Drive Warrior Gears

Episode22「ふたりの始まり」

 

 

 ヒカルとの戦いの後、ロードサイドの本部に転送されたメイ。彼女は鍵付きの病室のベッドで眠っていた。
 やがて意識を取り戻したメイは、見知らぬ天井を目にして当惑を覚える。
(ここは・・知らない場所・・ヴァンフォードの基地でもない・・・)
 メイが周りを見回して、自分がいる場所がどこかを確かめようとする。
“There is no data of this place. Barriers are set up in the surroundings, and location information can not be obtained.(この場所のデータはありません。周辺に障壁が張られていて、位置情報も入手できません。)”
 ハデスも周辺を分析するが、居場所を把握することができない。
(魔法は使えない・・手足に付けられているバインドで、魔力が抑えられている・・・)
 メイが自分の手首と足首に付けられている光の輪を確かめる。この光の輪が彼女の魔力を封じていたのだった。
“意識が戻ったようね、あなた。”
 部屋の中に声が響き、メイが警戒を強める。
「ここはどこだ?あなたたちは・・?」
“私たちはロードサイド。そこは本部の1室よ。念のためにあなたの魔力を封じさせてもらったわ。あなたほどの魔力と身体能力なら、気休め程度にしかならないでしょうけど・・”
 メイが問いかけて、声の主であるミュウが答える。
“あなたはヒカルちゃんと戦った後、彼女があなたを連れてきて、私たちがこっちへ転送したの。ヴァンフォードではないけど、私たちに攻撃してきたこともあるから、念のためにその措置は取らせてもらったわ。”
「それで私をここに閉じ込めたのね・・ヒカルに敗れた時点で、私に戦う理由も生きる意味もない・・」
 ミュウから事情を聞いたメイが、物悲しい笑みを浮かべる。彼女は手足にあるバインドを外そうとも思っていなかった。
“ヒカルちゃんたちはまだ戦いを続けているわ。ヴァンフォードとね・・”
 ミュウがメイに現状を説明する。
「私はヒカルだけでなく、お前たちにも敵対してきたのよ。その私にそんなことをしても、自分の首を絞めるだけよ・・」
“あなたは敵対関係にあったけど、ヒカルからは友人と聞いているわ。だからあんまり邪険にするのはよくないかなってね。”
 皮肉を口にするメイに、ミュウが自分とヒカルの思いを告げる。
“あなたとヒカルに何かあったのかは、情報でしか知らない。だからあなたたち2人で、また話でもしてみたらどうかしら?”
「私とヒカルが・・私たちに話すことなんて、何もない・・私は彼女を許さない・・私の全てを奪ったヒカルを倒すことが、私の生きがいだったのに・・・」
 ミュウが投げかける言葉を受けて、メイが物悲しい笑みを浮かべた。
「ヒカルに完敗した私に、もう生きる理由はない・・処刑するならすればいい・・」
“私たちはヴァンフォードとは違う。敵だからって処刑とか抹殺とかはしないわよ。”
 諦めの態度を取るメイに、ミュウが呆れ気味に答える。
“ヒカルちゃんは、あなたと共闘するのを望んでいるみたいね。また一緒に話したり体を動かしたりできたらって。”
「もう私がヒカルとそういうのをすることはないわ・・私たちはもう、分かり合えない敵対関係にあるのだから・・・」
“ヒカルはそうは思っていないわ。1回話をしてみたら?”
「話すことなどない・・そんなことをしても分かり合えないほど、溝は深まってしまった・・」
 ミュウが励ましを送るが、メイは頑なにヒカルとの対話を拒む。
“1度会ってみればいいわ。顔を合わせれば、何か変わるかもしれないわよ。”
 ミュウがそう言うと、メイとの通信が終わった。
(もう何も変わりはしない・・私はヒカルを倒すためだけに生きてきた・・ヒカルと話して分かり合うなど、私の生きる理由に反する・・・!)
 メイが自分に言い聞かせて、ヒカルとの対話をしまいとする。
“You should truly want to talk to her.(あなたは本当は彼女と話をしたいと思っているはずです。)”
 するとハデスがメイに助言を投げかけてきた。
(私の気持ちを勝手に決めないで・・私は本当に、ヒカルとは・・・!)
“I understand. Because I am one and the same body relationship with you.(分かります。私はあなたとは一心同体の関係にあるのですから。)”
 反論するメイに、ハデスがさらに呼びかける。
(そうやって分かった気にならないで・・私の気持ちを勝手に決めないで・・・!)
“It is yourself that is trying to change the true feelings.(本当の気持ちを変えようとしているのは、あなた自身のほうです。)”
 言い返すメイにハデスがさらに告げる。
“I do not know what will happen. But if we do not face each other, there is not any progress.(どのような結果になるかは分かりません。しかし向き合わなければ、何の進展もありません。)”
(そんなことは・・・)
“Let's meet again. Let's meet and talk.(もう1度会いましょう。会って話をしてみましょう。)”
 ハデスの言葉を聞いて、メイは困惑を募らせていく。自分は何をすべきか、自分は何をしたいのか。その答えを見出せず、彼女は苦悩を深めていた。

 ヒカル、アリシア、ブレイド、タクミをローザ、ガリュー、ラムが攻め立てる。両者の攻防を見つめて、コスモは悠然としていた。
「あの力、理想郷のためになるのがよかったのだが・・阻むものでしかないのなら、排除する以外にない・・」
 コスモはヒカルたちが葬られることを見据えていた。
「あなたたち・・コスモにいいように利用されているだけだよ!」
「マスター・コスモはあたしに力をくれたのよ!この力で、あたしは存分に暴れるだけだよ!」
 戦いをやめるよう呼びかけるヒカルだが、ラムは彼女たちをあざ笑う。
「オレたちは既に決意している・・マスターの理想郷を築くために全てを捧げると!」
「だから自分がどうなろうと、もう構いはしないのよ!」
 ガリューとローザが自分たちのコスモへの忠誠心を貫く。
「そうやって誰かが犠牲になる世界が、理想郷だとは思えない・・!」
「そんなものは作らせない!私たちがあなたたちを必ず止める!」
 アリシアとヒカルが言い放って構えを取る。
“Cartridge load.”
“Drive charge.”
 バルディッシュとカイザーに魔力が込められる。ヒカルとアリシアが同時に飛び出して、加速してローザたちに向かっていく。
「まさかアンタたちと力を合わせて戦うなんてね・・!」
「マスターの理想郷を実現するという共通の目的があるからね・・」
 互いに皮肉を言い合うラムとローザ。考えが相容れずとも同じ目的のために、彼女たちもガリューも手を組んでいた。
「言葉で説得するのは不可能ってことなのかよ・・!」
 タクミがガリューたちに対していら立ちを噛みしめる。
「本位じゃないけど、力ずくで止めるしかない・・そうしないと止まらないっていうなら・・!」
 ヒカルが迷いを振り切り、ローザたちの攻撃を止めることに集中する。タクミ、アリシア、ブレイドも同じ思いだった。
「決着を着けるぞ、ガリュー・・!」
「望むところだ・・お前の息の根を止めて、オレが上だということを証明する!」
 言いかけるブレイドに、ガリューが言い放つ。彼が繰り出す拳を、ガリューがトランザムで受け止める。
 ローザが魔力を放出して、アリシアを狙って光の弾を放つ。アリシアは高速で動いて、光の弾の包囲網をかいくぐる。
 次の瞬間、アリシアは突然動きを止めて、周囲に意識を傾ける。
(バインドが設置されている・・それも1つや2つじゃない・・・!)
“Binding is set to surround the surroundings. Release it immediately and open your way.(周囲を取り囲むように、バインドが仕掛けられています。すぐに解除して活路を開きます。)”
 アリシアがバインドによる罠に気付き、バルディッシュが呼びかける。
(気付いたようね。それでも逃げ切れないわよ、もう・・)
 ローザは余裕を見せて、動きを止めているアリシアに追撃を仕掛けようとする。
“I found a escape route. 36 degrees forward and 73 degrees right.(脱出ルートを見つけました。前方上36度、右73度。)”
 バルディッシュが情報と指示を出して、アリシアがそのルートを認識して加速する。
(そこに向かうのは予測しているわよ・・!)
 ローザが目を見開いて、バインドの包囲網を抜けたアリシアの前に回り込んだ。
「待ち伏せして来ることは予想してました・・!」
 アリシアがローザに向かって言いかけた。次の瞬間、ローザの手足に電撃を帯びた光の輪がかかって動きを封じた。
「何っ!?私が動きを止められた!?」
 捕まえるつもりが逆に捕まえられたことに、ローザが驚愕をあらわにする。もがいてバインドから抜け出そうとする彼女の前に来て、アリシアがバルディッシュを構える。
「私たちはあなたたちを倒したいんじゃない・・止めたいと思っている・・」
 アリシアが沈痛の面持ちでローザに向かって言いかける。
「止めれば考えが変わるとでも思っているのかしら?それとも何度も止めるつもりでいるの?それもそれで無理やりじゃないの・・?」
「そうかもしれない・・それでもあなたたちを止められて、みんなを守れるのなら・・・!」
 あざ笑うローザだが、アリシアの意思は許さない。強引という理不尽をしている罪悪感を感じながらも、それでもアリシアは自分の意思を貫こうとする。
「ウフフフ・・とんだ正義の味方ね・・・!」
 ローザはさらにあざ笑い、自分に掛けられているバインドを解除しようとする。アリシアが構えたバルディッシュが、カートリッジを装填する。
「プラズマスマッシャー!」
 アリシアが左手から閃光を放って、ローザに直撃させた。
「うあぁっ!」
 魔力を大きく削られて、ローザが絶叫する。彼女が力を出せなくなり、バインドに手足を束縛されたままうなだれる。
「もう・・終わりのようね・・・遠慮せずにとどめを刺すといいわ・・・」
 打開の糸口がないと悟り、ローザが諦める。
「私たちは傷つけたり壊したりするために戦っているんじゃない・・大切なものを守るために、悲しみを広げるものを止めるために戦う・・」
 アリシアは真剣な面持ちのまま、ローザに言いかける。
「そんな綺麗事、マスター・コスモの理想郷には遠く及ばないわ・・」
 ローザは嘲笑を浮かべてから、意識を失ってうなだれた。
(ウィザード、ウィッシュ、この人をお願い・・)
“分かったよ!任せといて!”
 アリシアが念話を送って、ウィザードが答える。ローザがロードサイドへと転送された。
「みんなのところに急がなくちゃ・・・!」
 アリシアは気を引き締めなおしてから、ヒカルたちのところへ向かった。

 トランザムを振りかざすブレイドと、魔力の剣を2本具現化するガリュー。2人の刃が激しくぶつかり合い、火花のような衝撃が立て続けに起こる。
「ブレイド、貴様との決着、今ここで着けてやるぞ・・!」
「ガリュー、お前とは何度も剣を交えてきた・・お前がヴァンフォードの一員になる前から・・だが、それも終わりとなる・・!」
 ガリューとブレイドが互いに鋭く言いかける。
「そうだ・・オレが貴様の息の根を止めることによって・・・!」
 ガリューが笑みを浮かべて、刃をトランザムとぶつけ合い、ブレイドとつばぜり合いを演じる。
「オレには帰るべき場所がある・・仲間や、これからを強く生きていく者たちのために、オレが体を張る・・!」
「くだらないことを・・そんなものに執着する弱さは、オレにはない・・!」
 決意を言い放つブレイドに対して、ガリューが吐き捨てる。
「オレは強さを追い求めるために、かつてあったあらゆるものを切り捨てた・・そしてオレは、マスター・コスモの絶対的な力に心を奪われた・・!」
 ガリューがブレイドに自分のことを語りかける。
「マスターの理想郷ならば、オレはさらなる高みへ上がることができる・・!」
「それがお前の目指す強者の姿なら、それは理想郷ではなく幻想だ・・そのうち誰からもお前の力を認めてもらえず、しかもコスモに駒として利用される結末を送るだけだ・・!」
 野心を見せるガリューに、ブレイドが反論する。
「最強に近づけるなら、マスターの人柱になろうと構わん!」
「そこまで堕ちたか、ガリュー!」
 力への執着と野心をむき出しにするガリューに、ブレイドが怒号を放つ。ブレイドが振り下ろしたトランザムを、ガリューが剣で受け止める。
「そんなものは幻想でしかない!お前がつかもうとしている最強の称号も、コスモの口にする理想郷も!」
「貴様は何も分かっていない!分かろうとすらしていない!・・貴様はいつもそうだった・・!」
 ブレイドの呼びかけを拒絶して、ガリューが鋭く言い返す。彼が剣に力を込めて、ブレイドとトランザムを押し返す。
「貴様はオレの行く手を阻む・・貴様はオレの進む道を阻む・・だが、それもこれまでだ!」
 ガリューが言い放ち、剣を構えてブレイドに向かっていく。
「貴様の息の根を止めて、オレが真の勝利をつかむ!」
「まやかしの力に、オレは負けない・・負けるわけにはいかないのだ!」
 剣を振りかざすガリューに意思を叫び、ブレイドがトランザムを振りかざす。しかしガリューの力に押されて、ブレイドが突き飛ばされる。
“Die Macht steigt dramatisch. Dies kann zu todlichen Verletzungen fuhren.(パワーが格段に上がっています。油断すると致命傷になりかねません。)”
 トランザムがブレイドに注意を投げかける。
(ならばあの形態をとるしかない・・トランザム、お前に負担をかけてしまうことを許してほしい・・!)
“Aber Belastungen fur dich mehr als mich zu verhangen.(しかし私以上にあなたにも負担を強いることになります。)”
 決断を下すブレイドに、トランザムが警告を送る。
(ヒカルたちも命懸けで親友と向き合い、ヴァンフォードと戦っている・・オレが安全にすがるわけにはいかない・・!)
 しかしヒカルたちを思うブレイドの決意は固かった。
“Ich verstehe. Um die Belastung fur Ihre ich auch Unterstutzung bei allem, was zu minimieren.(分かりました。あなたの負担を極力抑えるように、私も全力でサポートします。)”
(トランザム・・ありがとう・・・行くぞ・・!)
 ブレイドが心の中で感謝して、トランザムを構えた。
“Blitz form.”
 トランザムの刀身の形状に変化が起こった。その刀身から大きな光の刃が現れた。
 トランザムのもう1つの形態「ブリッツフォルム」である。
「魔力は一気に高まったが、そのような大振りの剣では回避はたやすいぞ・・!」
 ガリューが笑みを強めて、ブレイドに向かって飛びかかる。スピードを上げるガリューに対し、ブレイドがトランザムを振りかざす。
 ガリューはトランザムの一閃をかわして、光の剣をブレイド目がけて振りかざす。
「なっ!?」
 次の瞬間、トランザムがガリューの手から光の剣をはじき飛ばした。トランザムの一閃が再び放たれたのである。
 大型の刀身のブリッツフォルムのトランザム。外見以上のパワーと、外見と裏腹のスピードを兼ね備えていた。
「見た目だけで判断するのは浅はかだぞ・・」
 ブレイドが言いかけて、トランザムを構える。
「このパワーとスピードで、確実に決定打を与える・・わずかの油断でも命取りになると思え・・!」
 ブレイドが鋭く告げて、ガリューがいら立ちを募らせる。
(もっとも、ブリッツフォルムの長時間の使用は、オレにとっても命取りになるが・・・!)
 ブレイドは自分自身の負担を痛感していた。ブリッツフォルムによるパワーとスピードは、彼自身にも大きな負担をかけていた。
「ならば一気に終わらせてやる・・これ以上、貴様がいい気にならないうちにな!」
 ガリューが怒号を放って、光の剣を投げつける。ブレイドがトランザムを構えて、光の剣を弾く。
 ガリューが両手を握りしめて、拳に魔力を集中させる。
「たとえオレを確実に捉えるならば、それを受けながらも、貴様に決定打を叩き込むまでだ!」
「肉を切らせて骨を絶つ・・玉砕覚悟ということか・・・!」
 言い放つガリューにブレイドが低い声で言い返す。
(すぐに決着を付けられるなら、オレにとっても好都合だ・・!)
 飛びかかってきたガリューを見据えながら、ブレイドがトランザムに意識を集中する。
(ここで、お前との因縁を終わらせるぞ、ガリュー!)
 目を見開いたブレイドがガリューを迎え撃つ。
「終わりだ、ブレイド!」
 ガリューが魔力を込めた2つの拳を、ブレイド目がけて繰り出す。
“Blitz explosion.”
 カートリッジロードを3発分行ったトランザムを、ブレイドが振りかざす。稲妻のような閃光をまとったトランザムが、ガリューの拳とぶつけ合う。
 トランザムが拳を押し返し、ガリューの体に叩き込まれた。
「ぐっ!」
 ガリューが体への激痛に襲われて目を見開く。トランザムの速く重い一閃は、彼の発揮していた魔力を切り裂いていた。
 ガリューが地面に仰向けに倒れて動けなくなる。体力と魔力を大きく消耗した彼は、自力で動くことができなくなっていた。
「まさかここで、魔力ダメージに攻撃を集中させるとは・・・!」
 ガリューが声を振り絞り、ブレイドに視線を向ける。
「オレたちはお前たちのような人殺しではない・・お前たちの攻撃の手を止め、拘束する。それだけだ・・・!」
 ブレイドが冷静さを浮かべて、ガリューに言いかける。
(それだけでなく、オレの力が、お前のとどめを刺すほどでなかったのもあるが・・)
 表に出さないようにしていたが、ブレイドは体の痛みを感じていた。ブリッツフォルムのトランザムを使って、彼の体は限界を迎えていた。
「お前は、オレが超えることのできない壁だったようだ・・・」
 自分の敗北を認めて、ガリューが脱力する。
(ミュウ、こちらも終わった・・拘束を頼む・・)
“分かったわ。あなたも1度戻って回復に専念して。”
 ブレイドが念話を送って、ミュウが呼びかける。
(そうはいかない・・ヒカルたちがまだ戦っているのに、オレだけ引き上げるわけにはいかない・・)
“ブレイド・・でもあなたの体は今は・・・”
(動き出すのは少し体を休めてからだ。すぐに動けないことは、オレも十分分かっている・・)
“ブレイド・・分かったわ。でも本当にムチャするのはなしだからね・・”
 ブレイドの意思を汲み取って、ミュウが励ましの言葉を送った。
(すまない、ミュウ。ありがとう・・)
 ブレイドがミュウに感謝してから、ひと息ついて体力の回復に努めた。
(ある程度まで回復するまではじっとしている他ないな・・)
“Sofort informiert die anderen Feinde zu jener Zeit.(他の敵が来た時にはすぐに知らせます。)”
 心の中で呟くブレイドに、トランザムが助言する。
(お前もすまない、トランザム・・)
 ブレイドはトランザムにも感謝して、つかの間の休息を取るのだった。

 ヒカルとタクミを狙って、ラムが力任せに攻め立てて拳を振りかざす。ヒカルたちは打撃を回避して、ラムとの距離を保っていく。
「このままコスモと一緒に戦っても、あなたが犠牲になるだけだよ!」
「あたしは死なないよ!これだけすごい力を持ってるんだからね!仮にマスターがあたしを人柱にしてるとしても、あたしにとっては望むところだよ!」
 ヒカルが呼びかけるが、ラムは聞こうとしない。彼女は高まっている自分の力に溺れていた。
「やっぱアイツの暴走を止めるのが先決ってことか・・!」
 タクミがラムの力を抑え込むしかないと判断する。
「オレにやらせてくれ、ヒカル・・お前はまださっきの戦いの疲れが残ってるはずだ・・!」
「ダメだよ、タクミ!あなたじゃあれだけの力を抑え込むことはできないよ!」
 ラムを止めに向かうタクミを、ヒカルが呼び止める。
「ここでお前が苦労を全部背負い込むのを指をくわえて見てるなんて、オレにはできないよ!」
「タクミ・・・!」
「せめて、ヒカルの体力が回復するまでの時間稼ぎぐらいはやってやるさ・・!」
 想いを告げて意気込みを見せるタクミに、ヒカルが戸惑いを募らせていく。
「ありがとう、タクミ・・休むことにするけど、タクミが危ないと思ったらすぐに行くからね・・!」
「ヒカルらしいな・・気持ちのほうは参っていないってことか!」
 ヒカルが投げかけた言葉を聞いて、タクミが笑みを見せた。
「ゴチャゴチャしゃべっちゃって・・ムカつくんだよ!」
 ラムがいきり立って、ヒカルたちに向かって飛びかかる。タクミが前に出てきて、1つのデバイスを取り出した。
(ミュウさんが用意してくれた新しいデバイス・・これで切り抜けてみせる・・・!)
 タクミが待機状態のデバイスを見つめて、改めて決意を固める。
(頼む、ギャラクシー・・オレに力を貸してくれ・・・!)
 タクミがグラン式のデバイスの1種「ブレイドデバイス」の1つ「ギャラクシー」に呼びかけた。
“I have a high potential capability, and the reaction to the attack is also great. Outrageing, you will injure yourself.(私は潜在能力は高い分、攻撃の反動も大きいです。気を抜けば、あなた自身が傷つくことになります。)”
 ギャラクシーがタクミに向けて注意を投げかける。
(ミュウさんから聞いてる・・そうならないために鍛えられてきたんだ・・やれるって自信は十分ある・・!)
“I will work hard so that your burden will not be heavy.(私があなたの負担が重くならないよう尽力します。)”
 頷くタクミにギャラクシーが助言する。
「ギャラクシー、セットアップ!」
 タクミが呼びかけると、待機状態のギャラクシーが変化して、長い刀身の剣にあった。タクミの服装も変わり、青と白と銀のバリアジャケットを身にまとった。
「ギャラクシー、ソードモード!」
 「ソードモード」となったギャラクシーを構えて、タクミがラムの出方をうかがう。
「そんなデバイスを持ったところで、あたしに勝てやしないよ!」
 ラムがいきり立って、タクミに飛びかかる。タクミがギャラクシーを掲げて身構える。
「そんなもんで、あたしの攻撃を止められるものか!」
 ラムがあざ笑って、魔力を込めた拳を繰り出した。彼女の一撃がギャラクシーの刀身に命中した。
「ぐっ!」
 重い衝撃と激痛に襲われたのは、攻撃をしてきたラムのほうだった。彼女は右手を左手で押さえて、たまらず後ずさりする。
「な、何よ、その硬さ・・・!?」
 ラムがギャラクシーの刀身の硬さに、驚きを隠せなくなる。
「ギャラクシーは敵を倒すだけじゃなく、仲間を守るためのデバイスだって言ってた・・コイツの剣には魔力が込められているんだ・・!」
 タクミがラムに言い放ち、ギャラクシーを構える。ギャラクシーは魔力が込められることで、刀身の強度が増すのである。
「そんなもので、今のあたしが負けるなんてことはないんだよ!」
 ラムがいら立ちを募らせて、またタクミに飛びかかる。タクミがギャラクシーを振りかざして、ラムが繰り出した拳とぶつけ合う。
「うぐっ!」
 ラムが押し負けて、手に痛みを覚えてふらつく。
「まだだよ・・あたしが勝てない相手は、マスター・コスモだけなんだから!」
 ラムが目を見開いて、右の拳に魔力を集中させていく。
“The next blow is not likely to be prevented simply by defending. Let's take a counterattack.(次の一撃は防御するだけでは防げそうにありません。反撃に出ましょう。)”
(分かってる・・ここからが本気を出すときだ!)
 ギャラクシーの助言を受けて、タクミが頷いた。
「ドライブチャージ!」
 タクミがギャラクシーに魔力を込めた。ギャラクシーの刀身をまとう魔力の光が強まる。
「ビッグバンブレイク!」
 タクミがギャラクシーを振りかざして、ラムが繰り出した拳にぶつけた。
「ぐあっ!」
 込めた魔力を打ち破られて打撃を押し込まれ、ラムが右手に激痛を覚える。倒れた彼女が右手を押さえて、顔を歪めて悶絶する。
「あ・・あたしの手が・・・言うことを・・聞かない・・・!」
 右手が麻痺して魔力を込めることもできなくなり、ラムがうめく。
「おとなしく逃げたほうがいいぞ・・今度は体をバラバラにしちまうかもしれないぞ・・!」
 タクミがギャラクシーを構え直して、ラムに呼びかける。
「くっ・・・これで済んだと思わないことね・・あたしに勝てても、マスター・コスモには誰も敵わない・・それに、あたしも必ずアンタらを始末してやるからね・・!」
 ラムがタクミに対して怒りを口にする。
(正直、これ以上ビッグバンブレイクを使えなかった・・使ったら、オレの腕のほうがバラバラになってたかもしれない・・)
 タクミは心の中で戦いが長引かなかったことを安心していた。
「タクミ・・・!」
 そこへヒカルがやってきて、タクミに声を掛けてきた。
「タクミ、大丈夫!?ケガとかしてない・・!?」
「あぁ・・ヒカルは、もういいのか・・・!?」
 ヒカルとタクミが互いを心配して答える。
「ありがとう、タクミ・・ここからは私もやるからね。」
 ヒカルが呼びかけて、タクミが小さく頷いた。
「ラムたちで止められないほど、彼らは強くなっているようだ。」
 そこへコスモが声を掛けて、ヒカルたちの前に降り立った。
「マスター・コスモ・・・!」
 ヒカルがコスモを目の当たりにして身構える。
「マスター・・すみません・・アイツらを倒すことができなくて・・・!」
 ラムがコスモに謝って、頭を下げた。
「いや、お前は大いに貢献してくれた・・彼らを多少なりとも消耗させたこと・・そして・・」
 コスモがラムに目を向けて言いかけた。次の瞬間、コスモが手を伸ばしてラムの体に当てた。
「人柱となるほどに、力を高めたことに・・・」
「マ・・マスター・・!?」
 コスモに体をつかまれて、ラムが目を疑う。コスモはつかんだ手を通じて、ラムから魔力を吸い取っていく。
「コスモ、あなた、何を!?」
 ヒカルも声を荒げて、タクミも驚きを覚える。コスモに魔力を奪われて、ラムが脱力する。
「君の高まった力を、私の力とする・・ここまで高めてくれたことを、私は感謝する・・」
「マスター・・ホントに、あたしのことを人柱に・・・!?」
 微笑みかけてくるコスモに、ラムが困惑する。彼女はコスモのためになることをしたのか、彼に裏切られたのか、どちらが正しいのか分からなくなっていた。
 コスモに力を抜かれて、ラムが倒れて意識を失った。
「お前、仲間にこんなことをするなんて・・!」
 タクミがコスモの取った行動に、驚きと怒りを覚える。
「彼女は私の理想郷の人柱となることを望んだ。私はそれを聞き入れ、潜在能力を引き出した。彼女は限界以上まで引き上げた力を今、私に捧げたのだ。」
「コスモ・・その子もみんなも、あなたの玩具じゃない・・!」
 語りかけるコスモに、ヒカルが怒りを覚える。
「あなたの思い通りにはさせない・・あなたが口にする理想郷は、絶対に実現させない!」
「理想郷は必ず実現させる。2度と争いや混乱の起こらない理想郷を・・」
 言い放つヒカルに対して、コスモは態度を変えることなく、自分の意思を貫こうとしていた。

 ハデスからの言葉を受けて、メイは苦悩を深めていた。彼女は自分の意思とヒカルへの思いに挟まれて、気分が落ち着かなくなっていた。
“Let's meet first. Even if you decide to persist your will, it will not be late.(まずは会いましょう。それから自分の意思を貫く決断をしても、遅くはないでしょう。)”
 ハデスがメイに励ましの言葉を送る。
“Let's face each other. With her, with yourself.(向き合いましょう。彼女と、あなた自身と。)”
(ハデス・・・)
 ハデスの言葉を受けて、メイが戸惑いを感じていく。
(私とヒカルはもう、一緒に歩むことはない・・そのことを、ヒカルに伝えるために・・)
「聞こえる?・・私を、ヒカルのところへ行かせて・・・」
 気持ちの整理を付けたメイが、ミュウに向けて呼びかけた。


次回予告

理想郷の実現を目指すコスモの異形の力。
追い詰められていくヒカルたちに、打開の糸口はあるのか?
そのとき、ヒカルの前にメイが現れた。
2人の少女の新たな対面の先にあるのは?

次回・「ふたりの旅立ち」

かつての友情、絶たれるか?つながるか?

 

 

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