Drive Warrior Episode17「蘇る魔法」

 

 

 ついに魔力を取り戻し、カイザーと会話することができたヒカル。彼女は魔力をもって、戦いに身を投じようとしていた。

「ギルティア・・・アンタたちは、絶対に許さないから・・・!」

「くっ・・・エビル、ウラヌスを取り押さえなさい!」

 低い声音で言いかけるヒカルと、目を見開いて呼びかけるダイアナ。命令を受けたエビルが、ヒカルに向かって飛びかかる。

 だがヒカルは衝撃波だけでエビルたちを吹き飛ばした。太刀打ちできないことを思い知らされ、ダイアナが愕然となる。

「今度こそ、アンタたちの番だよ・・・!」

「撤退するわよ!これでは打つ手が・・!」

 敵意を向けてくるヒカルを目の当たりにして、ダイアナが呼びかける。次の瞬間、ヒカルはマモルの眼前に迫ってきていた。

 マモルは完全に怯えてしまい、逃げることもままならなくなっていた。

「マモルは用済みにするしかないわね・・・」

 毒づくダイアナが、マモルを見捨てて転移して姿を消した。怯えるマモルを、ヒカルが睨みつけてきていた。

「やめて、ヒカルちゃん・・もうひどいこと、しないから・・・」

 マモルが泣きながら、ヒカルに助けを求める。しかしヒカルは怒りを弱めない。

「今までしてきたこと、ちゃんと謝るから・・・だから・・だから・・・」

「そんな言葉、信じると思ってるの!?・・・散々あたしたちを騙して、笑ってきたアンタの言葉なんて、もう信じられない!」

 作り笑顔を見せるマモルだが、ヒカルの怒りをあおるだけだった。

「やめて!助けて!もう悪いことしないから!」

 必死に助けを請うマモルに向けて、ヒカルが右手を突き出す。彼女の怒りの打撃が、マモルに叩き込まれた。

 地面から爆発が起こり、マモルが激しく吹き飛ばされて横転する。激しい衝撃に襲われて、彼女は気絶していた。

 巻き上がる砂煙の中、ヒカルがゆっくりと立ち上がる。マモルを殴り飛ばしても、ヒカルは怒りから解放されていなかった。

(信じられない・・・でも、今まで友達として、一緒に過ごしてきた・・過ごしてこれた・・・)

 偽りだったとはいえ、かつての親友との絆を痛感して、ヒカルは胸を引き裂かれるような気持ちに駆られていた。

(これでよかったのかな、ネネちゃん?・・・これで、喜んでくれるのかな・・・?)

 ヒカルがネネに視線を向けて、心の中で呟いていく。

(喜んでないよね・・・だって、あたしがこんなに辛くなってるんだから・・・)

 無意識に物悲しい笑みを浮かべるヒカル。彼女の目からは悲しみで満たされた大粒の涙があふれてきていた。

 心の整理がつかないまま、ヒカルはネネを抱えて歩き出した。バリアジャケットを解除したヒカルは、夢遊病者のように歩き出していった。

 

 魔力を取り戻したヒカルに打つ手を失くし、ダイアナはギルティア本部に戻ってきた。

(私ですら恐怖を覚える・・あれがウラヌスの、ドライブウォーリアーの力だというのか・・・!?

「何があったというのだ、ダイアナ・・!?

 畏怖を募らせるダイアナに、ブルガノスが声をかけてきた。

「ブルガノス・・ウラヌスが、力を取り戻した・・・!」

「何っ!?

 ダイアナが口にした言葉を聞いて、ブルガノスも驚愕を覚える。

「ヤツは日に日に力を上げてきている・・私たちでは太刀打ちできない・・・」

 ヒカルへの恐怖にさいなまれるダイアナと、危機感を募らせるブルガノス。そこへカイロス現れ、ダイアナに声をかけてきた。

「ダイアナ、マスター・クロノスからの仰せだ・・次にウラヌス、プルートを取り逃がすことがあれば、処罰を執行する、とのことだ・・」

 カイロスが告げた言葉に、ダイアナは愕然となる。それは自分に対する死の宣告に等しいと、彼女は痛感した。

「この警告はオレたちにもいつ突き付けられるか分からないぞ・・オレも覚悟を決めなければならないようだ・・」

「もう、失敗は許されない・・でも、ウラヌスとプルートをどうすれば・・・!?

 カイロスが言いかける前で、ダイアナは絶望感を膨らませていく。

「少し休め、ダイアナ。これでは任務を遂げることができないだろう・・」

 ブルガノスに促されて、ダイアナは力なく立ち去っていった。

「これでは任務遂行は絶望的だな・・これではうまく利用することも叶わないか・・」

「口を慎め、カイロス。ダイアナも我々ギルティア上位幹部の1人だぞ・・」

 肩を落とすカイロスに、ブルガノスが苦言を呈する。

「そうだ。上位幹部であるオレたちですら、もう後がない・・今度こそ・・今度こそウラヌスとプルートを・・・」

「それだけは賛同させてもらおう・・」

 目つきを鋭くするカイロスに、ブルガノスが頷く。

「オレはオレのやり方で任務を遂行する。これまでも、そしてこれからもな・・」

「お前のそのやり方には賛同しかねるが・・」

「オレは生き残る・・どんな手段に訴えようとな・・・」

 ブルガノスに意思を示すと、カイロスも立ち去っていった。ギルティア上位幹部も、失脚の危機に立たされていた。

 

 ヒカルの怒りの一撃を受けて、気絶していたマモル。意識を取り戻した彼女だが、体の痛みで起き上がれなくなっていた。

「痛い・・ヒカルちゃん、すごく怖かった・・・」

 ヒカルから味わわされた激痛と恐怖を思い返して、マモルが震える。

「でも・・もうヒカルちゃんはいなくなっちゃったみたいだし・・とりあえずはひと安心かな・・・」

 ヒカルがいないことを確かめると、マモルが安堵を浮かべる。

「もうヒカルちゃんに会わないほうがいいかも・・しばらくは隠れていたほうが・・」

「隠れていれば安全だとでも言いたいの、ヒカル・・?」

 突然後ろから聞き覚えのある声が飛び込み、マモルが緊迫を覚える。彼女の後ろにいたのは、バリアジャケットを身に付けたメイだった。

「メイちゃん・・・来てたの・・・!?

「まさかマモルがギルティアのメンバーだったとは・・私も気付かなかったわ・・・」

 声を振り絞るマモルに、メイが低く告げる。

「その様子では、ヒカルにひどくやられたようね・・中途半端ではなくなった、と思っていいのね・・?」

「メイちゃん・・・助けて・・ヒカルちゃんが、あたしをいじめるの・・・だから助けて・・ヒカルちゃんを止めて・・・」

 肩を落とすメイに、マモルが助けを求める。しかしメイは鋭い目つきを崩さない。

「そんな子供みたいに甘えてきて、ヒカルや私を騙してきたのね・・私を直に騙してきても、私には通用しなかったけど・・」

 メイが口にした言葉を耳にして、マモルが絶望を覚える。

「メイ、ちゃん・・・!?

「私はギルティアを敵と認識している・・もちろんマモル、あなたがギルティアの一員と分かった時点で、敵と認識している・・・」

 絶望感を膨らませて後ずさりするマモルに、メイが敵意をむき出しにする。

「やめて、メイちゃん・・あたしたち、友達だよね・・・?」

「そう、友達だった・・その友達を裏切って、利用したのはあなたよ・・・」

 助けを請うマモルに、メイが冷淡に言葉を返す。彼女の右手に光の刃が出現した。

「信じてきた人を平気で裏切り、さらに罪の意識を感じなかった・・お前が犯した罪は重いわ・・・!」

「やめて・・お願い・・助けて!」

 さらに目つきを鋭くするメイに対し、マモルが悲鳴を上げる。だが彼女はメイに斬り付けられた。

「助けを求めるなら、最初からこんなマネしないで・・・」

 メイはさらに刃を発する手を突き出して、マモルを突き刺す。体に刃を突き立てられて、マモルは昏倒して動かなくなった。

 メイの手にかかって、マモルは息の根を止められてしまった。

「私は戦っていく・・マモル、あなたのように他人を利用して弄ぶような敵と・・・」

There is no hesitation if it was recognized the enemy even if the other party is an erstwhile friend.(敵と認識したなら、その相手がかつての友人であっても迷いはないのですね?)

 信念と決心を強めるメイに、ハデスが声をかけてくる。

「それは愚問というものよ、ハデス・・迷うくらいなら、最初から力は求めていないわ・・」

 メイは態度と考えを変えることなく歩き出していった。そこには事切れたマモルが横たわるだけとなった。

 

 深い悲しみと怒りを胸に秘めたまま、ヒカルはネネを抱えてレストランを訪れた。2人の姿を目の当たりにした店長が、当惑を隠せなくなる。

「ネネちゃん・・・ヒカルさん、これは・・・!?

 店長が声をかけると、ヒカルが沈痛さを強めていく。

「あたしのせいです・・あたしがネネちゃんを巻き込んで・・あたしがしっかりしなかったせいで・・ネネちゃんが・・・」

 涙ながらに店長に謝ると、ヒカルはネネをその場に横たわらせた。彼女はそれ以上は何も言わずに、レストランから立ち去っていった。

「ヒカルさん・・・ネネちゃん・・・」

 ヒカルの後ろ姿を、店長はただただ見送ることしかできなかった。ネネの死を受け入れて涙したのは、しばらく沈黙を置いてからだった。

 

 店長やレストランの人たちの前では必死に耐えていたヒカルだが、次第に悲しみを膨らませて涙を浮かべるようになっていった。

「あたしのせいだ・・あたしがくだらないことで塞ぎ込んでたから、ネネちゃんを死なせてしまった・・・あたしがしっかりしてたら・・・」

 ひたすら自分を責めるヒカル。力を拒絶しなければ、もっと早く力を使えていれば、ネネは死なずに済んだ。彼女の中に罪の意識と後悔が渦巻いていた。

I am sorry for the current having troubled you. Though neither the body nor the mind put a strain in you if power was able to be lent usually.(今までご迷惑をおかけして申し訳ありません。普段通りに力を貸すことができたなら、体にも心にも、あなたに負担をかけることはなかったのですが。)

 そこへカイザーが声をかけ、ヒカルに謝ってくる。

「カイザーは悪くない・・あたしがカイザーを嫌ったからこうなったんだから・・・」

It was not possible to help when it was important for you even if what reason existed. It my is crime and responsibility not permitted.(どんな理由があっても、あなたにとって大事な時にたすけることができなかった。私の許されざる罪と責任です。)

 首を横に振るヒカルを、カイザーがさらに励ましていく。胸を締め付けられるような気持ちを、彼女は徐々に和らげていった。

「ホントにありがとうね、カイザー・・こんなあたしを、まだ信じてくれて・・・」

I am of one mind and flesh with you. It is natural to believe you. As only chiefly it one of the friends.(私はあなたと一心同体です。あなたを信じるのは当然です。主としてだけではなく、友人の1人としても。)

 感謝の言葉をかけるヒカルに、カイザーが優しく言葉を返す。カイザーからの信頼を受け止めると、ヒカルは真剣な面持ちを浮かべる。

「あたし、戦うよ、ギルティアと・・そしてメイを止める・・・」

Do fight or do with your best friend?(戦うのですか、あなたの親友と?)

 決意を口にするヒカルに、カイザーが疑問を投げかける。しかしヒカルの決意も固まっていた。

「分かった気がする・・傷つけたくないって言ってばかりなのは、友情や優しさとは限らない・・間違ってることをしていたら、どんなことをしてでも止める・・それで逆に嫌われることになっても・・・」

 自分の気持ちを整理して、ヒカルが笑みを取り戻す。

「とりあえず帰ろう・・焦っても何にもならないって、何度も経験してることだから・・・」

 体と気分を落ち着かせようと、ヒカルは1度家へと戻ることにした。

 

 魔法の力を取り戻し、気持ちを落ち着かせていくヒカル。彼女が家に帰って玄関のドアを開けると、制服を着たコウがいた。

「お父さん・・・?」

「お、ヒカル、帰ってきたか・・急な呼び出しがあってな。これから出るところだ・・」

 当惑を見せるヒカルに、コウが声をかけていく。家を出ようとしたコウが、足を止めてヒカルの肩に手を添えてきた。

「どうやら元気になったみたいだな・・母さんから元気がなくなってるって聞いてたから、心配してたんだぞ・・」

「父さん・・・ごめんなさい・・心配かけて・・・」

 心配を口にしてきたコウに、ヒカルが困惑を見せて謝る。

「だが心配の必要はなくなったみたいだな・・人生いろいろなことがある。目を背けて逃げ出したくなるようなこともある。だがそういうのを乗り越えていくごとに、人間ってのは成長していけるってもんだ・・」

「お父さん・・・」

「何があったのかは聞いてる時間は今はねぇが、くじけたり負けたりすんじゃねぇぞ・・本当の意味で、強い人になれ・・」

「お父さん・・・ありがとうね・・いってらっしゃい・・・」

 コウに励まされて、笑顔を見せるヒカル。出かけていく父を、彼女は手を振って見送った。

「お父さんと話をしたのね・・」

 そこへアカリが顔を見せて、ヒカルに声をかけてきた。

「お母さん・・・ごめんなさい・・お母さんにも心配かけて・・・」

「いいのよ・・ヒカルに笑顔が戻ってきたんだから・・・」

 謝ってくるヒカルに、アカリが笑みを見せて言葉を返した。

「家に入りなさい。ちゃんとご飯食べて、体も元気にしないとね。」

 アカリに促されて、ヒカルは笑顔を見せたまま家に入っていった。

 

 世界の上層部を次々と襲い、マモルさえも手にかけたメイ。彼女には人の命を奪うことへの罪悪感を感じていなかった。

(ここしばらく、世界を動かす人間を葬ってきた・・それでもまだ、私の戦いは終わらない・・・)

There is really no hesitation. The erstwhile friend was felt and you did not feel the shake even as for the hand at all.(本当に迷いがないのですね。かつての友人を手にかけても、あなたは一切の動揺も感じていませんでした。)

 思考を巡らせるメイに、ハデスが声をかける。

(本当に心から信じられる友達なら、迷いを感じていたかもしれなかった・・・)

Then, how about her woman who bears Uranus?(では彼女は、ウラヌスを宿した彼女はどうなのですか?)

 自分の気持ちを呟くメイに、ハデスがさらに問いかけてくる。

Wasn't she a friend for you?(彼女はあなたにとって、友人ではなかったのですか?)

(友達よ・・ヒカルなら、私の気持ちが分かってくれると思っていた・・・)

 ヒカルへの気持ちが、メイの信念の錯綜を引き起こしていた。完全に迷いを捨て切れていないと思えてならない自分を、メイは許せなくなっていた。

(迷ってはいけない・・迷うくらいなら、最初から迷って、決められないでいるほうがマシ・・・)

 自分に言い聞かせていくメイ。ハデスとの会話をしながら、彼女は神凪家に帰ってきた。

「戻ってきたか、メイ・・」

 そのメイを待っていたのはトウジだった。彼は目つきを鋭くして、メイを睨みつけてきていた。

「派手に暴れまわっているようだな、メイ・・ギルティアに反旗を翻すとは、何と大それたことを・・・」

 メイに憤りを見せるトウジ。しかしメイは顔色を変えない。

「今後はギルティアへの忠誠を固く誓ってもらう・・ドライブウォーリアーとなった時点で、お前はギルティアとマスター・クロノスのしもべとしての宿命を背負うことに・・」

「そんな宿命に縛られるほど、今の私は弱くはない・・・」

 呼びかけていくトウジに対し、メイが低い声音で言葉を返す。

「私はようやく力を手に入れた・・世界を動かすことのできる力を・・・」

「世界はギルティアによって統治、制圧される・・お前が世界を動かすなど滑稽だと・・」

「その滑稽を払拭するために私は戦っている・・そのための力を・・ハデスを私は手にしている・・・」

「メイ・・お前、完全にギルティアを敵に回すつもりか・・・!?

 揺るがない決意を示すメイに、トウジが歯がゆさを見せる。

「お父様・・今まで育ててくださったことには感謝しています・・ですがあなたも、私が始末しなければならない敵の1人に過ぎない・・」

「メイ・・・!」

「弱い相手には傍若無人に振る舞い、強い相手には媚を売る愚かな存在・・お父様も、その1人でしかなかった・・」

 憤りを見せるトウジにも、メイは敵意を見せる。彼女の体をバリアジャケットが包み込んでいった。

「今の私は、あなたを手にかけることも厭わない・・・!」

「取り押さえろ!不可能ならば殺しても構わん!」

 メイに危機感を覚えたトウジが、周囲にて待機していたエビルたちに呼びかけた。身構えるエビルたちだが、メイの魔力に畏怖されて、勇んで近づくことができないでいた。

「倒される覚悟がないなら消えなさい。ムダに命を散らすのは滑稽よ・・」

 メイが鋭く忠告を送るが、エビルたちは引き下がらずに彼女に飛びかかっていく。だが彼女から放たれた衝撃波で、エビルたちが簡単に吹き飛ばされる。

「ぐっ!」

 同じく吹き飛ばされたトウジが、邸宅の壁に叩きつけられてうめく。痛みで顔を歪めていた彼の前に、メイが立ちはだかる。

「お・・親に手を上げるのか、メイ!?・・今まで、ここまで育ててきた、親である私を・・・!」

 トウジが慌ただしくメイに呼びかける。彼のこの態度を見て、メイがため息をつく。

「本当に見下げ果てたものね・・こんなのが私の育ての親なのが、情けなくなってくるわ・・・」

「やめるんだ・・・やめてくれ・・・助けてくれ!」

 メイに助けを求めるトウジ。だがメイは敵意を消さなかった。

 メイの右手から放たれた光の刃が、トウジの体を切りつけた。

「ぐあっ!」

 絶叫を上げるトウジが昏倒し、血をあふれさたまま動かなくなった。血に染まった親を見下ろしても、メイは冷淡な表情を浮かべたままだった。

「本当に見苦しい・・・そんな不様で、世界を動かせるはずがないわ・・」

 再びため息をつくと、メイはバリアジャケットを解除する。彼女はマモルだけでなく、親であるトウジさえも手にかけてしまった。

「私しかいない・・世界を正しくできるのは、この力を手に入れた私しかいない・・・」

 決意を込めて自分に言い聞かせていくメイ。肩の力を抜く彼女に、1人の男が近づいてきた。

「後始末をお願い。手間をかけることになって悪いわね・・」

「お気になさらず・・ですが、とても大それたことをなさりましたね・・・」

 呼びかけるメイに、男は淡々と答える。束の間の休息のため、メイは邸宅の自分の部屋に向かうのだった。

 

 魔法と心の強さを取り戻したヒカル。だがネネの死とマモルの裏切りが、彼女の心に重くのしかかっていた。

(ゴメン、ネネちゃん・・こんなあたし、許してくれてるのかな・・・?)

 心の中でネネに謝るヒカル。どんなに謝ってもネネが返ってこないと分かっていても、ヒカルには謝ることしか思いつかなかった。

Please take a rest slowly now. The purpose of bearing it in mind so that the future should not become painful is everybody though it might be painful.(今はゆっくりと休んでください。辛いかもしれませんが、今後が辛くならないように心がけることが、みなさんのためです。)

 そこへカイザーが声をかけてきた。

(うん・・いつまでも落ち込んでたら、ネネちゃんに怒られちゃうよね・・・)

The people who support you and are who believe.(信じましょう、あなたを支えてくれている人たちのことを。)

(ありがとう、カイザー・・・おやすみ・・・)

 カイザーの励ましに勇気づけられて、ヒカルは瞳を閉じた。

(見守っていて、ネネちゃん・・・あたし、もう迷ったり弱気になったりしないから・・・)

 眠りにつきながら、ヒカルがネネに呼びかけていく。

(そしてメイ・・メイのしていることは、みんなを傷つけることにしかならない・・だからあたしが止める・・全力で・・・)

 さらにメイと向き合うことを、ヒカルは誓うのだった。

 

 警察として平和と安全を守る職務に就いているコウ。呼び出しを受けた彼に知らされた情報は、彼にとって受け入れがたいものだった。

 街の上層部への襲撃事件。その犯人の顔がメイだったのだ。

「メイちゃんが、こんなこと・・・!」

 事実が信じられず、コウが声を荒げる。彼の手には、冷たい表情をしたメイを写した写真が握られていた。

「トウジは・・トウジはこのことを知ってるのか・・・!?

 コウはトウジへの連絡を試みるが、電話に出る様子がなかった。

「出ねぇ・・トウジに事実を確かめねばならないというのに・・・!」

 毒づくトウジが焦りを抱えたまま、神凪家に向かうことを心に決めた。

(せっかくヒカルに元気が戻ったってのに・・これじゃヒカルが・・・!)

 ヒカルへの心配も感じていくコウ。神凪家に向かった彼だが、既に他の刑事が訊ねていた。

「天宮刑事・・ダメです。神凪メイもトウジもここにはいないそうです・・」

「捜索するにしてもこの広さです。人数割かないと骨が折れますよ・・」

 刑事たちの話を聞いて、コウが肩を落とす。

「仕方がない・・気付かれないように張り込んどけ。何か隠してるにしろ、何かが起こるにしろ、動きはあるだろ・・」

「分かりました。監視を行います。」

 コウの呼びかけに刑事たちが答える。神凪家からの注意から外れるため、コウはひとまず屋敷から離れた。

 

 コウや刑事たちが神凪家を訪れたことは、メイにも知らされていた。

(本格的に私を調べるようになってきたわね、警察も・・でも今の私を止められるわけがない・・・)

 絶対の自信を胸に秘めるメイ。警察を敵に回すことに、彼女は何の躊躇も持っていなかった。

It moved gaily too much. A range of the action here will have been narrowed.(派手に動きすぎましたね。こちらの行動範囲を狭めることになってしまいました。)

 そこへハデスがメイに呼びかけてきた。しかしメイは考えを変えない。

(どこも狭まってはいないわ。誰が相手だろうと、立ち塞がってくるなら倒すだけ・・)

First of all, it is impossible that you today are certainly stopped between the normal people.(確かに今のあなたを、普通の人間が止めることはまず不可能です。)

 目つきを鋭くするメイに、ハデスがさらに言葉をかけていく。

However, is it good?In my doing, isn't there guilt?(ですがよろしいのですか?自分のしていることに、罪悪感はないのですか?)

(ないわ。あるなら最初から力を求めようとは思わない・・何度も言ってきたわ・・)

 ハデスに問われても、メイは自分の考えを貫くだけだった。

(ヒカル、たとえあなたがやってきても、戦うことになってもね・・・)

 ヒカルへの敵意も募らせていくメイ。彼女は完全な魔法の戦士となっていた。

 

 クロノスからの最後の警告を突き付けられ、ダイアナは危機感を膨らませていた。1度でも失敗すれば、生き延びてもクロノスに処罰されることになる。この非情な事実が、彼女をさらに苦悩させていた。

「何としてでも・・何としてでもカイザーとハデスを取り戻さなければ・・・」

 体の震えを抑えながら、ダイアナが自分に言い聞かせる。

「もはや手段を選んでいる場合ではない・・カイロスではないけど、どんな手に出ても、ドライブウォーリアーを・・・!」

 ヒカルとメイに対する憎悪を膨らませていくダイアナ。後がない状況が、彼女に戦意を植え付けていた。

「プルートには隙が少ない・・ならばウラヌスを狙うしかない・・ウラヌスならば付け入る隙が比較的多いからね・・・」

 ヒカルへと狙いを絞り込んでいくダイアナが、ようやく笑みを取り戻す。

「どうするつもりなのだ、ダイアナ?」

 そこへブルガノスが現れ、ダイアナに声をかけてきた。

「どうする?カイザーとハデスを取り戻す。それ以外に道はないのよ・・」

「それはそうだが・・・」

 歯がゆさを見せるダイアナに、ブルガノスが言葉を詰まらせる。自分も同じ状況に置かれかねないと悟っていたため、彼は迂闊に励ますことができなかった。

「やるしかない・・何としてでも、ウラヌスの反逆を止める・・・!」

 振り絞るように言いかけてから、ダイアナはブルガノスの前から立ち去っていった。

(ダイアナ・・・ウラヌスとプルート、どちらかに倒されなければいいのだが・・・)

 一抹の不安を感じながらも、ブルガノスはダイアナの出撃を見守ることしかできなかった。

 ヒカルとの最後の戦いに、ダイアナは全身全霊を賭けて臨もうとしていた。

 

 

次回予告

 

ヒカルに対するダイアナの最後の襲撃。

魔性の罠が、魔法の戦士を追い詰めていく。

そして、メイに迫る警察の包囲網が広がっていく。

様々な思惑が交錯し、激しくぶつかり合う。

 

次回・「魔女の終戦」

 

戦いの先に待つのは、栄光か、破滅か・・・?

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system