Drive Warrior Episode02「ギルティア」

 

 

 悲劇の1日が終わり、夜が明けた。いつもは目覚まし時計のベルに起こされるヒカルが、この朝は時計が鳴る前に目を覚ました。

「あれ?・・・まだこんな時間・・・?」

 いつも起きる時間よりも早く起きたことに戸惑うヒカル。次の瞬間、彼女は昨日のことを思い返して、苦悩を覚える。

(いきなりギルティアというおかしな人たちに襲われて、おかしなことをされて・・その後、不思議な服を着て、戦って・・・)

 昨日自分の身に起きたことを順に追っていくヒカル。彼女はおもむろに自分の胸に手を当てた。

「夢だよね・・あんなこと、夢かTVでなきゃありえないよね・・・」

 昨日の出来事が夢であると思いこもうとするヒカル。そのとき、目覚まし時計が鳴りだし、彼女は時計のベルを止めた。

「さ、いつも通りの学校生活へ!」

 自分の頬を叩いて、気持ちを引き締めるヒカル。彼女は制服に着替えて、学校に行く準備をした。

 

 朝ご飯を済ませて家を出たヒカル。そこへ同じく家を出たメイと会った。

「おはよう、メイ♪」

「おはよう、ヒカル・・今日は早起きね・・いつもは私が先に家を出て、あなたを迎えに行くのに・・・」

 明るく挨拶してきたヒカルに、メイが眉をひそめる。普段はヒカルは寝坊することが多く、いつもメイがヒカルを迎えに行っているのである。

「よく分かんないけど、今日はきちんと起きることができたんだよ♪」

「いつも寝坊ばかりしてるヒカルが早起きねぇ・・雪が降るかも・・」

「ちょっとー!それひどいよー!」

 メイにからかわれて、ヒカルがふくれっ面を浮かべる。それを見てメイが笑みをこぼす。

「さて、そろそろ学校に行かないとね。いくら早起きしても、授業に遅れたら元も子もないからね・・」

「そうだね・・急ごう、メイ♪」

 メイとヒカルは学校に向かって走り出した。このようにいつもと変わらない日常が過ぎていくと、ヒカルは思っていた。

 

 カイザーの力を発揮したヒカルに返り討ちにされたダイアナ。だが折れた左腕は、備わっている高い治癒力で徐々に回復しつつあった。

「自ら捕獲に乗り出しておきながら、この失態か・・」

 負傷したダイアナの前に、ブルガノスが声をかけてきた。

「まさかこうも早くカイザーの魔力を使いこなしてくるとは思わなかったのよ・・」

「言い訳はするな。大失態であることと忌々しきことであることに変わりはない・・」

 ダイアナが返した言葉を切り捨てるブルガノス。

「カイザーは我々ギルティアにとって欠かせないデバイスのひとつ。早く取り返さなければ・・」

「私が行く・・このままやられてカイザーを取り返せなければ、私の存在価値がなくなる・・・」

「お前はまだ左腕が治りきってはいない・・オレが行く。」

 負傷しているダイアナを制して、ブルガノスがヒカルの捕獲に乗り出した。

「そこまでいうなら任せるわ・・でも絶対に油断しないこと・・カイザーの、ドライブ・ウォーリアーとしての力は、私たちの想像以上のものだったわ・・」

「そうか・・だがそれで怖気づくわけにはいかない。ウォーリアー・ウラヌス、ヤツを捕まえなければ、ギルティア最大の汚点となる・・」

 忠告を送るダイアナ。だがブルガノスは臆することなく、ヒカルの拘束とカイザーの奪還のために動きだすのだった。

 

 名東(めいとう)高等学校。ヒカルとメイが通う高校である。

 小学校からの親友であるヒカルとメイ。はじめは内気だったメイだが、誰にでも気兼ねなく話しかけてくる元気なヒカルに、いつしか打ち解けていった。

 それから2人は、互いになくてはならない無二の親友の間柄となっていた。

「あれあれ〜?今日はヒカルちゃん、早く登校してきたね〜♪」

 教室に入ったヒカルとメイに、茶色がかったショートヘアの女子が駆け寄ってきた。

 (そら)()マモル。この名東高校で知り合ったヒカル、メイのクラスメイトである。明るく天然で、同じく明るい性格のヒカルと気が合う半面、真面目なメイは呆れさせられている。

「そうなのよ、マモル・・いつもは慌てて学校に来る羽目になっているのに・・・」

 再び肩を落とすメイに、ヒカルがまたまた気まずくなる。

「ヒカルじゃない・・いつも遅くなってばかりのヒカルが・・・」

 そこへ別の声がかかってきた。長い黒髪をひとつに束ねた女子がやってきた。

 海野(うんの)ネネ。表向きは突っ張った振る舞いを見せているが、臆病な一面もある。

「こういう不思議もあるものね。今日は雪かも・・」

「もう、ネネまで・・・」

 ネネにもからかわれて、ヒカルがまた気落ちする。

「この調子で元気に登校してくれるといいんだけどね・・」

「みんないじわるだよー!あたしだって頑張って起きてるんだよー!」

「そうだよー!ヒカルちゃんだって頑張ってるんだよー!」

 肩をすくめるネネに、ヒカルだけでなくマモルも抗議の声を上げてきた。

「頑張ってても、遅刻したら元も子もないのよ、2人とも。遅刻になるほどのお寝坊さんじゃないからまだいいけど・・」

 ヒカルとマモルに呆れ果てていたメイ。

 いつもと変わらない日常。これからも普通の日常を送ることになる。ヒカルは心の中でそう信じていた。

 

 それからこの日の授業は淡々と続いていった。ヒカルの授業に対する集中力も相変わらずである。

(やっぱり、あの出来事はただの夢だったんだよね・・あんなこと、現実にあるなんて・・・)

 心の中で安心して、思わず笑みをこぼすヒカル。

「コラコラ、天宮。何をそんなにニヤニヤしてるんだ?」

 そこで先生に注意され、我に返ったヒカルが頬を赤らめていた。

 このようないつもと変わらない時間が過ぎていき、昼休みを迎えた。

「やったー♪お昼だ、お昼ー♪」

 大喜びのマモルが、ヒカルたちから飲み物の注文を聞く。ヒカルたちが屋上で待っていると。マモルがパックのジュースを買って戻ってきた。

「お待たせー♪」

「お、待ってました!」

 ご機嫌になるマモルとネネ。マモルが買ってきたジュースを投げて渡してきた。

「ちょっとマモル、ジュースは投げないでよ・・」

 メイが注意をするが、マモルは聞かずにヒカルにもジュースを投げて渡してきた。だがヒカルが手でキャッチした瞬間、パックがつぶれてジュースが噴き出した。

「うわっ!」

 運よく制服にはあまりかからなかったものの、ジュースは完全に床にこぼれてしまっていた。

「ゴ、ゴメン、ヒカルちゃん!そんなつもりじゃ・・!」

「だからやめなさいって言ったじゃない!」

 ヒカルに謝るマモルに、メイが注意する。

「いいよ、マモルちゃん、メイちゃん・・あたしは大丈夫だから・・」

 その2人にヒカルが笑顔で弁解する。だが内心、ヒカルは自分自身に対して困惑を感じていた。

「ちょっと、手を洗ってくるね・・」

 ヒカルが慌ただしく屋上から校舎の中に駆け込んでいった。自分のせいだと思い、マモルは落ち込んでしまっていた。

 

 キャッチしたジュースのパックが破裂したことは、マモルのせいではなかった。少なくともヒカルはそう思っていた。

 高まっていたヒカルの力。彼女が無意識に力を入れすぎたためにパックが破裂したのである。

 人目のつかない場所に来たところで、ヒカルは意識を集中した。

(カイザー・・まだあたしの中にいるの、カイザー・・・!?

Hello my master.”

 ヒカルが心の中で念じると、彼女の体の中にあるカイザーが答えてきた。

(あなたが私の中にいるなんて・・・昨日は夢じゃなかったの・・・!?

It was a reality yesterday though is regrettable. You accomplished awaking as Warrior Ouranos.(残念ですが、昨日のことは現実です。あなたがウォーリアー・ウラヌスとして覚醒を果たしたのです。)

(ウォーリアー・ウラヌス・・だから私、こんなに力が・・・)

You bore me in the inside of the body, and physical strength has improved though it said yesterday. Human best is exceeded even if it adds and subtracts it.(昨日も言いましたが、あなたは私を体内に宿したことで、身体能力が向上しているのです。加減したとしても人間の全力を超えてしまうのです。)

(そんな・・・)

 カイザーが告げた言葉にヒカルが愕然となる。

(ねぇ・・もう、あたしは元に戻れないの!?・・・あなたを外すことはできないの・・・!?

It is time when come off me dies by you. Former man cannot return completely any longer in you.(私が外れるときは、あなたが死ぬときです。もうあなたは、完全には元の人間に戻ることはできません。)

 ヒカルの問いかけにカイザーが非情の答えをする。さらなる絶望にさいなまれて、ヒカルは苦悩する。

Because power is suppressed as much as possible, except when I am also necessary. Still, please note it. Surrounding people might keep you away if it works effectively unskillfully.(私も必要時以外は極力力を抑えますので。それでも注意しておいてください。下手に力を発揮すれば、周りの人々はあなたを遠ざけるかもしれません。)

 カイザーの立て続けの言葉に、ヒカルはまたも息をのんだ。強大な力は恐怖につながる。その恐怖から生まれる孤独。実際に体感したことはなかったが、彼女は不安を感じずにはいられなかった。

It is likely to have to note it by it and another one.(それともうひとつ、注意しなければならないことがあります。)

(えっ・・・?)

 カイザーが投げかけたこの言葉に、ヒカルが当惑を覚えた。

「ヒカルちゃん・・・?」

 そこへ声をかけられて、ヒカルが意識を現実に戻した。振り向いた彼女の前に、マモルがやってきた。なかなか戻ってこないヒカルを心配して追いかけてきたのである。

「マモルちゃん・・・ゴメンね・・すぐに戻らなくて・・・」

「ううん・・謝んなくちゃいけないのはあたし・・あたしがメイちゃんの注意を聞かずに、ジュースを放り投げたから・・・」

 互いに謝るヒカルとマモル。涙を浮かべるマモルに、ヒカルが微笑みかけてきた。

「ううん・・いいよ、マモルちゃん・・あたしが慌てて取ろうとして、握りつぶしちゃっただけだから・・・」

「でも・・・それでもあたし・・・」

「気にしないで、マモルちゃん。あたしはホントに大丈夫だし、メイちゃんもネネちゃんも分かってくれるって・・」

 自分を責めるマモルにヒカルが弁解を入れる。

「2人のところに戻ろう、マモルちゃん♪元気出して♪」

「ヒカルちゃん・・・うんっ♪」

 ヒカルに明るく声をかけられて、マモルも笑顔を取り戻す。2人は機嫌をよくして、メイ、ネネのところに戻っていった。

 

 午後の授業が終わり、放課後を迎えた。どの部活にも所属していないヒカル、メイ、マモル、ネネは下校しようとしていた。

「ヒカルちゃん、これからヒカルちゃんの家に行っていいかな?」

「あ、ゴメン、マモルちゃん・・これからまた出かけなきゃいけないから・・」

 誘ってくるマモルに、ヒカルが苦笑いを浮かべて答える。

「そうなの〜・・残念・・」

「また今度誘って。そのときはちゃんとOK出せるようにするから・・」

 気落ちするマモルに謝ってから、ヒカルは1人駆け出していった。家で私服に着替えてから、彼女は街に繰り出していった。

(ここなら気兼ねなく話ができるね・・・)

 雑踏の中で、ヒカルが心の中で呟いていく。彼女はカイザーと会話できる場所と時間がほしかったのである。

(カイザー、昼休みの話の続きなんだけど・・注意しないといけないことって・・・?)

You are Warrior Ouranos. They are recognizing that it is choice existence.(あなたはウォーリアー・ウラヌス。選ばれし存在であると彼らは認識しています。)

(ギルティア・・あたしをさらって、カイザーを入れてきた人たち・・・)

 カイザーの言葉を聞いて、ヒカルがギルティアについて思い出す。

(あの人たちが出て来なければ、あたしは普通でいられたのに・・・!)

 ヒカルの心の中に、絶望感に加えて怒りと悲しみが込み上げてきた。ギルティアにカイザーを移植されたことで、彼女は平穏な日常を壊されることとなった。

They try to bring you who is bearing me in the body back. It goes out to any means for that. It appears when where, and what do you do, and even I do not guess.(私を体に宿しているあなたを、彼らは連れ戻そうとします。そのためならどのような手段にも出てきます。いつどこから現れ、どのようなことをしてくるのか、私でも見当がつきません。)

(それじゃ、ここにいる人たちや、メイたちにも襲いかかってくるんじゃ・・・!?

A public action will not be taken though it is not because there is no possibility. Organization where they also live in the world in back. When showing careless the face will drive them in, they are well informed.(可能性がないわけではありませんが、公な行動は取らないでしょう。彼らも裏の世界で生きる組織。迂闊に顔を見せることは自分たちを追い込むことになると、彼らは熟知しています。)”

(可能性がないわけではない・・・本当に複雑な気分・・・)

 ギルティアの襲撃に、ヒカルはさらに不安を膨らませていく。

It wants to assume the fight, and to help to you. I think that acquiring is wise only to how for self-defense to fight even if it is not hoped that you fight.(戦うことを想定して、あなたに助力したいと思います。あなたが戦うことを望まなくても、護身用の戦い方だけは身につけておいたほうが賢明であると、私は思います。)

(ホントはイヤなんだよね・・ケンカしたり戦ったりするの・・・)

 カイザーの助言に肩を落とすヒカル。だが彼女はすぐに真剣な面持ちを浮かべる。

(でも・・・メイやみんなが傷ついたり怖い思いをするのは、もっとイヤ・・・)

 ギルティアの脅威と、自分の周りにいる人々が傷つく悲劇。これらに対する怒りを噛みしめて、ヒカルがいつしか両手を強く握りしめていた。

There is energy that approaches.(近づいてくるエネルギーがあります。)

 そのとき、ヒカルの周囲から突然人々の姿が消えた。にぎわいを見せていた街に静寂が訪れた。

「人がいない・・・誰も・・・!?

Surrounding people did not disappear. We were dragged in to a different space by magic.(周りの人々が消えたのではありません。私たちが魔法によって異空間に引きずり込まれたのです。)

 周囲を見回すヒカルにカイザーが呼びかける。彼女は突然発生結界に引きずり込まれた。

 結界は空間の一部を切り取り、現実の空間と隔離する魔法である。結界内では過度の威力の攻撃が行われない限り、現実の空間に影響することはない。

There must be a person and a cause of inventing a different space somewhere of this space at this situation.(この事態に際して、異空間を生み出した人物や原因が、この空間のどこかに必ずいます。)

「魔法の発生源・・・どこに・・・!?

 カイザーの助言を受けて、ヒカルが周囲を見回す。しかし結界の中には敵も人1人の姿も見えない。

Please chase neither position nor movement only by eyes. Please sharpen and search for all senses.(目だけで位置や動きを追わないでください。五感全てを研ぎ澄まして捜索を行ってください。)

「五感を研ぎ澄ます・・・やってみるよ・・・」

 ヒカルが目を閉じて五感を研ぎ澄ます。彼女の感覚が風の動きや熱の変化を細大漏らさず感じ取っていく。

「そこに隠れている・・・!」

 目を開けたヒカルが右方向に振り返る。その先のビルの出入り口から現れたのは、ブルガノスだった。

「よく見つけたな・・気配を消していたつもりだったが、まさかこうも発見されるとは・・・」

「あなたも、ギルティア・・・!?

 呟くブルガノスに、ヒカルが緊張を膨らませる。

「あのときのお前は意識がないまま外に出たからな・・オレはギルティアの1人、ブルガノス。ウォーリアー・ウラヌス、ギルティアに戻ってくるのだ。」

「イヤだよ!これ以上、アンタたちの思い通りにはならない!」

 名乗るブルガノスの言葉を拒否するヒカル。

「お前に拒否権はない。お前はウォーリアー・ウラヌスとして、ギルティアを束ねる存在にならなければならないのだ。」

「ギルティアを束ねる・・・!?

「ドライブ・ウォーリアーは、ギルティアの王の候補者でもある。カイザーを与えられたお前は、その宿命を背負わなければならないのだ。」

「冗談じゃない!そんなことで、あたしの時間をムチャクチャにされたくないよ!」

 ブルガノスの誘いを頑なに拒むヒカル。平穏に過ごしてきた日常を壊されたくない。彼女はその気持ち一途だった。

「そこまで言い張るなら、痛い目にあってもらう・・・」

 ブルガノスが目つきを鋭くして、全身から魔力を発する。すさまじい衝撃波が巻き起こり、ヒカルが押されそうになる。

「すごい力・・・カイザー、お願い!あのときの服を!」

 カイザーに呼びかけるヒカルの服装が変化する。軍服に似たバリアジャケットを彼女は身に付けた。

「それがウォーリアー・ウラヌスとしての姿か・・魔力のほうはどれほどのものかも、実際に体感させてもらおう!」

 ブルガノスが目を見開き、ヒカルに向かっていく。ヒカルは飛び上がってブルガノスの突進をかわし、すぐさま降下しながらかかと落としを叩き込む。

「カイザーを与えられて、かなりの魔力と戦闘力を開花させているな・・・だが!」

 だがブルガノスは平然としており、体を張ってヒカルを弾き飛ばした。

「オレはダイアナのようにはいかないぞ!」

 ブルガノスが飛びかかり、拳を繰り出す。カイザーがヒカルに代わって光の壁を発して、ブルガノスの拳を防ぐ。

 だがブルガノスのパワーに押されて、ヒカルが突き飛ばされる。

「その程度の防御ではオレは止められないぞ!」

 ブルガノスがさらに打撃を繰り出していく。必死にかわそうとするヒカルだが、ブルガノスの立て続けの攻撃を受けて突き飛ばされる。

(ダメ・・あの攻撃、防ぎきれない・・全部をよけることもできない・・・!)

 ブルガノスの攻撃を痛感して、ヒカルが心身ともに追い詰められていく。

(どうしたらいいの・・どうしたら・・・!?

Please settle down. Power is concentrated on one place.(落ち着いてください。力を一ヶ所に集中させるのです。)

 困惑するヒカルに、カイザーが呼びかけてきた。

Please recall it. And, please feel it. If it is you today, I should be able to feel your own power. It must gather one's senses, and I must feel myself.(思い出してください。そして感じ取ってください。今のあなたなら、あなた自身の力を感じることができるはずです。気持ちを落ち着けて、自分を感じてみてください。)

 カイザーの言葉を聞いて、ヒカルが気持ちを落ちつけていく。ブルガノスの攻撃をかわして、彼女がビルの屋上まで逃げ込んだ。

「あたしの力を感じる・・力をひとつにまとめる・・・」

 ヒカルが意識を集中して、両手に力を集める。膨らませるイメージに呼応するかのように、彼女の手に魔力が流れ込んでいく。

(感じる・・・これが、あたしの魔力・・・)

 自分の魔力を実感していくヒカル。彼女が見つめる両手には、金色の輝きを帯びた淡い光が灯っていた。

 その彼女のいるビルの屋上に、ブルガノスが降りてきた。

「速さだけは上手だと認めてやろう・・だが逃げてばかりではオレには勝てないぞ。」

 ブルガノスが不敵な笑みを見せて、ヒカルに迫る。

「それにどんな手段を使おうが、お前に逃げ道などない。」

「そんなことはない・・逃げるにしても進むにしても、あたしに道がないなんて認めない・・・!」

 ブルガノスが告げた言葉にヒカルが反発する。

「これ以上あたしの日常に入り込んでこないで!あたしは普通に過ごしたいの!」

「もはやそんなくだらないことなど許されない!お前はそういう宿命を背負ったのだからな!」

 自分の気持ちを言い放つヒカルを、ブルガノスがあざ笑う。迫ってくるブルガノスに向けて、ヒカルが右手を突き出す。

「攻撃してくるか!ならば跳ね返してやるぞ!」

 ブルガノスがヒカルを迎え撃ち、拳を繰り出す。2人が繰り出した右手がぶつかり合い、電撃のような衝撃がほとばしる。

(この力・・カイザーを宿しているとはいえ、これほどの力とは・・・!)

 ブルガノスがヒカルの力に脅威を感じる。ヒカルの力がブルガノスを徐々に押していく。

(ダイアナがあれほどの手傷を負ったのも頷けることかもしれない・・・!)

 危機感を痛感したブルガノスがヒカルの攻撃から回避して距離を取った。

「さすがだな、ウラヌス!短期間でここまで魔力を引き出してくるとは!」

 ブルガノスがヒカルに向けて言い放つ。

「戦い慣れしていないとはいえ、ドライブ・ウォーリアーとして覚醒しただけのことはあるな・・だがオレたちギルティアを敵に回すのは愚かな選択だぞ!」

 ブルガノスが目を見開いて、ヒカルに呼びかけていく。

「ギルティアは世界に確認されている魔法技術の多くを身につけている!そのオレたちの戦力を、この地球という星の戦力はもちろん、ドライブ・ウォーリアーといえども止めることはできない!」

「アンタたちの目的は何!?みんなをどうするつもりなの!?

「この地球をオレたちの新しい資源地区とする!この星は自然に恵まれており、ミッドチルダやベルカといった魔法や科学には遠く及ばないが、高い技術を育んでいる!オレたちが有効活用することで、地球の技術は大きく飛躍することができる!」

「ちょっと待ってよ!それじゃ、みんなは・・!?

「当然奴隷として扱うこととなる!世界は力のある者が支配するにふさわしい!」

「勝手なこと言わないで!アンタたちに、この世界までムチャクチャにさせるわけにいかない!」

 高らかに語りかけていくブルガノスに、ヒカルが反発する。しかしブルガノスは哄笑をやめない。

「笑わせる・・お前だけでどこまで抗えるか・・・」

 ブルガノスはそう告げると、ヒカルの前から姿を消した。

 次の瞬間に結界が消失し、ヒカルは現実の空間に戻された。彼女の着ていたバリアジャケットが消え、元の私服に戻っていた。

(ギルティア・・世界征服まで考えてるなんて・・・)

 絶えないギルティアの脅威に、ヒカルは不安を感じていた。

(これからどうしていけばいいの?・・あのブルガノスって人の話を聞くと、ギルティアはまだまだいそうだし・・・)

I support you. Therefore, please do not obsess it so much.(私があなたをサポートしていきます。ですので、あまり思い詰めないでください。)

 胸を締め付けられるような気持ちに駆られるヒカルに、カイザーが呼びかけてくる。

You are you. You it do not change even if falling into what circumstances. If you do not lose sight of you.(あなたはあなたです。どのような境遇に陥っても、あなたであることは変わりません。あなた自身を見失わなければ・・)

(カイザー・・・ありがとうね・・あたしのためにここまで励ましてくれて・・・)

You're welcome.”

 カイザーの励ましを受けて、ヒカルが笑みを取り戻す。

(もうわがままばっかり言ってても何にもならない・・あたしたちの日常を壊そうとしてくるなら、あたしは戦うことをためらわない・・・!)

 決心を固めるヒカルが、両手を強く握りしめる。彼女は込み上げてくる迷いを払拭しようとしていた。

(これからよろしくね、カイザー・・あたし、あなたのことを信じることにするよ・・・)

 カイザーに信頼を寄せるヒカル。彼女は自分の中でカイザーが反応を示したのを感じ取った。

 自分とカイザーは一心同体。現実だけでなく、気持ちの上でもそう自覚するヒカルだった。

 

 ヒカルの魔力を脅威と感じて撤退したブルガノス。彼は完治に向かっているダイアナに歩み寄った。

「自信あり気に出て行って、おめおめと逃げてきたの?」

 笑みを見せてくるダイアナに、ブルガノスが苛立ちを浮かべる。だがダイアナはすぐに笑みを消した。

「ウォーリアー・ウラヌス・・私やあなたが思っていた以上に魔力があり、それを使いこなす成長も早い・・」

「もう油断しない・・今度は始めから全力でヤツを・・・」

「力押しで勝てる相手でないことは、あなたも分かっているでしょう、ブルガノス?今度こそ命がなくなるわよ・・」

「だがどうするのだ?何か手はあるのか?」

 ブルガノスが問いかけると、ダイアナが再び笑みを浮かべた。

「力がダメなら、数で・・・」

 ヒカルを捕縛するため、ダイアナが策を巡らせるのだった。

 

 

次回予告

 

途絶えることのないギルティアの魔手。

ヒカルを捉えるため、彼らはあらゆる手段に訴えてくる。

ヒカルを追い詰めるダイアナの策略。

退路を断たれた少女に、打つ手はあるのか?

 

次回・「魔の包囲網」

 

野望と純粋な願いが今、激突する・・・

 

 

作品集

 

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