Drive Warrior Episode09「メイ」

 

 

「おはよう、メイ♪」

「おはよう、ヒカル。仕事の疲れはそんなにないみたいね。」

 登校で朝の挨拶を交わすヒカルとメイ。表向きにはヒカルは疲れを見せていなかった。

「店の人たちも元気になっているみたいだけど、このまま私たちにも働いてほしいって・・」

「エヘヘ・・あたしたち、すっかり頼られちゃってるってことだね・・」

「でも私、いつも暇というわけじゃないから、うまく調整してもらえるといいんだけど・・」

「だったら相談してみたら?オーナー、いい人だからきっと聞き入れてくれるって・・」

 レストランでの仕事について、メイとヒカルが会話を弾ませていく。

「後は、マモルがしっかりしてくれれば、レストランは本当ににぎやかになっていいのに・・」

「マモルちゃんだって、マモルちゃんなりに頑張ってるんだから・・」

「でも何度も皿を割ったり、注文を聞き間違えたりしてたら・・普通だったら確実にクビよ・・」

「それは、そうだけど・・・」

 苦言を呈するメイに、ヒカルは苦笑いを見せるばかりになっていた。

「とにかく、私は私でしっかりと予定を立てないと・・」

「メイはしっかり者でいいなぁ・・あたしもメイくらいしっかりできればなぁ・・」

「要は気持ちのあり方よ。しっかりしようとすれば、すぐにきちんとなるものよ・・」

 肩を落とすヒカルに、メイが注意を促していく。

「さて、急がないと遅刻するわよ。マモルたちのこと、言えなくなるわ・・」

「そうだった、急がないとね・・!」

 メイとヒカルが駆け足で学校に向かう。その途中、メイは心の中で呟きをもらしていた。

(こんな会話のできる時間がいつまでも続いてほしい・・でも、そんな願いさえも叶わない世界になっていることを、私は知ってしまった・・・)

 込み上げてくる怒りを必死に抑えるメイ。

(1度知ったらもう戻れない・・私は、今のこの世界を許すことができなくなった・・・)

「メイ、どうしたの?」

 ヒカルに声をかけられて、メイが我に帰る。

「ヒカル・・ううん、何でもない・・」

「そう?・・それならいいんだけど・・レストランの仕事で疲れてるのかなって・・」

「ヒカルじゃないんだから、ムリしていろいろやったりしないわ・・これでも体調管理もしっかりしているのだから・・」

「ホントに、しっかり者だね、メイは・・・」

 頷いてみせるメイに、ヒカルは苦笑いを浮かべる。2人は改めて学校へ急ぐのだった。

 

 ウラヌスと並ぶドライブ・ウォーリアーの1人、プルート。専用のデバイス、ハデスの適合者をダイアナは捜索していた。

「ウラヌスのときと同じく、ハデスの適合者を見つけるのは容易ではないわね・・」

 難航している調査と捜索に、ダイアナは苦悩を深めていった。

「ハデス・・誰がプルートとなってこの力を手にするのか・・・」

 ダイアナがモニターを切り替えて、ハデスを映し出す。

「カイザーとハデスは性能としては大まか同じ。細かく見れば、ハデスのほうが放出系魔法が上手になっている・・」

 ダイアナは再びモニターをレーダー画面へと戻す。

「プルートがギルティアの正当後継者となれば、ウラヌスを反逆者として葬ることの躊躇がいらなくなる。カイザーさえ回収できればいいのだから・・・」

 再び捜索作業を行っていくダイアナ。彼女の操作するコンピューターが、ハデスの適合者を弾き出した。

「彼女か・・まさか彼女とは・・・」

 その適合者の姿を見て、ダイアナが思わず笑みをこぼした。

「運命がどのように転がっているのか、私にも予測がつかないわね・・・どちらにしても、ここから先はブルガノスの役目・・・」

 席を立ったダイアナが、待機しているブルガノスに声をかけるのだった。

 

 放課後、メイはヒカルたちより先にレストランに立ち寄っていた。夕方に予定を入れていたからである。

 メイはオーナーにシフトの相談を持ちかけていた。

「ゴメンね、メイちゃん。何だかムリに仕事をさせてるようで・・」

「謝らないといけないのは私です・・こちらの都合ばかり優先させる形になってしまって・・」

 笑顔で声をかけるオーナーに、メイはただただ謝るだけになっていた。

「気にしなくていいよ。呼んだのはこっちなんだから・・」

 オーナーは笑顔を絶やさずに弁解を入れる。

「本当にすみません・・あまり仕事ができなくて・・」

「いやぁ、こっちも穴埋めみたいに扱っちゃってるから・・本当に時間の空いているときだけで構わないからさ・・」

「ありがとうございます・・では私はこれで・・・」

 オーナーに挨拶をすると、メイはこの日はレストランを後にするのだった。

「ヒカルたちも来ると思いますので、よろしくお願いします・・」

 

 レストランでの相談を終えて、メイは神凪家に帰宅した。すると彼女を1人の黒ずくめの男が迎えにきた。

「メイ様、着替えが終わりましたら、大広間のほうへ・・」

「・・分かったわ。すぐに行くので、少しお待ちを・・」

 男の言葉を聞いて、メイは自分の部屋に戻る。着替えを済ませてから、彼女は大広間に入室する。

「お待たせいたしました・・」

 挨拶をした直後、メイは一気に緊張を膨らませた。彼女の眼前にはブルガノスの姿があった。

「あなたは、ブルガノス様・・いらしていたのですか・・・!?

「突然の訪問で驚いただろう。そんなに待っていなかったので問題はなかったが・・」

「も、申し訳ありません!あなた様がお越しになられるのでしたら、もっとしっかりしたおもてなしをさせて・・!」

「気にするな。それよりも、私がここに来た目的は、神凪メイ、お前にある・・」

「私、ですか・・・!?

 ブルガノスが告げてきた言葉に、メイが当惑を見せる。

「ドライブウォーリアーの適合者として、お前が候補に挙がった・・」

「わ、私が、ドライブウォーリアーに・・・!?

 ブルガノスが口にした言葉に、メイは動揺を隠せなくなる。

「まさか私がドライブウォーリアーに・・マスター・クロノスの後継者に・・・!?

「不服か?現時点で、お前がプルートとなる適性が1番高いと出ているのに・・」

「いえ、そんな・・ただ、自分が選ばれていることが、この瞬間でも夢ではないかと思うほどに、驚いているのです・・・」

 不敵な笑みを崩さないブルガノスに、メイが困惑を募らせていく。

「驚くのも無理のないことかもしれない。ギルティアの次期マスターとなるドライブウォーリアーに選ばれることさえ稀の、極めて名誉のあることだ・・」

「ブルガノス様・・・」

「誇るがいい、神凪メイ。お前は選ばれた。我々の上に立つ覇者として・・」

 戸惑いを見せるメイに、ブルガノスが手を差し伸べてきた。

「ありがとうございます・・全てはギルティアのために・・・」

 メイはその手を取って、固い握手を交わした。

(まさか・・まさかこのような形で、私の願いが叶うとは・・・!)

 メイが心の中で歓喜を感じていた。

(これで私は力を手に入れられる・・しかもドライブウォーリアー・・これ以上の力なんてない・・・!)

「ではすぐに、デバイスの移植手術を。ギルティアの支配は、常に強固でなければならないのですから・・」

 込み上げてくる感情を抑えながら、メイがブルガノスに呼びかける。

「そう焦るな。まだハデスが完全に開封されていない。それにウラヌスの捕獲は成功していない。ウラヌスの妨害を受けないためにも、慎重をきたさなければならない・・やむを得ない事態であるが・・」

「そうですか・・私はいつでも待っています。本当に感謝しております、ブルガノス様・・」

 言葉を投げかけるブルガノスに、一礼を送るメイ。

「ではまた来る。そのときこそ、お前がプルートとなる瞬間だ・・」

「はい。またのお越しをお待ちしております・・」

 メイが頭を下げる中、ブルガノスが大広間から出ていった。

(私がドライブウォーリアー・・夢でも見ているのかしら・・・!?

 未だに喜びを感じていくメイ。だが彼女はふと、この喜びに疑念を抱いた。

(まだ完全にこの喜びに浸っていいとはいえない・・ギルティアが罠を張っていないとも限らない・・)

 思考を巡らせるメイが、消していた笑みを再び浮かべた。

(ハデスを手にするまで、決して油断しないほうがよさそうね・・・)

 警戒心を弱めずにギルティアと対峙していくことを、メイは胸中で誓うのだった。

 

 私の父は世界でも有数の資産家である。

 でも父は本当の父親ではなく養父で、本当の両親は私が幼い頃に事故で亡くなった。子供のいなかった父が、私を養子として引き取ったのである。

 私は神凪家で第2の人生を歩むこととなった。父は厳しかったが優しくもあり、私をあたたかく見守ってくれた。

 でも父はギルティアという組織の命令で行動していた。神凪家が高い資産を手にしていられるのは、ギルティアの後ろ盾があったからだった。

 私たちだけじゃない。世界は常に力のあるものが全てを動かしてきた。

 私は確かに神凪家の人間。でも本当に力があるとはいえない。

 私は今まで世界について調べてきた。父からギルティアについて聞かされてきた。

 でも世界は私が憧れていたような理想郷ではなかった。

 力のあるものは決して弱いものの味方ではなく、あくまで自分たちを守ることしか考えていなかった。弱者がどんなに虐げられても、自分たちを優先して物事を決めている。

 こんな馬鹿げたことが正しいことであっていいはずがない。

 力がほしい。心の底から力がほしいと願ったことは、今までなかったかもしれない。

 私は力を求めた。力を手に入れるためなら、どんなことにも手を染める。

 たとえ世界を、ギルティアをも敵に回すことになろうとも。

 

 ウォーリアー・プルートの候補となったことに、歓喜と警戒を抱くメイ。この感情を心の中に押し隠して、メイは日常に意識を戻した。

「メイ、今日は機嫌よさそうだね♪」

 教室にてメイはヒカルに声をかけられた。

「うん、まぁね・・嬉しいことがあって・・・」

 メイは微笑んでヒカルに答える。メイはギルティアについて打ち明けたくはないと思っていた。ヒカルがギルティアとの戦いに巻き込まれていることを知らないまま。

「メイ、今度の日曜日に一緒にお出かけしよう。お買物とかしてみたいし・・」

「ゴメン、ヒカル・・今度の日曜日は用事があるの・・どうしても外せなくて・・・」

 ヒカルからの誘いを、メイは申し訳なさそうに断る。

「本当にゴメン・・今度誘われたら行くから・・」

「ううん、いいよ、気にしないで・・」

 謝るメイにヒカルが笑顔を見せて答える。

「その代わり、今日は一緒に帰ってあげるから。」

「エヘヘ。ありがとうね、メイ♪」

 メイが投げかけた言葉を聞いて、ヒカルが喜びを見せた。

 

 ヒカルは私の幼馴染みで、1番の親友。

 遊び相手というだけでなく、世界の不条理で苦しんでいる私の心の支えとなっている。

 私が抱えていることの全てを、ヒカルに打ち明けているわけではない。それでもヒカルは私に笑顔をくれる。元気をくれて、勇気づけてくれる。

 こんなに純粋で明るい人が世界に多くなったら、私がこんなに辛くなったりしなくて済んだのに。

 友情から生まれる喜びと一緒に、こんな後悔も感じることになった。

 また、ヒカルみたいな子が世界の不条理に苦しめられることになってはならない。こんな気持ちも感じるようになった。

 ヒカルやみんなを守りたい。世界の愚かに、みんなを苦しめさせはしない。

 そのためにも、私は力を求めていた。力があれば守ることができる。

 そして私は、ドライブウォーリアー、プルートになるチャンスを得た。ずっと求め続けてきた力が目の前に来た。

 こういうときこそ油断してはならない。それが私が勉強と経験を経て得た判断。

 私の納得する世界をもたらすため、みんなの笑顔を絶やさないため、私は力を手に入れ、世界を塗り替える。

 

 授業が終わって放課後が訪れた。

 一緒に下校する約束していたヒカルとメイだが、マモルとネネも一緒に来ていた。

「エヘヘヘ、一緒に帰れてよかったよ〜♪」

「ここ最近タイミングが合わなくて、悪いと思っていたんだよ・・」

 上機嫌のマモルと、微笑みかけるネネ。

「やっぱり、みんなで一緒なのはいいよね♪メイもそう思うよね?」

「えぇ。ヒカルやマモルと一緒にいると、自然と元気が湧いてくるわ・・」

 ヒカルが声をかけると、メイも笑顔を見せて答える。

「2人の天然なところを見ていると、どんなときでも緊張が解けてしまうわ・・」

「何だかからかわれているような・・・」

 メイにからかわれて、ヒカルが肩を落とす。

「ホントにヒカルちゃんは天然だよね♪」

「アンタもその天然に含まれてるのよ、マモル・・」

 笑顔で声をかけるマモルに、ネネも呆れていた。

「みんなといると、本当に元気をもらえるような感じがしている・・明日からまた頑張れるような気がする・・・」

「メイ、それは大げさだよ。あたし、そこまですごくないって・・」

 微笑みかけるメイに、ヒカルが照れ笑いを見せる。

「むしろ、あたしがメイからいろいろ与えられてる・・助けられてるのはあたしのほうだよ・・・」

「そう言ってくれるなら、お互い様ってことで・・」

 感謝の言葉をかけるヒカルに、メイが頷いてみせる。

「お二人さん、私のことも忘れちゃ困るよ。」

「あたしも忘れちゃダメだよ♪」

 ネネとマモルも2人に声をかけてくる。優しさを見せる親友に、ヒカルとメイも笑顔を見せた。

「ご心配なく。あなたたちのことも忘れてないわよ。」

「マモルちゃんもネネちゃんも、あたしたちの友達だよ・・」

 手を差し伸べてくるメイとヒカル。2人の手にマモルとネネが手を重ねる。

「これからもよろしくね、メイ、マモルちゃん、ネネちゃん♪」

 心からの笑顔を見せて、ヒカルは友情を確かめていく。同じく友情を実感する中、メイは改めて決意を固めるのだった。

 

 次の日曜日、神凪家に改めてブルガノスがやってきた。現れた彼を、出迎えたメイが頭を下げる。

「お待ちしておりました、ブルガノス様・・」

「準備はいいか、メイ?行くぞ・・」

 ブルガノスに呼ばれて、メイが頭を上げる。彼女は彼のそばに歩み寄った。

「決して私から離れるな。」

「はい・・」

 ブルガノスに言われて寄り添うメイ。2人は転移によって神凪家から姿を消した。

 

 メイが連れて来られたのは、ギルティア本拠地にある手術室だった。

「ここが・・ギルティアの・・・」

「そうだ。お前がプルートとして選ばれれば、ギルティアに身を置くことになる。マスター・クロノスの後継者として、絶対的な力を手にすることができる・・」

 当惑を見せるメイに、ブルガノスが語りかけていく。その2人の前にダイアナが現れた。

「来たわね、神凪メイ・・早速だけど、始めさせてもらうわ・・」

「ダイアナ様、よろしくお願いします・・」

 声をかけてきたダイアナに、メイが頭を下げる。彼女はダイアナに促されて、手術台に横たわる。

「ではこれより、ハデスを移植し、改造手術を施す!」

 ダイアナが言い放つと、彼女の手元に1機のデバイスが出現した。プルートに与えられるデバイス、ハデスである。

(これがハデス・・私が求めてきた力・・・!)

 淡い輝きを宿すハデスを目にして、メイが胸中で歓喜を感じていた。

 そのとき、メイの体を頑丈なロープが縛り付けた。彼女はちょっとやそっとでは破れないロープであると感じ取っていた。

「すまないが徹底して拘束させてもらったわ。ウラヌスのこともあったので・・」

「分かっています。私は逃げも隠れもしません。全てはギルティアと、マスター・クロノスのために・・」

 告げてきたダイアナにメイが答える。彼女はハデスを施されることを受け入れる姿勢を見せた。

「では行くわよ。あなたにハデスを授ける・・」

 ダイアナがメイにハデスを押しつける。ハデスがメイの体に入り込んでいく。

「うっ!」

 体の中に大きな衝撃が押し寄せ、メイが激痛にさいなまれる。だが彼女は体に力を込めて、痛みに耐えていく。

(これが、力を手に入れるときに通じる痛み・・予想以上だけど、このぐらい耐えられないで、強い力を手に入れることはできない・・・!)

 さらに痛みに耐えて、メイが心の中で自分に言い聞かせる。ハデスが彼女の体に完全に入り込んでいった。

(これが、ハデス・・ウォーリアー・プルートの力・・・)

 ハデスの存在を実感していくメイ。彼女は自分の意識、人格が失われないように必死になっていた。

「ウラヌスの二の舞を踏むわけにはいかない。ここで人間としての記憶を消す。」

 ダイアナがメイの記憶を消して、彼女を完全な支配下に置こうとした。

(思った通り、私の記憶を消そうとしてきた・・ここはハデスとのリンクを確立させる以外に、私が存在できる術はない・・・!)

 だがこれはメイの想定していた通りのことだった。

(ハデス、私の声が聞こえる?私に力を貸して・・ギルティアに気付かれず、かつ記憶の消去を避けたいの・・)

The film of the barrier is put on the head and the circumference so that surroundings are not noticed. Though the probability that the highest result can be led is slight.(周囲に気づかれないように、頭部とその周辺に障壁の膜を張ります。最高の結果を導ける確率は微弱ですが。)

(ここまで来たらもう賭けるしかないわ・・それが最善手なら実行して・・)

It consented. It does one's best.(了解しました。最善を尽くします。)

 メイの呼びかけにハデスが答える。ダイアナがメイの頭に右手をかざし、魔力を注いで記憶操作を行おうとする。

「これで神凪メイ、ウォーリアー・プルートは、私たちの忠実なる戦士として確立される・・」

「だが決して油断はできないぞ。わずかでも反抗の素振りが見えたら、全力で取り押さえる・・・」

 言葉をもらすダイアナに、ブルガノスが警戒を見せる。エビルたちも臨戦態勢で手術室を取り囲んでいた。

 脳改造の手順を進めて、ダイアナが右手を下げる。彼女はメイが完全なるプルートとなっていると判断した。

「これで不要な記憶も消えて、完全なドライブウォーリアーとなった・・私たちの命令に忠実のはずよ・・」

 ダイアナがメイを見下ろして、真剣な面持ちのまま声をかける。彼女は警戒心を強めながら、メイを縛っているロープをゆっくりと外していく。

(逃亡や反逆の様子は見られない・・成功したのか・・・?)

 ブルガノスもメイに対して警戒を強めていた。ロープが完全にほどかれ、ダイアナがメイをじっと見据える。

「起きなさい、ウォーリアー・プルート。目を開き、体を起こしなさい。」

 ダイアナが声をかけると、メイが閉ざしていた目をゆっくりと開けた。彼女はそのままゆっくりと体を起こし、手術台から立ち上がった。

「うまくいったようね・・忠実に命令を聞いている・・」

「まだ分からんぞ。しばらくは油断を怠るな・・」

 笑みをこぼすダイアナに対し、ブルガノスは警戒を解いていなかった。

「ひとまずその力のほどを見せてもらおうか・・」

「来なさい、プルート。あなたの戦闘データを収集させてもらうわ・・」

 ブルガノスに促される形で、ダイアナがメイに呼びかける。

「移動するわ。早くしなさい、プルート。」

「・・わざわざ移動しなくても、力を見せることは可能ですよ・・・」

 呼びかけたところで言葉を返され、ダイアナが驚愕を覚える。

「お前も反逆の意思を持っていたのか!?

 すぐに臨戦態勢に入るブルガノス。だが直後に突如出現した光の輪に体を拘束される。

「何っ!?

 一瞬にして体の自由を奪われ、ブルガノスが体勢を崩して倒れる。

「あなたもこんなマネをするのか、プルート!?

 憤慨したダイアナが光の鞭を放つ。メイは右手に淡い光を宿してから、ダイアナが伸ばしてきた光の鞭をつかんだ。

「何っ!?うわっ!」

 鞭を引っ張られて引き寄せられるダイアナ。彼女はとっさに光の鞭を消して、体勢を整える。

「アームズ、出てきなさい!」

 ダイアナの命令を受けて、アームズが姿を現してきた。

Please take care. It provides with the ability to seal off power.(気を付けてください。力を封じる能力を備えています。)

 ハデスがメイに向けて注意を促す。

AMFね・・接近させる前に叩くわ・・)

 メイはハデスに答えると、右足に力を込めて床を強く踏みつける。床が歪んだことで、アームズが体勢を崩す。

 続けてメイが天井に光の弾を放つ。弾がぶつかったことで天井が崩れ、その瓦礫にアームズが押しつぶされていく。

「ハデスを手に入れて間もないのに、ここまで戦い方を熟知しているとは・・・!」

「ハデスにはウラヌス以上のデータをインプットしてある・・アームズの対処法を知っていてもおかしくはないが、こうもすぐに導き出してくるとは・・・!」

 メイの的確な戦い方に、ブルガノスもダイアナも驚きを隠せなくなっていた。

「私への抵抗をやめなさい。そうすれば命を落とさずに済むわ・・」

「プルート・・何を勝手なことを・・・!」

 メイが低く告げてきた忠告に、ダイアナが声を荒げる。

「私はドライブウォーリアーとして、世界を制する力を手に入れた。それは純粋な力ではギルティア、あなたたち上位幹部を凌いでいる・・」

「だが、このままお前の自由にさせるわけにはいかない・・それは、マスター・クロノスの意思に反する・・・!」

 強気に言いかけるメイに、ダイアナが反論してくる。

「私は私・・私の戦いを邪魔するなら、誰だろうと何だろうと容赦しない・・・!」

 メイが両手に魔力を集めて、ダイアナを見据える。

「たとえその相手が、マスター・クロノスであっても・・・!」

「そんなふざけたことを、我々がさせると思うか!」

 目つき鋭くするメイに、ブルガノスが言い放つ。彼は魔力を放出して、拘束していた光の輪を強引に引きちぎった。

「ダイアナ、これ以上プルートの好きにさせるな!」

 ブルガノスがダイアナに呼びかけ、メイに向かって飛びかかる。

「たとえここを破壊することになっても、ヤツのいいようにさせるくらいなら!」

 ブルガノスが魔力を集めた右の拳を、メイに向けて繰り出す。手術室の中央で大きな爆発が巻き起こる。

(たとえ息の根を止めてしまったとしても、ハデスは回収できる・・ブルガノスのこの判断は、やむを得ないことかもしれないわね・・)

 巻き起こる煙を見据えて、ダイアナが胸中で呟く。警戒を強めたまま、彼女はメイとブルガノスの姿を確かめようとする。

 だが煙の中から現れたのは、ブルガノスの腕をつかんで持ち上げているメイだった。

「バカな・・・!?

 平然と立っているメイに目を疑うダイアナ。ブルガノスはメイに返り討ちにされ、意識を失っていた。

「これで分かったでしょう?ハデスの力を得た私には、とても歯が立たないことを・・・」

「ブルガノスがやられた・・私までやられたら、ギルティアの機能が麻痺状態になる・・・!」

 目つきを鋭くしたまま言いかけるメイを前にして、ダイアナは危機感を膨らませていく。

「ずい分と派手にやったものだな・・」

 そこへ声をかけてきたのはカイロスだった。カイロスは破損している手術室を見回して、不敵な笑みを見せていた。

「カイロス、ウォーリアー・プルートを止めて・・このままではギルティアが・・!」

「プルート、お前はウラヌスを倒す気はあるのか?」

 呼びかけるダイアナを無視して、カイロスがメイに呼びかける。

「ドライブウォーリアーはマスター・クロノスの後継者候補。真の後継者に選ばれるのはたった1人。後継者を決定することが、マスター・クロノスの意思・・」

「関係ない。私は力を求めているだけ。今の上層部にも、ギルティアにも、世界のいいようにはさせない・・」

 淡々と語っていくカイロスの言葉を一蹴するメイ。だがカイロスは不敵な笑みを消さない。

「ならばウラヌスも、お前の障害になってくるのではないのか?」

 カイロスが投げかけた言葉に、メイが眉をひそめる。

「お前は正義などというもので力を求めていたのではないのだろう?正義を振りかざすだけのヤツなど、鬱陶しいだけだろう?」

「正義などというもので私は物事を決めていない。あえて善悪を用いるなら、私の敵の全てが悪よ・・」

 カイロスに言い返すメイが目つきを鋭くしていく。

「私の進む道を塞いでくるものには、私は容赦をしない・・たとえ血のつながった家族でも、ウラヌスであっても・・・!」

 メイはカイロスに告げるとブルガノスを放し、ハデスが発動した転移魔法で姿を消した。

「まさか、ウラヌスだけでなくプルートまで・・これではギルティアは・・・」

 度重なる失態に絶望するダイアナ。だがカイロスは全く追い込まれた様子を見せていなかった。

「これでウラヌスとプルートがぶつかり合えば、オレたちにとって好都合。わざわざ手を下す手間も省けるというものだ・・」

「そううまくいくとは限らないわ・・プルートは、神凪メイは私たちギルティアのために行動していない。うまくウラヌスと戦って倒しても、マスター・クロノスの意向に従うとは・・」

「たとえプルートがさらに刃向おうとしても、ウラヌスとぶつかり合えばそれでいい。重要なのは、カイザーとハデスを取り戻すことなのだから・・・」

 ダイアナの不安を聞いても、カイロスは不敵な笑みを消さない。

「ウラヌスとプルートを戦わせろ。勝ち残った者を正当後継者とする。それがマスター・クロノスの意思だ・・」

「マスター・クロノスが、この事態をも望まれておられる・・・!」

 カイロスの言葉にダイアナが息をのむ。メイの反逆も、クロノスが想定する事態にすぎなかった。

 

 

次回予告

 

ウラヌスとプルート。

ギルティア継承の宿命を背負わされた2人の少女。

その魔手に完全に立ちはだかるメイ。

カイロスの卑劣な攻撃が、彼女を襲う。

 

次回・「運命のはじまり」

 

少女の心に迫る、狡猾なる牙・・・

 

 

作品集

 

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