Drive Warrior Episode01「魔法の戦士」

 

 

魔法の力。

夢や希望に満ちあふれた力であると知られている。

 

だが魔法も力や技術の一種。

癒しや幸福だけでなく、破壊や戦慄ももたらすことのできるもの。

 

時に、戦士の運命を開いていくことも・・・

 

 

 大きなビルやターミナルが立ち並ぶ街。その景色に簡単に踏み込める隣町があった。

 その町の一角に住む1人の少女がいた。

 天宮(あまみや)ヒカル。活発で明るい性格をしていて、黒のショートヘアをしている。運動神経がずば抜けているが、勉強が苦手で、体育以外の成績はいいほうではない。

 だがある日の夜に帰宅したヒカルに元気はなかった。

「おかえり、ヒカル。遅かったわね・・」

 ヒカルの母、アカリが声をかけてきた。

「もしかして、また助っ人として呼び出されちゃったとか?」

「う、うん、まぁ、そんなとこかな、アハハハハ・・・」

 アカリに質問をされて、ヒカルが苦笑いを見せる。しかし彼女は空元気を見せているだけだった。

「ホントにどうしたの、ヒカル?元気がないみたいだけど・・」

「だ、大丈夫、大丈夫♪元気だよ、あたしは♪」

 心配の声をかけるアカリに、ヒカルが上機嫌に振舞う。

「おっ!ヒカル、帰ってきたか!」

 そこへヒカルの父、コウが顔を見せてきた。

 コウは豪快な性格と行動力が持ち味で、アカリは快活かつリーダーシップに富んでいる。2人は互いのそんな部分を好きになり、結婚。現在に至っている。

「お父さん、帰ってきてたんだ・・」

「うまく帰宅の許可が取れてな・・それよりも遅いぞ、ヒカル。いくら学校や助っ人だからって、あまり帰りが遅くなるのは感心しないぞ。」

 微笑みかけるヒカルを、コウがムッとした面持ちで叱ってきた。

「刑事になれとは言わんが、人として間違ったことはやってはならんぞ。」

「ゴメン、お父さん・・今度から気を付けるよ・・・」

 コウに注意されてヒカルが気落ちする。

「お父さん、カッコいいわね♪この厳しさと優しさに、私は惚れ込んだのよ♪」

「おうよ!この飴と鞭が、人間を強くしていくんだよ!」

 笑顔でおだててくるアカリに、コウが鼻を高くする。この夫婦漫才なやり取りに、ヒカルは苦笑いを浮かべるばかりだった。

「それじゃ、ご飯食べて、しっかり寝るとします♪」

 ヒカルは上機嫌に言ってみせた。だが彼女は内心、自分が体感した出来事をまだ受け入れられないでいた。

 

 この日の帰宅の10時間前にさかのぼる。日曜日の昼を外で過ごそうと、ヒカルは街に出かけた。

 だがもう少しで街にたどり着くというときだった。ヒカルの前に黒ずくめの人物が現れた。黒の帽子とサングラスまでしていたため、男か女かも判別が難しかった。

「天宮ヒカルだな?我々と一緒に来てもらおうか・・?」

「だ、誰ですか、あなたたち?・・あからさまに怪しい・・・」

 黒ずくめの1人が声をかけ、ヒカルが警戒を見せる。

「君は有力な資質の持ち主だ。我々にとって欠かせない存在となる・・」

「何わけの分かんないこと言ってるのよ・・・警察呼ぶよ・・・!」

「ムダだ。人間では我々を止められない。」

 声を振り絞るヒカルだが、黒ずくめたちは全く動じない。緊迫したヒカルは、たまらず逃げ出した。

「そして我々から逃げることもできない。」

 だが彼女の前に別の黒ずくめが現れ、行く手を阻んできた。

 緊迫を膨らませながら、ヒカルは強行突破を試みる。だが黒ずくめに打撃を叩き込まれ、彼女は意識を失った。

「君は我々ギルティアに選ばれし存在。名誉あることであるぞ。」

 倒れたヒカルを連れて、「ギルティア」と名乗った黒ずくめたちが姿を消した。

 

 目を覚ましたヒカルは、ひとつのライトだけが照らす台の上に乗せられていた。彼女は両手両足を鉄の錠で拘束され、動けなくなっていた。

「何、コレ!?・・どうなってるの!?

「はじめまして、天宮ヒカル。」

 もがき出すヒカルに向けて声がかかった。彼女の視界に長い金髪の1人の女性が入ってきた。

「私はギルティアの1人、ダイアナ。天宮ヒカル、これからあなたに、ドライブウォーリアー「ウラヌス」への改造を施す。」

「改造!?・・・あたしをどうするつもりなの・・・!?

「改造だと言ったであろう。これからあなたにドライブウォーリアーとしての証となるデバイスを与える・・」

 声を荒げるヒカルに、ダイアナがひとつの球を取り出した。赤茶色の水晶の性質をした球である。

「これを手にすることで、あなたは絶大な力を手に入れることができるのよ。まるで魔法のような力を・・」

「何言ってんの!?何から何までおかしなことばっか!早くコレを外してよ!こんなの犯罪よ!」

「気に病むことはないわ。これは罪でも罰でもない。栄光あること、名誉あることなのよ・・」

 悲鳴を上げるヒカルに向けて、ダイアナが球を持った右手を伸ばす。

「今こそ力を発揮しなさい、ウォーリアー、ウラヌス。このアームドデバイス、カイザーを得て・・」

 ダイアナの右手がヒカルの体に通り抜けるように入り込んできた。自分の体に手が入りこんでいることに、ヒカルは驚愕と恐怖を覚えた。

 さらに彼女は感じたことのない激痛を感じた。

「ああああ・・ぁぁぁ・・・!」

 あまりの痛みに悲鳴を上げずにいられなくなるヒカル。彼女の体に淡い光が宿っていく。

「データ通り・・カイザーが彼女の体に順応していく・・秘められた力が開放されるのも遠くない・・・」

 カイザーがヒカルの中で力を発揮していく。穏やかだった光が一気に強まっていく。

「では私たちギルティアの知識と技術を挿入していくことにしよう・・そうすることでドライブウォーリアーとして確立することとなる・・・」

 ダイアナがコンピューターを駆使して、ヒカルにギルティアに関する知識と技術を植え付けようとした。

 そのとき、ヒカルに宿っていた光が突如放出された。煌めいた光によって、周囲にあったコンピューターが火花を発した。

「これは・・まさか、暴走・・・!?

 予期せぬ事態にダイアナが緊迫を覚える。ヒカルに宿っていたカイザーの力が暴走を引き起こしていた。

 暴走によって引き上げられていくヒカルの力。彼女は無意識に手足を拘束していた錠を、力任せに引きちぎった。

「まずい!すぐに鎮圧しなさい!」

 慌てて呼びかけるダイアナ。待機していた黒ずくめたちが、ヒカルに向けて麻酔銃を発砲する。

 だがヒカルを包んでいる光が、放たれた弾丸を弾き返していった。

「バリア・・そんなものをもう使ってくるとは・・・!」

 ヒカルが発した力にダイアナも黒ずくめも緊迫を膨らませていた。だがカイザーの魔力が暴走状態にあるヒカルは、既に意識を失っていた。

 その無意識状態のまま、ヒカルは台から立ち上がって、ゆっくりと歩き出していった。

「このまま逃がすくらいなら・・戒めの鎖!」

 ダイアナが光の鎖「戒めの鎖」を発動した。光の鎖はヒカルを光ごと絡め取ったが、それでも彼女が止まることはない。

「何という力・・これがウォーリアーコアの、ウラヌスの魔力・・・!」

「何をしている、ダイアナ!?

 そこへ1人の大柄の男が駆け付け、ダイアナに声をかけてきた。

「ウラヌスの力を侮ってはいけないわ、ブルガノス!私でも止めきれない!」

「おのれ!このまま逃がすくらいならやむをえまい!粉砕するつもりで叩く!」

 言い返すダイアナのそばで、ブルガノスが両手に魔力を込める。飛び出した彼が、ヒカルに向けて右の拳を叩き込む。

 だがヒカルを包む光を突き破れず、ブルガノスは逆に弾き飛ばされてしまう。

「くっ!・・私のパワーすら跳ね返すとは・・カイザー・・ウォーリアー・ウラヌス・・これほどの力を発揮してくるとは・・・!」

 壁に叩きつけられたブルガノスが、ヒカルの魔力に毒づく。周りがこれ以上の手出しができないまま、ヒカルは壁をぶち破って外に出ていった。

「ウラヌスを監視しなさい!時期に魔力の消耗で大人しくなるはずよ!」

「了解!」

 ダイアナの命令を受けて、黒ずくめたちが答える。

「あなたたちは絶対に手出しするな!迂闊に手を出せば命はないぞ!」

 ダイアナのさらなる命令を受けて、黒ずくめたちがヒカルを追っていった。

「私もウラヌスを追うわ。ブルガノスはここの整理を頼む・・」

「私も行くぞ!このまま手も足も出せずに尻尾を巻くのは我慢がならん!」

 呼びかけるダイアナだが、ブルガノスは聞こうとしない。

「この事態、マスター・クロノスはお怒りになる・・私たちの誰かがこの場にいなければなおさら・・」

「わ、分かった・・だが必ずウラヌスを連れ戻せ・・いいな・・・!」

 ブルガノスに念を押される形で、ダイアナはヒカルを再び捕まえるために飛び出していった。

 

 体内に埋め込まれたカイザーの魔力の暴走で、ギルティアの手の中から脱出したヒカル。カイザーが放っていた魔力が弱まり、意識を取り戻した彼女がいた場所は、街の中で1番高いビルの上だった。

「あれ?・・・う、うわあっ!」

 気がついた彼女が高所に悲鳴を上げる。体勢を崩し、彼女は足を踏み外してビルの上から落下してしまう。

「イヤアッ!」

(これって・・夢!?・・・それともホントのことで、このまま落下して死ぬの・・・!?

 悲鳴を上げるヒカルが、心の中で絶望感を膨らませていく。

(イヤだよ・・こんな形で死ぬなんて、認めたくないよ!)

 死に対する拒絶が、ヒカルに宿っていた力が再び覚醒した。地上に落下する直前で、彼女の体に淡い球状の光が発せられ、落下のスピードを弱めた。

 魔力が発せられたことで、地上への衝突を免れたヒカル。だがこの事態に彼女は逆に驚いていた。

「何、今の!?・・・あたし、生きてる・・・!?

 気持ちの整理がつかず、ヒカルが困惑を膨らませていく。

It was brought by grace of you and me.(私とあなたの力によってもたらされたことです。)

 そのとき、ヒカルの脳裏に声が発せられた。突然の声に彼女が周囲を見回すが、怪しい人物は誰も見当たらない。

「き・・気のせい、だよね・・いろいろとおかしなことばかりで、どうかしちゃってるんだよね・・・」

I'm sorry for surprising it. I am a device transplanted to you.(驚かせてしまってすみません。私はあなたの中に移植されたデバイスです。)

 安堵の笑みをこぼした瞬間にまた声をかけられ、ヒカルが緊迫する。その声の言葉を聞いて、彼女は自分の胸に手を当てる。

(もしかして・・あの人が私に入れてきたもの・・・!?

Yes. It is possible to think, to judge because the artificial intelligence is equipped, and to talk to some degree.(はい。人工知能が備わっているため、思考や判断、ある程度の会話が可能となっています。)

 ヒカルが心の中で呼びかけると、彼女の体内にあるアームドデバイス、カイザーが答えてきた。

 カイザーは世界に存在している魔法術式を説明した。最も一般的とされているミッドチルダ式と攻撃力と対人戦闘に特化したベルカ式、さらにベルカ式は従来のものを古代ベルカ式、ミッドチルダ式の要素を組み込んだ近代ベルカ式に分けられていた。

(う〜ん・・分かったような・・分かんないような・・・)

 説明が突飛しすぎているように感じて、ヒカルが眉をひそめる。

(確か、構えはカイザーっていうんだったよね・・・私、どうなちゃったの・・・?)

You obtained power that was able to command everything by having borne me. I will lend you power as you thought.(あなたは私を宿したことで、全てを統率することのできる力を手に入れたのです。あなたの思った通りに、私はあなたに力を貸しましょう。)

(ち、ちょっと待って!あたし、そんな力いらないって!あなたをあたしから外すことはできないの!?

It cannot be done though it is regrettable. I am connecting directly by that transplant with your heart. It means that I part from you your death.(残念ですがそれはできません。あの移植で私はあなたの心臓と直結してしまっています。私があなたから離れることは、あなたの死を意味します。)

「そんな・・・もう、元に戻れないなんて・・・」

 カイザーから非情の通告をされて、ヒカルは愕然となる。

The mind distribution is not needed. There is neither body between the normal people nor a big difference excluding power's going up in you. As for the medicine of the world where you are, the change will not be admitted either.心配いりません。あなたは力が上がっていること以外は、普通の人間の体と大きな違いはありません。あなたのいる世界の医学でも、変化は認められないでしょう。)”

(いや、そういう問題じゃなくて・・・そういう問題でもあるんだけど・・・)

 カイザーの言葉を聞いてさらに混乱するヒカル。

The support of power will be firmly made. However, I might would like you to note it.(力のサポートはしっかりとさせていただきます。ただ注意していただきたいことがあります。)

(えっ・・・?)

Your today power lightly exceeds between the normal people. It is likely to be going to interfere to life if not becoming careful.(今のあなたの力は、普通の人間を軽く超えています。慎重にならないと生活に支障をきたすことになりかねません。)

(そんな・・・ホントに難しくて、どうしたらいいのか逆に分からなくなりそう・・・)

 整理できないことの連続に、ヒカルは完全に参って肩を落としていた。

 そのとき、ヒカルの周りに黒ずくめたちが取り囲んできた。

「あなたたち、さっきの・・・!」

 緊迫を覚えるヒカルだが、黒ずくめたちに行く手を塞がれてしまった。

「そこまでよ、ウォーリアー・ウラヌス。」

 さらにダイアナが現れ、ヒカルに声をかけてきた。

「どうして・・どうしてここが・・・!?

「あなたほどの魔力ならすぐにでも発見できるわ。魔力が弱まってからここに来るまでに時間がかかったから、発見も遅れたけど・・」

 声を上げるヒカルに、ダイアナが淡々と答える。

「ウォーリアー・ウラヌス、私たちと一緒に来てもらう。ドライブウォーリアーのデバイスのひとつ、カイザーを宿した時点で、あなたは私たちギルティアの王となることが決まったのよ・・」

「冗談じゃないって!あたしの生き方を勝手に決めないで!」

 手を差し伸べてくるダイアナに、ヒカルが不満の声を上げる。

「抵抗しようとしてもムダだ。カイザーには人工知能が備わっているが、あなた自身でその力を使いこなすにはすぐにはムリよ・・」

 ダイアナの言葉に息をのむヒカル。緊迫と恐怖のあまり、彼女は思わず後ずさりそうになる。

「諦めなさい・・あなたの運命は既に定められている・・・」

 ダイアナが目つきを鋭くして、ヒカルを拘束しようとする。

Please concentrate consideration, and work effectively. If it is you, it is possible to do.(意識を集中して、力を発揮してください。あなたならできます。)

 そのとき、ヒカルに向けてカイザーが呼びかけてきた。同時にダイアナが光の縄をヒカルに向けて放ってきた。

 ヒカルがとっさに両手を前に突き出す。すると彼女の前に光の壁が出現し、ダイアナの光の縄を弾いた。

「これは!?

 突然のことに驚くダイアナ。ヒカル自身もこの出来事に当惑していた。

「これって・・・!?

This is your and my power. Power becomes shape as you imaged that it is possible to have it with might and main.(これが私、そしてあなたの力です。持てる力の限り、あなたのイメージしたとおりに力が形となります。)

 カイザーに呼びかけられて、ヒカルは気持ちを落ちつけようとする。

Please image the shape of the barrier jacket that defends you. I have the image's being made an embodiment.(あなた自身を守る防護服の形状をイメージしてください。私がそのイメージを具現化させます。)

「イメージ・・やるしかない・・・!」

 カイザーの言葉を信じて、ヒカルは意識を集中する。

「カイザー!」

 叫ぶ彼女の体がまばゆい光に包まれた。この輝きにダイアナや黒ずくめたちが身構える。

 ヒカルの体を新たに形成された衣服が包み込んでいく。その形状は黒を基調とした軍服のように見え、丈夫な材質が盛り込まれていた。

 防護服「バリアジャケット」の形成である。ベルカでは騎士甲冑と呼ばれることもある。

「あたし・・いつの間にこんな服を・・・!?

It is clothes for this to defend you. The damage of some attack can be reduced.(これがあなたを守る衣服です。ある程度の攻撃のダメージを軽減させることができます。)

 さらなる驚きを見せるヒカルに、カイザーが説明していく。気持ちを落ちつけてから、ヒカルはダイアナたちを見据える。

「やってみるよ、カイザー・・だから、サポートして・・・!」

OK.”

 声を振り絞るヒカルにカイザーが答える。彼女は思い切って飛び出すと、自分でも思いもよらないスピードを発揮した。

(えっ!?

 心の中で驚きの声を上げるヒカル。彼女が出したスピードによる突進が、黒ずくめたちを蹴散らしていた。

「見えなかった・・我々が、あの娘の速さを・・・」

「カイザーの、ウラヌスとしての力を、こうも使いこなせるようになるとは・・・!」

 ヒカルが見せた戦闘力に黒ずくめたちが緊迫を隠せなくなる。

「やはりエビルでは太刀打ちできないか・・・あなたたちは下がりなさい!ここは私がやる!」

 ダイアナが黒ずくめの兵士、エビルに呼びかけてヒカルの前に立つ。

「まさかこうも早くカイザーの力をコントロールできるようになるとは・・でも私はギルティアの上位の戦士。エビルのようにはいかないわよ・・」

 ダイアナがヒカルに鋭い視線を向ける。

「私はギルティアの開発のエキスパートだが、戦闘でも他の者には引けを取らないわ・・」

「引けを取らないって・・周りの黒ずくめの人たちも十分あたしは参ってるって!」

 笑みを見せてくるダイアナに、ヒカルが抗議の声を上げる。

「今度は加減はしない・・完全に動きを封じる・・・!」

 言い放つダイアナが、両手の指先から光の線を発した。伸びてくる光の線を、ヒカルが慌てて飛んでかわす。

「甘い・・・!」

 ダイアナが両手を振り上げて、光の線を伸ばす。その数本がヒカルの右足を絡め取った。

「えっ!?

 足を引っ張られて、ヒカルが落とされていく。そのとき、彼女の体内にあるカイザーが球状の防御魔法を自動展開させた。これにより地面への衝突での衝撃を和らげた。

「くっ!・・このようなことまで・・・!」

 ヒカルから発せられた魔力に、ダイアナが緊迫を募らせる。

「もしやカイザーが、天宮ヒカルを主として認め、力を貸し与えているのでは・・・!?

 カイザーがヒカルに助力していることに気付き、ダイアナが息をのむ。

「主に忠実であるのが、こんな形で実証されることになるとは・・・」

 カイザーの性能に対するに皮肉を感じるダイアナ。

「ありがとう、カイザー・・助かったよ・・・」

You're welcome.”

 感謝の言葉をかけるヒカルにカイザーが答える。ヒカルは改めて気持ちを落ちつけてから、真剣な面持ちを浮かべる。

「カイザー、何か必殺技みたいなものってあるの・・・?」

It is. Please collect power in one of hands.(あります。片方の手に力を集めてください。)

 ヒカルの問いかけにカイザーが答える。その言葉通りにして、彼女は意識を右手に集中する。

(あたしに力を・・もっと力を・・・!)

 ヒカルの願いを受けたかのように、彼女の右手に光が宿った。そして彼女はダイアナに向かって駆け出していった。

「よーし!この力を、相手にぶつける!」

 魔力を収束させた右手を、ヒカルが突き出す。彼女の一撃に対し、ダイアナが光の障壁を展開して防ごうとする。

 だがヒカルの一撃はその障壁を打ち破り、ダイアナの左腕に命中した。

「うっ!」

 殴られた左腕に激痛を覚え、ダイアナが顔を歪める。とっさにヒカルから離れた彼女は、すぐさま左腕を押さえる。

(腕が折れている・・あの一撃が、これほどの攻撃力を発揮してくるとは・・・!)

 ヒカルとカイザーの力に、心身ともに追い込まれていくダイアナ。エビルたちが彼女に駆け寄り、安否を気遣う。

「ダイアナ様、大丈夫ですか!?

「心配するな・・・やむを得ないが、ここは退却するしかない・・・!」

 エビルたちに呼びかけて、ダイアナがヒカルの前から去っていく。エビルたちも続いて退却していった。

「やったの?・・・よかった・・・」

 危険が去ったと実感し、ヒカルはその場に座り込む。同時に彼女の体からバリアジャケットが消失した。

 だがヒカルの心に安堵は戻っていなかった。またこの戦いも、彼女に振りかかる運命の始まりに過ぎなかった。

 

 夜ごはんを済ませて、自分の部屋に戻ったヒカル。彼女は今でも今日起きたことが夢なのではないかと思えてならなかった。

 疲れていたヒカルはベットに潜り込もうとした。だがふと携帯電話が気になり取り出した。

 電話には着信記録が残っていた。微笑んだヒカルが、その電話の相手に連絡した。

“もしもし、ヒカル?”

「もしもし、メイ・・ゴメンね、連絡できなくて・・・」

 電話から発せられた声。電話の相手、(かん)(なぎ)メイにヒカルが謝る。

 メイは実業家、神凪家の娘で、メイの幼馴染みである。茶色がかった黒の長髪と大人びた風貌が特徴で、勉強も運動もすば抜けている。才色兼備、完全無欠などと評されているが、彼女自身はそれらに否定的である。

“どうしたの、ヒカル?元気がないみたいだけど・・”

「そ、そんなことないよ・・あたしは今日も元気・・」

“ウソウソ。ヒカル、昔からウソが顔や声に出るんだから・・”

 メイに見抜かれてヒカルが肩を落とす。

“何か悩み事?・・でも、ムリに話さなくていいから・・こういうのはムリに聞こうとすると逆効果になることもあるから・・”

「ありがとう、メイ・・気を遣ってくれて・・・」

“・・じゃ、もし話したくなったら明日にでも・・おやすみ、ヒカル・・・”

「うん・・おやすみ、メイ・・ホントにありがとうね・・・」

 メイに感謝の言葉をかけてから、ヒカルは携帯電話を閉じた。

(もう普通の人間じゃなくなったなんて、言えるわけないよ・・いくらメイでも・・・)

 込み上げてくる不安を抱えたまま、ヒカルは改めてベットに横たわった。明日目が覚めたら今日のことが夢だったと思えるように、という儚い願いを秘めて。

 

 ヒカルからの電話を受けたメイ。ヒカルとの電話を終えると、メイは笑みを消した。

(ヒカルは元気がないときでも明るいわね・・あのようにプラス思考でいられればいいのに・・・)

 心の中で呟くうち、メイは胸に秘めていた憤りを浮かべていく。

(この世界は、ヒカルが楽しんでいられるような楽園じゃない・・自分勝手な人間が国や世界の行く末を決めている・・・)

 胸に秘めていた憤りを募らせていくメイ。彼女は国や世界を動かす人間の身勝手な言動に怒りを感じていた。

(そんな人たちのいいようにしている・・こんな世界にいる自分が、1番許せない・・・)

 呟いていくメイが、窓越しに夜空を見つめた。

(この現実をどうにかしたい・・でも私には力がない・・みんなが完全無欠などと言ってくれるけど、そんな完璧な人間では絶対にない・・この現状を何ひとつ変えられない私なんて・・・)

 自分の力のなさにも怒りを感じていくメイ。理不尽な世界の現状の中で、彼女は自分を無力と感じていた。

(力がほしい・・この世界をどうにかできるほどの力が・・・)

 世界の中での無力さから湧き上がる力への渇望。これが、今のメイの原動力となっていた。

 そのとき、メイのいる部屋のドアがノックされた。

「メイ様、おやすみになられておりますでしょうか・・?」

「いいえ・・まだ起きているわ・・」

 ドア越しにかけられた声に、メイが気持ちを切り替えてから答える。

「ウォーリアー・ウラヌスのデバイス、カイザーが奪取されました・・」

「カイザーが?」

 入ってきた報告にメイが眉をひそめる。

「それで、他のデバイスは無事なの?」

「はい。さらに厳重に警備しています。」

 メイの問いかけに声の主が答える。

「そう・・分かったわ。下がりなさい・・」

「分かりました・・・」

 メイが呼びかけてから、再び窓から夜空を見つめた。彼女はデバイス、ギルティアについて知っていた。

 メイもまた、これから起こる運命に身を投じようとしていた。

 

 

次回予告

 

ドライブ・ウォーリアー。

魔法の戦士の1人、ウラヌスの力を得たヒカル。

求めていなかった力を手にしたことへの苦悩。

その彼女に、ギルティアの魔の手が伸びる。

 

次回・「ギルティア」

 

彼らにとって、魔法とは何か・・・?

 

 

作品集

 

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