Drive Warrior Gears

Episode07「心の雷鳴」

 

 

お母さんを失ってから、私はひとりぼっちになった。
身寄りがいなかった私は、途方に暮れることになった。

魔力資質が高く、魔法の扱いもうまかった私は、ヴァンフォードに狙われることになった。
そこで私はブレイドに助けられて、ロードサイドに招かれることになった。

ロードサイドはヴァンフォードの犯行を阻止するために結成されたチームだった。
ロードサイドにいるほとんどの人は、ヴァンフォードの被害を受けた人ばかりだった。
これ以上ヴァンフォードの犯行を行わせない。ロードサイドの誰もがその一心だった。

私はヴァンフォードを憎んでいるわけじゃない。
でもヴァンフォードのために誰かが傷ついたり悲しい思いをしたりするのは耐えられない。

だから私も戦うことにした。
私の持っている魔法が、みんなのためになるのなら。


 ストレス解消を第一に世界の襲撃に乗り出したラム。暴挙を繰り返す彼女の前に、アリシアとブレイドが駆けつけてきた。
 ライトニングバインドでラムの手足を拘束したアリシアだったが、ラムは強引にバインドを引きちぎってみせた。
「今度はアンタたちが痛い目を見る番。あたしのストレス解消に貢献してよね・・!」
 ラムが両手に魔力を込めて、アリシアに向かって飛びかかる。アリシアは飛行魔法で上昇して、ラムの突撃をかわす。
「バルディッシュ、カートリッジロード・・」
“Load cartridge.”
 アリシアに呼びかけられて、バルディッシュのカートリッジに魔法の弾丸が装てんされる。これによりバルディッシュは、爆発的な能力を発揮することができる。
「いくらベルカ式のカートリッジシステムを入れてても、インテリジェントデバイスであたしを止められるわけないっての!」
 ラムが再びアリシアを狙って飛び込む。
“Defensor plus.”
 アリシアが光の壁を作り出して、魔力を込めたラムの拳を防ぐ。強引に押し切ろうとするラムと、アリシアは拮抗していた。
 だがこの瞬間、ラムの周囲を無数の金色の光の矢が取り囲んできた。それに気づいたラムだが、回避よりもアリシアを押し切ることを選んだ。
「くっ!・・間に合わない・・・!」
 ラムはやむなく回避に出て、アリシアの光の矢をかわした。
「ちょっとはやるじゃないの・・・!」
 苛立ちを噛みしめながら、ラムがアリシアに笑みを見せる。そこへブレイドが飛び込んできて、トランザムを振り下ろしてきた。
 ラムはとっさに動いて、トランザムをかわした。
「お前の相手はアリシアだけではないことを忘れるな・・・!」
「別に忘れているわけじゃないよ・・っていうか、誰が何人来ても、あたしが叩き潰してやるよ!」
 忠告を送るブレイドに対しても、ラムは勝気に言い放ってみせた。
「そら!油断してるとあっという間にやられちゃうよ!」
 ラムが両手に魔力を集めて、殴りかかる要領でブレイドに向けて飛ばす。ブレイドは素早く動いて、ラムの魔力をかわす。
「そういうふうによけちゃっていいのかな?」
 ラムが笑みを見せて、ブレイドにさらに魔力を飛ばす。素早くかわすブレイドだが、魔力の光はその下の町にぶつかって、建物や地面に爆発を引き起こしていく。
「お前・・相手はオレたちだぞ!」
「あたしはストレス解消ができればいいんだよ・・アンタらはその相手の2人でしかないし、強い魔力を持ってるヤツを連れてくるのはそのついで・・」
 怒鳴りかかるブレイドに、ラムが笑い声をあげてくる。
「この世界にあるものもみんな、あたしのためにやられるだけだ!」
 ラムがさらに笑いながら、両手に魔力を込めてブレイドに飛びかかる。下手にかわすことができなくなり、ブレイドはトランザムで防御するばかりとなる。
「ブレイド!」
 アリシアが再び金の光の矢をラムに向けて放つ。ブレイドを押し込んだところで、ラムが光の矢に気付く。
「そんな小賢しいことで、あたしに勝てると思わないことね!」
 ラムがアリシアに向けて不敵な笑みを見せた。だが先ほどの場所にアリシアの姿がない。
「アイツ、どこに逃げた・・!?」
 ラムが周りを見回してアリシアの居場所を探す。彼女の視線が、バルディッシュを構えているアリシアの姿を捉えた。
「ハーケンセイバー!」
 アリシアが振りかざしたバルディッシュから、三日月状の光の刃が放たれた。回転しながら飛んでいく光の刃を、ラムは紙一重でかわした。
「いつまでも調子に乗っちゃって・・・!」
 ラムがアリシアに向かって飛びかかり、拳を繰り出そうとした。そこへアリシアの放っていた光の刃が、ブーメランのように戻ってきた。
「このっ!」
 ラムが魔力を込めた拳で光の刃を打ち砕く。そこへアリシアとブレイドが同時に飛び込んできて、光の刃を出しているバルディッシュとトランザムを振りかざす。
「ぐっ!」
 ラムがバルディッシュとトランザムを叩き込まれて顔を歪める。魔法攻撃は魔力の膜を体にまとわせることで防いだが、衝撃は彼女に伝わっていた。
「こんなことで・・あたしがやられるわけがない!」
 ラムが全身から魔力を放出して、アリシアとブレイドが吹き飛ばされる。
「こうなったら、あたしの切り札を見せてやることにするよ・・!」
 ラムがアリシアとブレイドに言いかけると、意識と力を集中する。すると彼女の体から金色の光があふれ出してきた。
「これは・・!?」
「今まで出したことのない魔力・・・!」
 ラムの発揮する魔力を感じて、ブレイドとアリシアが緊迫を募らせる。
「コレを使ったのはホントに久しぶり・・反動がデカすぎるからね・・・!」
 言いかけるラムが笑みを浮かべる。彼女の両手に宿っている魔力は、金色の強力なものになっていた。
「それじゃ、さっさとケリを付けさせてもらうよ!」
 ラムがブレイドに狙いを定めて、右の拳を繰り出した。彼女の拳から放たれた魔力にブレイドが弾かれる。
「ブレイド!」
 ブレイドに向かって声を上げて、アリシアが身構える。その彼女にもラムが拳を振るって魔力を撃ち込んできた。
 反射的に魔力を回避したアリシア。だが彼女から外れた魔力は、その下の町にぶつかって爆発を巻き起こした。
「町が!?」
「ここからアイツを引き離すしかない・・さもないと被害が広がる・・・!」
 不安を覚えるアリシアと、ブレイドが打開の策を探っていく。
「私が注意を引き付けて、街から離すよ・・・!」
 アリシアがブレイドに呼びかけて、ラムに向けて光の弾を放つ。弾を弾いたラムの注意を、アリシアは引き付けようとする。
「分かってるっての・・あたしをこっから引き離そうってんだろ・・・!」
 ラムが笑みを浮かべて、また両手に金色の光を灯す。
「その手は食わないよ・・あたしは振り回すのは好きだけど、振り回されるのは大嫌いなんだから!」
 ラムがアリシアを追いかけようとせず、両手の光を町に落とした。光がぶつかって爆発して、さらに人々や建物に被害を及ぼしていく。
「やめて!あなたの相手は私たちでしょう!?」
「あたしはストレス解消がしたいの・・だからアンタたちの見え見えの誘いに乗ってやることもないんだよ!」
 呼びかけるアリシアをあざ笑って、ラムがさらに両手の光を町に向けて放つ。アリシアがとっさに光の前に入って、金の光の壁を出して防ぐ。
 何とか光を防ぎ切ったアリシアだが、光の壁はひびだらけになっていた。
「そのざまじゃ、次で仕留められそうだね・・こういうのが一石二鳥ってことになるんだよ!」
 ラムがさらにアリシアと町に向けて魔力を放とうとした。そこへブレイドが飛び込んできて、ラムを横から突き飛ばした。
「ブレイド!」
 アリシアが声を上げる先で、ブレイドがラムを押し込んでいく。
「もはや強引でしか、お前をここから引き離す方法はないようだな!」
「引っ付くな!暑苦しいんだよ!」
 言い放つブレイドにラムが怒鳴る。彼女に魔力を込めた両手を叩きつけられて、ブレイドが振り落される。
「ぐっ!」
 ラムから離れることになったブレイドだが、ラムを町から荒野に引き離すことには成功した。2人にアリシアも追いついてきた。
「ブレイド、大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫だ・・!」
 アリシアの心配の声にブレイドが答える。苛立ちを見せているラムに、2人が視線を移した。
「これでアンタらの思い通りになって、腹が立ってくるね・・・!」
 ラムがさらに全身に力を込めて、両手に金色の光が集まっていく。
「ただでさえ時間がないからね・・一気に叩き潰してやるよ!」
 ラムがアリシアとブレイドに向かって飛びかかる。アリシアとブレイドは横に動いて、ラムの突撃をかわす。
 ラムは次の攻撃の標的をブレイドに絞った。彼女の追撃をブレイドが紙一重でかわす。
(寸でのところでよけても衝撃が襲ってくる・・確実な回避をしなければやられる・・・!)
 ラムの発揮する魔力と攻撃を痛感して、ブレイドが焦りを募らせていく。
(ここは隙を突いて、一撃でねじ伏せるしかない・・巨大なパワーを使う分、攻撃も大振りになっている・・!)
 トランザムを構えて、ブレイドがラムの出方をうかがう。ラムが飛ばしてきた魔力の球を、ブレイドが大きく動いてかわしていく。
「ホラホラ!よけてばっかりだと、また町に当たっちゃうよ!」
 ラムが徐々に町へと戻りつつあった。
「どこまで無関係の者たちに危害を加えるつもりだ・・・!?」
 怒りを覚えたブレイドが飛びかかり、ラムにトランザムを振りかざす。ラムが両腕に魔力を込めて防ぐが、次の瞬間にトランザムがカートリッジロードを行う。
“Macht rand.”
 振り下ろされるトランザムの力が一気に上がる。ラムが押されて突き飛ばされるも、すぐに踏みとどまる。
「ちょっとはパワーが上がってるけど、あたしには全然だね!」
 ラムが言い放って、ブレイドに向かって一気に突っ込む。彼女が繰り出す拳を回避しようとするブレイドだが、回避が間に合わずにトランザムを盾にして受け止める。
「ぐっ!」
 そのとき、ブレイドが突然激痛を覚える。しかし彼はそれを表に出さずに耐えて、ラムとの距離を取る。
(左腕に痛みが・・町から引き離そうとして、ヤツの攻撃を受けた、あのときに・・・!)
 ブレイドが心の中で呟いて、痛みを見せないようにする。その彼にアリシアが近寄ってきた。
「ブレイド、大丈夫・・・!?」
 アリシアの呼びかけにブレイドが無言で頷く。
(実は腕を痛めた・・長期戦になれば確実に不利になる・・・!)
(そんな・・・ここは引き返したほうが・・・!)
(そんなことをすれば、ここにいる人々がアイツの犠牲になる・・引き下がるわけには絶対にいかない・・・!)
(ブレイド・・・)
 念話でブレイドと会話して、アリシアが困惑を感じていく。
「私があの人の相手をします・・ブレイドは援護を・・!」
「アリシア!」
 バルディッシュを構えてラムを見据えるアリシアに、ブレイドが声を上げる。
「私、ブレイドやヒカルに甘えていた・・いつも助けてもらってばかりだった・・でも今度は、ブレイドを私が助ける・・・!」
「アリシア・・オレのことは気にするな・・自分の身を案じて・・・!」
「ブレイドを見捨てるなんて、私にはできない・・・!」
 構わないように言うブレイドだが、アリシアは彼を守ろうとする。
「バルディッシュ、あなたもそう思うよね・・・?」
“I am your ally always.(私はいつでもあなたの味方です。)”
 アリシアが声をかけるとバルディッシュが答える。
「あの人は拘束魔法の対処が苦手・・バインドで取り押さえられたら・・・」
“She has broken bind by force.It will not be difficult if it is in the current state.(彼女は力ずくでバインドを破っています。今の状態でしたら難しくないでしょう。)”
 打開の糸口を探るアリシアに、バルディッシュが苦言を呈する。
「私たちも、油断をしたら・・・!」
「ゴチャゴチャおしゃべりしてる暇はないよ!」
 アリシアが呟いていたところで、ラムが両手に金色の光を宿して飛びかかってきた。
「2人まとめて、あたしが叩き潰してやるよ!」
 ラムが笑い声を上げながら拳を振るう。回避するアリシアに、彼女は狙いを定めた。

 ドライブチャージの訓練を続けていたヒカル。彼女は休憩を取って、椅子に腰かけていた。
「ハァ・・全然魔力のコントロールがうまくいかない・・これでちゃんと使いこなせるのかな・・・」
“It does not get impatient.Control is possible gradually.(焦ることはありません。徐々にコントロールはできてきています。)”
 ため息をつくヒカルに、カイザーが助言する。
「そうだといいんだけどね・・」
「焦りは禁物だよ、ヒカルちゃん。」
 落ち込んでいるヒカルにミュウが声をかけてきた。
「ミュウさん・・」
「使いこなせるまであと少し。あと少しだからこそ、焦らないでしっかりマスターしないとね。」
「はい・・手伝ってくれて、ホントにありがとうございます、ミュウさん・・」
 励ましの言葉を送るミュウに、ヒカルが苦笑いを浮かべてお礼を言う。
「いいって、いいって。私たちもヒカルちゃんに助けられたからね。」
 するとミュウも照れ笑いを見せる。互いに笑みをこぼして、ヒカルとミュウは小さく頷いた。
「こう言ってしまうとやらせているような感じになってしまうけど・・アリシアのこと、支えてあげてね・・」
「ミュウさん・・・」
「アリシアは天涯孤独になってしまって、ヴァンフォードに来るまではずっと1人だった・・そして今あの子は、あなたも心の支えにしている・・」
 ミュウの話を聞いて、ヒカルが戸惑いを感じていく。
「ヒカルちゃんが支えてくれれば、アリシアはずっと元気でいられると思うから・・」
「ミュウさん・・もちろんですよ。アリシアちゃんもみんなも、私が守ってみせます。」
「ありがとうね、ヒカルちゃん・・私もできる限りサポートをしていけたらと思っているわ・・」
 アリシアへの思いを口にするヒカルに、ミュウが笑顔で感謝の言葉を言った。
「それじゃ、少し休憩したらまた特訓よ。あとひと息だからこそ、油断大敵でね。」
「はい!ミュウさん、よろしくお願いします!」
 ミュウに呼びかけられて、ヒカルが笑顔で頷いた。
「ところで、アリシアちゃんはどうしたんですか・・?」
 ヒカルがアリシアにいないことに気付いて、辺りを見回す。
「そうね・・もしかしたらブレイドか誰かに用事か何か頼まれたのかな?」
 ミュウも辺りを見回すが、アリシアもブレイドも見つけられない。
「今は気にしない。ドライブチャージをうまく使えるように。」
「はい!やりますよー!」
 ミュウに呼びかけられて、ヒカルが意気込みを見せる。訓練に戻ろうとしたところで、ヒカルがまたアリシアのことを気にした。

 一気に高めた魔力を込めた拳を繰り出していくラムから、アリシアは距離を取っていく。アリシアは光の矢を放ってけん制しながら、バインドの仕掛けとタイミングを計っていた。
「いつまでもコソコソ逃げ回って・・おとなしくあたしに叩き潰されろ!」
 ラムが叫んでさらに拳を振るう。放たれる魔力の塊も、アリシアは全力で回避していく。
「バインドを仕掛けて、誘い込んであたしの動きを封じようっていうつもりなんだろうけど・・」
 言いかけるラムが手足にリングバインドをかけられて動きを止められる。するとラムが両腕に力を入れる。
「こんなことであたしを止められないのが、分かんないの!?」
 手足にかけられているバインドを強引に吹き飛ばしたラム。それでもアリシアはバインドの設置や攻撃魔法の発動を続けていく。
「しつこくしてきて・・イライラさせる!」
 ラムがいら立って、両手だけでなく全身に魔力の光をまとう。不敵な笑みを浮かべてから、彼女がアリシアの前に回り込んできた。
「今度はよけられないよ!だってよけたら、町はどうなっちゃうのかな~?」
 あざ笑ってくるラムの前で、アリシアが焦りを浮かべる。彼女の後ろには襲撃を受けた町がある。
「本気になったあたしの力を受けたら、あそこは間違いなく跡形もなくなるね・・!」
「どうして・・自分のために関係ない人や場所を傷つけるの・・・!?」
 アリシアがラムに対して憤りを感じていく。
「みんなあなたには何もしていない・・ただ平和に、安心して暮らしていたいだけ・・」
「それこそ関係ないね!あたしがストレス解消ができればそれでいいんだよ!」
 目つきを鋭くするアリシアを、ラムがあざ笑ってくる。
「そんなわがままで誰かを傷つけるのを、私は許さない・・・!」
「許してもらおうなんて思っちゃいないよ!アンタはあたしに叩き潰されるんだからね!」
 バルディッシュを構えるアリシアと、全身に魔力の光を放出していくラム。
「行くよ、バルディッシュ・・ハーケンセイバー!」
“Haken saber.”
 アリシアがバルディッシュを振りかざして、三日月状の光の刃を放つ。
「そんなものであたしをどうにかできると・・!」
 ラムが光の刃を拳で打ち砕こうとした。だがその瞬間、彼女の手足にバインドが仕掛けられた。
「だからそんなものであたしを止められないって!」
 ラムがまたしてもバインドを力任せに打ち破った。だがそのために光の刃への対応が遅れた。
 アリシアが放った光の刃が、ラムの体を切りつけた。
「うっ!」
 切られてラムが顔を歪めて、体勢を崩す。彼女はふらつきながら地上に落下していく。
「もうやめて・・おとなしくしてくれたら、これ以上傷つけるようなことはしないから・・・」
「傷つける?あたしはピンピンしてるよ!」
 悲しい顔で呼びかけるアリシアに、ラムが不敵な笑みを見せてきた。
「魔力ダメージだけに設定したみたいね・・痛かったけど、それであたしを止められるわけないっての!」
 ラムがまた全身から魔力を放出して、アリシアに飛びかかってきた。
“Defensor.”
 バルディッシュが金色の光の壁を展開して、アリシアを守ろうとする。が、ラムの拳は簡単に光の壁を打ち破った。
 その直後、ラムの魔力を込めた打撃がアリシアに命中した。アリシアは激しく突き飛ばされて、地上に叩き落とされた。
「アリシア!」
 ブレイドが声を上げて、アリシアに駆けつける。アリシアは意識を失ってしまい、バルディッシュも損傷を被っていた。
「アリシア、しっかりしろ!アリシア!」
 ブレイドが呼びかけるが、アリシアは目を覚まさない。
“Her life is not in danger.I cannot exhibit a function perfectly.(彼女の命に別状はありません。ですが私は機能を万全に発揮することができません。)”
 バルディッシュがブレイドに呼びかける。しかし損傷による影響のためなのか、音声に若干ノイズが混じっていた。
(アリシア・・バルディッシュ・・・このままではオレたちは敗れることになる・・この世界を見殺しにするしかないのか・・・!?)
 自分たちとこの世界、どちらを守るべきか迷い、ブレイドが苦悩する。
(今のオレたちの力がヤツには歯が立たないが、逃げることはできる・・だがこの世界は確実にヴァンフォードに攻め込まれる・・・!)
 どちらの選択が最善なのか、ブレイドは迷いを抱いていた。
「ブレイド・・・ヒカル・・・」
 眠っているアリシアの呟き。彼女の声を耳にして、ブレイドが気分を落ち着かせようとする。
(アリシア・・アリシアなら、答えは決まっているか・・)
 アリシアに笑みを浮かべてから、ブレイドがラムに目を向ける。
(オレたちに危険が及ぶことは分かりきっている・・本当は撤退するのが賢明なのだろうが・・・)
「見殺しにするほど、オレは薄情ではないようだ・・・!」
“Das ist richtig.(その通りです。)”
 ブレイドが口にした決意に、トランザムも答える。
「そろそろドデカい花火でもやるとするか・・!」
 ラムが高らかに言い放つと、全身に宿っている魔力の光を集中、強化させていく。
「まさか、アレを撃ち込むつもりか!?・・あんなものが放たれたら、あの町は確実に・・・!」
 緊迫を募らせて、たまらず身構えるブレイド。だがトランザムを構えた瞬間、ブレイドは痛めた腕に痛みが走る。
(このようなときに・・少しだけ持ってくれ・・・!)
 自分の体に言い聞かせるように、ブレイドが耐えてラムの攻撃を阻止しようとする。だが彼の体は彼の思ったように動かない。
「邪魔してくるなら来てもいいよ!一緒に吹っ飛ばしてやるからさ!」
 ラムがブレイドに言い放って、さらに魔力を集中させて強くしていく。
「みんなまとめて花火になっちゃいな!」
 ラムが町に向かって魔力を放とうとした。
 そのとき、ラムが突然横から突き飛ばされた。その拍子で彼女は集中させていた魔力を拡散させてしまう。
「な、何だ、今のは・・!?」
 突然のことにラムが声を荒げて振り返る。ブレイドも驚きを感じながら振り向いた。
 この世界にヒカルが現れた。彼女が突撃して、ラムを突き飛ばして町への攻撃を阻止したのである。
「ヒカル・・なぜ、ここに・・・!?」
 ヒカルの登場にブレイドが驚きの声を上げる。
「遅くなりました!ここからは私があの子を止めます!」
「ヒカル、ドライブチャージシステムは・・!?」
 呼びかけるヒカルにブレイドが呼びかける。するとヒカルが微笑んで頷いた。
「大丈夫です!バッチリ特訓してきました!」
 ラムに視線を向けて、ヒカルが両手を握りしめて集中力を高める。
「お前、この前の・・けど今のあたしは、あのときのあたしじゃないんだよ!」
 ラムがヒカルにいら立ちを見せて、両手に魔力の光を灯す。
「それは私も同じだよ・・もう私は誰も傷つけさせないし、誰も悲しませたりしない・・・!」
“Unreasonableness is a prohibited thing.Because free is large as for a burden.(ですが無理は禁物です。ただでさえ負担が大きいのですから。)”
 決意を口にするヒカルにカイザーが注意を呼びかける。
(分かっているよ、カイザー・・!)
 ヒカルが念話でカイザーに答える。
「気を付けろ、ヒカル!ヤツは魔力を格段に上げている!かすめただけでもダメージは大きいぞ!」
 ブレイドがヒカルに向けて呼びかける。
(カイザー、あの魔力に私が勝てると思う・・・!?)
“A burden also becomes large although it is possible enough.We cannot not much recommend you a front match.(十分可能ですが、負担も大きくなります。真っ向勝負はあまりお勧めできません。)”
 ヒカルの問いかけにカイザーが苦言を込めて答える。
(不可能じゃないんだね・・危なっかしいけど、ここはやるしかない・・・!)
 危険を承知でヒカルはラムに真正面から立ち向かおうとしていた。
「そんなにやられたいってか!?そのほうがあたしが納得するけどね!」
 ラムがいきり立って、ヒカルに向かって魔力を放出してきた。
「みんなを傷つけさせない!」
 ヒカルが左手に意識を集中する。
“Drive charge.”
 カイザーが魔力を集中させて、ヒカルもその魔力を左手に込める。
「グランドインパクト!」
 左手の魔力を右の拳で解き放つヒカル。その衝撃がラムが放った魔力を押し込んでいく。
「なっ!?」
 全開してる自分の力が押されていることに驚愕するラム。ヒカルの打撃がラムの魔力を跳ね返して、虚空へと吹き飛ばした。
「あたしの・・あたしのこの力が・・・!?」
 自分の力が跳ね返されたことに、ラムは驚愕を隠せなくなる。
「認めない・・今のあたしが負けるなんて、絶対に認めない!」
 ラムが怒りを爆発させて、ヒカルに向かって膨大な魔力を解き放とうとした。ヒカルがとっさに構えて、ラムを迎え撃とうとする。
“Multiple use of drive charge is a prohibited thing.A burden bends over the body.(ドライブチャージの多用は禁物です。負担が体にのしかかります。)”
(でも、アレを止めないと、アリシアちゃんやブレイドさん、後ろの街が被害に・・!)
 カイザーが注意を呼びかけるが、ヒカルはアリシアを守るために引き下がろうとしない。
「みんなまとめて、花火にして・・!」
 ラムが完全に開放した魔力を放とうとした。
 次の瞬間、ラムは体に電撃が走ったような衝撃に襲われた。彼女は意識を失って、開放されていた魔力が消失した。
「えっ!?」
 突然のことにヒカルも驚きを覚える。さらに落下しかかったラムが姿を消した。
「消えた!?・・いなくなった・・・!?」
“Magic is not felt for the circumference.It seems to have transferred.(周囲に魔力は感じられません。転移した模様です。)”
 辺りを見回すヒカルにカイザーが呼びかける。
「転移した・・いや、何者かに転移されたというのが正しいか・・」
 そこへブレイドがアリシアを抱えて飛翔してきた。
「ブレイドさん・・アリシアちゃんは大丈夫ですか・・・!?」
「アリシアは気絶しているだけだ。心配はな・・くっ・・!」
 ヒカルに答えたところで、ブレイドが腕の痛みを感じて顔を歪める。
「ブレイドさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫・・とは言えないな・・」
 ヒカルの心配の声に答えるも、ブレイドは痛みを隠せなくなっていた。
「ここはもう大丈夫だろう・・君のことは戻ってから聞くことにしよう・・」
「はい・・」
 ブレイドに言われてヒカルが頷く。彼女はアリシアが無事ということをもう1度確かめてから、ブレイドと一緒に戻っていった。


次回予告

新たなる力。
新たなる戦い。
ロードサイドとヴァンフォードの衝突は激しさを増していく。
そのさなか、束の間の休息で日常に戻るヒカル。
そこで始まる新たなる交流。

次回・「つながり」

少女が目にする思い・・

 

 

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