魔法少女エメラルえりなMiracles

第4話「2人の私の覚醒のときだよ」

 

 

それは、突然の出来事でした。

 

それぞれ歩き出していく心。

自分の気持ちを届けたい。

そのためには、体も心も強くならなくちゃいけない。

 

始まった衝突。

それを止めるのは力よりも、気持ち・・・

 

魔法少女エメラルえりなMiracles、始まります。

 

 

 時空管理局無限書庫。そこには管理局の関わるあらゆる情報が収められていた。

 その無限書庫の司書長を務めている少年、ユーノ・スクライア。書庫のデータ管理を行っていた彼のところに、えりなとリッキーが訪れてきた。

「ユーノさーん!お久しぶりですー!リッキーでーす!」

 まさに無限に広がっているかのような広さのある書庫を見上げて、リッキーが呼びかける。するとユーノは作業を中断して、2人の前に降り立った。

「久しぶりだね、リッキー。どうしたんだい、突然?」

「ユーノさん、実はちょっと訊ねたいことがあるんです・・」

 ユーノが問いかけると、リッキーが言いかける。だがその内容を切り出したのはえりなだった。

「ユーノさん、私、もっと強くならなくちゃいけないんです。何か方法とかありませんか?」

 えりなの突拍子のない質問に、ユーノは一瞬当惑する。

「虫のいい話だとは自分でも思います。でも私、すぐに強くならなくちゃいけないんです。お願いします、ユーノさん。」

 えりなはユーノに頼むと、深々と頭を下げた。しかしユーノは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「悪いんだけど、こればかりは地道に努力していくしかないと思うよ。簡単に手に入れられる強さは、必ずその人への何かの跳ね返りがあるからね。」

 申し訳なさそうに答えるユーノに、えりなは困惑を覚える。それでも彼女は打開の糸口を必死に探っていた。

「私がカオスコアであることはユーノさんも知っているでしょう。そこに、何か強くなるきっかけが隠れているかもしれません。」

「カオスコア・・・だけど、カオスコアはもうひとりのえりなちゃん。君の裏、影の部分とされている。その力を借りるのは、その影に取り込まれてしまう危険が極めて高いんだ。」

 えりなの案にユーノが苦言を呈する。その意見にリッキーも同意していた。

「そうだよ、えりなちゃん。やっとカオスコアの暴走が治まってるのに、それを自分で表に出そうだなんて・・」

「分かってる。でも大丈夫。影でも、もうひとりの私だから、きっと分かり合える。カオスコアの事件の後も、ちゃんと話し合ったんだから・・」

 ユーノ、リッキーの心配を受け入れながらも、えりなの決意は揺るぎないものとなっていた。

「私は“私”を信じてる。だからリッキー、ユーノさん・・・」

 えりなは自分の胸に手を当てて、自分の意思を表す。その揺るぎない決意を目の当たりにして、リッキーもえりなを信じることにした。

「分かったよ、えりなちゃん。えりなちゃんが、1度決めたことを曲げずに最後まで突っ走ることを、僕も知ってるから・・」

 リッキーが真剣な眼差しをユーノに向ける。えりなとリッキーの決意を目の当たりにして、ユーのは言葉を切り出した。

「えりなちゃんの中にあるカオスコアの力をうまく引き出せれば・・・」

「カオスコアの力を・・・」

 ユーノの言葉にえりなが戸惑いを浮かべ、自分の胸に手を当てる。だがユーノは深刻な面持ちを浮かべる。

「でもカオスコアの力は、使うにはあまりにも危険なものなんだ。下手をしたら、カオスコアの人格に完全に支配されて、2度と元には戻れなくなってしまうかもしれない。」

 ユーノの警告を込めた言葉に、えりなもリッキーも困惑を感じずにはいられなかった。だがえりなの決意は揺るぎなかった。

「大丈夫です。私と、もうひとりの私は分かり合えますから・・」

「・・・分かった。でもカオスコアとの交信は、君以外の助けが必要となってくる。」

「私以外の、助けが・・?」

「そう。それを行うのは、リッキー、君だよ。」

 ユーノに指名されて、リッキーが一瞬当惑する。

「僕が、ですか・・?」

「うん。えりなちゃんと一緒にカオスコアの回収を行ってきた君なら、えりなちゃんをカオスコアに導きやすいんだ。」

 ユーノの言葉を受けて、リッキーがえりなに眼を向ける。彼は彼女とともに公私を過ごしてきたことを思い返していた。

「分かりました、ユーノさん。それでユーノさん、僕からも頼みたいことが・・」

「分かってる。パンドラスフィアについて調べることでしょ?」

 言いかけたところをユーノが答え、リッキーが再び当惑する。

「話ははやてとエース提督から聞いているよ。僕も僕なりにパンドラスフィアの詳細と、三銃士の動向を調べてみるよ。」

「そうですか・・分かりました。えりなちゃんは、僕に任せてください。」

 ユーノの言葉を受けて、リッキーも頷いた。

「行こう、えりなちゃん。僕がちゃんとサポートしてみせるから・・」

「ありがとう、リッキー。」

 リッキーの助力にえりなが感謝の言葉を返す。

「さて、じゃ僕も作業に移らないと・・みんな、ちょっと手伝って。」

 2人を見送ってから、ユーノも局員数人に呼びかけて、パンドラスフィアの調査を開始した。

 

 同じ頃、明日香も自身の強化のために、訓練を開始していた。どの打開策を取るにしても、体力、魔力を向上させるに越したことはない。

 だが今はまだ闇雲になっている状態で、明日香は焦りをこらえるのにも必死だった。

「明日香、あんまり慌てても、かえって遠回りになっちゃうよ。」

 たまらず心配の声をかけたラックス。すると明日香が体を休めて、彼女に振り返る。

「ありがとう、ラックス・・私は焦ってはいないよ。ただ私は、真っ直ぐに一歩一歩進んでいるだけ・・」

 明日香がラックスに向けて微笑みかける。だがラックスは心配の色を隠せなかった。

「相手が使う魔法は、私と同じ水属性。今よりも強くならないと、絶対競り負ける。力も、心も・・」

「気持ちは分かるよ。あたしは明日香の使い魔だからね。でも明日香は、いろいろ考えるよりも、集中しているときのほうが、あたしとしては好きかな・・」

 明日香の言葉にラックスが励ましの言葉をかける。だが気まずい言葉をかけてしまったと思い、ラックスが苦笑いを浮かべる。

「集中・・そうか。」

 だがその言葉を耳にして、明日香は思い立った。彼女は自身の強化のための秘策を見出していた。

「ウンディーネのエレメントフォーム。あれを普通に扱うことができれば、何とかできるかもしれない・・」

「そりゃそうだけど・・エレメントフォームはフルドライブで、ウンディーネにも明日香にも危険な形態なんだよ。それを普通に扱うだなんて・・」

 明日香の案にラックスが不安を覚える。

「そうじゃなくて、魔力を一転集中できれば、フルドライブでなくても威力を上げられると思う。それができれば・・」

 明日香は思い立った案を実行しようと意識を集中する。彼女の手にするウンディーネの宝玉に光が宿り、強まっていく。

「いくよ、ウンディーネ。ドライブチャージ。」

OK.Drive charge.”

 明日香の呼びかけにウンディーネが答える。彼女の魔力を媒体とした魔力光が弾丸のように装てんされ、ウンディーネに収束される魔力が強まっていった。

 

 傷ついて意識を失っていたアレンが、ようやく眼を覚ました。体を起こした彼に、ソアラが喜びを浮かべた。

「アレン・・よかった・・・」

「ソアラ・・・僕は・・・?」

 すがり付いてくるソアラを眼にして、アレンが当惑する。

「アレン、あなたは三銃士との戦闘で傷ついて、気絶してしまったのです。」

 そこへクリスが説明を入れてきた。それを受けてダイナとの戦闘を思い出し、アレンは沈痛の面持ちを浮かべる。

「すみません、母さん・・・僕の力不足でした・・・」

 アレンがクリスに向けて謝罪の言葉をかける。だがクリスは笑顔を絶やしていなかった。

「そう思ってるなら、もっと力をつけて次は勝てばいいだけ。あなたなら、私以上にそれが分かってるはずですよ。」

「母さん・・・そうですね。僕は母さんに負けないくらいに負けず嫌いですからね。」

 クリスの励ましを受けて、アレンは笑顔を見せた。心まで折れていないことを察して、ソアラも笑顔で何度も頷いていた。

「やぁ、アレンくん。気がついたようだね。」

 そこへエースが医務室に入ってきた。アレンたちが彼に眼を向け、クリスが微笑を向けていた。

「話はクリス提督から聞いているかな?今、調査員が数十名、三銃士とパンドラスフィアの行方を追ってくれている。はやてくんたちも向かったよ。」

「はやてさんが・・・そうですか・・・」

 エースからの報告に、アレンが戸惑いを覚える。彼ははやてたちに、助けてもらったことに感謝の言葉をかけようと思っていた。

「エース提督、僕も調査に向かいます。僕が止められなかったために、三銃士が今も野放しになっています・・・」

 アレンがベットから起き上がるが、エースは首を横に振る。

「今の君が出て行って、君が戦った三銃士に対して勝算はあるのかい?焦る気持ちは分かるが、ここは踏みとどまったほうがいい。」

「ですが、このままじゃ・・」

「出撃する前に君がやらなくてはならないことは、生まれ変わったデバイスを使いこなすことだよ。」

 エースが切り出した言葉に、アレンは一瞬当惑する。

「大破したストリームだがね、カートリッジシステムにまで破損が及んでいた。だから修復の際にその代わりとして、グラン式のドライブチャージシステムを組み込んだんだ。」

「ドライブチャージシステム・・・」

 エースが語った事実にアレンがさらに当惑する。

「カートリッジを装てんして、威力を高めるベルカ式と若干異なり、グラン式のドライブチャージは使い手の魔力を凝縮して、弾丸のようにデバイスに装てんするもの。使いこなすには、相応の魔力を身につける必要がある。」

「僕が、ドライブチャージを・・」

「アレンくん、潜在能力の高い君なら、ドライブチャージシステムを使いこなせるはずだよ。ただ、使い慣れないまま実践で使うのはさすがにギャンブルが過ぎると思う。だから1度試して、その感覚を頭と体に叩き込んでおいたほうがいい。」

 エースの言葉を受けて、アレンは決意を固める。これからの自分にとってふさわしい選択肢を、彼は胸中で選び抜く。

「分かりました、エース提督。僕、この試練も乗り越えてみせます。そして、執務官に向けての、新しい一歩を踏み出します。」

 アレンの言葉にエースは微笑んで頷く。

「行こう、ソアラ。手伝ってくれるかい?」

「もちろんだよ、アレン♪私、アレンのパートナーだもんね♪」

 アレンとともに、ソアラが無邪気に医務室を飛び出していった。2人を見送って、クリスとエースが微笑む。

「アレンくんも、大人になりましたね。」

「・・いいえ・・あの子はまだまだ子供ですよ。ただ・・」

 エースの言葉にクリスが言いかける。

「あの子が大人へと昇っていく瞬間のひとつひとつが、私のかけがえのない思い出となっています・・・」

 クリスの気持ちを聞いて、エースも同意して小さく頷いた。

 

 デバイスが完成したことを聞かされて、健一は研究スタッフに呼ばれて研究室を訪れていた。スタッフは戸惑いを浮かべている健一に、剣の刀身状のキーホルダーと鍵を見せた。

「これが君の新しいデバイスだよ。ブレイドデバイス“ラッシュ”。」

「ラッシュ・・」

 説明するスタッフから待機状態の「ラッシュ」を受け取る健一。

「ブレイドデバイスはグラン式デバイスの中でも、ベルカ式アームドデバイスに近い性能を持っている。つまり攻撃、対人戦闘に特化している。君の場合、オールラウンドデバイスよりもこっちのほうが相性がいいと思って・・」

「そうですか・・・すいません。オレのためにここまでしてもらって・・・」

 スタッフに感謝を感じて、健一は笑みをこぼした。

「君もえりなちゃんや明日香ちゃんたちと同じように、新しい一歩を踏み出したんだ。その後押しができると思えば、私たちも嬉しい限りだよ。」

「いえ。それならなおさらオレは嬉しいですよ・・それで使い方は・・?」

「うん。オールラウンドデバイスとは少し違うんだ。ソリッドには音声認識知能も組み込まれていて、呼びかけてから鍵を差し込む仕組みになっているんだ。」

 スタッフからの説明を受けて、健一がラッシュを見つめる。彼はラッシュを扱う自分の姿をイメージしていた。

「ありがとうございます。ちょっと練習してみます。」

 健一がスタッフに言いかけたときだった。研究室の中に緊急を知らせる警報が響いてきた。

「どうしたんですか?」

「三銃士の1人を発見!第4管理世界、アルフォードを移動中!」

 スタッフが訊ねると、オペレーターの1人が答える。その報告を耳にして、健一は緊迫を覚える。

「引き続き監視を続けて。ランクSクラス以上の局員にアルフォードに向かうように連絡を。」

 オペレーターたちの連絡が飛び交い、研究室にまで届いてきていた。その内容を聞いて、健一は研究室を飛び出した。

「ちょっと、健一くん!」

 スタッフが呼び止めるのも聞かずに、健一はアルフォードに向かうため、転移装置に急いだ。

(えりな、お前だけに、辛い思いを背負わせたりしないからな・・・!)

 健一の心には、えりなを守りたいという気持ちでいっぱいになっていた。

 

 ユーノからの助言を受けて、えりなは自分の中にあるカオスコアの人格との対話を試みようとしていた。

「それじゃ、ちょっと行ってくるね、リッキー。」

「うん。僕がしっかりサポートするからね。」

 えりなの呼びかけにリッキーが真剣な面持ちで頷く。

「それじゃ、えりなちゃんの意識を、えりなちゃんの深層意識にリンクさせるよ。」

 リッキーの呼びかけを受けて、えりなが自分の胸に手を当てて、意識を集中する。リッキーも転移魔法の要領で、人格に対する転送に集中する。

「命の息吹、魂の旋律、彼の魂を、その奥底へといざなえ・・」

 リッキーの詠唱とともに、えりなの体を淡い光が包む。彼女が眼を閉じた瞬間、彼女の主人格はその心の奥へと入り込んでいった。

 

 自身の深層心理の中へと入り込んだえりな。一糸まとわぬ姿の彼女の魂は、心の奥へと突き進んでいく。

(この奥にいるんだね・・もうひとりの私が・・・)

 えりなはカオスコアの気配を探りながら、さらに奥へと進んでいく。彼女はしばらく進むと、半透明の水晶を発見する。

 その中に眠るように閉じ込められているほうひとりのえりな。だがその彼女は長い白髪をしていた。カオスコアとしての、えりなの別人格である。

 えりなはその水晶に手を当てると、心の中で語りかけるように意識を集中する。

「久しぶりだね・・もうひとりの私・・・」

 えりなが語りかけると、カオスコアの人格がゆっくりと眼を開く。その紅い瞳が、微笑みかけるえりなを捉える。

「こんなところに何の用なの?・・ここは主人格であるあなたにはよくないところなんだけど。」

「分かってる。でも私は、それを覚悟の上で、あなたに頼みたいことがあってきたの。」

 気のない態度で言いかけるカオスコアに、えりなは真剣な面持ちで答える。

「私とアンタは一心同体だから、アンタの考えてることは手に取るように分かる。だけどあえて、アンタの口から聞かせてもらえない?」

 カオスコアが訊ねると、えりなは小さく頷いてから答える。

「私のこの気持ちを伝えるために、私、もっと強くならなくちゃいけないの。そのために、あなたの力を貸してほしいの・・・」

「でもね、私はアンタでありながら、アンタを支配しようとしたんだよ。その私の力を借りようだなんて、アンタも焼きが回ったものね。」

 えりなの頼みを聞いて、カオスコアがからかいの言葉をかける。だがえりなは顔色を変えない。

「冗談よ。私はアンタ。アンタのやることにはいろいろと楽しませてもらってるしね。見てて飽きないもの。」

「あなたは私。あなたが本当は、私の気持ちを受け止めようとしていることも分かっている・・」

「じゃ、このことも分かってるわね。カオスコアの力を扱うことが、アンタにとってどれほど危険なことか。」

 カオスコアが警告を告げるが、えりなは顔色を変えずに頷いていた。彼女が覚悟を決めていると察して、カオスコアは話を続ける。

「いつも表に出てるアンタを光とするなら、カオスコアは影であり闇。アンタの心が強くなかったら、アンタはその闇に食われて、2度と元に戻れなくなる。」

「うん。でも大丈夫だよ。あなたは私を食わない。私はそう信じてるから・・・」

 カオスコアの警告を耳にしながらも、えりなは笑顔を見せていた。その笑顔に秘められた決意を垣間見て、カオスコアもそれを受け入れた。

「分かってるよ。私はアンタに力を貸す。でも今言ったこと以外にも、いろいろとリスクがあるんだけど・・ま、アンタならそれも分かってるよね。」

「うん・・ありがとうね・・・」

 カオスコアの協力に感謝するえりな。えりなとカオスコアが、水晶越しに手を合わせると、2人の体をまばゆいばかりの光が包み込んでいった。

 

 パンドラスフィアの行方を追って散開していた三銃士。「アルフォード」にて、ヴィッツも捜索を続けて移動していた。

(この辺りから、パンドラスフィアと思われる魔力を感じているが・・・アクシオ、間違いはないのか?)

“間違いないって。自慢じゃないけど、あたしは魔力探索にはけっこう自信があるんだから。”

 ヴィッツが念話で呼びかけると、アクシオがこれに答える。ヴィッツもダイナも、アクシオの探索能力を重宝していた。

(もう少し捜索を続けてみるが、管理局の局員の介入も時間の問題だ。退却も十分考慮しておいてくれ。)

“分かってるって。ヴィッツも油断しないでよ。”

“そういうヤツほど、意外にも墓穴を掘る羽目に陥ることもないぞ。”

 ヴィッツの呼びかけにアクシオとダイナが答える。2人との通信を終えて、ヴィッツはパンドラスフィアのさらなる捜索を開始しようとした。

 そのとき、ヴィッツの前に1人の少年が立ちはだかった。ブレイドデバイス、ラッシュを得た健一だった。

「何者だ、お前は?管理局の者か?」

「オレはえりなを守る。たとえ敵わなくても、せめてお前に、一矢報いてやる・・・!」

 淡々と問いかけるヴィッツに対し、健一がいきり立つ。そして待機状態のラッシュを取り出し、鍵に向けて呼びかける。

「ラッシュ、セットアップ!」

Standing by.”

 健一の呼びかけにラッシュが答える。そして健一は、キーホルダーに鍵を差し込む。

Complete.”

 鍵がキーホルダーに差し込まれた瞬間、起動したラッシュが形を変える。ラッシュは長剣へと形を成して、健一の手に握られる。

「そのデバイス・・お前もブレイドデバイスの使い手か。」

「といっても、使うのは今回が初めてなんだけどな。ホントは練習してからここに来たかったけど。」

 言いかけるヴィッツに、健一が苦笑いを浮かべながら答える。

「言っておくが、お前がそのデバイスを持て余しているとしても、向かってくる以上、私は容赦しない。私たちには、果たさなくてはならない使命があるからな。」

「言ったはずだ。オレはえりなを守る。いつまでもアイツに助けられてばかりじゃ、男としてカッコつかねぇからな!」

 ヴィッツからの警告にも怯まず、健一が飛びかかってラッシュを振りかざす。ヴィッツはブリットを掲げて、その一閃を受け止める。

「なっ・・・!?

「勢いは悪くない。だがあまりにも経験が不足しているな。」

 驚きを見せる健一に、ヴィッツが顔色を変えずに言いかける。そして健一とラッシュをブリットで軽々と跳ね除ける。

 後退して着地して、再びヴィッツを見据える健一。彼は胸中で思考を巡らせていた。

(コイツ・・ホントに強ぇ・・オレなんかじゃまるで歯が立たないだろうな・・・だけど、ここで簡単に諦めるのは、オレらしくないよな、えりな・・・!)

 自身の決意を確かめて、健一は身構えた。

「こんなオレがチンタラやってたら、負ける可能性が高くなる。だからこの一撃に、オレの全部を賭けてやる!」

「短期戦か・・いいだろう。私たちとて、あまり時間を取りたくないのでな。」

 ヴィッツもブリットを構えて、健一を鋭く見据える。

「行くぞ、ラッシュ!ドライブチャージ!」

「ブリット、相手を叩き伏せろ!」

Drive charge.”

 健一とヴィッツに呼びかけられたラッシュとブリットが、それぞれ2人の魔力を凝縮した弾丸を装てんし、威力を増強させる。そして2人は同時に飛びかかり、一閃を繰り出す。

 膨大された2つの力が衝突し、激しく火花を散らす。だが経験も技術も不足していた健一が、ヴィッツの圧力に押されて突き飛ばされる。

 後方の岩場に叩きつけられて、痛烈な衝撃を受ける健一。前のめりに倒れた彼は、苦痛に顔を歪めて立ち上がれないでいた。

「ぐっ・・こんな・・こんなあっさり・・・!」

 埋めがたい力の差に毒づく健一。その前に、未だに余力を残しているヴィッツが立ちはだかる。

「この差を覆すには、あまりにも力がなさ過ぎる。今は下がれ。私は無闇に殺めたくはない。」

 ヴィッツはブリットの切っ先を健一に向ける。もはや健一には、彼女を止める力は残っていなかった。

「チクショウ・・オレは、何もできないのかよ・・・!」

「悔しさは感じているようだな。ならそれを糧に強くなれ。私に挑むのはそれからだ。」

 悔しがる健一からブリットを引き離し、ヴィッツは振り返ってこの場を立ち去ろうとする。

(アクシオ、ダイナ、もうすぐ局員がやってくるぞ。早急に見つけ出したほうがいい。)

“えっ!?それじゃホントに急がなくちゃ!

 ヴィッツからの念話にアクシオが驚く。

(最長で15分。15分が経過したら、もしくは局員と遭遇したら、すぐに撤退するんだ。やむを得ないが、パンドラスフィアを見捨てることも辞さなくてはならなくなるかもしれない。)

“腑に落ちないが、オレたち三銃士の誰が欠けても、そのほうが痛手となってしまう・・・”

 ヴィッツの呼びかけにダイナが答える。仲間たちとの通信を終えて、ヴィッツは改めてこの場を離れようとする。

 だが彼女は、健一が傷ついた体に鞭を入れて立ち上がったことに気付く。

「まだ立てたか・・体力は相当なものと見るべきだな。」

 ヴィッツが淡々と言いかける前で、健一が必死に足を前に出す。

「オレはえりなを守る・・こんなところで、ぶっ倒れてる場合じゃねぇんだ・・・!」

「・・・お前の不屈の精神は敬服する。だが私は、向かってくるなら容赦はできない。そのことは肝に銘じておくことだ。」

 声を振り絞る健一に、ヴィッツが眼つきを鋭くして警告を送る。だが、それでも健一は退かない。

 だが疲弊しきった彼の体は、彼の意思を受け付けなくなっていた。彼の体が力なく前のめりに倒れていく。

 そのとき、倒れかかった健一の体を支える両手が伸びた。彼が視線を移すと、そこにはえりなの姿があった。

「えり・・な・・・?」

 えりなの姿を確かめると、健一は意識を失った。

「健一・・ありがとうね・・・後は、私がやるから・・・」

 えりなは健一を横たわらせると、ヴィッツに視線を向ける。

「久しぶりだな、坂崎えりな・・・足はもういいのか・・・?」

 ヴィッツが声をかけると、えりなは小さく頷いた。

「健一をこんな目にあわせたことを、私は責めたりしません。ただ、あなたが何をしようとしてるのか、話を聞きたいだけ・・・」

 えりなはヴィッツに言いかけると、待機状態のブレイブネイチャーを取り出す。

「場合によっては、力ずくでも・・・!」

Standing by.”

 えりなが箱の鍵穴へと鍵を差し込み、鍵を回す。

Complete.”

 ブレイブネイチャーが起動し、形状が箱から杖へと変わる。同時にえりなも白と若草色をメインカラーとしたバリアジャケットを身にまとう。

「力ずくで話を聞く、か・・矛盾しているが、心は揺らいではいないようだな。」

 えりなの決意を垣間見て、ヴィッツが不敵な笑みを浮かべる。2人がそれぞれのデバイスを構えて、互いを見据える。

「だが、見た目はさほど変わったようには見えないな。それではこの前の二の舞になるぞ。」

「分かってる。そのための対応は万全ですから・・・」

 ヴィッツからの忠告に、えりなは真剣な面持ちのまま答える。

「いきますよ、ヴィッツ。これが私の、私たちの新しい姿!」

Chaos form,awakening.”

 えりなの声にブレイブネイチャーが反応すると、彼女に変化が起こる。光と闇が彼女を包み込み、新たなる姿へと導く。

 やがて光と闇が治まり、えりながヴィッツの前に姿を見せる。彼女は長い白髪、紅い瞳しており、白と黒を織り交ぜた防護服を身にまとっていた。

 

 

次回予告

 

ついに出ました、新しい姿。

2つの人格の結集、カオスフォーム。

それぞれぶつかり合う体と心。

ウンディーネの力も、どんどん強くなっていく・・・

 

次回・「一点集中!一球入魂だよ」

 

今こそ奇跡の、イグニッションキー・オン!

 

 

作品集

 

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