魔法少女エメラルえりなMiracles

第6話「決意は剣の中だよ」

 

 

それは、突然の出来事でした。

 

生まれ変わった魔法の剣。

手にした新しい力。

再び荒々しくぶつかり合う2つの刃。

 

絶対に諦めない。

絶対に引き返せない。

 

揺るぎない信念の中には、大事な人への思いが・・・

 

魔法少女エメラルえりなMiracles、始まります。

 

 

 ストリーム・インフィニティーを手にして、ダイナに挑むアレン。生まれ変わったその力に、ダイナは圧倒されていた。

(まさかこれほど力が向上しているとはな・・これまでのベルカ式デバイスとは違う・・・)

 ダイナがアレンを見据えて、胸中でその脅威を感じていた。

「君には言っておくよ。ストリーム・インフィニティーには、破損したカートリッジシステムの代わりに、ドライブチャージシステムが組み込まれている。僕の加減次第で、ストリームの力は何倍にも膨れ上がる。その可能性は、無限大・・・!」

 アレンが告げた説明を耳にして、ダイナが眼を見開く。

「そうか。それほどの力を発揮したのは、グラン式ドライブチャージシステムの副産物ということか・・!」

 ダイナは緊張感を募らせて、改めてヴィオスを構える。重みのある大剣の切っ先がアレンに向けられる。

「ならば出し惜しみは、逆にこちらの首を絞めることになりかねないな・・オレも全力で、お前の剣をねじ伏せることにする!」

「それでも僕は引き下がれない。君たちを止めることが、今の僕のやるべきことだから・・・!」

 低い声音で言い放つダイナに、アレンも決意を口にする。

「もはや言葉は意味を成さない。ここから先は剣でしか、力でしか語れない・・・!」

 ダイナから放たれる覇気が、周囲の大地を揺るがす。

「いくぞ、ヴィオス!眼の前の敵をなぎ払え!」

OK,boss.”

 その呼びかけにヴィオスが答える。ダイナがアレンに向かって飛びかかり、一閃を繰り出す。

Dyna slash.”

 横なぎに繰り出されるヴィオスの一閃。アレンが振りかざしたストリームが風の障壁を展開し、それを受け止める。

 重みのあるヴィオスを受け止めているストリームに、アレンは少なからず驚きを感じていた。この威力が、自分の魔力が大きくもたらしていると理解したからだ。

「このまま押し返すぞ、ストリーム!」

Zieh!”

 アレンの呼びかけにストリームが答える。その刀身に宿る光が強まり、力となってダイナとヴィオスを押し返す。

 重みのある一閃を跳ね返され、ダイナが圧倒されていた。

(オレとヴィオスが跳ね返されるとは・・・アレンの底力を侮っていたということか・・・)

 脅威を感じながらも、冷静さを取り戻すダイナ。

(一気に決めるしかない・・パンドラスフィア入手のために力を温存しておきたいところだが、そんな余裕を持てる状況ではない・・・!)

 覇気を全開してアレンを鋭く見据えるダイナ。ヴィオスの刀身から巨大化した光刃が高らかと振り上げられる。

「一気にかたをつけるぞ、アレン・ハント!」

Dyna break.”

 その光刃をアレン目がけて振り下ろすダイナ。だがアレンは冷静に光刃を見据えていた。

「ストリーム、ドライブチャージ。」

Jawohl.Lang form.”

 アレンの呼びかけを受けたストリームに、彼の魔力を凝縮した弾丸が装てんされる。その魔力を帯びて、ストリームの刀身が伸びる。

Starker blatt.”

 光を強めたストリームの刀身から、強烈な一閃が放たれる。その刃は、ダイナが振り下ろしたヴィオスの巨大な刃を跳ね除けた。

「ぐっ!」

 ストリームの力に押されて、ダイナが顔を歪める。刃の激突による衝撃に何とか踏みとどまるも、彼は右腕に激痛を覚える。

 アレンの迎撃によって、ヴィオスを持つダイナの右腕の神経が麻痺を引き起こした。彼の右手からヴィオスが力なく離れて地面に落ちる。また、その刀身の刃にも亀裂が生じており、ダイナだけでなくヴィオスも痛恨のダメージを被っていた。

(腕が痺れている・・激痛を感じているはずなのに、感覚がない・・・)

 自身の深手を痛烈に感じるダイナ。拾おうとする右手から、ヴィオスがこぼれ落ち、彼はやむなく左手でヴィオスを拾う。

(これ以上戦えば、オレの敗北は確実だ。ここはアレン・ハントとの戦いの続行は避けるべきだ・・)

 最善の選択肢を模索するダイナ。ストリームの刀身を元に戻して、アレンがその切っ先をアレンに向けていた。

 

 その頃、アレンにパンドラスフィア捜索を託されたソアラは、渓谷の奥底に降り立っていた。彼女は五感を研ぎ澄ませて、異質の魔力の気配を頼りにパンドラスフィアの行方を追った。

「確か、この辺りなんだけど・・他と違う魔力だっていうのは分かるから、多分それだと思うんだよねぇ・・」

 周囲を見回しながら呟きかけるソアラ。そして彼女は歩を進めるごとに、異質の魔力の感覚が強まっていくのを感じていく。

 そしてついに、ソアラは淡い光を宿した玉を発見する。水の魔力を宿したパンドラスフィアである。

「見つけた!エースさんやクリスさんの情報通りだよ♪」

 喜びを浮かべてパンドラスフィアに近づくソアラ。魔力の暴走といった異常を警戒して、彼女は慎重に光の玉に手を伸ばす。

 パンドラスフィアの回収に成功したソアラは、安全を考慮してケージに収納する。

(これでOKだね♪・・アレン、パンドラスフィアは回収したよ。これから管理局に戻るね。)

 アレンにパンドラスフィア回収成功を念話で伝えると、渓谷から飛び上がって転移魔法を発動した。

 

 ソアラからの連絡を受けたアレンが、渓谷へと振り返る。その様子に眉をひそめるダイナにも、アクシオからの念話が入ってきた。

“ダイナ、パンドラスフィア、管理局の局員に奪われちゃったよ・・”

「何っ・・!?

 その報告にダイナは思わず声を荒げる。視線を戻してきたアレンを鋭く見据え、ダイナは言いかける。

「今回はここまでだ。だが今度はお前を倒し、必ずパンドラスフィアを奪い取ってみせるぞ・・・!」

 ダイナはアレンに告げると飛翔し、この場を退散する。追いかけようとするアレンだが、ここに来て自分の魔力が消耗していたことに気付く。

「ドライブチャージで、魔力の消耗が・・・こんなときに・・・!」

 疲弊に耐え切れなくなり、アレンはその場でひざを付き、ストリームを地面に突き立てる。特訓によって向上されていたものの、それでも長期戦は負担が大きい。彼はそう実感していた。

Traurig.”

 ストリームがアレンに対して謝罪する。

「いや、これは僕の力不足だよ、ストリーム。君にはとても感謝している・・君の力がなかったら、ダイナとヴィオスを押し返すことができなかった・・・」

Danke.”

 アレンが弁解を入れると、ストリームが感謝を返してきた。

(・・ここからが正念場になる・・こっちが1つ、向こうが2つ。パンドラスフィアを賭けて、三銃士との大勝負が始まる・・・)

 無限に広がる虚空を見上げて、アレンは真剣な面持ちを浮かべていた。

 

 えりな、明日香、アレンの活躍により、三銃士の力に打ち勝つことができた。パンドラスフィアのひとつを入手したものの、三銃士を拘束することはできなかった。

 えりなたちは一路管理局本局に戻り、休養を取っていた。ヴィッツ、アクシオ、ダイナとの戦いで新たな力を発動したものの、彼らは魔力、体力を激しく消耗していた。

「もう、えりなちゃんのムチャには相変わらず冷や冷やしちゃうよ。」

「アハハハ。ゴメンね、リッキー。」

 心配の声を上げるリッキーに、えりなが照れ笑いを浮かべる。

「それにしても、まさか明日香やアレンまであんなムチャをするなんてね。あたしも意外だったよ。」

 ラックスも続けて心配の声を上げる。

「ありがとう、ラックス。心配してくれて・・・」

「いいよ、明日香。あたしは明日香の相棒なんだから。」

 明日香が感謝の言葉をかけると、ラックスが気恥ずかしさをあらわにする。

「でもアレンのムチャは前からだよ。なのはさんの影響かな?」

「ソアラ、そんなこといったらなのはさんに失礼だよ。」

 ソアラの言葉にアレンが苦言を呈する。するとソアラが気まずそうに口を閉じた。

「結果として、僕たちはパンドラスフィアをひとつ手にした。でも三銃士を押さえるには至っておらず、残りの2つも彼らの手に渡っている。」

 アレンが切り出した話題に、えりなたちも真剣な面持ちを浮かべる。

「今現在、パンドラスフィアに関するデータの詳細はまだ解明されていない。分かっているのは、パンドラスフィアは3種類あり、それぞれ違った属性の魔力が宿っているということだけだ。」

「違った属性・・」

「今、管理局が保管しているのは水属性のパンドラスフィア。残りは炎、そして雷の属性のものだよ。」

 疑問を浮かべるえりなに、アレンがさらに説明する。

「3つの属性を備えたそれぞれのスフィアを集めることで、何らかの現象が起こる。噂では願いが何でも叶うと囁かれている。」

 そこへエースが現れ、えりなたちに笑顔を見せてきた。

「エースさん・・」

 えりながエースに向けて笑顔を返す。

「すみませんエース提督。パンドラスフィアのひとつは回収しましたが、三銃士を逃がしてしまいました・・」

 そこへアレンが謝罪するが、エースは笑顔を崩さずに弁解を入れる。

「気にしなくていい。むしろ君たちの成長と活躍を、私は賞賛したいと思っているくらいだよ。」

「いいえ、提督。まだまだ僕の力不足です。でも精進して、必ず事件解決に・・」

 エースの弁解を前にしても、自分の弱さと決意を告げようとするアレン。えりな、明日香も同じ心境だった。

 彼らの気持ちを察して、エースは小さく頷いた。

「君たちの気持ちは分かる。でも今は体を休めることだ。今回の戦いでかなり疲労していることだろう。焦りは答えを見失わせる要因だよ。」

 エースの気遣いを、アレン、えりな、明日香は受け入れた。

「そうだね・・そろそろ家に戻ったほうがいいかな・・・」

 えりなが言いかけると、リッキー、ソアラも頷く。

「アレンくんもどうかな?お父さんもお母さんもまりなも、みんな歓迎してくれるよ♪」

「えりな・・気持ちはありがたいけど、僕にはやるべきことがある。戦えなくても、いろいろと調べることはできるから・・」

 えりなの誘いをアレンは渋々断る。するとエースがアレンの肩に優しく手を乗せる。

「調査のほうも私たちが全力で行うよ。アレンくん、君も十分に休息を取るべきだよ。体も、心もね。」

「エース提督・・ですが・・・」

「アレン、ここはえりなとエース提督の言葉に甘えたほうがいいよ。」

 アレンが困惑すると、今度は明日香が彼を誘ってきた。周囲の優しさと気遣いを察し、かつその気持ちを無碍にしてはいけないと思い、彼は頷いた。

「分かったよ、明日香・・・えりな、迷惑をかけるね。」

「ううん。むしろ、アレンくんとソアラちゃんが来てくれて、私もみんなも大歓迎だよ♪」

 アレンが微笑むと、えりなが満面の笑みを浮かべた。

「では、何か分かったらすぐに連絡を入れるよ。クリス提督やユーノくんにも、そういう風に連絡するように言っておくよ。」

「すいません、エースさん。何だかいろいろと助けてもらっちゃって・・」

 エースの気遣いにえりなは素直に感謝する。するとエースがえりなの頭を撫でる。

「私は君たち若者の意思と成長を信じているだけだよ。もちろんえりなくん、明日香くん、君たちもね。」

 エースの優しさを心に秘めて、えりなたちは笑顔を浮かべて頷いた。彼女たちはひとまず、「バートン」に戻ることにした。

 

 えりなたちや管理局の包囲網をかいくぐって、アルフォードを後にしたヴィッツたち。彼女たちは自身の休息を兼ねて、玉緒のお見舞いに来ていた。

「もう、そんなに来なくてもいいのに。みんな揃って心配性なんだから。」

 玉緒がヴィッツたちに苦笑いを見せる。

「これでも玉緒のことを心配しているんだ。玉緒に何かあったら辛いからな。」

 ダイナが憮然とした態度で玉緒を励ます。すると玉緒が満面の笑みを返してきた。

「ありがとね、ダイナ。みんなも。こうしてみんなが来てくれると、あたし、ホントに嬉しいよ。」

「私たちも玉緒の笑顔を見ると、とても心が安らぎます。そう。まるで天使のような・・」

 続けてかけたヴィッツの言葉に一瞬きょとんとするも、玉緒が思わず照れ笑いを見せる。

「もう、ヴィッツたら、そんな大げさな。アハハ・・」

「す、すみません。失礼なことを・・」

 ヴィッツが当惑して謝罪するが、玉緒は気にしていなかった。

「ううん。あたしは嬉しいよ。ありがとね。」

「玉緒・・・」

 玉緒に感謝されて、ヴィッツは心からの喜びを感じて微笑んだ。

「そういえば、みんなにはクラスの友達を紹介してなかったね。今度、紹介できればいいんだけどなぁ・・」

 玉緒が唐突に話を切り出してきた。一瞬眉をひそめるヴィッツだが、微笑んで玉緒に言いかける。

「気持ちはありがたいのですが・・私たちが同居していることをあまり口外しないほうが・・」

「大丈夫だよ、ヴィッツ。みんなならちゃんと受け入れてくれるよ。」

 その苦言に対しても笑顔を崩さない玉緒。彼女の気持ちを尊重したいのは山々だったが、あまり事を荒立てるのがよくないのも彼女たちの本心だった。

 

 三銃士との壮絶な戦いを終えて、えりな、明日香は、私服に身を通したアレンとソアラを連れてバートンに戻ってきた。リッキーもラックスもそれぞれ子狐、子犬の姿になって同行していた。

「あら。えりな、明日香ちゃん、おかえりなさい・・あれ?その子たち・・?」

 笑顔で挨拶をしてきた千春が、アレンとソアラを見て疑問を覚える。

「お母さん、この前話したアレン・ハントくんとソアラちゃんだよ。」

 えりなからの紹介を聞いて、千春が笑みを取り戻す。

「あぁ、クリスさんの。えりなから聞いていますよ。」

「この前は母さんがいろいろと・・アレン・ハントです。」

「ソアラだよ♪よろしくね♪」

 千春が笑顔を向けると、アレンとソアラが挨拶をする。そして店の手伝いをしていたまりなが顔を見せてきた。

「あっ、おかえり、お姉ちゃん、明日香さん。あれ?」

 まりなもアレンとソアラを眼にして、千春と同じ反応を見せる。

「ただいま、まりな。紹介するね。アレン・ハントくんとソアラちゃん。アレンくん、ソアラちゃん、この子は私の妹のまりな。」

 えりなが互いに自己紹介していく。するとまりなが気まずそうな面持ちを浮かべて言いかける。

「あ、あの、もしかして、お姉ちゃんが迷惑をかけちゃいましたか・・・?」

「コ、コラ、まりな!」

 まりなの言葉にえりなが抗議の声を上げる。まりなにからかわれて追いかけるえりなに、明日香だけでなく、アレンとソアラも笑みをこぼしていた。

「け、けっこうにぎやかですね。アハハハ・・・」

 アレンが何とか言葉を切り出すも、彼自身も気休めになっていないと直感していた。しかし千春とまりなは快く彼とソアラを迎え入れた。

「アレンくん、ソアラちゃん、何か作ってあげますね。何がいい?」

「えっ!?いいの!?やったー

 千春の言葉に大喜びをするソアラだが、アレンに襟首をつかまれて押し黙る。

「コラコラ、ソアラ。何でもかんでも飛びかかったらいけないよ・・すいません。そこまでしてもらうわけには・・」

「いいんですよ、アレンくん。えりなの友達なら、ちゃんとおもてなししないと。」

 ソアラに注意しつつ千春に遠慮するアレン。だが千春は優しさを崩そうとしなかった。

「はぁ・・では、お言葉に甘えるしかないですね。」

 アレンは観念したように、千春の賄いを受けることにした。近くのテーブル席に彼とソアラが座ると、その向かいの席にえりなと明日香が座った。

「ゴメンね、アレンくん。お母さん、あれでかなり強引なところもあって・・」

「大丈夫だよ、えりな。僕は優しい人だと思うよ。仮に強引なところがあるとしても、お母さんのほうが全然・・」

 えりなが言いかけると、アレンが苦笑いを浮かべて弁解を入れる。

「でもクリス提督も優しい人だよ。アレンやソアラに優しくしてくれてる。」

「愛の鞭っていうのかな、そういうのは・・」

 明日香も続けて弁解し、アレンはさらに苦笑する。しばらく会話をしていると、千春が甘口カレーを運んできた。

「えりなも明日香ちゃんもどうぞ。よかったらおかわりしてもいいですよ、アレンくん、ソアラちゃん。」

 千春がえりなたちに笑顔を見せると、別メニューの下ごしらえのために厨房に戻っていった。

「さて、それじゃいただこう♪・・あれ?ソアラちゃん?」

 えりながカレーにありつこうとしたとき、ソアラが眼の前のカレーをじっと見つめているのに気付く。

「ソアラちゃん・・・?」

「もしかして、カレーを食べたことがないの、ソアラ?」

 えりなと明日香がソアラに疑問を投げかける。

「うん・・ミッドチルダでは見たことがあるけど、食べたことは全然・・・」

「へぇ。カレー食べたことがないなんて珍しいね。」

 ソアラが作り笑顔で答えたところへ、まりなが声をかけてきた。

「1度食べてみたら?ほとんどの人は好きだって言ってるよ。」

 まりなに勧められて、ソアラは意を決してカレーを口に運んだ。するとその味に好感を持ち、彼女は満面の笑みを浮かべた。

「おいしー♪おいしいよー♪こんなおいしいものを食べたのは初めてだよー♪」

「何もそこまで喜ばなくても・・・」

 狂喜乱舞するソアラに、えりな、まりな、明日香が苦笑いを浮かべる。ソアラはさらに喜びながら、カレーをどんどん頬張っていった。

「千春さーん、おかわりいいですかー♪」

 さらにカレーを頬張るソアラに、えりなたちは笑顔をこぼしていた。

「アレンくん、ソアラちゃん、今日はここに泊まっていったら?今、クリスさんから電話があって、よろしくお願いします、とのことですよ。」

 そこへクリスから連絡を受けた千春がアレンに言いかける。

「もう、お母さんったら・・・すみません。いろいろとご迷惑をおかけして・・」

「いいんですよ。えりなの友達ならみんな大歓迎ですから。」

 その言葉を受け入れるアレンを、千春は改めて迎え入れた。

 

 その間にも、ユーノを筆頭とした三銃士、パンドラスフィアに関する調査は続けられていた。謎めいていたことも徐々に紐解かれ、対策も見出せるようになってきた。

 しかしここまでたどり着くまでの道のりは楽なものではなく、少ない情報から何とか導き出した結果だった。

(パンドラスフィアには、僕たちの想像を大きく超えた何かが隠されている。その答えを見つけたとき、この出来事を終結させる大きな手がかりになるはずだ。)

 これまで導き出したデータを照合しながら、ユーノは分析を繰り返していく。

(スフィアの属性は3つ。雷、炎、水。それぞれ魔法技術の属性に代表される、いわば3大要素だ。その3つを掛け合わせれば、巨大な力が引き出される。どんな願いが叶うという表現も、全くの虚言とは言い切れないかもしれない。)

 ユーノはデータの照合を、パンドラスフィアから三銃士へと移す。モニターにヴィッツたちのデータが映し出される。

(三銃士もそれぞれタイプが違う。戦闘スタイル、三銃士自身、そしてデバイスの魔法属性。それも雷、水、炎・・)

 思考を巡らせる中、ユーノは三銃士とパンドラスフィアを結びつけるあることに気付いた。

(三銃士とパンドラスフィアには、今回、そして彼らが闇を封印したことを細かく解き明かす共通点がある。これを解き明かすことで、三銃士の目的が見えてくる・・・)

 かつてない危機を予感しながら、慎重に調査を行うよう務めた。

 

 それから数日が経過した。三銃士の行動が確認できないため、時空管理局は大きな手がかりを得ることができず、途方に暮れていた。

 これまでのことが夢だったかのように、えりなたちは日常に戻りつつあった。

「やっと戻ってきたわね。もう、なかなか戻ってこないから、さすがの私も心配になっちゃったじゃないのよ。」

 登校して教室に入ってきたえりなと明日香に、姫子が不満をあらわにしてきた。

「ゴメンね、姫子ちゃん。ちょっと、いろいろあって・・」

「分かってる。えりなも明日香も、自分の気持ちに正直になってるのは、私も広美も分かりきってることなんだから。」

 えりなが頭を下げると、姫子が不機嫌そうに振舞いながらも弁解を入れる。

「それで、えりなちゃん、明日香ちゃん、用事は終わったの?」

「ううん。今は休みが取れているだけ。また出なくちゃならなくなる。いつになるか分からないけど。」

 広美が訊ねると、明日香は微笑んで答える。すると姫子が腕組みをして、大きく頷いてみせる。

「なるほどね。じゃしばらく応援させてもらうとするわね。」

「ありがとうね、姫子ちゃん・・それで、また玉緒ちゃんのお見舞いに行こうかなって思ってるんだけど・・」

 えりなが唐突に切り出した言葉に、明日香も小さく頷く。だが姫子と広美は困り顔を見せていた。

「ゴメン、えりな。ちょっと用事があって・・放課後になってすぐってわけにはいかないのよ。」

「私も同じなの・・用事が終わったら、すぐに病院に行こうとは思ってるんだけど・・」

 姫子と広美の事情を聞いて、えりなと明日香は小さく頷くしかなかった。

「それじゃ、私と明日香ちゃんは先に行ってるよ。玉緒ちゃんにも、ちゃんと伝えとくから。」

「分かったよ・・じゃ、玉緒によろしくね、えりな、明日香。」

 笑顔を見せて言いかけるえりなに、姫子は作り笑顔を見せて答えた。

 

 その頃、ヴィッツたちは玉緒の家で休息を取っていた。だが彼女たちにとって望んだ休養ではなく、急務に出るに出られない拮抗状態というべきものだった。

 彼女たちが追い求めているパンドラスフィアのうち、ひとつが管理局の管理下に置かれてしまっている。いくら彼女たちとはいえ、管理局の局員全員を相手にするには、全てを賭けるほどの覚悟が必要だった。

 管理局の警戒が強まる状況下で、迂闊な行動は自分の首を絞めることにつながる。三銃士も管理局も、自分たちと相手の出方をうかがうしかできないでいた。

「どうすんのよ、ヴィッツ・・このまま睨み合ってたって、時間がムダに過ぎてくだけだよ。」

 待つことに我慢できなくなり、アクシオがヴィッツに言い寄ってきた。ヴィッツは焦る気持ちを必死に抑えていた。

「あたしたちには、悠長に待っているわけにも、このまま手をこまねいているわけにもいかないんだよ。ヴィッツもダイナもそれは分かっているはずでしょ?」

「分かっている。だが下手に動けば、さらに状況を悪化させかねない。私たちが管理局に拘束されれば、最悪、玉緒にも何らかの危害を及ぼすことにも・・」

「じゃ、どうしたらいいっていうの!?・・このままじゃ・・このままじゃ、玉緒が!」

「分かっている!」

 声を荒げるアクシオに、ヴィッツもたまらず大声を上げる。その声にアクシオは押し黙ってしまう。

「・・すまない・・お前たちを責めているわけではないのだ・・ただ私は、玉緒を助ける最善の選択をしなければならない。そう考えているのだ・・・」

「いいよ、ヴィッツ・・アンタだって辛いのに・・それなのにあたしは、あなたを一方的に責めちゃって・・・」

 互いに沈痛の面持ちを浮かべて、謝罪の言葉を掛け合うヴィッツとアクシオ。

「とにかく、オレたちがやるべきことはひとつしかない。たとえ相手が何であろうと、オレたちに退路はない。」

 そこへダイナが低い声音で言いかけると、ヴィッツとアクシオも真剣な面持ちで頷く。

「そうよ・・あたしたちに振り返る暇はない。玉緒のためにも、あたしたちは突き進むしかないんだよね・・・」

 アクシオが呟くように発した言葉に、ヴィッツは小さく頷いた。

「次が管理局と・・そして、えりなたちとの最後の戦いになるだろう。」

「けど、あたしたちは、最後のパンドラスフィアを手に入れる。」

「玉緒を救い出すには、パンドラスフィアの導き出す奇跡の力に賭けるしかない。」

 それぞれ決意を口にして、覇気を高めていく三銃士。

「だがその前に、玉緒にもう1度会いに行こう。」

「そうだな・・もう玉緒に会えなくなるかもしれない・・」

「決戦の前に、玉緒から勇気をもらうとしようよ。」

 大勝負の前に、玉緒にもう1度会うことを決めるヴィッツたち。3人はそれぞれの思いと誇りを向けに歩き出し、豊川家を後にした。

(玉緒、お前は私たちの新たな扉を開いてくれた。もしもあのとき、お前との出会いがなければ、私たちは今頃どうなっていたか・・・)

 ヴィッツは思い返していた。自分たちと玉緒との運命の出会いを。それはまさに、奇跡と呼ぶにふさわしいものだと、彼女は思っていた。

 

 

次回予告

 

それはひとつの奇跡だったかもしれない。

みんなは、寂しかったあたしの心をやわらげてくれた。

その幸せがいつまでも続いてほしい。

それが叶うなら、私はこれも奇跡だと信じる・・・

 

次回・「出会い、幸せ、決意」

 

今こそ奇跡の、イグニッションキー・オン!

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system