魔法少女エメラルえりなMiracles
第5話「一点集中!一球入魂だよ」
それは、突然の出来事でした。
新しく解き放たれた力と姿。
収束されていくひとつの力。
それに立ち向かっていく人たちの決意。
迷いも壁も突き破り、進んでいく心。
静かな水が今、激流となって押し寄せる。
魔法少女エメラルえりなMiracles、始まります。
えりなが新しく見せた姿。それはカオスコアとの連動により生まれた「カオスフォーム」である。
カオスフォームはえりなとカオスコアの人格がシンクロさせることで生まれた、えりな自身としての新形態である。通常時と比べて爆発的な身体能力を発動することができる。しかしカオスコアの魔力も消耗するため、その疲労も激しい。
カオスフォームの発動は魔力行使に属するため、ブレイブネイチャーをパイプ役にして発動される。
「これが私たちの新しい姿、カオスフォームだよ!」
えりながヴィッツが向けて、微笑みながら言い放つ。姿はカオスコアの人格を色濃くしているが、表立つ人格はえりなの主人格が強かった。
変貌した彼女に眼を見開いていたヴィッツだったが、すぐに落ち着きを取り戻して彼女を見据える。
「それが私を止めるための姿ということか。」
「気を引き締めてよね。まだ加減がうまくできないから・・もしかしたら、あなたにひどいことをしちゃうかも・・」
「それなら気に病むことはない。もしも命を落としても、運命と思って受け止める覚悟はある。」
互いに言葉を交わすと、えりなとヴィッツが身構える。
“Saver mode.”
ブレイブネイチャーの形状が変化し、魔力の光の刃が出現する。その輝きには白と黒、光と闇が入り乱れていた。
「行くよ、ブレイブネイチャー・・・!」
“Yes,my master.”
えりなの呼びかけにブレイブネイチャーが答える。そしてえりなはヴィッツに向かって飛びかかる。
(速い!)
その速さに一瞬虚を突かれたヴィッツ。とっさに飛び上がってえりなの突進をかわすが、混沌の魔力の余波を浴びて顔を歪める。
そこへえりなが身を翻し、再び飛びかかっていく。かわしきれないと悟ったヴィッツがブリットを掲げて、えりなの繰り出す一閃を受け止める。
(重い!)
その攻撃の重さに、ヴィッツは気圧された。その衝撃に押されて、ヴィッツがえりなに突き飛ばされる。
すぐに体勢を整えて、ヴィッツがえりなを見据える。白と黒に彩られた魔力を帯びたえりなに、ヴィッツは少なからず威圧感を覚えていた。
(速く重い攻撃だ・・何度も受けたら、さすがの私も身が持たない・・・!)
打開の糸口を必死に探るヴィッツに向けて、えりながさらに飛びかかる。
“Leaf slash.”
えりながヴィッツに向けて魔力の一閃を繰り出す。
「ぐっ!・・雷刃撃!」
ヴィッツも反撃に転じて、魔力の弾丸を装てんしたブリットを振りかざす。2つの光刃がぶつかり、激しく火花を散らす。
だが爆発的な潜在能力を発揮しているえりなが、ヴィッツの一閃をなぎ払った。
(バカな・・私とブリットが放つ雷刃撃が押し返されるとは・・・!?)
突き飛ばされたヴィッツが横転する。何とか立ち上がる彼女だが、ブリットの刀身がかすかにひび割れていることに気付き、眼を見開く。
(ブリットが・・まさか、これほどまでに力が向上しているとは・・・!?)
ヴィッツはえりなの力に完全に毒づいていた。このまま戦えば、ブリット共々叩き潰される。彼女はそう感じるしかなかった。
ヴィッツは撤退を余儀なくされていた。だがえりなの速さから逃れる自信はなかった。
そのとき、えりなが突然息を切らしてその場にひざを付いた。その異変にヴィッツも眉をひそめていた。
(どうしたんだ?・・・しかし、これが千載一遇の機会と見るか。)
思い立ったヴィッツは、破損したブリットを気遣いながらこの場を離れる。
「待って・・ヴィッツさん・・・!」
えりなが必死に呼びかけるが、彼女の体は疲弊を訴えていた。思うように体を動かせず、彼女は前のめりに倒れた。
彼女の姿が従来の若草色のバリアジャケットを身にまとったものに戻る。カオスフォームが解除されたのだ。
(これが、さっきあなたが言ってたリスクのひとつなんだね・・・)
“そうよ。このカオスフォームは、カオスコア自体の魔力も使うからね。使いすぎると、今みたいにすぐにへばるよ。”
えりなの心の声に、カオスコアが答える。
カオスフォームはカオスコアの魔力も消費する。今のえりなにはその爆発的な身体能力を持続させるだけの力は備わってはいなかった。
ヴィッツを後一歩まで追い詰めながらも、えりなは体力、魔力を使い果たし、そこから移動することができなくなってしまった。
「えりな!」
そこへリッキーが駆けつけ、意識を失ったえりなに近づく。
「えりな・・・もう、相変わらずムチャをするんだから・・・」
笑みをこぼしているえりなの顔を見て、リッキーも思わず安堵していた。
この日も海鳴大学病院の病室で、1人過ごしていた玉緒。退屈そうに天井を見つめていたところへ、姫子と広美が訪れてきた。
「こんにちはー、玉緒ちゃーん。ちゃんと静かに過ごせてたかなー?」
姫子がからかうように言いかけると、玉緒が思わず笑みをこぼしていた。
「もう、姫子ちゃんたら。あたしだって1人でちゃんと過ごせるわよー。」
ふくれっ面をしてみせる玉緒。彼女が元気そうであることに、姫子も広美も安堵の笑みをこぼしていた。
「玉緒ちゃん、体のほうは大丈夫なの?」
「うんっ♪先生も落ち着いてきてるってお墨付きなんだから♪」
広美の問いかけに玉緒が笑顔で答える。
「でもあんまりムチャしないでよね。玉緒もどっかの誰かさんみたいに、なりふり構わずムチャするところがあるからね。」
姫子が肩を落として呆れた素振りを見せる。
「ところで、えりなちゃんと明日香ちゃんは?」
玉緒が唐突に訊ねると、姫子と広美が苦笑いを浮かべる。
「えっと・・えりなちゃんと明日香ちゃんは・・」
「た、確か今日は用事があるとかって言ってたわね!アハハ・・」
広美が言いかけて、姫子が慌てて答える。えりなと明日香が魔法使いであることを、玉緒には内緒にしていたのだ。
2人の答えとその態度を見て、玉緒が思わず笑みをこぼした。
「もう、姫子ちゃんも広美ちゃんもしっかりしなくちゃ♪でないと今度は姫子ちゃんたちがえりなちゃんに笑われちゃうよ。」
「えっ!?ええっ!?そ、それだけは絶対に勘弁よ、絶対!」
玉緒の言葉に姫子が不満を言い放つ。その反応に玉緒だけでなく、広美も笑みをこぼしていた。
「もう、広美まで笑うことはないじゃないのよー・・」
姫子がついに落胆してしまった。この屈託のないひと時が、玉緒にとってかけがえのないものだと感じていた。
この幸せがいつまでも続いてほしい。それが玉緒のしたたかな願いだった。
他の三銃士と散開して、パンドラスフィアの捜索を行っていたアクシオ。その途中、彼女はヴィッツの異変を察知して、ひとまず地上に降り立つ。
(ヴィッツ?・・・ヴィッツ、何かあったの?)
アクシオが念話を送ると、ヴィッツからの返答が返ってきた。
“アクシオか・・すまない。やられた・・・”
(や、やられたって!?・・どんなヤツがアンタを・・・!?)
ヴィッツの言葉にアクシオが驚愕を覚える。
“坂崎えりな・・以前戦った魔導師が、新たなる力を発動してきた・・・発動を長く維持するには至ってなかったが、その力は脅威と見ざるを得ない・・・”
(何てことなのよ・・・この短期間で、ヴィッツを追い込むほどになるなんて・・・!?)
“おそらく他の魔導師や局員も、強化や秘策を図っていることだろう。油断しないほうがいいだろう。”
ヴィッツとの交信を続けていくアクシオ。そのとき、アクシオの表情が険しくなる。
(こっちにも来たみたいだよ、ヴィッツ・・・)
アクシオはヴィッツにそう告げると、背後に降り立った明日香とラックスに振り返った。
「またあたしを止めに来たの?悪いけど、あたしはここでアンタたちに捕まるわけにはいかないのよね。」
アクシオが憮然とした態度で言いかけるが、明日香は顔色を変えない。
「私はあなたを捕まえに来たんじゃない。あなたに、話を聞きに来ただけ・・」
「私に話を?・・アンタと仲良く話をしたって、あたしたちの目的が達成できるわけでもないし。」
明日香の言葉を一蹴して、アクシオは剣の形をしたキーホルダーと鍵を手にする。
「いくわよ、オーリス!」
“Standing by.”
アクシオの呼びかけにオーリスが答える。
“Complete.”
鍵がキーホルダーに差し込まれると、起動したオーリスが剣へと形状を変える。水の剣を手にしたアクシオが、改めて明日香を見据える。
「アンタと悠長に話をしている暇はあたしたちにはないの。邪魔をするつもりなら、今度こそ叩き潰すからね!」
「私もこのまま引き下がるわけにはいかない。私はただ、あなたたちの目的とその真意を知りたいだけ・・力ずくでも話し合いに持ち込むから・・・!」
身構えるアクシオに対して、明日香も箱と鍵を手にする。そして箱に鍵を差し込み、回す。
“Standing by.Complete.”
起動したウンディーネが杖の形状に変わる。同時に明日香も水色をメインカラーとしたバリアジャケットを身にまとう。
「力ずくって言っておきながら、何も変わってないじゃない。途中で割り込んできた赤服の守護騎士のほうがまだ厄介なほうよ。」
「もちろん何も考えないで、あなたともう1度相手しようとは思っていない。」
あざけるアクシオだが、明日香はそれでも冷静さを崩さない。
「それじゃ見せてよ。そのせっかくの考えっていうのを。」
アクシオの挑発を受ける形で、明日香はウンディーネを構え、意識を集中する。
「いくよ、ウンディーネ・・ラックス、逃がさないように、少し離れていて。」
「明日香・・・分かったよ。あたしがすぐに距離をつめて、あの子を逃がさないようにしとくよ。」
明日香の呼びかけを受けて、ラックスが頷き、アクシオを見据えつつ距離を置いた。
「ウンディーネ・・ドライブチャージ・マックス!」
“Drive charge.Max ignition.”
明日香の呼びかけに答えるウンディーネ。その宝玉に光が宿り、徐々に強まっていく。
(自分の魔力をどんどんデバイスに注いでる。それだけじゃなく、周りに散らばってる魔力の粒も集めてるみたい・・・)
明日香の行動をじっと見据えるアクシオ。
(もしかして、あたしに負けないくらいに魔力を集めて、それを一気に放出するつもりじゃ・・・!?)
それを危険視したアクシオがとっさに明日香に飛びかかる。
“Freeze cage.”
アクシオが即座に展開したフリーズケージが、身構えている体勢の明日香を閉じ込める。フリーズケージは発動時間や魔力消費の大きいケージ系の魔法の中で、即効性が早い部類に入る。
(明日香・・・)
氷塊に閉じ込められた明日香をじっと見つめるラックス。だが彼女の心配はすぐに払拭された。
“Drop Sphere.”
ウンディーネの音声が上がると、明日香を閉じ込めている氷塊から水色の光の弾が飛び出してきた。
「えっ・・・!?」
一瞬この瞬間に虚を突かれるも、アクシオは向かってきた水の弾丸を、とっさに飛翔して回避する。だが水の弾丸は方向転換して彼女を追跡する。
“Ice shield.”
アクシオはオーリスを掲げて、氷の壁を展開する。水の弾丸は氷の壁に突っ込みながらも、その勢いは衰えない。
(ぐっ!・・この前よりも全然重みが違う・・やっぱ魔力を集中させて強力にしてある・・・!)
明日香の魔力に押されて、アクシオが毒づく。やがて水の弾丸の圧力に耐え切れなくなり、氷の壁に亀裂が入る。
「んもうっ!」
アクシオは不満を口にしながら後退を決め込む。ひび割れた氷の壁が打ち破られ、さらに彼女に向かって飛んでいく。
水の弾丸の直撃を受けて、アクシオが爆発に巻き込まれる。苦悶の表情を浮かべて落下しかかるも、彼女はすぐに体勢を立て直す。
(まさか、あたしの魔力を打ち破るなんて・・・!)
増強している明日香の魔力にアクシオが毒づく。だが明日香は次の一手を取ろうとしていた。
“Drive charge.Blast form.”
ウンディーネが砲撃型へと形を変える。明日香は一点集中した魔力を最大出力で解き放とうとしていた。
(また!・・ダメ!あたしが飛び込んで止めようとしても、向こうのチャージ完了のほうが全然早い!)
危機感と勝機のなさを痛感し、歯がゆさを覚えるアクシオ。魔力の装てんを完了した明日香が、アクシオに狙いを向ける。
「この砲撃、この距離なら絶対に逃がさない・・・!」
“Ocean smasher max splash.”
明日香がアクシオに向けて水の力を帯びた砲撃魔法を発射する。以前よりも格段に威力が上がっているその閃光に対し、アクシオは必死に回避行動を取る。
だが砲撃はアクシオを突き飛ばしていた。直撃は避けたものの、アクシオはダメージを受けて森の中へと落下していった。
「いけない!すぐに追わないと!」
2人の戦いを見守っていたラックスが、アクシオの行方を追う。だが魔力を消耗しすぎた明日香のい疲弊した様子を眼にして、彼女は踏みとどまる。
「明日香、どうしたの!?大丈夫!?」
“ラックス、私は大丈夫・・それより、アクシオを・・・!”
近寄ろうとしたラックスを明日香が念話で制する。
「明日香・・・分かったよ・・・」
ラックスは明日香の安否を気にしながらも、アクシオの行方を追った。落ちていった地点に降り立つが、その周辺にはアクシオの姿もなく、気配も感じられなかった。
(いない・・・ゴメン、明日香・・逃げられちゃったよ・・・)
“いいよ、ラックス・・これは、私の力不足だから・・・”
謝罪するラックスに、明日香が弁解を入れる。
(そんなことないよ、明日香!明日香は十分に力をつけたじゃない・・・!)
“ラックス・・ありがとう、ラックス・・・”
ラックスから励ましの言葉をかけられ、明日香は感謝を感じた。
その頃、無限書庫にて三銃士とパンドラスフィアについて調査を行っていたユーノ。パンドラスフィアに関する情報が少なすぎたため、彼は三銃士について先に調べていた。
その調査を行っていた彼にところへ、エースが訪ねてきた。
「エース提督、どうも。」
調査を一時中断して、ユーノがエースに歩み寄った。するとエースは微笑みかける。
「すまなかったね、ユーノくん。いきなり来て、邪魔してしまって・・」
「いいですよ、エース提督・・調査の状況を聞きに来たのですか?」
ユーノの言葉にエースが頷く。
「こんな短期間で情報が集まるなどと虫のいい考えだということは分かっている。しかし、私も彼らのことが気がかりであることも事実なのだ・・」
「そうですか・・・分かりました。今、集まっている情報だけでも伝えておきますね。」
ユーノはエースの申し出を了承すると、キーボードのパネルを操作して、収集した情報を表示する。
「三銃士は、これまで数々の強盗を行ってきました。ですが彼らは、クラフトにて発生した悪質な魔力を宿した闇を封印しているのです。」
「そのことなら私も知ってるよ。丁度その現場に向かったからね。でも私たちが来たときには、全てが終結していた・・」
ユーノの報告を受けて、エースが深刻な面持ちを浮かべる。エースは三銃士が消息不明になったそのときの事件が行われた場所に赴いていたのだ。
「この事件以降、三銃士の消息は分からなくなってしまいました。死亡してしまったのかという憶測まで飛び交いました。ですが、彼らは生きていたんです・・・」
ユーノは説明しながら、キーボードを再び操作する。
「第97管理外世界・・なのはやえりなちゃんたちの出身世界です・・・」
ユーノのこの言葉にエースが眉をひそめた。
「となると、この世界のどこかが、彼らの現在の拠点になっている可能性が高い。」
「そうですね。これから調査員を向かわせるよう、連絡を入れておきましょう。」
「それなら私がしておこう。私も君たちの力になりたいからね。」
「エース提督・・すみません。提督にまで手を回してしまって・・」
すまなそうにするユーノに、エースが微笑んで弁解する。
「気にしなくていい。私は君たちを信頼しているだけなのだよ。」
「信頼ですか・・僕たちに・・・?」
突然のエースの言葉に、ユーノが当惑を覚える。
「私は信じているのだ。これからを担っていくことになる君たちの若さに・・君やアレンくん、なのはくんたち、そして坂崎えりなくん、町井明日香くん・・この先の未来に向けて苦難に立ち向かっていく若者たちの可能性に、私は賭けている・・・少し、お節介だったかな・・?」
「いえ、そんな・・・ありがとうございます。本当に嬉しいです。提督から、このような言葉をかけられるなんて・・」
エースから励ましの言葉を受けて、ユーノが照れ笑いを浮かべる。
「ところで、パンドラスフィアについても聞かせてもらいたい。わずかでも構わない・・」
「すみません。パンドラスフィアに関しては、まだ情報が集まらない状態で・・・この件も、全力で調査を行っていくつもりです。」
エースの申し出にユーノは申し訳なく答える。するとエースは微笑んで、ユーノの肩に軽く手を当てる。
「焦らなくていい。焦ると、簡単につかめるものさえ、全て自分の手の中から零れ落ちてしまうからね。」
「エース提督・・・いろいろとありがとうございます・・・」
エースにさらに励まされて、ユーノは作業に戻った。エースもさらなる調査のために、この無限書庫を後にした。
その廊下にて、エースは突然駆け込んできたオペレーター、クラウンに声をかけられた。
「エース・クルーガー提督、大変です!・・アレンさんが・・アレン・ハント執務官補佐が・・・!」
クラウンからの報告に、エースが深刻な面持ちを浮かべる。アレンは傷が完治していない状態のまま、現場に赴いたのだった。
ヴィッツ、アクシオが管理局の魔導師と交戦したことを察知したダイナも、パンドラスフィアの捜索を急いでいた。
(管理局の介入が強まってきている。オレのことも感付かれていると考えたほうがいいだろう。)
周囲への警戒を強めながら、ダイナはさらに移動を続ける。そのとき、彼はふと移動を止めて身構え、上に飛翔する。
彼がその場にいた地点には光の輪が出現していた。もしも回避行動を取らなければ、その輪に拘束されていただろう。
ダイナは眼つきを鋭くして、視線を移す。その先にはアレンと、「フープバインド」を発動させていたソアラの姿があった。
「お前たちか・・分かっているのか?お前たちの力は、オレとヴィオスに歯が立たなかったことを。夜天の主が赴かなければ、お前の命はなかった・・」
「分かっている。もちろん、何の考えもしないでお前の相手をするのは、無謀もいいところだ。」
ダイナが低い声音で言いかけると、アレンも真剣な面持ちで答える。そしてアレンは剣の形状をしたキーホルダーを手にして見つめる。
その中で彼は、出撃する直前の出来事を思い返していた。
ダイナとの戦いで大破したストリーム。修復したこのデバイスには、破損したベルカ式カートリッジシステムの代わりに、グラン式ドライブチャージシステムが組み込まれた。
アレンは新たに生まれ変わったストリームの使用に慣れるため、特訓を開始していた。
ドライブチャージシステムはカートリッジシステムと違い、使い手の魔力を弾丸にして装てんする仕組みになっている。つまりこれまでの戦闘と比較にならないくらいの魔力消費が予想される。
アレンはドライブチャージシステムの慣れとともに、魔力、体力の向上も図っていた。
「アレン、大丈夫かな?まだ体が治りきってないんだよ・・」
「分かってる。でも疲れてるときこそ、体を鍛えるのに最適なんだよ。」
ソアラの心配の声に、アレンは訓練を続けながら答える。彼の体は多大な魔力消費で疲弊していた。
「自分の眼の前に壁が現れて、それを突破しなくちゃならないときは、弱さを理解してそれを克服して突破する。力が足りないなら力をつける。迷っているなら迷いを解決する。」
「アレン・・・」
「ルールと安全を守りながら、自分の中にある大切なもの、守るべきもの、守りたいと思っているものを守る・・・なのはさんが教えてくれたことなんだけどね。」
アレンはひとまず手を止めて、ソアラに笑みを見せる。
アレンは戦技教導官を務めているなのはの教え子であり、彼女から様々なことを教わった。魔法技術だけでなく、魔導師として、管理局の局員として、人として大切なことを。
「でも、僕もこう思っていた・・罪を犯そうとしている人がいるなら、僕はその罪を止める。罪を犯してまで何かを守ろうとしているなら、僕は・・」
アレンは自身の決意を語りながら、ストリームを振りかざす。
「・・救いの手を差し伸べてあげたい・・・!」
決意を強めて、アレンはさらなる高みを目指し、特訓に励んだ。その姿を見て、ソアラも笑みをこぼして頷いていた。
そのとき、アレンとソアラのいるこの訓練場にも、三銃士の発見を知らせる警報が鳴り響いてきた。
「アレン、この警報、もしかして・・・!?」
ソアラの声にアレンが頷き、ストリームを待機状態に戻す。
「今の状態の僕が任務を行うのは、あまりにも危険だ。それでも僕は行かなくてはならない。この壁を突破しなくちゃいけないのは、僕なんだから・・・」
「アレン・・・行こう♪私はどこまでもアレンについていくからね♪」
アレンの言葉を受けて、ソアラも無邪気に言いかける。2人は三銃士、ダイナとの再戦に向けて、傷ついた体に鞭を入れた。
自身の決意を改めて噛み締めると同時に、アレンはストリームを握り締めた。
「僕は君たちを止めなくてはならない。君たちが何の目的で行動しているかは知らないけど、それが罪につながるのなら、僕はそれを止めなくてはならない・・・!」
「ならば力ずくで止めるしかないな。オレたちはオレたちの使命を果たすため、ここで踏みとどまるわけにはいかないのだ・・・!」
アレンが言い放つと、ダイナは顔色を変えずに答える。
「いくぞ、ヴィオス!」
“Standing by.Complete.”
ダイナの呼びかけに待機状態のヴィオスが答える。剣の形状に鍵が差し込まれ、ヴィオスが大剣へと形を変える。
起動したヴィオスを後ろに持っていき、ダイナがアレンを見据える。
「お前も剣を構えろ。丸腰の相手をするつもりは、オレにはない。」
「分かった。僕も全力で君の相手をする・・・ソアラ、その間にパンドラスフィアの在り処を探すんだ。」
ダイナに言いかけて、アレンがソアラに呼びかける。
「でも、それじゃアレン1人で・・」
「僕は大丈夫。今、僕たちがしなくてはならないのは、みんなを守ること。そのために最善の選択肢を選び、実行すること。」
ソアラの心配にアレンが微笑んで答える。気持ちが真っ直ぐになっている彼を目の当たりにして、彼女も笑みを浮かべて頷いた。
「分かったよ、アレン。でも、絶対に無事でいてね。」
「うん。ソアラもね。」
アレンに自分の気持ちを託して、ソアラはパンドラスフィアの回収のため、地上に降下した。彼女が追撃されないよう、アレンはダイナを見据える。
「追おうともしない・・いったい何を考えて・・」
「もし追ったとしても、お前はそれを見過ごしたか?阻むつもりの相手ならば、真っ向から叩き伏せるのみ。」
疑問を向けるアレンに、ダイナは淡々と答える。その真っ直ぐな信念を、アレンも真剣に受け止める。
「ありがとう・・もしもこんな出会いをしなければ、君とは友として分かり合えたと思う・・・」
「オレも、そんな気がしている・・・」
「それじゃ行くよ!これが僕の新しい剣、ストリーム・インフィニティー!」
アレンの意思を受けて、ストリームが起動する。魔力の光を刀身に宿した剣の形状に。
ドライブチャージシステムを搭載したアレンの新たなるデバイス「ストリーム・インフィニティー」である。
「外見はさほど変わってはいない。だが内在する魔力は以前を大きく上回っているな。」
ダイナは顔色を変えずにアレンとストリームの力を分析する。
「まだこの力に慣れてないんだ。悪いけど手加減はうまくできない・・・」
アレンはダイナに警告を送ると、ストリームを構える。
“Starker Wind.”
そして光を宿した剣を振りかざすと、風の刃がダイナに向かって飛びかかる。その威力と勢いに気圧され、ダイナはとっさにヴィオスを掲げて光刃を受け止める。
だが光刃はダイナとヴィオスをそのまま押していく。跳ね返すことが困難と判断したダイナが、身を翻して光刃を受け流す。
格段に向上したアレンとストリームの威力に脅威を覚えるダイナ。アレンは再びストリームを構え、ダイナを見据えていた。
次回予告
この剣に宿った数々の思い。
その心は力となって、眼の前の壁を切り開く。
その剣に秘められた出会いと悲しみ。
三銃士の中に隠された過去が今、蘇る・・・
今こそ奇跡の、イグニッションキー・オン!