魔法少女エメラルえりなMiracles

第3話「力と心のすれ違いだよ」

 

 

それは、突然の出来事でした。

 

眼の前に立ち塞がった大きな壁。

傷だらけになった力。

揺れ動いていく心。

 

謎への探求とそれぞれの決意。

私たちの新しい旅が今、始まる・・・

 

魔法少女エメラルえりなMiracles、始まります。

 

 

 エノルムフォルムとなったストリームの全力の一閃を、ダイナのヴィオスに打ち砕かれてしまったアレン。岩場に叩きつけられた彼は、前のめりに倒れる。

 そんな彼を、ダイナはヴィオスを手にしたまま見下ろす。そして痛みの走った右頬を、ヴィオスを握る右手の甲で拭う。

(オレに打ち破られたものの、オレに一矢報いるとは・・やはり時空管理局。侮れないということか・・)

 アレンに付けられた傷を拭いながら、ダイナは胸中で呟く。そのとき、力を使い果たしているアレンが、その体に鞭を入れて立ち上がってきた。

「まだ、だよ・・まだ、終わっていない・・・」

 諦めずにダイナと対峙しようとするアレン。だが彼の体は、もはや立っているのがやっとでとても戦える状態ではない。

「ダイナブレイクを受けてもなお立ち上がってくるお前の力量は見事だ。だがもう立つな。できることなら、そんなお前にとどめを刺すようなマネはしたくない。」

「君の気遣いには敬服するよ・・でも、君をこのまま行かせるわけにはいかない・・・!」

 警告を送るダイナだが、アレンは呼び止めて身構える。

「なのはさん・・あなたの魔法、使わせていただきます・・・!」

 アレンが力を振り絞り、意識を集中する。すると破損しているストリームの刀身に、周囲に霧散している魔力が収束される。

 彼の魔法技術の師である戦技教導官、高町(たかまち)なのは。彼女の使用する中で最上級の砲撃魔法に分類される「スターライトブレイカー」。周囲に霧散している、あるいはカートリッジに込められている魔力を収束させて放射するものである。

 ストリームの破損でカートリッジロードが行えなかったため、周辺の魔力の収束という措置を取り、アレンは砲撃魔法を放とうとしていた。

「あくまでオレに立ちはだかるか・・いいだろう。その命、殺めてしまうこと、許してくれ・・・!」

 ダイナは低く告げると、ヴィオスを高らかと振り上げる。魔力の収束を完了させて、アレンがダイナを見据える。

「星の輝きよ、魂を貫く光となれ!」

Sternlicht.”

 ストリームを介して、アレンが砲撃魔法を解き放つ。

Drive charge.”

「覚悟!ダイナブラスト!」

 ダイナも魔力の弾丸を装てんした大剣を、力を振り絞って振り下ろす。この激突、アレンが不利なのは明らかだった。

 そのとき、上空からまばゆいばかりの閃光が飛び込み、アレンとダイナの間に割って入ってきた。突然の砲撃にアレンとダイナが踏みとどまる。

「な、何っ!?

 突然の奇襲にアレンだけでなくダイナも驚く。ダイナは後退し、乱入してきた相手の気配を探る。

 巻き起こる爆煙をかき分けて、1人の少女が降り立った。彼女は白と黒を基調とした衣服を身にまとっていた。

「は、はやてさん・・・!?

 アレンが驚きの声を上げる。彼の師であるなのはの親友にして、時空管理局特別捜査官、八神(やがみ)はやてである。

 はやてはダイナを見据えたまま、アレンに声をかける。

「アレンくん、ここは私たちが何とかする。すぐにここから離れるんや。」

「はやてさん、僕はこの勝負、負けるわけにはいかないんです・・最後までやらせてください・・・!」

 はやてが退却を呼びかけるが、アレンは聞こうとしない。

「せやけど、このままじゃアレンくんの体が持たん。ここは私たちに任せて、撤退を・・!」

「僕は、まだ戦えます・・・」

 はやての制止を振り切って戦闘を続けようとするアレン。前に足を踏み出したとき、彼の体が意思に反して前のめりに倒れ込んだ。

「アレンくん!」

 そこではやてが初めてアレンに眼を向ける。

「ザフィーラ、アレンくんをシャマルのところに!」

 彼女の呼びかけを受けて、青い髪の狼がアレンの横に降り立った。守護騎士、ヴォルケンリッターの盾の守護獣、ザフィーラである。

「しかし、それでは主が・・!」

「私のことは気にせんでええ。相手は攻撃重視。防御や回避を取るよりは、動きを封じたほうが効果的や。」

 躊躇を見せるザフィーラに、はやてがさらに呼びかける。彼女の言葉を受けて、彼はアレンを背に乗せて、この場を離れる。

「銀の狼・・盾の守護獣・・お前たち、ベルカの騎士か。」

 ダイナが低い声音で言いかけると、はやてが彼に視線を戻す。

「時空管理局特別捜査官、八神はやて。あなたの身柄を拘束させてもらいます。」

「はやて?・・夜天の主か・・だがたとえ誰が相手であろうと、オレたちはここで立ち止まるわけにはいかない・・・!」

 身構えるはやてに対し、ダイナが闘気を放つ。だがはやては全く気圧されない。

 ダイナがはやてに飛びかかってヴィオスを振りかざす。はやては大きく飛翔してこの一閃をかわす。

 はやては魔法の杖「シュベルトクロイツ」を掲げ、魔導書型のストレージデバイス「夜天の書」を開く。すると彼女の肩に小さな少女、リインフォース・ツヴァイが姿を現す。

「リイン、サポート頼むわ。」

「了解です、マイスターはやて。」

 はやての呼びかけにリインフォースが笑顔で答える。はやては眼下のダイナを見据えて、意識を集中する。

(ほの白き雪の王、銀の翼もて、眼下の大地を白銀に染めよ・・)

「来よ、氷結の息吹・・アーテムデスアイス!」

 はやてが詠唱を唱えると、頭上に出現した4個の立方体から閃光が放たれる。ダイナが身構えて、とっさに後退して回避を取る。

 だが閃光を受けた地面が凍結し、それが拡散される。そして後退したダイナにその効果が追いつき、彼を一瞬にして凍結させた。

(凍結魔法!?・・アクシオ以上の威力を持った特殊魔法だ・・・!)

 氷付けにされて動けなくなったダイナが胸中で毒づく。アレンとの戦闘で力を消耗していた彼は、この凍結の看破に対して困難を極めていた。

 

 一進一退の攻防を続けていた明日香とアクシオ。だが体力と時間が浪費するばかりだった。

 打開の糸口を必死に探るラックスだが、なかなかその道を切り開けないでいた。

(どうしよう、明日香・・このままじゃ、こっちの体力がなくなっちゃうよ。)

(分かってる。でもここで引き下がったら、あの子をここから逃がすことになる・・・)

 ラックスの呼びかけに、明日香が落ち着きを払って答える。彼女の見つめる先で、アクシオがオーリスを構える。

(しぶといなぁ、もう・・わたしたちには、こんなことをやってる場合じゃないっていうのに・・・!)

 胸中で苛立つアクシオ。いきり立った彼女が、オーリスを振りかざし、水流を明日香に向けて放つ。

 そのとき、その水流に向けて重い一撃が飛び込んできた。水流が一撃を受けて、明日香を大きく外す。

 その瞬間に明日香とアクシオが驚愕する。水流が弾き飛ばされた地点に、1人の少女が降り立った。

 ドレスのような紅い服をまとった赤髪の少女。鉄槌を手にした彼女は、明日香とアクシオの間に割って入ってきていた。

「誰よ、いきなり割り込んできて!」

 アクシオが不満を込めて少女に言い放つ。

「時空管理局所属、ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士、ヴィータ。そして鉄の伯爵、グラーフアイゼン。」

「ヴォルケンリッター・・・!?

 少女、ヴィータがアクシオに向けて名乗ると、アクシオが眉をひそめる。

「あの、あなたは・・・?」

「心配すんなって。こっから先はあたしがコイツの相手をするから。」

 当惑を見せる明日香に、ヴィータが不敵な笑みを見せて答える。

「横入りしておいて、勝手なこと言わないでよね!」

 いきり立ったアクシオがヴィータに向かって飛びかかる。その攻撃に、ヴィータが眼つきを鋭くして身構える。

Raketenform.”

 ベルカ式のアームドデバイス「グラーフアイゼン」がカートリッジを装てんし、形状を変える。鉄槌からスパイクが飛び出し、破壊力を増強する。

「ラケーテンハンマー!」

 ロケット噴射による加速を併用し、ヴィータがアクシオに向けて一撃を見舞う。オーリスが自動発動させた水の壁をスパイクで打ち砕き、さらにアクシオをも突き飛ばす。

「すごい強烈じゃないのよ!しかもそんな針、すっごい物騒じゃないのよ!」

 文句を言い放つアクシオに、ヴィータは再び身構えた。

 

 ヴィッツとブリットが振るう攻撃に悪戦苦闘を強いられたえりな。左足を痛め、彼女は窮地に追い込まれていた。

「もう立つな。私の目的はお前の命ではない。人を殺めること自体、私は本望ではないのだ。」

「待って・・このままあなたを行かせたら、何か悪いことが起きる気がする・・だから行かせられない・・・」

 言いかけるヴィッツを呼び止め、えりなが満身創痍の体に鞭を入れる。

「もうやめろ。その状態で戦えば、私が手を下さなくても命を危険にさらすことになる。」

 ヴィッツが警告を送るが、それでもえりなは引き下がらない。

「そうだ。お前はこれ以上戦うべきではない。」

 そのとき、えりなに向けて別の方向から声がかかってきた。その方向にえりなとヴィッツが眼を向けると、その先には1人の女性が立っていた。

 ピンクのポニーテールをした女性は騎士服を身にまとい、手にしている剣を少しだけ下げていた。

「シ、シグナムさん・・!?

 女性、シグナムの登場にえりなが驚きの声を上げる。

「お前は何者だ?その覇気と潜在能力からして、只者ではないようだな。」

 ヴィッツがシグナムに向けて鋭く問いかける。

「私は時空管理局所属、ヴォルケンリッターの将、シグナム。そして我が炎の魔剣、レヴァンティン。」

 シグナムがアームドデバイス「レヴァンティン」を掲げて答える。

「ヴォルケンリッター・・夜天の書の主に仕える守護騎士か・・」

 ヴィッツがシグナムを見据えて身構える。

「シグナムさん、私のことよりリッキーを・・今、疲れきっていて・・」

 えりながシグナムに向けて呼びかける。

「それなら心配は要らない。今、シャマルが応急措置を行っている。」

「シャマルさん・・それじゃ、みなさんも・・・!」

 シグナムの言葉にえりなが再び驚きの声を上げた。

 

 同じ頃、ヴォルケンリッターの湖の騎士、シャマルは、洞窟前で横たわっていたリッキーを発見し、アームドデバイス「クラールヴィント」を駆使しての治療を行っていた。

「すみません・・僕のために・・・」

「気にしないでください。私の担当は治療と補助ですから。」

 沈痛の面持ちを浮かべるリッキーに笑顔を見せるシャマル。そこへザフィーラからの念話が飛び込んできた。

(シャマル、アレン・ハントが重傷を負った。応急措置を頼む。)

(アレンくんが・・・!?

 その言葉にシャマルが振り返る。降り立ったザフィーラの背には、瀕死の状態に陥っていたアレンの姿があった。

「アレン・・・シャマルさん、僕は大丈夫です。アレンをお願いします・・」

 リッキーが体を起こして言いかける。彼の言葉を受けて、シャマルが真剣な面持ちで頷き、治癒の矛先をアレンに向けた。

 

 えりなに代わり、ヴィッツと剣を交えていたシグナム。レヴァンティンとブリットが激しくぶつかり合い、甲高い金属音が洞窟内に響き渡っていた。

「夜天の守護騎士、相手をするには不足はないか・・・!」

 シグナムの力量を評価して、ヴィッツが思わず歓喜の笑みをこぼす。ブリットから放たれる稲妻の刃を、シグナムが振りかざすレヴァンティンに弾かれる。

「いくぞ、レヴァンティン!紫電一閃!」

Jawohl.”

 ヴィッツに飛びかかるシグナムの呼びかけに、レヴァンティンが答える。魔力の弾丸を装てんした剣の刀身に炎が舞う。

「ならば・・天刃・・!」

 その攻撃に対する迎撃に天刃撃を放とうとしたとき、ヴィッツは自身の異変を覚えた。

(魔力が足りない・・!?

 魔力を消耗していたことに気付いた直後、ヴィッツに向けてシグナムの炎の一閃が飛び込んできた。

Blitz barrier.”

 ヴィッツが掲げたブリットから、電撃を帯びた障壁が展開される。金色の強固な障壁がシグナムの一閃を受け止めるが、ヴィッツの魔力が底を尽きかけていたため、彼女はその衝撃に突き飛ばされる。

 ヴィッツは壁に叩きつけられ、さらにその奥へと突き飛ばされる。何とか体勢を立て直して踏みとどまるが、彼女にはシグナムと長期戦を行う余力は残っていなかった。

 そのとき、ヴィッツは横に転がる紅い宝玉を眼にする。思わず吸い込まれてしまいそうな鮮明さを宿している宝玉だった。

「これは・・・パンドラスフィア・・!?

 ヴィッツはその宝玉、パンドラスフィアを眼にして驚愕する。彼女はとっさにその宝玉を掴み取り、シグナムを警戒して後退する。

(アクシオ、ダイナ、パンドラスフィアを手に入れた!引き上げるぞ!)

 ヴィッツがアクシオとダイナに向けて念話を送る。

(ホント!?じゃ、急いでここを離れよう!)

(最後まで気を抜くな。相手は夜天の主とその守護騎士。簡単には振り切れないぞ。)

 アクシオ、ダイナがヴィッツに向けて答える。撤退を図るヴィッツの前に、シグナムが駆け込んできた。

「大人しくしてもらおうか。でなければ、お前の身の安全は保障できない。」

 レヴァンティンの切っ先をヴィッツに向けて、シグナムが言い放つ。

「お前との勝負、もう少し楽しみたかったが・・我々には、果たさなくてはならない使命がある・・・!」

 ヴィッツは言葉を返すと、前方の天井に向けてブリットを振りかざす。刀身から拡散した稲妻が天井に命中し、岩石を降らせる。

 シグナムがとっさにこの場を離れ、崩落から逃れる。崩落の衝撃で砂煙が巻き起こり、視界をさえぎられる。

「くっ・・しまった・・・気配まで消して、移動している・・・!」

 既にこの場を離れていったヴィッツに、シグナムが毒づく。彼女はいつ崩壊するかもしれない洞窟の危険性を感じて、えりなを連れて洞窟を後にした。

 

 「三銃士」と名乗った3人は、はやてたちの敷いた防衛ラインを突破し、逃走に成功していた。彼女に氷付けにされていたダイナも、魔力を振り絞って自力で氷塊を打ち破っていた。

 えりなたちは三銃士たちとの交戦で負傷した。特にアレンは重傷で、ストリームも大破して自動修復機にかけている状態にあった。

 もしもはやてやシグナムたちが駆けつけてくれなかったら、えりなたちは命さえ危なかったところである。それほど三銃士の力量は脅威であった。

「イタタタ・・もう、足がズキズキするよ・・」

 時空管理局の医務室にて、痛めた足に顔を歪めるえりな。足は軽い捻挫に留まっていた。

「ゴメンなさい、えりなちゃん。でも、少しきつめに縛ったほうがいいんです。」

「す、すみません、シャマルさん。アハハハ・・・」

 笑顔で言いかけるシャマルに、えりなは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「それにしても、いったい何者なんだ、あの三銃士は・・?」

 そこへシグナムが疑問を投げかけると、えりなたちも深刻な面持ちを浮かべる。

「あの人たち、パンドラスフィアっていうものを探してたみたいだった・・それが、いったい何の・・・?」

 明日香もヴィッツたちの動向に疑問を感じていたときだった。

 医務室のドアが開かれ、えりなたちが振り向く。そこには微笑を浮かべているエースの姿があった。

「協力、感謝するよ、はやてくん。君たちの助力がなければ、アレンくんたちは本当に危ないところだったよ。」

「大丈夫です、エース提督。提督の連絡をもらって、私たちはランドルに向かったんです。」

 エースが感謝の言葉をかけると、はやてが立ち上がり敬礼を送る。

「そんなにかしこまらなくてもいいよ。むしろ、無理矢理呼びつける形になってしまって、私はすまないと思ってるよ。」

 エースがはやてに弁解を入れると、きょとんとしているえりなと明日香に眼を向ける。

「君たちだよね?アレンくんとともにカオスコア事件の解決に貢献した魔導師というのは?」

「えっと・・はい。坂崎えりなです。」

「町井明日香です。」

 エースに微笑みかけられて、えりなと明日香が自己紹介をする。

「私は時空管理局提督、エース・クルーガー。そして、君たちももうご存知だけど、特別捜査官、八神はやて一等陸尉だ。」

 エースも自己紹介をし、はやてもえりなたちに笑顔を見せる。

「彼女とヴォルケンリッターに状況を説明し、ランドルに派遣したのは私だ。三銃士の能力値は、魔導師や騎士の中でも折り紙付きと見たからね。」

「そうだったんですか・・・ありがとうございます、エースさん、はやてさん。」

 エースから事情を聞いて、えりなが感謝の言葉をかけた。その言葉に笑顔を見せるが、エースは真剣な面持ちになって話を続ける。

「まさかあの三銃士が、再び我々の前に姿を見せるとは・・」

「エースさん、その三銃士って人たち、何か知っているんですか・・・?」

 エースの呟きを聞いて、えりなが訊ねる。明日香もラックスも、ベットから体を起こしたリッキーも耳を傾けていた。

「三銃士は、世界中の高価な宝や現金を盗んでいく3人の盗賊たちのことだ。だが彼らは故意に誰かを傷つけようとはしない集団でもある・・指名手配されていた相手を賞賛するのは、法を守る者としては感心しないことだが・・」

「そんな人たちが、どうしてあの場所で、リッキーを・・?」

 エースからの説明を受けて、えりながさらに疑問を募らせていく。

「分からない・・クラフトでの一件以来、今まで行方が分からなかったから・・」

「そういえばアイツら、パンドラスフィアっていうのを探してたみたいだけど・・ありゃ、いったい何なんだ?」

 ラックスが続けて疑問を投げかける。その問いかけに答えたのははやてだった。

「パンドラスフィア・・最近ロストロギアに指定されたばかりの球状の物体のことや。私たちも情報を集めてはいるんやけど・・」

「全部で3つあって、それを全部集めるとどんな願いも叶えてくれる。そんな漫画みたいな話以外、今んとこ何にも分かってねぇんだ。」

 はやてに続いてヴィータも説明を入れる。

「そのパンドラスフィアが、三銃士によって2つを入手されている。あと1つを手に入れて、彼らは何をしようとしているのか・・・」

 エースが再び呟き、えりなたちは再び思考を巡らせていた。そこへ医務室に入ってきたのは健一だった。

「健一・・・」

 健一の登場にえりなが戸惑いを浮かべる。

 健一もえりなを守るために魔導師の道を歩んでいる。自身の持つデバイスがなく、力量もえりなたちに及ばないが、それでも彼は努力を重ねてきていた。

「クリスさんが知らせてくれたんだ。えりなたちが危ないって・・」

「クリスさんが、知らせてくれたの・・・ありがとう、健一。ここまで来てくれて・・」

 健一から事情を聞いて、えりなが微笑んで感謝する。

「私は大丈夫。足をちょっとひねっただけだから。」

「そうか・・・あんまりムリすんなよ。」

 えりなの言葉に健一が言いかける。からかわれると思っていたのに、予想していなかった態度を見せられ、えりなは戸惑いを覚えた。だがこの言葉が素直に感じられて、彼女は安堵を感じた。

 

 えりなたちのいる場所の隣の医務室のベットでは、アレンが眠っていた。手当てを受けた彼のいるベットの横には、ソアラとクリスの姿があった。

 アレンが治癒を受けてベットに横たわってから、クリスはソアラとともにずっと彼を見守り続けていた。クリスはアレンの母親。心配せずにはいられなかった。

「ゴメンなさい、クリスさん。私が怖がらなかったら、アレンが傷つかずに済んだかもしれないのに・・」

「気にしないでください、ソアラ。アレンが進んでいるのはとても険しい道。この子も今回のように傷つくことは覚悟しているはずです。」

 沈痛の面持ちで謝罪するソアラに、クリスが微笑んで弁解する。

「大丈夫。アレンは私が鍛えたんです。このくらいのことでダメになる子ではないことは、あなたも分かっているはずでしょう?」

「クリスさん・・・そうですよね。アレンは私のパートナー。私もアレンを信じてあげないとね。」

 クリスに励まされて、ソアラが笑顔を取り戻す。

「この子のことだから、ケガが治り切らないうちに訓練を始めそうね・・ソアラ、アレンがムリしすぎないように注意していてください。」

「分かりました。」

 クリスが注意を促すと、ソアラはアレンに眼を向けて頷いた。そこへ開発部のスタッフが1人入室してきた。破損したストリームの現状についての報告に来たのだ。

「どうですか、ストリームは・・?」

 クリスの問いかけに対し、スタッフは躊躇を見せるも、何とか言葉を切り出した。

「深刻な状態です。自動修復と集中修復を続けていますが、破損箇所が多く、特にカートリッジシステムの破損が大きいです。相手は、それほどまでに強い者ということになります。」

「そうですか・・・引き続き修復を続けてください。」

「了解です。しかし、仮に修復を完了しても、その相手と対すれば二の舞を踏むのは確実でしょう。何らかの強化策を立てる必要があります。」

 クリスが微笑んで答え、スタッフが妙案を練り上げる。

「ベルカ式カートリッジシステムの代わりに、グラン式のドライブチャージシステムを組み込んだほうが、ストリームの強化につながります。ですがそうなると、魔力装てんをアレン執務官補佐が行わなくてはなりません。」

「心配は要りません。アレンは強い子です。ストリームのその強さに応えようと、自分自身も強くなろうとするでしょう。」

「そうですか・・・実は、ドライブチャージシステムの組み込みを提案したのは、私たちではないんですよ。」

 スタッフの言葉に、ソアラが疑問を覚える。

「じゃ、誰が提案したの?」

「フフ・・ストリーム自身ですよ。」

 ソアラの問いかけにスタッフは微笑んで答えた。

 

 その頃、いつものように養生を行っていた玉緒。ベットで眠っていた彼女は、ドアのノックで眼を覚ます。

「はい・・どうぞ・・」

 玉緒が眠気の残る眼をこすりながら、体を起こして声をかける。病室に入ってきたのはヴィッツ、アクシオ、ダイナだった。3人は騎士服ではなく、各々の私服を身につけていた。

「玉緒、今日もやってきたよー。ちゃんと寝てた?」

「もう、アクシオったら。ちゃんと寝てたってば。」

 アクシオが明るく声をかけると、玉緒が苦笑いを浮かべる。

 ヴィッツたちはとあるいきさつから玉緒に保護され、以後彼女の家に居候することとなった。彼女の身体の事情を知ったヴィッツたちは、助けられた恩を返す意味を含めて、彼女の手助けを行っていた。

 玉緒が入院してからは、ヴィッツたちは彼女のお見舞いに来ていた。

「ヴィッツ、家で何かあった?ちゃんと食事とかできてる?」

「はい。問題はありません。食事は、アクシオがしてくれてますから。」

 えりなが訊ねると、ヴィッツが淡々と答える。

「あたしの料理の腕前は、玉緒だって分かってるはずだよ。」

「そうだったね。ゴメンね、アクシオ。」

 アクシオが腰に手を当てて言い放つと、玉緒が微笑んだ。

「もう1度、アクシオの作った料理を食べたいし、みんなと一緒にまた暮らしたいなぁ・・・」

 玉緒が視線を上に向けて、呟くように言いかける。それは彼女が願っているささやかな幸せだった。

 その言葉を耳にして、ヴィッツたちが深刻な面持ちを浮かべる。だがヴィッツはすぐに真剣な面持ちを浮かべた。

(玉緒は心臓を患っているというのに、いつも笑顔を絶やさずにいる。この笑顔を、絶対に絶やしてはならない・・そのためにも、一刻も早くパンドラスフィアを手に入れなくてはならない。たとえ私たちの手を罪で汚すことになろうとも、玉緒を必ず救ってみせる。)

 心密かに決意を囁くヴィッツ。玉緒を救うため、彼女たちは険しい道に身を投じようとしていた。

 玉緒はヴィッツたちが三銃士であることを知っていた。だがヴィッツたちが現在何をしているのかは知らなかった。

 

 管理局本局の休憩室に、えりな、明日香、リッキー、ラックス、健一はいた。彼女たちはこれからについて話し合っていた。

「明日香ちゃん、私、もっと強くならなくちゃいけない気がする。あのヴィッツって人、ものすごく強かった。そんな人の話を聞くには、私もそれなりに強くならなくちゃいけない気がするの。」

「えりな、私もそう思ってる。アクシオの魔法、今の私の力じゃ全然破れない・・でも、強くなるには、どうしたら・・・」

 決意は固まっているものの、えりなも明日香もその術を見出せずにいた。しばらく考えると、リッキーが沈黙を破って言葉を切り出した。

「ユーノさんに、話を聞いてみたらどうかな・・・?」

 この申し出にえりなが一瞬きょとんとなった。

 ユーノ・スクライア。リッキーの親族で、現在は無限書庫司書長を務めている。無限書庫の情報を活用すれば、強化の手段だけでなく、今回の事件に関する情報も何かつかめるかもしれない。

「僕、これからちょっと話をしてくるよ。」

「待って。私も一緒に行く。これは私のことなんだから。」

 リッキーが椅子から立ち上がると、えりなも同行を申し出る。

「分かった。一緒に行こう、えりなちゃん。」

 リッキーが微笑んで答えると、えりなが笑顔を見せて頷いた。

「健一くん、ちょっといいかな?」

 そこへ開発部のスタッフが現れ、健一に声をかけてきた。

「あの、何かあったんですか?」

「実は今やっと、健一くん専用のデバイスが完成したところなんだ。」

 スタッフの言葉に健一は驚きを隠せなかった。

「それで、どんなデバイスなんですか?」

「見てみる?じゃ、ちょっと来てくれる?ここで説明するよりも、ずっと分かりやすいはずだから。」

 スタッフの誘いを受けて、健一も休憩室を後にした。彼もまた、この新しい旅に足を踏み出そうとしていた。

 

 

次回予告

 

新しく始まった旅。

私たちはそれぞれの道を進んでいく。

リッキーとユーノさんの協力で、私はもうひとりの私と再会する。

そして私の、新しい姿・・・

 

次回・「2人の私の覚醒のときだよ」

 

今こそ奇跡の、イグニッションキー・オン!

 

 

作品集

 

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