Drive Warrior Gears

Episode17「コスモ」

 

 

 メイの前に現れたのは、ヴァンフォードを束ねるコスモだった。
「私はコスモ。ヴァンフォードを束ねる存在だ。」
「コスモ・・ヴァンフォード・・その親玉が私の前に・・・!」
 名乗るコスモを見て、メイが呟く。
“The magic which has no things felt so far from that person is felt. When not watching, even you can carry a fatal wound.(あの人から今まで感じたことのない魔力を感じます。警戒しなければ、たとえあなたでも致命傷を負いかねません。)”
 ハデスがコスモの力を感知して、メイに注意を呼びかける。
(たとえ私より明らかに力が上でも、私は立ち止まったり逃げ帰ったりするわけにはいかない・・その方向に、ヒカルはいないから・・・!)
 しかしメイは引き下がろうとせず、コスモと対峙する。
「剣を収めろ。これほどのお前の力、ムダに散らすわけにいかない。」
 コスモがメイに向けて警告を送る。
「私にはやることがあるのよ。他の人の言葉に耳を貸すつもりはないわ!」
 メイが言い放って、コスモに向かって飛びかかる。彼女は魔力を込めた拳をコスモ目がけて繰り出す。
 だがコスモの前に現れた障壁に、メイの拳が防がれた。
(私の強力になった攻撃を、こうも簡単に防ぐなんて・・!?)
 コスモの力を痛感して、メイが驚愕する。
「力ずくで思い知らせるしかないようだ。」
 コスモは表情を変えることなく、メイに向けて右手をかざした。
「うっ!」
 メイが体の自由を押さえられる。コスモの念力が彼女を束縛していた。
(バインドともバリアとも違う・・本当に、念力・・・!)
「単純な思念では破ることはできない。おとなしくしないと苦痛が増すことになる。」
 力を痛感するメイに、コスモが忠告を送る。
「今の私にできないことはない・・ドライブチャージ!」
 メイが意識を集中して、魔力を放出して念力を打ち破ろうとする。
「ぐっ!」
 しかし直後に激痛に襲われて、メイが顔を歪める。集中が乱れて、彼女は魔力を発揮できなくなる。
「私のこの力は、お前の中にあるシステムをも束縛している。お前は強い魔力を出すことができない。」
 コスモが言いかけて、さらに念力を強めた。魔力を発揮できなくなったメイは、激痛のあまりに意識を失うことになった。
「魔力の源が命と同一となっている存在。このような形で力が使えなくなるとは、皮肉というものだ。」
 倒れて動かなくなったメイを見下ろして、コスモが呟く。
「マスター・コスモ、あなたが自ら来られるとは・・」
 ラムがコスモの前に歩み寄り、ひざまずいて頭を下げる。
「私もただ待つだけとはいかなくなった。自ら行動するときが来たようだ。」
 コスモがラムに言いかけて、メイに視線を戻す。
「申し訳ありません、マスター・コスモ・・」
「我々が不甲斐ないばかりに、マスターの手を煩わせることになってしまいました・・・」
 ローザとガリューもコスモに頭を下げて謝罪する。
「気にすることはない。むしろ私も手を汚さずに済ますつもりはない。」
 コスモが言葉を返して、倒れているメイを抱える。
「彼女は新たな世界のためのカギになる。たとえ彼女が我々の言葉に従わなくても・・」
 コスモは呟くと、メイをゆっくりと宙に浮かせて抱える。
「フロンティアに戻る。改めて彼女と話をする。」
「マスター・コスモ直々にですか・・!?」
「そうだ。たとえ抵抗されることになろうと、世界のために彼女の力が必要になる。」
 ガリューに答えて、メイを連れて宙に浮くコスモ。彼は転移でフロンティアに戻った。
「マスター・コスモ・・神凪メイをどうしようと・・・?」
「マスターの理想とする世界のためでしょうけど・・・」
 ガリューとローザがコスモのメイへの扱いについて考えを巡らせる。
「考えることないよ。全部マスターのお導きなんだから。」
 ラムがガリューたちに言いかけて笑みを見せる。彼女も跳躍して、フロンティアからの転移魔法を受けた。
「ラムの言うとおりね。私たちはマスター・コスモに全てを捧げた・・」
「オレたちの意思は関係ない。マスターのご意志のままに・・」
 ローザが言いかけてガリューが答える。2人はコスモの意志に従う道を歩んでいた。今までも、これからも。
 ローザとガリューもフロンティアに戻っていった。

 アリシアとガリューに助けられたヒカルは、すぐにロードサイドにて治療を受けることになった。医務室のベッドの上で、ヒカルは安静にしていた。
 ヒカルの状態を見て、ミュウが深刻な面持ちを浮かべていた。
「肋骨がやられているわ。カイザーが自然治癒力を高めて回復させているけど、その間は安静ね・・」
「そうか・・しっかりと体を休めるいい機会と見るべきか・・」
 ミュウからのヒカルの診断を聞かされて、ブレイドが呟くように言いかける。
「あのタクミくんという子は、彼の家に送っておいたわ。夢を見ていたとか思って、深く気にしなければいいんだけど・・」
「彼は魔法のことやロードサイド、ヴァンフォードのことを聞いている。不安に思う可能性が高いだろう・・」
「臨機応変に対応するしかないみたいね。そこは私がフォローするわ。もちろん、ヒカルちゃんとアリシアもね。」
「心を守るのはミュウたちに任せる。体を守るのはオレの役目だ。ヴァンフォードからも、メイからも・・」
 タクミ、そしてヒカルとアリシアのことを考えるミュウとブレイド。
「ウィザードたちのところに行ってくる。ここは任せた。」
 ブレイドはミュウに声をかけてから、医務室を後にした。
「ここじゃ私が任されるしかないんだけどねぇ・・」
 ミュウは苦笑いを浮かべてから、眠り続けているヒカルに目を向けた。
(すぐにムチャするのは、止めたほうがよさそうね・・)
 ヒカルの性格を知っていたミュウは、彼女から目を離さないようにした。

 ミュウたちの計らいで部屋に戻されたタクミ。ミュウたちはタクミから魔法やロードサイドに関する記憶を消さなかった。
 目を覚ましたタクミが、ヒカルたちやメイのことを思い出していた。
(オレ、あの娘に捕まっていたのか・・・)
 メイに人質にされたことを思い出して、タクミが体を震わせる。
(また、何もできなかった・・それどころか人質にされて、ヒカルたちの負担に・・・)
 自分の無力さを痛感して、悔しさを噛みしめるタクミ。ヒカルたちのためにどうしたらいいのか、彼は分からなくなっていた。
(お願いだ・・オレに、戦い方を教えてくれ・・オレ、ヒカルのために強くなりたいんだ・・)
 タクミは力を求めて、心の中で願いを込めていた。

 医務室を出たブレイドはウィザード、ウィッシュのところへ来ていた。ウィザードたちはヴァンフォードの動きを警戒して、レーダーを注視していた。
「ヴァンフォードは動きを見せていないよ。ここや地球とその周辺は異常なし。」
「空間の歪みも発生していないです・・」
 ウィザードとウィッシュがブレイドに状況を報告する。
「でもタクミさんが、私たちに呼びかけているみたいなんですが・・」
「何・・!?」
 ウィッシュが続けて報告したことに、ブレイドが眉をひそめる。
「まぁ、魔力資質が悪くても、努力次第で魔法を使うことはできなくもないけど、魔法の認知が低いあの世界の人がいきなり魔法を使いこなすのはムチャな話だよ・・」
 ウィザードが呆れた素振りを見せて言いかける。
「でもヒカルさんだって・・」
「あれは特別。体にカイザーってデバイスが入ってるからね。」
 ウィッシュが口にした言葉に、ウィザードが淡々と答える。
「オレが面と向かって、彼と話を付ける必要があるようだ・・」
「だけどヴァンフォードやあのメイってヤツはどうするんだよ!?」
「彼女とヴァンフォードに動きがあり次第、連絡してくれ。すぐに向かう。」
 声を荒げるウィザードに呼びかけて、ブレイドが管制室を後にした。
「ったく!ブレイドも勝手で人使い荒いんだから~!」
「でも心強いよ、ブレイドは。強さも精神面でも・・」
 不満を口にするウィザードに、ウィッシュが微笑んで言いかける。
「そんなこと、わざわざ言わなくたって分かってるって!あたしが注意しても言うこと聞かないし!」
「ウィザードだけにじゃないよ。ブレイド、けっこうガンコだからね・・」
 不満いっぱいのウィザードに、ウィッシュがブレイドのことを口にする。
「アリシアも何気にガンコなとこあるし、ミュウもたまにいじわるなことしてくるし・・ヒカルもけっこうガンコだな・・」
「ここに集まるのはみんな個性派ぞろいだからね・・」
「自分でそんなこと言うのかよ、ウィッシュ・・」
「ウィザードだって人のこと言えないよ・・」
 不満の素振りを見せるウィザードに、ウィッシュが笑みをこぼす。
「みんなガンコだけど、ヴァンフォードから世界を守れる心強いチームだね、私たち・・」
「ま、それは間違いなしだな。」
 さらに微笑むウィッシュに、ウィザードも笑みをこぼした。
「さーて、その強いチームのチームメイトとして、バッチリ任務こなしちゃうぞー!」
「その意気だよ、ウィザード。」
 意気込みを見せるウィザードを見て、ウィッシュが笑顔を見せる。2人はヴァンフォードとメイの行方を追って、レーダーを注視した。

 ヒカルとメイが交戦してから一夜がたった。戻ってこないヒカルが気がかりで、タクミは1人外に出ていた。
(ヒカル・・あれからずっと・・いったいどこに・・・)
 ヒカルを追い求めて歩き続けるタクミ。彼は街外れの道に差し掛かった。
「オレたちを探しているようだが・・」
 突然声をかけられて、タクミが振り返る。彼の前にブレイドが現れた。
「あなたは・・・!」
「ヒカルのために強くなりたいようだが・・簡単に強くなれるほど、訓練も戦いも甘くはない・・」
 戸惑いを覚えるタクミに、ブレイドが忠告を投げかける。
「それでも強くなりたい・・このまま、ヒカルが大変な思いをしているのを、黙って見ているなんてできない・・・!」
 しかしタクミは強さへの思いを抑えない。
「お前は元々は魔法とは縁のない人間で、ヒカルのような特殊でもない。その人間が魔法をマスターするには、かなりの時間を費やすことになる・・」
「それでもやってやる・・1秒でも早く強くなって、ヒカルを助けるんだ・・・!」
 ブレイドがさらに言いかけるが、タクミはそれでも考えを変えない。
「分かった。そこまで言うならオレが鍛えてやる。」
「あ・・ありがとう・・ありがとう!」
 ブレイドが聞き入れて、タクミが喜んで感謝する。
「その前に来てほしいところがある・・一緒に来てくれ・・」
 ブレイドに呼びかけられて、タクミが小さく頷く。彼はブレイドに連れられて、転移によって移動した。

 ブレイドに連れられて、タクミも転移されてロードサイドの本部に来た。
「タクミさん・・・!」
 タクミが本部に来たことにアリシアが驚く。タクミとブレイドはヒカルとミュウのいる医務室に来た。
「タクミくん・・あなた、ここに来たの・・・!?」
 ミュウがタクミを見て一瞬驚く。タクミもベッドで眠っているヒカルを見て、当惑を覚える。
「ヒカルはメイとの戦いで負傷して眠っている。一歩間違っていたら命にかかわっていたかもしれない・・」
 ブレイドがヒカルの今の状態をタクミに話す。
「お前が飛び込もうとしているのは、こういった危険と隣り合わせの世界だ。それでも強くなりたいのか・・?」
「あぁ・・ヒカルがこんなことになってるのを知ったなら、なおさらやらないとって思う・・・!」
 改めて忠告するブレイドに、タクミが決意を強くする。彼の意思を目の当たりにして、ブレイドが頷いた。
「練習場を使わせてもらうぞ、ミュウ。」
「それはいいけど、ケガだけはダメだからね、2人とも・・」
 言いかけるブレイドに、ミュウが気さくな素振りで注意を呼びかける。ヒカルのことを気にしながら、ブレイドと一緒に練習場に向かった。

 練習場に来たタクミは、ブレイドと向かい合っていた。ブレイドが両手を前にかざして、タクミに呼びかける。
「魔力の使用は集中力の向上がカギとなる。精神統一で自分の力を引き出す・・」
「集中力で、魔力を引き出す・・・」
 ブレイドの言う通りにして、タクミが目を閉じて意識を集中する。
「どう力が現れるかをイメージしろ。イメージトレーニングと呼ばれるものが、魔力を引き出すのに効果的だ・・」
「イメージトレーニング・・・」
「だが問題はそこからだ。イメージが固まっても、それを現実に引き出すのは、資質がなければ難しい・・」
 ブレイドからの助言を受けて、タクミが集中力を高めていく。
(自分の力を、体から引き出す・・そのイメージを、現実に・・・!)
 イメージを膨らませて、両手に力を込めていくタクミ。
(素質があるならすぐにでも魔法が現れるはず。ここに入る前に、魔力を引き出しやすいように調整を行ってきた。だが素質が低いならそれでも魔法は現れないだろう・・)
 タクミの魔力の資質を見定めようとするブレイド。タクミはさらに集中力を高めて、魔力を引き出そうとする。
 そしてタクミの両手から淡い光が灯った。
(魔力が出た・・!?)
 ブレイドがタクミにも魔力資質があると直感した。だがすぐにタクミの光が消えてしまった。
「ハァ・・ハァ・・・今、出たのに・・・」
 息を乱して床に膝をつくタクミが、体力の消耗の激しさを実感する。その彼にブレイドが歩み寄る。
「素質があっても、1発で魔力を引き出せる者は、例外中の例外と言っても過言ではない・・オレも驚いたぞ・・」
 ブレイドが称賛の言葉を投げかけて、タクミに手を差し伸べた。
「魔法を使いこなすのは遠い話ではないかもしれない・・だが焦りは禁物だ。今は1度体を休めよう・・」
「ハァ・・ハァ・・・オレに、可能性がある・・・!」
 ブレイドに励まされて、タクミは呼吸を整えながら喜びを感じていた。

 メイを連れてフロンティアに戻ったコスモ。拘束テープで縛られているメイを、コスモは無表情で見つめていた。
 コスモの力を受けて意識を失っているメイは、未だに眠り続けている。
「我々の目指す世界の実現には、お前の力が必要だ。だがお前が理想を実現させるのも、我々の力が必要となってくる。」
 コスモがメイに向けて、囁くように言いかける。
「どの世界も矛盾で満ちている。結果、争いや混乱を招き、そして破滅を迎える。それを阻止するために、私が全ての世界を束ねる。」
 コスモが右手をかざして魔力を注ぐ。その手から淡い光があふれる。
「目を覚ませ、神凪メイ。」
 コスモから思念を送られて、メイが意識を取り戻す。
「・・・お前は!・・うっ!」
 コスモに気付いて反射的に動こうとするメイだが、テープに縛られていて動けない。
「抵抗を防ぐため、あえてこのような手を打った。こうしなければ話が進まないので。」
「お前と話すことはない・・私の目的はただ1つ・・!」
 言いかけるコスモにメイが言い返す。
「天宮ヒカルと戦い、倒すこと・・」
 コスモが投げかけた言葉に、メイが目を見開く。
「天宮ヒカルを倒すため、お前は力を求め、我々がドライブチャージシステムを組み込むのを狙った。結果、お前は力を手に入れながらも我々の支配下からも逃れた。」
「私は誰にも支配されるつもりはない!私は私の意思で、ヒカルとの決着を付ける!邪魔をする者も容赦しない!」
「ならば我々が、お前の戦いのお膳立てをしよう。天宮ヒカルを倒すための力を与える。お前がそれを利用し、我々を見限ればいいだけのこと。」
「そんな施しを受けるつもりは、私には・・!」
「今の力では仮に天宮ヒカルを倒せても、我々の敵に回るお前は私の力に屈することになる。我々からの力を得れば、その抵抗も可能となる・・」
 敵意を見せるメイに、コスモが表情を変えずに語りかける。
「捉えようでどうにでもなることだ。我々が与える力を得て我々を敵対しても、それ自体を理由に滅ぼそうとはしない。」
「そうやって私を思い通りにしようとしてもムダだ・・私は私だ・・!」
 さらに言葉を投げかけていくコスモだが、メイは聞き入れず、強引に拘束テープを引きちぎろうとする。
「そんなことをしても脱出どころか、自分の体を断ち切ることになる。自殺行為は滑稽ということが、理解できないお前ではないはずだ。」
「誰かの言いなりになるくらいなら、私は自ら死を選ぶ!でも私は死なない!ヒカルとの決着を付けるまでは!」
 コスモが忠告を送るが、メイは聞き入れようとしない。
“No more of the burden is dangerous. Body becomes incapacitated.(これ以上の負担は危険です。体が再起不能になります。)”
 ハデスがメイに向けて忠告を投げかける。しかしハデスの言葉もメイは聞き入れようとしない。
 メイの腕から血があふれ出す。その瞬間、彼女が高速テープを引きちぎった。
「私は何者にも屈しない・・私は私の意思で、私の戦いをする・・・!」
 メイが息を乱しながらも、自分の意思を貫いていく。
「強情ともいえるその意思には、私もさすがに感服せざるを得ないか・・」
 コスモがメイの底力に簡単を覚える。
(ここは密かに力を与えるしかないか・・デバイスにも探知されないように・・)
 コスモが考えを巡らせてから、メイに向けて右手を伸ばす。メイはとっさに身構えながら、コスモとの距離を取る。
(同じ手を何度も食らうつもりはない!)
 ハデスに直接攻撃を加えられないように、メイがコスモの行動を注視する。だが既にコスモの目論みは達せられていた。
(デバイスにも気付かれないバイパスをつなげた。これで力を送ることができる。)
 メイとハデスに気付かれないように、コスモは徐々に彼女に力を送り込んでいく。
「私はヒカルと戦い倒す・・誰にも邪魔はさせない!」
 メイは言い放つと、壁を破って部屋の外に出た。しかしコスモは彼女を追おうとしない。
(今のお前なら、より脱出がたやすくなっているだろう。そのことは実感するはずだ。)
 メイの力が高まっていることを悟り、コスモは笑みを浮かべていた。

 メイがコスモの前から逃走したことは、フロンティアの管制室のモニターが捉えていた。
「まさか、マスター・コスモの手からも逃れるとはね・・」
 モニターを見たローザが呟きかける。
「のん気なことを言っている場合ではないぞ!オレがヤツを追う!ローザはマスター・コスモのところへ!」
 ガリューが呼びかけて、管制室を飛び出した。
「慌ただしいことね、ガリュー。でもいいわ。私はマスター・コスモのところへ・・」
 苦笑をこぼしてから、ローザも管制室を後にしてコスモのところへ向かった。

 コスモの前から脱したメイは、フロンティアからの脱出のため、艦内の廊下を駆け抜けていた。行く手を阻む兵士たちを、彼女は打撃を加えて撃退していく。
 そしてメイはフロンティアの先端に差し掛かろうとしていた。
“Enter the metastatic potential of the area At the end of this first.(この先の突き当たりで転移可能のエリアに入ります。)”
(そこから一気に地球に戻る!そして今度こそヒカルを倒しに行く!)
 ハデスからの助言を受けて、メイがさらに感覚を研ぎ澄ませる。彼女が廊下の突き当たりの手前まで来た。
「止まれ!」
 兵士たちがメイに後方に駆けつけ、銃を構えた。メイが振り向いて、兵士たちに鋭い視線を向ける。
「撃っても意味はない!当たりはせんし、当たっても負傷すらできん!」
 兵士たちの前にガリューが出てきた。ガリューは2本の光の剣を具現化して手にして、メイを見据える。
「オレがヤツを取り押さえる。貴様らは逃げ道をふさげ。転移をするようなそぶりを見せたら、オレに構わず遠慮なく撃て・・!」
「ガリュー様・・・了解しました・・!」
 ガリューからの命令に、兵士の1人が答えた。
「邪魔をするなら、誰だろうと容赦しない・・何人で来ても・・・!」
 メイが鋭く言いかけて、両手に魔力を込める。彼女の両手に淡い光が灯る。
「貴様もヴァンフォードに従うしかない・・マスター・コスモに従うしか・・」
 ガリューが言いかけると、メイに飛びかかり剣を振りかざす。メイは剣をかわして、ガリューの体に拳を叩き込む。
「ぐっ!」
 重みのある一撃を受けて、押されるガリューが顔を歪める。
(コイツ、力が以前よりも上がっている・・!?)
 ガリューがメイの力の高まりを痛感して身構える。
(私の力が上がっている!?・・以前のヒカルとの戦いやあのコスモというヤツと戦ったときに成長したにしては、あまりにも強くなりすぎているような気が・・)
 メイ自身も自分の力の高まりに疑問を感じていた。
“I feel a rise in your power, too. However, I do not understand the reason why power rose to there either.(私もあなたの力の上昇を感じます。しかしそこまで力が上がった理由が私にも分かりません。)”
 ハデスもメイの強化の理由が分からなかった。
(この力、ヒカルとの戦いに役立つことになる・・この力に罠やリスクがないなら・・・)
 ヒカル打倒のため、メイは強くなった力を受け入れることを決めた。
「お前に何があろうと、お前を逃がすわけにはいかないのだ・・!」
 ガリューが剣を構えて、再びメイに向かっていく。
(今度は不覚は取らない!)
 ガリューがメイの動きを見計らいながら、剣を振りかざしていく。しかしメイに全ての攻撃をかわされていく。
(これでも追いつけないのか・・!?)
 思う以上の成長に、ガリューはさらに驚かされる。次の瞬間、彼がメイに拳を叩き込まれる。
「ぐっ!」
 うめくガリューにメイがさらに拳を叩き込んでいく。ガリューが突き飛ばされて、兵士たちが彼の体に押される。
「ガリュー様、大丈夫ですか!?」
「おのれ、侵入者め!」
 兵士たちがたまらず発砲するがメイに簡単にかわされる。彼女は繰り出した拳の衝撃波で、兵士たちを吹き飛ばしていく。
“Preparations of a change have been completed. You can move to the earth.(転移の準備が完了しました。地球に移動できます。)”
 ハデスが呼びかけて、メイがガリューたちから離れた。彼女は転移魔法によって、ガリューたちの前から消えた。
「転移した・・地球へ逃げたか!」
“追うな、ガリュー。神凪メイは放っておけ。”
 メイを追いかけようとしたガリューを、コスモが呼び止めた。
「マ、マスター・コスモ!?」
“今は彼女に手を出すな。天宮ヒカルとの勝負を見守る。”
「しかし、もしも我々にまた牙を向くことがあれば・・!?」
“聞かないのなら、お前は破滅の末路を辿ることになる。”
 コスモに言われて、ガリューは従うことにしてメイへの追撃を断念した。
「体勢を整える。被害状況の確認と修復を・・」
 ガリューが命令を出して、兵士たちが体勢を整えて散開した。
(マスター・コスモは神凪メイに対して何を考えて?・・きっと何かあるはずだ・・オレたちの考えの及ばない何かが・・・)
 一瞬疑問を感じながらも、ガリューはコスモの意志に従うことにした。

 ガリューに言われてコスモのところへ赴いたローザ。虚空を見上げているコスモに、ローザが頭を下げた。
「ご無事ですか、マスター・コスモ・・?」
「私は何でもない。むしろ私の思惑通りになっている・・」
 心配の声をかけるローザに、コスモは顔色を変えずに答える。
「私から力を与えられたことに無自覚な神凪メイは、天宮ヒカルと戦う。どちらが勝つにしても、勝者は消耗が著しくなる・・」
「マスターは、その瞬間を狙って・・・?」
「それはそのときの、彼らと、お前たち次第だ・・・」
 コスモが投げかける言葉に、ローザが戸惑いを覚える。
「分かりました。別命あるまで、私たちは待機しています。失礼します・・」
 ローザが再び頭を下げてから、コスモの部屋を後にした。
(神凪メイと天宮ヒカルの対決。ギルティアがもたらした宿命の戦いは、私にも影響を及ぼしている・・)
 ヒカルとメイの戦いに期待を感じて、コスモが笑みを浮かべる。
(我々が目指す理想郷。新境地を開くカギが、その2人。そう思える・・)
 ヒカルたちの行動が運命を左右する。そう考えるコスモは、静かに現状を見守ることにした。

 コスモの部屋を後にしたローザ。コスモの意志を汲み取りながらも、彼女は1つの手を打とうと考えていた。
(マスターは神凪メイと天宮ヒカルを戦わせようとしている。そこから何を見出そうとしているのかは私には分からないけど、戦いを早めることはできる・・)
 自身の企みを確かめて、ローザが笑みをこぼす。コスモの見据えている理想郷の実現のため、彼女も静かに行動を起こそうとした。


次回予告

心身ともに追い詰められていくヒカル。
さらなる力を植え付けられたメイ。
2人の戦いの行く末を見守るコスモ。
様々な思惑が交錯する中、ローザの切り札がヒカルを追い詰める。

次回・「絶望への罠」

魔女の毒牙が今、閃く・・・

 

 

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