魔法少女エメラルえりなMiracles
第2話「絶体絶命!?強敵出現だよ」
それは、突然の出来事でした。
未来と日常の中に起きた出会い。
友情と決意。
そしていきなりの襲撃。
始まりを迎えた何か。
その何かを確かめるため、私たちは、再び歩き出す・・・
魔法少女エメラルえりなMiracles、始まります。
リッキーが発した念話。それはえりなと明日香だけでなく、時空管理局でもキャッチされていた。
“場所はランドルです。襲撃者の人数は、現在確認されているのは1人です。”
「ランドルですね・・分かりました!僕とソアラと一緒に向かいます!」
本局のオペレーター、クラウンからの報告に答え、アレンが局内の転移室に向かう。
「いくよ、ソアラ。準備はいい?」
「うん、いいよ、アレン。」
アレンの呼びかけにソアラも微笑んで頷く。そこへクラウンから2人に向けて再び連絡が入った。
“今、襲撃のあった地点に2つの魔力反応を確認。これは・・・坂崎えりなさんと、町井明日香さんです。”
「了解です。えりなと明日香・・・って、えーーっ!?」
その報告にアレンとソアラが驚きの声を上げる。その反応の中、2人はランドルへ転移していった。
三銃士の1人と名乗る少女、アクシオの前に現れたえりなと明日香。アクシオは剣の切っ先を2人に向けていた。
「えりな、あの子は私が押さえるから、その間にリッキーを連れてここから離れて。」
「えっ?でも、それじゃ明日香ちゃんが・・」
明日香の呼びかけにえりなが戸惑いを覚える。
「えりなの打撃なら、リッキーの氷をすぐに壊せる。だから、私が彼女を足止めしている間に、えりなはリッキーを・・」
「明日香ちゃん・・・分かった。ここはお願い・・・」
明日香の言葉を受け入れて、えりなは真剣な面持ちで頷いた。
「話は聞こえてるよ。悪いけど、このまま逃がすつもりはないから。」
そこへアクシオはえりなたちに言い放つと、手にしていた剣を高らかに振り上げた。すると彼女から衝撃波が放たれ、この場の空間を歪ませる。
「しまった!結界・・・!」
彼女の張った結界に閉じ込められ、えりなが毒づく。
「でも、結界の範囲はそんなに狭くはない。ここから離れて安全な場所を見つけるには大丈夫だよ。」
明日香が冷静に言いかけ、えりなが頷く。
「明日香ちゃん、ムチャしないでね・・」
「えりなもね。」
えりなの声に明日香が頷く。そこへアクシオが2人に向かって飛びかかってきた。
そこへ1人の女性が飛びかかり、アクシオとえりなたちの間の地面に拳を叩き込んできた。土煙が巻き上がり、アクシオの行く手をさえぎる。
割って入ってきたのは、逆立った白髪の女性。銀の狼を祖体とした明日香の使い魔、ラックスである。
「明日香、えりな、大丈夫!?」
「ラックス・・」
「ラックスさん・・・私たちは大丈夫。でもリッキーが・・・」
ラックスが呼びかけると、明日香とえりなが答える。氷塊に閉じ込められているリッキーを眼にして、ラックスは頷く。
「ケージによる凍結だね。だったらあたしが・・!」
ラックスが言いかけると、リッキーを鋭く見据え、拳を構える。
「バリアブレイク!」
結界破壊の効果を乗せて、ラックスが拳を繰り出す。淡い光を宿した拳が叩き込まれ、氷塊が粉砕されてリッキーが解放される。
ラックスは格闘に長けているが、魔法が得意ではない。そのため、バインドやケージといった魔法による束縛の対処法として、拘束魔法を打ち破る魔法は徹底的に磨きをかけていた。
「バリアブレイク」は本来は結界に干渉してそれを打ち破る魔法だが、ラックスのそれは結界だけでなく、バインドやケージなど、拘束系の効果さえも打ち破ることが可能なのだ。
「リッキー、大丈夫!?しっかりして、リッキー!」
「えりなちゃん・・・僕は・・・」
えりなの呼びかけにリッキーが眼を覚まし、弱々しく返事をする。彼の意識があったことに、彼女は安堵を感じた。
「えりな、リッキーを連れてここから離れて。この結界、あたしでもすぐに破れそうもないから・・」
「ラックスさん・・・分かりました。ここはお願いします。」
ラックスの呼びかけを受けて、えりなが疲弊しているリッキーを連れてこの場を離れる。
「逃がさないって言ったよね!」
“Tidal wave.”
そこへアクシオが剣を振りかざし、水の奔流をえりなたちに放つ。
“Samiz breath.”
だがその水の奔流が別の水流によってせき止められる。明日香が放った水の魔法が、アクシオの魔法からえりなとリッキーを守ったのだ。
「ここから先へは行かせない。あなたの相手は私よ。」
ウンディーネを構える明日香に行く手を阻まれ、アクシオは毒づく。
「しょうがないわね・・それじゃ、さっさと終わらせるよ、オーリス!」
“OK,my master.”
アクシオが身構え、水の剣「オーリス」が答えた。
氷塊から解放されたリッキーを連れて、えりなは落ち着ける場所へと降り立った。そこは大きな洞窟の入り口の前だった。
「ここならすぐに隠れられるから大丈夫かな・・・リッキー、大丈夫・・・?」
えりなは周囲を見回してから、リッキーに声をかける。
「えりなちゃん・・・ありがとう。えりなちゃんが来てくれなかったら、僕はどうなってたか・・・」
リッキーはえりなに答えて体を起こす。だが疲弊していた体が悲鳴を上げ、彼は一瞬顔を歪める。
「そういうのは言いっこなしだよ、リッキー。それに、明日香ちゃんとラックスさんも一緒だから・・・」
「明日香とラックスも来ているの?・・それじゃ、管理局も・・」
「ううん、まだ来てないはずだよ。私と3人だけ・・・」
リッキーの言葉にえりなが答える。
「ねぇ、あの子、何者なの?どうしてリッキーを・・?」
「分からない・・いきなり僕に襲い掛かってきて・・・でも彼女、パンドラスフィアがどうとか言ってたよ・・・」
えりなの問いかけにリッキーが答えたときだった。突如射抜くような気配を感じて、えりなが周囲を警戒する。
「リッキー、下がってて!まだ誰かがいる!」
「えっ!?」
えりなの声にリッキーも緊迫を覚える。
そのとき、一条の刃が飛び込み、気付いたえりながブレイブネイチャーを構えてそれを受け止める。えりなが魔法の杖を振りかざすと、飛び込んできた相手は後退して距離を取る。
えりなたちの前に現れたのは、長身の女性。長い金髪を首もとの辺りで1つの束ね、慄然とした雰囲気をかもし出している。
「お前もパンドラスフィアを狙う者か?」
「パンドラスフィア?」
女性が低い声音で声をかけてくると、えりなが疑問を投げ返す。
「あなたは誰なの?あの子、アクシオちゃんの知り合いなの?」
「アクシオと会ったのか?」
えりなが訊ねると、女性が眉をひそめる。
「なるほど。先ほど現れた魔導師の1人か・・私はその洞窟に用がある。通してくれるなら、私はお前に危害を加えるつもりはない。」
「・・・ダメだよ。だっていきなりリッキーを襲ったじゃない。そんな人の言うこと、素直に聞けないよ。」
言い放つ女性の言葉を、えりなはブレイブネイチャーを構えて拒む。
「それもそうだな・・その件に関しては私も謝罪しよう。だが我々には、果たさなくてはならない使命がある。それを阻むものは、敵として排除する。」
えりなに謝罪の言葉をかけると、女性は改めて剣を構える。
「私は三銃士の1人、ヴィッツ。そして私の雷の剣、“ブリット”。お前の名は?」
「私は坂崎えりな。そしてブレイブネイチャー。私に力を貸してくれる、自然の力だよ。」
女性、ヴィッツとえりながそれぞれ自己紹介をする。
「えりな、ブレイブネイチャーか・・私とブリットの力、見事受け切ってみるか。」
ヴィッツが低い声音で言いかけると、えりなに向かって飛びかかる。その速さにえりなが一瞬驚きを覚える。
ヴィッツが繰り出してきた一閃から、ブレイブネイチャーが自動発動した障壁がえりなを守る。だがブリットの放つ威力は凄まじく、えりなを障壁ごと突き飛ばす。
だがこれもえりなは考えていた。彼女はリッキーを危険にさらさないよう、彼から離れようとしていたのだ。
えりなが洞窟の中に入り、ヴィッツが追いかける。2人が離れていくのを、リッキーが沈痛の面持ちで見つめていた。
「えりなちゃん・・・ゴメン・・僕のせいで・・・」
傷ついて動けないでいる自分に、リッキーは悔しさを感じていた。
転移装置でランドルに到着したアレンとソアラ。2人は2ヶ所で起きている魔力の衝突を感じ、移動を開始していた。
「アレン、どっちに行くつもりなの?えりなも明日香も誰かと戦ってるみたいだけど・・」
「うん。2人なら大丈夫だと思う。僕たちはリッキーのところに行こう。えりなはリッキーから離れていっているみたいだから。」
ソアラの声にアレンが答える。2人は満身創痍に陥っているリッキーのところに向かっていった。
そのとき、アレンは眼前に1人の男の姿を目撃する。長身、少し逆立った赤い髪が特徴の男だった。
アレンはふと、その男の前で止まる。すると男はゆっくりと振り向き、鋭い視線をアレンに向けてきた。
「君は誰だ?こんなところで何をしているんだ?」
アレンが問いかけると、男は眼つきを鋭くしたまま答える。
「オレたちはこの地域にあるパンドラスフィアを探している。だがパンドラスフィアの入手を仲間に任せ、オレはオレたちの使命を阻害するものの排除に専念することにした。」
「パンドラスフィア?仲間?・・もしかして、君もリッキーを襲った人たちの1人なのか・・・!?」
鋭く言いかける男に、アレンは緊迫を覚え、剣の形をしたペンダントを取り出す。古代ベルカ式のアームドデバイス「ストリーム」である。
「行くよ、ストリーム!」
“Zieh!”
アレンが呼びかけると、ストリームが応え、形を変える。剣の形状となったデバイスを手にして、アレンが構える。
「君の仲間がした、魔導師、リッキー・スクライアに対しての行為は、許されるものではない。理由はどうあれ、君たちをこれ以上野放しにするわけにはいかない。」
アレンが執務官として男に警告する。しかし男は態度を変えない。
「君たちの身柄を拘束する。その後、ゆっくり事情を聞く。同意するなら武装の解除を・・」
アレンが呼びかけようとしたとき、男がひとつの箱と1枚の鍵を取り出す。箱の1面には剣の絵柄が施されていた。
“Standing by.”
その鍵が差し込まれると、箱が起動し、音声を発する。
「轟け、ヴィオス!」
“Complete.”
男が呼びかけながら鍵を回すと、箱が形を変える。彼の身の丈ほどもある大剣の形状に。
「その服装から、時空管理局の局員のようだな・・オレの名は三銃士の1人、ダイナ。そして紅蓮の剣“ヴィオス”。」
男、ダイナが鋭く言い放ち、大剣「ヴィオス」を構える。
「僕は時空管理局執務官補佐、アレン・ハント。そして僕の剣、ストリーム。」
一瞬驚きを見せていたアレンも、落ち着きを払って自己紹介をする。
「そのデバイス・・グラン式ブレイドデバイスだね・・・?」
アレンはダイナに向けて、続けて言葉を切り出す。
「ブレイドデバイス」。グラン式のデバイスの一種で、グラン式の中で攻撃性や対人戦闘に特化している。同じく対人戦闘に特化しているベルカ式デバイスに近い性能であるといえる。
デバイスに記憶されているデータや使い手のイメージによって形状を変化するオールラウンドデバイスと異なり、ブレイドデバイスは剣の形状に統一されている。グラン式特有の、使い手の魔力を一点集中させて、魔法の威力を爆発的に高める「ドライブチャージシステム」を搭載しており、その威力はベルカ式アームドデバイスに勝るとも劣らない。
「確かに。ヴィオスはグラン式ブレイドデバイスのひとつであり、オレの力だ。その威力はデバイスの中でも折り紙付きだ。お前に、これに挑む力と勇気があるなら、遠慮なくかかってこい。」
ダイナがアレンに敵意を見せる。その戦意が稲妻のように凄まじく放たれ、その覇気に押されたソアラが冷静さを保てなくなる。
「ア、アレン・・ダメだよ・・私・・・」
強烈な威圧感を覚えて、ソアラが体を震わせて、涙眼になる。
「ソアラ、君は先に行って、リッキーを管理局まで運ぶんだ。彼の相手は僕がするから。」
そこへアレンが、ダイナに眼を向けたままソアラに呼びかける。
「アレン・・・うん・・分かった・・・」
ソアラはアレンの言葉を受けて、先にリッキーのところに向かった。だがダイナは彼女を追わず、アレンを見据えたままだった。
「なぜ追わない?もっとも、僕は君を追わせるつもりはないけどね。」
「覇気のない相手、わざわざ追うほどのことでもない。仮にたどり着いても、近くにはヴィッツがいる。」
問いかけるアレンに、ダイナは顔色を変えずに答える。その返答にアレンが顔を強張らせる。
「ソアラをあまり見くびらないほうがいいよ。あの子は僕のかけがえのない相棒だ。未熟な僕をいつもサポートしてくれた!」
アレンはいきり立ち、ダイナに向かって飛びかかる。
“Zerstorung Blatt.”
カートリッジを装てんしたストリームを振り下ろすアレン。だがその一閃は、ダイナの掲げたヴィオスに軽々と受け止められてしまう。
「なっ!?」
「なかなかの攻撃力だ。お前ほどの戦士はそうはいないだろう・・だが、相手が悪かったな。」
驚愕するアレンに向けて、ダイナが鋭く言い放つ。
“Magma lava.”
炎をまとった大剣の一撃が、ストリームとアレンを突き飛ばした。
洞窟内へと場所を変えたえりなとヴィッツ。かすかな光の差し込む広場で立ち止まり、2人は各々のデバイスを構えて互いを見据える。
「ここなら存分に戦えるな。傷ついているお前の仲間も、管理局の局員が保護していることだろう。」
ヴィッツの言葉に、えりなが疑問を覚える。
「優しいんだね。分かっていてわざとここまでついてくるなんて。」
「私は無益な殺生は好まない。それに、抵抗できない相手を無闇に攻撃するのは私の趣味ではない。」
「あなたみたいな人、こんな形で会いたくなかったかも・・」
ヴィッツの誇りの高さを垣間見て、えりなは微笑んだ。このような対立をすることは、2人にとって悔やまれるところだった。
「行くよ、ブレイブネイチャー!」
“Yes,my master.”
真剣な面持ちを浮かべるえりなにブレイブネイチャーが答える。
“Natural shooter.”
そして魔力の弾丸をヴィッツに向けて放つ。だがヴィッツはブリットを振りかざして、軽々と弾き飛ばす。
「その程度では挨拶代わりにもならないぞ。攻めてくるなら全力で攻めてこい!」
鋭く言い放つヴィッツ。えりなはさらに緊張感を募らせて、ブレイブネイチャーの柄を握る手に力を込める。
“Saver mode.”
光刃を発したブレイブネイチャーを構えて、えりなはヴィッツに向かっていった。
水の剣、オーリスを駆使するアクシオと交戦する明日香とラックス。しかし遠距離攻撃を主体としている明日香は、近距離攻撃を主体としてくるアクシオに悪戦苦闘していた。
(まずい・・私とウンディーネの魔法は、あの子と同じ水属性。効果が薄い上に、相手は動きも速いからすぐにかわされる・・)
明日香が胸中でこの戦況を毒づいていた。その思考は、彼女の使い魔であるラックスにも伝わっていた。
(明日香、どうしよう・・あの子、凍結魔法も持ってるから、迂闊に攻め込んだら、あたしもリッキーの二の舞になっちゃうよ・・)
そこへラックスが念話で不安を告げてきた。明日香は冷静さを取り戻して、アクシオに眼を向ける。
(勝てなくても、せめて引き伸ばさないと。局員が来るまで、彼女を足止めしておかないと。)
(明日香・・・分かったよ。あたしもやれるだけやってみるよ。)
明日香の言葉を受けて、ラックスもアクシオを見据えて構える。明日香もウンディーネを構えて、砲撃を確実に当てるよう模索する。
「もうっ!あたしはパンドラスフィアがほしいだけだっていうのに!邪魔さえしなければ、あたしだって何もしないのに!」
アクシオが2人に眼を向けて不満を言い放つ。だがすぐに戦いに集中して、オーリスを構えて臨戦態勢に入った。
先に仕掛けたのはアクシオだった。明日香に向かって飛び掛った彼女は、高らかとオーリスを振り上げる。
“Marine dive.”
青い魔力の光を宿した一閃が、明日香目がけて振り下ろされる。
“Flow dash.”
だが明日香は高速魔法でアクシオから離れ、その一閃を回避する。そのアクシオに向けて、ラックスが拳を繰り出してきた。
「くっ!このっ!」
“Ice shield.”
アクシオはとっさにオーリスを掲げて、氷の盾でその攻撃を防ぐ。
「バリアブレイク!」
だがラックスは障壁破壊の効果を持つ魔法を拳に上乗せさせていた。氷の壁が破壊され、アクシオが突き飛ばされる。
“Blast form.”
その間に、明日香は長距離砲撃形態へと形を変えたウンディーネを構え、アクシオに狙いを定めていた。
“Drive charge.”
ウンディーネに明日香の魔力を凝縮させた弾が装てんされる。使い手の魔力を一点集中させて、魔法の威力を爆発的に高める「ドライブチャージ」である。
「いくよ、ウンディーネ・・オーシャンスマッシャー!」
“Ocean smasher.”
明日香が水の砲撃魔法をアクシオに向けて放射する。
“Drive charge.Rough seas.
だがアクシオは、刀身に光を宿したオーリスを振りかざして、その閃光を受け止める。2つの力は拮抗し、水しぶきと火花を散らす。
「こんのぉぉーー!負けてたまるもんかーー!」
叫ぶアクシオがオーリスを振り抜く。水の刃が明日香の砲撃を両断し、その勢いのまま眼前の地面をえぐる。
強力な砲撃魔法が通じず、明日香とラックスが驚愕する。だがオーシャンスマッシャーを跳ね返したアクシオも、体力、魔力を消費して息を荒げていた。
「なんて子だ・・明日香のあの魔法を真正面から跳ね返すなんて・・・!」
声を振り絞るようにラックスが呟く。明日香とアクシオが各々のデバイスを構える。
「けっこうやるじゃない。だけどあたしたちには、やらなくちゃならないことがあるのよ・・」
「だからって、関係のない人を傷つけることが許されるはずがない。あなたはここで止める。」
互いに言葉を掛け合うアクシオと明日香。2人の拮抗はさらに続くこととなった。
光刃を発したブレイブネイチャーを振るうえりなだが、ヴィッツはその一撃一撃を軽々と受け止めていた。
「どうした?この程度の攻撃では、私を止めることはできんぞ!」
ヴィッツは言い放ち、ブリットを振りかざしてえりなを突き飛ばす。えりなは両足で踏みとどまって体勢を立て直す。
(強い・・1発1発が重い・・このままじゃ・・・)
えりなが胸中で、ヴィッツとブリットの力に毒づく。そしてこの戦況を覆す打開の策を必死に練り上げる。
“Call me,spirit mode.”
そのとき、ブレイブネイチャーがえりなに呼びかけてきた。しかしその呼びかけに彼女は困惑する。
「ダメだよ、ブレイブネイチャー!スピリットモードは、他と比べて危険が大きいんだよ!下手をしたら、ブレイブネイチャーが・・!」
“I believe master.”
えりなが言いとがめるが、ブレイブネイチャーはさらに呼びかける。
“Trust me, my master.”
「ブレイブネイチャー・・・分かったよ、ブレイブネイチャー。私もあなたを信じる。」
ブレイブネイチャーの意思を受けて、えりなが再び身構える。
「ブレイブネイチャー、スピリットモード、イグニッション!」
“Spirit mode.”
えりなの呼びかけでブレイブネイチャーが変形し、巨大な光の槍を形成する。その膨大な魔力を目の当たりにしても、ヴィッツは顔色を変えない。
「いくよ・・これが私の全力全開!スピリットランサー!」
“Spirit rancer,drive charge.”
長くなったブレイブネイチャーの柄を両手で握り、えりなは身構える。彼女がヴィッツに向かって飛び掛ると同時に、デバイスに魔力の弾丸が装てんされる。
「スピリットランサー、ソウルクラッシュ!」
“Soul clash.”
ヴィッツに向けて突き出された光刃が爆発的な威力を発揮する。この出力と威力なら、強敵でも怯ませることぐらいは可能だと、えりなは直感していた。
「天の雷!天刃撃!」
これに対し、ヴィッツが魔力の弾丸を装てんしたブリットを振りかざす。その強烈な一閃が、ブレイブネイチャーの光刃を粉砕する。
「なっ・・・!?」
その光景にえりなは驚愕する。ヴィッツの放った一閃は、さらにえりなを広場の壁まで突き飛ばした。彼女が衝突した壁から砂煙が巻き上がり、彼女の姿がその中に消える。
ヴィッツはえりなに追撃を繰り出すことができなかった。それはえりなを見失ったからではなく、天刃撃で消費した魔力が膨大だったからである。
やがて砂煙の中からえりなが姿を見せる。だがその直後、えりなは痛みを覚えて顔を歪め、突然うずくまる。左の足首を押さえて、立ち上がることができないでいる。
(左足が・・今のでひねっちゃったかな・・)
左足の痛みを何とかこらえて立ち上がろうとするえりな。だが足が悲鳴を上げて、彼女が立ち上がるのを拒絶する。
満身創痍に陥ったえりなに対し、ヴィッツがブリットを構える。
「足をやられたか・・だが恥じることはない。お前が放ったあの一撃、見事だった。この天刃撃は私の持つ技の中で最高の斬撃だ。これより低い力なら、破られていただろう。」
ヴィッツがえりなの力を賞賛する。だがえりなには、これを素直に受け入れる余裕はなくなっていた。
ダイナとヴィオスの重みのある攻撃の前に、アレンは悪戦苦闘に陥っていた。ストリームの攻撃が、いずれも炎の剣士の掲げる大剣に阻まれていた。
「この程度がお前の全力か?ならば拍子抜けだな。」
嘆息するダイナの前で、アレンはストリームを構えつつ、息を荒げていた。大剣を振るう剣士の力に、彼は完全に追い込まれていた。
(なんて強く重い攻撃なんだ・・あの大きな剣のデバイスによるものか・・それを軽々と扱ってくる彼もすごいが・・・)
胸中でダイナとヴィオスの脅威に毒づくアレン。
(このまま戦っていては、確実に僕は負ける・・残っている力を全部使って、一気に叩き込むしかない・・・!)
「ストリーム、エノルムフォルムだ!」
“Enorm form.”
意を決したアレンの呼びかけに答えるストリームの形状が変化し、刀身が巨大になる。ストリームの最大威力の形態「エノルムフォルム」である。
エノルムフォルムは一撃の威力は絶大だが、その重みのために速さが殺されてしまう上、負担する魔力やカートリッジの数が大きい。そのため、アレンは滅多なことでストリームのこの形態を使用することはない。
「できればこれはあまり使いたくなかったよ・・威力が大きすぎて、下手をしたら命を奪いかねない・・だけど、こうでもしなければ、僕は君に確実に負ける・・・!」
「つまり、おれがお前の切り札というわけか・・いいだろう。その覚悟、全力で打ち込んでくるがいい!」
アレンの覚悟を前にしたダイナが、ヴィオスを高らかと振り上げる。大剣の刀身が紅い光を宿す。
「オレも全力でそれを迎え撃つ!」
膨大に解き放たれる2つの光刃。真っ向から迎え撃とうとしているダイナに、アレンは緊張感を募らせていた。
(回避することなど簡単なはずなのに、あえてそれをせずに真っ向勝負を仕掛けてきた・・自分のそれほどの自信があるのか、それとも僕を賞賛しているのか・・・)
一抹の疑問を覚えつつ、アレンは次の一撃の発動に集中する。巨大な光刃を発するデバイスの柄を強く握り締める。
「いくよ・・これが僕の最高の技、エノルムシュベルト!」
“Enorm schwert.”
言い放つアレンが、カートリッジロードを行ったストリームを振り下ろす。
「ダイナブレイク!」
ダイナもヴィオスを全力で振り下ろした。2つの巨大な光刃がぶつかり合い、荒々しい爆発音を轟かせる。
その閃光の中で、アレンはダイナの一閃になぎ払われていた。激突に競り負けたストリームに亀裂が生じ、彼は背後の岩場に叩きつけられた。
リッキーのところに向かっていたソアラ。だが突如巻き起こった爆発と轟音に、彼女は止まって後ろに振り返る。
彼女の顔には不安の色が浮かび上がっていた。アレンの使い魔である彼女は、彼の心理状態が常に伝わってきていた。
「アレン・・アレン!」
アレンの危機を感じたソアラが、悲痛の叫びを上げていた。
次回予告
今までにないピンチに陥った私たち。
そんな私たちを助けてくれたのは・・・
三銃士、パンドラスフィア、ブレイドデバイス。
謎が謎を呼んで、さらに深みを増していく。
今こそ奇跡の、イグニッションキー・オン!