Drive Warrior Gears

Episode13「強さの意味」

 

 

 ラムの魔力を感知したヒカルとアリシアは、人の少ない方へと向かっていた。一般人に危害が及ばないようにするために。
「ここまで来て結界を展開すれば、みんなが巻き込まれることが少なくなる・・・!」
 ラムの魔力を感じながら、ヒカルが言いかけてアリシアが頷く。
“Rapid approach. It touches this.(急速接近。こちらに接触します。)”
 カイザーがヒカルとアリシアに警告を送る。次の瞬間、ヒカルたちが展開された結界に閉じ込められる。
「来た・・!」
 ヒカルがアリシアと一緒に足を止めて、後ろに振り返る。ラムが降下してきて、彼女たちの前に現れた。
「見つけたよ、アンタたち・・今度こそ、この手で叩きのめしてやるからね!」
 ラムが笑みを強めて、ヒカルとアリシアに向かって飛びかかる。
「カイザー!」
 ヒカルが叫び、カイザーを起動させる。バリアジャケットを身にまとい、彼女はラムが繰り出した拳を回避する。
「みんなが平和に暮らしてるこの街、この世界を、あなたたちの考えでムチャクチャになんてさせない!」
「関係ないね、あたしには・・あたしはただ、この力を思い切り使って、アンタたちを叩きつぶしたいだけなんだから!」
 言い放つヒカルに、ラムが目を見開いて言い返す。彼女がさらに拳を振るい、ヒカルがかわして距離を取っていく。
“Power is rising more than before. Carelessness in a moment can be fatality.(以前よりもパワーが上がっています。一瞬の油断が命取りになりかねません。)”
 ラムの出方をうかがうヒカルに、カイザーが注意を呼びかける。
(うん・・戦い方は力任せだけど、その隙が巨大なパワーがカバーしてる・・)
(1対1で戦っていたら、その隙を作り出すのは難しい・・)
 心の中でカイザーに答えるヒカルに、アリシアも念話で呼びかけてきた。
(でも、私たちが力を合わせれば・・)
 アリシアがヒカルに提案を持ちかける。
(私が注意を引き付けるから、アリシアちゃんが魔法で一気に・・)
(ううん・・注意を引き付けるのは、私がやる・・)
 呼びかけるヒカルにアリシアが逆に呼びかけてきた。
(私なら、今のあの子のパワーに少しは持ちこたえられる・・パワーはすごいけど、動きは直線的だから・・アリシアちゃんならうまくあの子を止められるから・・)
(それだと、ヒカルが危険に・・・!)
(大丈夫。全力で持たせてみせる。アリシアちゃんのこと、信じてるから・・)
(ヒカル・・・)
 ヒカルから信頼を送られて、アリシアが戸惑いを感じていく。
“It would be better to hear that she says. We'll believe her, too.(彼女の言うことを聞くのがいいでしょう。私たちも彼女を信じましょう。)”
 バルディッシュもアリシアも助言を促す。アリシアは迷いを振り切り、ヒカルの言葉を聞き入れた。
(分かった・・ヒカル、それで行こう・・)
(ありがとう、アリシアちゃん・・)
 聞き入れたアリシアに、ヒカルが感謝を送る。
「何をゴチャゴチャやってんのよ・・アンタらがここで叩きのめされるのは決まってるんだからね!」
 ラムがいきり立って飛びかかってきた。ヒカルがラムの上を跳び、アリシアが2人から離れる。
「まずはお前からブッ飛ばしてやるよ!」
 ヒカルに狙いを定めて、ラムがさらに拳を振りかざす。ヒカルが集中力を高めて、ラムの拳をかわしていく。
(ヒカル、準備ができたよ・・!)
 アリシアからの念話を聞いて、ヒカルがラムを引き付けて、後ろに大きくジャンプする。
「逃げるな!」
 ラムが怒号を放ち、ヒカルを追ってスピードを上げる。空中にいるヒカルをラムが追う。
 そのとき、ラムが突然動きを止められる。その場にあらかじめ設置されていたライトニングバインドが、彼女の手足を縛って動きを止めていた。
「バインド!・・こんなもの!」
 ラムが力を込めるが、アリシアのバインドは彼女の動きを封じ込めている。
(あの子の力はものすごい!半端な攻撃じゃ意味がない!一気に全力を込める!)
「ドライブチャージ!」
 思い立ったヒカルが魔力を込めて、右手に光を宿して集中させる。
「グランドスマッシャー・ドライブ!」
 渾身の一撃をラムの体に叩き込む。攻撃と衝撃が集中されて、ラムの体を大きく突き飛ばす。
 ラム木々を突き破り、森や草原を大きく転がっていった。
「ハァ・・ハァ・・これでおとなしくなるはず・・・!」
 一気に魔力を消耗して、ヒカルが息を乱す。
(ありがとう、アリシアちゃん・・助かったよ・・)
(ううん・・ヒカルが体を張ってくれたから・・・)
 感謝するヒカルにアリシアが言葉を返す。
“The strong magic is still felt.(まだ強い魔力を感じます。)”
 カイザーとバルディッシュが同時に、ヒカルとアリシアに警告に送る。舞い上がる炎と煙の中から、人影が現れる。
 煙をかき分けて、ラムが姿を見せた。驚愕を覚えるヒカルとアリシアの前に出たラムは、ボロボロになっていて息を乱していた。
「そんな!?手加減なし、全力全開の力を叩き込んだのに・・!?」
「ダメージは大きいけど、それでも立っていられるなんて・・・!」
 ラムが立っていることが、ヒカルもアリシアも信じられなかった。
“A rise of her ability is too big. It's to the extent her own potential ability is exceeded.(彼女の能力の上昇が大きすぎます。彼女自身の潜在能力を超えるほどです。)”
 カイザーもヒカルに向けて呼びかけていく。
「やってくれたね・・調子に乗ってくれて!」
 怒りをあらわにしたラムが、全身から魔力の光を放出する。ヒカルの一撃のダメージが大きいにもかかわらず、ラムは強引に力を発揮しようとしていた。
「怒りを引き金にして、強引に力を引き出そうとしている・・あれじゃ、あの子自身の体が・・・!」
 アリシアがラムの体が限界を超えて異常をきたしてしまうことを危惧する。しかし怒りと力の陶酔のため、ラムはそのことを自覚していなかった。
「ぶっ潰す!みんなまとめて、あたしが粉々にしてやる!」
 ラムが目を見開いて、ヒカルに向かって飛びかかる。ヒカルがスピードを上げて、ラムも突撃、打撃をかわす。
「待って!落ち着いて!これ以上力を出したら、あなたの体が・・!」
「ぶっ潰す!お前らはあたしがふっ飛ばしてやる!」
 ヒカルが忠告を送るが、ラムは全く聞き入れない。彼女は自分の力の堪能やヒカルたちの打倒以外考えられなくなっていた。
(またバインドを使って、動きを止めるしかない・・・!)
 アリシアがヒカルに向けて念話を送る。ヒカルは小さく頷いて、ラムの注意を引き付けようとする。
 そして先ほどと同じように、ヒカルはジャンプして後ろに下がる。彼女の下、ラムが前進してきた場所には、アリシアがバインドを設置していた。
 ラムの手足に再びライトニングバインドが付けられ、動きを止められる。それでもラムは強引に前進しようとする。
「バインドを力で無理やり破るのはまずムリだよ・・・!」
 アリシアが呼びかけても、ラムは踏みとどまろうとしない。バインドがかけられている彼女の手足から血があふれる。
「私たちの言うこと・・全然聞こえてない・・・!」
「完全に怒りと憎しみに支配されている・・傷ついていることも感じていない・・・!」
 ヒカルとアリシアがラムの暴走に緊迫を募らせていく。
“Just as it is, then her form breaks.(このままでは彼女の体が壊れてしまいます。)”
 カイザーがヒカルに忠告を送る。
「でも、バインドで押さえておかないと、私たちが危険に・・・!」
「ケージでさらに封じ込めたほうがいいけど、私にはまだ・・・!」
 ラムを押さえようと思考を巡らせるヒカルとアリシア。そのとき、ラムが強引にバインドを打ち砕いて、束縛から解放された。
「止まらない・・あの子は止まらない・・・!」
「自分が傷ついていることも分かっていない・・・!」
 ヒカルとアリシアがラムと自分たちの状況に、絶体絶命を痛感していた。
「アリシア!ヒカル!」
 そのとき、ブレイドが結界の中に飛び込み、落下の勢いに乗せてトランザムをラム目がけて振り下ろしてきた。
「飛雷一閃!」
 魔力の電撃を帯びたトランザムを、ラムの左肩に叩きつけるブレイド。ラムは押し付けられて、地面に叩きつけられる。
「ブレイド!」
 声を上げるアリシアのそばに、ブレイドが来て着地する。
「すまない・・遅くなった・・・!」
 ブレイドがアリシアに声をかけて、ラムに振り返る。重い一撃を受けても立ち上がるラムを見て、ブレイドが目を見開く。
「今のを受けても倒れないとは・・・!」
「怒りに囚われて、限界を超えている自分の痛みも感覚も分からなくなっている・・・!」
 ブレイドとアリシアがラムを見据えて言いかける。
「誰が出てきても・・みんなまとめて・・・!」
 ラムがヒカルたちに向かって歩を進めていく。ヒカルたちが危機感を募らせながら身構える。
 そのとき、ラムが突然意識を失った。激痛が憎悪と本能を上回り、体が完全についていかなくなった。
 ラムが力なく倒れて、うつ伏せになった。限界を超えていた体からは血があふれ出していた。
「う・・動かなくなった・・・!?」
「この子を助けよう・・このまま死なせるわけにはいかない・・・!」
 ブレイドが声を上げて、ヒカルがラムを助けようと駆け寄っていく。
「待て、ヒカル!また暴走してくるかもしれないぞ!」
「分かっています!気を付けて運びます!」
 ブレイドの呼びかけに答えて、ヒカルがラムを抱える。同時にラムが張っていた結界が消えていった。

 ブレイドの念話での知らせを聞いて、ミュウは彼らだけでなく、ラムもロードサイド本部に転移させた。ミュウはラムの弱まっている魔力を拘束して、暴走させないようにした。
「魔力を強く抑制して、さらにバインドとケージを4重に重ねがけしたわ。ここまでやるとかけられたほうの負担が大きくなるけど、相手が相手だから・・」
 ミュウがラムの状態をヒカルたちに報告する。
「あの子、潜在能力を限界以上に引き出されているわ。それも他から強制的に・・」
「強制的にだと・・!?」
 ミュウが告げた報告に、ブレイドが緊張を覚える。
「人はたとえ本人が望んで意識しても、反射的に力を制御するようになっているけど、あの子はその制御が解かれて、結果、限界を超えた力を暴走させた・・」
「それをやったのは、ヴァンフォードのマスター・コスモか・・・!」
 ミュウの話を受けて、ブレイドがコスモに対して憤りを感じていく。
「それで、その子の体は元に戻りますか・・?」
 ヒカルがミュウに近づいて質問を投げかける。
「今の状態と情報だけじゃ、私には完全には治し切れないわ。そもそも、本人が力を、限界突破を望んでいるのでは・・」
「力に溺れて、それに反発する者の言うことは聞く耳を持たない・・厄介なことだ・・」
 ミュウが話を続けて、ブレイドがラムに対して毒づく。
「最悪、何らかの処分をしなければならなくなるわね。そうしなければ、私たちの全滅につながりかねない・・」
「そんな・・この子はただ、力に振り回されているだけなのに・・・」
 ミュウからの忠告に、ヒカルが困惑を見せる。
「警戒を怠るな、ということは確実だ。オレたちはまだ気を緩めることはできない・・」
 ブレイドが忠告して、ヒカルたちが小さく頷く。
「私がそばについています。連れてきたのは私ですし・・」
「ダメ。あの子は細心の注意を払わないといけない相手だから・・」
 ヒカルが呼びかけるが、ミュウは彼女の申し出を拒否する。
「ウィザード、ウィッシュ、いつも以上に警戒を怠らないで。一瞬の油断が命取りなのは、私たちも同じだから・・」
「分かってるって。しっかり監視してやるよ。」
「私も・・がんばります・・・」
 ミュウに呼びかけられて、ウィザードとウィッシュが答える。
「アリシアはヒカルちゃんのそばにいてあげて。」
「うん・・分かった・・・」
 ミュウの言葉にアリシアが頷く。ラムのそばにいられないことを、ヒカルは気に病んでいた。
“I'll trust everyone now. When your power is needed, I come certainly.(今はみなさんに任せましょう。あなたの力が必要となるときは必ず来ます。)”
 カイザーが呼びかけてきて、ヒカルが小さく頷く。
(これは私の責任のはずだけど・・そうするしかないみたい・・・)
 ラムへの心配を募らせながら、ヒカルはアリシアと一緒のミュウたちの前から去っていった。

 ラムがブレイドたちに連れていかれたことは、ローザとガリューの耳にも入っていた。
「ラムが捕まるなんて・・あれだけ強くなったラムが・・・!」
「ラムから私たちのことを引き出される危険があるわね・・・」
 ガリューが声を荒げ、ローザが危機感を見せる。
「そうなる前に、ラムを・・!」
「その必要はない。」
 ラムを取り戻そうとしたガリューに向けて声が響いてきた。
「この声・・マスター・コスモ・・・!」
 ローザも声、コスモの言葉を聞いて緊張を覚える。
「他の勢力が何をしようと、我々の意思を妨げることはできない・・彼女なら、現状を打開する力を備えている・・」
「ではラムは、このままでも大丈夫なのですか・・・!?」
「お前たちもそのときを待て・・理想郷にたどり着くときは遠くはない・・」
 問いを投げかけるガリューに、コスモは淡々と言葉を送った。
「かしこまりました。引き続き待機を・・」
 ガリューがローザとともにコスモに対して頭を下げた。
(マスター・コスモ・・何をお考えなのかしら?・・ラムが用済みにするにしても、このまま野放しにしても構わないとは・・)
 ローザが念話でガリューに声をかけた。コスモに直接会話が伝わらないように、2人は念話を持ちかけた。
(マスター・コスモにはまさにお考えがある。野放しにしても我々の優位が揺るがない確証がある。またはラムに何かあると・・)
 ガリューはコスモだけでなく、ラムのことも気にかけていた。含むところを感じながらも、ローザはガリューとともに待機することを決めた。

 ラムのそばにいられないまま、ヒカルはアリシアと一緒に武藤家に戻ってきた。家の中にいたタクミと目を合わせて、ヒカルが戸惑いを覚える。
「戻ったのか・・」
「うん・・ただいま・・」
 タクミが声をかけて、ヒカルが頷く。タクミもヒカルが元気がないことに気付く。
「なぁ、アリシアちゃん・・ちょっといいかい・・・?」
「えっ?・・う、うん・・」
 タクミに呼ばれて、アリシアが頷いて付いていく。タクミの行動にヒカルが疑問を覚える。
 ヒカルに見えないところで、タクミがアリシアに声をかけた。
「ヒカルに何かあったのか・・・?」
 問いかけるタクミだが、アリシアは答えられずに目をそらす。
「もしかして、魔法とかのことなのか・・・?」
 タクミに言われてアリシアはまた答えられないでいる。それが肯定だとタクミは判断した。
「オレに、その魔法が使えたら・・ヒカルや君の助けが、少しはできるかもしれないのに・・・」
「それはできるならしないほうがいいです・・あなたが戦うことを、ヒカルは望んでいないから・・・」
 自分を責めるタクミにアリシアが首を横に振る。タクミがこれ以上、戦いに身を投じることがヒカルのためにならないと、アリシアは思っていた。
「オレにはホントに、ヒカルや君たちに何もできないんだろうか・・・」
「ごめんなさい・・本当にごめんなさい・・・」
 歯がゆさを感じていくタクミの心境も察して、アリシアはただただ謝ることしかできなかった。
「タクミ・・アリシア・・・」
 ヒカルがやってきて、タクミとアリシアに声をかけてきた。
「ヒカル・・お茶にしようぜ。お前も疲れただろ・・」
「あ・・うん・・そうだね・・・アリシアも行こう・・」
 タクミに言われてヒカルが答える。2人の気持ちがうまくかみ合っていないと思い、アリシアは苦悩を深めていた。

 それから一夜が過ぎた。その明け方、ヒカルは丘の上で1人立っていた。
(私には、何もできないのかな・・・戦うことしか・・力を使うことしか・・・)
 自分を無力に感じて、ヒカルが苦悩を深めていく。
“One isn't blamed. You're adequate and a right judgement is also done.(自分を責めることはありません。あなたには力がありますし、正しい判断もできています。)”
 カイザーがヒカルに励ましの言葉を送る。しかしヒカルの深刻さは消えない。
(でも、みんなが納得できる結果を作れていない・・みんな、安心できていない・・アリシアも、タクミも・・・)
“It's a very difficult thing that everyone makes the result which you can be convinced. So you don't worry about it deeply.(みなさんが納得できる結果を作るのは極めて難しいことです。なのであなたが深く気にすることはないです。)”
 辛さを募らせるヒカルにカイザーがさらに助言する。
“It's when I endure now. Your expectation pays off certainly.(今は辛抱するときです。あなたの思いは必ず報われます。)”
(カイザー・・・辛抱するとき・・・)
 カイザーの言葉を受け止めて、ヒカルがさらに考え込む。彼女はまだ苦悩を振り払えなかった。
「ヒカル・・・」
 そこへタクミがやってきて、ヒカルに声をかけてきた。
「タクミ・・・」
 ヒカルがタクミに振り返り、戸惑いを見せる。
「お前が時々朝にこっちに来るのを見かけてた・・ここまで来たのは初めてだけど・・」
「うん・・ここで魔法の練習をしたり、1人で考え込んだりしている・・・1人じゃないね。カイザーも一緒・・」
 言いかけるタクミに答えて、ヒカルが自分の胸に手を当てる。
「ドライブチャージシステムも宿して、さらに強くなったけど・・できないことはたくさんある・・・」
「ヒカル・・・」
「力があっても、何でもできるってわけじゃないんだよ・・・」
 自分の無力を口にしていくヒカルに、タクミは困惑を感じていく。
(オレは・・どうしたらいいんだ・・・)
 ヒカルの苦悩を目の当たりにして、タクミも自分のすべきことを考えさせられていく。
(力を手にしても、ヒカルは悩んでる・・悩んで、答えを出そうとしてる・・それなのに、力のないオレに、アイツのために何ができるっていうんだ・・・!?)
 必死に自分に問い詰めていくタクミ。彼も彼なりに悩みを深めていた。
「タクミ・・どうしたの・・・?」
 ヒカルに声をかけられて、タクミが我に返る。
「いや、何でもない・・あんまり考え込むなよ・・悩み続けてるなんて、ヒカルらしくないって・・」
「悩み続けてる・・タクミ・・・」
「前向きなのがヒカルの持ち味なんだから、気楽にな、気楽に・・」
「タクミ・・・ありがとう、タクミ・・励ましてくれて・・」
 タクミからの言葉を受けて、ヒカルが微笑む。
「それじゃ、オレはもう行くから・・またな、ヒカル・・」
 タクミはヒカルに声をかけてから、先に丘を後にした。
(タクミ・・私を心配してくれて・・・)
 タクミの思いを察して、ヒカルはさらに戸惑いを募らせていった。
(私、ダメだね・・タクミにまで、こんなに心配かけて・・・)
“There are no such things. You have the strength and have the family who supports you and my company. As before, I'm lucky near you, too.(そんなことはありません。あなたには強さがありますし、あなたを支えてくれる家族や仲間がいます。私も今まで通り、あなたのそばについています。)”
 自分を責める彼女をカイザーが励ましていく。
(私を支えてくれる家族・・仲間・・・ガイさん、リンさん・・アリシア、ガリューさん、ミュウさん・・タクミ・・・)
 自分が大切にしている家族や仲間のことを思い出すヒカル。ところがヒカルはそんなみんなに何をしたらいいのかという答えを見つけられず、さらに苦悩を深めていた。
“It seems better to keep time now.(今は時間を置いたほうがよさそうです。)”
 カイザーも今はヒカルに声をかけるのは逆効果であることを察して、しばらく沈黙するよう判断した。

 ラムの身体調査を続けていたミュウ。ウィザードとウィッシュも調査に立ち会っていた。
「何とかして、この巨大な魔力を制御できるようにしないとね。それをどうすればいいのかが1番の問題だけど・・」
 ラムの状態を逐一チェックしながら、ミュウは思考を巡らせていく。
「徹底的に抑え込んじゃえばいいじゃん。また暴れられても縛っておけば問題ないし。」
「でも逆に暴走させてしまうよ・・あの人、怒りや憎しみで力を上げるタイプだから・・・」
 ウィザードが口にした提案に、ウィッシュが不安を口にする。
「慎重に進めないとね、2人とも。下手をしたらこのロードサイドに壊滅的な被害が出る可能性もあるんだから・・」
「あー!じれったいなー!もー!」
 ミュウからも言われて、ウィザードが頭を抱えて不満の声を上げる。
「身長に慎重を重ねて、あの子を暴走させないようにしないと・・」
 ミュウが真剣な面持ちで言いかける。
「ハァ~・・面倒事を持ち込んでくれたなぁ、ヒカルは・・」
「交代で見張りをしていこう・・そうすれば大丈夫だと思う・・」
 ため息をつくウィザードに、ウィッシュが微笑みかける。
「もう、ウィッシュは心配性なのかお気楽なのか分かんねぇなぁ・・」
 ウィッシュの性格が分からなくて、ウィザードが頭を抱える。
「私は通しで監視と調査をしていくわ。あなたたちは交代で監視をやって。」
「分かりました・・」
「フン!」
 ミュウの指示にウィッシュが答えて、ウィザードが憮然とした態度を見せた。
(わずかの油断でも命取りになる・・このロードサイドに何かあれば、ブレイドやアリシアたちにまで大きな影響が・・・)
 ラムの調査と監視に対してかつてない危機感を感じているミュウ。彼女の緊張感を目の当たりにして、ウィザードとウィッシュも息をのんだ。
(私の一世一代の大勝負ね・・・!)
 気を引き締めなおして、ミュウは作業を再開した。ウィッシュも彼女の手伝いに専念し、ウィザードもそれに続くことにした。

 マスター・コスモから待機を命じられていたガリューとローザ。そんな中、ローザは新たな強い魔力が探知されたことを聞いて、調査を行っていた。
「確かに強い魔力数値ね。ロードサイドのメンバーでも、天宮ヒカルでもない・・・」
 ローザが魔力について疑問を感じていく。
「でも、天宮ヒカルとどこか似た反応を示している・・これって・・・?」
 ローザはさらに魔力反応の詳細を調べていく。
「そういえば天宮ヒカルは、ドライブウォーリアーだったわね・・そしてもう1人、ドライブウォーリアーがいた・・・」
 ローザが記憶を呼び起こして、魔力の正体を探っていく。
「でもそのドライブウォーリアーは死んでいるとの情報がある・・なら、この反応はいったい・・・」
 次々に込み上げてくる疑問に、ローザは苦悩を深めていく。
「調べておいたほうがいいわね。私たちヴァンフォードの強力な戦力になるかもしれない・・」
 意を決したローザが兵士たちを集めた。
「たった今感知した魔力の調査を行う。私も直接調査をする。障害となるものは即排除するように。」
「はっ!」
 ローザの命令に答えて、兵士たちが敬礼を送る。
(マスター・コスモのお力になるのなら、実に頼もしいわね・・・)
 コスモに対する思いと忠誠を胸にして、ローザは笑みをこぼした。

 ヴァンフォードが捉えた魔力反応の地点。人気のない荒野にひとつの人影があった。
 その人影に複数の影が迫っていた。だがその複数の影は巻き起こる衝撃の中で次々に消えていった。
 轟音が消えて再び静寂が訪れた。人影は再び荒野の真ん中でたたずんでいた。
「また、私を狙ってくる敵が出てきた・・何者なの、ヤツらは・・・?」
 人影が自分たちの前に現れた相手に疑問を抱く。
“It isn't also in my data. Unidentified.(私のデータにもありません。正体不明です。)”
 別の音声が呼びかけてくる。人影の体の中にあるデバイスが語りかけていた。
「ハデスにも分からない・・本当に謎の存在・・だけど、私の邪魔をしてくるなら倒す・・それだけよ・・・!」
 人影が自分の意思を口にして歩き出す。
「そしてヒカル、今度こそあなたを倒して、私が世界の制圧を・・・!」
 ヒカリへの敵意を胸に秘めて、少女は目つきを鋭くする。
 ドライブウォーリアー、「ウォーリアー・プルート」として力を手に入れた少女。ヒカルのかつての親友で、世界を賭けて戦った少女。
 神凪(かんなぎ)メイは生きていた。復活を果たして、再び行動を開始していた。


次回予告

メイは生きていた。
ヒカル打倒のために行動するメイ。
そのための力を得るために、彼女はヴァンフォードとの契約を結ぶ。
2人の宿命の糸がまた、今ここで絡み合う。

次回・「悪夢の再会」

血塗られた闘い、再び・・・

 

 

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