Drive Warrior Episode16「裏切りの魔手」
右手をかざして光を宿すマモルに、ヒカルは目を疑った。マモルもギルティアの一員だったのである。
「マモルちゃん・・まさか、ギルティアの・・・!?」
「そうだよ・・あたしもギルティアの1人だよ・・ドライブウォーリアーがきちんと戦うようにさせるのが、あたしの仕事・・」
愕然となるヒカルに、マモルが妖しい笑みを見せてくる。
「ウソだよね、マモルちゃん!?・・マモルちゃんが、ギルティアだなんて・・・!?」
絶望感に満ちた笑みを見せて、目の前の現実を否定しようとするヒカル。
「本当よ。彼女は私たちの部下よ・・」
震えるヒカルに向けて声をかけてきたのは、姿を現したダイアナだった。
「ごめんなさい、ダイアナ様。まだカイザーを取り戻していないんです・・」
「それは構わないわ。カイザーを取り出すのは私がやるから・・」
謝るマモルにダイアナが返事をする。
「どういうことなの、ダイアナ・・・マモルちゃんに何をしたの!?」
ヒカルが怒りをあらわにしてダイアナに問い詰める。しかしダイアナは笑みを絶やさない。
「大したことは何もしていないわ。空野マモルは名東高校に入学する前から、既にギルティアの一員だったのよ・・」
「そうだよ・・ドライブウォーリアーの候補者を選ぶために、選ばれた後も動きを監視するために、あたしみたいなのがいるんだよ・・」
ダイアナに続いてマモルも説明を入れていく。
「あたしがヒカルちゃんたちに近づいたのは、ヒカルちゃんとメイちゃんが候補者に絞り込まれてたからなんだよ・・明るく元気に振る舞えば、みんな仲良くしてくれるからね・・」
「そんな・・最初からあたしたちを利用するために・・・!?」
「そうそう・・そうじゃなかったら、最初から近づいたりしないよ・・ホントはいつも笑顔でいるの、あんまりいい気分じゃないんだよね・・・」
冷淡な言葉を口にするマモルに、ヒカルは冷静さを保てなくなっていた。親友の1人だったマモルがギルティアだったことが、ヒカルには信じられなかった。
「でも我慢した甲斐があったよね・・だって、ヒカルちゃんをビックリさせることができたんだから・・・」
マモルが笑みを消して、光を宿していた右手を握りしめる。次の瞬間、ヒカルが出現した光の輪に体を縛られた。
「魔法が使えない今のヒカルちゃんなら、あたしのバインドでも簡単に捕まえられちゃうね・・」
淡々と言いかけるマモル。バインドから脱がれようとするヒカルだが、今の彼女に脱出を可能とする力はなかった。
「最後はあっけなかったけど、これでカイザーを奪い返すことができる・・散々あなたに手を焼かされてきたけど、それも今日で終わりよ・・・」
ダイアナが右手に魔力を収束させて、ヒカルに近づく。自由になることも逃げることもできず、ヒカルは絶体絶命を痛感していた。
そのとき、ヒカルたちのいる場所に突然破裂音が響いた。ダイアナが注視して、それが爆竹であることを確認する。
「ヒカル、こっちに来て!」
さらに声がかかり、ヒカルが手を握られて引っ張られる。彼女が目の当たりにしたのは、ネネの姿だった。
「ネネちゃん!?」
声を荒げるヒカルだが、ネネは構わずに彼女を引っ張って、ダイアナとマモルから離れていった。
「ネネちゃん・・どうしてネネちゃんが・・・!?」
「エビル、追いなさい!2人とも逃がすな!」
マモルが驚きの声を上げ、ダイアナがエビルたちに追跡を命令する。
(結界は張っておいた。仮にマモルがかけたバインドが消えたとしても、ウラヌスが私たちから逃げ切ることは絶対にできない。魔力の使えない今のあなたには・・)
ヒカルの打倒とカイザーの奪還を確信して、ダイアナは笑みを見せた。
「ついてきなさい、マモル。カイザーを取り戻すわよ・・」
窮地に追い込まれたヒカルを救ったのは、病院に向かったはずのネネだった。ネネはダイアナとマモルの注意をそらし、ヒカルを連れ出したのだった。
マモルのかけたバインドが効力を失って消失し、ヒカルは自由を取り戻した。
「ハァ・・ハァ・・何とか、とりあえず逃げられた・・・」
「ネネちゃん・・・病院に行ったはずじゃ・・・!?」
呼吸を整えるネネに、ヒカルがたまらず問いかける。彼女は病院に向かったはずのネネが助けに来たことに、驚きを隠せなくなっていた。
「病院に行こうとしたら、突然周りにいた人がいなくなって・・何かあるんじゃないかって、ヒカルを探しに学校に戻ろうとして、ヒカルたちを見つけたんだ・・」
ネネがヒカルに事情を説明する。病院に行く途中、ネネはダイアナの展開した結界に閉じ込められてしまったのである。
「ヒカル、何がどうなってるんだ!?何でみんないなくなったんだ!?何でマモルがヒカルのことを・・!?」
「ち、ちょっと待って、ネネちゃん!そんないっぺんにいろいろ聞かれても答えられないって!」
問い詰めてくるネネにヒカルが慌てる。我に返ったネネが、たまらずヒカルから離れる。
「ゴメン、ヒカル・・私も動揺してたみたい・・・」
「いいよ、ネネちゃん・・あたしもいろいろありすぎて、心の整理がついてないから・・・」
謝るネネにヒカルが弁解する。だがすぐにヒカルの顔から笑みが消える。
「あたしたちは結界の中にいる・・空間を歪めて別の空間に閉じ込める魔法だって・・結界に閉じ込められたから、みんながいなくなったように感じるんだよ・・」
「そうか・・それじゃヒカルは、結界の中でみんなの知らないところで戦ってたんだね・・?」
「でも、マモルちゃんのことは分かんない・・ギルティアだったっていうけど、あたしには信じられないよ・・・」
「マモルが、ギルティア!?」
悲痛さを見せるヒカルに、ネネが声を荒げる。
「あたしたちが入学した時から、もうギルティアだったって・・あたしとメイを見張るために・・・」
「そんなバカなこと!?・・それじゃ、マモルはずっと私たちを騙してきたっていうの!?」
ヒカルの言葉を聞いて、ネネがマモルへの怒りを覚える。
「・・・本当だったら、この手でマモルを引っぱたいてやりたい・・でも私にそれだけの力はない・・ヒカルだって・・・」
ネネが言いかけた言葉を聞いて、ヒカルが心の中に押し込んでいた不安を思い返してしまう。自分が拒絶したために自分の力を失ったことを、ヒカルは後ろめたく感じていた。
「みんなを守るために戦いたい・・でもそのために、守ろうとしている人を傷つけてしまう・・・そう思ってしまったから、あたしは自分でも分からないままに、カイザーを、魔法を拒絶してしまった・・・」
「ヒカル・・・」
自分を責めるヒカルに、ネネが戸惑いを見せる。
「あたし、ホントにどうしたらいいの・・・守ろうとしたら逆に傷つけてしまう・・ネネちゃんを守ろうとしたら、マモルちゃんを傷つけてしまう・・・」
「何言ってるんだよ、ヒカル!?マモルはヒカルを騙して、やっつけようとしていたじゃない!同情したって、マモルが聞くなんて・・!」
「でも、でも、マモルちゃんは友達だよ・・友達を倒すなんて・・・!」
「しっかりして、ヒカル!マモルは私たちを友達と思っていない!私たちがどんなに願っても、もうマモルには届かない!」
「何でそんなこと言うの、ネネちゃん!?ネネちゃんはマモルちゃんのこと、友達と思ってないの!?」
「・・・裏切って平気な顔をしている人を、私は友達とは思わない・・・!」
悲痛さを込めた叫び声を上げるヒカルに、ネネも歯がゆさを見せて言い返す。
「ヒカル・・・ヒカルの守りたい人のために、あなたは何と戦ってるの・・・!?」
「ネネちゃん・・・」
「ヒカルはずっとギルティアと戦ってきた・・それはギルティアが、どうしても悪い連中にしか思えないからじゃなかったの・・・?」
戸惑いを見せるヒカルに、ネネが切実に呼びかけていく。
「ギルティアはこの世界を自分たちのものにしようとする悪い連中・・そのことは間違いないんだよね、ヒカル・・・!?」
「ネネちゃん・・・うん・・それは間違いないよ・・・」
「それだけでも十分戦う理由になるじゃない・・その理由だったら、私は文句は言わないよ・・自分のためじゃなく、自分以外の誰かのためになるんだから・・・」
「でも、そのためにみんなが巻き込まれて、傷ついたら・・・」
「傷つかないって!傷つかないようにすればいいって!それでも傷つけたらきちんと謝ればいいって!」
気落ちするヒカルに喝を入れるネネ。彼女からの励ましを受けて、ヒカルが何とか迷いを振り切ろうとする。
(どうしていけばいいのかな・・・戦いを選べば、マモルちゃんだけじゃない。メイとも向き合わないといけなくなる・・・)
自分に問いかけ、答えを見出そうとするヒカル。
「まずはギルティアを、ダイアナを何とかしないと・・さもないとあたしたち、この結界に閉じ込められたままだよ・・」
ヒカルは自分に言い聞かせて、状況の打破を模索しようとするヒカル。ネネもここはヒカルを信じないといけないと思い、気持ちを引き締めていた。
「逃げようとしてもダメだよ、ヒカルちゃん・・・」
そこへヒカルとネネを追ってきたマモルが現れた。緊張を覚えて後ずさりするヒカルとネネだが、2人の後ろにはダイアナが回り込んでいた。
「私たちからはもう逃げられないわよ、2人とも・・どちらにしても、魔力の使えないあなたたちが結界を突破することは不可能だから・・・」
「ダイアナ・・みんなをこれ以上苦しめないで!あたし、やっぱりアンタたちを許すなんてできない!」
笑みを見せるダイアナに、ヒカルが怒りをあらわにする。
「今のあなたに何ができるというの?魔力が使えず、わたしたちとまともに戦う力もない。そんなあなたでは戦うどころか、逃げることもできない。私たちギルティアの手に落ちるしかない・・」
「そんなの絶対にイヤ・・だってアンタたちは、あたしたちのいるこの世界を壊そうとしてるじゃない!」
「嫌がってもダメよ。カイザーを宿した時点で、あなたはギルティアから、ドライブウォーリアーの宿命からは逃れられない・・」
あざ笑ってくるダイアナが、右手を掲げて魔力を集中させる。
「今のあなたに、私たちに抵抗できる力はない。どんなに虚勢を張ったところで、ムダな足掻きにしかならない・・」
ダイアナがその手を握りしめると、ヒカルが足元から出てきた光の鎖に体を縛られる。
「ヒカル!」
ネネがたまらず叫び、ヒカルに駆け寄ろうとする。だが彼女の前にマモルが立ちふさがってきた。
「邪魔させないよ、ネネちゃん・・」
「そこの娘に手を出させないようにして、マモル・・私はその間に、ウラヌスからカイザーを取り出すわ・・・」
ネネに言いかけるマモルと、ヒカルに近寄るダイアナ。ダイアナが右手に灯した光を刃に形を変えた。
「これであなたの抵抗も終わりを迎える・・」
身動きのとれなくなったヒカルに向けて、ダイアナが光の刃を突き出した。
街中で行われていた会議。高い位の人々が、会議場で議論を交わしていた。
だがその途中、その会議場のドアが突然開かれた。警備員が突き飛ばされて、ドアが破られたのである。
「な、何だ!?何事だ!?」
声を荒げる会議場の人々が声を荒げる。ドアの破られた出入り口から入ってきたのは、バリアジャケットを身に付けたメイだった。
「な、何だ、君は!?」
「奇天烈な格好をしおって!その悪ふざけ、許すわけにはいかん!」
激昂してくる人々に対し、メイが冷たい視線を投げかける。
「お前たちのような人間が、世界を狂わせている・・力がないのに権力ばかりを振りかざして、それをいいことに自分の思い通りに事を進めて・・」
「何をわけの分からないことを!」
「街や人々のためを思って、議論を重ねて法案を練り上げているというのに!」
メイの口にする言葉にも怒りを覚える人々。冷淡な態度は変えなかったが、メイも心の中で怒りを膨らませていた。
「そう自分たちだけで勝手に思い込んでいるだけ・・ただの自己満足を偽善に置き換えて・・・」
「我々が掲げているのは正義だ!街の声を聞いて、それに基づいて策を講じている!」
「その正義は何?誰が決めていいの?・・自分たちでそんな理屈を勝手に考えているくせに・・・」
「何も知らない子供の分際で、分かったような口を叩くな!」
悪びれない人々に対し、メイがついに感情をあらわにしてきた。
「何も分かっていないのはお前たちのほうだ!」
彼女から衝撃波が放たれ、会議場と人々を吹き飛ばした。人を手にかけても、メイは罪の意識を感じていなかった。
(やはり・・私が何とかするしかない・・私が戦っていかないと、世界に本当の平和は訪れない・・・)
今の世界のあり方に疑問を感じていくメイ。外に飛び出した彼女は、上空から街を見下ろす。
(私は戦う・・この戦いが罪だとしても、あんな連中のしていることが罪でないとは絶対に言わせない・・・)
“Let's put the rest a little. Keeping using power taking a rest none doesn't come recommended.(少し休憩を入れましょう。休みなしで力を使い続けるのはお勧めできません。)”
決意を募らせていくメイに、ハデスが呼びかけていく。
(分かっているわ。まだまだ戦わないといけないのに、つまらないことで倒れたらバカみたいだわ・・)
“Even as for a very strong person, physical strength is not unlimited. Please note that earnestly.(どんなに強い人でも、体力は無尽蔵ではありません。そのことはくれぐれも注意してください。)”
(もちろん・・1度家に戻るわ・・)
ハデスの助言を受けて、メイは家に向かって飛行していった。
(私はヒカルのように甘くない・・敵を倒すためなら、徹底的にやっていくわ・・・)
ヒカルへの思いを呼び起こしながら、メイは次の戦いに備えるのだった。
チェーンバインドで拘束されたヒカルに、ダイアナの光の刃が突き出された。だがヒカルに刃は刺さっていなかった。
光の刃が刺していたのは、飛び出してきたネネだった。
「ネネちゃん・・・!?」
ヒカルは目を疑い、体を震わせる。ダイアナの刃が、ネネの体から引き抜かれた。
「ネネちゃん!」
倒れていくネネに悲鳴を上げるヒカル。チェーンバインドで縛られていたため、彼女はネネに駆け寄ることができなかった。
「何とか・・間に合ったみたい・・・よかった・・・」
ヒカルに向けて弱々しい笑みを見せるネネ。彼女はとっさに飛び出し、身を呈してヒカルを庇ったのである。
「ネネちゃん、なんであたしを庇って・・・!?」
「だって・・私が出ていかないと・・ヒカルがやられていたじゃない・・・ヒカルを守れたから・・後悔なんてしない・・・」
愕然となるヒカルに向けて、ネネが声を振り絞る。
「余計なマネを・・でもムダなことにしかならなかったわね。ウラヌスからカイザーを取り出すことに変わりはない・・」
ダイアナが目を見開いて、再びヒカルに向けて刃を突き出す。
「ギルティア!」
彼女に対してヒカルが激しい怒りを覚える。
「ムダよ!今のあなたに脱出できる力は・・!」
ダイアナが勝ち誇るように言い放ったときだった。
ヒカルの体から淡い光があふれ出してきた。すると彼女を拘束していた光の鎖が断ち切れた。
「何っ!?」
驚愕の声を上げるダイアナ。自由を取り戻したヒカルが、紙一重でダイアナの刃をかわした。
ヒカルは倒れているネネを抱えて、全速力で駆け出していった。
(ダメ・・力が出せたのはホントに一瞬だけ・・まだカイザーと話ができない・・・!)
ヒカルから危機感は消えてはいなかった。危機的状況での爆発的な魔力の発動が出ただけで、彼女はまだ力を取り戻せてはいなかった。
「ここまで来て逃がすものか!」
「あたしが追いかけます!2人とも逃がさない!」
ダイアナが激昂し、マモルがヒカルとネネを追いかけていく。
(一瞬だけだったとはいえ、魔力が戻ってくる可能性が否定できなくなった・・ゆっくりと事を進めるわけにいかなくなった・・・!)
魔力の復活を危惧して、ダイアナは焦りを覚えるのだった。
ネネを抱えて必死に逃げてきたヒカル。ダイアナたちを振り切ったものの、ネネはヒカルを庇ったために瀕死に陥ってしまった。
「ネネちゃん!しっかりして、ネネちゃん!」
ヒカルが呼びかけるが、ネネは意識を失っているのか、返事をしてこない。
「ネネちゃんを助けたい・・ネネちゃんを助けられるなら、あたし、どんな戦いだってやるよ・・・!」
ネネを助けようと、力を切望するヒカル。
「だからお願い・・カイザー、答えて・・あたしに力を貸して・・ネネちゃんを助けられる力を・・・!」
ひたすらカイザーに呼びかけようとするヒカル。彼女は自分が拒んでいた力をひたすら望んでいた。
自責と無力に打ちひしがれて涙するヒカル。その彼女に、ネネが手を差し伸べてきた。
「ネネ、ちゃん・・・!?」
「ヒカル・・・私のことは気にしないで・・・ヒカルには、やらなくちゃならないことがある・・そう思って、頑張ろうとしてるんだね・・・」
当惑を見せるヒカルに、ネネが声をかけていく。
「だったらやれるって、ヒカルなら・・散々悩んできたんだから、迷いを吹っ切ればどんなことだってやれるって・・・」
「ネネちゃん・・・あたし・・あたし・・・」
「私・・ヒカルみたいなすごい力はなかった・・少しでも力があれば、ヒカルを助けてやれるって思ってた・・でも力のあったヒカルのほうが、ずっと深く悩んでたんだね・・・」
困惑していくヒカルの頬に、ネネが手を添えていく。
「本当にこれだけ悩んできたんだ・・それから決めたことを、誰だって悪く言えないって・・・」
「ネネちゃん・・・」
「ヒカル・・ヒカルなら、こんなおかしな状況を何とかできるって、私は信じてるよ・・・」
ヒカルへの信頼を強めていくネネ。するとヒカルがネネを強く抱きしめてきた。
「絶対助ける・・ネネちゃんを絶対に死なせない・・・!」
迷いを振り切り、失われた力を振り絞ろうとするヒカル。
ネネを助けたい。ネネが助かるなら、自分がどうなっても、命を失うことになっても構わない。
ヒカルの気持ちは、何としてでもネネを助けたいという一心だった。
(あたしたちはここから出る!この結界を突破する!)
元の世界に戻ることを強く念じるヒカル。
(返事ができなくてもいい!カイザー、あたしにはまだ魔法があるなら、もう1度呼び起こさせて!)
決意を一気に強めていくヒカル。彼女の気持ちが引き起こしたのか、ダイアナが展開していた結界を突破した。
「やった・・・!」
周囲にはまだ人の姿が見えなかったが、ヒカルは自分たちが元の世界に戻ってこれたと確信した。
そのとき、一条の光がヒカルたちの後ろから通り過ぎてきた。その光は彼女が抱えていたネネの体を貫いていた。
「えっ・・・!?」
ヒカルは目を疑った。ネネが魔力の光に撃ち抜かれてしまった。
「まさか結界を突破しちゃうなんてね・・・」
振り返ったヒカルの視線の先には、右手を掲げているマモルがいた。彼女が放った魔力の光線が、ネネを狙撃したのである。
「でももうおしまいだよ・・ヒカルちゃんも、ネネちゃんと一緒に天国に行くことになるから・・・」
「ネネちゃん!目を開けて、ネネちゃん!」
妖しい笑みを見せるマモルの前で、ヒカルがネネに呼びかける。するとネネがゆっくりと目を開く。
「ヒカル・・・ヒカルなら・・・どんなことだって・・・」
弱々しく声を振り絞ったときだった。ヒカルの腕の中で、ネネは再び目を閉ざして脱力していった。
「ネネちゃん!?・・・ネネちゃん!」
悲痛の叫びを上げるヒカル。彼女はネネが命を落としたことを痛感していた。
「イヤ・・イヤだよ、ネネちゃん!死なないで!」
大粒の涙をこぼして呼びかけるヒカル。しかしネネが目を覚ますことはなかった。
「あ〜あ・・死んじゃったんだね、ネネちゃん・・・」
深い悲しみに暮れていたヒカルの耳に、マモルの声が入ってきた。
「あたしたちはヒカルちゃんからカイザーを取り出したかっただけなのに・・邪魔して死んじゃうなんて、ネネちゃん、バカみたいだよ・・・」
「マモルちゃん・・・それ・・本気で言ってるの・・・!?」
ネネを嘲笑してくるマモルに我慢ができなくなり、ヒカルは抱えていた悲しみを怒りに変えていく。
「もちろんだよ・・こうして邪魔して死んじゃっても、ヒカルちゃんからカイザーを取り出すことに変わりはないんだから・・・」
「こんなの・・こんなのマモルちゃんじゃない・・・マモルちゃんは、誰にだって仲良くしようとしてたじゃない・・・!」
「それはそう演じてただけ・・今がホントのあたしだよ・・・」
声と体を振るわせるヒカルに、マモルがさらに笑みを見せて言いかけていく。
「こんなあたしを信じるなんて・・みんな単純なんだからね・・ヒカルちゃんも・・ネネちゃんも・・・」
マモルが投げかけた言葉に、ヒカルはさらに怒りを膨らませていく。
「ネネちゃんはいい友達だった・・あたしやみんなのことを大事にしてた・・そのネネちゃんの優しさを利用して・・・!」
ネネを横たわらせて立ち上がるヒカルから、稲妻のような衝撃が発せられた。この衝撃を目にして、マモルが驚いて笑みを消す。
「許さない・・・アンタなんか友達じゃない・・・絶対に許さないんだから!」
怒りの叫びを上げるヒカルから光が放出される。この衝撃と威圧感に押されて、マモルが緊迫を覚える。
「も・・もしかして・・魔法の力が戻った・・・!?」
驚愕の声を上げるマモルが、恐怖を覚えて後ずさりする。ネネの死とマモルへの怒りを引き金にして、ヒカルは魔力を再び使えるようになった。
「アンタは絶対に許さない・・人の心を利用して弄んで、面白がるような敵を、私は絶対に見逃さない!」
怒りをあらわにするヒカルが、マモルに向けて衝撃波を放つ。
「キャッ!」
衝撃にあおられて、マモルが突き飛ばされる。痛みを感じる彼女の眼前に、ヒカルが迫ってきた。
「や、やめて!やめてよ、ヒカルちゃん!」
マモルが怯えて、ヒカルに呼びかける。
「あたしたち、友達だよね?・・友達は、友達を傷つけるようなこと、しないよね・・・?」
「そう・・友達は、人の心を傷つけるために、友達を傷つけるようなことはしない・・だからアンタは、あたしの友達じゃない!」
作り笑顔を見せるマモルに激昂し、ヒカルが力を込めた右手を繰り出そうとする。だがヒカルは後ろから伸びてくる光の鞭に気付いて、上に飛んで回避する。
「よけられた・・・!」
ヒカルを狙っていたダイアナが、よけられたことに緊迫を募らせる。着地したヒカルが振り向き、ダイアナに鋭い視線を向ける。
(恐れていたことが起こってしまった・・使えなくなっていたウラヌスの魔力が、呼び覚まされてしまった・・・!)
起こってはいけない事態が起きたことに、ダイアナは愕然となる。
「ギルティア・・アンタたちも、絶対に許さない・・・!」
低く告げたヒカルが、ダイアナに向かって素早く飛びかかる。ダイアナが反応すると同時に、ヒカルが打撃を叩き込む。
「ぐっ!」
痛烈な一撃を受けて、ダイアナが吹き飛ばされる。先のビルの壁に叩きつけられたところで、ダイアナがあえいで吐血する。
(間違いない・・力が戻っている・・いいえ・・今まで以上の力になっている・・・!)
ヒカルが発揮してくる力を痛感するダイアナ。肩の力を抜いたヒカルが、心の中で呼びかけた。
(カイザー・・魔法の力、戻ったみたい・・あたしの声、聞こえてる・・・?)
“Yes, I hear it. Is my voice transmitted?(はい、聞えています。私の声も伝わっていますか?)”
ヒカルの声を受けて、カイザーからの声が返ってきた。喜びを抑えつつ、ヒカルは小さく頷いた。
“I am sorry. It is not possible to talk up to now, and you will be afflicted further.(申し訳ありません。これまで会話をすることができず、あなたをさらに苦しめることになってしまって。)”
(ううん・・いけないのはあたし・・あなたを拒絶した、わたしの心の弱さのせい・・・)
謝るカイザーに対し、ヒカルが首を横に振る。
(あたしのせいで・・ネネちゃんが・・・あたしの弱さが・・ネネちゃんを死なせてしまった・・・)
ヒカルが横たわるネネを見下ろして、自分を責めていく。彼女はネネのためにも戦っていかないといけないと、自分に言い聞かせていた。
(カイザー・・力を貸して・・・あたし、もう迷ったり逃げたりしない・・・)
“You are accepting admitting me. Be even if it interprets it so the problem.(あなたは、私のことを認めて、受け入れている。そう解釈しても問題ありませんでしょうか?)”
決意を告げるヒカルにカイザーが問いかける。気持ちを落ちつけてから、ヒカルは頷いた。
次回予告
再び呼び起こされた力。
衝突と裏切り、絶望に苦しめられてきた少女。
失った命の思いに報いるため、今、願いと決意を胸に秘めて、戦いに再び身を投じる。
友の思いが、少女を奮い立たせる・・・