Drive Warrior Gears

Episode21「ふたりの決着」

 

 

 放課後の教室で、ヒカルは1人落ち込んでいた。テストがうまくできなかったと思って、彼女は元気をなくしていた。
 涙を流しているヒカルのいる教室に、メイが入ってきた。
「あんまり思いつめるのもよくないよ、ヒカル。」
「メイ・・でも、予想してた山を外しちゃって・・」
 声をかけるメイに、ヒカルが悲しい顔を見せる。
「このぐらいの失敗なんて、簡単に取り返せるよ。大事なのは、取り返しのつかない失敗をしないこと。」
「取り返しのつかない失敗・・?」
 メイの投げかける言葉に、ヒカルが当惑する。
「犯罪とかものを壊すとか。あとは人の心を傷付けるとか・・そういうのは取り消しが付かないでしょ。」
「確かに、その通りだね・・・」
 メイに言われたことに納得して、ヒカルが照れ笑いを見せる。
「これで終わりってわけじゃない。まだまだこれからだよ、ヒカルも私も。」
「メイ・・・」
「何かあったら私に言って。私にできることだったら手伝うからさ。」
「メイ・・ありがとう、メイ~!」
 メイに励まされて、ヒカルが笑顔を取り戻す。飛びついてきたヒカルを優しく抱きしめて、メイが微笑む。
「これから私の家に来る?気分転換しないとね。」
「うんっ♪」
 メイに呼ばれて、ヒカルが笑顔で答える。2人は頷き合ってから、教室を出た。
 この絆は決して途切れることはない。ヒカルもメイも、このときは信じて疑わなかった。

 メイを止めようとするヒカルと、ヒカルを倒そうとするメイ。2人は互いに残っている魔力を振り絞ろうとしていた。
「私たちは仲が良かった・・でも、ギルティアが私たちの人生を狂わせた・・・!」
「あなたはギルティアに逆らい続けた・・私はギルティアの後継者になろうとした・・その時点で、私たちが戦うことになるのは決まっていた・・・!」
 自分たちの過去を思い返していくヒカルとメイ。
「でも今の私は違う・・ギルティアはもうない・・私の人生を狂わせたのは、ヒカル、あなた・・・!」
「ギルティアの栄光を求めていたあなたは、ギルティアを滅ぼした私を敵だと思ってる・・でもギルティアは、私たちや世界を思い通りにしようとした存在・・黙って従うなんてできなかった!」
「それでも、あなたが私の栄光を狂わせたことに変わりはない・・・!」
「そんな、誰かだけの思い通りの世界の栄光なんて、私は認めない・・大切なものが消される悲しみを知っているから・・」
 敵意を向けてくるメイを、ヒカルは拒絶する。
「私は倒れるわけにはいかない・・タクミが、アリシアが、みんなが帰りを待っているから・・・!」
 タクミたちやアリシアたちへの思いを募らせるヒカル。
「私はあなたを全力で止める・・私のために、みんなのために、あなたのために!」
「私はあなたを倒して、私の道を切り開く!」
 自分の意思を示して、ヒカルとメイが互いを鋭く見据える。
「ドライブチャージ!」
 2人の握りしめた拳に魔力が集中する。
「これで終わりよ、ヒカル!私は私の自由を取り戻す!」
 メイが目を見開いて、ヒカルと同時に飛び出す。2人が同時に拳を繰り出して、強くぶつけ合う。
 ヒカルとメイの拳の衝突は、その場や周囲を大きく揺るがした。地面に亀裂が起こり、草木を吹き飛ばしていく。
(私はヒカルを倒す・・あなたを倒せば、私は自分の未来を切り開くことができる・・・!)
 自分の見据える未来のことを考えて、メイが感情を高ぶらせる。
(負けられない・・もう、大切なものを失いたくないから・・・!)
 タクミたちへの思いを募らせて、ヒカルが魔力を込める。
(私は私の生き方をする・・私と、ハデスだけで・・!)
(自分たちだけで生きようとするメイとは違う・・今の私には、みんながいる!)
 それぞれ自分の意思を貫こうとするメイとヒカル。魔力を込めた拳を押し込んだのは、ヒカルだった。
「なっ・・!?」
 自分の渾身の一撃が破られたことに、メイは信じられなかった。
(このまま負けるの、私は!?・・私は倒れるわけにはいかない・・ここで倒れたら、私には何も残らなくなる・・・!)
 メイが踏みとどまろうと感覚を研ぎ澄ませて、押された右手を再び握りしめる。彼女はもう1度渾身の一撃を繰り出そうとした。
(みんなのために、私は負けるわけにはいかない!)
 タクミやアリシアたちへの思いを募らせながら、ヒカルも再び魔力を込める。
「ヒカル、私はあなたを倒す!」
「メイ、私はあなたを止める!」
 メイとヒカルが思いを言い放って、再び拳をぶつけ合う。
(私は突き進む・・ここで終わるわけにはいかないのよ!)
 自分を貫こうとする意思を強めていくメイ。
(私はみんなのため、絶対に倒れるわけにはいかない!)
 ヒカルの拳がメイの拳を押し込んでいく。メイが力を込めるが、ヒカルを押し返すことができない。
“The bone will also be affected as it is. Please escape.(このままでは骨にも影響が出ます。脱出してください。)”
 ハデスがメイに向かって警告を送る。
(ダメよ!ここで下がれば、私は負けたらいけないこの戦いに負けることになる!)
 しかしメイは聞き入れようとせず、拳にさらに力を込める。
(私の全てが壊れるぐらいなら、体が壊れるほうがマシなのよ!でも私は負けない!私には、勝つ以外に道はない!)
 ヒカルを倒すことしか考えていないメイ。しかし彼女の強い意思と裏腹に、ヒカルに拳を押し込まれていく。
(どうして!?・・私の力が、ヒカルに敵わない・・!?)
 どれだけ力を込めてもヒカルの力に押し込まれていくことに、メイは絶望に襲われていく。
(私は先へは進めない・・私は、何もかも失うしかない・・そういうの・・・!?)
「戻ってきて、メイ!」
 そのとき、メイの頭の中にヒカルの声が響いてきた。彼女の声にメイは心を揺さぶられた。
(ヒカル・・ヒカルが、私を呼んでいる・・・!?)
 響いてくるヒカルの声に引き寄せられるような感覚を覚えて、メイは動揺を深める。
(私はヒカルを憎んでいる・・その私が、ヒカルに慕われたところで・・!)
 ヒカルの思いを拒絶しようとするメイだが、ヒカルの声に抗うことができない。
(私は・・ヒカルのことを憎んでいるんじゃなかった・・・!?)
 自分の意思や決意が分からなくなり、メイは拳に力を入れられなくなった。彼女はヒカルの拳に押されて、力なく倒れた。
「メイ!」
 ヒカルが手を伸ばして、メイの手をつかんだ。
「メイ、大丈夫!?メイ!」
 メイの耳にヒカルの声が入ってくる。もうろうとしていた意識の中で、メイが閉じかけていた目をゆっくりと開いた。
「ヒカ・・ル・・・私のことを・・・」
 メイがヒカルを見て弱々しく声を発する。
「私は・・あなたのことを憎んでいるのに・・・どうして・・私のことを・・・」
「私たち、昔は友達だった・・メイもそれは分かっているはず・・・友達だった、からじゃないかなと思う・・・」
 声を振り絞るメイに、ヒカルが自分の思いを口にする。
「昔の友達・・私たちは友達だった・・・ギルティアに深く関わるまでは・・・」
「そんなことないよ・・今だって私たちは友達だよ・・!」
「今だって?・・こんなにあなたのことを憎んでいるというのに・・・」
「メイは私が、あなたの栄光を壊したっていうけど・・ギルティアもヴァンフォードも、世界やみんなを思い通りにしようとしている・・そんな悪いことを、メイはしたかったわけじゃない・・」
 自分の憎悪を確かめるメイに、ヒカルが必死に呼びかけていく。
「メイが求めていた栄光は、黒く染められたもの・・そんなものにすがっても、メイが辛くなるだけ・・・」
「それでもつかみたかった・・愚かな世界を変えたかった・・・」
「世界もみんなもいいままだよ・・ギルティアにすがらなくても、メイならもっとよくできるよ・・」
「私はそこまで強くなかった・・だからギルティアの力を受け入れたのに・・・」
 会話を交わして、ヒカルが微笑んで、メイが戸惑いを募らせていく。
「メイは強いよ・・悪い力に頼らなくたって・・・」
「買いかぶりすぎだよ・・ヒカルは私のことを・・・」
 信頼を送るヒカルに、メイが物悲しい笑みを浮かべた。
(もう離れ離れにならないよ、メイ・・体も、心も・・・!)
 ヒカルが心の中で、メイとの友情が揺るぎないものに戻ったと感じていた。

 光と衝撃が治まって、ヒカルは倒れたメイを抱えた。メイは目を閉じて意識を失っていた。
「メイ、大丈夫!?メイ、目を開けて!」
 ヒカルが呼びかけるが、メイの意識は戻らない。
“I am exhausting magical power excessively due to the current conflict. If you do not take corrective action immediately, it will be related to your life.(今の衝突で魔力を過剰に消耗しています。すぐに回復の処置をしないと、命に関わります。)”
 カイザーがメイの状態を確かめて、ヒカルに告げる。
「早くメイを助けなくちゃ・・1度タクミたちと合流して・・!」
 ヒカルがメイを抱えて、タクミたちのところへ戻ろうとした。
「お前たちの対決の決着は着いたようだな。」
 そこへ声がかかって、ヒカルが緊迫を覚える。振り返った彼女の前にいたのは、コスモとラムだった。
「あなたは・・・!」
「その力、ここで無慈悲に消すのは世界のためにならない。我々に力を貸すならば重宝しよう。」
 身構えるヒカルに向かって、コスモが手招きをする。彼はヒカルとメイを自分たちに引き入れようとしていた。
「その世界は、誰かだけが思い通りにするためのものでしょ!?・・そんなもののために力を貸すわけないよ!私もメイも!」
 ヒカルが強い意思を示して、コスモに言い返す。
「マスター・コスモが示す理想郷を拒むなんて、ホントにバカだよ、アンタたち・・」
 ラムがため息をついて、ヒカルたちの前に出る。
「軽率な行動は慎むように。2人は消耗しているものの、高度の能力を備えていることは事実だから。」
「わ、分かりましたよ・・」
 コスモに呼び止められて、ラムが足を止めた。
(私が相手をしないと、メイも傷つくことになってしまう・・!)
 ヒカルがメイを守ろうと考えて、コスモたちと戦おうとする。
“Both of you are exhausting your fitness. It is dangerous to deal with those two people.(あなたたち2人とも、体力を消耗しています。あの2人を相手にするのは危険です。)”
 カイザーがヒカルに向かって警告を送る。
(でも、このままじゃ逃げることもできないよ・・どうしたら・・・!?)
 逃げることも抵抗することもままならない状況に、ヒカルは焦りを募らせていた。
「その力、私の理想郷のために使ってくれ。全ての世界が正しくあるために・・」
 コスモが手を差し伸べるが、ヒカルはそれでも彼の言葉を聞き入れようとしない。
「仕方がない・・ラム、相手をしていい。ただし再起不能にはしないように。」
「分かりました、マスター・コスモ!」
 コスモからの言葉を受けて、ラムが笑みをこぼす。
「マスターからの許可が出たよ・・治せる程度に痛めつけてやるから!」
 ラムが笑みをこぼして、ヒカルたちに近づいていく。
“Please do not get caught or get attacked by seeing the other 's attitude.(ここは相手の出方をうかがって、捕まったり攻撃を受けたりしないようにしてください。)”
(そうはいうけど・・やっぱり距離を取ったほうが・・・!)
 助言を送るカイザーに答えて、ヒカルが思考を巡らせる。
 ラムが目を見開いて飛びかかり、魔力を込めた拳を繰り出す。ヒカルはメイを抱えたまま、メイの打撃を後ろに下がってかわす。
「まだ逃げようっていう元気はあるみたいだけど、どこまで持つかな!?」
 ラムが笑みを強めて、ヒカルたちへの攻撃を続ける。ヒカルはメイを抱えて退避するしかなかった。
 次の瞬間、ヒカルが突然動けなくなって、顔を歪めた。コスモが手を伸ばして、彼女たちを念動力で動きを止めたのである。
「これでお前は逃れられない。その力、理想郷のために使わせてもらう。」
 コスモがヒカルを見つめて言いかける。ヒカルが体に力を入れるが、コスモによる束縛から抜け出すことができない。
“With strong heartfelt body freedom is kept down. We can not get out of our physical strength and magical power.(強い念力で体の自由を抑えられています。今の私たちの体力と魔力では抜け出せません。)”
(でも、このままじゃやられちゃう・・抜け出さないと・・!)
 カイザーが呼びかけるが、ヒカルは焦りを募らせるばかりである。
「申し訳ございません・・マスターの手をわずらわせてしまって・・・」
「気にすることはない。お前の力が、私の力の助けとなった。」
 頭を下げるラムに言葉を返して、コスモが念力に力を込める。ヒカルが体に痛みを覚えて顔を歪める。
「2人とも力を貸すのだ。私の求める理想郷、お前たちもお前たちの知人もあたたかく迎え入れよう。」
「そのために、誰かを犠牲にしていいことにならない・・・!」
 微笑みかけるコスモだが、ヒカルは声を振り絞って、彼の言葉を拒絶する。
「ならば意識を失わせて、お前たちを連れていく。お前たちを我々の理想郷を切り開くための戦士とする。」
 コスモは言いかけて、念力にさらに力を込める。
「うあぁっ!」
 体を締め付けられて、ヒカルが悲鳴を上げる。
“If you do not escape quickly, your body will fall apart.(早く脱出しないと、体がバラバラになってしまいます。)”
(でも、力が入らない・・何とかしたいのに・・・!)
 カイザーが警告するが、ヒカルは念力から抜け出せない。
 そのとき、金色の光の矢が飴のように降り注いだ。コスモとラムが後ろに動いて、光の矢をかわした。
「こんなときに邪魔が入るなんて・・・!」
 ラムがいら立ちを感じて顔を上げる。その先の上空にいたのは、バルディッシュを構えたアリシアだった。
 コスモがかけていた念力が解けて、ヒカルが束縛から解放された。
「大丈夫ですか、ヒカル・・!?」
 アリシアが光の前に降りて、ヒカルに声をかける。
「アリシアちゃん・・来てくれたんだね・・・!」
 アリシアを見たヒカルが微笑みかける。
「結界を抜けるのに時間がかかってしまって・・遅くなってゴメン・・」
 アリシアがヒカルに謝って、彼女が抱えているメイに目を向けた。
「私がサポートするから、ここから退避しましょう・・ミュウたちが転送の準備をしているから・・!」
 アリシアがヒカルに呼びかけて、コスモたちに目を向ける。
「アリシアも避難したほうがいいよ・・あの2人を同時に相手するのはムチャだよ!」
「ムチャなのはお互い様だよ。私たち、何度もムチャして、危機を乗り越えて来たから・・」
 ヒカルが心配すると、アリシアが微笑んで答える。彼女の言葉を聞いて、ヒカルが戸惑いを浮かべた。
“Now it is prudent to check with the power, evacuate, and join with their colleagues.(今は力を合わせて牽制して退避し、仲間と合流することが賢明です。)”
 カイザーもアリシアに助言するが、アリシアの考えは変わらない。
「ごめんなさい、カイザー・・でも、ヒカルとメイさんが無事でいてほしいと思うから・・・」
「アリシア・・そこまで、私とメイのために・・・」
 謝るアリシアにヒカルが感謝を覚えた。
「全員逃げられると思わないことね・・!」
 ラムが目つきを鋭くして、ヒカルたちを追撃しようとした。しかし彼女の前にアリシアが立ちはだかる。
「2人には手出しはさせない・・!」
「アンタのことも、マスター・コスモは目にかけている・・アンタも動けない程度で終わらせてやるよ!」
 バルディッシュを構えるアリシアに、ラムが笑みを見せて言い放つ。
「行って、ヒカル!」
「アリシア・・すぐに追いついてきて!」
 呼びかけるアリシアに呼びかけてから、ヒカルはメイを抱えて走り出した。
「いくらなんでも、アンタ1人じゃマスターはもちろん、あたしを止めることもできないよ!」
「止める・・そのために私も、全てを賭ける・・!」
 あざ笑うラムに対して、アリシアが決意を口にする。アリシアは自分とバルディッシュに意識を集中する。
「ソニックフォーム、発動・・バリアジャケット、パージ・・!」
“Sonic form.”
 彼女の着ていたバリアジャケットがはじけ飛ぶように変わって、軽量化された。
「バリアジャケットを軽くした・・!?」
 ラムがアリシアを見て眉をひそめる。
「ジャケットを軽くしてスピードアップしようって魂胆だけど、それで逃げられるほどあたしは遅くはないよ!」
「それでも振り切る・・ヒカルたちを、みんなを守るために・・!」
 自信を見せるラムに、アリシアが冷静さを保ったまま言葉を返す。
「できるものなら・・やってみるんだね!」
 ラムが目を見開いて、アリシアに向かって飛びかかる。飛翔したアリシアが一気にスピードを上げて、ラムが繰り出した拳をかわした。
 ソニックフォームはバリアジャケットを軽量化することで、高速化とそれによる攻撃力のアップをもたらす。ただしジャケットの軽量化で防御力は低下している。
「チョコマカと動いて・・逃げ切れると思わないことね!」
 ラムが不満を膨らませて、アリシアを追って飛び上がった。
“The speed here is above her. However, please be careful about the trend of the other person.(こちらのスピードは彼女を上回っています。ただしもう1人の動向への注意は怠らないでください。)”
 バルディッシュが助言を送って、アリシアが小さく頷く。彼女はラムとの距離とコスモの動向に注意を払う。
「アイツ・・逃げ切れると思わないことだね!」
 ラムがいら立ちを膨らませて、アリシアを追っていく。アリシアはラムとコスモを、ヒカルたちから遠ざけようと必死になっていた。

 メイを抱えて、ヒカルはタクミとブレイドのところへ戻ってきた。
「ヒカル、大丈夫なのか!?・・この人・・!」
 タクミがヒカルに声をかけて、メイを見て当惑を覚える。
「もう大丈夫・・メイにきっと、気持ちが伝わったはずだから・・・」
 ヒカルがタクミに微笑んで、メイに目を向ける。メイは彼女の腕の中で眠っていた。
「ミュウさん、メイを保護してください・・魔力を消耗して疲れています・・!」
 ヒカルが空を見上げて、ミュウに呼びかける。
“分かったわ。ただし先ほどまであなたと戦っていた身だから、魔力を封印、拘束した上で隔離させてもらうわよ。”
「ミュウさん・・分かりました。お願いします・・」
 ミュウが投げかけた言葉を、ヒカルは当惑を感じながら答えた。
“それじゃ転送、行くわよ。”
 ミュウが呼びかけて、メイがヒカルの腕の中から離れてロードサイドに転送された。
(メイ、もうちょっと待ってて・・ヴァンフォードとの戦いを終わらせて、すぐに戻るから・・・!)
 メイへの思いを胸に秘めて、ヒカルが気を引き締めなおした。
「ブレイドさん、アリシアちゃんのところへ戻ります!アリシアちゃんだけじゃ、あのヴァンフォード2人が相手じゃ逃げ切ることも厳しいです・・!」
 ヒカルがブレイドに言いかけて、アリシアのいるほうへ振り向いた。
「いや、アリシアの援護はオレが行く。タクミはヒカルのそばについていてくれ・・」
 ブレイドが言いかけて、タクミに呼びかける。
「私も行きます!私のために、アリシアちゃんが危険を背負っているんです!」
「オレも一緒に行きます!ヒカルのサポートを、オレがやります!」
 するとヒカルとタクミがついていこうと進言してきた。
「ダメだ。せめてもう少し体を休めてからだ・・」
“I will support it so as not to be dangerous. Please let me go.(私もサポートして、危険にならないようにします。行かせてあげてください。)”
 カイザーもブレイドに頼みを投げかける。
「ダメだと言っても行きます・・どうしても、アリシアちゃんを放っておくことはできないです・・・!」
 ヒカルの意思は揺るぎないものとなっていた。彼女についていこうとするタクミも。
「・・本当に言っても聞きそうにないな・・決してムチャをしないように。2人とも、これだけは聞いてもらうぞ・・・」
 ブレイドはヒカルたちに改めて言うと、アリシアのところへ向かって飛翔した。
「ありがとう、タクミ・・私の、私たちのために・・」
 ヒカルがタクミに振り向いて、微笑んで感謝した。
「オレがそうしたいって思っただけだよ・・早く行かなくちゃ!手遅れになったら元も子もないからな!」
「う・・うんっ!」
 照れながら答えるタクミに、ヒカルが笑顔で頷いた。2人はブレイドに続いて空へ飛び上がった。

 ヒカルとメイを逃がすために時間稼ぎをしていたアリシアだが、コスモに前に回り込まれて、ラムに挟まれた。
「これでも逃げられないね、小娘・・!」
 ラムがアリシアを見つめて笑みをこぼす。
「お前も我らの理想郷にたどり着くために必要な力の持ち主だ。我々に協力してもらおう。」
 コスモが言いかけた直後に、アリシアが一気にスピードを上げて離れようとした。しかしコスモにすぐに前に回り込まれた。
「もはや逃げることはできない。人柱となるしかない。」
 コスモの前に立ちはだかって、アリシアが身構える。
“The opponent is walking around the space. Regardless of speed, it will catch up quickly.(相手は空間を渡って回り込んでいます。スピードに関係なく、すぐに追いつかれてしまいます。)”
 バルディッシュが警告を送り、アリシアが緊張を募らせていく。コスモがアリシアに向かって手を伸ばしてきた。
 しかし次の瞬間、コスモは伸ばしかけた手を引いて後ろに下がった。ブレイドが飛び込んできて、トランザムを振り下ろしてきた。
「ロードサイド・・こんなときまで邪魔してきて・・!」
 ラムがいら立ちを膨らませて、ブレイドに飛びかかる。ブレイドがトランザムを振りかざして、ラムを遠ざける。
 コスモとラムに目を向けてから、ブレイドはアリシアと合流した。
「大丈夫か、アリシア・・!?」
「うん・・私は大丈夫・・・!」
 ブレイドが声をかけて、アリシアが微笑んで答えた。
「アリシアちゃん、大丈夫!?」
「ヒカルさん、タクミさん・・!」
 ヒカルも声をかけて、アリシアが彼女とタクミを見て戸惑いを覚える。
「ここからは力を合わせて戦うことになるな・・!」
 タクミが言いかけて、ヒカルたちが小さく頷いた。4人がコスモとラムに振り向いて、気を引き締めなおす。
「強い魔力の持ち主がそろったか。我々にその力を捧げるのだ。理想郷のために。」
 コスモがヒカルたちに向かって言いかける。
「冗談じゃない!お前たちの思い通りになるくらいなら、死んだほうがマシだ!」
 タクミが感情を込めて、コスモに言い返す。
「ならばここで排除されるしかないぞ。」
 そこへガリューが駆けつけ、ヒカルたちに不敵な笑みを見せてきた。
「ガリュー・・!」
 ブレイドがガリューに振り向いて、トランザムを構える。
「私たちはマスター・コスモに全てを捧げた身。マスターの意に背く者には、容赦しないわよ・・!」
 ローザも姿を現して、ヒカルたちに向かって妖しく微笑んでいた。
「あなたたち、コスモの言いなりになってはいけないよ!利用されて、最後に切り捨てられることになる!」
「何を言ってんのよ!あたしたちに力を下さったマスター・コスモが、そんなことをするわけないでしょ!」
 アリシアが呼びかけるが、ラムは彼女の言葉をあざ笑う。
「私の見据える理想郷のため、3人とも力を尽くしている。お前たちもその力を是非・・」
「私たちは、絶対にあなたたちには従わない!誰かが思い通りの世界なんて、理想郷なんて呼ばない!」
 手を差し伸べるコスモの言葉を、ヒカルが拒絶する。
「ならば仕方がない・・お前たちのために理想郷への道が閉ざされるわけにはいかない・・・」
 コスモが顔から笑みを消して、ヒカルたちに向けて右手を伸ばした。
“Magical power is concentrated. Please avoid it.(魔力が集中しています。回避してください。)”
 カイザーが呼びかけて、ヒカルがコスモから離れた。コスモが右手を握ると、ヒカルたちがいた地点に空間の歪みが起こった。
「空間のねじれを引き起こすほどの力・・・!?」
「あれほどの威力をもたらすコスモには、ものすごい魔力を備えているということか・・!?」
 アリシアとブレイドがコスモの力に対して、緊張を覚える。
「マスターの手をわずらわせることはないですわ。」
「始末ならオレたちにお任せを・・・!」
 ローザとブレイドが笑みを浮かべて、ヒカルたちに敵意を向ける。
「ちょっとー!そいつらはみんな、あたしの獲物なんだからねー!」
 ラムが不満の声を上げて、ヒカルたちに向かって飛びかかった。


次回予告

ヴァンフォードとの最後の戦い。
ガリューたちの猛攻とコスモの驚異の力に、ヒカルたちは追い詰められる。
絶体絶命に陥る彼女たちを救ったのは?
深かった運命が、長い時間を経て終わりを告げた。

次回・「ふたりの始まり」

愛、そして友情の絆・・・

 

 

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