Drive Warrior Gears

Episode16「混戦」

 

 

 メイが展開した結界は、すぐにロードサイドに、ミュウたちに探知された。
「これはヴァンフォードが作ったものじゃないわね。これはおそらく・・」
「神凪メイか・・・」
 ミュウの報告を聞いて、ブレイドが深刻な面持ちを見せる。
「ヒカルにまだ会わせるわけにはいかない・・向き合える心境とは思えない・・」
 ブレイドがヒカルの心境を察して、両手を握りしめる。
「オレが行く。アリシアに、ヒカルを結界の中に入れないように言っておいてくれ。」
「でも、それだとヒカルちゃんが・・」
「ヒカルもオレたちのかけがえのない仲間だ。失うわけにはいかない・・」
 ミュウの声を受け入れず、ブレイドはメイと直接戦おうとする。
「ヒカル、お前には悪いが、彼女はオレが食い止める・・・」
 彼は呟いてから、ミュウの前から歩き出した。
(ブレイド・・・ごめんなさい・・やはり、ヒカルには知らせておかないと・・ううん、知らせなくても、あの子はきっと気付くわ。メイのことを・・)
 ヒカルは必ずメイとまた対面すると、ミュウは予感していた。

 ヒカルとともにタクミの捜索をしていたアリシア。彼女にだけブレイドからの念話が送られた。
(アリシア、ヒカルはそばにいるか?)
(ブレイド・・うん。そばにいる。今、タクミを探している。もしかしたらメイかヴァンフォードに捕まったんじゃないかって・・)
 ブレイドに答えて、アリシアがヒカルに目を向ける。ヒカルはタクミを探すのに集中していて、ブレイドの念話に気付いていない。
(このままヒカルをメイから引き離せ。お前たちの近くに結界が張られている。それもおそらくメイが張ったと思われる・・)
(メイが!?・・このことに気付いたら、ヒカルは・・・!)
(まともな精神状態で臨むのは厳しいだろう・・だからアリシア、お前はこのままヒカルのそばに付いていてくれ。メイはオレが止める・・)
(ブレイドだけで大丈夫なの?・・ドライブチャージシステムを備えていて、魔力も戦闘力も並外れているのに・・・!)
(それでもオレがやるしかない。ヒカルに大きな負担をかけるわけにはいかない・・)
(ブレイド・・・)
 ヒカルのためにメイを止めようとするブレイドに、アリシアは困惑を感じていく。
(もしもヒカルに気付かれたら止めてくれ・・オレが終わらせてくる・・)
 ブレイドはアリシアに告げると、彼女との念話を終えた。
(ブレイド・・たとえ私が止めに入っても、ヒカルはきっと止まらない・・必ずメイに会おうとする・・・)
 ヒカルの心境を把握していたアリシアは、彼女を止めようとしても止まらないことを痛感していた。
「アリシアちゃん・・アリシアちゃん?」
 ヒカルに声をかけられて、アリシアが我に返る。
「あ、ゴメン、ヒカル・・それで、タクミさんは・・?」
「まだ見つからない・・やっぱり、メイかヴァンフォードに・・・」
 謝るアリシアが答えて、ヒカルが不安を募らせる。彼女の言葉を聞いて、アリシアはさらに困惑を感じていく。
「もっと感覚を研ぎ澄ませれば見つけられるかもしれない・・もしもどこかで結界が張られているとしたら・・・!」
 ヒカルが思い立って意識を集中する。
“Please calm down. You now can inflate impatience, and a situation grasp is in the state which has no conditions accurately.(落ち着いてください。今のあなたは焦りを膨らませて、きちんと状況把握がままならない状態にあります。)”
 カイザーがヒカルに向けて注意を投げかける。
(でもこうしている間にも、タクミが危険に・・・)
“The one which becomes still so is wise. It'll calm down and concentrate on search first.(だからこそ冷静になるほうが賢明なのです。まずは落ち着いて、それから捜索に集中しましょう。)”
 不安を募らせるヒカルをカイザーが励ます。カイザーの言葉を聞き入れて、ヒカルは1度深呼吸をした。
(ヒカル・・ゴメンなさい・・私・・・)
 アリシアがヒカルを見つめて、困惑を募らせていた。

 結界に閉じ込めたタクミを連れて、メイはヒカルが来るのを待つ。しばらく待ったところで、彼女は結界を突破されたことを感じた。
「ヒカルが来た・・・違う。この魔力は別の・・」
 メイは来たのがヒカルでないと気付いて眉をひそめる。結界を突破して中に入ってきたのはブレイドだった。
「私を止めに来たと思っていいみたいね・・」
“I have the high magic and combat power. It's necessary to pay attention sufficiently.(高い魔力と戦闘力を備えています。十分注意する必要があります。)”
 呟きかけるメイにハデスが注意を促す。
「私の生きる理由は、ヒカルをこの手で倒すことだけ・・それを邪魔してくるなら、誰だろうと倒すだけ・・・!」
 注意を受け止めながらも、メイは戦う意思を曲げない。彼女はタクミを連れて、ブレイドが着地したほうに向かっていった。

 ヒカルの代わりにメイと戦うため、ブレイドは結界の中に飛び込んだ。彼はメイに気付かれていることを先刻承知でいた。
(近づいてきているな。望むところだ。ここなら建物も少ない。結果が解かれたときの影響も少なくて済む・・)
 ブレイドはメイが来るのを待つことにして、この場に留まった。彼はトランザムを起動させて手にして、いつ攻撃を仕掛けられても対応できるようにした。
 そしてブレイドの前にメイが姿を現した。
「真正面から戦いに出てくるとは、勇ましいな・・」
「私は逃げも隠れもしない・・私はヒカルを倒すだけ・・邪魔をするなら他の人も倒す・・・!」
 声をかけるブレイドに、メイが表情を変えずに言葉を返す。
「ヒカルを君と戦わせるわけにはいかない・・君と戦うことで、ヒカルは心を揺さぶられることになる・・」
「それは関係ない。私はヒカルと戦い倒す。それだけよ・・!」
 ブレイドの言葉をはねつけて、メイが目つきを鋭くする。
「そのような考えで戦おうとするなら、なおさらヒカルと戦わせるわけにはいかない・・!」
 ブレイドがメイへの戦意を募らせて、トランザムを構える。
「言ったはずよ・・邪魔をする人も倒すと・・!」
 メイが言い放つと、ブレイドに向かって飛びかかる。彼女が繰り出した拳を、ブレイドは横に動いてかわす。
 メイはブレイドの動きを見切り、追撃の拳を繰り出す。回避が間に合わなくなり、ブレイドがトランザムでメイの拳を防ぐ。
(重みのある攻撃だ・・並みの人やデバイスでは砕かれてしまう・・・!)
 ブレイドが胸中でメイの強さを痛感して毒づく。彼はトランザムを振りかざして、地面を切りつけて土煙を舞い上げる。
 視界をさえぎられたメイだが、感覚を研ぎ澄ませてブレイドの行方を探る。
「そこよ・・!」
 メイが右手を握りしめて、拳を繰り出す。拳はブレイドが構えていたトランザムに命中した。
(コイツ!・・視界をさえぎられ、オレも気配を消していたはずなのに・・!)
 メイの強さが予想以上と痛感して、ブレイドが毒づく。彼は回避は不利になると判断して、反撃に転ずる。
 ブレイドが振りかざしたトランザムと、メイが繰り出した拳がぶつかり合い、衝撃を拡散させて威力が相殺される。
(何という強さ・・ヒカルに勝るとも劣らないことは、単純に考えてもあり得ることのはずなのに・・・!)
 苦戦を強いられて毒づくブレイド。メイが繰り出した拳を、ブレイドはとっさに上空に飛び上がって回避する。
(地上戦ではオレが不利か・・空中なら視野が広くなる・・・!)
 ブレイドが体力の回復を図りながら、空中からメイの動きをうかがう。
「接近戦よりも遠距離攻撃、地上よりも空中のほうが有利だと思っているようだけど・・私はどんな状況でも、距離を詰めることができる・・・!」
 目を見開いたメイが、全身に魔力を込めて、一気に加速して飛び上がった。
「ぐっ!」
 とっさにトランザムを振りかざすブレイドだが、メイが突き出した拳を回避できず、体に叩き込まれた。
「私はあなたに時間をかけている暇はない・・!」
 メイが鋭く言いかけて、右の拳を振り上げた。
(やられる・・!)
 ダメージを強めたブレイドが絶体絶命を痛感する。
「カイザー!」
 そのとき、カイザーを起動してバトルジャケットを身にまとったヒカルが、結界の中に飛び込んできた。
「メイ!」
 ヒカルがメイに向けって拳を振りかざす。メイは気付いてヒカルの拳をかわす。
「ヒカル・・出てきたわね・・・!」
 眼前にヒカルが現れて、メイが笑みを浮かべる。
「ヒカル、なぜお前がここに!?・・まさか、アリシア・・!?」
 たまらず驚きの声を上げるブレイド。彼のそばに、バリアジャケットを身に着けてバルディッシュを手にしたアリシアが降りてきた。
「ゴメン、ブレイド・・ヒカルとメイがこのまま会わないままいるのはよくないと思った・・それがヒカルにとってよくないことだとしても・・・」
 アリシアがブレイドに謝って、ヒカルに目を向ける。
「謝らなくちゃいけないのは私のほうだよ、アリシアちゃん・・私がメイのことでいつまでもウジウジしてるわけにはいかないもんね・・・!」
 ヒカルがアリシアに微笑んで、気を引き締めなおす。
「メイ、どうしても私を相手にしたいっていうなら、私も遠慮はしない・・受けて立つよ!」
「ヒカル・・今度こそ決着を付ける・・そして、私が勝つ!」
 互いに言い放つヒカルとメイが、同時に飛び出して拳を繰り出してぶつけ合う。
(ドライブチャージシステムを使いこなしている・・今までもそうだったけど、それ以上に、気を抜いたらやられる・・・!)
 メイの高まっている力を痛感して、ヒカルが緊迫を募らせる。拳の衝撃が相殺されて、ヒカルとメイが引き離される。
「これが、ドライブチャージシステムを受け入れたヒカルの力・・!」
“So far, if, it's dangerous to think it's same. Precaution should be strengthened.(今までと同じだと思うのは危険です。警戒を強めるべきです。)”
 ヒカルの力を痛感するメイに、ハデスが注意を促す。
「それでも私はヒカルを倒す・・私の生きる理由はそれだけだから・・・!」
 メイは退かずにヒカルと戦おうとする。
「メイ、あのとき私はあなたを傷付けてしまった・・あなたを死なせてしまった罪を背負って、私はいつも心の中で悩み続けてきた・・・」
 ヒカルがメイへの正直な思いを口にする。
「でも、メイがこうして生きててくれて・・私、嬉しいよ・・・!」
 メイが生きていたことへの喜びを込めて、ヒカルは笑顔を見せた。
「ふざけないで・・私をムチャクチャにしたあなたが・・・!」
 メイが目つきを鋭くして、ヒカルに再び飛びかかる。1度は拳をかわしたヒカルだが、メイの連続で繰り出した拳はかわし切れず、突き飛ばされる。
「ヒカル!」
 地上に落ちたヒカルに、アリシアが叫ぶ。
「私とヒカルの戦いの邪魔をするなら、誰だろうと容赦しない・・・!」
 彼女の前にメイが迫り、拳を構える。
“Defensor.”
 アリシアがバルディッシュを構えて光の壁を作り出す。しかしメイの打撃を受けた光の壁に、すぐに亀裂が入る。
 アリシアはとっさに後ろに飛んで、光の壁を打ち破ったメイの拳をかわす。
(私とバルディッシュの魔力でも・・一撃でも受けたら、間違いなく致命傷になってしまう・・・!)
 メイの魔力と戦闘力を実感して、アリシアが緊張を膨らませる。
(気を付けろ、アリシア・・オレとトランザムでも彼女の攻撃を受け止めきれない・・・!)
 ブレイドが念話でアリシアに呼びかける。
(その潜在能力がドライブチャージシステムが源になっているとはいえ、ここまでとは・・・!)
(ここは連携で動きを止めて、力を弱めるしかない・・・!)
 ブレイドとアリシアが声をかけ合って、メイを止める策を見出そうとする。ヒカルが戻ってきて、アリシアたちと合流する。
「ブレイド、アリシア、私は大丈夫・・私はメイと向き合うことを、恐れたり悩んだりしない!」
 決意を固めたヒカルが、メイに視線を向ける。
「メイの感情を真正面から受け止めて、私も自分の思いを伝える!」
「私はあなたにもう屈したりはしない!」
 メイはヒカルの思いを拒絶して、両手を握りしめて飛びかかる。ヒカルもメイと同時に拳を繰り出してぶつけ合う。
“Drive charge.”
 カイザーとハデスが同時にドライブチャージを行い、2人の拳の威力を増加させる。それでも2人の力は拮抗する。
「ヒカル!」
 アリシアが援護しようとバルディッシュを構えた。そのとき、ヒカルたちのいる場所に光の球が次々に飛び込んできた。
 ヒカルたちがとっさに動いて光の球を回避する。攻撃を仕掛けてきたのは、ローザとガリューだった。
「ロードサイドと神凪メイ、どちらもそろっているとはね。」
「神凪メイはアイツを狙っているようだ。ならばオレたちは・・!」
 ローザとガリューがヒカルたちとメイを見て笑みをこぼす。2人はアリシアとブレイドに狙いを絞り、ヒカルとメイをこのまま戦わせようとしていた。
「ブレイド、これまでの全ての借り、ここで晴らしてやるぞ・・!」
「そろそろ決着を付けなければな、ガリュー・・!」
 両手を握りしめるガリューに、ブレイドがトランザムを構える。
 ガリューが飛び出して拳を繰り出す。ブレイドが回避とトランザムによる防御で、ガリューの攻撃をかいくぐる。
「ブレイド・・!」
「あなたの相手は私がしてあげるわ。」
 ブレイドを援護しようとしたアリシアの前に、ローザが回り込む。
「あなたの相手をしている暇はない・・ヒカルとブレイドを、私たちが支える・・!」
 アリシアが意思を口にして、バルディッシュを構える。ローザが魔力の光の弾を作り出して、アリシア目がけて放つ。
 アリシアが上昇して回避するが、光の弾は軌道を変えて彼女を追う。
“It's a pursuit bullet. It's surrounded.(追尾弾です。包囲されます。)”
「迎撃するしかない・・!」
 バルディッシュの助言を受けて、アリシアも複数の魔法の矢を作り出す。
“Plasma lancer.”
 バルディッシュからの光の矢が放たれて、ローザの光の弾とぶつかり合う。
“Haken Form.”
 光の鎌となったバルディッシュを構えて、アリシアがローザに向かっていく。彼女が振り下ろすバルディッシュを、ローザが横に動いてかわす。
 次の瞬間、ローザが手足に金の光の輪が付けられて動きを止められた。リングバインドにかかって、彼女は拘束された。
「今はじっとしていて・・私はヒカルを助けに行く・・!」
 アリシアはローザに言って、ヒカルの援護に向かおうとした。だがローザが手足に掛けられたバインドを、思念を送って破壊した。
「そうはいかないわ。もっと私に付き合ってもらうわよ。」
 笑みをこぼすローザに視線を戻して、アリシアが焦りを覚えた。

 ヒカルとメイ。1対1の対決に持ち込まれた2人が、魔力を込めた拳を何度もぶつけ合っていた。
(メイ・・ドライブチャージで強くなっているだけじゃない・・!)
 ヒカルがメイの強さを痛感して、危機感を募らせる。
(私に対する怒りが、メイの力を上げている・・でも、これだとメイ自身が・・・!)
「ヒカル、あなたの力はこの程度じゃないでしょ!?そんなものじゃ、私のあなたへの怒りは治まらない・・!」
 深刻さを募らせるヒカルに、メイが怒鳴りかかる。
「あなたの全力を、私が全力で叩き伏せる・・それで私の戦いは勝利で幕を閉じるのよ!」
「そんなの違う!それじゃ私もあなたも納得できないよ!」
 メイの怒りの言葉を、ヒカルが感情を込めて否定する。
「そういう気持ちで戦ったら、メイ、きっと後悔する・・いくら私が許せないからって・・・!」
「あのとき、私は後悔したわ・・あなたに勝てなかったことに・・もう負けないために、私は力を手にした!そのために手段を選ばなかった!」
 ヒカルの言葉をはねつけて、メイが飛びかかる。
「メイ!」
 ヒカルも飛び出して、メイと拳をぶつけ合う。2人の打撃の衝撃が次々に巻き起こる。
「私はあなたを倒す!そのために私は力を上げてきたのよ!」
「私を倒すことがあなたの目的なら、私があなたを止めなくちゃいけない・・メイ、あなたに取り返しのつかないことをしてほしくないから!」
「あなたを倒さなければ、私は前に進めない!生きる意味を失ってしまう!」
「そんなことない!メイは生きる理由は他にもいっぱい見つけられる!メイならできるよ!」
「その選択肢を奪ったあなたが、勝手なことを・・!」
 呼びかけるヒカルだが、メイは聞き入れようとしない。
“It's the best course to weaken the magic now and stop a battle.(今は魔力を弱めて戦闘を止めるのが最善策です。)”
 カイザーがヒカルに向けて助言を送る。
「うん・・そうするしかないみたい・・・!」
 ヒカルが頷いて、構えを取って意識を集中する。
「ヒカル・・あなたは私が必ず!」
 メイが加速してヒカルに向かっていく。
「バーストミーティア!」
 ヒカルが拳を繰り出して、メイに向けて衝撃波を解き放つ。
「デッドブレイカー!」
 メイもドライブチャージを行い、魔力を集めた拳を繰り出す。2人の拳の魔力が激しくぶつかり合う。
「うっ!」
 ヒカルが押されてメイに突き飛ばされた。メイの一撃の威力がヒカルを上回った。
「ヒカル!」
 地上に叩き落とされたヒカルに、アリシアとブレイドが叫ぶ。だがローザとガリューに行く手を阻まれる。
「邪魔をしないで!ヒカルを助けに行かなくちゃいけないの!」
 アリシアが感情をあらわにして、自分とバルディッシュに意識を傾ける。鎧がはじけ飛ぶように、彼女のまとっていたバリアジャケットが軽量化された。
 さらなる高速移動を可能とする「ソニックフォーム」。だがそのためにバリアジャケットを軽量化していて、防御や耐久力が弱くなっている。
(リスクを伴う攻撃と加速だけど、そうしないとヒカルを助けられない・・・!)
 ヒカルのために覚悟を決めたアリシア。彼女はバルディッシュを構えて、ローザを見据える。
「何をしようとしているのか分からないけど、ここから行かせないわよ・・!」
 ローザが光の弾をアリシアに向けて連射する。その瞬間、加速したアリシアの姿がローザの視界から消えた。
「ど、どこに・・!?」
 アリシアを見失い、ローザが視線を巡らせる。彼女は魔力を感知しようともする。
 その最中、ローザの真上にアリシアが飛び込み、バルディッシュを振り下ろしてきた。
「何っ!?うっ!」
 アリシアの繰り出した速い一閃を受けて、ローザが苦痛を覚えて顔を歪める。物理的外傷を与えないようにしていたアリシアとバルディッシュだが、ローザの魔力を削り取っていた。
(力が出ない・・このままでは止められない・・・!)
 踏みとどまることができずに地上に落下するローザ。アリシアはヒカルとメイのところへ向かう。
「ヒカル!」
 アリシアが高速のまま、メイに向けてバルディッシュを振り下ろす。気づいたメイがバルディッシュの金の光刃をかわした。
「ヒカル、大丈夫!?」
「アリシアちゃん・・・!」
 アリシアからの声を受けて、ヒカルが戸惑いを見せる。
「邪魔をしてくるなら、他の人も容赦しない・・!」
 メイがアリシアに言いかけて、鋭い視線を向ける。アリシアが再び加速して、メイに飛びかかる。
「スピードを上げてきても、私に攻撃を当てることはできない・・!」
 メイが目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。彼女は高速で動くアリシアの気配を探る。
 アリシアがメイに詰め寄って、メイにバルディッシュを振り下ろす。しかしメイは横に動いてバルディッシュをかわした。
「狙いを先読みできれば、対処できないことはない・・!」
 メイがアリシアに目を向けて右足を速く振り上げる。体に膝蹴りを強く叩き込まれて、アリシアが体勢を崩す。
「アリシア!」
 落下していくアリシアに、ヒカルが叫ぶ。スピードを上げるために軽量化したバリアジャケットのため、アリシアは通常以上のダメージを被ることになった。
「メイ・・みんなには手を出さないで!」
 ヒカルが叫んで、メイに向けて拳を振りかざす。
「グランドスマッシャー・ドライブ!」
 魔力を込めたヒカルの渾身の一撃を、メイは紙一重でかわす。が、ヒカルの打撃の衝撃の余波で、メイの左腕が圧迫された。
「ぐっ!・・まだこれだけの力を隠し持っていたなんて・・・!」
 負傷した腕を押さえて、メイが毒づく。
「でも、私の全力はこんなものじゃない!」
“Death explosion.”
 メイもドライブチャージを行い、魔力を右手に集中させて拳を繰り出す。
「うっ!」
 メイの拳を体に直撃されて、ヒカルが強く突き飛ばされて地上に叩き落とされた。
「ヒカル!」
 ヒカルに向けて悲痛の叫びを上げるアリシア。メイの拳の直撃を受けたヒカルは、地面に倒れたまま、苦痛を感じて動けなくなっていた。
“It isn't supposed to move. A rib has caused a crack.(動いてはいけません。肋骨がひび割れを起こしています。)”
 起き上がろうとしたヒカルをカイザーが呼び止めた。体に激痛が走り、ヒカルが顔を歪める。
(このままではヒカルが危険だ・・アリシア、オレが援護する!ヒカルを連れて脱出しろ!)
(ブレイド・・うん!)
 ブレイドが念話で呼びかけて、アリシアが頷く。彼女が加速して、ヒカルを抱えて意識を集中する。
(ミュウ、ウィザード、ウィッシュ、私たちをそっちに転移させて!ヒカルが危ないの!)
“任せて!いつでも戻れるように、そっちの座標は特定してるから!”
 アリシアが念話で呼びかけて、ウィザードが答える。ウィザードがコンピューターを操作して、アリシアとヒカルに転移魔法をかけた。
「逃がさない!」
 メイが追いかけるが、ヒカルとアリシアは転移されて、彼女の拳は空を切った。
「くっ・・逃げられた・・ヒカルを倒せなかった・・・!」
 ヒカルを倒せなかったことにメイが怒りを膨らませる。
(オレもここは引き上げたほうがよさそうだ・・ミュウ、オレも撤退するぞ!)
“分かったわ、ブレイド!”
 ブレイドの念話にミュウが答える。ブレイドも転移魔法によってこの場から消えた。
「くっ・・ブレイドも逃げたか・・・!」
「後はあの子・・・」
 ガリューとローザがメイに視線を向ける。メイも振り向いて、2人に鋭い視線を向けていた。
「あの子の相手、私たちが2人がかりでも敵わないでしょうね。」
「オレたちも引き上げたほうがいいということか・・・」
 ローザとガリューがメイを見据えながら言葉を交わす。2人もメイの前から引き上げようとした。
 そのとき、ローザとガリューは強い魔力を感知して緊迫を覚える。メイもこの魔力を感知して、目つきを鋭くした。
 彼らの前に現れたのは、目を覚ましたラムだった。
「ラム!」
 魔力を体に凝縮しているラムに、ローザが声を上げる。
「あたしがまた寝てる間に、また面白いことになってるじゃない・・あたしも混ぜてよね・・・!」
 ラムが笑みを浮かべて、両手を握りしめて魔力を集中させる。
「あなたも私を倒そうとする人なのね・・でも私にはやらないといけないことがあるのよ・・!」
 メイが言いかけて、ラムに向かって飛びかかる。ラムが笑みを強めて、メイと拳をぶつけ合う。
 メイの拳が徐々にラムの体に叩き込まれていく。押されるラムが痛みに顔を歪める。
「あの魔力が上がっているラムが押されている・・・!?」
「それだけ、ドライブチャージを得た神凪メイの強さは高いということなのか・・・!」
 ローザとガリューがメイの底力を痛感して息をのむ。
“Chaos Bullitt.”
 メイが繰り出した拳から衝撃波を放つ。衝撃波をぶつけられたラムが地上に叩きつけられる。
「あ、あたしの今の力が通じない・・そんなことって!?」
 メイに圧倒されていることに驚愕するラム。メイが右の拳を構えて、ラムに向かって降下する。
「邪魔をするなら、誰だろうと・・まずはあなたから・・!」
 メイが握りしめた右手に魔力を込めて、ラムに殴り掛かろうとした。
 そのとき、メイとラムの間に光の障壁が現れた。メイが繰り出した拳が障壁に防がれた。
“The high magic occurs. An attack was interfered with by a barrier of the magic.(高い魔力が発生。魔力の障壁によって攻撃が妨害されました。)”
 ハデスがメイに向けて注意を呼びかける。彼女の前に1人の男が姿を現した。
「あ、あなたは!?」
「マスター・コスモ!?」
 ローザとガリューが驚愕を隠せなくなる。メイとラムの間に割って入ったのはコスモだった。
「初めて会うことになる。というよりも、私がこの星に降り立ったのは久しぶりな気がする・・」
 コスモが呟いてから、メイに目を向ける。
「私はコスモ。ヴァンフォードを束ねる存在だ。」
 コスモがメイに向けて自己紹介をしてきた。コスモが地球に足を踏み入れたのだった。


次回予告

ついに姿を現したコスモ。
メイと対峙するコスモの目的とは?
ローザたちが畏敬を示すコスモの力。
秘められたその力を前に、メイは?

次回・「コスモ」

統治者の心中が今、明かされる・・・

 

 

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