Drive Warrior Episode21「ヒカル」

 

 

 ヒカルとメイの激闘。ヒカルの敗北によって決着した戦いの場に、カイロスが奇襲を仕掛けてきた。

 ヒカルとの戦いで魔力を消耗していたメイは、カイロスの攻撃に次第に追い込まれていった。

「地獄で後悔するんだな、ウォーリアー・プルート!」

 カイロスがとどめを刺そうと、掲げた右手から魔力を集束させ、光を発していく。

Please withdraw. It is not possible to fight at all in the current state.(撤退してください。今の状態ではとても戦うことができません。)

 ハデスがメイに向けて呼びかけてくる。

(ふざけないで、ハデス!逃げることは、私にとって敗北と同じ!)

It is very possible to defeat that enemy even if it is not now. After the restoration of strength is waited, it will knock it down.(あの敵を倒すことは今でなくても十分可能です。体力の回復を待ってから、倒すことにしましょう。)

 心の中で反論するメイだが、ハデスに押し切られ、これ以上反論できなくなる。

(分かったわ、ハデス・・でも次に会ったら、ヤツは必ず倒してやる・・・!)

 渋々受け入れたメイが、眼前の地面に向けて衝撃波を放つ。揺さぶられた地面から砂煙が舞い上がる。

「何っ!?

 突然視界をさえぎられて、カイロスが声を荒げる。

「おのれ!」

 カイロスが砂煙に向けて閃光を放出する。砂煙が吹き飛んだが、その先にメイの姿はなかった。

「くそっ!あと一歩というところで!」

 苛立ちを見せるカイロスが怒号を上げる。ここまで思い通りになりながらメイを仕留められなかったことが、彼は我慢できなかった。

 

 カイロスの奇襲から辛くも逃れることができたメイ。しかし逃げることしかできなかった自分に、メイは腹を立てていた。

(まさか私が、今の私が逃げることになるなんて!)

 メイが苛立ちを抑えきれず、地面に両手を叩きつける。

The fight more than this judged leading to the defeat, and called for the withdrawal. I am sorry.(これ以上の戦いは敗北につながると判断し、撤退を呼び掛けました。申し訳ありません。)

 ハデスが謝罪の言葉を投げかけるが、メイはそれでも苛立ちを隠せなくなっている。

(今謝られても、私のこの気分は簡単には・・!)

However, it is an other party who can surely win when it is you of thorough. Let's go calmly.(ですが万全のあなたでしたら確実に勝つことのできる相手です。冷静に行きましょう。)

(ハデス・・あなたも言うようになったわね・・・)

 ハデスのこの言葉を聞いて、メイはようやく落ち着きを取り戻していった。

(ヒカルは始末した・・他の最大の障害はギルティアね・・・)

 メイが笑みを見せて、次の戦いを模索していく。

(そして、ギルティアの支配者、クロノス・・・)

 さらにメイがクロノスについて考える。

 クロノスはギルティアの他のメンバーの誰もが姿を見たことがなく、上位幹部でさえ声を耳にしたことがある程度である。当然メイもヒカルもその正体を知らない。

(そろそろ姿を見せることになるわよ、クロノス・・ここまでギルティアが追い込まれて、何もしないわけにいかなくなるからね・・・)

 クロノスに対しても物怖じしないメイ。彼女は世界のために全てと戦うことも厭わない決意だった。

 

 メイとの戦いの中で体に刃を突き立てられ、倒れて動かなくなったヒカル。カイロスの襲撃に巻き込まれたはずの彼女だったが、天宮家の自室のベットの上にいた。

 全てはカイザーの計らいだった。メイが突き出してきた光の刃を、カイザーがヒカルに魔力の膜を張らせて防いだのである。光の刃が体に食い込んだものの、彼女は致命傷を負うのを免れた。

 さらにカイロスが攻撃を仕掛けてきた際、カイザーはヒカルを転移させたのである。彼女とシンクロしたため、彼女の部屋が転移場所となったのである。

 魔力も体力も尽きていたヒカルから、バリアジャケットが消失していた。命に別状はないものの、彼女は深い眠りについていた。

I am sorry. Because it made no allowance of you the death top priority.(申し訳ありませんでした。あなたを死なせないことを最優先にしていましたので。)

 カイザーが声をかけるが、意識を失っているヒカルは何も答えない。

I had to have helped you in better shape if powerful more.(私にもっと力があれば、あなたをもっといい形で助けられたはずでした。)

 自分自身に無力を感じ、カイザーが自責を痛感する。

It was irreplaceable every day that had been spent with you though it was short time. Your feelings and memories are important for me.(短い時間ですが、あなたと過ごしてきた日々はかけがえのないものでした。あなたの気持ちや思い出も、私にとっても大切なものとなっています。)

 カイザーがヒカルとともに過ごしてきた時間を思い返していく。デバイスとしてもメモリーには、ヒカルとの時間が記憶されていた。

Hereafter, I want to spend time the same as you. I can feel like being happy, too, in case of being with you.(これからもあなたと一緒の時間を過ごしたいです。あなたと一緒にいれば、私も楽しくなれる気がします。)

 自分の純粋な考えを告げていくカイザー。まだ意識が戻らないものの、その気持ちがヒカルに伝わっていると信じて。

There is no what to I who is the device do the request thing. However, it is asking. Please do not die.(デバイスである私が頼み事をすることはまずありません。ですがお願いです。死なないでください。)

 ヒカルの生還を願うカイザーは、自分の魔力を注ぎ込んだ。彼女の治癒力を向上させて体を活性化させようとした。

 必ずヒカルは目を覚ます。起き上がって、今まで見せてきた笑顔と勇気をまた見せてくれる。

 カイザーはヒカルに対して、人が見せるような優しさを示すようになっていた。

I believe that I wake up by you and show the smile.(あなたが目を覚まして笑顔を見せてくれると、私は信じています。)

 ヒカルの目覚めを確信して、カイザーは彼女の回復に集中するのだった。

 

 ギルティア本部の自分の作戦室で、メイの行方を探っていたカイロス。時間が経過するに従ってメイが回復することになるため、カイロスは次第に焦りを募らせていた。

(絶対に始末してやるぞ、プルート・・このまま逃げられると思わないことだな・・・!)

 メイへの憎悪に駆り立てながら、カイロスは彼女の行方を徹底的に探っていた。

(ウラヌスは倒されたと見て問題ないだろう。既にプルートによって致命傷を負わされ、オレの攻撃で粉々に吹き飛んだようだからな・・あれで何事もなかったように出て来れたら、もはや不死身としか言いようがない・・)

 ヒカルの死を確信していたカイロス。彼女が生きていることにも気付かないまま、彼は勝ち誇っていた。

(ドライブウォーリアーであっても無敵ではない。ウラヌスが力尽き、プルートも大きく消耗してオレに攻められる一方になっていた・・)

 先ほどの攻撃から、カイロスはメイ打倒に手応えを感じていた。

(近いうちに見つけることができれば、オレは確実にヤツを始末できる・・・)

「我が後継者・・ウラヌス・・プルート・・・」

 そのとき、どこからか声が響き渡り、カイロスが緊張を覚える。部屋全体に響き渡るような声だった。

「マ・・・マスター・クロノス・・・!」

 カイロスが慌ただしくひざまずき、声の主、クロノスに意識を傾ける。

「申し訳ありません、マスター・クロノス!未だにウォーリアー・プルートを始末できないでいます!」

 カイロスがクロノスに向けて、謝罪の言葉を口にする。

「ですがウラヌスは死亡し、プルートもあと一歩というところまで追いつめています!必ず打倒してみせます!」

「ウラヌスもまだ生きている・・今も復活の時を待っている・・」

 誓いを告げるカイロスだが、クロノスの言葉を聞いて驚愕する。

(ウラヌスは間違いなくプルートが始末した・・マスター・クロノスの言葉に間違いはないが、あれだけやられてウラヌスが生きているはずもない・・・!)

「一刻も早くカイザーとハデスを取り戻すのだ・・これ以上、我々の意思に反する使い方をさせるな・・・」

 思考を巡らせるカイロスに、クロノスが命令を下す。

「お任せください、マスター・クロノス!このカイロス、必ずやマスターのご意思に沿ってみせます!」

 カイロスが高らかに言い放つと、早急にメイの捜索を進めるのだった。

(必ず見つけ出すぞ、プルート・・見つけたらすぐに行って、オレが直接始末してやる・・・!)

 メイへの敵意を一気に膨らませていくカイロス。

(そしてウラヌス・・万が一にも、生きていたら今度こそ息の根を止めてやるぞ・・・!)

 さらにヒカルにも憎悪を向けるカイロス。今の彼は、憎悪と野心のままに2人を倒すことしか考えられなくなっていた。

(抵抗する間もなく押しつぶされるほどの威圧感だった・・マスター・クロノスはひどくお怒りだ・・ウラヌス、プルートに完全に勝利しなければ、オレもダイアナとブルガノスのように死の末路を辿ることになる・・・!)

 クロノスの畏敬を痛感しながら、カイロスは攻撃遂行を急ぐのだった。

 

 束の間の休息のため、メイは神凪家に戻っていた。屋敷を監視、包囲する人物がいなかったため、彼女は回復に専念することができた。

It informs them at once when it approaches who it is. You may take a rest.(何者かが接近してきたらすぐに知らせます。休んでいただいて構いません。)

「ありがとう、ハデス・・でもギルティアがいつどこから攻めてくるか分からないから、安心して休めるかどうか・・」

 ハデスが気遣うが、メイは周囲への警戒を解こうとしない。

I think that you should take a rest only at such time. Because I defend you.(こういうときこそ休んだほうがいいと思います。私があなたを守りますので。)

「ハデス・・そこまで言うなら、全てをあなたに任せるわ・・・」

 ハデスに警戒を任せて、メイは休息に専念することを決めた。

(やっと・・やっとヒカルを倒した・・・)

 メイはヒカルとの戦いを思い返していた。ヒカルに魔力の刃を突き刺した感覚を、メイは心に刻みつけていた。

(私は間違いなくヒカルを、かつての親友を手にかけた・・でも後悔はしていない・・)

 メイがヒカルに自分の決意を傾けていく。

(なぜなら、ヒカルが最大の障害と見ていたから・・・)

 自分の戦いにおけるメイの決意は頑なだった。ヒカルですら彼女の決意を変えることはできていない。

(全快すればカイロスは簡単に倒せる・・問題なのはクロノス・・・)

 メイがクロノスへの詮索を試みる。

(未だに正体が一切分かっていない・・だから先手を打って倒そうとしても返り討ちにされる可能性が非常に高い・・でもギルティアがここまで追い詰められている今、近いうちに必ず姿を現すことになる・・・)

 打開の糸口を模索して、メイが徐々に自信を強めていく。

(そのときこそ、クロノスの敗北とギルティアの壊滅・・私の願いが大きく飛躍する・・・)

 勝機を見出して、メイが笑みを見せる。次の戦いに備えて、彼女は眠りについた。

 

 同じ頃、ヒカルもカイザーに助けられる中、眠り続けていた。彼女は今までの自分の時間を思い返していた。

 明るく元気に過ごしてきた家族、親友たちとの時間。それらはヒカルにとって、昔も今もかけがえのないものだった。

 ネネ、マモル、メイ。親友が支えてくれなければ、自分はドライブウォーリアーの運命に負けていた。ヒカルはそう思っていた。

 突然カイザーを体に埋め込まれ、ドライブウォーリアーとしての運命を背負わされたのが、全ての始まりだった。

 現実離れした力を持った自分に翻弄されたが、メイたちに支えられて勇気を振り絞り、乗り越えることができた。

 だがその家族が傷つき、親友と敵対することになった。

 それまで支えになってくれていた友が敵になったことは、ヒカルにとってはこの上なく辛いことだった。

 しかし落ち込んだり背を向けたりしたままでは何の解決にならないと悟り、ヒカルは戦う道を選んだ。

 戦うこと、止めることがメイのためになる。ヒカルはそう決断した。

 だが彼女の戦う理由が、止めるためから怒りへと変わった。父、コウを殺された怒りでメイと戦い、ヒカルは敗北した。

 怒りで戦っても解決にならない。それでも怒りを止められない。

 どうやってメイと向き合い、戦っていけばいいのか、ヒカルは答えが分からなくなっていた。

(お父さん・・あたし、どうしていけばいいのかな・・・?)

 眠りの中、ヒカルがコウに疑問を投げかける。答えが返ってくるはずがないと分かっていながら。

(このままメイと戦おうとしても、さっきみたいに怒りに振り回される・・やっぱり、あたしたちはもう仲直りできないのかな・・・?)

“何だ?もう弱音を吐くのか、ヒカル?”

 塞ぎ込もうとしていたヒカルに向けて声が響いてきた。彼女の心の中に、コウの姿が現れた。

(お父さん・・・!?

 驚きを覚えるヒカル。願っていたこととはいえ、死んだはずのコウが現れたことを受け入れられなかった。

“こんなことで諦めるなんて、オレの娘にしちゃ情けねぇし、お前らしくねぇぞ・・”

(お父さん・・・でもそうでもしないと、お父さんが・・・)

“オレのことは気にすんな。オレは刑事として、父親として全力を出しただけだからな・・”

 困惑するヒカルに、コウが気さくな笑みを見せる。

“お前と母さんにはすまないと思ってるが、オレは最後まで刑事として生きていけたことを誇りと思ってる・・ムチャだとは思うが、いつまでも悲しんだり怒ったりしないでくれ・・”

(お父さん・・・)

 刑事として、父親として全力を尽くしてきたコウに、ヒカルは戸惑いを覚える。目の前にいるのが幻であっても、勇敢な父がそこにいる。彼女はそう思っていた。

“オレの意志を継げって無理強いはしねぇ・・けどヒカル、お前はお前の信じる道を進んでいけ・・”

(あたしの、信じる道・・・)

“誰かに助けられたり励まされたりしても、自分がどうしていくか、どうしていきたいかは最後には自分で決めることになる・・お前が1番やりたいことを、考えて考えて考え抜いて決めろ。そして完璧に決まったら、徹底的に貫いていくんだ・・”

(お父さん・・・)

“ヒカル、オレはお前のことを、いつまでも信じてるからな・・・”

 戸惑いを膨らませていくヒカルの前から、コウの姿が遠ざかっていく。

(お父さん・・・ありがとう・・・)

 コウへの感謝を見せて、ヒカルは笑顔を浮かべた。今まで彼女が見せてきた無邪気で明るい笑顔だった。

 

 魔力を注いでヒカルの回復を試みるカイザー。ヒカルが目を覚ますというカイザーの信頼は揺らいでいなかった。

I believe come toing without fail if it is you. It tries to help you.(あなたなら必ず意識を取り戻すと、私は信じています。だからこそ私は、あなたを助けようとしているのです。)

 ヒカルに信頼を寄せていくカイザー。魔法の戦士とデバイスという関係を大きく超えた絆が、ヒカルとカイザーの中にあった。

 カイザーの魔力注入が数時間に及ぼうとしていたときだった。

 ヒカルの右手の指がかすかに動いた。

 ヒカルは生きていた。カイザーが張った魔力の膜でメイの光の刃から急所が守られ、さらにカイザーの転移と魔力注入で死を免れることができた。

It was good. The body seems to have begun to be activated. The state of the body will return normally if it keeps sending power.(よかった。体が活性化され始めたようですね。このまま力を送り続ければ、体の状態は正常に戻るでしょう。)

 ヒカルの生存を確かめて、カイザーが安心を感じる。

 ヒカルはまだ命をつなぎ止めていた。カイザーの助力だけでなく、彼女自身が勇気を取り戻したことが大きな要因となっていた。

Please show it again. The smile that makes everybody surrounding energetic.(もう1度見せてください。周りのみなさんを元気にする笑顔を。)

 魔力注入を続けながら、カイザーが囁くように励ましていく。

I will also muscle up for your smile and desire.(あなたの笑顔と思いのために、私も全力を出しましょう。)

 勇気とともに力を分け与えようとするカイザー。完全な回復に向けて、ヒカルは眠り続けていた。

 

 ヒカルとメイの行方を追っていたカイロス。後がないと自分に言い聞かせて、彼は血眼になって2人を探していた。

(このまま終わるものか・・必ずプルートを・・仮に生きていたならウラヌスも、オレのこの手で葬り去ってやる・・・!)

 焦りと憤りを膨らませていくカイロス。その極限状態の中、レーダーが魔力を捉えた。

「この反応・・・一致したが・・・」

 カイロスはこの魔力の正体に確信と疑念を抱いた。

「マスター・クロノスの仰られた通りだった・・ウラヌス、死んでいなかったのか・・・!」

 ヒカルの生存を思い知らされ、さらにいら立つカイロス。だが彼はすぐに不敵な笑みを浮かべた。

「だがあの戦闘からそんなに時間はたっていない・・治療と回復を狙っていても、まだ完治することはできていないはずだ・・・!」

 いきり立ったカイロスが作戦室を飛び出す。

「ウラヌス、お前がオレたちに刃向かうことは2度とない・・完全回復する前に、オレが2度と復活できないほどに木端微塵にしてくれる!」

 言い放つカイロスが、ヒカルを狙ってギルティアの本拠地から出撃していった。

 

 コウを失った悲しみを抱えたまま、アカリは家に戻ろうとしていた。一方で彼女はヒカルがどこに行ったのか分からなくなり、心配していた。

(ひとまず家に帰ったほうがよさそうね・・それから1度携帯に連絡をしてみよう・・)

 込み上げてくる不安を、自分に言い聞かせて払拭しようとするアカリ。

(きっとヒカルも悲しんでいることでしょう・・きっと気持ちの整理ができなくて、どこかで泣いているでしょうね・・・)

 ヒカルの気持ちを汲み取って。アカリが物悲しい笑みを浮かべる。

(私がしっかりしないと・・お母さんがしっかり支えてやらないと、あなたに笑われちゃうわね・・)

 自分の顔に両手を当てて、自分に喝を入れるアカリ。何とか気持ちを引き締めようとする彼女は、家の玄関の前に到着した。

(ヒカル・・帰っているのかな・・・?)

 一抹の不安と期待を抱えながら、アカリは家に入った。

「ヒカル、帰ってる・・・?」

 アカリが声をかけるが返事はない。彼女はヒカルの部屋に向かい、ドアを叩いた。

「ヒカル、入るわよ・・」

 アカリがドアを開けると、ベッドの上で横たわるヒカルを見つけた。

「ヒカル・・・」

 アカリはヒカルを見て安堵を覚える。アカリはヒカルが泣きつかれて眠ってしまっていたと思っていた。

「明日から、また元気を見せてよね、ヒカル・・・」

 ヒカルへの願いを感じていくアカリ。彼女はヒカルにシーツをかけようとした。

「ここにいたのか、ウォーリアー・ウラヌス!」

 そのとき、窓の外から声がかかり、アカリが顔を上げる。その先にいたのは、苛立ちを込めた笑みを見せているカイロスが浮いていた。

 宙に浮いているカイロスを目の当たりにして、アカリは言葉が出なくなった。

「魔力が感じられるということは、まだ生きているようだな・・だが復活はありえない!オレがこの手でとどめを刺すからだ!」

「あなた、誰よ・・ヒカルに何の用なのよ!?

 高らかに言い放つカイロスに対し、アカリはようやく声を振り絞った。

「他の人間がそばにいたとは・・だがオレには関係ない・・オレはそこの女を葬る!それだけだ!」

「勝手なこと言わないで!ヒカルに手を出すなんて、私が許さないわよ!」

 右手を伸ばすカイロスに、アカリが怒りをあらわにする。直後、彼女の顔の横を一条の光が飛び込み、壁に当たって焦がした。

「許さない?許さないから何だ?ヤツがオレに始末されるのを、ただの人間が邪魔できると思っているのか?」

 あざ笑うカイロスが、狙いをヒカルに向ける。するとアカリがヒカルを抱きかかえて庇おうとする。

「どけ、女。一緒に死にたいのか?」

「ヒカルに手は出させない!この子は私が守る!」

 目つきを鋭くするカイロスに言い放つと、アカリはヒカルを連れて部屋を飛び出した。

「ここまで来て邪魔してくるヤツがいるとはな!」

 苛立ちをあらわにしたカイロスが魔力の光を放出する。閃光を注がれて、ヒカルの部屋が炎に包まれた。

 

 療養のために就寝していたメイ。だが彼女はカイロスの魔力を感知して飛び起きた。

「力を感じる・・これは、カイロス・・・」

 メイが意識を覚醒させて、カイロスの居場所を探る。

「この近くではない・・ヒカルの家ね・・でもおかしな話ね・・今更ヒカルの家に押しかけても、肝心のヒカルはもういないというのに・・焦りに焦って見境を失くしたとでもいうの・・・?」

 カイロスの居場所を探知するも、メイは疑問を感じていく。

「どっちにしても、私に近づいてこなければ問題はない・・でも、念のために用心しておいたほうがいいかも・・」

 周囲への注意を怠らずに、メイは再び回復に専念するのだった。

 

 ヒカルを連れてカイロスから逃げ出していったアカリ。息が上がっても、アカリは足を止めようとしない。

(どういうことなのかは分からないけど、ヒカル、あなたは私が助けるから・・・!)

 ヒカルを守ることに全てを賭けようとするアカリ。彼女は近くの交番か警察に駆け込もうとしていた。

 だがそのとき、一条の光が飛び込み、アカリの左肩を貫いた。

「キャッ!」

 激痛と衝撃に襲われて、アカリがふらつく。彼女はヒカルを守ろうと、自分が下になって倒れていった。

「うっ・・痛い・・・!」

「人間の分際で、このオレから逃げられると思っていたのか?」

 うめくアカリにカイロスが言い放つ。彼が放った光線が、アカリを撃ち抜いたのである。

「お前がどうしようと、オレがウラヌスを始末することに変わりはない。お前がやっていることはムダなのだ・・」

「私は、この子の親よ・・子供を見捨てて自分だけ逃げるなんて、母親失格よ・・・!」

 あざ笑ってくるカイロスに向けて、アカリが声を振り絞る。

「何をわけの分からないことを・・お前たち人間は本当に何を考えているのか分からない・・本当に理解に苦しむ・・・」

「こんなことをしているあなたには分からないかもしれないわね・・人って、自分以外の誰かのために一生懸命になると、いつも以上の力とやる気が出るものよ・・・」

 肩を落とすカイロスに、アカリが微笑みかける。

「妻として・・娘を持つ母親として・・私は、ヒカルを守るのよ・・・!」

「くだらないな。そんなこと、オレは知りたくもない。無力で無能な人間は、オレたちの足元にも及ばないというのに・・」

 声と力を振り絞るアカリを、カイロスがさらに嘲笑してくる。アカリがヒカルを抱えて立ち上がり、再び駆け出していく。左肩の傷と痛みで、確実に足が遅くなっている。

「オレから逃げられないと言っているのが理解できないとは・・」

 カイロスが再び光線を放ち、アカリの両足を撃ち抜いた。

「ぐあっ!」

 絶叫を上げるアカリが再び倒れる。足をやられたことで、彼女は立ち上がることができなくなってしまった。

「これでもう逃げることもできなくなった。諦めてウラヌスを引き渡せ。」

 カイロスが右手を伸ばしてアカリに脅しをかける。しかしアカリは聞き入れようとせず、ヒカルを抱えたまま、体を引きずってカイロスから離れようとする。

「どこまでムダなことをすれば気が済むんだ!?

 アカリの行動についに苛立ちをあらわにするカイロス。飛びかかった彼が、アカリの右足を強く踏みつけた。

「ぐああっ!・・あぁぁ・・!」

「オレたちをイラつかせることに関してだけは天才的だと言っておこう!だがこれ以上、貴様たちの茶番に付き合うつもりはない!」

 激痛に打ちひしがれるアカリに言い放ち、カイロスが狙いを定める。

「ウラヌスを引き渡さないというなら、ヤツと一緒にあの世に送ってやる!」

「ダメ・・させない・・・ヒカルには、絶対に手は出させない・・・!」

 とどめを刺そうとするカイロスを前にしても、アカリはヒカルを守ろうとする姿勢を崩さない。

「ヒカル・・・ヒカル・・・!」

 そのアカリの胸を、カイロスが発した光線が貫いた。光線はヒカルを外し、地面に突き刺さった。

「ヒカル・・・あなたは・・・生き・・・て・・・」

 ヒカルが生き抜くことを信じて、アカリが力なく突っ伏して動かなくなる。娘を守る母親として、アカリはカイロスの手にかかり、命を落としてしまった。

 

 

次回予告。

 

少女は目覚めた。

深い眠りから蘇った少女を待っていたのは、さらなる孤独だった。

だが彼女はまだ1人ではなかった。

押し寄せる絶望に立ち向かい、ヒカルは立ち上がる。

 

次回・「絶望への反抗」

 

今こそ断ち切れ、卑劣な運命を・・・

 

 

作品集

 

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