Drive Warrior Gears

Episode20「宿命の交錯」

 

 

 リオの正体が明らかになってから一夜が明けた。ヒカルとタクミは心身ともに落ち着きを取り戻していた。
「タクミ、もう大丈夫・・?」
「あぁ・・体に痛みはないし、気分も落ち着いている・・・」
 ヒカルが声をかけると、タクミが小さく頷いて答える。
「私、戦う理由が1つ増えた気がする・・とても大切なことが・・・」
「オレもだよ・・ヒカルのことを助けたいって気持ちが、強くなっているよ・・」
 それぞれの正直な思いを口にするヒカルとタクミ。
「ブレイドさんたちに顔を見せよう。元気になったところを見せて、みんなを安心させないとね。」
「うん。行こうか、ヒカル。」
 ヒカルとタクミが頷き合って、部屋から外に出た。少し廊下を歩いたところで、2人の前にミュウが現れた。
「ミュウさん・・」
「2人とも、気分はいいみたいね。」
 戸惑いを見せるヒカルに、ミュウが微笑んで声をかける。
「ブレイドたちは体力回復とヴァンフォードの捜索を心がけているわ。あなたたちが元気になるのを待ちながらね。」
「すみません・・みんな大変なときだっていうのに・・」
 現状を話すミュウにタクミが謝る。
「2人とも私たちの強い仲間なんだから。力だけじゃなくて、精神面でもね。」
「ミュウさん・・ありがとうございます・・」
 ミュウに励まされて、ヒカルが感謝する。タクミも勇気づけられて、笑みをこぼしていた。
“There is no problem in the body. Your physical strength is perfect.(身体に問題はありません。体力も万全です。”
 カイザーがヒカルの状態を告げる。
「ありがとう、カイザー。これからもよろしくね。」
 ヒカルが言いかけて、カイザーが答えたのを感じ取った。
「それじゃ行きましょう、2人とも。」
「はい。」
 ミュウが呼びかけて、ヒカルとタクミが答える。3人がウィザード、ウィッシュのいる管制室に来た。
「あっ!2人とも来たな!」
「おはようございます、ヒカルさん、タクミさん・・」
 ウィザードとウィッシュがヒカルとタクミに挨拶する。
「私たちはもう大丈夫だよ、ウィザードちゃん、ウィッシュちゃん。」
「オレたちも戦いに復帰するよ。」
 ヒカルとタクミが微笑んで呼びかける。2人が落ち着きを取り戻していると感じて、ウィザードとウィッシュも笑みをこぼした。
「ブレイドは今はヴァンフォードの居場所を探索しているわ。そろそろ連絡を入れる約束の時間ね。」
 ミュウがヒカルたちにブレイドのことを話す。
「ブレイド、今どこにいるんだ?ヒカルとタクミが目を覚ましたぞ。」
 ウィザードがブレイドに呼びかける。しかしブレイドからの返答がない。
「ブレイド、どうしたんだ・・?」
 ウィザードが疑問符を浮かべて、さらに呼び掛ける。
「ブレイドさんに、何かあったんじゃ・・!?」
 ウィッシュがブレイドを案じて不安を覚える。
“みんな、今、神凪メイの攻撃を受けている・・!”
 ブレイドからの連絡がヒカルたちに届いた。
「ブレイドさん、メイが!?」
 彼の言葉を聞いて、ヒカルが声を荒げる。
「今、ブレイドさんの居場所を特定します!」
 ウィッシュがコンピューターを操作して、ブレイドの居場所をつかもうとする。管制室のレーダーにブレイドの魔力が捕捉された。
「地球です!メイさんの出している結界に閉じ込められています!」
「結界!?攻撃までされてるんじゃ、中からじゃ1人で出るなんて難しいって!」
 ウィッシュの報告にウィザードが声を荒げる。ブレイドの危機とメイの襲撃に、ヒカルの中で激情が湧き上がっていた。
「私、行ってきます!メイを止めないと!」
 ヒカルがメイのところへ向かおうとする。
「待って、ヒカルちゃん!1人で無闇に向かうのは危険よ!」
 ミュウが呼びかけて、ヒカルが足を止める。
「でもメイがそこにいる・・メイが戦いを続けているのは、私が原因・・私が止めなくちゃいけないことだから!」
 メイを止めようとするヒカルだが、感情があらわになっていて冷静でいられなくなっている。
“Stay cool. I become impoverished by the unstable mental condition before stopping her.(落ち着いてください。その不安定な精神状態では、彼女を止める前に疲弊してしまいます。)”
 カイザーもヒカルに向けて注意を呼びかける。
「カイザー・・でも・・・!」
「オレも一緒に行く!ヒカルがムチャしすぎないように、オレがそばについてる!」
 困惑するヒカルに、タクミもついていくことを告げる。
「もう油断もしないし不覚も取らない!今度こそ、役に立ってみせる!」
「タクミ・・私のために・・・!」
 意気込みを見せるタクミに、ヒカルが戸惑いを浮かべる。
“I also support to avoid danger as much as possible.(私も危険を極力避けられるようにサポートします。)”
 カイザーもヒカルに助言を送る。周囲からの支えを実感して、ヒカルが安らぎを覚える。
「ありがとう、カイザー、タクミ・・私のために・・・」
 感謝するヒカルが、目から涙を流す。
「泣いてる場合じゃないぞ、ヒカル。早くブレイドさんとメイを助けに行かないと・・!」
「タクミ・・うん、そうだね・・・!」
 呼びかけるタクミに、ヒカルが涙を拭って頷く。
「ウィッシュちゃん、私たちをブレイドさんとメイのところへ送って!」
「分かりました!・・どうか、お気を付けて・・・!」
 ヒカルの呼びかけに答えて、ウィッシュが転移の準備を行う。ヒカルとタクミが転移に備える。
「行きますよ、ヒカルさん、タクミさん!どうか気を付けて!」
 ウィッシュが呼びかけて、コンピューターを操作する。ブレイドとメイのいる地点へ向けて、ヒカルとタクミが転移された。
「アリシアに連絡して!ヒカルちゃんたちのサポートを!」
「分かった!」
 ミュウからの指示を受けて、ウィザードがアリシアへの連絡を試みた。

 ブレイドを追跡して感覚を研ぎ澄ませるメイ。ブレイドを追えばヒカルにたどり着けるという判断だった。
“The target is lurking in the shade of 400 meters ahead of the left front. I am exhausting my physical strength, but the alertness to this place is not weakening.(標的は左前方400メートル先の木陰に潜んでいます。体力を消耗していますが、こちらへの警戒は弱まっていない模様です。)”
 ハデスがブレイドを捕捉して、メイに告げる。
「百戦錬磨ということね・・たとえ待ち伏せされていても、私は邪魔者を倒して、ヒカルに勝つ・・!」
 メイは迷いなくブレイドの追撃に向かう。
「アイツからヒカルの居場所を突き止める・・!」
 メイはブレイドのいる場所へ一直線に突き進む。
(来たか・・!)
 ブレイドが木陰から飛び出して、カートリッジロードをしたトランザムを振りかざす。メイもドライブチャージをして、魔力を込めた右の拳を繰り出す。
 2人の攻撃のぶつかり合いが、周囲に衝撃をもたらす。周りの草木が衝撃で吹き飛ばされる。
 ブレイドがメイから離れて距離を取る。彼は一瞬右腕にしびれを覚えて、顔を歪めた。
(さらにパワーが高まっている・・攻撃を受け続けたら、オレの体が持たない・・・!)
 メイの強さに脅威を覚えるブレイド。彼はメイを警戒しながら、徐々に後ずさりする。
「ヒカルはどこ?ヒカルの前に案内してくれるなら、私の邪魔をしなければ、これ以上の攻撃はしない・・」
 メイが両手を握りしめて、ブレイドに問い詰める。
「お前の目的はヒカルを倒すことだ。アイツに辛い思いをさせるわけにも、お前を絶望させるわけにもいかない・・!」
「そう・・ならあなたも私の邪魔者でしかない・・倒すだけ・・!」
 拒否したブレイドに飛びかかり、メイが魔力を込めた拳を振るう。ブレイドが加速して後退して、メイから離れる。
「逃がさない・・!」
 メイが加速して追いかけて、ブレイドの前に回り込もうとする。
(このままでは追いつかれる・・死を覚悟で戦うしかないか・・!)
 逃げ切れないことを痛感して、ブレイドがメイを迎え撃とうとした。
“Two great powers come closer to here.(2つの大きな力がこちらへ接近してきます。)”
 そのとき、ハデスがメイに向けて注意を呼びかけてきた。メイが足を止めて周囲の気配を探る。
「向こうから来たわね、ヒカル・・今度こそ、決着を着ける・・・!」
 メイが笑みをこぼして、ブレイドから離れて魔力の感じるほうへ向かう。展開している結界を突破して、ヒカルがタクミとともに降下してきた。
「ブレイドさん!・・無事だった!」
 ヒカルがブレイドを見つめて声を上げる。
「オレがブレイドさんのところへ行く!ヒカルはアイツのところへ行くんだろ!?」
 タクミが呼びかけて、メイに目を向ける。
「タクミ・・ありがとうね。ブレイドさんのこと、お願いね!」
 ヒカルはタクミに感謝してから、彼から離れてメイに向かって降下のスピードを上げる。
「いいわ、ヒカル・・誰にも邪魔されずに、あなたとの決着を!」
 メイが笑みを浮かべて、ヒカルを追いかける。
「ブレイドさん!」
 着地したタクミが駆けつけて、ブレイドを支える。
「オレの念話が届いたようだが・・お前たちも大丈夫なのか・・!?」
「はい。オレもヒカルも、気分が落ち着いていますよ・・」
 声をかけるブレイドに、タクミが微笑んで答える。2人がヒカルとメイの行った先に目を向ける。
「ブレイドさんは少し休んでください・・オレもここにいます・・!」
「タクミ・・お前に守られるようになるとはな・・・」
 呼びかけるタクミにブレイドが皮肉を口にする。
「“グランダム”、力を貸してくれ・・!」
 タクミがミュウから受け取っていたグラン式ブレイドデバイス「グランダム」を起動して呼びかける。グランダムは剣の形態「ソードフォーム」となって、タクミの手に握られた。
“Thank you. We will do our utmost to support you.(よろしくお願いします。最大限のサポートをさせていただきます。)”
「うん。よろしく、グランダム・・!」
 呼びかけてきたグランダムにタクミが頷く。彼はグランダムを構えて、周囲への警戒を強める。
(ヒカル、そっちは任せるからな・・!)
 ヒカルがメイを止めてくれると信じて、タクミはブレイドとこの場で待機することにした。

 タクミとブレイドから離れて、ヒカルとメイは丘の上まで移動した。足を止めた2人が互いを見据える。
“Currently there are three people in our barrier other than us. Others do not sense.(私たち以外に結界内にいるのは現在3人。他は感知しません。)”
 ハデスが周辺の探索をして、メイに助言する。
「これでしばらくは邪魔されずに済む・・」
 メイがヒカルを見据えて笑みを見せる。
「私たちのドライブウォーリアーとしての戦いはまだ終わっていない・・私の栄光を壊したあなたを、今度こそ倒す・・・!」
「メイ、もう私たちが戦う必要はない・・理不尽に押し付けられた運命に従うことはないんだよ!」
 敵意を向けるメイにヒカルが呼びかける。
「私は私の生きる意味を成就する!そのためにあなたを倒さないといけないのよ!」
「そんなことをしても、あなたのためにならない!大切なものを失ってしまう!」
「あなたを倒すことこそが、あなたのいう大切なこと!成し遂げなければ、私には何も残らなくなる!」
「どうしても、あなたと私はもう同じ気持ちを持てないっていうの・・・!?」
 憎悪を貫こうとするメイに、ヒカルは心を痛める。
「私は新しく、大切な人ができた・・私を助けてくれるたくさんの人がいる・・メイだってその1人だった・・・」
 ヒカルが真っ直ぐに自分の思いを口にしていく。
「私がいなくなったらきっと、みんなが悲しむことになる・・メイ、あなただって・・・」
「私は悲しんだりしないわ・・あなたがいなくなれば、私は栄光を取り戻せるから・・!」
 ヒカルの投げかける言葉を、メイがはねつける。
「私はいなくなるわけにはいかない・・あなたが他のみんなを傷付けていくのを見過ごすわけにもいかない・・・!」
「ヒカル、また勝手なことを・・!」
「私が大切に思っている人みんなのために、私はあなたを全力で止める・・そして私も、みんなのところに無事に帰る!」
 いら立ちを募らせるメイに、ヒカルが自分の思いと決意を言い放つ。彼女はメイと戦うことへの迷いを振り切って、覚悟も決めていた。
「誰も私を止められない・・あなたを倒して、私は栄光を取り戻す!」
 メイが感情をむき出しにして、ヒカルへ向かって歩き出す。
(カイザー、お願い・・メイを止めるために、力を貸して・・・!)
 ヒカルが心の中でカイザーに声をかける。
“I am your device and life. Always with you.(私はあなたのデバイスであり命です。いつでもあなたとともにあります。)”
(カイザー・・ありがとう・・!)
 カイザーから助言を受けて、ヒカルが微笑んで感謝した。
「高まっている私の力、ヒカル、あなたに叩き込む!」
 メイが言い放って、握りしめた右手に魔力を込める。ヒカルも右手を握りしめて力を集中する。
 2人が同時に飛び出して、拳を振りかぶる。
(ドライブチャージ!)
 拳を繰り出す瞬間、ヒカルとメイが魔力を拳に集中させた。2人の打撃がぶつかり合い、爆発のような衝撃を巻き起こして、地面を揺るがした。
 打撃の衝撃の反動で、ヒカルとメイが後ろに下がって距離を取る。
(今の私と互角の力を見せてきた・・!?)
 ヒカルの発揮した力に一瞬驚くメイ。彼女は飛び出して、ヒカルと連続で拳を交えていく。
 ヒカルとメイの拳が互いの頬をかすめた。2人が再び下がって攻撃の手を止める。
“The strength is increasing more than last time. Mental condition is also stable.(前回よりも強さが高まっています。精神状態も安定しています。)”
 ハデスがヒカルの強さと状態を確認して、メイに伝える。
(私も感じている・・でもだからといって引き下がるつもりはない・・!)
 メイもヒカルの強さを実感しながらも、彼女を倒す意思を貫こうとする。
“Battle abilities are increasing more than before. I can not predict how far it will rise.(以前よりも戦闘能力が増しています。どこまで上昇するか、私にも予測がつきません。)”
 カイザーがヒカルにメイのことを告げる。
(それでも止めなくちゃ・・私への怒りに囚われているメイを止められるのは、私だけだから・・力も、心も・・)
 ヒカルは決意を強めて、気を引き締めなおす。彼女は森の木々を沿うように、草原の周りを駆けていく。
「小細工をしても、私には通用しないわ!」
 メイが魔力の球を出して、拳を繰り出して飛ばした。球は駆けていくヒカルを外れて、その先の木を数本吹き飛ばした。
 メイが目つきを鋭くして、ヒカルを追って走り出す。彼女は森の中に入って、ヒカルの魔力を探って意識を集中する。
(ヒカル、あなたがどんな手を打ってきても、私はあなたを倒す・・・!)
 メイが感覚を研ぎ澄ませて、ヒカルの行方を追う。そのとき、目を凝らしたメイが木々の奥にいたヒカルの姿を捉えた。
 メイがヒカルを追って、一気に加速して駆けつける。
“please stop. Binding is set up.(止まってください。バインドが仕掛けられています。)”
 そのとき、ハデスがメイに警告を送る。とっさに足を止めたメイの手首と足首に光の輪、リングバインドがかけられた。
「もうやめて、メイ・・これ以上やれば、私たちはただじゃ済まなくなる・・・」
 ヒカルが目の前に出てきて、説得の言葉を投げかける。
「私は倒れない・・あなたを倒すことが生きる理由だから!」
 メイが言い返すと、目を閉じて意識を集中する。すると彼女の手足を束縛していたバインドが吹き飛んだ。
(バインドブレイク・・!)
 バインドを破られたことで、ヒカルが警戒を強める。
(分かっていたけど、一筋縄にはいかない・・!)
 ヒカルがメイの力を痛感して毒づく。ヒカルはメイを止める糸口を必死に探していく。
“For her power she is above. However, if you are speed, you are better.(パワーでは彼女のほうが上です。ですがスピードならあなたのほうが上回っています。)”
(それならうまく立ち回れれば、メイを止めることができる・・!)
 カイザーの助言に励まされて、ヒカルが小さく頷く。
「今度は私があなたの動きを止める・・そこから私の力を、あなたの体に叩き込む・・!」
「そうはいかないよ・・今度こそあなたを止めるよ、メイ!」
 いら立ちを見せるメイと、感情を込めて言い放つヒカル。2人は走り出して、木々をかき分けながら互いの距離を詰めていった。

 結界内で繰り広げられているヒカルとメイの戦いを、フロンティアからローザとガリューが見据えていた。
「始まったか、2人の戦いが・・」
「うまくつぶし合ってくれるといいわね。そして生き残ったほうを、私たちが始末する・・」
 ガリューとローザが戦況を確かめて、笑みを浮かべる。
「天宮ヒカル、神凪メイ。2人が今、1番厄介だからな。」
「どちらかが倒れたら、もう1人を攻める・・早くても2人が体力を消耗してから・・」
 自分たちの攻め時を考えるガリューたち。
「ところで、マスター・コスモはどちらに・・?」
「地球の近くにおられる・・ラムも一緒のようだ・・」
「ラム、すっかりマスターに気に入られているようね・・」
「気に入っている、と言えるだろうか・・」
 コスモとラムについて会話を続けるローザとガリュー。
「オレたちはこのまま待機だ。ただしいつでも向こうへ転移できるようにしてな。」
「もちろんよ。私も大した成果を上げられないまま、ロードサイド攻略を完遂させるわけにはいかないわ。」
 ガリューとローザが言いかけて、顔から笑みを消した。

 ヒカル打倒の意思を強めていくメイ。彼女は魔力の弾を連射して、ヒカルが素早くかいくぐっていく。
 そうしてヒカルをけん制しながら、メイは徐々に距離を詰めていく。
「どんな小細工をしてきても、私はあなたを逃がさない・・!」
 メイが目つきを鋭くして、さらに加速していく。
“You can catch up with this.(このままでは追いつかれます。)”
 カイザーからの助言を受けて、ヒカルが森を抜けた。メイが出てきたところで、彼女は大きくジャンプして彼女を飛び越える。
「それで後ろを取ったと思わないことね!」
 メイが振り返り様に回し蹴りを繰り出す。ヒカルは彼女の出方を読んで、体勢を低くした。
 ヒカルの魔力を込めたパンチが、メイの体に命中した。とっさに体に魔力の膜を張ったメイだが、衝撃とダメージを抑え切れず顔を歪める。
(当たり所が悪かったのか!?・・ここまでのダメージになるなんて・・!)
“The opponent is sticking out exactly in your gap. Even a slight guard will be fatal.(相手はあなたの隙を正確に突いています。わずかな油断でも命取りになります。)”
 毒づくメイにハデスが忠告する。
(だったらヒカルの動きをちゃんと見切ればいい・・私が攻撃を受けずに、ヒカルに攻撃を当てれば勝てる・・単純なこと・・!)
 メイが感覚を研ぎ澄ませて、再びヒカルへ向かっていく。
 メイが繰り出した拳から魔力の弾が連射される。ヒカルは弾をかいくぐるが、メイに徐々に距離を詰められていく。
“There is a trap in the direction of travel.(進行方向にトラップがあります。)”
 カイザーがヒカルに助言を送る。ヒカルはとっさに横に動いて、バインドが設置されている地点を避けた。
(メイは私の動きを読んでいる・・私の隙や弱点を突こうとしている・・・!)
 ヒカルが思考を巡らせて、メイの動向を推測する。
(それなら、向こうの攻め手を逆手に取るのも1つの手段・・!)
 1つの手を思いついたヒカルが、メイの出方をうかがう。
 メイが拳を繰り出して魔力の弾を連射する。ヒカルがかわす中、メイはさらに魔力の弾を放つ。
 ヒカルは魔力の弾の雨を全て回避した。
“Guided bullets surround the surrounding area. An interception pattern is also layered over the sky.(周囲を誘導弾が包囲しています。上空も迎撃態勢が敷かれています。)”
 カイザーが呼びかけて、ヒカルが足を止めた。ヒカルの周りにはメイが放った魔力の弾が停滞して取り囲んでいて、上空でも彼女が待ち構えていた。
(下手によけても確実に迎撃される・・ここはタイミングを合わせるしかない・・!)
 ヒカルは動かずにメイの次の出方をうかがう。魔力の弾が動き出す瞬間を、ヒカルは狙っていた。
 そして魔力の弾が一斉にヒカルに向かって動き出した。その瞬間にヒカルが真上にジャンプした。
 その先にいたメイが、ヒカルへ追撃を仕掛けようとした。次の瞬間、ヒカルは横に動いて、メイの迎撃をかいくぐった。
“There is a trap ahead.(その先にもトラップがあります。)”
 カイザーが注意を呼び掛けた直後、ヒカルが手足を押さえられて動きを止められる。彼女の手足に光の輪が付けられていた。
「まさか、ここにもバインドが!?」
「力だけじゃない・・予測もあなたを超えているのよ・・!」
 もがくヒカルにメイが鋭く言いかける。メイが右手を強く握りしめて、魔力を集中させていく。
「これであなたの動きが止まった・・この瞬間に、この一撃を叩き込む・・!」
 メイがヒカルに向かって駆け出して、魔力を込めた拳を繰り出す。
「今!」
 そのとき、ヒカルの手足に掛けられていたバインドが吹き飛んだ。自由を取り戻した彼女が、メイの拳を紙一重でかわした。
「なっ!?」
 勝利を確信していたメイが驚愕を覚える。
(相手の絶好のチャンスの瞬間が、こっちの絶好のチャンスになる・・!)
 ヒカルが集中力を高めて、メイの体に拳を叩き込んだ。
「ぐっ!」
 メイが打撃の衝撃に体を揺さぶられてうめく。彼女は体勢を立て直せず、前のめりに転んで倒れた。
「ど、どういうことなの!?・・確かに、バインドがかかっていたはず・・そう簡単に破られるほどやわでもない・・・!」
 メイが声を振り絞り、ヒカルに鋭い視線を向ける。
「バインドが仕掛けられていたことも予測が付いていたよ。だからすぐにバインドを解除できるように備えていたんだよ・・」
 ヒカルが落ち着きを取り戻してから、メイに説明をする。バインドに捕まることを予想して、すぐにバインドを破れるように備えていた。
“Although I also supported it, I made a desperate bet as I made a mistake.(私もサポートしていたとはいえ、一歩間違えば敗北必死の賭けでした。)”
 カイザーもヒカルの言葉に付け加える。カイザーもヒカルのために全力で支えようとしていた。
「メイ、もう私たちが戦う必要はない・・ギルティアの、ドライブウォーリアーの宿命に従わなくてもいいんだよ・・・!」
「ギルティアは関係ない・・あなたを倒さないと、私はこれ以上先へは進めない・・・!」
 ヒカルが戦いをやめるように呼びかけるが、メイは戦いを続けようとする。
「メイ・・私と一緒に前に進むこともできる・・もう1度、仲のよかったあのときのように、また・・・!」
「あなたと同じ道を、私は歩くつもりはない・・私に歩く道に、あなたはいてはいけないのよ!」
 手を取り合おうとするヒカルだが、メイは敵意をむき出しにしていた。
「どうしてそこまで!?・・・私を倒した後、あなたはどうするつもりなの・・・!?」
 ヒカルが胸を締め付けられるような辛さを感じながら、メイに問い詰める。
「さぁ・・それは分からないわ・・でも、安らぎのある時間を過ごせると思っているわ・・」
 メイが笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がる。
「今はあなたを倒す・・あなたがいなくなれば、私は私らしく生きられる!」
「メイ・・どうして・・そこまで私のことを・・・!?」
 自分の思いを貫こうとするばかりのメイに、ヒカルは辛さを噛みしめる。
“Her intent is strong, it seems impossible to persuade at this moment. There is nothing other than to let it faint if this happens.(彼女の意思は強固で、現時点での説得は不可能のようです。こうなれば気絶させるほかありません。)”
 カイザーがヒカルに向けて助言する。
(そうするしかないみたい・・最悪、メイを殺してしまうかもしれない・・でも、このままメイにこんな戦いを続けさせるくらいなら・・・!)
 迷いを振り切って、ヒカルはメイに自分の全てを叩き込むことを決意する。
「私は、私やあなたのために、周りのみんなが傷ついたり悲しんだりするのは許せない・・あなたがあなたの思いを貫くなら、メイ、私はあなたを倒す!」
 自分の居場所や仲間を守るため、ヒカルはメイを倒すことを心に決めた。
「私は倒れないわ・・あなたを倒すまでは!」
 激情をあらわにするメイ。彼女とヒカルの対決は、終局に向かっていた。


次回予告

かつてはかけがえのない親友だった。
悪しき野望と血塗られた宿命が、2人の心を引き裂いた。
終わらない悲劇はない。
長きにわたる闇の運命に終わりは来る。
2人の戦いもまた・・・

次回・「ふたりの決着」

少女たちの終わりと、始まり・・・

 

 

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