Drive Warrior Gears

Episode18「絶望への罠」

 

 

 ヒカルが療養で体を休める中、タクミはガリューを相手にした訓練を続けていた。魔力を自在にコントロールするにはまだ至っていないタクミだが、体力は着実に上がっていた。
「これだけ続けば、普通の人なら音を上げるところだが・・」
「ヒカルだって、どんなことがあっても弱音を吐かないんだ・・このくらいのことで参ってたら、ヒカルのそばにもいられない・・!」
 言いかけるブレイドに、タクミが呼吸を整えながら思いを口にする。ヒカルのためにタクミは必死になっていた。
「少し休憩だ。訓練も長時間休みなくやると、逆に体を壊すことになる・・」
「はい・・余計なムチャは禁物ということで・・・」
 ガリューの呼びかけにタクミが小さく頷く。2人が深呼吸をしてから訓練場から廊下に出た。
「タクミ・・」
 そこでヒカルに声をかけられて、タクミたちが振り向く。ヒカルはタクミに当惑を感じていた。
「タクミを、ここまで巻き込みたくなかった・・私が情けないから、タクミまで・・・」
「それは違う、ヒカル!情けないのは、オレのほうだ・・ヒカルが必死になってるのに、オレは何もできなくて・・」
 互いに自分の弱さを責めるヒカルとタクミ。お互い守れなかったことを情けなく思っていた。
「強さに自惚れるのも問題だが、無力だと責めるのもどうかと思うぞ。」
 そこでブレイドが言いかけて、2人に激励を送る。
「これからは今まで以上に、持ちつ持たれつでやろう。」
「ブレイドさん・・はい・・」
「オレも、そろそろ情けないのは卒業しとかなくちゃ・・」
 ブレイドの言葉を受けてヒカルが頷き、タクミが自分に言い聞かせる。
「ところでヒカル、体はもう大丈夫なのか・・?」
「うん。まだ検査はあるけど、体を動かすのには問題ないよ。」
 タクミが心配の声をかけて、ヒカルが笑顔と意気込みを見せる。
「ヒカルちゃん、ここにいたのね。また身体チェックさせてね。」
 ミュウがやってきて、ヒカルに声をかけてきた。
「ま、またチェックですか~?もうだいぶよくなってるのは、ミュウさんが調べてくれたじゃないですか~?」
「だからこそよ。ケガは治りかけが1番危ないのよ。」
 困った顔を見せるヒカルに、ミュウが注意を呼びかける。
「は~い・・分かりました~・・それじゃタクミ、またね~・・」
 ヒカルが気落ちしながら返事をして、タクミと別れた。タクミもヒカルとミュウをただただ見送っていた。
「ミュウの言う通り、治りかけや病み上がりに1番注意が必要になる。平気だと勝手に思って、取り返しがつかなくなることもあるからな・・」
「万全の態勢で臨むってヤツですね・・オレも気を付けないと・・」
 ブレイドからの注意を受けて、タクミが気を引き締めなおす。
「ところで、ヴァンフォードってヤツらはどうしてるんです・・?」
「ウィザードたちが行方を追っている。ヤツらもうまく身を潜めている・・」
 タクミが疑問を投げかけて、ブレイドが答える。
「今はそのことは気にするな。お前もヒカルも・・」
 訓練と休息への集中を阻害しないよう、ブレイドがタクミに激励を送る。タクミは真剣な面持ちで小さく頷いた。

 ミュウに連れられて、ヒカルはまた身体チェックを受けることになった。診断結果を見て、ミュウが頷いていく。
「感知に向かって順調ね。戦闘はまだ先だけど、運動には問題ないわね。」
「私、まだカイザーと一緒に力を出せないのですか・・・!?」
 ミュウの言葉を聞いて、ヒカルが大きく肩を落とす。
「リハビリの意味も込めて、ガイさんたちのお手伝いに行ってあげたら?」
「ガイさんとリンさんのところへ・・そうですね。そのほうが適度な運動になるんじゃないでしょうか。」
 ミュウからの提案を聞いて、ヒカルが微笑んで頷く。
「タクミくんもハードな訓練続きだからね。適度な運動に切り替えたほうがいいかもねぇ。」
「後で私が言っておきますね。エヘヘ・・」
 ミュウの頼みを受けて、ヒカルが笑顔で答えた。

 気分転換の意味も込めて、ヒカルはタクミと一緒に店の手伝いに向かった。2人が戻ったとき、店は昼休みの客たちであふれていた。
「タクミ、ヒカルちゃん、丁度よかった!手伝ってちょうだい!」
 リンがヒカルとタクミに気付いて声をかけてきた。
「どっちにとっても好都合ってところだな・・」
「早く支度して、みんなを手伝おう。」
 タクミが苦笑いを浮かべて、ヒカルが微笑みかける。2人も店の手伝いをすることになった。
 店の仕事に慣れていたヒカルたちは、昼休みの書き入れ時を乗り切ることができた。
「ふぅ~・・今日も昼を乗り切ったかぁ~・・」
「これで少しは、リハビリになったかな・・」
 タクミとヒカルが安心の笑みをこぼす。
「ありがとう、2人とも。あなたたちが来てくれて助かったわ・・」
 リンがヒカルたちに近づいて、感謝と笑みを見せてきた。
「いえ。私はリンさんやガイさんにお世話になっていますから。このぐらいのことはしないと・・」
 ヒカルがリンに笑顔を見せて、自分の思いを口にする。
「落ち着いてきたし、2人ともそろそろ休憩に入っていいわ。」
「分かった。切りのいいところでそうするよ。」
 リンが声をかけてタクミが答える。彼とヒカルが途中の仕事に戻っていった。
「タクミくんと何かあったの?」
 カレンがヒカルに近づいてきて声をかけてきた。
「うん、まぁ・・でも、別にやましいこととかないからね・・お互い、大変なことが起こってて、それで助け合ったってだけで・・・!」
 するとヒカルが動揺を見せて、カレンに弁解する。
「なになに~?2人が急接近しちゃってるの~?」
 リオもやってきてヒカルをからかってきた。
「リオまで・・だからそういうのじゃないって~・・!」
 ヒカルがさらに動揺を見せて、カレンとリオに言いかける。
「みんな、ヒカルちゃんをからかうのはよくないよ・・」
 アスカもやってきて、カレンとリオに注意を投げかけてきた。
「ありがとう、アスカちゃん。エヘヘ・・」
「もー。邪魔しないでよね、アスカちゃーん・・」
 照れ笑いを見せるヒカルと、アスカにふくれっ面を浮かべるリオ。
「それじゃ私、休ませてもらうからね~・・」
 ヒカルは苦笑いを見せたまま、カレンたちの前を後にした。カレンたちから見えないところに来て、ヒカルがひと息ついた。
(これでちょっとは落ち着けたかな・・)
“It was just a good rehab and it was a moderate change.(丁度いいリハビリになりましたし、程よい気分転換にもなりましたね。)”
 心の中で呟くヒカルにカイザーも言葉を投げかける。
(この調子で体も心も全快に向かって一直線だね。)
“Carelessness is a taboo. I have to recover on the way and take notice most.(油断は禁物。治りかけに1番注意を払わないといけません。)”
 微笑みかけるヒカルにカイザーが注意を送る。
(分かっているよ、カイザー。まだムチャはしない。ムチャしなくちゃいけなくなるときまでね。)
 ヒカルが心の中で答えて、微笑んで頷いた。

 ヴァンフォードの動きへの警戒を怠らないロードサイド。ウィザードとウィッシュはヒカルのことを考えていた。
「ヒカルさんとタクミさん、ゆっくりできているかな・・・?」
 ウィッシュがヒカルたちについて呟いていく。
「あたしたちの見てないとこで、いろいろやっちゃってんじゃないの?」
 そこへウィザードが投げかけた言葉を聞いて、ウィッシュが頬を赤らめる。
「そ、そんなおかしなことにはならないって・・ガイさんたちや仕事している人もいるんだから・・!」
「何言ってんの?思い出話とか買い物とか、いろいろあるだろ?」
「そ、それのこと!?・・ア、アハハ・・・」
 ウィザードが首をかしげて、ウィッシュが苦笑いを浮かべる。
「2人とも、おしゃべりばかりしていると注意が乱れるわよ。」
 ミュウがやってきて、ウィザードとウィッシュに声をかけてきた。
「ヴァンフォードは動きを見せていないの?」
「はい・・ここの所、動きが見られないです・・気付かれないように行動しているのかもしれないですが・・・」
 ミュウの問いかけに、ウィッシュがレーダーとモニターを確かめながら答える。
「でも本格的に行動を起こせば、このレーダーに必ず引っかかるはず・・よそ見は厳禁だからね・・」
「もち!任せといてよ、ミュウ!バッチリ見つけ出してやるんだからー!」
 注意を投げかけるミュウに、ウィザードが意気込みを見せる。
「私はヒカルちゃんとタクミくんのほうを見ているから、ここはお願いね。」
 ウィザードとウィッシュに呼び換えて、ミュウは外へ出ていった。
「ウィザード、私もがんばるよ・・」
「その意気だよ、ウィッシュ!いざとなったらあたしがついてる!」
 微笑みかけるウィッシュに、ウィザードが気さくに言いかける。2人は再びヴァンフォード捜索に集中するのだった。

 仕事の小休止をしているヒカルのところへ、タクミがやってきた。
「体のほうは平気か・・?」
 タクミが心配の声をかけて、ヒカルが微笑んで頷く。
「お店の仕事が丁度いいリハビリになったかな。エヘヘ・・」
「ま、ここでもあんまりムチャするなよ。オレにもちょっとは手伝わせてくれよな・・」
 照れ笑いを見せるヒカルに、タクミが励ましを送る。
「タクミやガイさんたちを危険に巻き込みたくないって思って、秘密にしようと思っていたけど、今はタクミの力を借りようと思っている・・」
「ヒカル・・頼りにしてくれてありがとう・・・」
 信頼を寄せるヒカルに、タクミは戸惑いを感じながら感謝した。
「ま、今はヒカルがムチャしないように面倒みてあげないとって思っているけどな。」
「タクミったら、いい気分だったのに~・・」
 気さくに言いかけるタクミに、ヒカルが肩を落とす。2人は顔を見合わせて笑みをこぼした。
「さて、仕事の続きだよ。ガンバ、ガンバ♪」
「張り切りすぎて失敗するなよ。」
 明るく振る舞うヒカルを、タクミがからかう。
「タクミ、こんなときまでからかわないでよね~・・」
 肩を落とすヒカルだが、タクミに感謝して笑みをこぼした。

 フロンティアから脱出したメイは、ヒカルの行方を探っていた。
(感じる・・今までよりも細かく力を感じ取ることができる・・・)
 メイが感覚を研ぎ澄ませることで、ヒカルから出ている魔力を感じ取っていた。
“I also feel it. You are near here.(私も感じています。この近くにいますね。)”
 ハデスもヒカルとカイザーの魔力を感知していた。ハデスのセンサーもより研ぎ澄まされていた。
(近づけばヒカルたちも気付くけど、それでも構わない・・彼女を倒すためなら、私は何も恐れない・・)
“It has top priority, and, as for me, you consider that the safe return is achieved safely. Because your life is your thing.(私はあなたが無事生還を果たされることを最優先に配慮します。あなたの命はあなたのものですから。)”
 頑なな意思を示すメイに、ハデスが励ましの言葉を送る。
(そう・・だからこそ、私がどう生きるか、どう死ぬかは私が決める・・)
“Please do not choose easily to die.(死ぬことを簡単に選ばないでください。)”
 自分の意思を強めていくメイに、ハデスが呼びかける。
“Because there is a person who doesn't want you to die, too.(あなたに死んでほしくないと思う人もいますので。)”
(あなたもそうだというのね、ハデス・・・大丈夫よ。少なくともヒカルとの戦いで死ぬつもりはない。相打ちにはしないわ・・)
 気遣うハデスに言葉を返して、メイはさらに歩く。
(出てくるのよ、ヒカル・・隠れるなら、私はどんな手段にも出るから・・・!)
 ヒカルがすぐに出てくることを確信しながら、メイは彼女のほうへ進んだ。

“A strong magical power approaches. This is Hades.(強い魔力が近づいてきます。これはハデスです。)”
 カイザーがヒカルに向けて警告を呼びかけてきた。
(メイが私のところに・・ここにいたら、ガイさんたちが危険に・・・!)
 店に来させてはいけないと思い、ヒカルが裏口からそっと外に出る。
「ヴァンフォードか・・!?」
 タクミも外に出てきて、ヒカルを呼び止める。
「ううん、メイが私を狙って・・」
「メイ・・この前、オレを捕まえた人か・・・!」
 ヒカルの言葉を聞いて、タクミがさらに緊張を膨らませる。
「オレも行く・・オレもヒカルの力に・・・!」
「タクミは残って・・この隙を狙ってヴァンフォードが動き出すかもしれないし・・そのときに、みんなを守ってあげないと・・」
 ついていこうとしたタクミにヒカルが呼びかける。
「分かった・・だけどヒカル、無事に戻ってきてよ・・・!」
「うんっ!もちろん!」
 タクミの言葉に頷いてから、ヒカルは店から駆け出していった。
(オレはここを守ることにするぞ・・ヒカルが帰ってくるこの場所を・・・!)
 タクミも決意を固めて、店に留まった。

 メイを迎え撃とうと1人飛び出したヒカル。彼女はメイが自分を狙っていることを分かっていた。
(メイ・・今度こそ、きちんと向き合わないと・・!)
“I am approaching you aiming at you. Let's minimize the damage away from the city.(あなたを狙って近づいてきています。街から離れて被害を最小限にしましょう。)”
 メイのことを考えるヒカルにカイザーが呼びかける。彼女は人気のない草原に来て足を止めた。
(ここなら人はいない・・結界が張られればもっと大丈夫になる・・・!)
 ヒカルは笑みを浮かべて、メイが来るのを待つ。いつでも戦えるように備えながら。
“She descends from here above the sky.(上空からこちらに向かって降下してきます。)”
 カイザーが呼びかけて、ヒカルが集中力を高める。バリアジャケットを身にまとったメイが、ヒカルに向かって急降下してきた。
「カイザー!」
 ヒカルもバリアジャケットを身にまとい、メイを迎え撃つ。2人が同時に拳を繰り出し、周囲に衝撃が巻き起こる。
「ヒカル、今度こそあなたを倒し、私の心の穴を埋める!」
「やめて、メイ!私を倒しても、あなたの心は絶対に埋まらない!悲しみと絶望が広がってしまう!」
 敵意を向けるメイにヒカルが呼びかける。2人が続けて拳をぶつけ合っていく。
 しかしヒカルが徐々にメイに押されていく。
(メイの力が、以前よりも強くなっている・・こんな短期間に・・!?)
 メイの力が高まっていることに、ヒカルが驚きと疑問を覚える。彼女がメイの拳をかわして距離を取る。
「私はあなたを倒す・・そのための力が、今の私にはある・・!」
 メイが敵意をむき出しにして、ヒカルに近づいてくる。
(私を倒すために、メイは力を上げて・・これだけの強さに・・・!)
“Magical power and fighting power are much higher than before. If you do not raise the magical power, you may get fatal injuries.(以前よりも魔力や戦闘力が大幅に上がっています。魔力上昇を行わなければ、致命傷を受けることになりかねません。)”
 焦りを募らせるヒカルにカイザーが注意を呼びかける。
(ここはドライブチャージで一気に決めるしかない・・さもないと、今度は骨折じゃ済まなくなるかもしれない・・・!)
 ヒカルが気を引き締めなおして、メイの動きを見据える。
「あなたに負ける気がしない・・今はそう思える・・・!」
 メイがヒカルに自信を見せて、両手を強く握りしめる。
「あなたがいなければ、私の人生は狂うことはなかった・・あなたの存在が、私をおかしくしていくのよ!」
「ギルティアを野放しにすれば、何もかもムチャクチャになっていた!私もメイちゃんも、ギルティアのために何もかも失った!」
「私の全てを奪ったのは、ヒカル、あなたよ・・・!」
 必死に呼びかけるヒカルだが、メイは彼女に敵意を向けるばかりである。
「あなたがいなければ、私は希望を持てた・・希望も命も失うこともなかった・・・!」
 ヒカルへの怒りに駆り立てられて、メイが魔力を集中させていく。
「あのときみたいに、戦いは避けられないんだね・・倒してでも、あなたを止めないといけないってことだね・・・!」
 ヒカルが覚悟を決めて構えを取る。
(でもどうやればメイをとめられるのかな・・間違ったら、今度こそメイの命を奪ってしまうかもしれない・・・!)
“I make the magic concentrate one point, and has no choice but to hit her. If your feelings are included, her life wouldn't be threatened.(魔力を一点集中させて、彼女に当てるしかありません。あなたの想いを込めるなら、彼女の命を脅かすことにはならないでしょう。)”
 思考を巡らせるヒカルにカイザーが呼びかける。
“Please deliver your feelings to her.(あなたの想いを彼女に届けてあげてください。)”
(カイザー・・・うん・・やってみるよ・・!)
 カイザーの言葉に後押しされて、ヒカルが迷いを振り切る。
“Drive charge.”
 ドライブチャージによって、ヒカルは両手に魔力を集中させる。メイが飛びかかり、ヒカルと魔力の拳をぶつけ合う。
 ヒカルはメイの打撃を受けても押されることなく踏みとどまった。
「私の力に耐えた!?・・でも、私がさらに力を込めれば!」
 メイが目を見開いて、拳にさらに魔力を込める。
「うあっ!」
 ヒカルが押し切られて突き飛ばされて、草むらを大きく転がっていく。
「私はあなた以上に強くなったのよ!あなたは私を止めることはできない!」
 メイが言い放ち、ヒカルを倒そうとさらに魔力を上げる。体に痛みを感じながら、ヒカルはメイをじっと見据えていた。

 ヒカルとメイの戦いは、すぐにロードサイドのレーダーが感知していた。
「ヒカルさんたちが・・!」
「しかもメイってヤツ、前よりも魔力がアップしてる!」
 ウィッシュとウィザードがコンピューターを動かしながら声を上げる。
「早く助けに行かないと・・ヒカルが危険に・・・!」
 アリシアがヒカルを助けようと、外へ飛び出そうとする。
「待て、アリシア!オレも行く!」
 ブレイドがアリシアに呼びかけて、ウィザードたちに振り向く。
「ヴァンフォードがこの機に乗じて2人を狙っているかもしれない!警戒を怠るな!」
「はいっ!」
「もちっ!」
 ブレイドの呼びかけにウィッシュとウィザードが答える。ブレイドとアリシアが頷き合ってから、ヒカルのところへ向かった。

 メイの飛躍した魔力の攻撃に、ヒカルは悪戦苦闘を強いられていた。
(どうしたらいいの!?せめて、ドライブチャージで一気に力を溜め込んで、メイに当てられることができたら・・!)
 メイを止める方法を必死に考えるヒカル。しかし彼女はそのチャンスをつかめないでいた。
(一瞬でもいい・・ドライブチャージのチャンスがあれば・・・!)
“There is magical power approaching here. Relief will come.(こちらに近づく魔力あり。救援が来ます。)”
 思考を巡らせるヒカルに、カイザーが呼びかける。アリシアとブレイドがバルディッシュとトランザムを手にして現れた。
「ヒカル、大丈夫!?」
「アリシア、ブレイドさん!」
 アリシアとヒカルが声を上げて、メイがアリシアたちに視線を向ける。
「邪魔をしないで・・今の私の邪魔をすることは、誰にもできない!」
 メイがヒカルに向かって飛びかかる。ブレイドがとっさに飛び出して、ヒカルの前に出てメイの拳をトランザムで受け止める。
「ぐっ!」
 メイの力に押されて、ブレイドが衝撃に襲われてうめく。それでも彼はヒカルを守ろうと踏みとどまる。
“Plasma lancer.”
 アリシアが光の矢を連射して、メイをヒカルとブレイドから引き離す。
「ヒカル、大丈夫・・!?」
「うん・・ありがとう、アリシア、ブレイド・・!」
 心配の声をかけるアリシアに、ヒカルが微笑んで答える。
「気を付けてください・・メイ、この前よりもさらに強くなっています・・!」
 ヒカルがブレイドにメイのことを呼びかける。
「オレも彼女の今の攻撃を受けて分かった・・オレでも止められるかどうか・・・!」
 ブレイドが答えて焦りを噛みしめる。メイが彼らに向けて鋭い視線を送る。
(ブレイドさん、ちょっとだけメイを食い止めてくれませんか!?メイを止められるだけの力を集めてみせます!)
 ヒカルが念話でブレイドとアリシアに呼びかける。
(ヒカル・・ここはヒカルを信じる・・ヒカルなら、メイさんを止める・・・!)
 アリシアがヒカルへの信頼を告げる。
(分かった・・オレとアリシアで時間を稼ぐ。ウィザード、結界を展開して被害を抑えろ!)
“任せといて!そこはバッチリやるからさ!”
 ブレイドの指示にウィザードが答える。ヒカルたちの周辺に結界が展開されて、周囲への被害を遮断した。
「私はヒカルを倒すだけ・・他はどうなろうと知ったことじゃない・・!」
 メイがヒカルへの敵意を募らせていく。彼女はヒカルを倒すためなら、自分へのリスクや周りへの犠牲を顧みなくなっていた。
「オレが先に出る・・アリシア、援護してくれ・・!」
「うん・・!」
 ブレイドが呼びかけてアリシアが答える。足を速めるメイの前に、ブレイドが立ちはだかる。
「邪魔をするなら、今度こそバラバラにするわ!」
「そう簡単にいくと思うな・・!」
 怒号を放つメイにブレイドも言い返す。メイの拳とブレイドが魔力装填をしたトランザムが激しくぶつかり合う。
「ヒカル、私も全力を出すよ・・あなたのために、メイさんのために・・」
 アリシアは微笑んでから、メイに立ち向かう。
(ありがとう、アリシア・・ありがとうございます、ブレイドさん・・・!)
 ヒカルが心の中で感謝して、集中力を高めていく。
(早く力を集中させて、メイを止めないと・・・!)
“It takes one minute to charge the required force. Please concentrate on Drive charge.(必要な力をチャージするのに1分を要します。ドライブチャージに集中してください。)”
 自分に言い聞かせるヒカルに、カイザーが助言を送る。
「ドライブチャージ!」
 ヒカルが握った右手を前に出して、魔力を集中させていく。彼女は右手に攻撃力の向上の魔力を練り上げていく。
 アリシアが再び仕掛けたライトニングバインドに拘束されるメイ。しかしメイは全身から魔力を放出して、バインドを打ち破り加速する。
 バルディッシュが障壁を展開するが、メイの繰り出した拳が障壁を打ち破る。
「うっ!」
 バルディッシュが打撃を防ぐも衝撃までは抑え切れず、アリシアが体を揺さぶられてうめく。押される彼女が体に力を入れて、辛くも踏みとどまる。
(防御に回っても、それ以上の攻撃力で突破されることになる・・・!)
 防御をしてもメイにそれを打ち破られて再起不能にまで追い込まれかねないと、アリシアが判断する。
(攻撃を受ければ致命的となるなら、力と速さに重点を置くしかない・・・!)
 アリシアが意を決して、バルディッシュに意識を傾ける。
“I support, but please be careful not to get attacked.(私もサポートしますが、攻撃を受けないように気を付けてください。)”
(ありがとう、バルディッシュ・・それじゃ、行くよ・・!)
 励ましの言葉を送るバルディッシュに感謝して、アリシアが魔力を集中する。
“Sonic form.”
 アリシアのバリアジャケットが変化し、軽量化された。
 「ソニックフォーム」。高速とそれに伴う攻撃力に特化した姿である。反面バリアジャケットによる防御力は低下している。
 従来のバリアジャケットでも今のメイの攻撃を受ければひとたまりもない。ならば防御への配慮を切り捨てて攻撃と速さに重点を置いたほうがいいと、アリシアは判断した。
 バルディッシュの先から光の刃が発する。アリシアが振り向いたメイの動きを見据える。
 メイがアリシアに向けて飛びかかり、拳を振るう。アリシアが一気に加速して、メイの拳をかわす。
「スピードが一気に上がった・・!?」
“We increased the speed by lightening the protective clothing. While avoiding this attack, it is an idea to hit a strong attack.(防護服を軽量化したことで速さを増したのです。こちらの攻撃を回避しつつ、強力な攻撃を当てる考えでしょう。)”
 声を荒げるメイにハデスが注意を投げかける。
「でも今の私はパワーだけじゃなく、スピードも上がっている・・必ず攻撃を当てられる・・!」
 メイが自信を強めて、拘束で動くアリシアを追いかける。
(私についてきて・・その間にヒカルがドライブチャージを終えるから・・!)
 メイを引き寄せて時間稼ぎを進めるアリシア。ブレイドも彼女を援護しようと、メイを追走する。
(やった・・ここまで集中させれば、メイを止められるかもしれない・・・!)
 ドライブチャージを完了させて、ヒカルが魔力を集めた右手を見つめる。
(アリシア、ブレイドさん、メイの動きを止めてください!その隙に私がメイに一撃を叩き込みます!)
 ヒカルからの念話がアリシアたちに届いた。アリシアがメイを見据えてバルディッシュを構える。
“Haken slash.”
 アリシアが振りかざしたバルディッシュから光の刃が放たれる。回転する光の刃が加速してメイに向かっていく。
「それで私に勝てるはずが・・!」
 メイが魔力を込めた拳を繰り出して、光の刃を打ち砕こうとした。そこへブレイドがトランザムを構えて飛び込んできた。
(同時に攻撃してくるつもりでも、私には通じない・・!)
 メイは上昇して光の刃とトランザムの一閃の同時攻撃をかわした。
(またバインドで動きを止めようと考えているようだけど、同じ手は食わない・・!)
 バインドが設置されている位置を把握して、メイが動きを変えていく。
(それも分かっている・・!)
 予測していたアリシアが、動きを変えたメイと距離を詰めた。
「うっ!」
 不意を突かれたメイが、アリシアが振りかざしたバルディッシュをかわし切れず、拳を繰り出して受け止めた。
(ぐっ!・・今の私が追い詰められるなんて・・・!)
 バルディッシュを食い止めるあまりに、メイは動きを止められる。
“It is now. It is a chance of attack.(今です。攻撃のチャンスです。)”
 カイザーがヒカルに向けて呼びかける。ヒカルが右手を握りしめて、メイに狙いを定める。
(メイは私が止める・・これは、私たちの問題なのだから・・・!)
 心の中でメイに呼びかけて、ヒカルが拳を振りかざした。
「うっ!」
 次の瞬間、ヒカルの体を一条の光が貫いた。彼女がバランスを崩して、集中させていた魔力が分散する。
「ヒカル!」
 倒れていくヒカルにアリシアが叫ぶ。ヒカルの後ろにいたのは1人の少女。
「あれは・・・!」
 アリシアが少女に目を疑う。その少女はリオだった。
「リオさん!?・・・どうして・・いったい、何がどうなっているの・・・!?」
 目の前で起こった瞬間に驚愕を隠せなくなるアリシア。ヒカルを後ろから襲ったのは、魔力の光を放ったリオだった。


次回予告

突然の裏切り。
非情の一閃。
リオの引き起こす謀略がヒカルを、アリシアたちを追い詰める。
窮地に追い込まれたヒカルたちと、メイの戦いの行方は?

次回・「反逆の牙」

破滅の闇の中できらめく、希望の光・・・

 

 

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