Drive Warrior Gears

Episode19「反逆の牙」

 

 

 メイに一撃を仕掛けようとしたヒカルだが、突然後ろから狙撃された。魔力の光を彼女に浴びせたのは、リオだった。
「やっと見張りの日々からおさらばできたよ。このときが来るのをずっと待ってた・・」
 倒れたヒカルを見下ろして、リオが笑みをこぼす。
「リ・・リオさん!?・・あなたが、私を・・・!?」
 体を起こすヒカルがリオに視線を向けて、驚きを隠せなくなる。
「あたしのことに全然気付かなかったよね。ま、気付かれないようにしてたんだねどね。」
 普段と変わらない気さくな態度で言いかけるリオ。
「リオさん・・どうして・・・!?」
「教えてあげるね・・あたし、ヴァンフォードのスパイなんだよ。」
 困惑するヒカルに、リオが自分の正体を明かす。彼女はヴァンフォードの一員だった。
「アンタがこの近くにいることは調べがついてた。だからあたしがスパイとして送られたけど、まさかあたしのバイト先にアンタもいたのは驚いたね。」
 リオがヒカルたちに自分のことを語っていく。
“I was paying attention to the detection of magical power while the master was everyday. But I did not feel your magical powers.(マスターが日常を過ごしている間も、私は魔力の探知に注意を向けていました。しかしあなたの魔力を感じませんでした。)”
 カイザーもリオの魔力を感じ取れなかったことに驚く。
「言ったでしょ。気付かれないようにしてたって。たとえデバイスでも分かんなかったってわけ。」
 リオが笑みをこぼして、さらに話をしていく。
「ヒカル、アンタのことをいろいろ調べさせてもらったよ。そのことをヴァンフォードに報告してたよ。こっそりとね。」
 リオが語りかけて、ヒカルと一緒にいた時間を思い返していく。
「そしてあたしが他のバイト仲間と同じく仲良くなったと思ってきたところで、奇襲を仕掛けて痛めつけとけってね。始末するのか捕まえるのかは分かんないけどねぇ。」
 リオが笑みをこぼして、ヒカルに近づいていく。
「ヒカルさん!」
 アリシアがヒカルを助けようと降下してくる。だが突然現れた光の壁に行く手を阻まれた。
「アンタたちの間に壁を敷くのも難しくないよ。誰かさんが相手をしてくれてたおかげでね。」
 リオがさらに笑みをこぼして、メイに視線を移す。
「私を利用しただけじゃなく、ヒカルを手にかけて・・・!」
 メイがリオに対して怒りを募らせていく。
「あなたは私にやってはいけないことをやった・・絶対に許しはしない・・・!」
“Her magic isn't ordinary. Please don't be careless.(彼女の魔力は並みではありません。油断しないでください。)”
 リオへの敵意をむき出しにするメイに、ハデスが注意を呼びかける。
「たとえ相手が何であっても、私に対してやってはいけないことをやった・・確実に倒すだけだ・・・!」
 メイがリオに向かって、一気に加速して飛びかかる。彼女はリオの周辺に展開されている光の壁に、魔力を込めた拳を振りかざす。
「そう簡単には破れないよ、それは。その間にヒカルにとどめを刺しちゃうからね。」
 リオがメイに笑みをこぼしてから、ヒカルに手をかざして魔力を集中させる。
「ヒカルを倒すのは私よ!絶対に手を出させない!」
 メイがドライブチャージを行使して魔力を高める。彼女が繰り出した拳が、リオの張っていた障壁を打ち破った。
「えっ!?」
 リオが驚きの声を上げて、すぐにヒカルにとどめを刺そうとする。が、メイが一気にリオの眼前にまで迫ってきた。
(こんなにも一瞬に!?・・や、やられる・・!)
 メイの拳で決定打を与えられると思い、リオが絶望を覚える。
 だがメイが繰り出した拳が、リオに当たることはなかった。メイの拳は、体を起こしたヒカルの手に止められた。
「ヒカル!?」
「何で!?致命傷を突いたのに!?」
 メイとリオが起き上がったヒカルに驚く。
「やめて、メイ・・リオちゃんは、私の友達・・働き先のバイト仲間なんだから・・・!」
 ヒカルが声を振り絞って、メイを呼び止める。
「違う・・あたしはアンタを見張ってただけ!友達だって勝手に思ってても、あたしはそのフリをしてただけなんだから!」
「だって・・リオちゃんは明るく前向きに、私やみんなを元気づけてくれた・・そのリオちゃんが、私やみんなを騙してたなんて、あるわけない!」
 否定するリオにヒカルが必死に呼びかける。
「ところがあるんだよ!今のあたしがそうなんだから!」
「私は信じない!リオちゃんは、私たちの大切な友達だよ!」
 あくまで友達だと思い続けるヒカルに対し、リオが不敵な笑みを浮かべた。
「これでも友達だって思い込めるかな?」
 リオは言いかけて後ろを目で指し示す。視線を移したヒカルが、その先に目を疑った。
「タクミ!?」
 ヒカルが血相を変えて声を上げる。傷ついたタクミが、意識を失って倒れていた。
「ここに来る前に痛めつけたんだよ。ヒカルみたいに不意打ちやって、向こうがわけが分からない間にやっつけちゃったよ。」
 リオがタクミを見つめて微笑む。彼女はタクミがヒカルやアリシアたちと関わりを持ったことに気付いていた。
「どう?それでも私を友達だって信じるのかな?」
 リオがヒカルを見つめて挑発する。タクミを傷付けられた憤りが、ヒカルの心の中で膨らんでいく。
「ホントに・・ホントにリオちゃんが、タクミを・・!?」
 両手を握りしめるヒカルを見て、リオが笑みをこぼす。
“Please calm down. If you use a lot of strength with your physical strength exhausted, your body will be affected.(落ち着いてください。体力を消耗している状態で大きく力を使ったら、体に影響が出てしまいます。)”
 カイザーがヒカルに向けて呼びかける。しかしヒカルの激情は治まらない。
「どうして・・どうしてこんなひどいことを!?」
「あたしはヴァンフォードの一員。マスター・コスモの目指す世界がどういうものなのかを直接見たくてね・・」
 声を荒げるヒカルにリオが妖しく微笑む。
「こんなふざけてばっかの世界にいつまでもい続けるなんてウンザリ・・だから新しくて幸せになれる世界のためにって思ってね・・」
「そのためにヴァンフォードの味方になったの!?・・目的のために人を傷つける人の味方に!?」
「そうだよ。そのお礼で協力するのは当然じゃない。」
「そのために、あなたのことを大事に思っている人を傷付けても、リオちゃんは平気なの!?」
「あたしはみんなのこと、大事に思ったことなんてないよ・・」
 感情をあらわにするヒカルを、リオがあざ笑う。この言葉がヒカルの逆鱗に触れた。
「許せない・・あなたにこれ以上、私の大切な人に手出しはさせない!」
 ヒカルがリオに向かって飛びかかり、魔力を込めた右手を振りかざす。リオは冷静に判断して、上空に飛んでヒカルの打撃をかわした。
「あらあら。ムキになっちゃって~。」
 リオが地上を見下ろしてヒカルをからかう。土煙が舞っていて、視界が遮られている。
「姿は見えないけど、魔力でだいたいの位置は・・!」
 リオが槍と杖の両方の特徴を備えたアームドデバイス「プリズマ」を手にして構える。彼女はヒカルを追撃しようと魔力を探っていく。
 次の瞬間、リオはヒカルの動きに違和感を覚える。ヒカルはタクミを連れて、リオから離れようとしていた。
「そういう狙いだったとはね・・やってくれるじゃない!」
 リオが目を見開いて、ヒカルたち目がけてプリズマを構える。
“I was noticed.I am aiming at this.(気付かれました。こちらを狙っています。)”
 カイザーが注意を呼びかけて、ヒカルは振り向かずに注意力を高める。リオがプリズマから光の矢を連射する。
 だが光の矢は別方向からの光の球にぶつけられて爆発を起こした。
「えっ!?」
 攻撃を阻まれてリオが驚く。彼女の攻撃を阻んだのはメイだった。
「あなた、ヒカルの味方をするつもりなの!?」
「ヒカルを倒すのは私よ・・彼女だけじゃなく、ここまで邪魔をしたあなたもこの手で倒す・・!」
 声を荒げるリオを、メイが鋭く睨みつけてくる。
(メイは自分の手で倒すために、あえてヒカルを助けようというのか・・!?)
 ブレイドがメイの行動に対して眉をひそめる。
「まずはヒカルさんとタクミさんを助けるのが先だよ・・!」
 アリシアが呼びかけて、ブレイドが冷静さを取り戻す。2人がバルディッシュとトランザムを振りかざして、リオの結界を切り裂いて中に飛び込んだ。
「ヒカルさん、タクミさんと一緒に、1回ここを離れましょう!」
 アリシアがブレイドとともに、ヒカルたちに駆け寄って呼びかける。
「でもアリシアちゃん、メイが・・リオちゃんが・・・!」
「今はヒカルさんとタクミくんを無事に戻るのが最優先です!撤退して体勢を立て直しましょう!」
 メイとリオを心配するヒカルを、アリシアが呼び止める。
「アリシア・・・うん・・・!」
 ヒカルは小さく頷いて、タクミを抱えてアリシアとブレイドのそばにつく。
(ミュウ、オレたちを転送してくれ!)
“でも、結界が閉じて転送が阻まれているわ!また結界に隙間ができれば別だけど、中から開けるのは外からよりも難しいのよ!”
 呼びかけるブレイドにミュウが苦言を呈する。
(私が結界に穴を開ける・・ブレイド、サポートをお願い・・・!)
 アリシアが呼びかけて、バルディッシュを構えた。
(お前が結界を破るつもりか!?・・アリシア、まさかお前・・!?)
 ブレイドがアリシアの考えていることに気付いて、緊張を膨らませる。
“Do you try to use that mode? It comes to burden you and me heavily.(あのモードを使おうとしているのですね?あなたにも私にも負担が大きくなります。)”
 バルディッシュもアリシアに向けて警告する。
(分かっているよ・・でもこれしかみんなを守れないし、私自身が守りたいって思っている・・・!)
 それでもアリシアはヒカルたちのために決断を下していた。
(アリシアちゃん・・)
 アリシアの揺るがない決意に、ヒカルは戸惑いを感じていた。
“Please never also use for yourself. Because I help to the utmost, too.(あなた自身のためにも、決して多用しないでください。私も極力助力しますので。)”
(うん・・ありがとう、バルディッシュ・・・)
 助言を送るバルディッシュに、アリシアが感謝した。
「バルディッシュ、ロードカートリッジ!」
 アリシアが呼びかけて、バルディッシュが魔力の弾丸を装填する。
“Zanber form.”
 バルディッシュが変形して、巨大な剣の形となった。最大出力の形態「ザンバーフォーム」となった。
「あの剣・・デバイスの魔力を高めて、結界を破る気!?」
 リオがアリシアとバルディッシュを見ていら立ちを覚える。アリシアたちを妨害しようとするリオだが、メイに行く手を阻まれる。
「ヒカルを倒すのは私!誰にも邪魔はさせない!」
「邪魔しないでよ!アンタ、ヒカルがいなくなってほしいんでしょ!?だったらこのままみんなを見逃すのは、目的が違うんじゃないの!?」
 妨害してくるメイに、リオが不満の声を上げる。しかしメイはリオの前から退かない。
「ヒカルを倒すのは私よ!他の誰にも手は出させないよ!」
「強情め・・アンタにもいい気にさせないよ!」
 自分の意思を貫くメイに、リオがいら立ちを募らせる。彼女がプリズマから光の矢を連射するが、メイの発する魔力の覇気にかき消される。
(メイ・・そこまで、私を倒そうとして・・・!)
 頑なな意思を示すメイに、ヒカルは戸惑いを感じていく。
「疾風迅雷!」
“Sprite zamber.”
 アリシアがバルディッシュの巨大な光の刃を振りかざす。彼女の一閃がリオの張っている結界を切り裂いた。
(今だよ!)
(ミュウ、転移だ!)
 アリシアとブレイドが呼びかけて、ミュウが彼らをその場から転移させた。
「くっ!」
 ヒカルたちに逃げられて、リオがいら立ちを募らせる。
「アンタの・・アンタのせいで逃げられたじゃない!」
 リオが怒号を放って、プリズマから光の矢を連射する。メイが素早く駆け抜けて、リオの眼前まで詰め寄ってきた。
「2度と邪魔してこないように、ここで倒す・・!」
 メイが鋭く言うと、リオの体に拳を叩き込んだ。
「うっ!」
 リオがうめき声を上げて、昏倒して動かなくなる。メイが彼女を見下ろして様子をうかがう。
“Although consciousness is lost, there is no other way in life.(意識は失っていますが、命に別状はありません。)”
 ハデスがリオの状態を分析して、メイに伝える。
(私の目的はヒカルだけ・・わざわざ無抵抗の相手のとどめを刺す必要はないわ・・)
 メイはあえてリオのとどめを刺さずに、ヒカルの行方を追うことを優先する。
(逃げられてしまった・・でもまたすぐに追いつく・・・!)
 ヒカル打倒の決意をさらに強めて、メイはこの場を後にした。

 ヒカル、アリシア、ブレイドはタクミとともに、ロードサイド本部に転移してきた。
「みんな、大丈夫!?」
 ミュウが駆け寄って、ヒカルたちに心配の声をかける。
「体のほうは大丈夫です・・でもメイが、リオちゃんが・・・」
 答えるヒカルが苦悩を覚えてうつむく。
「まさかあの子がヴァンフォードからのスパイだったなんてね。よほど魔力を抑えていたようね・・」
 ミュウがリオのことを考えて、深刻な面持ちを浮かべる。
「私だけじゃなく、ミュウさんやブレイドさんたちでも気付かなかったなんて・・」
「スパイとして、その手の技術を身に着けていたのだろう・・オレたちも気付けないほどというのは、相当のレベルということになるが・・」
 ヒカルが不安を口にして、ブレイドも深刻さを隠せなくなる。
“I couldn't sense the magic, either. I'd suppress the power to the utmost.(私も魔力を感知できませんでした。力を極力抑えていたのでしょう。)”
 カイザーもリオに気付けなかったことを告げる。
「リオちゃん・・友達なのに・・みんなとも仲良くしていたのに・・・!」
 リオに裏切られたことが信じられず、ヒカルが苦悩していく。
「ウソでもヒカルと友情の輪を結んでいた相手だ。気が引けるが・・ロードサイドの壊滅やヴァンフォードの支配達成を現実にするわけにはいかない・・」
「ブレイドさん・・・!?」
 ブレイドが口にした言葉に、ヒカルが息をのむ。
「最悪の場合、あのリオというスパイも倒さなければならない・・」
「ブレイドさん・・ダメです!リオちゃんを殺すなんて、そんなの!」
 ブレイドに対してヒカルが感情をあらわにする。
「オレもアリシアたちもできるなら避けたいと思っている・・だが天秤をかけることになったとき、オレたちを犠牲にしてまで彼女を助けることはできない・・」
「でもだからって、簡単にリオちゃんを切り捨てるなんて・・!」
「彼女のために、オレたちの誰かが傷ついてもいいというのか・・!?」
「それは・・・!」
 ブレイドに咎められて、ヒカルは言葉を詰まらせて反論できなくなる。
「オレたちはロードサイドで、ヴァンフォードの企みを阻止しなければならない・・自らの意思でヤツらに加担している者まで救う余裕はないんだ・・・!」
「ヒカルちゃんの気持ちは分かるけど、割り切らないといけないことだから・・」
 ブレイドに続いてミュウもヒカルに忠告を投げかける。納得できないヒカルだが、言い返せる言葉も見つからなかった。
 そのとき、タクミが意識を取り戻して、体を起こした。
「タクミ!タクミ、大丈夫!?」
「ヒカル・・オレ、どうしたんだ・・・?」
 安心の笑みを見せるヒカルに、タクミが疑問を投げかける。
「タクミ・・お前はリオに不意を突かれたのだ・・」
「ブレイドさん!」
 タクミに事情を打ち明けたブレイドに、ヒカルがたまらず叫ぶ。
「リオが、オレを・・何で!?」
 タクミがこの話が信じられず、声を荒げる。
「ヤツはヴァンフォードのスパイだった。オレたちも彼女の魔力をつかむことができなかった・・」
「オレはリオに不意打ちされて、気絶させられたってわけか・・・!」
 ブレイドからの話を聞いて、タクミがいら立ちを噛みしめる。
「ヒカル、ゴメン・・オレのせいでヒカルたちを危ない目にあわせて・・ヒカルのために強くなったっていうのに、これじゃ・・」
「タクミは悪くない!・・タクミは、私やみんなのために強くなったんだから・・・!」
 自分を責めるタクミにヒカルが弁解する。2人が顔を見合わせて、戸惑いを感じていく。
「ヒカルちゃん、タクミくん、部屋で休もう。何か動きがあったら知らせるから。」
 ミュウが笑顔を見せて、ヒカルとタクミに呼びかけた。
「私が部屋まで送るから、2人とも。」
「は、はぁ・・」
 ミュウに呼びかけられて、ヒカルたちは動揺を見せながら私室に向かうことになった。
「それじゃあたしも付いてって面倒見てやんないとな♪」
 ウィザードが気さくな笑みを見せて、ヒカルたちについていこうとした。が、ウィッシュに肩を優しくつかまれて止められる。
「な、何、ウィッシュ?」
「今はヒカルさんとタクミさんの2人だけにしてあげよう・・」
 疑問符を浮かべるウィザードに、ウィッシュが微笑んで呼びかける。
「何で2人だけにするんだよ?ここは心のケアっていうのをするときじゃないのか?・・って、あたしのガラじゃないな、そんなこと言うのは・・」
「心のケアだからだよ・・2人だけのほうが心が休まることもあるんだよ・・」
 問いかけるウィザードに、ウィッシュが優しく言いかける。しかしウィザードは疑問符を浮かべたままだった。

 ミュウに案内される形で、ヒカルとタクミは個室の1つに来た。ヒカルもタクミも気分が落ち着かず、苦悩を深めていた。
「何かあったら呼んで。すぐに来るからね。」
「はい・・ありがとうございます、ミュウさん・・・」
 気さくに振る舞うミュウに、ヒカルが微笑んで感謝する。
「それじゃあね、ヒカルちゃん、タクミくん。」
 ヒカルたちに挨拶して、ミュウは部屋を出てドアを閉めた。
「本当にゴメン、タクミ・・私のために・・・」
「ヒカルは悪くないって・・オレが油断してやられたから、ヒカルにまで負担をかけて・・」
 謝るヒカルにタクミが弁解を入れる。
「ヒカルにこれ以上負担をかけたくないって強くなろうとして、ブレイドさんにあんだけ鍛えてもらったのに・・・」
「私の、ために・・・」
 本心を口にするタクミに、ヒカルが戸惑いを覚える。
「ヒカルは昔も今も、オレの想像できなかった負担を抱えてきた・・何ができるかまだ分かんないけど、できることがあるなら、オレも力になりたい・・・!」
 正直な思いを口にするタクミに、ヒカルが戸惑いを覚えて頬を赤らめる。
「お前がうちに来てしばらくして、何かを抱えているって気にはなった・・でも話を聞いていいのか分からなくて・・」
「タクミ・・このことは、みんなには言えなかった・・信じてもらえなかったり、話したことでみんなを巻き込むんじゃないかって思ったりもあったけど・・口にしたら、悲しみを思い出して押しつぶされちゃうんじゃないかって思ったのが1番の理由・・」
 互いに自分の本音を口にするタクミとヒカル。2人は心を開いて、正直に話そうと決心した。
「やっぱり下手に聞けることじゃなかった・・オレが思ってた以上に辛いことだったんだ・・・」
「ゴメン、タクミ・・それとありがとう・・私を気遣ってくれて・・・」
 悲痛さを覚えるタクミにヒカルが謝意を示す。2人は感情に任せるように、互いにすがりついて抱きしめ合う。
「もうヒカルにイヤな思いはさせない・・今度こそオレは、ヒカルを守ってみせる・・・!」
「それは私の考えていること・・タクミも、みんなを守ってみせる・・そして今度こそ、メイと向き合うよ・・・!」
 正直な気持ちを伝え合うタクミとヒカル。決心を口にした2人の思いは今、強く交わっていた。

 ヒカルとタクミのいる部屋のドアの前に、ミュウはいた。彼女は2人の会話と告白を耳にしていた。
 その部屋の前にブレイドも来た。
(2人は落ち着いたか?)
(落ち着いた、かな。むしろヒートアップしているみたい。)
 念話で問いかけるブレイドに答えて、ミュウが笑みをこぼす。
(どういうことだ?何か異常が起きたのか?)
(異常じゃなくて、進展ってところかな・・)
(・・悪い事態にはなっていない。それは間違いないのだな?)
(それは確かよ。心配無用。)
 笑みを見せるミュウに、ブレイドが肩を落とす。
(あまりからかうなよ、ミュウ・・)
(大丈夫。見て見ぬフリをするからね。)
 笑顔を見せるミュウを背に、ブレイドは部屋の前を後にした。

 ヒカルたちの打倒のための奇襲に失敗。リオはローザを前にして、恐怖で体を震わせていた。
「申し訳ありません、ローザ様・・今までのお膳立てを壊してしまって・・・!」
「それはいいわ。ロードサイドの中に動揺が広がっているのを祈るだけね・・」
 謝罪するリオにローザが言いかける。
「でも次はもう失敗は許されないわ。全てを賭けてでも任務を成功させるのよ。」
「もちろんです!お任せください!・・次こそは、確実に・・・!」
 警告するローザにリオが危機感を覚えながら答える。
「それでガリュー、マスター・コスモは・・・?」
「またフロンティアからいなくなっている・・また独自で行動されている・・・」
 ローザが問いかけて、ガリューが深刻な面持ちで答える。
「マスターに仕えるのが私たちの使命。しかしマスター自ら動かれては、私たちのやることは・・・」
「全てはマスター・コスモのご意志だ。オレたちに逆らうことは許されない。」
「それは分かるけど・・私たちは、マスターのためにこの力を使いたいのよ・・」
「それはオレも同じだ。だがマスターの意志に背くことこそ罪だ。」
 互いにコスモへの思いを口にするローザとガリュー。2人の考えに食い違いが生じていた。
「ひとまずマスター・コスモの居場所を見つけ出すのが先ね。」
 ローザが口にした言葉に、ガリューが小さく頷いた。
「天宮ヒカルも神凪メイもあたしがブッ倒すよ。」
 そこへラムがやってきて、ローザとガリューに強気な笑みを見せてきた。
「ラム・・あなた、体のほうは・・・!?」
「あたし、今はいい気分だよ。暴れたくてウズウズしてるんだから。」
 問い詰めるローザに、ラムが大きく頷いてみせる。
「体に違和感はないのか?身体チェックでは消耗が激しいと出ているが・・」
 ガリューのラムの体について案じる。
「そんなの関係ないね!あたしのことはあたしが1番よく分かってる!・・マスター・コスモにはホントに感謝だよ。とんでもないパワーをくれたんだからね・・」
 ラムは自信を見せて、きびすを返して2人に背を向ける。
「バカが・・もはやラムは自分が滅びる危険を気にも留めていない・・・」
「マスター・コスモも、徹底的に利用して切り捨てるお考えなのに・・・」
 いら立ちを浮かべるガリューと、深刻な面持ちを浮かべるローザ。不安を帯びた問題が、2人やヴァンフォードの周辺で次々に起こっていた。

 また単身、地球に降りていたコスモ。彼は上空から街の様子を見下ろしていた。
 そのコスモの後ろに、転移してきたラムが現れた。
「マスター・コスモ、あたしに強い力を授けてくれたこと、深く感謝しています。これからもマスターのため、この身と力を捧げるつもりです。」
「ラム、今の我らの障害、天宮ヒカルと神凪メイ。ドライブウォーリアーの2人を先に始末しなければ、我々の目指す理想郷への到達が遅れることとなる。」
 頭を下げるラムに、コスモが表情を変えずに告げる。
「お任せください。その2人も他の邪魔者も、あたしがみんな倒してみせます。」
「お前の力が我々の目指す理想郷への道を切り開く。頼りにしているぞ。」
 意思を示すラムに、コスモが期待の言葉を寄せた。ラムが喜びを感じて笑みをこぼした。
「天宮ヒカルたちはこの星にはいない。神凪メイは彼女が来るのを待っているようだ。」
「だったら2人が戦って、生き残ったほうがあたしたちが倒せばいいんですね。2人は敵同士みたいですし。」
「全ては状況次第だ。互いに体勢を整えてくる可能性がある。万が一にも、両者が手を組むことになれば手を焼くことになる。」
「ロードサイドの動きは管制室が捜索中。あたしは神凪メイの監視を始めます。もしも気付かれたときは、戦闘をすることを許していただけるなら・・」
「状況を見誤るな。理想郷を見失うな。そう言っておく。」
「はい。気も銘じておきます。」
 コスモの投げかける言葉に、ラムが頷いて行動を開始した。
「そうだ・・真の平和をもたらす理想郷への道、決して見失ってはならない・・」
 全ての平穏が絶えることのない理想郷。ただそれだけを目指して、コスモは行動をしていた。
 そのために使えるものを全て使うつもりで。


次回予告

コスモの目指す理想郷のために尽力するヴァンフォード。
ヒカルを倒すことだけに執念を燃やすメイ。
1つの大切な想いを見出したヒカルとタクミ。
それぞれの心と力が、最後の錯綜を始める。

次回・「宿命の交錯」

果てなき戦いにあるものとは・・・?

 

 

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