魔法戦記エメラルえりなResonance

第1話「戦いの夜明け」

 

 

自分自身の夢に向かって続いていくそれぞれの道。

時には交わり、時にはぶつかり合い、時には同じ道を進んでいく。

 

自分の夢へ導くもの。

それは信念、絆、優しさ。

 

それぞれの心が今、激しさを増して交錯する。

 

 

 新暦79年4月6日

 

 第97管理外世界「地球」、鈴宮(すずみや)市。

 その一角にある教会に、1人の少女がお祈りに来ていた。

 三重野(みえの)霞美(かすみ)。短期大学に通うことになった18歳。

 霞美はよくこの教会に足を運んでいた。受験の前、ケンカをした後など、人生の転機や悩みを感じたときに、彼女はそこに来るようにしていた。

 祈りを捧げることで、緊張を和らげることができる。悩みが解消される。彼女はそう思っていた。実際解決したことが多い。

(これからの新しい学校生活もエンジョイできますように・・)

 一途の願いを込めて祈りを捧げる霞美。そこへ1人の神父がやってきた。

 ジョン深沢(ふかざわ)。この教会の神父。神職に就いている彼だが、顔立ちがよく、女性からの黄色い声援を受けることが多い。このことに彼は神父として気まずいと感じていた。

「今日から新しい学校生活の始まりだね、霞美ちゃん。」

「ジョン神父・・はい♪私、これからも頑張っていきます♪」

 優しく声をかけるジョンに、霞美が笑顔で答える。

「よくここに来てくれるのはうれしいけど、あまり神頼みするのもどうかと思うよ。神父の僕がこんなことをいうのもおかしいけど・・」

「それは分かってます。ただ、こうしてお祈りに来ると、気持ちが引き締まってくるんですよね・・今までもそうでしたし・・」

 屈託のない会話をするジョンと霞美。

「それじゃジョン神父、いってきます♪」

 霞美はジョンに挨拶すると、学校に向かっていった。

 これからも和気藹々とした日常が過ぎていく。霞美はそう思っていた。

 これから巻き起こる運命を知らずに。

 

 様々な次元の中で、多くの世界が存在する。その中枢に点在している世界「ミッドチルダ」。

 ミッドチルダには、多くの次元世界に関する法や事件を管轄する「時空管理局」が存在する。多くの魔導師、騎士が局員として活躍する管理局は、現在も世界の平和のために活動を続けている。

 そのミッドチルダから数百キロ離れた無人の惑星「リーン」。わずかな自然だけが残る小さな星である。

 そこで今、時空管理局は壮絶な戦いを繰り広げていた。強大な魔力を秘めた少女と、彼らは対峙していた。

 状況は劣勢だった。少女がもたらす驚異の力が、徐々に管理局の武装局員たちを追い詰めていっていた。

「第3部隊、負傷者多数!医療班の救援を求む!」

「このままではこちらの防衛線も突破されてしまいます!」

 武装局員たちが連絡を掛け合う。その間にも少女は、局員に向けて魔力を放射させていた。

「もう少し持ちこたえろ!そうすれば必ず増援が来る!」

 声を掛け合って耐え忍ぶ局員たちに、少女が無表情のまま右手をかざし、魔力を集束させていく。

 そのとき、一条の閃光が少女に向けて放たれた。それに気付いた少女が魔力の発射を思いとどまり、閃光を回避する。

 上空で停滞する少女が無表情のまま振り向く。その視線の先には、もう1人の少女の姿があった。

 坂崎(さかざき)えりな。1039航空隊所属。戦技教導官として活躍する魔導師。その類稀なる戦闘力と実績から、「エースオブエース」の1人と呼ばれている。

 えりなは地球出身の少女で、魔法事件に巻き込まれたことで魔導師として活躍するようになった。彼女は今、自分の道を見つけ、正義と平和のために戦いながら、戦技教導官として新人たちの育成も行っている。

「おお!坂崎教導官だ!」

「エースオブエースが来てくれたぞ!」

 局員たちが歓喜の声を上げる。えりながグラン式オールラウンドデバイス「ブレイブネイチャー」を構えて、少女を見据える。

 各次元世界に点在する魔法術式は大きく分けて3種存在する。最も一般的とされているミッドチルダ式、攻撃力と対人戦闘に特化したベルカ式、この2つを掛け合わせたグラン式である。またベルカ式は従来のものを古代ベルカ式、ミッドチルダ式の要素を組み込んだ近代ベルカ式に分けられる。

 混同されがちなグラン式と近代ベルカ式だが、ミッドチルダ色が強いグラン式と、ベルカ色の強い近代ベルカ式に意味合いが分けられている。

「行くよ、ブレイブネイチャー。」

Yes,my master.”

 えりなの呼びかけにブレイブネイチャーが答える。少女は彼女を次の標的にして、魔力を集束させる。

Leaf sphere.”

 ブレイブネイチャーから光の弾が出現し、少女に向かって飛んでいく。だが少女は球状の障壁を展開して、弾を弾き返す。

(すごい戦闘力を持っているのは感じていたけど、ここまでとは・・・ここは接近戦に持ち込んで・・・!)

Saver mode.”

 思い立ったえりなと、「セイバーモード」へと形状を変えるブレイブネイチャー。光の刃を発したデバイスを構えて、彼女は少女に飛びかかる。

 光刃が障壁に衝突し、激しく火花を散らす。その余波が周囲にも及んでいく。

 そして光刃と障壁が同時に、ガラスのように粉砕する。

「くっ・・・!」

 その反動でえりなと少女が後退する。だが少女はすぐに体勢を整えて、えりなに向けて魔力を放出する。

Breeze move.”

 えりなは高速で移動して、少女の魔力を回避する。距離を取ったえりなだが、少女の潜在能力の高さに毒づいていた。

(人としての心が見られない・・追い詰められているはずなのに、それを表に出していない・・・)

 少女に対して思考を巡らせるえりな。

(それにあの顔・・スバルさんにそっくりじゃない・・・)

 えりなは少女に対して当惑を覚えていた。少女はえりなの知り合いの顔にそっくりだった。髪が紅いことと無表情であることを除けば瓜二つだった。

(顔に騙されてはいけない・・相手はスバルさんじゃない。無差別に攻撃を繰り返す別人・・・!)

 迷いを振り切ったえりなが意識を集中する。

「ブレイブネイチャー、いきなりだけどスピリットモード、行くよ・・・!」

Please leave it,master. If you do not have the hesitation, I do not have the hesitation either. (任せてください、マスター。あなたに迷いがなければ、私にも迷いはありません。)

 えりなの呼びかけにブレイブネイチャーが答える。

「それじゃ行くよ・・ブレイブネイチャー、スピリットモード!」

Spirit mode,ignition.”

 えりなの呼びかけを受けて、ブレイブネイチャーがフルドライブモード「スピリットモード」へと形を変えていく。スピリットモードは魔力を光の槍の形状にして相手に叩き込む形態であり、絶大な突進力と破壊力を持つ。

 えりなは光刃を発したブレイブネイチャーを構えて少女に飛びかかる。少女が再び障壁を展開するが、ブレイブネイチャーの光刃に突き破られる。

「このまま一気に押し切る!」

Spirit rancer,drive charge.”

 えりなは魔力を集束させて、突撃に備える。少女も全身に魔力を集束させて、彼女を迎え撃とうとしていた。

「スピリットランサー、ソウルクラッシュ!」

Soul clash.”

 飛び出したえりなが突き出した光刃と、少女が発した膨大なエネルギーが衝突した。2つの力がぶつかり合ったことでまばゆい閃光がほとばしり、周囲を揺るがした。

 その閃光に周囲にいた局員たちもたまらず眼をつぶったり、防護体勢を取ったりした。

 やがて光が治まり、局員たちが視線を戦場に戻した。舞い上がる煙も晴れて、宙に漂うえりなの姿が現れる。

 少女は姿を消していた。えりなとの衝突で消滅したのか、それともこの閃光に紛れて姿を消したのか、定かではなかった。

「やった!坂崎一等空尉が勝った!」

「我々は助かったんだ!」

 局員たちが歓喜の声を上げる。だがその直後、えりなに異変が起きた。

 彼女が突如ふらつき、落下していく。その彼女を見て、局員たちが血相を変える。

「いけない、坂崎空尉が!」

 局員の数人が慌てて駆け出し、えりなを受け止める。この行為で彼女は地面に衝突するのを免れた。

「坂崎さん!しっかりしてください、坂崎さん!」

 局員が必死にえりなに呼びかける。だがえりなはここでは意識を取り戻すことはなかった。

 

 この壮絶な戦いから一夜が明けた。

 ミッドチルダ北部ベルカ自治領にある聖王医療院。その一室でえりなは療養していた。

 彼女の眼には包帯が巻かれていた。少女との最後の衝突の際に凄まじい閃光を直接眼に受けて、視力が麻痺してしまい眼が見えなくなってしまった。だが完全に失明したわけではなく、彼女は回復に向けて療養していたのである。

 そんなえりなの病室に、1人の青年がやってきた。

 (つじ)健一(けんいち)。えりなの幼馴染みであり、時空管理局でもともに仕事をこなすことが多い。教官資格を取得しており、時折部隊の教育や訓練に立ち会うこともある。

 健一は負傷したえりなの見舞いに来ていた。

「ったく。相変わらずムチャするんだから、お前は・・」

 えりなの行動に健一が苦言を呈する。それを受けてえりなが苦笑いを浮かべる。

「だって私がやらなかったら、今頃みんなやられてたよ・・」

「だからって、お前がムチャして、お前に何かあったらどうすんだよ・・今度は命を落とすかもしれなくなるぞ・・」

 屈託のない会話を繰り返すえりなと健一。そのとき、2人のいる部屋のドアがノックされた。

「はい、開いてます。」

 えりなが答えるとドアが開かれ、1人のシスターが入ってきた。聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラである。

「眼の調子はいかがですか、えりなさん?」

「シャッハさん・・10日ほどで見えるようになるそうです・・事前に何度か検査が入りますけど・・」

 シャッハが訊ねると、えりなが微笑んで説明する。

「それはよかった・・・それと、えりなさんにお客さんですよ。」

「お客さん?誰ですか?」

「明日香さん、なのはさん、フェイトさん、騎士ヴィータです。」

 シャッハからの言葉を聞いて、えりなの表情が曇った。

 高町(たかまち)なのは。えりなと並ぶエースオブエース。彼女と同じ地球出身の魔導師で、航空隊所属の戦技教導官でもある。

 2人は後輩と先輩という関係だけでなく、ライバルでもあった。それぞれの信念の違いから衝突することもあり、以前はそれが原因で世界の危機の引き金を引いてしまったこともあった。だが現在は互いに落ち着いており、お互い競争の相手であり、それぞれ後進の育成に力を入れている。

 町井(まちい)明日香(あすか)。時空管理局1831航空隊所属魔導師。地球出身で、「カオスコア事件」にてえりなと邂逅。それ以後、彼女とは公私ともに交流を深めている。

 フェイト・(テスタロッサ)・ハラオウン。時空管理局執務官であり、なのはの親友である。明日香は彼女と仕事をしたことも少なくなく、交流を深めている。

 ヴィータ。夜天の魔道書の主に仕える守護騎士「ヴォルケンリッター」の鉄槌の騎士。夜天の主にしてなのは、フェイトの親友、八神(やがみ)はやてとともに特別捜査を行っている。

「やれやれ。1人突っ走って、事態を収めたものの眼が見えなくなるなんて・・」

 ヴィータがえりなの行動に呆れて、ため息をつく。

「その点は面目ないです・・ですが、こうしたほうが最善手であると、私は判断しました。そうしなければ、被害はこんなものでは済まなかった・・」

 えりなは深刻な面持ちで言いかける。

「それでも他の方法のほうがよかったと思っているんですか、なのはさん・・・?」

「そんなに邪険にしないで。現場では即断即決が問われるもの。あなたが最善手と判断したなら、それが正しいと私も思うよ・・」

 鋭く言いかけるえりなに、なのはは気持ちを落ち着けて答える。

 えりなとなのはは袂を分かってから、再会するたびに意地の張り合いを見せることが多くなっている。それは周りから見れば大人気ないものでしかなかった。

「おめぇら・・会うたびにそれなんだから・・・」

「オレが知ってる限りでも相当の回数ッスよ・・」

 ヴィータと健一がそんな2人に呆れる。苦笑を浮かべてから、明日香がえりなに声をかける。

「とにかくえりな、今は休養に専念すること。任務は医務官の許可が出るまでNG。」

「分かってます、町井一等空尉殿。」

「くれぐれも気をつけてください、坂崎一等空尉殿。」

 明日香からの注意を受けたえりなが、彼女とともに敬礼を送る。

「それじゃ、えりなはこれからの特別任務はまだ参加しないということね・・」

 そこへフェイトが口にした言葉に、えりなと健一が眉をひそめる。

「何かあったんですか、フェイトさん?」

「任務の内容は伝えておいてもいいね・・ここ数日の間に、地球周辺に異質の魔力が感知されたの。まだエネルギー量は微弱だけど、何らかの現象が発生する可能性も否定できない・・」

 えりなが訊ねると、フェイトが真剣な面持ちで説明する。

「地球に危害を及ぼすわけにいかない。だからデルタに地球での調査と防衛のために、局員の派遣を命ぜられたの。」

 明日香も続けて説明していく。

「なるほど・・何にしても、えりなはしばらく出る幕はないってことだ・・」

「健一、あなたはえりなのそばについていてあげて。大人しくしてると思うけど、万が一ということもあるから・・」

 納得する健一になのはが言いかける。

「それって私が病院を抜け出してムチャするってことですか?」

 えりなが冗談半分で反論すると、なのはとともに笑みをこぼす。

「この2人、仲がいいのか悪いのか・・・」

 2人のやり取りについていけず、ヴィータが呆れ果てていた。

「それで派遣するメンバーは決まっているんですか?昨日の襲撃に関する調査で、デルタの面々も出ずっぱりだって聞いていますが・・」

「その点なら問題ないよ。もうユウキさんがメンバーを決め手招集しているから・・」

 えりなが疑問を投げかけると、明日香が微笑んで言いかける。

「さて、えりな、ちょっと体を拭いてあげないとね。ということで男の子は退室していてね。」

 明日香が話題を切り替えると、健一を病室から追い出そうとする。健一は腑に落ちない心境で、なのはとともに病室を出た。

 病室の前の廊下で佇む中、健一がなのはに言葉を切り出した。

「えりなをあそこまでガンコにさせたの、オレのせいなんだ・・」

 健一が切り出した言葉に、なのはは深刻な面持ちになる。

「体調の悪かったアイツに代わって、オレが出撃して・・それでオレが怪我しちまったから、えりなは・・・」

「大切な人が辛い思いをすれば、自分も辛くなる・・私にもそんな経験があるから、その気持ちは分かるよ・・・」

「ヴィヴィオか・・もう大きくなったッスね・・今年で初等科4年生か・・」

 自分の気持ちを通わせていく健一となのは。

 高町ヴィヴィオ。なのはの血のつながった本当の娘ではないが、彼女を母親のように慕っている。現在は戸籍上、正式な親子となっている。

「誰だって辛さを抱えてる・・だけど、それを押し売りされるのは勘弁だ・・・」

「あなたも相当の頑固者ね、健一・・」

「相当どころじゃないッスよ。1番の頑固者ッス。」

 肩を落とすなのはに、健一が気さくな笑みを見せる。

「ちょっと明日香ちゃん、くすぐったいって・・・!」

 病室からはえりなの明るい声が響いてきていた。

 

 時空管理局の中に存在する特別調査部隊「デルタ」。陸上、航空、次元のどの部隊にも属さない管理局局長直属の部隊とされているデルタは、選りすぐりのメンバーたちで構成されている精鋭部隊である。

 そのコマンダーを務めるのが神楽(かぐら)ユウキである。

 ユウキはかつての管理局の問題の解消のために、このデルタを発足させた。局内の一部の人間から反対されたこともあったが、現在デルタは局の有力な部隊として確立していた。

 ユウキと妻、神楽(かぐら)仁美(ひとみ)とともに、伝説のデバイス「三種の神器」に選ばれた者である。そのうち、「シェリッシェル」と「クリンシェン」をユウキが、「クライムパーピル」を仁美が所有している。

 ユウキは時空管理局局長から、特別任務を命ぜられていた。そこで彼は調査と防衛を行う地球への派遣のため、メンバーを招集していた。

 デルタ本部の中央広場では、既にそのメンバーの姿があった。

 スバル・ナカジマ。港湾警備隊・防災課特別救助隊セカンドチーム所属。かつて火災事故に巻き込まれた際に自分を助けてくれたなのはに憧れて魔導師になる決心をする。現在は自分の本当の決意を理解し、救助活動に励んでいる。

 ティアナ・ランスター。時空管理局執務官。兄の夢であった執務官を目指して局員の道を歩み、現在は執務官として活動している。

 スバルとティアナは陸士訓練校でルームメイトとなって以来の親友の間柄である。コンビとしての息も合っており、それぞれの道に進むようになってからも、再会を果たしたりともに任務をこなしたりすることも少なくない。

「またアンタと一緒の任務になるなんてね。ここまで来るともはや宿命ね。」

「あたしはすっごく嬉しいよ。またティアと任務をやてるんだから・・」

 肩を落とすティアナと、喜びをあらわにするスバル。

「しかもまたもや地球での任務♪今からワクワクしてきちゃうよー♪」

「遠足じゃないんだから。アンタもいい大人なんだから、子供みたいにはしゃがないの。」

 興奮を抑えられずにいるスバルに、ティアナはため息をつくばかりだった。

「お久しぶりです、スバルさん、ティアナさん。」

 そこへ声がかかり、スバルとティアナが振り返る。少し逆立った黒髪の少年とふわりとしたピンクの髪を後ろ首の辺りでひとつに束ねている少女がやってきた。

 クオン・ビクトリアとネオン・ラウム。デルタのメンバーで、部隊の前線で活躍する若手たちである。

「クオンくん、ネオンちゃん、久しぶり。」

「お久しぶりです、スバルさん、ティアナさん。」

 スバルとクオンが挨拶をして、再会の握手を交わす。

「話はユウキさんから聞いています。次の任務ではスバルさんたちと一緒に行動することになります。」

「でもまだ全員が集まったわけじゃないわ。少しここで待機することになるわね・・」

 クオンの言葉にティアナが答える。まだ派遣メンバーが全員揃ったわけではなかった。

「・・まだ、ジュンちゃんは戻ってきていないんだね・・・」

 笑みを消したスバルが言いかけた言葉に、ネオンも小さく頷いた。

 クオンとネオンには級友がいた。2人はその友人の帰りを心待ちにしていた。

 

 ミッドチルダでも僻地とされている高原地帯「シャリード」。その草原を歩く1人の少女がいた。

 春日(かすが)ジュン。クオンとネオンの親友。

 彼女は今、自分の精進のために旅を続けていた。時空管理局の局員としてではなく、1人の人間として。

「さて、そろそろクラナガンに戻らないと・・いつまでも世界を回っていたら、みんなに怒られてしまうからね・・」

 決心を胸に宿してクラナガンへの帰還を目指すジュン。その事前に、彼女はクオンたちへの連絡を取ろうとした。

 そのとき、ジュンは強い魔力を感じ取り、警戒心を強めた。

(何、この魔力・・・強いだけじゃない・・今まで感じてきた魔力とは、質が全然違う・・・!)

 強大かつ異質の魔力に、ジュンが警戒を強める。世界では様々な魔力資質が存在し、種族によって異なる。彼女も旅の中でその多くを感知してきたが、記憶の中にある魔力のどれとも当てはまらなかった。

 その気配の位置を察知して、ジュンがその方向に振り返る。

「出てきなさい!そこにいるのは分かってるんだから!」

 ジュンが声を張り上げて呼びかけたときだった。

 突如ジュンの周囲に爆発が起こり、彼女はとっさに身構える。

「フレイムスマッシャー、フレアブーツ、セットアップ!」

Standby ready,set up.”

 ジュンの呼びかけを受けて、彼女の首にかけていた2つのペンダントが答える。紅のペンダントがグローブ型、山吹色のペンダントがブーツ型のデバイスへとそれぞれ形を変える。同時に彼女の体を、白を基調としたバリアジャケットが包み込む。

「即断即決・・幼い子供でありながら見事ね、あなた・・」

 そこへ声がかかり、ジュンが周囲に注意を伺う。そこへ1人の女性が彼女の前に現れた。

 長い金髪をひとつに束ねており、右目に眼帯をかけている。妖しい笑みを浮かべて、女性はジュンを見つめていた。

「あなたが春日ジュンね?私たちと一緒に来てもらえる?」

「あなた、誰?私に何の用?」

 声をかける女性に、ジュンが警戒の眼差しを送る。すると女性は笑みをこぼしてから自己紹介をする。

「私はソニカ。一緒に来てもらえる?あなたの力、私たちにとって貴重なものになると思うから・・」

「ちゃんと事情をここで話して!何も分からずに誘いには乗らないわよ。」

 女性、ソニカの誘いに警戒心を強めるジュン。するとソニカがため息をついてきた。

「力ずく、という手段は、正直使いたくなかったんだけど・・・」

 ソニカの眼つきが一気に鋭くなる。この瞬間に危機感を覚えたジュンがたまらず飛びかかる。

「フレイムスマッシュ!」

 ジュンが魔力の炎をまとった拳をソニカに向けて繰り出す。

 そのとき、ジュンの足元に魔法陣が展開された。同時に彼女の右手から炎が消える。

「えっ!?

 声を荒げるジュン。魔法陣から三角錐状の光が出現し、彼女を閉じ込める。

 ジュンが起動させていた「フレイムスマッシャー」、「フレアブーツ」がペンダントに戻ってしまい、バリアジャケットも消失してしまった。

「クリスタルケージじゃない!魔力が完全に封じられてる・・・!」

 体の自由だけでなく力まで封じられて、ジュンが毒づく。彼女の様子をソニカが妖しい笑みを浮かべて見つめる。

「思っていた以上に呆気ないものだったね、コペンお姉さん。」

「調子に乗ると寝首をかかれますよ、ソニカ。」

 ソニカが呼びかけると、もう1人の女性が姿を見せてきた。短い銀髪をしているが、ソニカと瓜二つの顔立ちをしていた。

「お初にお目にかかります。私はコペン。春日ジュンさん、私たちと一緒に来てもらいますよ。」

 自己紹介をしながら、女性、コペンがジュンを見据える。抵抗の術さえ奪われたジュンは、そのままソニカとコペンに連れ去られてしまった。

 

 短期大学での1日目を終えて、霞美は岐路に着いていた。彼女は早速2人の友達を作ることができた。

 宮川(みやがわ)みぞれ。冷静沈着な性格をした才色兼備の女子。

 熊野(くまの)小雪(こゆき)。無邪気で明るい性格の女子。

 2人は幼馴染みの関係である。子供っぽく振舞う小雪にみぞれが滅入ることが多々あった。そのやり取りを見て、霞美は喜びと笑みをこぼしていた。

「今日はありがとうね、みぞれちゃん、小雪ちゃん。大学生活が寂しくならなくてよかったよ・・」

 霞美が仲良くしてくれたみぞれと霞美に感謝の言葉をかける。

「いいのよ、別に。あなたを誘ったのは小雪なんだから・・」

「もう、みぞれったらぁ。みぞれも嬉しいくせにぃ〜♪」

 微笑みかけるみぞれに、小雪が上機嫌に寄り添ってくる。するとみぞれが不満げに小雪を引き離す。

「小雪、アンタもいい加減にしなさいって。もうそろそろ大人なんだから・・」

「うぅ・・みぞれのいじわる・・・」

 みぞれに邪険にされて、小雪が肩を落とす。すると霞美がおもむろに笑みをこぼす。

「それじゃ、私はこっちだから・・また明日ね。」

「うん。またいろいろと話をしようね、霞美。」

 分かれ道に差し掛かったところで霞美が声をかけ、みぞれが答える。霞美はみぞれ、小雪と別れて、自宅へと向かう。

 明日も楽しい日になる。霞美は心の中でそう信じて、家へと向かっていた。

 だがその道の途中、家へ通じる道への曲がり角を曲がったときだった。

 誰かとぶつかってしまい、霞美は反動でしりもちをつく。

「アタタタ・・・ゴ、ゴメンなさい・・」

 頭を手で押さえて、霞美が謝る。だが眼の前にいる人の様子がおかしく感じられて、彼女は当惑する。

 霞美の前にいる紅い髪の少女は、疲れ果てていた。霞美にとって見慣れない彼女の服装も、ややボロボロになっていた。

「ど、どうしたの・・・?」

 霞美が不安を感じながら声をかける。すると少女が力なく彼女に倒れこんできた。

「えっ!?ちょっと!」

 霞美がたまらず少女を支える。少女は疲労のために意識を失っていた。

「どうしよう・・・と、とにかく家に運んだほうがよさそうね・・・」

 気持ちを落ち着けた霞美は、ひとまず少女を自宅に運ぶことにした。

 その少女がリーンにて暴挙を働き、えりなをも脅かした人物であることを、霞美は知る由もなかった。

 それぞれの運命が幕を開けていった。

 

 

次回予告

 

ミッドチルダ、そして地球に忍び寄る影。

えりなたちに挑戦してきた新たなる脅威、イース。

彼らの目的とは?

紅い髪の少女と出会った霞美に迫る暗躍。

大切なものを守るため、霞美は魔法騎士への覚醒を果たす。

 

次回・「それぞれの飛翔」

 

新たなる戦いのページが開かれる・・・

 

 

作品集

 

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