魔法少女エメラルえりなMiracles
第9話「パンドラの箱」
三銃士がかけた封印から解き放たれ、玉緒に憑依した漆黒の闇、パンドラ。パンドラは持てる魔力を暴走させ、破壊を繰り出そうとしていた。
暴走する魔力と衝撃波は、時空管理局本局に被害を及ぼしていた。
「す、すごい力・・・!」
「こんなものをほっといたら、いくらここだってヤバいだろ・・・!」
えりなと健一がパンドラの魔力に脅威を感じて毒づく。その眼前で、エースが哄笑を上げながらパンドラに近づく。
「さぁ、闇の化身、パンドラよ。封印を解きし私にその力を与えよ!」
エースが言い放つと、パンドラはゆっくりと振り向いてきた。その慄然とした姿に、エースはさらに歓喜を覚えた。
「さぁ、パンドラよ、私に力を・・!」
エースがパンドラに力を懇願したときだった。パンドラが右手から衝撃波を放ち、エースを吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
「えっ!?」
うめくエース。驚きを見せる明日香とアレン。パンドラに突き飛ばされたエースが壁に叩きつけられる。
「バ、バカな!?・・封印を解いた私に、牙を向けるというのか・・・!?」
めり込んだ壁から這い出たエースが驚愕を覚える。パンドラは彼に眼を向けて、淡々と言いかける。
「私は全てを滅ぼす闇・・何者の施しも、私を縛ることはできない・・・」
パンドラは低く告げると、再び右手を掲げる。その手のひらにどす黒い水の塊のようなエネルギーが現れた。
「私のもたらす絶望を受けて、無に還るがいい。」
その塊が閃光となって解き放たれ、愕然となるエースを飲み込んだ。
「エース提督!」
アレンが叫ぶ前で、漆黒の閃光が消失する。その中から、色を失くしてその場で微動だにしなくなったエースの姿が現れた。
「エース提督・・・」
変わり果てたエースを目の当たりにして愕然となるアレン。その傍らで、パンドラが表情を変えずに続ける。
「これが私のもたらす絶望。生、心、時、全てを消滅させる・・・」
「心、時・・時間・・まさか、パンドラが使ったのは・・!?」
パンドラの発した力の正体に気づいて、アレンが声を荒げる。彼の話にえりな、明日香、健一が耳を傾ける。
「時間凍結・・時空管理局で規制の対象とされている現象の一種だ。かなり高度、かつ強力な魔法効果に指定されていて、かけた術者の魔力を沈黙させないと解くことができない。かけられた相手は、固定された時間の中で永久にその場で停止し続けることになる・・」
「そんな物騒な力を使ってきてるのかよ、パンドラってヤツは・・!」
アレンの説明を聞いて、健一が毒づく。パンドラがそんなえりなたちにゆっくりと振り向いてきた。
「私が宿る主は、深い悲しみを抱いて死を迎え入れた・・その矛先は今、お前たちに向けられている・・」
「玉緒ちゃんが・・!?」
パンドラの言葉にえりなが驚愕を見せる。
「三銃士と過ごしてきたかけがえのない幸せの日々・・だがお前たちが踏み入れ、三銃士と敵対したことで、その幸せは崩壊した・・お前たちが深入りしなければ、平穏は保たれた・・それが、主の悲しみ、苦しみ、絶望・・・」
パンドラの口にする言葉が、えりな、明日香、健一には信じられなかった。だがその苦悩と悲痛さは、パンドラの練り上げる魔力の収束に阻まれる。
漆黒の闇から放たれる時間凍結の閃光。えりなたちは散開してその閃光をかわす。えりなが反撃しようと、ブレイブネイチャーをパンドラに向けた。
そのとき、えりなのカオスフォームが突然解除、消失した。彼女のカオスコアの魔力が尽きてしまい、カオスフォームが維持できなくなってしまったのだ。
「しまった!・・こんなときに・・!」
毒づくえりなに向けて、パンドラが時間凍結の矛先を向ける。えりながとっさに防御魔法を展開してその場を凌ごうとする。
「ダメだ、えりな!防御魔法は・・!」
そこへアレンに呼びかけられ、えりなが魔法発動を躊躇する。パンドラが漆黒の閃光を放とうとしたときだった。
突如パンドラの両手両足を光の鎖が巻き付いてきた。拘束されたことで彼女は時間凍結の発動を阻まれる。
鎖状の拘束魔法「チェーンバインド」を発動していたのは、無限書庫から姿を見せたユーノだった。続けざまにリッキーが「ストラグルバインド」をかけて、パンドラの魔力の暴走を抑え込もうとする。
「リッキー!ユーノさん!」
えりながリッキーたちに眼を向けて叫ぶ。動きを封じられているパンドラに向かって、ラックスが飛びかかって拳を繰り出す。
だが動きも魔力も抑え込まれているはずにもかかわらず、ラックスの攻撃が障壁に阻まれる。
「えっ!?」
平然と攻撃を受け止めるパンドラに、ラックスが驚愕を見せる。パンドラはさらに力を込めて、ラックスを、リッキーとユーノがかけているバインドを吹き飛ばした。
「ラックス!」
突き飛ばされて床に落とされたラックスに、明日香が叫ぶ。
「そんな・・魔力を抑え込むストラグルバインドをかけられているのに、全然力が衰えていない・・・!」
平然とバインドを破ってみせたパンドラにリッキーが驚きを隠せなかった。パンドラが力の矛先をリッキーとユーノに向ける。
「邪魔をするならば、お前たちから先に無に還すまで・・」
「リッキー、危ない!」
パンドラが漆黒の閃光を解き放つと同時に、ユーノがリッキーを庇おうとする。だが回避するには間に合わず、2人とも閃光に飲み込まれてしまう。
「リッキー!」
「ユーノさん!」
えりなと明日香が悲痛の叫びを上げる。閃光が消えたその場所には、リッキーと庇おうと駆け寄っていたユーノが立ち尽くした状態で動かなくなっていた。
「リッキー・・ユーノさん・・・」
変わり果てたリッキーとユーノの姿にえりなは愕然となる。パンドラの時間凍結を受けて、2人はその時間と場所に静止してしまっていた。
「よくもリッキーを・・・ぐっ!」
パンドラに対していきり立つえりなだが、魔力を消耗していたためにふらついてしまう。そんな彼女に健一が歩み寄り、肩を貸す。
「ムチャすんな!今のお前は力を使い果たしてフラフラなんだぞ!」
「健一・・ありがとう・・・」
言いかける健一にえりなが微笑みかける。悪戦苦闘を強いられる彼らのいる管理局本局は、時間凍結の影響で被害が増していた。
「ここでやり合ってたら、被害が広がるばかりだ。何とかして場所を変えないと・・・!」
「けどどうやって!?あんなヤツを強制転送させるにしたって、かなりの重労働だよ!」
打開の糸口を探ろうとするアレンに、ラックスが声を荒げる。パンドラが無表情のまま、右手を明日香とラックスに向けてきた。
「そうだ。彼女は私たちを狙っている。だからそれを利用すれば・・」
そのとき、明日香が打開の策を思い立ち、ウンディーネを構える。
「えりな、アレン、健一、私たちがパンドラをおびき寄せよう!」
「明日香ちゃん・・!?」
明日香の呼びかけにえりなが驚きの声を上げる。
「私たちが別の場所に移動すれば、パンドラも私たちを追ってくる。そうすれば、管理局にこれ以上の被害を出さなくて済むよ・・」
「けどうまくいくのか?下手をすれば、オレたちがいなくなったのをいいことにアイツ、もっと被害を出すんじゃ・・」
健一がとっさに反論するが、明日香の意見は変わらない。
「パンドラが玉緒の心とリンクしていて、パンドラの言っていることが本当なら、間違いなく私たちを追ってくるよ。」
「・・・全く、お前にもえりなにも敵わねぇなぁ・・いいぜ。オレもとことん付き合ってやるぜ!」
明日香の揺るぎない決意に観念して、健一も意気込みを見せる。その意見に同意したえりなもアレンも、パンドラを見据えて身構える。
(クラウンさん、周りに誰もない場所を検索してください!僕たちはそこに闇をおびき寄せます!)
“えっ!?でもアレンくん・・・!”
アレンから呼びかけられて、クラウンが驚きの声を返す。
(クラウンさんは闇がいなくなったところで、救助と消火をお願いします!)
アレンのさらなる呼びかけに、クラウンはついに無人地帯の検索を行うことを決意する。そして彼女はその中のひとつを導き出した。
“見つけたよ!無人世界「サイノン」!荒野の広がるサイノンなら、被害を押さえ込めるよ!”
(分かりました!そこにうまくおびき寄せてみます!)
クラウンの連絡を受けて、アレンは転移先を定める。
「えりな、明日香、健一、僕に意識を預けてくれ!」
「アレンくん!?」
アレンの声にえりなが声を荒げる。
「今から転移してここから離れる!僕の意識にシンクロすれば、君たちも一緒に移動させられる!」
「アレン・・・分かったよ。えりな、健一。」
アレンの言葉を受け入れて、明日香がえりなと健一に呼びかける。2人も同意して頷き、アレンに意識を傾ける。
「みんな、あたしとソアラはここの救助を手伝うよ。落ち着いたらすぐにそっちに行くから。」
ラックスの呼びかけに明日香が頷く。その間にアレンは転移のために意識を集中していた。
「目標、無人地帯、サイノン。長距離転送、開始!」
アレンの展開した転移魔法に、えりな、明日香、健一も移動を開始する。4人の姿が時空管理局本局から消えた。
その移動した4人の行方を、パンドラはつかんでいた。彼女も続けざまにサイノンに移動していった。
時空管理局の管理下に置かれながら、人が全く在住していない地帯「サイノン」。環境が農畜に適さないため、生活が不可能とされている。
その荒野の真ん中に移動していたえりなたち。周囲の寂れた光景に、えりなは固唾を呑んだ。
「サイノン・・その環境から人々から隔離された地域。管理局の局員でも、迷い込んでしまった人々を救助するぐらいしか、ここを訪れない・・・」
アレンが低く告げると、健一も漂う重い空気に緊迫を募らせていた。
そのとき、えりなたちは突如押し寄せてきた強烈な魔力を感じて、緊迫を募らせる。
「パンドラがこっちに向かってきている・・・えりな、体は大丈夫?」
パンドラの接近を察知しながら、明日香がえりなに声をかける。
「もう少し休めば、またカオスフォームが使えるようになるけど・・・」
えりなは言いかけて沈痛の面持ちを浮かべる。
「ヴィッツさんたちがやっとのことで封じ込めていた闇。それを相手にするには、どうしてもカオスフォームの力が必要になってくる・・・」
「そうか・・・だったら、オレが踏ん張るしかないみたいだな。」
彼女の言葉を聞いて、健一がラッシュの柄を強く握る。
「えりな、オレがアイツを押さえる。その間に体力を回復させろ。」
「えっ!?それじゃ健一が、みんなが・・!?」
健一の言葉にえりなが声を荒げる。だが明日香とアレンの気持ちも変わらなかった。
「僕はパンドラを止める。もちろんえりなを信用していないわけじゃないけど、みんなに甘えるようなことはしたくない。」
アレンは言いかけて、手にしているストリームに眼を向ける。
「これは僕が解決しなくてはならない事件なのかもしれない。僕はエース提督を、心の底から尊敬していた。その提督が犯した罪なら、それは僕の罪。だから、これは僕の手で・・」
「あまり自分に背負い込まないで、アレン。みんなを守りたい。その気持ちは、ここにいる全員同じだから・・」
アレンの言葉に明日香が励ます。えりなと健一も頷き、アレンも微笑んで頷きかける。
「ありがとう、みんな・・・まず、僕たちが先陣を切ろう。」
「あぁ。オレもえりなたちに負けていないってとこを見せとかないとな。」
アレンの指示に健一が意気込みを見せる。
「えりな、今は回復に専念して。ここは私たちでパンドラを押さえるから・・」
「明日香ちゃん・・アレンくん、健一、ありがとう・・・」
明日香たちの気持ちを受け入れて、えりなは後方に下がる。
「ブレイブネイチャー、カオスフォームが使えるようになるまで、あとどのくらい?」
“About fifteen minutes.(約15分です。)”
えりなの問いかけにブレイブネイチャーが答える。その答えに明日香たちが気を張り詰める。
「15分か・・ちょっと骨が折れるか・・」
「もう弱音を口にするなんて。健一らしくないよ。」
「冗談、冗談。言ってみただけだって。」
からかうつもりで明日香が言いかけると、健一が苦笑いを浮かべて弁解する。
そのとき、えりなたちの眼の前の空間が突如歪む。その歪みの中から、転移して彼女たちを追ってきたパンドラが姿を現してきた。
「玉緒ちゃん・・・」
えりながパンドラを見つめて沈痛の面持ちを浮かべる。パンドラが憑依している玉緒が気がかりになっていたのだ。
「主の悲しみの赴くまま、私はお前たちを無に還す・・お前たちに、絶望の闇を・・・」
パンドラが無表情のまま、えりなたちに右手をかざす。えりなの回復のため、また自分の心にけじめをつけるため、明日香、アレン、健一が散開した。
パンドラの魔力の暴走により被害を被った時空管理局本局。だがラックスとソアラを筆頭とした局員たちの救助により、その被害は沈静化に向かっていた。
だが時間凍結だけは解くことができず、リッキー、ユーノ、エースの救助はできない状態にあった。
「まさか時間凍結を使ってくるとは・・・」
パンドラの脅威に、部隊の指揮に当たっていたクリスが困り顔を浮かべる。
「時間凍結を受けた人にこれ以上の危害を与えないよう、細心の注意を払って動いて!オペレーターは各情報を細大漏らさずに収集して!」
だがすぐに冷静さを取り戻して、クリスは局員たちに指示を出した。
「クラウン、他の部隊のうごきはどうなっていますか?」
“クリス提督!・・はい。上位局員のほとんどは各現場にて活動中でして、呼び戻してはいるのですが、帰還まで時間がかかるかと・・”
クリスの呼びかけにクラウンが答える。
「すぐに呼び戻せる人から呼び戻していってください!今は1人でも多く、協力が必要です!」
“分かりました!順に連絡をかけていきます!”
クリスの指示を受けて、クラウンは局員や部隊への連絡に全力を注いだ。
(カオスコア事件で駆けつけてくれたなのはさんたフェイトさんは遠方での任務を終えていない。はやてさんもヴォルケンリッターたちも、みんな遠くの地域に捜索に出てしまっている・・今は私たちだけで尽力を出すしかないですね・・!)
胸中で打開の策を練り上げながら、クリスはえりなたちの無事を祈りつつ、局員の指揮を続行した。
そのさなかで救助に参加していたときだった。クリスは負傷しているヴィッツを発見する。
「あなたは・・・しっかりしなさい!意識はありますか!?」
クリスの呼びかけられて、ヴィッツは眼を覚ました。ヴィッツは眼前のクリスの姿を見て困惑を浮かべる。
「あなたは・・・?」
「気がついたようですね・・あなたたちはかつて封印した闇が解き放たれた際に魔力を消耗したのです・・」
安堵を見せるクリスから事情を聞いて、ヴィッツは沈痛の面持ちを浮かべる。同様に他の局員たちに救助されたアクシオとダイナも、意識を取り戻していた。
「まさかパンドラスフィアが、あたしたちの中に封じてあった闇の鍵だったなんて・・」
アクシオが悲痛さを抑え切れず、自分を責める。そんな彼女にクリスが歩み寄り、優しく言いかける。
「そんなに自分を責めたらいけません。あなたは豊川玉緒さんのために、全てを賭けて戦ってきたのでしょう?」
「玉緒のため・・・」
クリスの言葉にアクシオが戸惑いを覚える。
「時空管理局の人間として、あなたが行ってきた行為を許すことはできません。ですが、志は違えど、パンドラの暴走を食い止めたいという気持ちは同じのはずです。」
クリスが告げた言葉にアクシオだけでなく、ヴィッツとダイナも頷く。
「確かにこれまで行ってきたことが、絶対に正しいとは言えない。だが私たちは、玉緒を救うために戦いに身を投じた。それが逆に、玉緒を闇に陥れことになるとは・・・!」
ヴィッツが自分の過ちを悔やみ、そばの壁に拳を叩きつける。アクシオもダイナも、玉緒をパンドラの闇に追い込んでしまった自分を責めていた。
「なら立ちなさい。ここで諦めていては、それこそ玉緒さんを救えなくなります。」
そこへクリスが呼びかけ、ヴィッツたちが顔を上げる。
「あなたたちが諦めなければ、絶対に希望が潰えることはありません。なぜなら、玉緒さんのよりどころはあなたたちであり、あなたたちのよりどころも彼女なのです。」
「玉緒・・そうだ・・オレたちの戦いは、まだ終わっていない・・玉緒はまだ、深い闇のそこにいるのだから・・・」
クリスの言葉に励まされて奮起して、ダイナがヴィオスを持つ手に力を込める。それに続いてヴィッツとアクシオも奮起する。
「行こう、アクシオ、ダイナ。玉緒を救えるのは、私たちしかいない・・・」
ヴィッツの呼びかけにアクシオとダイナが頷く。3人がパンドラを追撃しようと意識を集中したときだった。
ソアラがラックスとともにクリスの前に駆けつけ、声をかける。
「クリスさん、救助は順調に進んでいるよ!もう少しで落ち着くよ!」
「そうですか。分かりました。ソアラとラックスさんは、アレンたちのところに向かってください。ここの救助の指揮は私が引き受けます。それと・・」
ソアラの報告を受けて答え、クリスはヴィッツたちに眼を向ける。
「彼女たちの回復を行ってください。今は私たちの味方です・・」
クリスの言葉を受けてソアラが振り向くと、ヴィッツたちが微笑んで頷く。ソアラは笑顔を見せて、ヴィッツたちの回復を行った。
えりなが体力の回復を図る中、明日香、アレン、健一はパンドラと交戦していた。3人は持てる力を振り絞って挑んでいくが、パンドラの魔力は凄まじく、劣勢を強いられていた。
“Spray sphere.”
“Starker Wind.”
明日香の光弾とアレンの光刃がパンドラに向かって放たれる。だがパンドラは防御も回避もせずに直撃したにもかかわらず、平然としていた。
(何て力だ。僕も明日香も力を上げてるのに、全然こたえてない・・!)
胸中で毒づきながら、パンドラとの距離を取るアレン。明日香も魔力の一点集中の機会をうかがっていた。
パンドラは2人の様子を気にしつつ、ゆっくりと地上に降り立った。飛行のできない健一を挑発しているかのような行動だった。
それを攻撃のチャンスを見た健一が、手にしているラッシュに意識を集中する。
「オレにできることを、オレは全力でやる。それだけだ!」
“Lightning splash.”
健一が言い放つと、ラッシュの刀身に光が宿る。健一が振りかざしたラッシュから光刃が放たれ、パンドラに向かって飛んでいく。
相手の意表を突く一閃だったが、パンドラはそれの直撃を受けながらも平然としていた。
「これを食らっても・・これじゃ削りにもなりゃしねぇじゃんかよ・・・!」
パンドラの力に脅威を感じて、健一が毒づく。彼女が右手を彼に向けて、力を集中する。
危機感を覚えた健一がとっさに横に飛び退く。その直後、パンドラが手から漆黒の閃光を放ってきた。
「健一!」
明日香が急降下し、健一を抱えて即座に飛翔する。方向を変えて放たれる閃光が、地上の時間を止めていく。
「健一、大丈夫!?どこか、ケガとかない!?」
「明日香・・すまない。オレは大丈夫だ。」
明日香の呼びかけに健一が笑みを見せて答える。2人の見つめる先で、パンドラが自身の魔力を収束させていた。
「それにしても何てヤツだ。オレたち3人がかりでも歯が立たないなんて・・」
「何とか、私のドライブチャージマックスを当てられれば、最低でも怯ませることぐらいはできるはず・・」
健一と明日香が言いかけて、打開の策を模索する。アレンも2人に近寄って、ぱんどらの動きを伺う。
「2人とも動きを止めるな。相手はすぐに狙い撃ちにしてくるよ。」
アレンの言葉に明日香と健一が頷く。3人はパンドラの動きを見据えつつ、再び散開する。
一方、体力と魔力の回復を図るえりな。彼女の脳裏に、カオスコアの声が響いてくる。
“相当私を頼りにしてくれて、感謝してるって言ったほうがいいかな?”
(それはあなたに任せるよ。それよりも、またよろしくね。パンドラは、私たちの力をフルに使わないと押さえきれないから・・)
淡々と言いかけるカオスコアに、えりなが照れ笑いを浮かべる。だが明日香たちと交戦しているパンドラを眼にして、えりなは真剣な面持ちを浮かべる。
(できればパンドラを説得して、玉緒ちゃんを助け出したい。玉緒ちゃんは、パンドラの闇の中に捕まってるだけだから・・)
“それなら単純でいいんだけどさ・・とにかく、信じて割り切らないと何もできなくなっちゃうよね。”
カオスコアとの会話を終えて、えりなが回復に専念する。
同じ頃、明日香も魔力の一点集中を図り、アレンと健一がパンドラの注意を引き付けていた。健一が飛行できないため、アレンは空中からパンドラを攻めていた。
「相手は速く動けるにもかかわらず、大きな動きを見せていない。そこを狙って、大きな攻撃を叩き込むか・・・ストリーム、エノルムフォルム!」
“Enorm form.”
アレンの呼びかけを受けたストリームの刀身が変化を起こす。天にも届くほどの巨大な光刃を、アレンは高らかと振り上げる。
“Enorm schnitt.”
その巨大な剣がパンドラに向けて大きく振り下ろされる。光刃はパンドラだけでなく、彼女の前方、後方の地面すらもえぐった。
(受け止められたってことは絶対にない。受け止められたなら後ろの地面を切り裂くことはない・・)
アレンは状況を分析しながら、パンドラの行方を追う。直撃を受けたか、もしくはどこかに回避したか。それを念頭に置いて彼は視線を巡らせた。
そしてついに、アレンはパンドラの姿を捉える。だがパンドラは、回復を狙っているえりなに矛先を向けていた。
「しまった!えりなが・・!」
アレンが思わず声を荒げる。とっさにストリームを振り上げるが、このまま振り下ろせばパンドラだけでなく、えりなにも攻撃を及ぼすことになり、彼は攻撃を繰り出せなかった。
「えりな!」
健一が急いで駆け寄ろうとするが、その接近に気付いたパンドラが魔力を放出し、その衝撃波で彼は突き飛ばされる。
「健一!」
「ぐっ!・・くそっ!」
アレンが叫び、踏みとどまった健一が毒づく。パンドラは視線をえりなに戻し、力を収束する。
(もう少しなのに・・このままの状態で戦っても、パンドラのあの力に対抗できない・・でも、今じゃまだカオスフォームには・・・!)
窮地に追い込まれながらも、反撃ができないでいるえりな。パンドラが右手を掲げて魔力を集中する。
「無に還れ・・主の悲しみを生み出した仇よ・・」
パンドラは低く淡々と告げると、反撃できない状態のえりなに向けて力を解き放とうとする。
そのとき、パンドラの周囲の空間が歪み出した。その歪みは凍結を引き起こし、パンドラは氷塊「フリーズケージ」に閉じ込められ、解き放とうとしていた魔力も分散する。
「えっ!?」
「このケージ・・まさか・・・!?」
えりなと明日香が驚きの声を上げる。当惑を浮かべているえりなの前に降り立ったのは、オーリスを構えたアクシオだった。
「どうしたのよ、そんなところで座り込んじゃって?」
アクシオがえりなに振り向いて気さくな笑みを見せてきた。彼女が突然現れたことに、えりなはきょとんとしていた。
「余所見をしている場合ではないぞ、アクシオ。」
そしてヴィッツもえりなの前に降り立ってきた。ダイナも上空からパンドラの動きを伺っていた。
「ヴィッツさん・・ダイナさん・・・」
えりなだけでなく、明日香とアレンも当惑を浮かべる。
「なぜ君たちが・・君たちはパンドラの封印解放の際に力を使い果たして・・」
「ソアラがヴィッツたちを助けたんだよ。」
アレンが投げかけた疑問に答えたのは、ソアラとともに駆けつけてきたラックスだった。
「お待たせ、明日香♪こっちもいろいろあって。とりあえず、三銃士の連中もアレを止めようとしてくれてる。」
「ラックス・・・アクシオ・・・」
明日香が視線をラックスからアクシオに移す。アクシオが明日香に眼を向けて、同様に気さくな笑みを見せてきた。
「アンタたちは下がってて。ここから先はあたしたちの出番だよ・・・!」
アクシオが勝気な態度を見せて、オーリスを構える。ヴィッツもダイナもブリット、ヴィオスを構えて、パンドラと対峙する。
「玉緒はまだ生きている・・玉緒を救い出し、またみんなで幸せな日々を送る・・・!」
かけがえのないものを守るため、希望の未来を勝ち取るため、ヴィッツたちが最大の戦いに身を投じようとしていた。
次回予告
少女との絆。
家族としての思い出。
それらはまだ、失われてはいない。
絶対に失いたくない。
その気持ちは、彼女に伝わるのか・・・?
この願い、絶対に届ける・・・