魔法戦記エメラルえりなResonance
第2話「それぞれの飛翔」
突如眼の前に現れた少女。意識を失った彼女を連れて、霞美は自宅に戻ってきた。
どうしたらいいのか分からずにいた霞美は、ひとまず少女に自分の私服に着替えさせた。身長がほとんど同じだったのが幸いだった。
そして霞美はジョンへの連絡を試みた。彼女の身近な身寄りは彼だけだった。
しかしジョンが電話に出ることがなかった。
「ジョン神父、なかなか連絡がつかないんだよね・・・」
携帯電話をしまって、霞美がため息をつく。ジョンは携帯電話も持っていないため、教会にいないと連絡がつけられなくなるのだ。
「こうなったら、私が手当てをするしかない・・」
霞美は自分に喝を入れると、少女の介抱に取り掛かろうとする。だがそのとき、少女が意識を取り戻して起き上がろうとしていた。
「ダメだって!まだ寝ていないと!」
霞美が慌しく少女に駆け寄り、呼び止める。少女は霞美に困惑の面持ちを浮かべてきていた。
「・・・私・・誰?・・誰なの・・・?」
「えっ・・・!?」
少女がもらした言葉に、霞美が驚きの声を上げる。
「・・・もしかしてあなた、記憶がないの・・・!?」
霞美が声をかけるが、少女は困惑を浮かべるばかりだった。少女はえりなとの戦いでの衝突で、全ての記憶を失っていた。魔力を扱うこともできなくなり、自分の名前さえも思い出せなくなっていた。
「何か、分かることはないの?・・何でもいいから・・・」
「・・・ラ・・ラ・・・ララ・・・」
「ララ?・・ララ・・・よし!とりあえずあなたのことを“ララ”って呼ぶことにするね!」
少女がもらした言葉を頼りに、霞美は彼女を「ララ」と名づけた。
「ララ・・・?」
「そう、ララ。いきなりで悪いんだけど、とりあえずこう呼ばせて・・」
霞美が言いかけると、少女、ララは落ち着きを取り戻して微笑んだ。
「とにかくお医者さんに来てもらうから。私だけじゃどうしたらいいのか分かんないし・・」
霞美が言いかけて、病院に連絡をしようとした。
「イヤ!イヤアッ!」
そのとき、ララが悲鳴を上げてきた。その声を聞いて、霞美が電話の受話器を取ろうとしていた手を止める。
「やめて・・私をいじくらないで・・私をおかしくしないで・・・!」
「ララ・・・分かった・・でもそれで大丈夫なの・・・?」
体を震わせるララに、霞美はさらに心配の声をかける。しかしララは怯えた様子のまま答えない。
「・・・しばらく様子を見よう。でも本当に何かあったら病院に連れて行く。それでいいね?」
霞美の呼びかけにララは小さく頷いた。霞美が安堵を覚えて微笑みかける。
「何か食べられるものを作ってくるね。私、1人暮らしが長いから、料理も自給自足も人並みにできるの。ちょっと待っててね。」
霞美はララに言いかけると、キッチンに向かっていった。
霞美は幼い頃に家族を亡くしている。身寄りがいなかった彼女だが、ジョンの支えを受けながら、1人暮らしを続けてきたのである。
傷ついたり孤独に陥っている人を見過ごすことができない。それが霞美の性分となっていた。
えりなの見舞いを果たした明日香は、なのは、フェイト、ヴィータとともにデルタ本部に赴いていた。そこで彼女たちは親友との再会を果たした。
豊川玉緒。時空管理局特別捜査官。出向扱いとなるえりなや玉緒たちとは違い、彼女は正式なデルタの隊員である。「パンドラ事件」に巻き込まれるも、えりなたちとともに事件を解決。以後、魔導師として活躍を行っている。
アレン・ハント。デルタのサブコマンダーで、えりなたちの友人である。格闘術を母、クリスから、魔法をなのはから教わっている。現在ではロア事件にて保護観察に置かれた面々で構成された特別編成部隊「トリニティ」の部隊長も兼任している。
「久しぶり、玉緒、アレン。元気そうだね。」
「久しぶりだね、明日香ちゃん。えりなちゃんのことは聞いたよ。あたしも時間があればお見舞いに行ってあげたいけど・・」
挨拶をする明日香に、玉緒がえりなへの心配の声を上げる。
「えりななら大丈夫だよ。健一がついてるから。」
「みんなが待っていますよ。まだ全員が集まっているわけではありませんが・・」
なのはが呼びかけると、アレンが声をかける。そこへはやてとともに、1人の女性がやってきた。
シグナム。ヴォルケンリッターの将にして、剣の騎士。ヴィータと双璧をなすにヴォルケンリッターの攻撃の要である。
はやてとシグナムもユウキからの連絡を受けて、デルタ本部に赴いていた。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、久しぶりやね。」
「また会えて嬉しいよ、はやて。シグナムも元気そうだね。」
「お前も元気そうで何よりだ、テスタロッサ。また模擬戦をさせてもらうぞ。」
微笑みかけて言葉を交わすはやて、フェイト、シグナム。
「もう既にここでたくさん模擬戦をこなしていますよ、シグナムさんは。ヴィッツさんやダイナさん、ライムさんとも。」
「ライムもここに来ているの?それじゃライムもたくさん模擬戦を行ってるね。」
アレンの言葉を聞いて、フェイトが笑みをこぼす。
小室ライム。時空管理局執務官で、なのはたちの親友。かつては特務部隊「ハイネ隊」に所属所属していたが2年前に部隊を離れている。スピードを重視した魔法とスタイルを備えており、速さだけなら管理局の中で右に出る者はいないとまで言われている。
「アイツも相変わらずのバトルマニアぶりだぜ。ついていけねぇよ・・」
ライムの活発ぶりにヴィータが呆れる。
「私も模擬戦を挑まれそうだね・・でもその前に、みんなとの再会を果たさないとね。」
苦笑いを浮かべつつ、フェイトが明日香たちに呼びかける。
「アイツらがどこまで成長したか、見定めるとするか。」
不敵な笑みを見せるヴィータ。彼女たちは仲間たちとの再会のため、歩き出した。
スバル、ティアナ、クオン、ネオンも仲間たちとの再会を分かち合っていた。
エリオ・モンディアル。騎士を目指して鍛錬に励んでいる。かつて保護施設にいた頃は疑心暗鬼に陥っていたが、周囲からの支えを受けて立ち直っている。
キャロ・ル・ルシエ。世界で数少ない竜召喚士の1人。高い潜在能力を危険視されて一族を迫害されたが、管理局からの保護とエリオとの絆で勇気と優しさを取り戻していった。
コンビで数々の任務をこなすことが多かった2人は現在、自然保護隊に所属。自然保護に尽力を注いでいる。
ナディア・ワタナベ。活発で天真爛漫な性格をしているが、年下や後輩にも敬語を使うなど、礼儀も持ち合わせている。ナカジマ家のものとは別種の「シューティングアーツ」を習得しており、ジェットブーツ型デバイス「シティランナー」を併用した足癖のある攻撃方法を取る。
ロッキー・トランザム。非常に感情的で、当初は時空管理局の対応に怒りを感じていたが、ジャンヌに保護されたのを機に管理局の中で自分を貫く決意をする。飛行能力は会得していないが、身体能力が高く、特に跳躍力が優れており、上空にいる相手へも十分に狙いを付けられる。新型アームドデバイス「ブレスセイバー」を使用した多種多様の攻撃方法を取る。
4人もユウキの推薦を受けて、デルタ本部に赴いていた。
「お久しぶりです、みなさん。またこうしてみなさんと任務を行えて、とても光栄です。」
「私も嬉しいです。フリードもみなさんと会いたいと楽しみにしていましたからね。」
エリオとキャロが微笑みかける。彼女のそばにいる白い小型の竜も声を上げる。
フリードリヒ。「白銀の飛竜」の異名を持つキャロのパートナー。普段は小型の竜の姿をしているが、「竜魂召喚」を経て巨大な真の姿を現す。
「オレはナディアちゃんと一緒なら、たとえ火の中、水の中ってな!」
「この調子でいつも親切にしてくれて嬉しいんですが、少し歯止めが利かなくなるときがありまして・・」
意気込みを見せるロッキーに、ナディアが苦笑いを浮かべる。
「それで、今回の任務について何か聞いていませんか?僕たちも詳しく聞かされていないのですが・・」
話を本題に移すエリオに、スバルとティアナが真剣な面持ちを見せる。
「みんな集まったようだな。」
そこへユウキと仁美がやってきた。スバルたちが2人に敬礼を送る。
「かしこまらなくていい。今度も気分を落ち着けてやっていこう。」
「そうそう。あんまり気を張り詰めると疲れてくるよ。」
ユウキに続いて声をかけてきたのはライムだった。
「小室執務官・・お久しぶりです・・」
ティアナが微笑みかけて、ライムと握手を交わす。
彼女のそばにはもう1人の女性がいた。ジャンヌ・F・マリオンハイト。なのはやライムたちの親友で、デバイスや兵器の開発や試験に着手している。回復魔法の他、重力、空間操作の魔法を得意としている。
ジャンヌは現在、後見人のアンナ・マリオンハイト、跡を継いで、第一技術部の主任を務めている。
「Sクラス以上の魔導師や騎士がここまで揃うなんて・・そんなに大がかりな任務なんですか・・・?」
キャロが困惑気味に質問を投げかける。それに答えたのはジャンヌだった。
「平たく言うとそうなるかな。正確には任務の範囲が広くて、部隊を分割する必要があるんだけど。」
「それってどういう・・・?」
「私たちがここに来たのは、派遣されるあなたたちの代役を務めるため。それとあなたたちのためになるとみんなで判断したため。」
ジャンヌの言葉にスバルたちがさらに疑問を浮かべる。
「君たちにはある場所に向かってもらう。そこで断続的に発生している魔力の調査を行ってほしいんだ。」
「了解しました。それでその場所とは・・?」
ライムの言葉にティアナが質問を投げかける。するとライムが笑みを見せて話を続ける。
「第97管理外世界・・僕たちの故郷だよ・・」
ライムが告げたその言葉にスバルたちが戸惑いを覚える。エースたちの故郷へ、スバルたちは再び赴くことになった。
スバルたちの地球への派遣。これを最初に提案したのはユウキだった。
本来ならば地球出身であるえりなやなのはたちが向かうのが妥当なのだが、スバルたちのためを思って、ユウキが計らいを持ちかけたのである。
彼のその考えになのはたちは同意した。たくましくなったスバルたちを信頼しての見解だった。
デルタのフォワードであるクオン、ネオンも同行することになり、フォワードの代役としてなのはたちがデルタに赴いたのである。
「エリオとキャロ、大丈夫かな?・・スバルやクオンたちも一緒だけど・・」
「相変わらず心配性ですね、フェイトさんは・・」
不安を浮かべるフェイトに、明日香が笑みをこぼす。
「あたしらが鍛えてやったのを忘れたのか?起動六課が解散した後も、アイツらはそれぞれの持ち場で成長していってる・・」
ヴィータが気さくな笑みを見せて言いかける。その言葉に玉緒、なのは、はやてが頷く。
「みんな一生懸命にやっているんです。ここは信じてみましょう。」
玉緒が言いかけて、明日香とともに空を見上げる。
「もう1度地球に帰りたい・・でもそのときは、えりなちゃんと健一くんと、みんな一緒に・・・」
「・・そうだね・・えりなと健一を仲間はずれにしたらいけないよね・・・」
玉緒と明日香がえりなと健一のことを思い返していた。えりながいたから、明日香も玉緒も健一も、道を外れずに済んだり、自分の進むべき道を見出すことができた。
一時的に戦線を離脱しているえりなと健一の分まで、自分たちもやりぬく。それが明日香と玉緒の決意だった。
突然の襲撃を受けて意識を失ったジュン。彼女が眼を覚ましたのは、薄暗い見知らぬ部屋だった。
「ここは・・・?」
もうろうとする意識のまま、ジュンは立ち上がる。だが周囲には透明な壁が張られており、彼女はその中に閉じ込められていた。
「ガラスの檻?・・とにかくここから出ないと。閉じ込められたままじゃ危険よ・・・」
脱出を試みるジュンが、自分の持つデバイスに意識を傾ける。
「フレイムスマッシャー、フレアブーツ・・あれ?」
だがジュンの呼びかけにフレイムスマッシャー、フレアブーツが反応を見せない。
「どうしたっていうの・・私の声が届かないはずは・・・」
「残念だけど、あなたのデバイスは2機とも機能停止にさせていただきました。」
困惑したジュンに向けて声がかかる。彼女の前にコペンが姿を現した。
「あなた・・・!」
「ここはアクレイム。我々イースの第一級次元航行艦です。」
身構えるジュンに、コペンが淡々と語りかける。
「イース・・アンタたち、ホントに何者なのよ・・私をどうしようっていうの・・・!?」
「これ以上の無礼は許しませんよ。間もなくメガール様がお見えになります。」
さらに問い詰めるジュンに、コペンが冷徹に告げてくる。
「こんな小娘が我々の戦力になるというのか?」
そこへ1人の男が部屋にやってきた。逆立った金髪と長身、鋭い眼つきが特徴だった。
「当然です。先ほどは力を封じ込めましたが、本来は幼いながらかなり高い魔力と戦闘能力を発揮します。メガール様はそれを高く評価しています。それを侮辱する言葉は慎みなさい、セヴィルさん。」
コペンに言いとがめられて、男、セヴィルが言葉を詰まらせる。
「ここはその子の潜在能力に期待しましょう。メガール様の見込まれた子なのですから・・」
そこへ1人の少女が姿を現し、声をかけてきた。長く紅い髪を背中の辺りで結わいて束ねている。
「小娘の分際で気安く声をかけるな、リオ。メガール様のお眼鏡に適っていなければ、すぐにでも剣の錆にしてくれるのに・・」
「私を女子供として見ないほうがいいですよ。たとえ同士であっても、攻撃してくるならば容赦はしません。」
冷徹に告げるセヴィルだが、少女、リオは毅然とした態度を保つ。
「くだらないことで張り合うな。勝敗に関わらず後味が悪くなるぞ。」
そこへ1匹の黒い狼が声をかけ、セヴィルとリオをいさめる。
ディオン。かつて同族の中でも指折りの力の持ち主と恐れられた狼を祖体としているリオの守護獣である。リオに助けられたことへの恩義と、彼女の性格と意思との共感から、彼女とともに戦うことを誓った。
「そろそろメガール様が来るわよ・・」
さらにソニカが姿を現した。彼らの異様な雰囲気に、ジュンは固唾を呑んでいた。
しばらくして、鎧を身につけた1人の男がやってきた。その男にコペンたちが頭を下げる。
メガール。イースの攻撃兵団の最高司令官である。
「春日ジュンの捕獲、ご苦労だったな、お前たち。」
「ありがたきお言葉・・」
メガールが声をかけると、コペンが敬意を払って答える。彼から発せられる威圧感を痛感して、ジュンが緊迫を募らせる。
「あなたたち、本当に誰なの?・・私に何の用なの・・・!?」
「貴様、メガール様に何という口を・・!」
ジュンが訊ねると、セヴィルが怒号をあらわにする。だがすぐにメガールに制される。
「我らはイースから派遣された者。かつて我らはミッドチルダによって壊滅の危機に瀕した。」
「イース・・・ミッドチルダが、あなたたちを壊滅に・・・!?」
メガールが語りかける言葉に、ジュンが驚愕を覚える。
「3年前、ミッドチルダはイースに向けて新型兵器の実験を行った。兵器に搭載されていた魔力や核エネルギーは、イースに破壊だけでなく、大気、自然の汚染をも生み出した。多くの住民が息絶え、今でも死に直面している者も後を絶たない。」
「そんな!?ミッドチルダがそんなことをするはずがない!ミッドチルダは時空管理局を筆頭にして、次元世界の秩序と平和を守り続けてきた!罪のない人に向けて破壊行為を行うなんて、絶対にありえない!」
メガールの口から語られる事実に、ジュンがたまらず声を荒げる。そこへコペンが口を挟んできた。
「言葉を重ねても理解できないというならば、その眼で見るのが効果的でしょう。」
ジュンに言いかけると、コペンはアクレイムのコンピューターにアクセスする。すると部屋のスクリーンに映像が映し出される。
その映像の中の世界に、ジュンは見覚えがあった。ミッドチルダ首都、クラナガンである。
クラナガンから1隻の航行艦が発進した。船は次元航行を行い、ある宇宙空間までワープしてきた。
そして航行艦から1機のミサイルを発射した。ミサイルはある距離まで進むと、爆発を起こして閃光を煌かせた。
「この爆発に巻き込まれたのが、私たちの故郷、イースよ・・・」
ソニカが冷淡な口調で言いかける。その言葉が胸に突き刺さり、ジュンが愕然となる。
「お前たちミッドチルダは、当時一切の侵略行為を行っていなかった我々を、新型兵器の実験の標的にしたのだ。そのために我々は絶滅の危機に陥った。」
「我々はイース復興を目標として行動している。その主な任務は2つ。ミッドチルダへの報復と、地球の侵略だ。」
続けて語りかけてきたセヴィルの言葉に、ジュンは眼を見開く。
「どういうつもりなの!?どうして地球が出てくるの!?ミッドチルダがそんなことをするはずがないし、地球も関係ない!」
「地球の人間なんて鬱陶しいだけなのよ。」
声を荒げるジュンに、ソニカが冷淡に答える。
「ミッドチルダには及ばないものの、自然に恵まれて高い文明を持っている。それなのに資源をムダにして、さらに自分たちが1番だと天狗になっている・・私たちが地獄を味わっているのに・・・!」
怒りを抑えきれなくなり、ソニカがそばの壁を殴りつける。彼女の怒りにジュンが息を呑む。
「このまま地球人を好き放題にさせていたら、地球もいつか滅びてしまう。そうなる前に地球を支配して、文明を引き継ぐのも私たちの任務なのよ。」
「ふざけないで!いくら復讐や生き残りだからって、他の星を襲っていいことにはならないわよ!」
妖しく微笑みかけるソニカに、ジュンが憤りをあらわにする。見えない壁に両手を叩きつける彼女だが、全くビクともしない。
「結局は自分たちが生き残るためのやり方。そんなの時空管理局も地球人も同じじゃないの。」
ソニカが妖しい笑みを消さない。憤りを募らせていくジュンだが、抗議の言葉が見つからなかった。
「我々イースは自然、文化の管理を厳重に行っている。地球の資源においても、我々は十分に管理できる。」
メガールがジュンに向けて話を続ける。
「春日ジュン、我々イースの救済のために、お前の持つ強大な力を振るってはくれないか?」
「どういうつもりよ・・どうして私を・・・!?」
メガールの申し出に疑問を投げかけるジュン。それにコペンが補足する。
「私たちはあなたに関する調査を行っています。それだけでなく、時空管理局の主力となる局員は大方調査を進めています。春日ジュン、あなたが戦闘機人、ジェネシス・サンとして改造されていることも知っています。」
その言葉にジュンは緊迫を覚える。
「戦闘機人」。人の体と機械を融合させた人造人間。生身の人間が改造されて生み出されたケースも出てきているが、倫理的問題から違法として扱われている。
ジュンはかつて事故で瀕死に陥った際、戦闘機人への改造手術を受けて蘇った。そのため、彼女は普通の人間を超える潜在能力を宿すこととなった。
「あなたは普通の人間じゃない。だからわざわざ人間に味方する必要はないと思うんだけど?」
ソニカがからかうようにジュンに言いかける。
「確かに私は普通の人間じゃない。それでも私は人間のつもりでいる・・私と同じように、普通の人間じゃなくても人間として頑張っている人たちがいる・・だからアンタたちの誘いには絶対に乗らない!」
「それがお前の答えか・・その答えを変えるつもりはないか・・」
メガールが念を押すが、ジュンは考えを改めない。自分の仲間や故郷を売り渡すようなマネを、彼女はしたくなかった。
「ならばもはや、お前も我々の敵でしかない・・・」
メガールが敵意の視線を送ったときだった。突如ジュンの足元に穴が開いた。
「えっ!?」
声を上げるジュンが、なす術なくその穴に落下する。
「春日ジュン、あなたはこのまま破滅の末路を辿るのです。たとえ戦闘機人であっても、宇宙の荒れ狂う流れに身を任せて生き延びることはできません・・」
消え行くジュンに向けて、コペンが冷淡に告げた。
イースによって宇宙に放り出されたジュン。無重力の空間のために踏みとどまることができず、彼女は宇宙を流れていた。
(お願い・・フレイムスマッシャー・・フレアブーツ・・・このままじゃ私たち、確実におしまいだよ・・・)
胸中で自分のデバイスに呼びかけるジュンだが、フレイムスマッシャーもフレアブーツも反応しない。
(私、こんなことで終わってしまうの?・・事故のときは改造されて助かったけど、宇宙に放り出されたら、さすがにダメだよね・・・)
絶望感に襲われて、ジュンがクオンやネオン、たくさんの親友たちの顔を思い浮かべていた。
(ネオン・・えりなさん・・マコト・・・クオン・・・みんなともう1度、会いたかったよ・・・)
親友に会えなかったことを悔やむジュン。彼女は一切の体の自由が利かないまま、宇宙を流れていった。
霞美が少女、ララを保護してから一夜が過ぎた。
自分なりにでもララの助けになりたいのが、霞美の一心だった。霞美はララに効きそうな薬を探しに出かけていた。
(う〜ん・・これで効いてくれればいいんだけど・・・)
霞美が薬のひとつを見つめて、困り顔を浮かべる。それでも何とかしてララを助けたい。彼女の気持ちに変わりはなかった。
急いでララのいる自宅に帰ろうとしたときだった。空から小さな何かが霞美に向かって落下してきた。
「えっ!?」
それをよけきることができず、霞美が顔面をぶつけられる。その小さなものは、霞美の顔から転がるように彼女の右肩に落ちて止まる。
「イタタタタ・・とっても痛いのです〜・・・」
小さなものが頭に手を当てて泣き言を口にする。その姿を目の当たりにした霞美が、驚きのあまりに言葉が出なくなる。
その小さなものは、大きさこそ異なるが、姿かたちは人そのものだった。
「あ、すみません・・あの、お怪我はありませんでしたでしょうか・・・?」
「え、あ、うん、まぁ・・・ところで君は誰?・・どこかのおとぎの国から出てきた小人・・・?」
謝る小さな少女に、霞美は困惑気味に訊ねる。
「えっと・・・まずひとつ、ここはどこですか?・・何という星ですか・・・?」
「星って・・もしかして君、宇宙人ってこと・・・!?」
質問を返すも逆に霞美を困惑させてしまい、少女は動揺を膨らませてしまう。
「と、とにかくどこか誰もいないところに連れてってもらえませんでしょうか?・・騒ぎになると困るので・・・?」
「誰もいないところって・・そこで私に何かするんじゃ・・もしかして洗脳とか・・・!?」
「そ、そんなことしませんし、できませんよ〜!」
不安を浮かべる霞美に、少女が慌てて弁解する。
「とにかく私の家に行くから。そこでちゃんと話を聞くからね・・」
「残念だが、そこの小さな女の子を渡してもらえるかしら?」
そこへ突然声をかけられて、霞美が振り向く。その先にいる長い黒髪の女性に、少女は恐怖を浮かべる。
「その子は私たちのペットなの。渡してもらえればすぐに立ち去るから・・」
「その人、あたしを追ってきたイースの人です・・悪いことを企んでいるのを知ったから、あたし、逃げてきたんです・・・」
呼びかけてくる女性に対し、少女が霞美に言いかける。
「騙されないで。その子こそ悪いことを考えてるの。私はそれを止めようとしているだけ。」
女性も少女の言葉をさえぎるように言いかける。呼びかけてくる2人を霞美が交互に見る。
「その子を逃がせば大変なことになる。だから私に渡して・・」
「申し訳ないんだけど、この子はあなたには渡せない・・・」
霞美が切り出した言葉に、少女が戸惑いを覚え、女性が眉をひそめる。
「あなたは今、この子をペットっていった・・小さいけど姿かたちは人間・・そんなこの子をペット扱いするあなたが、とてもみんなに優しくしているとは思えない・・・!」
自分の気持ちを言い放つ霞美に、少女が動揺を隠せなくなる。
そのとき、少女は自分が手にしていた十字架が淡い光を放っていることに気付く。
「ずい分と勘のいいお嬢さんだね・・素直に話を聞いてくれれば、スムーズに事が運んだのに・・・」
女性が落胆の面持ちを見せると、霞美と少女に鋭い視線を向ける。その殺気に2人に緊張が走る。
「ここまで見ることになったなら、もう始末するしかないわね・・・」
「危ない!逃げて!」
眼を見開いた女性に対し、少女が声を張り上げる。直後、女性がかざした右の手の平から、一条の光線が放たれた。
「キャッ!」
とっさに回避する霞美は、少女を抱えて駆け出していく。
「いったいどういうことなの!?どうして君を狙ってるの!?」
追ってくる女性から必死に逃げながら、霞美が少女に呼びかける。だが少女は光を宿す十字架をじっと見つめていた。
「その十字架、どうしたの!?・・光ってる・・・!?」
「もしかしたら・・・“トリニティクロス”は、あなたに反応しているのかもしれません!」
「トリニティクロス!?」
少女が呟くように口にした言葉に、霞美がさらに声を荒げる。
「お願い、このトリニティクロスに念じてみて!あなたなら使いこなせるかもしれません!」
「えっ!?私が、この十字架を!?」
突然の少女の呼びかけに霞美がまたしても声を荒げる。その間にも、女性が2人を追って光線を放ってきていた。
「このまま逃げていられない・・一か八か、やってみるしかない・・・!」
意を決した霞美が、その十字架、「トリニティクロス」を手にして念じる。
(お願い、何とかして・・この子を守りたい・・みんなを守りたいの・・・!)
霞美の祈りが伝わったのか、十字架の光は一気に強まる。そしてその十字架からひとつの鍵が飛び出してきた。
「この鍵・・・」
「その鍵を鍵穴にさして回して!」
当惑する霞美に少女が呼びかける。その言葉に促されて、霞美がトリニティクロスに鍵を差し込む。
“Standing by.”
トリニティクロスから機械的な音声が発せられる。
“Complete.”
鍵が回された瞬間、トリニティクロスの形状が変化を起こす。同時に霞美の体にも光が宿る。
彼女の体を包み込んだ炎が、新たなる衣服を形成する。その形状は西洋の騎士服を思わせるものだった。
トリニティクロスも、十字架から剣へと形を変える。紅い衣服と剣を得た霞美が、驚きを隠せなくなる。
「えっ!?・・私、どうなってるの・・・!?」
非現実的な出来事に、冷静さを保てなくなる霞美。彼女の運命が今、幕を開けたのだった。
イースによってデバイスを停止され、宇宙へと放り出されたジュン。どうすることもできないと痛感した彼女は、死を覚悟していた。
だが、意識を取り戻した彼女が眼にしたのは、黒く暗い宇宙ではなく、青く澄んだ大空だった。
「空・・・!?」
たまらず飛び起きるジュンだが、体の悲鳴を訴える痛みを覚えて、顔を歪める。
「痛みが残ってる・・天国じゃない・・生きてる・・・!?」
「眼が覚めたんだね・・よかった・・・」
自分の置かれた状況が把握できていないジュンに、突然声がかかった。振り向いた彼女は、その先にいた人物に動揺を覚えた。
「久しぶりだね、ジュン・・・」
「マコト・・・マコトなの・・・!?」
笑顔を見せてきた少女に、ジュンは見覚えがあった。彼女の幼馴染み、秋月マコトだった。
次回予告
覚醒を果たし、追っ手と対峙する霞美。
事件の真相を暴くべく、地球へと降り立つスバル。
少年少女たちの思惑が交錯する中、イースの本格的な策略が開始される。
2つの世界で幕を開ける、壮絶なる戦い・・・