魔法戦記エメラルえりなResonance
第3話「地球へ・・・」
トリニティクロスを起動させ、紅い騎士服を身にまとった霞美。突然の出来事に彼女は驚きを隠せないでいた。
「えっ!?・・私、どうしちゃったの・・・!?」
「すごい・・トリニティクロスを使えたのです・・・」
少女も霞美の姿を見て、驚きを見せていた。
「まさか騎士だったとはね・・だったらなおさら本気にならないといけないわね・・・」
女性が哄笑を上げると、霞美に向けて右手からの光線を放つ。霞美はとっさに、手にしていたトリニティクロスを振りかざす。
剣の形状となっているトリニティクロスは、女性の発した光線を弾き飛ばした。
「なっ!?」
「えっ!?」
この瞬間に女性だけでなく、霞美も驚きを見せた。手にしているトリニティクロスの刀身を見つめて、霞美が困惑する。
「すごい・・あの光を跳ね返した・・・これって・・・!?」
“I became your sword now.(私は今、あなたの剣となったのです。)”
霞美が呟きかけると、トリニティクロスが音声を発してきた。
「えっ!?この剣が話しかけてきているの・・!?」
“You are my master. I can also liberate power for you if you have the intention and it acts.(あなたは私のマスターです。あなたが意思をもって行動すれば、私もあなたのために力を解放することができます。)”
困惑する霞美に、トリニティクロスが語りかけてくる。
“It is taught not to understand. Please think about you. (分からないことは教えます。あなたの思うようにしてください。)”
トリニティクロスに励まされて、霞美は勇気を持った。彼女は今、守りたいと思う人のために戦うことを心に決めた。
「この女・・なかなかやるじゃない・・それじゃもう容赦しないわよ!」
いきり立った女性が霞美に向けて再び光線を放つ。跳躍して回避しようとした霞美だが、そのまま上空へと飛翔していく。
「えっ!?空を、飛んでる・・・!?」
「これは魔法による飛行ですね。トリニティクロスを起動させたりと、かなり高い魔法資質があるみたいですね♪」
驚きの声を上げる霞美に、少女が明るく言いかける。すると霞美が、自分の潜在能力の高さに当惑する。
「私、すごい力を持っていたのね・・・ところで、あなたの名前は?」
「私ですか?私はフューリーです。あなたは?」
「私は霞美。三重野霞美だよ・・離れていて、フューリー。私、やれるだけやってみるよ・・」
互いに自己紹介をすると、フューリーが離れ、霞美が女性を見据える。
「いつまでも調子に乗らないことね。空に上がったら、私にとっては格好の的よ。」
女性は不敵な笑みを浮かべると、さらに光線を放つ。空にいる霞美は執拗に狙われることとなった。
「何て攻撃・・この速さがいつか追いつかれる・・・!」
“Thunder mode.”
霞美が毒づいたとき、トリニティクロスの形状に変化が起こる。刀身が細身になり、突きに特化したものとなる。
同時に霞美の着ていた騎士服も赤から黄色へと変化する。直後、彼女の動きが加速し、光線を軽々とかわせるようになった。
「何っ!?」
彼女の動きに女性が驚愕する。
(すごい速さ・・その速さについてこれている私もすごいけど・・・)
自分が発揮している速さに、霞美は動揺を隠せなくなっていた。だが彼女はすぐに迷いを振り切って、反撃に転じる。
「トリニティクロス、今の私には何ができるの・・・?」
“I will work effectively as you imagine it. The speed is valued in Thunder mode. The attack that makes the best use of the speed is effective.(あなたが思い描くとおりに、私は力を発揮することになります。サンダーモードでは速さを重視しています。速さを生かした攻撃が有効的です。)”
霞美の問いかけにトリニティクロスが答える。そのアドバイスを受けて、霞美が思考を巡らせる。
(私がやる・・フューリーを、みんなを守らないと・・・!)
意を決した霞美が、女性を再び見据える。
「一気に加速して距離を詰める!」
“Mach runner.”
高速魔法が発動され、霞美が眼にも留まらぬ速さで女性に詰め寄る。その動きを捉えきれず、女性が眼を疑った。
“Lightning trust.”
霞美が放った突きが、女性の右の二の腕をかすめた。あまりに速い攻撃に、女性は反撃に転ずることができなかった。
「こ、このままじゃやられる・・・!」
危機感を覚えた女性は、たまらず飛翔してこの場から逃走した。
「次はかならずそいつを捕まえてやるからね!今回みたいに幸運なことにはならないからね!」
女性は言い放つと、霞美とフューリーの前から姿を消していった。
「やったの、私・・・よかった・・・」
安堵を覚えた途端、突然力が抜けてその場に座り込む霞美。
「あっ!霞美さん!」
慌てて駆けつけるフューリーが、心配そうに霞美を見つめる。
「大丈夫ですか、霞美さん?・・どこが痛いところは・・・?」
「ううん、大丈夫・・ちょっと張り切りすぎちゃったみたい、アハハハ・・・」
フューリーが問いかけると、霞美が照れ笑いを浮かべる。その笑顔を見て、フューリーが安堵を浮かべた。
「それよりもここから移動しよう・・ゆっくりと話を聞かせてもらうからね・・・」
「霞美さん・・・はい♪」
霞美の呼びかけにフューリーが笑顔で頷いた。2人は一路、三重野家に向かうこととなった。
イースに捕らえられたジュンは、宇宙空間に投げ出された。死を覚悟していた彼女を救ったのは、幼馴染みであるマコトだった。
「マコト・・・マコトが、私を・・・?」
「そうだよ・・最初見たときはビックリしたよ。高い空にジュンが浮いていたんだから・・」
問いかけるジュンに、マコトが肩を落としながら答える。彼女の後ろにはもう1人、小さな少女の姿もあった。
マコトの妹、秋月レイである。レイはマコトとともに暗殺事件に巻き込まれ、コルトからの改造手術で戦闘機人「ジェネシス・アース」に改造され、そのときに記憶喪失に陥っている。マコトの励ましを受けて、希薄になっていた感情を取り戻しつつあるが、未だに記憶は戻っていない。
「レイちゃん・・レイちゃんも元気そうだね・・・」
「うん・・こんにちは、ジュンお姉ちゃん・・・」
ジュンが微笑みかけると、レイが笑顔を見せる。記憶は失っていても、彼女の天使のような笑顔は変わっていない。
「お姉ちゃんを見つけたの、レイなの・・もし見つけていなかったら、お姉ちゃん、危なかったよ・・・」
「そうだったの・・・ホントにありがとうね・・今回はホントに危なかったよ・・・」
レイが事情を説明すると、ジュンが安堵の吐息をつく。
「ところでここはどこなの?急いでクオンたちに連絡を入れないと・・」
ジュンが連絡を取ろうとして、マコトに自分たちの居場所を訊ねる。
「ここは地球だよ・・正確には、海鳴市っていうところか・・・」
「なるほど、地球ねぇ・・・って、地球!?」
マコトの答えを聞いて、ジュンが驚きの声を上げる。彼女は自分の故郷である地球にやってきていたのである。
「私、いつの間にか地球の周りに来ていたのね・・・あ、でも、今ここで連絡を入れたら、マコトたちが・・・」
「僕たちのことは気にするな。僕とレイは脱走犯だ。いくら友達だからって、時空管理局の人間に甘えるようなことはしない。」
困惑を見せるジュンに、マコトが強気な態度を見せる。
誤解の解消と和解を経たものの、マコトは未だに時空管理局を懸念していた。それだけ発生した溝は深かったことを意味していた。
「私も今は管理局の人間じゃないよ・・今は一時的だけど脱退している・・自身の精進のためにね・・・」
「ジュン・・お前・・・」
ジュンの考えを聞いて、マコトが当惑する。
「そろそろみんなのところに戻ろうと思ったところで・・イースって人たちに捕まって・・・」
「イース?・・そいつらがお前を宇宙に放り出したのか・・・!?」
マコトが声を荒げると、ジュンが真剣な面持ちで頷く。
「イースはミッドチルダと、この地球を狙ってる・・時空管理局への報復と、地球への移住を目的としているんだよ・・・!」
「またおかしな連中が・・・!」
ジュンの話を聞いて、マコトが憤りを覚える。
「だけど僕は管理局とは協力しない。僕は僕の守りたい人のために戦う・・・!」
「それは私も同じだよ。たとえ管理局に所属していてもいなくても、その気持ちは変わらない・・・!」
自分たちの考えを告げると、マコトとジュンが拳を付き合わせる。道は違えど、大切なものを守るという意思は共通していた。
「でも今は私は戦えない・・フレイムスマッシャーとフレアブーツが機能を停止させられているの・・」
「えっ?それじゃ何にしても、管理局に戻らないとダメだってことなのか・・・」
「ここがミッドチルダか、魔法世界だったら、すぐにでも連絡を取り合って助けを呼べるんだけど・・・」
魔法の使えないジュンにとって、連絡の手段が取れず痛手になっていた。
「お姉ちゃん・・レイ、みんなに呼びかけてみる・・・」
そこへレイが言葉を切り出してきた。するとマコトが血相を変えてきた。
「ダメだ、レイ!そんなことしたら、管理局に僕たちの居場所を知らせることに・・・!」
「レイも管理局は信じられない・・でもお姉ちゃんは信じられる・・だからお姉ちゃんのお友達も信じる・・・」
声を荒げるマコトだが、レイは考えを変えない。彼女を信じたかったマコトも、静かに意を決した。
「分かったよ、レイ・・だけど、連絡は僕がするよ・・・」
「マコト・・それじゃマコトが・・・!?」
マコトの言葉に、今度はジュンが声を荒げる。
「僕は管理局を信じていない。レイを信じているんだ・・」
真剣な面持ちでジュンに言いかけるマコト。彼女は意識を集中して、念話を試みた。
地球での調査のため、派遣されることとなったスバルたち。彼らの出陣を、なのはたちが見送る。
「今回の君たちの目的は、地球で発生している魔力の正体を調査し、解決すること。ただしその魔力の正体が何者かによるもので、その面々が君たちの力を上回っているかもしれない。そのときは深追いや単独行動は避けて、撤退や合流を優先するんだ。」
「はいっ!」
ユウキの言葉を受けて、スバルたちが答える。
「ティアナ、君がみんなをまとめてくれ。ランスター隊の結成だ。」
「わ、私の部隊ですか・・・!?」
続けて言いかけたユウキの言葉に、ティアナが当惑を見せる。
「何の心配も要らないはずだよ。起動六課やデルタで苦楽をともにしてきた。特に起動六課では、君がスバルたちをまとめてきた。その指揮能力を評価して、君にリーダーを任せたいと判断したんだ。」
「ユウキさん・・・」
「今度も頼むぞ。他のみんなもうまく支え合って、隊をまとめてくれよ。」
「任せてください。みなさんの期待に応えてみせます。」
ユウキの言葉を受けて、ティアナが微笑んで敬礼を送る。
「あなたたちの代わりに、私たちがデルタのフォワードとして控えているから・・」
「デルタやミッドチルダのことは僕たちに任せてくれ。」
なのはとライムがスバルたちに呼びかける。スバルたちもなのはたちに笑顔を返した。
「す、すみません!遅くなりましたー!」
そこへ1人の少女が慌しく駆け込み、飛び込んできた。その騒々しさにスバルたちが唖然となる。
「アタタタタ・・す、すみません・・お騒がせしまして・・・」
「勉強熱心なのはいいけど、遅刻は厳禁だよ、コロナ・・」
平謝りする少女に、ジャンヌが注意を促す。
コロナ・ウィッシュ。一流のデバイスマイスターを目指して、時空管理局に入った。現在はジャンヌの部下として精進に励んでいる。
「みなさんはじめまして。今回の任務でみなさんに同行することになりました、コロナ・ウィッシュ二等陸士です。みなさんのデバイスの管理と修理を担当いたします。よろしくお願いします。」
コロナが自己紹介をして、スバルたちに敬礼を送る。スバルたちが敬礼を返す中、ティアナがコロナに手を差し伸べる。
「今回の任務の隊のリーダーを務める、ティアナ・ランスター執務官よ。よろしくね、コロナ。」
「はい。よろしくお願いします、ティアナさん。」
コロナもその手を取って、ティアナとの握手を交わす。
「それではユウキさん、なのはさん、行ってきます。」
スバルの言葉にユウキが頷く。こうしてスバルたちは魔法エネルギーの調査のため、地球に赴くこととなった。
霞美からの思わぬ迎撃にあい、フューリー捕獲に失敗した女性、シーマ。彼女は上官であるソニカとの連絡を取っていた。
“邪魔者にやられるなんてね。邪魔されてもあの子を捕まえる手段なんていくらでもあったじゃない。”
「申し訳ありません。次こそは必ずフューリーを捕まえてみせます。」
“あなただけじゃ心もとないわ。ハリアーを送るわ。一緒にフューリーを捕まえるのよ。”
「ハリアーを・・了解しました。直ちに合流します・・」
ソニカとの連絡を終えると、シーマは押し隠していた苛立ちをあらわにした。
「おのれ、あの小娘!私の顔に泥を塗って・・・!」
怒りのあまりに地団太を踏むシーマ。
「そんなに怒ったって、結局はあなたのミスでしょう、シーマ?」
そこへ声をかけてきたのは、救援として送り込まれたハリアーだった。
「ハリアー、本当ならアンタの出番はないのよ。」
「私だってあなたと手を組みたくはないわ。でもこれは命令だから仕方なく・・」
犬猿の仲のごとくにらみ合いをするシーマとハリアー。だが2人には共通の目的がある。
「ここでやらないと、私たちは処分される・・・」
「それが、コペン様に開発された私たちの運命・・・」
自分の呪われた運命の中、2人は使命を果たそうと行動を開始した。
フューリーを助け、自宅に戻ってきた霞美。霞美はララが休んでいる私室にやってきた。
「ララ・・とりあえず、ひと通りお薬を買ってきたんだけど・・・」
「霞美・・・私、体は痛みはないんだけど・・・」
薬の入った袋を取り出す霞美に、ララが当惑しながら言いかける。
「えっと・・記憶喪失って、薬で治るものじゃないの・・・?」
「あの・・どういうことなのか分かんないんですけど・・簡単に手に入る薬では、とても記憶は戻らないのでは・・・」
困惑を見せる霞美に、フューリーが冷や汗を浮かべながら口を挟む。彼女の小さな姿を目の当たりにして、ララが微笑みかける。
「かわいい・・お人形みたい・・・」
「えっ!?あっ!ちょっと、その・・!」
ララにいきなり捕まれて、フューリーが慌てる。
「ララ、ダメだって!この子は人形じゃないって・・!」
霞美に呼びかけられて、ララがようやく手を放す。手足を引っ張られたり体を締め付けられたりして、フューリーはヘトヘトになっていた。
「大丈夫、フューリー・・・?」
「はい、何とか・・・それにしてもこの人、すごい魔力を持っていますね・・・」
霞美の心配に答えながら、フューリーがララの魔力資質を感じ取った。
「今の霞美さんも分かるはずです。この人がすごい魔力を持っていることを・・・」
「フューリー・・・ホントだ・・ララからすごい力を感じる・・・」
フューリーに促されて、霞美がララの中にある大きな魔力を感じ取る。
「でも、いくら力がすごくたって、記憶をなくしているララを巻き込むなんてできない・・・戦わせるくらいなら、私が・・・!」
「霞美さんの気持ちは分かりますが・・あまりムリをしては・・・」
「ムリなのは分かってるよ。それでも誰かが危ない思いをしているのを、黙って見ているなんてできない・・・」
フューリーが心配の言葉をかけるが、霞美の気持ちは揺るがない。それを垣間見たフューリーも、真剣な面持ちになって頷いた。
「分かりました。霞美さんがそこまで決意しているのでしたら、私ももう迷いません。私の知る限りのことを打ち明けます。」
「ありがとう、フューリー。私もこの状況を、私の知っている限りのことを話すよ・・」
改めて結束を結んだフューリーと霞美。2人はそれぞれが抱えていることを打ち明けた。
そこで霞美はフューリーから、魔法に関することも聞いた。デバイス、地球とは違う次元世界、時空管理局など。疑問符を浮かべることは否めなかったが、霞美は何とか理解することができた。
「うう〜・・とにかく、私の魔法はトリニティクロスを介して発揮するってことなんだね・・」
「はい。デバイスを使わなくても魔法が使えないわけではないのですが、基本的に魔法はデバイスを使って発動されるのです。」
「なるほど・・・これからもよろしくね、トリニティクロス・・」
“OK,my master.”
霞美の呼びかけにトリニティクロスが答える。トリニティクロスは現在、十字架のペンダントのような待機状態となっていた。
「もしもイースがフューリーやみんなに襲い掛かるっていうなら、私は私の力でみんなを守る・・・!」
新たなる決意を胸に秘めて、霞美はこれから迫り来る戦いに立ち向かうのだった。
魔法エネルギーの調査のため、地球へと降り立ったスバルたち。彼らを迎えたのは、なのはの幼馴染みたちだった。
アリサ・バニングスと月村すずか。なのはやフェイトたちが魔導師であることを知る人物でもある。前回スバルたちが地球を訪れた際、すずかの家の庭を転送先、アリサのコテージを任務の拠点としていた。
「久しぶりね、スバルさん、みなさんも・・」
「お久しぶりです、すずかさん、アリサさん・・」
すずかが笑顔を見せると、スバルも微笑んで挨拶を返す。
「この前来たときは未熟って感じがあったけど、今はすっかりたくましくなっちゃったわね・・」
「あれからなのはさんたちに鍛えられましたからね・・」
アリサが感心の言葉をかけると、スバルが照れ笑いを浮かべる。
「今はそれぞれの部隊で頑張ってますけど、今回のようにみんなが集まることもあるんです・・」
「なるほどね・・ところでなのはたちは相変わらずなの?」
「えぇ、まぁ・・ヴィヴィオちゃんにだけは頭が上がらないみたいで・・・」
「なのはらしいわね・・・それにしても、今回は知らない顔もいるわね・・」
スバルとの会話をするアリサが、ナディア、ロッキー、クオン、ネオンに眼を向ける。
「心配するなって。オレがいる限り、どんなヤツが現れたって問題なしだぜ。ナディアちゃんの手を煩わせるようなことはしねぇぜ。」
「ずい分元気な子もいるんだね・・」
勝気な態度を取るロッキーに、すずかが苦笑いを見せる。
「とにかく、必要なものがあったら連絡して。すぐに届けるから。」
「ありがとうございます。ですがここまでしていただいた上にそのようなことまでお世話になるわけにはいきませんから。」
呼びかけるアリサにティアナが弁解を入れる。
「それでは早速、調査を始めましょう。何かが起こってからでは遅いですから。」
そこへナディアが声をかけ、ティアナが頷く。
「でもその前にひとつだけ。ここはミッドチルダと違って、魔法に精通した世界じゃない。あたしたちは前に来たことがあるから熟知しているけど、ナディア、ロック、クオン、ネオンは、ここでは無闇に魔法やデバイスを使わないこと。」
彼女が続けて注意を促していく。
「魔法が使えないのか!?・・ちょっと不便だなぁ・・」
「郷に入りては郷に従え、ですよ。」
ロッキーがため息をつくと、クオンが微笑んで言いかける。
「これからの調査は2人1組で行う。調査をすると同時に、ナディア、ロック、クオン、ネオンはこの近辺の地理を把握すること。」
「はい。ですが組み合わせはどうするのですか?」
ティアナの呼びかけにネオンが質問を投げかける。
「それはあたしが決めてある。スバルとナディア、あたしとロック、エリオとクオン、キャロとネオンよ。」
「えっ!?ナディアちゃんとペアじゃないのか・・気が進まねぇなぁ・・」
「ナディアだってこの近辺のことは知らないじゃない。それにアンタが1番暴走しやすいんだから・・」
文句を言うロッキーにティアナが言いとがめる。
「コロナはここで待機して連絡係をお願い。」
「分かりました。任せてください。」
ティアナの呼びかけにコロナが笑顔を見せて答える。
「それじゃみんな、調査開始よ!」
「了解!」
ティアナの呼びかけにスバルたちが答える。彼らは調査のため、外へと赴くのだった。
デルタが本格的な活動を介している間もえりなは療養を続けていた。
「りんごの皮が抜けたぞ。ちょっと形がいびつになっちまったが・・」
健一が皮をむいたりんごを差し出す。不器用な彼が向いたりんごは、形が凸凹になってしまっていた。
「ホントに下手だね・・でも嬉しいよ・・・」
「褒めてるのかけなしてるのか、分かんねぇなぁ・・・」
微笑みかけるえりなに、健一が呆れる。回復には向かっているが、えりなの眼はまだ完治してはいない。
「心配にならねぇんだな。クオンたちだけで現場に向かったそうじゃないか・・」
健一がクオンたちについて話を切り出した。えりなと健一には、今回のデルタの任務についてはあまり聞かされていなかった。彼女を療養に専念させるためである。
「大丈夫だよ。スバルさんやティアナさんたちも一緒だし、もうクオンもネオンも1人前だし・・」
「そんなもんか・・・これにジュンが加われば100人力だな・・」
「今はみんなのことを信じて、私はしっかりと眼を治すこと。それが私の任務。」
「オレももう少しはここにいなくちゃならねぇみてぇだ・・」
えりなの言葉を聞いて、健一が苦笑を浮かべる。仲間たちへの信頼を胸に秘めて、えりなは再びベットに横たわった。
フューリーの捕獲を命じたソニカ。だがイースの攻撃は地球にだけ向けられているわけではなかった。
「そろそろミッドチルダへの攻撃も開始しないとね・・」
「その役目はオレがする。時空管理局に自身の愚かさを思い知らせてやる。」
ソニカが妖しく微笑むと、セヴィルが戦意をむき出しにしてきた。
「攻を焦るのは禁物ですよ、セヴィルさん。相手も高い技術力と戦闘能力を備えているのですから、下手に飛び込めば捕まりますよ。」
「連中に恐れをなしていては何もできんぞ・・メガール様、私に是非先陣を切らせてください。」
コペンの忠告を一蹴して、セヴィルがメガールに懇願する。
「いいだろう。ただしリオとディオンと行動をともにしろ。」
「私たちもですか?・・分かりました。私たちも出撃します。」
メガールの言葉にリオが敬礼を送る。彼女とディオンが同行することに不服を覚えたが、セヴィルはメガールの命令に従った。
ミッドチルダ西部に降り立ったセヴィル、リオ、ディオン。彼らのいる森と崖の境目から、クラナガンを見渡すことが可能だった。
「まさか貴様らがついてくるとはな・・攻撃はオレだけでやる。貴様らは邪魔だ。手を出すな。」
「今回の攻撃は私たち3人で行うことになっています。命令違反になりますよ。」
「攻撃を成功させるには、オレだけでやったほうがいいのだ!じゃまをすれば貴様らも一緒に始末してやるぞ!」
リオの呼びかけを聞き入れず、セヴィルは単独でクラナガンに向かって飛翔していった。
「ムダだ、リオ。セヴィルは誇り高いと思い込んでおり、オレ以上の一匹狼だ。その誇り故に、若いお前や守護獣である私を見下している。我々の言葉を聞き入れたりはしない。」
「ですがこれでは命令違反です。メガール様から罰を受けることになるのは眼に見えています。」
「フン。お前もお前で意固地なところがあるな。私も同じようなものだから、人のことは言えんが・・」
真剣な面持ちで答えるリオに、ディオンが苦笑を浮かべる。
「危機でなければ監視に留めるぞ。深追いすれば我々に手を焼くことになる。」
「分かっています・・行きましょう、ディオン・・」
ディオンに呼びかけると、リオもクラナガンに向けて飛翔した。イースのミッドチルダ進攻が、ついに幕を開けるのだった。
同じ頃、シーマとハリアーもフューリーを捕獲するため、街を探索していた。地球での私服を身にまとっていた彼女たちは、周囲の人間たちに怪しまれることもなかった。
「この辺りにアイツがいるの?」
「あの娘と戦ったのもこの辺りだったんだから・・近くに隠れているはずよ・・」
不満を口にするハリアーに、シーマが憮然さを込めて答える。2人はいつしか街を離れ、海岸に出ていた。
「ちょっと、海に出たわよ。本当にこの近くにいるの?」
「魔力を抑えているの?虫みたいに手を焼かせるんだから・・」
フューリーを見つけ出せず、苛立ちを募らせるハリアーとシーマ。
そのとき、2人は見覚えのある人物を目撃し、眼を見開いた。それは宇宙に放り出したはずのジュンだった。
「そんな・・春日ジュン・・・!?」
「どうして!?アイツは宇宙に放り出したはず!生きているはずがない!」
たまらず声を荒げるシーマとハリー。
「こんなふざけたことがあっていいわけない!」
「この手で今度こそ始末してやるから!」
いきり立った2人がジュンと、そのそばにいるマコトとレイに向かって飛びかかっていった。
次回予告
ついに切って落とされた戦いの火蓋。
地球とミッドチルダ。
それぞれの世界で展開される激闘の連鎖。
ついに、一騎当千のエースたちが動き出す。
闇に虐げられし者と、闇に立ち向かう者・・・