Drive Warrior Gears

Episode12「力と心」

 

 

 突如現れたコスモに対し、ヒカルはタクミの前でカイザーを起動させた。彼を守ろうと、ヒカルはコスモと対峙していた。
「私と戦うつもりか?・・私とお前では、どちらが勝とうと世界のためにならないのだが・・」
 コスモはヒカルと戦うことに苦言を呈する。
“It's dangerous to fight only by you. I have no choice but to temporize here.(あなただけで戦うのは危険です。ここは時間稼ぎをするしかありません。)”
 カイザーがヒカルに向けて警告を投げかける。
(分かってる・・それでもタクミを助けるために・・・!)
 ヒカルはカイザーの警告を聞きながらも、コスモを迎え撃つことを心に決めていた。
(私のことを心配してくれているのに・・ゴメン、カイザー・・!)
“Please don't do an impossible thing. I make an effort toward collection of information outside the boundary fence, too.(くれぐれも無理なことはしないでください。私も結界の外の情報の収集に努めます。)”
 謝るヒカルにカイザーが答える。ヒカルはタクミを守ることを第一にして、コスモの出方をうかがう。
「力ずくで押さえ込むしかなさそうだ・・」
 コスモが呟いて、ヒカルに向かってゆっくりと近づいていく。ヒカルもタクミもコスモから後ずさりしていく。
「タクミには、手を出させない・・・!」
 タクミを守ろうとするヒカル。コスモが右手から光を集めていく。
「タクミ!」
 ヒカルがタクミを抱えて、コスモからさらに離れる。その直後、コスモの右手から白い光が解き放たれた。
 光はコスモの前方の建物や道を包み込んだ。その場所に損傷は見られなかったが、ヒカルもカイザーも光の威力の高さを痛感していた。
(とんでもない魔力・・それでいて、物理破壊の効果を消してる・・・!)
“If I hit directly, it's certain that I don't finish any more by safety. You aren't supposed to receive.(直撃したら無事では済まなくなるのは確実です。受けてはいけません。)”
 息をのむヒカルにカイザーが忠告を投げかける。コスモがヒカルたちに視線を向けてきた。
「息の根を止めるつもりはない。お前の力は世界のためになる・・」
 コスモが呟くと、飛翔してゆっくりと上昇していく。
(このままじゃやられる・・スピードを最大まで上げたら、タクミに負担がかかる・・・!)
 コスモを前にして、ヒカルは絶体絶命を痛感していた。
“Plasma smasher.”
 そのとき、一条の金色の光が上から飛び込んできた。光はコスモが展開していた障壁にぶつかって弾かれる。
「この光・・アリシアちゃん!」
 ヒカルが声を上げて振り向く。結界に穴が作られて、アリシアが駆けつけてきた。
「ヒカル、大丈夫・・・!?」
「アリシアちゃん・・ありがとう!助かったよ!」
 声をかけてきたアリシアに、ヒカルが笑顔を見せて答える。
「アリシア、ヒカル、早く脱出しろ!」
 ブレイドも駆けつけてヒカルたちに呼びかける。ヒカルがタクミを連れて、アリシアとともにブレイドと合流する。
「一緒に来てもらう・・お前の力が必要なのだ・・・」
 コスモがヒカルを狙って飛翔する。ヒカルたちに近づこうとした彼だが、突然体の自由が利かなくなる。
 コスモの後ろに魔法陣が現れる。アリシアが設置していた「ライトニングバンド」が、彼の動きを封じていた。
「ヒカル、ブレイド、今のうちに早く!」
 アリシアが呼びかけて、ヒカルたちとともに穴から結果の外に出た。その直前から穴は小さくなり始めていて、彼らが出た後に穴は消えた。
 コスモは難なくバインドを打ち破った。だがそのときにはヒカルたちは結界から出ていた。
「いなくなってしまったか・・だが私は諦めるつもりはない・・・」
 コスモは呟くと、自分が転回していた結界を解除した。魔力を激しくぶつかり合おうとしていた衝突が嘘だったかのように、街には平穏な日常が戻っていた。
「見つけ次第必ず連れ出していく・・世界を導くために・・・」
 ヒカルのことを頭の中に焼き付けて、コスモは街から姿を消した。

 コスモの前から逃げ切ることができたヒカルたち。アリシアとブレイドが助けてくれたことに、ヒカルは感謝と安心を感じていた。
「ふぅ・・ホントに危ないところだったよ~・・」
「すぐに気付けてよかった・・もしも気付けていなかったら、2人を助けられなかった・・・」
 大きく深呼吸するヒカルに、アリシアも微笑みかける。
「ホントにありがとう、アリシア・・ブレイドさんもありがとうございます・・」
 安心を浮かべて、アリシアとブレイドにお礼を言うヒカル。ところがタクミに目を向けたところで、ヒカルが表情を曇らせる。
 タクミは自分が今目の当たりにしている出来事がのみ込めず、動揺するばかりだった。
「タクミ・・これは、その・・・」
 ヒカルが説明しようとするが、動揺が膨らむばかりでうまく言うことができない。
「えっと・・ビックリしちゃってるよね・・いきなりこんなの見たら・・・」
「・・・何が何だか全然分かんなくって・・何にどう驚いたらいいのかも分かんなくって・・・」
 気まずくなって肩を落とすヒカルに、タクミが何とか言おうとする。彼も動揺を隠せなくなっていた。
「できることなら、オレたちのことを忘れさせることができたらいいのだが・・そんな魔法はない・・・」
 タクミに自分たちのことを知られてしまい、ブレイドも苦悩していた。
「ヒカル・・仕方がない・・理解してもらえないのは承知の上だが、話すしかない・・」
 ブレイドがタクミに近寄って、自分たちのことを話すことを決めた。
「それなら私が話すわ。」
 ミュウがやってきてタクミに目を向けてきた。
「ミュウ、頼む・・お前ならうまく話せるから・・」
「お褒めの言葉として受け取っておくわ。」
 ブレイドにミュウが微笑みかける。彼女はタクミに自分たちロードサイドのこと、ヴァンフォードのこと、魔法のことを話した。が、それでもタクミは疑問符を消せなかった。
「分かりやすく説明してくれてるのは分かります・・でも、それでもチンプンカンプンで・・魔法だって、ロールプレイングやファンタジーであるようなものとはちょっと違うみたいだし・・」
 未だに疑問が抜けないタクミに、ミュウもヒカルも苦笑いを浮かべていた。
「でもこれだけは分かって・・ヴァンフォードは、強い魔力の持ち主を引き入れて、侵略をしていることは・・・」
「そういえば、私たちの前に現れたの、マスター・コスモって言われてた・・今まで感じたことのない魔力だった・・」
 ミュウが説明しているところで、ヒカルがコスモのことを口にする。
「マスター・コスモだと!?・・ヴァンフォードを束ねていると言われているマスター・コスモが来たというのか!?」
 するとブレイドが突然声を荒げてきた。
「はい。そう言っていました・・」
「まさか、あのマスター・コスモが、自ら地球に来るとは・・・!」
 ヒカルが頷くと、ブレイドが深刻さを募らせていく。アリシアもミュウも緊張を隠せなくなっていた。
「何を企んで、地球に・・何か狙いがあって・・・」
「私を連れて行こうとしていた・・世界のためにって・・・」
 アリシアが呟くと、ヒカルが思い出して答える。
「マスター・コスモは、強い魔力の持ち主であるヒカルにも狙いを向けてきたのか・・・」
「私も、マスター・コスモに・・ヴァンフォードに・・・」
 ブレイドが口にした言葉を聞いて、ヒカルは深刻さを募らせていた。
(ヒカル・・・)
 思いつめた様子のヒカルを見て、タクミも困惑していた。

 地球に足を踏み入れたコスモ。ヒカルたちに逃げられた彼は、フロンティアに戻ってきた。
(あの者、このまま見逃しておくわけにはいかない・・彼女の力が、世界を正しく変える・・・)
 ヒカルのことを考えて、コスモが心の中で呟く。
(近いうちにまた会うことになるだろう・・そのときに確実に・・・)
 ヒカルを必ず自分の目的のための力にすると、コスモは考えていた。全ての世界を理想の形にするために。

「マスター・コスモが地球に・・!?」
 ローザがガリューから話を聞いて、驚きの声を上げる。
「間違いない・・感じられた力は紛れもないマスター・コスモだった・・」
「でもなぜ、マスター・コスモが自ら地球へ・・・!?」
「マスター・コスモのお考えは、オレたちの及ばない域にある・・」
 ガリューとローザがコスモに対して疑問を募らせていく。
「それに、あの娘を狙っていた・・確かに魔力を強くしてはいるが・・・」
「彼女がマスター・コスモの目に敵ったと・・相当の魔力を備わったということね・・」
「なおのことヤツをヴァンフォードに引き入れなければならない・・天宮ヒカルを・・」
「そうなればヴァンフォードの制圧は強大に・・マスター・コスモの理想郷は・・・」
 使命感を強めるガリューと、喜びを感じて笑みをこぼすローザ。
「私たちも、マスター・コスモの恩恵にあやかることができるのかしら?・・あの、ラムのように・・・」
 ローザが切り出した話に、ガリューが目つきを鋭くする。
「あの力は確かに強大だ。だが体の負担も相当なのも間違いない・・」
「強くなる代わりに、肉体が再起不能になりかねない・・そのような力を、マスター・コスモが・・・」
 ラムが発揮した力について、ガリューとローザが話していく。
「もしかして、マスター・コスモは私たちのことを・・・」
「たわけたことを言うな。マスター・コスモがそのようなことをするはずがなかろう・・」
 一抹の不安を口にするローザにガリューが言いとがめる。
「それに、たとえそうだとしても、我々はマスター・コスモに全てを捧げる覚悟でここにいる。望むところだろう・・」
「ガリュー・・そうね・・それでも世界が正しく導かれてほしいと思って、私たちはマスター・コスモに忠誠を誓った・・」
「ならば問い詰めてはいけない。疑ってはならない。全てはマスター・コスモの理想郷のために・・」
「分かっているわよ。退屈な時間を過ごしていくくらいなら、マスター・コスモの理想郷で退屈のない時間を過ごしていたいから・・」
 ガリューが投げかける言葉に、ローザが不満げに答える。
「マスター・コスモの次の命令があるまで、オレたちはいつでも出られるように準備しておく。」
「そうね。次が楽しみね。」
 ガリューの言葉を聞いて、ローザが微笑みかける。2人は次の出撃のときを待つことになった。

 タクミにも事情や魔法、自分たちのことを話したミュウ。その後ヒカルとタクミはアリシアに送られて、地球へと戻った。
 タクミは未だにヒカルやアリシアたちのことを受け止めきれておらず、ヒカルもタクミに対して困惑を隠せないままだった。
「タクミ・・・ゴメン・・意地悪で秘密にしてたんじゃないの・・タクミを危険に巻き込みたくなくて・・・」
「分かってるよ、そりゃ・・オレ・・いや、オレたち、ヒカルたちに守られてたわけか・・」
 ヒカルが謝ると、タクミが何とか言葉を返す。
「それにお前、普通の人間じゃなくて・・体を改造されて・・・」
「うん・・私の中にはカイザーが、デバイスがあるの・・私に力を貸してくれて、たくさんのことを教えてくれた・・・」
 不安を見せるタクミに語りかけて、ヒカルが胸に手を当てる。彼女は自分の中にいるカイザーを実感していた。
「私も最初は魔法とか、分かんないことばかりだった・・たくさんのことを教えてもらったから、今は落ち着いていられるかな・・」
「そうなのか・・お前でもビックリすることばっかりだったのか・・・」
 微笑みかけるヒカルに、タクミが何とか言葉を返す。
“When having happened, it's the case that it's helped all to feel confusion that it doesn't happen in usual. It's possible to take back calmness by catching those information and making it the knowledge and recognition.(通常では起こらないことが起こったときに混乱を感じてしまうのは誰でも仕方のないことです。それらの情報を受け止めて、自分の知識や認識としていくことで、冷静を取り戻すことができるものです。)”
 カイザーがヒカルとタクミに声をかけていく。カイザーの声はタクミの耳にも届いていた。
「オレもいつか、こういうことに驚かなくなるのかな・・・」
「でもタクミ、あなたはできるならもう関わらないほうがいい・・関わったらきっと、タクミも危険に巻き込まれるから・・・」
 呟きかけるタクミに、ヒカルが深刻な面持ちを見せて言いかける。
「だけど、それじゃヒカルは・・みんなは・・・」
“I think I'd like such one, too. If it's involved, you have no means to evade witchcraft and an attack.(私もそうしたほうがいいと思います。巻き込まれたら、あなたには魔法や攻撃を回避する手段がありません。)”
 言い返すタクミだが、カイザーも注意を促す。2人から言われて、タクミがおとなしくなる。
「分かったよ・・でも、何かあったらすぐに言ってきてくれ。オレにできることだったらしてやるから・・」
「タクミ・・うん。そうするよ。ありがとうね・・」
 納得したタクミにヒカルが頷いた。ところがタクミは内心、ヒカルの力になれていないのかと苦悩していた。

 家に帰ってきたヒカルとタクミを、ガイとリンが迎えてきた。
「タクミ、ヒカルちゃん、遅かったわね・・」
「ごめんなさい・・長く買い物に付き合わせちゃって・・」
 リンが声をかけて、ヒカルが謝る。彼女は言い訳をリンとガイに口にした。
「せっかくのお休み。大きく羽を伸ばし過ぎたってところか。」
 ガイがヒカルとタクミを見て気さくに言いかける。
「それじゃ、2人とも帰ってきたところで、ご飯の支度といきますか。」
 リンが笑みを見せてから、夕食の支度に向かっていった。
「タクミ、今日のことだけど・・・」
 ヒカルがタクミに小声で言いかけてきた。
「分かってる・・秘密にしてるよ・・ばらすにしてもうまく説明できないし、信じてもらえないのがオチだ・・」
「タクミ・・ありがとうね・・」
 タクミが肩を落としながら答えて、ヒカルが微笑んだ。
(これでいい・・タクミを巻き込まないようにするのがいい・・・)
 ヒカルが心の中で安心しようとする。しかし彼女は心のどこかで、タクミにしたのがこれでよかったのかという不安を感じていた。

 ヒカルとタクミのことはアリシアもブレイドたちも気にしていた。
「ヒカル・・タクミさん・・大丈夫かな・・・?」
「ヒカルは大丈夫だろう。魔力だけでなく精神力も強い・・が、あのタクミという男は・・」
 アリシアとブレイドがタクミの心配をする。
「いきなり魔法やデバイスのことを知って、動揺を隠しきれないのが正直なところね。私がある程度きちんと説明はしたけど、そこのところの不安は拭えないわね・・」
 ミュウもタクミのことを口にしていく。
「1番の心配は、彼をヴァンフォードが狙ってくるかもしれないこと。私たちに対する人質としてとか・・」
「そんなことになったら、ヒカルは・・・」
 ミュウが口にした言葉を聞いて、アリシアが不安を募らせる。
「アリシアちゃんはヒカルちゃんたちを見ててくれないかな?何かあったときにすぐにフォローできるようにね。」
「私もそうしたいところだけど、それだとミュウたちが・・・!」
 呼びかけてきたミュウに、アリシアが不安を見せる。
「心配することはない。ロードサイドにはオレがいる。もしも何かあればお前とヒカルにも知らせる。」
「ブレイド・・・」
 ブレイドにも言われて、アリシアが戸惑いを見せる。
「オレたちの中で、1番ヒカルを助けられるのはお前だ、アリシア・・頼む・・」
「ブレイド・・みんな・・・うん・・・」
 ブレイドに頼まれて、アリシアは微笑んで頷いた。
「ありがとう、みんな・・」

 ヒカルやミュウから話を聞いても、タクミは未だに疑問を消せないでいた。それ以上に彼はヒカルのためにできることがないかと思っていた。
(ヒカルが大変なことに巻き込まれてるのに、何もできないなんて・・・)
 無力であると諦めることをしてはいけないと、タクミは自分に言い聞かせていた。
(ヒカルはきっと、大変なことをたくさん経験してるはずだ・・もしかしたら、死ぬかもしれないときがあったかも・・・)
 ヒカルのことを考えていくタクミ。
(ここに来る前のヒカルのこと、全然知らなかった・・ヒカルが話さなかったのもあるけど・・・)
 ヒカルが以前にどのような生き方をしてきたのかを気にしていく。自分の想像できないほどの過酷さだと、タクミは予想がついていた。
(ヒカルを助けるためには、アイツのことをちゃんと知らないといけないみたい・・・)
 タクミもタクミなりの決意を固めつつあった。

 ヒカルとの邂逅を果たしたコスモ。彼はカプセルの中に入って眠っているラムの前にいた。
(私に全てを捧げてくれた君には感謝する。もっとも、強い力を求めて、君は私に全てを委ねることを選んだのだが・・)
 ラムの入っているカプセルにコスモが手を当てる。
(君が秘めていた力と、力への渇望は、世界を正しく導くために大いに役立っている。そしてこれからも君の力は必要だ。)
 コスモがラムを見つめて、心の中で呟いていく。
(世界を変える、新しい力を引き寄せるために・・・)
 ラムのカプセルから手を離すと、コスモは部屋を後にした。彼が部屋からいなくなってから、カプセルが開放されて、ラムが目を覚ました。
「強くなった・・もっと・・もっとこの力を楽しみたいよ・・・」
 自分の力がさらに高まったと実感して、ラムが笑みをこぼす。
「また・・アイツを・・アイツらを・・・!」
 またヒカルたちを狙って、ラムは戦いを仕掛けようとしていた。コスモから与えられた強大な力を使って。

 ヒカルとタクミを案じて、アリシアはガイのレストランに来た。彼女はブレイドたちの思いも背に受けていた。
(私が、ヒカルとタクミさんを・・)
 自分に言い聞かせてから、アリシアは店に入ろうとした。
「あら?アリシアちゃんじゃない。」
 するとリンが店から顔を出して、アリシアに声をかけてきた。
「あ、あの・・こんにちは・・・」
「ヒカルなら家にいるわ。今日は休みたいって・・」
 挨拶するアリシアにリンが答える。
「そうですか・・ありがとうございます・・」
 アリシアは戸惑いを感じながら、慌ただしく駆け出していった。
「アリシアちゃん、どうしちゃったのかな?・・何か様子が・・・」
 アリシアのことを心配しながらも、リンは店の中に戻っていった。

 リンに教えられて、アリシアは武藤家の前にたどり着いた。そこでアリシアはまた不安と戸惑いを感じていた。
(ヒカル・・タクミさん・・・私が、しっかりして支えてあげないと・・・)
 気持ちを落ち着けてから、アリシアは家のインターホンを鳴らした。家の玄関から顔を出したのはヒカルだった。
「アリシアちゃん?・・・もしかして、私たちのことを心配して・・・」
 ヒカルとアリシアが同時に戸惑いを見せる。
「うん・・ブレイドたちに、そばにいてあげてって言われて・・」
「みんな・・・ありがとう、アリシアちゃん・・・」
 事情を話すアリシアに、ヒカルが感謝をする。
「タクミさんは・・・?」
「部屋にいるけど・・あれから、会うことはあっても、あんまり話をすることがなくて・・声をかけづらいっていうか・・」
 アリシアが聞くと、ヒカルが困った顔を浮かべて答える。彼女の様子を気にして、アリシアも戸惑いを感じていく。
「せっかく来たんだから、中に入って・・」
「うん。ありがとう、ヒカル・・」
 ヒカルが招き入れて、アリシアが微笑んでお礼を言う。中に入ったところで、アリシアはタクミの姿を目にした。
(タクミさん・・・)
 タクミのことが気がかりで、アリシアが戸惑いを感じていく。
「君は・・・オレたちのことを心配して来たのか・・」
「は・・はい・・」
 タクミが声をかけると、アリシアが当惑を見せながら頷く。
「ごめんなさい・・あなたに、いろいろ混乱させてしまって・・・」
「別に君が何か悪いことをしたわけじゃない。むしろオレやみんなを守ってきてた・・」
 謝るアリシアにタクミが弁解を入れる。
「そんなことを知らないで、オレたちは平和だと勘違いして・・・」
「それは仕方ないです・・知られないようにしてきたんです・・私たちは・・知ってしまったらきっと、混乱を招くことになりますから・・」
「確かに・・そうだよな・・いきなり目の前でわけ分かんないことが起こったら、間違いなくパニックだろうな・・」
 言いかけるアリシアにタクミが納得の素振りを見せる。
「ここまで気を遣ってくれて・・それなのに、オレには何の力も・・」
「ムリして力を持つことはないです・・力を持つことは、それだけ辛いことを抱えていくことでもあるんです・・」
 自分の無力を口にするタクミに、アリシアが真剣な面持ちで言いかける。
「だから、できるなら、戦いや危険に入らないで済むなら、そうしたほうがいいです・・・」
「ホントに、とんでもないことに関わっているみたいだ・・君も、ヒカルも・・」
 アリシアからの思いを受け止めて、タクミが気落ちする。自分も何とかしないと、という彼の気持ちが揺さぶられていた。
「ホントに隠しててゴメン、タクミ・・それと、気を遣ってくれてありがとうね・・」
「いや、別に悪いとは言っちゃ・・ただ、オレにできることは・・・」
「それは、悪いことには・・・」
 また言葉を詰まらせてしまい、タクミとヒカルは気まずくなってしまった。
(ヒカル・・タクミさん・・・)
 アリシアもかける言葉が見つからず、困惑していた。
「と・・とにかく・・アリシアちゃんにお菓子を用意してあげないとね・・飲み物は紅茶でいいかな・・?」
「あ・・はい。ありがとうございます・・」
 ヒカルが話題を変えようとして、アリシアも合わせて笑みを見せる。
「タクミの分も用意するね・・」
「いや、オレも手伝うよ・・任せ切りなのはいい気がしないから・・」
 するとタクミもヒカルを手伝おうとしてきた。
「あ、ありがとう、タクミ・・」
 ヒカルはタクミにお礼を言って、お菓子と紅茶の用意をする。2人とも完全に落ちつきを見せているだけだと、アリシアは分かっていた。
“I approve your judgement. But please do decision after I put my thoughts together calmly.(私はあなたの判断に賛同します。ですが決断は落ち着いて、考えをまとめてからしてください。)”
 カイザーがヒカルに向けて励ましの言葉を投げかけてきた。
(カイザー・・ありがとう・・そうなんだけど・・簡単に答えがハッキリできたらいいんだけど・・・)
 ヒカルが心の中で苦笑を浮かべていた。
“It won't be decided immediately. Impatience is a taboo.(すぐに決めることはありません。焦りは禁物です。)”
(カイザー・・うん、分かってる・・)
 カイザーからの助言に、ヒカルは心の中で頷いた。

 コスモから力を受け取ったラムは、力を振るいたい、敵を倒したいという衝動に突き動かされて、地球を訪れていた。
「ここにいる・・アイツがこの近くに・・・」
 ラムが魔力を探って感じ取り、笑みを浮かべる。
「隠れてたってムダだよ・・どんなに力を抑え込んでたってつかめるんだから・・・」
 ラムが笑みを強めて、魔力の感じるほうに向かっていく。彼女は自分の高まっている力に溺れていた。

“The strong power is approaching this.(強い力がこちらに近づいてきます。)”
 魔力の接近を感知したカイザーが、ヒカルに呼びかけてきた。バルディッシュも感知して、アリシアもヒカルに真剣な面持ちを見せていた。
「ヒカル・・もしかして、また悪いヤツが・・・!?」
 タクミが深刻な面持ちを見せてきて、ヒカルが困惑を見せる。言葉が思いつかず、彼女はただ小さく頷いた。
「タクミは家にいて・・私は大丈夫だから・・・」
「だけど、ヒカルが・・・!」
 言いかけるヒカルにタクミが言い返そうとする。
「私も一緒だから・・危なくなったら、すぐに逃げるから・・・」
 アリシアもタクミに言いかけて微笑みかける。
「必ず戻ってくるから・・待ってて、タクミ・・・」
「ヒカル・・・」
 外へ出ていくヒカルとアリシアを、タクミは呼び止めることができなかった。
(ヒカル・・・)
 ヒカルに何もしてあげられないことをまた痛感して、タクミは胸を締め付けられるような気分に襲われていた。


次回予告

力を欲する感情。
それは単純に強くなることだけなのか。
力の意味を理解しなければならないのか。
大切なものを守ろうとするヒカルと、力を見せつけるラム。
魔力のぶつかり合いに、タクミは・・・

次回・「強さの意味」

新たな誓いを胸に秘めて・・・

 

 

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