、戦いに身を投じたことがある。それは夜天の主であるはやてとの約束を破り、罪に手を染めるという禁忌に他ならなかった。
「まだ事情は完全には飲み込めないが、あの者も未来のために罪を犯そうとしている・・だが・・・」
同じく共感を覚えるも、シグナムはリオに対して身構える。
「罪は罪でしかない・・たとえ全てを投げ打つ覚悟があっても、その戦いの真意を見出せなければ、最悪の事態を招くことになる!」
「ならば追い求める救いとは何だというのだ?」
言い放つシグナムに向けて、ディオンが声をかけてきた。
「救いは自らの手で勝ち取らなければならない。それはお前たちも同じだったはず。その覇気と気迫を垣間見れば理解できる。」
「お前は使い魔・・いや、守護獣か・・・」
「いかにも。私はディオン。かつてベルカの地の狼だった存在だ。」
シグナムが問いかけると、ディオンが名乗る。
「たとえ罪人の烙印を押されても、一筋の光明を求めて戦い続ける。それが戦士というものだ。騎士も剣士も同義のはずだ。」
「確かに私たちも、一筋の光明を求めて戦っている。だが罪に手を染めれば、たとえいかなる信念をもってしても、その先に待っているのは破滅だけだ!」
「このまま時間が過ぎていっても、破滅の未来しか訪れません。ならばあなた方を倒してでも、私たちは平和の未来をつかみ取ります!」
シグナムの言葉を跳ね付けて、リオが飛びかかる。振り下ろされたリオの一閃を、シグナムがレヴァンティンで受け止める。
「あなたの名前、聞かせてもらえますか?」
「ヴォルケンリッターの将、剣の騎士、シグナム。そして炎の剣、レヴァンティン。」
シグナムは名乗ると、レヴァンティンを振りかざしてリオを振り払う。
「ヴォルケンリッター・・夜天の魔導書の主に仕える守護騎士・・ということは時空管理局の中に、その夜天の書の使い手がいるということですか・・・」
リオは呟きかけて、シグナムとヴィータを警戒する。強敵を前にして、彼女の緊張は一気に膨らんでいた。
「耳を貸すな、貴様ら!ミッドチルダの連中に容赦をするな!」
そこへセヴィルがリオとディオンに呼びかける。だがダイナの放つ巨大な一閃の衝撃で、セヴィルが突き飛ばされる。
「お前の相手はオレたちだ。」
「いいだろう。そこまで死に急ぎたいなら、オレが引導を渡してやるぞ!」
低く告げるダイナにセヴィルが言い放つ。だがセヴィルはダイナだけでなく、ヴィッツとも相手をしているのである。
「本来ならばこのような形の勝負は好まないが、これは試合ではない。悪く思うな。」
「悪く思うな、だと?大罪を犯したミッドチルダの人間が!」
言いかけるヴィッツの言葉に、セヴィルが苛立ちを見せる。真正面から飛び込んでくる彼の攻撃を、ヴィッツは速さを上げて回避する。
(ヤツめ、深追いしおって・・これでは叩き潰されるな・・・)
セヴィルの単調な攻め方を危惧するディオン。彼の予測どおり、セヴィルはヴィッツとダイナの攻防に振り回されていた。
だが加勢しようとしたディオンの前に、ザフィーラが立ち塞がる。
「お前も使い魔、いや、守護獣のようだな・・」
「あぁ。私は盾の守護獣、ザフィーラ。私以外の守護獣と会うことになるとは・・」
言葉を交わし、対峙するディオンとザフィーラ。2体の守護獣が今まさに、牙を交えようとしていた。
「お前は何のために戦うのだ?お前が守るべき主のためか?」
「主か・・今の我々には、守護獣に課せられし主従など無意味なものだ・・」
問いかけるザフィーラに、ディオンが淡々と答える。彼は守護獣の責務を虚しいものと感じていた。
「私が戦うのは、朽ち果てようとしていた私を救ったリオへの恩義のため。リオの決意に応えることこそが、私の責務。」
「それが破滅の未来へと続くものだとしてもか・・・?」
「心から決めたことならば、どんな未来に行き着こうとも後悔はない。」
あくまで退かずにザフィーラと対峙しようとするディオン。
その頃、リオはシグナムとの一騎打ちを繰り広げていた。
「さすがは夜天の守護騎士。並みの騎士の力量をはるかに超えているようです・・・」
シグナムの力を悟って、リオが危機感を募らせる。シグナムだけでも簡単に勝てる相手ではない上に、ヴィータまで加われば劣勢は必死。
「撤退すべきか。それともあの力を使うべきなのか・・・」
思考を巡らせるリオ。彼女を含めて、イースに住む者には特有の能力を備えていた。
「この状況を打破して騎士と剣士に打ち勝つには、この力を使う以外には・・・!」
思い立ったリオが、その特有の能力の使用に踏み切ろうとしたときだった。
そこへ森の消火を終えた明日香、アクシオ、シャマルが駆けつけてきた。明日香がオールラウンドデバイス「ウンディーネ」を構えて、リオたちを見据える。
「ここまでです、あなたたち。武装を解除してこちらの指示に従えば、手荒なことはしません。」
相手の加勢に危機感を募らせるリオ。
(これでは力を使ったとしても、この面々を撃退できるとはとても思えない。下手をすれば敗北につながる・・・!)
「ディオン、セヴィルさん、ここはひとまず撤退しましょう!」
リオがディオンとセヴィルに向けて呼びかける。しかしセヴィルは納得していない。
「ふざけるな!オレに敗北は許されない!逃げたいなら貴様らだけで勝手に逃げろ!」
「そうはいきません!私たちは協力すべき存在!こんなことであなたを失うわけにはいきません!」
怒号を上げるセヴィルだが、リオは引き下がらない。そんな2人をいさめたのはディオンだった。
「勝手な行動は慎め。セヴィル、お前が捕まることで、お前の心身に刻まれているあらゆる情報が露呈されることになる。そのためにイース全体を滅ぼすことになるのだぞ。」
ディオンに言いとがめられて、セヴィルが苛立ちを募らせる。自分がイース壊滅に拍車を賭けることになることは、彼にとってこの上ない屈辱だった。
「ここは退くぞ!遅れを取るな!」
「逃がすか!」
呼びかけるセヴィルと、追撃を仕掛けようとするヴィータ。
「かっ!」
そのとき、ディオンが雄叫びを上げた。その叫びは超音波のような衝撃をもたらし、明日香たちの神経に刺激を与える。
「くそっ!こんなこともできるのか!」
毒づくヴィータが何とか追撃を試みようとするが、既にセヴィルたちの姿は小さくなっていた。
「もう、これから本格的になるはずだったのにー・・」
「文句を言うな。我々は試合をしているのではない。今、我々がすべきことは他にある。」
不満を浮かべるアクシオに、ヴィッツが言いとがめる。その言葉を受けて、全員が真剣な面持ちを見せた。
その後、デルタと時空管理局の他の部隊の活躍によって、この襲撃事件は沈静化した。
セヴィルたちの攻撃を撃退することに成功したデルタの面々。だがイースに対する疑問は深まるばかりだった。
「イース・・まさかあの世界からやってきたとはな・・・」
コンピューターのモニターに表示されているイースの情報を見ながら、ユウキが呟きかける。
「3年前に、管理局の過激派が行った実験の被害を受けた星だ。実験を行ったその過激派は拘束されて処罰されているが、イースの人々の心は、そのくらいでは癒されない・・」
「そのイースが、ミッドチルダに復讐に現れたというのですか・・・?」
仁美の言葉に明日香が問いかける。
「何の目的で現れたのかはまだ分からない。だが何にしても、今回、穏便に終わるようには思えないな・・」
「今は情報を集めることに専念しましょう。話をするにしても、ある程度の情報は把握しておかないと・・」
ユウキに続けてなのはも意見を述べる。
「となると、アイツの協力も必要になってくるね。」
ライムが言いかけると、なのはも微笑んで頷いた。
デルタの迎撃によって撤退を余儀なくされたセヴィル、リオ、ディオン。任務失敗のため、メガールは彼らに罰を与えようとしていた。
「お待ちください、メガール様。私は純粋なイースの人間です。その私に罰を与えるなど・・」
「黙れ。セヴィル、お前にはリオとディオンと行動をともにしろと命じたはず。それを無視し、お前は独断専行を行った。そしてリオとディオンも、セヴィルの行動を許した。」
セヴィルの申し開きを一蹴して、メガールがエネルギーを放射する。その衝撃でセヴィル、リオ、ディオンが激痛を覚え、息を絶え絶えにする。
「我らは後には引けない。これ以上の失敗は許されないものと、覚悟しておけ。」
メガールの言葉を胸に刻まれて、セヴィルたちは退く他なかった。
「地球で行動していたシーマたちも失敗したようです。」
そこへソニカが落胆の面持ちを浮かべたまま姿を現した。
「ハリアーは倒され、シーマも逃亡中。2人の有様にも見下げ果てますが、地球にもそれなりのレベルの人間がいるようですね。」
「地球出身でありながら、高度の魔法資質を開花させた管理局の魔導師の存在もある。新たにそのような人間がいることは容易に想定できる。」
「あるいは管理局から送り込まれた局員の仕業か・・どっちにしても、並みの兵士を送っても返り討ちにされるだけです・・」
地球攻略に向けて思考を巡らせるソニカとメガール。そこへコペンが姿を現した。
「私が直接地球に赴きます。まずは地球にいる敵対勢力の把握が重要です。」
「それなら私がやるわ、姉さん。敵対勢力を退けて、フューリーも捕まえてやるわよ。」
出撃を買って出るコペンに、ソニカが言いかける。
「メガール様、私を地球に向かわせてください。地球での任務、私が果たしてみせます。」
「よかろう。ソニカ、お前はフューリーの捕獲と地球にいる敵対勢力の解明と殲滅を命ずる。コペンはその敵対勢力、及び時空管理局の局員の分析を行うのだ。」
ソニカの申し出を受け入れて、メガールが命令を下す。それを受けてソニカとコペンが頭を下げた。
アクレイム内の作戦室に向かうコペンとソニカ。上級幹部には各々の作戦室を与えられているが、2人は共同の作戦室となっている。
「あなただけで大丈夫なのですか、ソニカ?地球の敵対勢力もかなりのレベルのようです・・」
「大丈夫よ、姉さん。たとえ私たちを上回る力を持っていても、私たちに後がないことは、姉さんも分かっているはずでしょう?」
コペンが声をかけると、ソニカが微笑んで答える。
「私は自然に恵まれておきながら自分たちが宇宙の王者だと自惚れている地球人が許せないの。そいつらに味方する敵対勢力は、この手で根絶やしにしてやるんだから・・・」
ソニカが地球人への憎悪をたぎらせる。
ソニカとコペンは荒廃したイースを生き抜いてきた。地獄のような日々を過ごしてきた。そのため、楽園のような環境の中で生きている地球人を憎悪しており、ソニカは特にその憎悪を強めていた。
「あなたがそこまで地球での作戦を行いたいなら、私は止めません。ですが、くれぐれも力を使ってはいけませんよ。」
コペンは了承すると同時に、ソニカに注意を促す。それを受けてソニカが眼帯で隠している自分の右目を気にする。
「分かってる・・この力は、強力だけど寿命を縮めるからね・・・」
ソニカは言いかけると、コペンの前から姿を消した。的確な情報を細大漏らさず集めるため、コペンは作戦室に赴くのだった。
マコトの迎撃によってハリアーを失い、撤退を余儀なくされたシーマ。街の人込みに紛れて、彼女は逃亡と回復を図る。
(このまま戻るわけにはいかない・・これだけ失敗して戻ったら、確実に処刑される・・・!)
危機感を募らせて、シーマはひたすらフューリーの行方を追った。この近辺にいることを彼女は確信していた。
そのとき、シーマはある人物を目の当たりにして、息を呑んだ。
(あれは、まさか!?・・・いや、違う・・姿かたちは同じだけど、髪の色が違う・・・!)
違和感を覚えたシーマが我に返る。彼女が見ていたのは、ナディアと行動をともにしていたスバルだった。
(でも彼女も戦闘機人であるかもしれない・・確かめてみる価値はありそうね・・・)
思い立ったシーマが、スバルとナディアへの接近を試みる。街の群集の真ん中で襲われても、2人は魔法を使うことができない。シーマはそう睨んでいた。
“大人しくしなさい、そこの青い髪のお嬢さん。”
シーマが送った念話を感じ取り、スバルとナディアが足を止めて振り返ってきた。
“私についてくれば、周りに危害を加えることはないわ。”
スバルたちに向けて忠告を送るシーマ。スバルたちもまた、イースとの戦いに身を投じることとなった。
次回予告
イースの攻撃の矛先は、スバルたちにも向けられた。
シーマの卑劣な策略に、少年少女は徐々に追い詰められていく。
そしてついに訪れた邂逅の瞬間。
運命は新たなる境地へと突き進んでいく。
平和を願う両者の、終わりなき戦い・・・