Drive Warrior Episode15「失われた魔法」

 

 

 ヒカルとメイの衝突は、カイロスとダイアナも目撃していた。

「とうとう対決を果たしたわね、2人とも・・」

 ヒカルとメイの衝突の映像を見て、ダイアナが呟く。

「やはりドライブウォーリアー。魔力、戦闘力が高く、そのぶつかり合いもものすごい・・」

「だが、まだオレが割り込むチャンスではないな・・」

 感心の声を口にするダイアナに、カイロスが嘆息をつく。

「また戦うことになったら、今度こそ行くさ。その瞬間を楽しみに待たせてもらう・・」

「珍しく慎重ね。チャンスを逃さないように気を付けることね・・」

「お前に言われるまでもない。このオレが、ヤツらを徹底的に叩きのめしてやる・・」

 攻撃の機会を見据えて、カイロスが笑みを強める。彼はヒカルとメイの動きを引き続き監視するのだった。

 

 ヒカルとの衝突を経ても、メイの決意に迷いはなかった。だがヒカルに追いこまれたことが、メイは我慢がならなかった。

(私は間違いなくヒカルに押されていた・・もしもヒカルが迷わなかったら、私は負けていた・・・)

 ヒカルとの戦いを思い返して、メイが苛立ちを膨らませていく。

(私には何が足りないというの・・・やはり純粋な力が、ヒカルのほうが強いというの・・・!?

She was good on an integrated side. However, she held the hesitation in fighting with you.(総合面では彼女のほうが上手でした。ですが彼女はあなたと戦うことに迷いを抱きました。)

 そんなメイにハデスが声をかけてきた。

You alone who doesn't hesitate to fight of you exceed her. Because it is unshakable determination and belief that relates to true strength.(自分の戦いをすることに迷いのないあなたこそが、彼女を上回っています。本当の強さに結び付くのは、揺るぎない決意と信念なのですから。)

(そうよ・・私には平和を求める気持ちがあるし、今はあなたがいる・・まだまだ強くなれる・・・)

 ハデスに励まされて、メイがさらに決意を強めていく。

(私は強くなる・・本当の平和をつかむために・・ヒカルが迷いを吹っ切っても負けないほどに・・・!)

 自分をさらに高めようとするメイに、ハデスは協力を誓う。次の戦いに備えて、メイは鍛錬を積もうとしていた。

 

 メイとの衝突から一夜が立った。心身ともに疲れ果てていたヒカルは、目覚まし時計が鳴り響いてもすぐに起き上がることができなかった。

 メイとのすれ違いによる苦悩を振り切ろうと、ヒカルは気持ちを切り替えて学校に向かった。その昇降口で、彼女はマモルと会った。

「おはよう、ヒカルちゃーん♪・・ふぅ、またまた遅刻しそうになっちゃったよ〜・・」

「おはよう、マモルちゃん。まだホームルームの時間まで余裕があったよ・・」

 明るく挨拶をしてきたマモルに、ヒカルが苦笑いを見せる。

「あれ?今日もメイちゃんと一緒じゃないの?」

「うん・・ちょっとケンカしちゃって・・昨日も家に行ったのにケンカになっちゃって・・」

 マモルが問いかけると、ヒカルが表情を曇らせた。だが彼女はすぐに笑顔を取り戻す。

「そろそろ急がないとね。でないとホントに遅刻になっちゃうよ。」

「わわっ!早く教室に!」

 ヒカルに呼びかけられて、マモルが慌てだす。マモルはヒカルを引っ張って、急いで教室に飛び込んだ。

 教室の中には、右腕に包帯を巻いたネネがいた。

「ネネちゃん!?どうしたの、その腕!?

 マモルが血相を変えてネネに駆け寄ってきた。

「転んだはずみで壁にぶつかってね・・でも骨に異常はないって・・」

「そうなんだ〜・・よかったよ〜・・・」

 ネネの説明を聞いて、マモルが安心して肩を落とす。

「ネネちゃん・・ホントに大丈夫だったんだね・・・」

「心配かけたね、ヒカル・・でも私は本当に大丈夫だから・・」

 不安を和らげていくヒカルに、ネネは笑みを見せる。

「でも完治するまで運動ができないから、退屈になるよ。仕方がないことなんだけど・・」

「ダメだよ、ネネちゃん。ちゃんと治るまではじっとしてないと・・」

 ため息をつくネネに、マモルが心配して注意をしてくる。

「マモルだったら、ケガしたら治るのが遅くなりそうだ。」

「そんな〜・・ひどいよ、ネネちゃ〜ん・・・」

 ネネにからかわれて、マモルが肩を落とす。マモルが席に着いてから、ヒカルがネネに沈痛な面持ちを見せた。

「ホントにゴメン、ネネちゃん・・・あたしのせいで、ネネちゃんにケガさせちゃって・・・」

「大丈夫、大丈夫・・ただしばらくはホントに大人しくしていないといけないから・・」

 謝るヒカルにネネが弁解する。

「でも何かあったら力になるから・・ヒカルのことを知ってるのは、私と、メイだけだから・・・」

 表情を曇らせるネネが口にした言葉に、ヒカルが困惑する。メイと戦うことに対して、ヒカルは拒絶を通り越して強い嫌悪を抱くようになっていた。

「ありがとうね、ネネちゃん・・ネネちゃんに支えられると、とても安心するよ・・・」

 物悲しい笑みを見せながら、ヒカルは自分の席に座った。ひどく落ち込んでいる彼女に、ネネも辛さを感じていた。

 

 この日もメイは学校に来なかった。親友に会えないことと、親友と向かい合えない気持ちから、ヒカルは不安とも安心とも取れない気分に陥っていた。

 落ち込んだまま下校しようとしたとき、ヒカルはマモルに声をかけられた。

「ヒカルちゃん・・ホントに元気ないよ・・ホントは気安く声をかけるのはデリカシーがないって、ヒカルは注意してくれたけど・・・」

 声をかけてくるマモルに、ヒカルが戸惑いを覚える。

「ホントにゴメン、マモルちゃん・・マモルちゃんには・・・」

「もしかして、メイちゃんと何かあったの・・・?」

 謝るヒカルに、マモルが問いかけを投げかける。気にしていたことを突かれて、ヒカルが口ごもる。

「ケンカしても、また仲直りできるよ・・ヒカルちゃんとメイちゃん、ずっと仲よかったじゃない・・」

「そう思いたいんだけど・・ちょっと複雑になりすぎちゃって・・・」

 呼びかけていくマモルだが、ヒカルは物悲しい笑みを浮かべるばかりだった。

「ありがとうね、マモルちゃん・・でもこれは、あたしが、あたしたちが何とかしなくちゃいけないことだから・・・」

 ヒカルはマモルの前から駆け出していった。しかしこの行動は決意の表れではなく、戦いの辛さからの逃避行だった。

 辛い気持ちを振り切ろうとするヒカル。道の途中で足を止めて呼吸を整えようとするが、押し寄せてくる苦悩で落ち着きが取り戻せなくなっていた。

「わたし・・メイとは戦いたくない・・戦いたくないのに・・・」

「これはかなりの戦意喪失のようだな。」

 そこへ聞き覚えのある声を耳にして、ヒカルが緊迫を覚える。彼女の前に現れたのはカイロスだった。

「カイロス・・また・・・!」

「プルートと戦っているようだな。それにしてもその姿、実に不様だな。」

 身構えるヒカルをカイロスがあざ笑ってくる。

「もっと戦うがいい。そうすれば、オレたちがわざわざマスター・クロノスの後継者を選別する手間が省けるというものだ。」

「ふざけないで!あたしたちがアンタたちのために戦うわけないじゃない!」

「どうかな?お前たちにそのつもりがなくても、お前たちが戦えばオレたちには好都合ということだ。」

 憤りを見せるヒカルだが、カイロスは哄笑を見せるばかりだった。

「メイとは戦いたくないけど、アンタたちの勝手にはさせない!」

「言ってくれるな。そのざまではオレの足元にも及ばないぞ。」

 構えを取るヒカルをさらにあざ笑うカイロス。

「そこまで死に急ぎたいなら、望み通り相手をしてやってもいいぞ。オレとしてはカイザーさえ取り返せればいいのだからな。」

「負けられない・・ギルティアなんかに、あたしたちの平和な時間を壊されるわけにはいかない・・・!」

 挑発してくるカイロスに、ヒカルは戦いを挑む決意を固める。

「カイザー!」

 バリアジャケットを身につけようとするヒカル。だが彼女の衣服に変化がない。

「えっ・・・!?

 この事態にヒカルが驚愕する。自分の呼びかけで魔力が発揮されないことが今までなかったため、彼女はその理由が分からなかった。

「も、もう1度・・・カイザー!」

 気持ちを切り替えて再び叫ぶヒカル。それでも彼女に変化が起きない。

(何で!?・・・魔法が、使えない・・・!?

 なぜバリアジャケットが発現しないのか、困惑を膨らませるヒカル。彼女の異変に一瞬唖然となるも、カイロスは笑みを取り戻す。

「どういうことかは知らないが、魔力が使えなくなっているようだな。」

 嘲笑するカイロスが光の弾を連射する。弾はヒカルの周囲の地面に命中して、爆竹のような破裂を巻き起こす。

「コイツは傑作だ!まさか魔力が使えなくなっているとは、嬉しい誤算だな!」

「そんな・・・魔法が使えなくなるなんて・・・!?

 魔法が使えなくなった理由を必死に考えるヒカル。

(そういえば、カイザーの声がしない・・カイザーが反応して、魔法が使えるようになるはず・・・)

 この日、ヒカルはカイザーの声を全く聞いていない。昨日のメイとの衝突があり、カイザーが心配して声をかけないはずがない。

(カイザー、答えて・・あたしの声が聞こえる・・・?)

 気持ちを落ちつけようとしながら、ヒカルがカイザーに呼びかける。しかしカイザーからの返事がない。

(どうしたの、カイザー!?・・・返事をして、カイザー!)

 何度も呼びかけていくヒカルだが、それでもカイザーからの反応がない。そこへカイロスが足を一歩前に踏み出してきた。

「どうした?魔力が使えなくなって焦っているのか?」

 笑みを絶やさないカイロスを前にして、ヒカルが後ずさりしていく。

(全然反応しない・・カイザーが反応しないと、魔法が使えないのに・・・!)

 かつてない危機に直面したヒカル。この間も、彼女はなぜカイザーが反応しないのか、その理由を探っていた。

“いらない・・カイザーなんて・・こんな力なんていらないよ!”

 昨晩自分がカイザーに言った言葉を、ヒカルはようやく思い出した。この一言が、カイザーの拒絶につながったのだった。

(もしかして、あたしがあんなこと言ったから・・カイザーは・・・)

 自分の過ちであると感じて、ヒカルが絶望する。彼女は自責の念に駆られて、カイロスを迎え撃つどころではなくなっていた。

「もはや面白くなったどころか拍子抜けだな。これでは赤子の手をひねるようなものだ・・」

 カイロスはため息をつくと、ヒカルに向けて右手をかざして衝撃波を放つ。吹き飛ばされたヒカルが激しく横転する。

「どうした?魔力が使えなければその程度なのか?ただの人間と変わらないな・・」

 戦う力を失ったヒカルに呆れ果てるカイロス。

「納得がいかないところがあるが、ここでお前にとどめを刺してやる・・」

 不敵な笑みを見せたカイロスが、右手から大きな光の弾を出現させる。心身ともに追い込まれたヒカルには、逃げる余力も残っていなかった。

「これで終わりだ、ウォーリアー・ウラヌス・・・!」

 カイロスがヒカルに向けて弾を放った。だがそこへ衝撃が飛び込み、弾はあおられてヒカルから外れた。

 笑みを消したカイロスが視線を移す。その先にはバリアジャケットを身に付けたメイがいた。彼女の放った衝撃波が、カイロスの魔法を弾き飛ばしたのである。

「お前は、ウォーリアー・プルート・・!?

 メイの出現にカイロスが声を荒げる。絶望感に打ちひしがれていたヒカルは、メイが駆け付けたことにも意を介していなかった。

「ずい分と情けない姿になったわね、ヒカル・・それで私を止められるわけがないわ・・」

 メイがヒカルに向けて冷淡な言葉を投げかける。しかしヒカルは反応を示さない。

「まさかプルートがウラヌスを助けるとは・・どういう風の吹きまわしだ?」

「勘違いしないで。私はヒカルを助けたわけじゃない。後で私の手で倒すためよ。ギルティアや他の者にはやらせない・・」

 あざ笑ってくるカイロスに、メイは冷淡な口調のままで言葉を返す。

(ハデス、あなたも分かっているわね?私が平和を取り戻すためには、ヒカルを自分の手で打ち負かさないといけないのよ・・)

It understands. I help you so that may go out for what action by you with what idea. Even if you will do the worst selection.(分かっています。あなたがどのような考えを持って、どのような行動に出ようと、私はあなたの力になります。たとえあなたが、最悪の選択をすることになったとしても。)

 ハデスに呼びかけるメイ。ハデスはメイに力を貸すことを改めて申し上げた。

(今のヒカルを倒しても、私には何の意味もない・・本当の平和に辿りつけなくなる・・)

First of all, let's give priority to defeating the enemy in the presence. It might be a best option to achieve your purpose.(まずは目の前の敵を倒すことを優先しましょう。あなたの目的を達成させるためには、それが最良の選択肢でしょう。)

(ありがとう、ハデス・・・私は戦う・・本当の世界のあり方のために・・・!)

 助言するハデスに感謝して、メイが両手を握りしめる。

「丁度いい。こんな腑抜けたウラヌスを倒しても満足しないと思っていたところだ。お前から先に始末してやるぞ、プルート・・」

「できるものならね。あなた1人では不可能だけどね・・」

 不敵な笑みを見せるカイロスに、メイが逆に挑発を返す。

There is no reaction of the foreign enemy excluding him. There is no problem even if it concentrates on one person.(彼以外に外敵の反応はありません。1人に集中しても問題ありません。)

(情報を知ることができてよかったわ。もっとも、何人いようと、私が倒すことに変わりはないけど・・)

 カイザーのこの言葉を聞いて、メイはようやく笑みを浮かべる。カイロスに向かって飛び出し、メイが魔力を込めた右手を突き出す。

 カイロスは後退して打撃をかわし、すかさずメイに向けて光の弾を放つ。メイも軽やかに動いて、射撃をかいくぐっていく。

 だがカイロスの放った光の弾の群れに、メイは包囲された。

「逃がさないぞ。ここからいたぶってやるぞ・・」

「囲まれているから迂闊に動けない。そう思っているようだけど・・」

 勝ち誇るカイロスだが、メイはわずかも動揺を見せない。

「私には小細工にしかならないわ!」

 メイは自分がダメージを受けることも顧みずに飛び出した。光の弾の包囲網を素早くかいくぐり、魔力を込めた打撃をカイロスの体に叩き込んだ。

「ぐっ!」

 ダメージを受けてうめくカイロス。一瞬怯む彼だが、すぐに飛翔してメイとの距離を取る。

Because my risk is high, this means cannot agree. However, you might not accept it.(私としては、危険度が高いため、この手段は賛同しかねます。といっても、あなたは聞き入れないのでしょうね。)

(分かっているなら言わないで。危険なことでも選ばないといけないこともある。その覚悟がないなら、最初から力を求めようとは思わないわ・・)

 ハデスが苦言を呈するが、メイに迷いはなかった。

「おのれ、プルート!だがこれで勝ったと思うな!」

 カイロスが苛立ちを見せながら、メイに言い放つ。

「お前たちがどんな悪あがきをしようと、ドライブウォーリアーの宿命からは逃れられないぞ!」

 捨て台詞を吐くと、カイロスは転移してメイの前から姿を消した。

「逃がしたわ・・でも何度攻めてきても同じこと。私は負けない・・」

 カイロスを倒し損ねたことへの不満とともに、メイが強気な言葉を呟く。

Overconfidence is a taboo to the fight. Because it might not be in the seat of a high-ranking executive if you do because it steps on the same rut.(戦いに過信は禁物です。同じ轍を踏むのでしたら、上位の幹部の座にはいないでしょうから。)

 そんな彼女にハデスが注意を促す。

(過信はしていない。決意よ。私の戦いは、負けることが許されないのだから・・)

Really?If so, neither carelessness nor self-conceit it earnestly though it is good.(そうですか。それならいいのですが、くれぐれも油断や慢心をなさらないように。)

「私は油断も慢心もしない。私の戦いに全力を出すだけ・・・」

 ハデスの注意を受けても、メイは態度や考えを変えない。揺るぎない決意が、今のメイを突き動かしていた。

「ところで、ヒカルはどうしたの?姿が見えなくなったけど・・」

 メイがハデスに唐突に問いかける。彼女が周囲を見回すが、ヒカルの姿がなくなっていた。

It parted while it was fighting. Because the reaction goes away.(戦っている間に離れていきました。反応が遠ざかっていますので。)

「居場所が分かっているのね・・力がなくなったようだけど・・・」

It is not when only it is not possible to use and it disappears though it becomes impossible to use power. Therefore, the position was able to be gripped easily.(力が使えなくなっているようですが、使えないだけで消えてはいません。ですので容易に位置をつかむことができたのです。)

 ハデスの説明を聞いて、メイはおもむろに笑みを見せた。

「何にしても、ヒカルは私から逃げた・・ううん、私の前に立とうともしなかった・・そんなあなたに、私を止められるわけなんてない・・」

 ヒカルのひどい落ち込みをメイがあざける。正確には拍子抜けしているというのが正しかった。

「もう意地になって倒す気にもならない・・放っておいてもヒカルは戦いに出れない・・出てきても自滅するだけ・・・」

 ヒカルに対する敵意をメイは削がれていた。次の戦いを見据えながら、彼女はバリアジャケットを解除した。

「体力を回復させたら、今度は街にいる外敵を倒しに行くわ・・」

 メイはハデスに告げると、きびすを返して去っていった。

 

 メイとカイロスが戦っている間に、ヒカルは別の場所に移動していた。カイザーを拒絶したことでの自責で、ヒカルは不安にさいなまれていた。

(あたしがカイザーを否定したから、力が使えなくなった・・戦うことを嫌がった・・それが自分の力も嫌いになった・・・)

 絶望感を膨らませていくヒカル。しかしカイザーにどう呼びかけていけばいいのか、彼女は分からなくなっていた。

(あたしはどうしていけばいいの・・・メイにどうしたいの・・・?)

 自問自答していくヒカル。それでもヒカルは割り切ることができない。

(あたしは、もう戦わなくていいの?・・・メイと向き合う必要もないというの・・・?)

 答えの返ってこない問いかけを続けるヒカル。

(・・・もう・・戻っていいってことなのかな?・・・戦わなくてもいいってことかな・・・?)

 必死に割り切ろうとして、決断を急ぐヒカル。彼女は必死に自分を戦いから遠ざけようとしていた。

 

 メイに撃退されて、ギルティア本部に戻ってきたカイロス。いら立っている彼の前に、ダイアナとブルガノスが現れた。

「功を焦って派手にやられたな、カイロス・・」

「この機に乗じてオレを見下して・・・だが屈辱ばかりではなかったぞ・・・!」

 ブルガノスの言葉に憤るも、カイロスはすぐに不敵な笑みを取り戻す。

「ウラヌスが魔力を使えなくなっていたぞ・・」

「ウラヌスが?」

 カイロスが告げた言葉に、ダイアナが眉をひそめる。

「どういうことなのかは知らないが、ヤツはバリアジャケットを身につけることができなくなっていた。あの不様、傑作どころか拍子抜けさせられたが・・・」

「なるほど・・にもかかわらずあなたが敗北したのは、プルートの介入があったからなのね・・・」

 カイロスの説明を聞いて、ダイアナが納得して頷く。

「今、1番厄介なのはプルートのみ。カイザー奪還は赤子の手をひねるほどに簡単になったわけね。」

「だがこれでは本当に満足できないな。プルートと同士討ちさせて、消耗したところを一網打尽にしようとしていたが・・」

「その狙いが全く使えなくなったわけではないわ。まずはカイザーを取り戻す。ウラヌスが魔力が使えなくなっているのが、その絶好の機会・・」

「その役目をお前が買って出ると言うのか、ダイアナ・・?」

「任せておきなさい。このときのために、私はカードを温存していたのよ。今こそその切り札を使うとき・・」

 カイロスに対して笑みを見せるダイアナ。カイロスの策略に乗じて、ダイアナもヒカル打倒のための作戦を遂行しようとしていた。

 

 カイザーとの交信が不能となり、魔法も使えなくなったヒカル。身体能力が常人離れしていることを除けば、彼女は普通の人間と変わりなかった。

 日常へと完全に気持ちを移したヒカルは、普段と変わらない日常を過ごそうとしていた。

 いつもと同じ教室、いつもと同じ明るい会話、いつもと同じ友達との交流。平穏な日常を欲していたヒカルは、安心感を抱くはずだった。

 だがそこには、メイの姿はなかった。ヒカルの心には、まだ虚しさの穴が開いたままだった。

(メイ、今頃どうしてるのかな・・・ギルティアだけじゃなく、この世界の人とも戦ってるのかな・・・?)

 メイへの心配を心に宿すヒカル。しかし力を失った自分には、力を拒んだ自分にはどうすることもできないと思い、ヒカルは思いを振り切ろうとした。

 そして放課後、ヒカルは何とか気持ちを落ち着かせようとしながら、下校の準備をしていた。その途中、彼女は同じく下校しようとしたネネに声をかけた。

「ネネちゃん、一緒に帰ろう。まだムチャできない体なんだから・・」

「ありがとう、ヒカル・・でも病院に行かないといけないから・・」

「だったらあたしもついていくよ・・ネネにケガさせたの、あたしだから・・・」

「ヒカルのせいじゃないって。ヒカルがいなかったら、腕を痛める程度じゃ済まなかったって・・」

 自分を責めるヒカルにネネが弁解を入れる。そこへマモルが2人の前に駆け込んできた。

「マモルちゃん・・?」

「ヒカルちゃん・・ちょっと、相談したいことがあるんだけど・・・!」

 当惑を見せるヒカルに、マモルが相談に乗ってほしいと言ってきた。

「ヒカル、マモルの相談に乗ってあげなよ。病院は私1人で大丈夫だから・・」

 するとネネがヒカルに言いかけてきた。

「でも、それだとネネちゃんが・・・」

「病院に行くぐらい1人でできるって。ヒカルはマモルのそばにいてあげてって・・」

 迷うヒカルにネネが励ます。彼女の言葉に後押しされて、ヒカルは受け入れて頷いた。

「分かった、ネネちゃん・・お大事にね・・」

「うん・・それじゃヒカル、マモル、また明日。」

 ヒカル、マモルと別れて教室を出るネネ。

「それじゃマモルちゃん、行こう・・相談は帰りながらでもいいよね・・?」

 ヒカルが声をかけると、マモルは笑顔で頷いた。

 

 帰り道の途中、ヒカルは改めてマモルからの相談を受けることになった。

「相談って何、マモルちゃん?・・あたしで答えられることだったらいいんだけど・・・」

 ヒカルが声をかけると、マモルが足を止めた。

「メイちゃんのこと、ホントのことを知ってるんじゃないの、ヒカルちゃん・・?」

 マモルが投げかけた言葉に、ヒカルが困惑を浮かべる。

「ヒカルちゃんはケンカしたっていうけど、それ以上の何かがあるんじゃないの?ケンカぐらいで、いつまでも落ち込むヒカルちゃんじゃないもん・・」

「それは買いかぶりすぎだよ・・あたし、マモルちゃんが思ってるほど能天気じゃないよ・・マモルちゃんみたいに、いつも元気で明るくなれればいいって思うくらい・・」

 心配してくるマモルに、ヒカルが物悲しい笑みを見せる。彼女はメイのことを思い出して、辛さに押しつぶされないように必死になっていた。

「メイがやっちゃいけないことをしようと考えてる・・でも友達のメイを止めるなんて、あたしにはできない・・・」

「それで、メイちゃんから逃げようとしてるの?・・メイちゃんを避けようとしてるの・・・?」

 悲痛さを見せるヒカルに対し、マモルが突然冷淡な表情を浮かべてきた。彼女の変貌が理解できず、ヒカルが当惑する。

「すっかり臆病になっちゃったんだね・・でも、こういうときだからこそ、あたしに命令してきてくれたんだよね・・・」

「何を言っているの、マモルちゃん・・・!?

 マモルが口にする言葉の意味が理解できず、ヒカルが困惑を膨らませていく。そんな彼女に向けて、マモルが右手をかざしてきた。

「もうおしまいだね、ヒカルちゃん・・・」

 その右手に淡い光が宿る。この出来事を目の当たりにして、ヒカルの驚愕が一気に膨らむ。

「マモルちゃん・・これって、まさか・・・!?

「ヒカルちゃん・・カイザーを返してもらうよ・・・」

 声を荒げるヒカルに向けて妖しく微笑むマモル。マモルもヒカルを狙っていた、ギルティアの一員だった。

 

 

次回予告

 

魔法が使えなくなったヒカルを狙う新たな刺客。

それは、彼女の親友、マモルだった。

無邪気な笑顔の裏に隠されていた狂気の刃。

さらなる絶望に襲われ、ヒカルは絶体絶命に陥る。

 

次回・「裏切りの魔手」

 

日常を奪われた少女に、未来はあるのか・・・?

 

 

作品集

 

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