Drive Warrior Gears

Episode24「幻想ははるか彼方」

 

 

 絶体絶命のピンチのヒカルを救ったのは、ロードサイドから転移してきたメイだった。
「両者が手を組んだか・・しかしそれでも、私は止まるわけにはいかない・・」
 コスモがヒカルとメイを見て、表情を変えずに呟く。
「もう少しだ・・もう少しで理想郷にたどり着くことができる・・・」
「何度も同じようなことを・・お前の言う理想郷って何なんだよ!?どこにあるっていうんだよ!?」
 そのコスモに、タクミが怒りを込めて問いかける。
「理想郷はそこにある・・争いも怒りも悲しみも、混乱もない・・それだけで理想郷といえる・・」
「そんな曖昧な答えを求めてるんじゃない!ハッキリと答えろよ!」
 自分の口にする答えを変えないコスモに、タクミがさらに怒鳴る。
「理想郷はそこにある・・目指すべき理想郷は近い・・・」
「どういうことだ・・まともな答えをまるでしてこない・・・!?」
 同じ曖昧な答えを繰り返すコスモに、ブレイドが疑問を感じていく。
「まるで、あることをインプットされている機械みたいな・・・」
 アリシアもコスモの様子を見て、困惑を募らせていた。
「コスモ、あなたはどうして、理想郷を・・・!?」
 ヒカルが気分を落ち着かせて、コスモに問いかける。
「私が元いた世界は、争いの絶えない世界だった・・世界の中の国々が機械や兵器を用いて争いを繰り返した・・その争いに巻き込まれた者たちの苦しみと悲しみを知ろうともせずに・・・」
 コスモがヒカルたちに向けて、昔のことを語り始めた。
「多くの国が戦争によって滅び、勝ち残った国も資源の枯渇と内乱によって滅亡した・・絶対的な力と理想をもって、正しい道へ示す存在と理想郷が必要となる・・」
「あなたの生まれた世界は?・・あなたの国は・・・?」
 話していくコスモに、アリシアが問いかける。
「“SSM星雲”、“惑星イデア”・・」
「イデア・・あの惑星に純粋な肉体の人間はいない・・全員が人造人間の惑星だ・・・!」
 コスモの答えを聞いて、ブレイドがイデアについて口にする。
“もしかしたら、コスモはイデアで生まれた人造人間、それも思考や記憶が不完全な人間かもしれないわ。”
 そのとき、ヒカルたちにミュウからの念話が届いた。
(ミュウさん・・!)
 ヒカルがコスモに目を向けたまま、ミュウに答える。
“それもイデアが滅びる直前に誕生した人造人間ね。思考回路が未完成のまま、イデアの滅亡から脱出したので、断片的な記憶しか残らなかった・・”
(コスモが追い求めている理想郷というのも、その記憶の断片に過ぎないということか・・理想郷が何なのかを明確にできないのも、そのため・・)
 ミュウの話を聞いて、ブレイドがコスモのことを考える。
(ってことはアイツは、あるかどうかどころか、ありもしないものを探し続けてるっていうのか!?・・他のヤツを、仲間さえも犠牲にして・・!)
 タクミがコスモの思考と言動に、さらなる疑念を抱いていく。
(本能で行動しているのね。私以上に・・)
 メイがコスモを見つめて、彼の心理状態を察した。
(自分の目的のために、他の人を犠牲にしていいことにならない・・たとえどんな綺麗事を使っても・・・!)
 コスモの言動に対して、ヒカルが怒りを感じていく。
(絶対に止める・・コスモを止めないと、ありもしないものの犠牲にされる人が、また増えることになる・・!)
 ヒカルは決意を強くして、メイに目を向ける。
(私はヒカルを倒す・・その邪魔をするアイツも、私の敵・・・!)
 メイがヒカルへの敵意を向けつつ、コスモと戦おうとする。
(メイ、あなたとの話は、コスモとの戦いを終わらせてからだね・・・!)
(私もそのつもりでいる・・でも、そのときが来たら覚悟を決めなさい、ヒカル・・・!)
 ヒカルとメイが声を掛け合い、そろって構えを取った。
「理想郷はこの戦いの先にある・・私たちの進む道を阻むことは、誰にも許されない・・・」
 理想郷への渇望とそのために戦うことを、コスモは貫いていた。
「そうやって自分だけの世界を作ろうとするなら、私たちがあなたを止める!」
 ヒカルが言い放って、左手を強く握りしめる。
「ドライブチャージ!」
 彼女の左手に魔力が集中していく。
「グランドインパクト!」
 ヒカルがコスモに向かって突っ込み、力強く拳を繰り出した。コスモが冷静にヒカルの動きを見て、打撃をかわした。
 その先にメイが飛び込んできて、同じく魔力を集中させていた右の拳を繰り出していた。コスモが障壁を展開して受け止めるが、障壁が耐え切れずに砕かれる。
「邪魔をされたくないのは、私のほうよ・・!」
 メイが鋭く言って、拳をコスモに叩き込んだ。コスモが強く突き飛ばされて、地面に叩きつけられる。
 コスモは少しの間を置いてから、ゆっくりと立ち上がった。メイの打撃を直撃されたにもかかわらず、彼は平然としていた。
「そんなバカな・・防御もできずに直撃したはずなのに、全然効いていない・・・!?」
 メイがコスモの状態を見て、驚愕を覚える。
“The battle ability has been greatly improved by incorporating a lot of magic power.(多くの魔力を取り込んだことで、戦闘能力が大きく向上しています。”
 ハデスがコスモの力を感知して、メイに告げる。
(単独攻撃を当てただけじゃ決定打にならないっていうのか・・!?)
(切り札になるのは、ヒカルさんとメイさん・・・!)
 ブレイドとアリシアが念話で打開策を話し合う。
(オレたちが注意を引き付けるから、ヒカルたちはその間に魔力を溜めて、一気に叩き込んで・・!)
 タクミがヒカルに向けて告げて、ギャラクシーを構える。
(タクミ、アリシアちゃん、ブレイドさん・・・私、信じている・・みんなのこと・・・!)
 ヒカルが信頼を寄せて、小さく頷いた。
(メイ、もちろんあなたのこともね・・)
(私が信じているのは、私の力・・ハデスと、私自身だけよ・・)
 笑みを向けたヒカルに対し、メイは自分の意思を貫く。
“Even if the purpose or idea is different, the enemies to be defeated are common.There should be no problem even if it is a slight effort.(目的や考えが違っても、現在倒すべき敵は共通しています。わずかでも共闘しても問題ないはずです。)”
 ハデスもメイに向けって助言を送る。
(私はヒカルと共闘するつもりはない・・私は私で、まずヤツを倒す・・・!)
 それでも自分の考えを変えないメイに、ヒカルは笑みをこぼした。
(ドライブウォーリアーになっても、ぶつかり合っても、私もメイも頑固者だってことは変わってないみたい・・・)
 メイとの時間を思い返して、ヒカルは安らぎを感じていた。
「私は理想郷を目指す。その道を阻むならば、何者であろうと葬る。」
 表情も考えも変えないコスモが、ヒカルとメイに目を向ける。
「コスモ、おめぇの相手はオレだぞー!」
 タクミが声を張り上げて、コスモの前に飛び出してきた。
「こっちだ、こっちー!さっさとかかってこいよー!」
 タクミがコスモを挑発して、大振りに手招きをする。
「邪魔をする者は、何者であろうと倒すだけ・・」
 コスモがタクミに狙いを定めて、高速で向かっていく。
「ギャラクシー!」
 タクミが構えたギャラクシーが、ドライブチャージを行って魔力を集中させる。コスモが放った光を、ギャラクシーが真っ二つにした。
「それで私を止められると思わないことだ。」
 コスモが魔力を込めて、光の威力を上げていく。タクミが踏みとどまろうとするが、徐々に光に押されていく。
(タクミさん、上に飛んで!)
 アリシアが念話で呼びかけて、タクミが力を振り絞って上へ飛ぶ。コスモが彼の動きを見て飛翔した。
 そのとき、コスモが手首と足首に光の輪が付けられて、動きを封じられた。アリシアが設置していたライトニングバインドが、コスモにかけられた。
(ヒカルさん、メイさん、今のうちに・・!)
 アリシアがヒカルたちに向けて念話を送る。彼女はコスモを封じるバインドの維持に、必死になっていた。
「ドライブチャージ!」
 ヒカルとメイがそれぞれ右手と左手に魔力を集中させる。2人がコスモに向かって同時に飛び出した。
 その瞬間、コスモがライトニングバインドを解除した。
(これじゃ決定打を与えられない・・!)
 コスモにすぐに回避されると思い、アリシアが緊張を膨らませる。
「させないぞ!」
 ブレイドがコスモに飛びかかり、トランザムを振りかざす。同時にタクミもギャラクシーを振って、コスモを狙う。
 トランザムとギャラクシーはコスモの発していた魔力に止められるも、コスモが動きを鈍らせた。
「わずかでも動きを止められれば・・!」
 タクミが声を振り絞って、ブレイドと力を合わせてコスモを止めようとする。
「どのような手を打っても、私は止まらない・・理想郷にたどり着くまでは・・」
 コスモがギャラクシーとトランザムを押し返そうとする。
「同じことを何度も・・!」
「これ以外のことを考えていないようだ・・!」
 タクミとブレイドがコスモの変わらない思考に毒づく。
「こういうやり方は気が進まないけど、みんなが悲しまないために、力で食い止める・・・!」
 アリシアが覚悟を決めて、バルディッシュを構えた。
「バルディッシュ、フルドライブ、行くよ・・・!」
 アリシアが呼びかけて、バルディッシュがカートリッジを装填する。
“Zanber form.”
 バルディッシュがザンバーフォームになって、光の刃を発する。さらにカートリッジを装填して、バルディッシュの刃が大きくなっていく。
「撃ち抜け、雷神!」
“Jet zanber.”
 アリシアがコスモ目がけてバルディッシュを振り下ろす。コスモが全身から魔力を放出して、バルディッシュの光の刃さえも押し返そうとする。
 タクミ、ブレイド、アリシアがコスモの魔力の衝撃に押されて吹き飛ばされる。同時にコスモの魔力がガラスのように砕けて、彼の動きが鈍った。
(今だよ!)
 アリシアが念話を送って、ヒカルとメイが同時に飛び出した。2人が繰り出した拳が、コスモの体に叩き込まれた。
 コスモの体にヒカルたちの拳がめり込んだ。彼の体から魔力が光となってあふれ出した。
「やった・・全力全開の直撃だ・・!」
 ヒカルたちがコスモに打撃を当てたのを見て、タクミが笑みをこぼす。
「この攻撃は効いた・・お前たちが力を貸してくれたならば、理想郷へもっと早く辿りつけただろう・・・」
 大きなダメージを負いながらも、コスモは自分の中にある追及をやめない。
「あなたの中にしかない理想郷なんて、全く興味はないよ・・・!」
「それでも理想郷を求めるなら、あなたの手で理想郷を作り上げるしかないよ・・!」
 メイとヒカルがコスモに向けて鋭く言いかける。
「他人から奪ったり苦しめたりしてでしか見つからない世界なんて、理想郷のわけがない・・そんなことじゃなくて、みんなで力を合わせて、ゆっくり見つけていこう・・」
「時間は惜しい・・全てが滅ぶ前に、理想郷を見つける・・・」
 呼びかけるヒカルだが、コスモは自分の考えを変えない。
「理想郷という幻想しか見ようとしないなら、あなたの結末は2つだけ。倒されるか、たった1人の世界の王様になるか・・」
 メイが低い声音でコスモに忠告する。
「もっとも私は、あなたの世界で生きるつもりはないけど・・・」
「私しか、全てを平穏にすることはできない・・私が、理想郷を・・・」
 自分の意思を貫くメイに対して、コスモは理想郷への執着を口にする。
「そんなに自分だけの理想しか見えてないっていうなら・・・!」
 ヒカルが声と力を振り絞って、拳をコスモの体に食い込ませる。
「私があなたを全力で止める・・私たちの居場所を壊させないし、大切な人をこれ以上傷つけさせない・・!」
 ヒカルが思いを込めて言い放ち、拳を押し込んでコスモを突き飛ばした。空中で踏みとどまるコスモは、表情を変えてはいない。
「私は誰の思い通りにもならない・・もちろん、あなたの理想にもね・・・」
 メイも自分の考えを告げて、左手を強く握りしめる。
「私はみんなと一緒にいるこの場所が好き・・一緒に力を合わせたり、喜びや悲しみを分かち合ったりする場所が好き・・その場所を、私は私にとっての理想郷じゃないかなって思う・・・!」
 ヒカルが自分の思いをコスモに伝える。
「だから私たちは、あなたの求める理想郷を拒絶する・・あなたのために、これ以上犠牲を出すわけにはいかない!」
 彼女も右手を強く握りしめる。
“Drive charge.”
 ヒカルとメイの拳に魔力が込められる。
「お前たちが邪魔をしてこようと、私が止まることはない。お前たちの考えを通すこともできない。」
 コスモが意思を貫こうとして、ヒカルたちに向かっていく。
「止める・・絶対に止めてみせる!」
 ヒカルが言い放って、メイと同時に拳を繰り出した。魔力の込められた2人の拳が、コスモの体に直撃した。
 コスモが全身に衝撃を覚えて、動きを止めた。
「やったのか・・・!?」
「2人とも直撃させてる・・合計4発もくらって何ともないなら、どうしたらいいか分からなくなってしまう・・・!」
 ブレイドとタクミがコスモの様子を注視する。コスモがダメージを大きくして、その場に膝を付く。
「私は・・立ち止まるわけにはいかない・・理想郷に、たどり着く・・・」
 理想郷への意思を崩さないコスモ。しかしその意思と裏腹に、彼は体を動かすことができなくなっていた。
「植え付けられた考えに、体が付いてこれなくなっている・・」
「私たちの攻撃を、これだけまともに受けているんだから・・・」
 メイとヒカルがコスモの状態を見て呟く。
“It seems that there is no magic left to continue the battle.It will not move as well.(戦闘を続けられるほど、魔力は残っていない模様。動くこともままならないでしょう。)”
 カイザーがコスモの状態を分析して、ヒカルに告げる。
「でもまだ油断できない・・真っ直ぐな気持ちがあるとどんな状況でも乗り切ろうとするのを、私たちは知っている・・」
「それが、植え付けられたものだとしても・・そのことにいつまでも気付かないとしても・・・」
 ヒカルが警戒心を解かず、メイが皮肉を口にする。
 そのとき、コスモの頬に亀裂が入った。この異変にヒカルたちが警戒を強める。
“もうコスモの体に限界が来たようね。”
 ミュウの念話がヒカルたちとメイに伝わった。
(限界が来たって・・まさか・・・!?)
 アリシアが驚愕を覚えて、コスモを注視する。ひび割れが広がるコスモの体が崩れ出す。
「理想郷にたどり着く・・争いや絶望がなく・・全ての命、全ての世界が平穏でいられるように・・・」
 弱々しく声を発するコスモ。彼の体が崩壊して、消滅を果たした。
「これで、ヴァンフォードのマスター、コスモが最期を迎えたのか・・・」
“コスモは理想郷という目的のために、たくさんの魔力を奪って自分の力にしてきた。そのたくさんの魔力に肉体が耐えられなくなって、負荷も増して・・”
 ブレイドが呟き、ミュウがコスモに起こった事態を説明する。
「このように、肉体が崩壊してしまったのね・・自分自身、それに気付かないまま・・・」
 メイもコスモの最期に対して皮肉を口にした。
「ガリューたちは魔力を失い、コスモは滅びた・・ヴァンフォードは実質壊滅したということだな・・」
 ブレイドが状況を確認して、倒れているガリューたちに目を向けた。
「ヴァンフォードの本拠地を見つけて調査して、今回の事件は収束に向かうだろう。」
 ブレイドが言いかけて、ヒカルとアリシアが小さく頷いた。
「その本拠地はどこにあるんだ・・・?」
“それなら今突き止めたところだよ。みんな、いったんこっちに戻ってきて。ローザたち3人も一緒にね。”
 タクミが疑問を投げかけて、ミュウが答える。ヒカルたちの戦いの最中、ウィザードとウィッシュがフロンティアの位置を突き止めていた。
「みんな、本部に戻るぞ。メイ、君もだ・・」
 ブレイドがヒカルたちに呼びかけて、メイに目を向ける。
「私はヒカルを倒すことを諦めていない・・今、コスモと戦ったのは、それを邪魔されたくなかったからよ・・」
「メイ・・・」
 自分の考えを告げるメイに、ヒカルが深刻な面持ちを浮かべる。
「今回は引き下がる・・今度は誰にも邪魔されずに、あなたとの決着を付ける・・・」
 ヒカルを倒す意思を改めて示したメイ。
「メイ・・それ以外に道がないっていうなら、私はその挑戦を受けるよ・・でも、他のみんなを巻き込むようなことはしないで・・・」
 するとヒカルが真剣な面持ちで、メイに告げる。ヒカルはタクミやアリシアたち、大切な人が争いに巻き込まれることをよく思っていなかった。
「それは聞き入れる・・しかし近いうちにあなたとの決着を・・・」
「1対1の勝負なら、私は逃げずに受けるよ・・・!」
 互いの意思を受け取って、メイとヒカルが笑みを見せ合った。メイが高速で駆け出して、ヒカルたちの前から去っていった。
(メイ、挑戦は受けるよ・・その後で、仲直りできたらいいと思う・・・)
 メイとの再戦と和解を予感して、ヒカルは彼女を見送った。
「ヒカル、早く行こう。みんな先に行ってしまうぞ。」
「あ、うん・・」
 タクミが声を掛けて、ヒカルが我に返って頷いた。2人はアリシア、ブレイドを追うように、ロードサイドの本部へ戻っていった。

 ヒカルたちの本部への転移を行ったウィザードとウィッシュ。作業を行う中、ウィザードが大きくため息をついた。
「何でアイツを逃がしちゃうんだよ!?あのメイってヤツ・・!」
「あの子ならきちんと向き合ってくれる。卑怯なマネをしない。ヒカルだってそう思ったから、今捕まえなかったのよ。」
 不満の声を上げるウィザードに、ミュウが冷静に答えた。
「もしも何か悪さをするようなら、今度こそ捕まえればいいだけのことだからね。」
「もう、ミュウもヒカルも甘いんだから・・どうなっても知らないよ・・!」
 笑みを見せるミュウに、ウィザードは不満いっぱいになっていた。ウィッシュが2人を見て微笑んでいた。
 ウィザードたちによる転移で、ヒカルたちがロードサイド本部に戻ってきた。
「ただ今戻りました・・すみません、メイを逃がすことになってしまって・・・」
「いいよ。ヴァンフォードを止めることはできたんだから・・」
 謝るヒカルにミュウが気さくに答える。
“I know Hades reaction and location information.Sensing is possible if you are nearby.(ハデスの反応と位置情報は把握しています。近くにいれば感知が可能です。)”
 カイザーがヒカルたちに向けて助言を送る。
「だからヴァンフォードみたいに厳しく警戒する必要はないと思います・・そして今度こそ、私とメイで決着を付けたいと思っています。」
「ヒカルちゃん・・そうね。今は様子を見ることにするわ。」
 ヒカルの考えを聞いて、ミュウが微笑んで頷いた。
「少し休んでて。ヴァンフォードの本拠地に乗り込むのはその後。」
「ちょっとでも動きを見せたら、すぐに知らせるから安心しとけ。いざってときに戦えなかったらダメだからな。」
 ミュウとウィザードがヒカルたちに呼びかける。ヒカルたちは頷いて、休息を取ることを決めた。
 そのとき、ヒカルがふらついて、倒れそうになったのをタクミに支えられた。
「大丈夫か、ヒカル!?力を使い過ぎたからじゃ・・!?」
「そうみたい・・でも少し休めばまた動けるよ。」
 心配するタクミに、ヒカルが微笑んで答える。
「オレがムチャしないように見ておきますよ。」
「私もそばについています。私も、ヒカルさんのそばにいたいから・・」
 タクミとアリシアがヒカルの面倒を見ることを進言した。
「了解。2人とも、ヒカルちゃんのことお願いね。」
「みんなったら、私は子供じゃないのに・・・」
 ミュウが信頼を投げかけられて、ヒカルが苦笑いを浮かべた。
「子供扱いなんてできるわけないって。ヒカルがいなかったら、みんなやられてたんだから・・」
「タクミ・・・」
 タクミも苦笑いを浮かべて言って、ヒカルが戸惑いを感じていく。
「ヒカルさん、タクミさん、行きましょう・・」
 そこへアリシアが呼びかけて、ヒカルが我に返った。
「う、うん・・」
 ヒカルが頷いて、タクミたちとともにこの場を後にした。
「さてと、あたしらはさっさとヴァンフォードの残りのヤツらを監視するよ!」
「うん。」
 ウィザードが呼びかけて、ウィッシュが頷いた。2人はフロンティアの動きから目を離さないようにした。

 ロードサイドでの自分の部屋に戻ったヒカルは、タクミとアリシアに支えられて椅子に腰を下ろした。
「メイってヤツと戦って、そのままヴァンフォードの連中と戦って、ヘトヘトにならないほうがおかしいって・・オレだってきついと思ってたんだから・・」
 タクミがヒカルをなだめて、自分の気分について正直に言う。
“I know my physical condition, so I won't let you go away.(私が体調を把握していますので、すぐに無茶はさせません。)”
 カイザーもヒカルの状態をチェックして、彼女を落ち着かせる。
「カイザーまで私のことを子ども扱いして~・・」
 ヒカルが落ち込んで、タクミとアリシアが笑みをこぼした。
「最後にはお前に助けられてしまった・・オレのほうが全然弱いってことだよな・・・」
「ううん。タクミは強いよ・・タクミがいなかったら、私もみんなもここに戻ってくることができなかった・・・」
 肩を落とすタクミに、ヒカルが弁解を入れる。彼女はタクミからの助けに感謝していた。
「これは、持ちつ持たれつってところか・・」
「そうだね・・エヘヘ・・」
 タクミが気さくに言って、ヒカルが笑みをこぼした。2人のやり取りを見聞きして、アリシアも笑みをこぼした。
「疲れてはいるけど、気持ちのほうは元気みたいだね。」
「エヘヘ・・気持ちだけでも笑顔になっておかなくちゃね。」
 アリシアから言われて、ヒカルが照れ笑いを見せた。
(みんな無事だった・・もう私は、失うことなんてない・・・)
 大切な人がいなくならなかったこと、ひとりぼっちにならなかったことを、ヒカルは心から喜んでいた。その思いの強さのあまり、彼女は目から涙をあふれさせていた。
「ヒカル、どうした?・・何があったのか・・!?」
 その様子を見て、タクミがヒカルを心配する。
「えっ?・・・う、ううん、何でもない、何でも・・」
 ヒカルが我に返って、涙を拭って苦笑いを見せた。
(ヒカルさん・・・)
 ヒカルの心境を察して、アリシアは共感して微笑んでいた。

 ヒカルたちが休息を取っている中、ミュウたちはフロンティアの監視を続けていた。
「ヴァンフォードの主力がいなくなって、全然動きを見せなくなったね・・」
「逃げる方法でも考えてるのかと思ったけど、ちょっと時間がかかりすぎてるし・・」
 フロンティアのことを気にして、ウィッシュが当惑して、ウィザードが腕組みをしてため息をつく。
「中まではハッキリとは分からないわ。注意を怠らないようにね。」
 ミュウが注意を投げかけて、ウィザードたちが頷いた。
(マスター・コスモが消えて、ガリューたち3人も拘束した。残っているのはもう誰もいない・・それなのに何も動きが見えないのが気にかかる・・)
 ミュウがフロンティアの動きをうかがいながら、警戒心を強めていく。
(ブレイドたちが魔力を回復させるまで、こっちも派手に動けないんだけどね・・)
 彼女は苦笑いを浮かべながら、フロンティアの監視を続けた。

 コスモたちが敗れて、リオは1人フロンティアに戻っていた。しかしどうしたらいいのか分からなくなり、彼女はフロンティアから動けずにいた。
「どうしたらいいの?・・地球に戻れないし、他の世界に行くにしてもどこに行ったらいいのか・・・!」
 自分が助かるための最善の方法を考えていくリオ。しかし考えれば考えるほど、彼女の焦りは増していた。
「こうなったら、このフロンティアを動かして、私だけ・・!」
 ようやく脱出の方法を決めたリオ。彼女はフロンティアのメインコンピューターの前に来た。
「フロンティアが動けば、ヒカルたちはここに乗り込んでくる・・そのときに・・・!」
 不敵な笑みを浮かべて、リオがコンピューターを操作する。沈黙していたフロンティアが動き始める。
「これで私は脱出をすれば・・・!」
 策略を巡らせて勝ち誇るリオ。彼女はフロンティア内にある小型船で、別方向へ逃亡しようとしていた。


次回予告

闇の宿命に翻弄され、絶望に打ちのめされた過去。
その傷を抱えながら、ヒカルは日常を生きる。
新たな家族、新たな仲間を得て。
少女はもう、孤独に負けることはない。

次回・「確かな明日へ」

 

 

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