Drive Warrior Gears

Episode06「守るべきもの」

 

 

「ありがとうございました。またお越しくださいませー。」
 ヒカルとカレンが挨拶をして一礼した。体力が回復し、魔力も回復しつつあるヒカルは、レストランでの仕事をこなしていた。
「ふぅ・・問題なく仕事ができてる・・ごめんなさい、カレンさん・・迷惑かけちゃって・・」
「いいえ。私のほうが全然うまく仕事ができていないです・・これからもご指導お願いします、天宮先輩・・」
「いいよ、いいよ。ヒカルって呼んでくれたらいいよ。」
「そうですか・・ではヒカルさん、改めてよろしくお願いします。」
 苦笑いを見せるヒカルに、カレンが一礼した。
「ちょっとー!ヒカルさんとはあたしがサポートしていくんだからー!」
 そこへリオが飛び込んできて、ヒカルに声を上げてきた。
「ヒカルさん、これからもここの仕事、頑張っていきましょうね!あたし、いつも全力で行きますから!」
「リオちゃん、そんなに張り切らなくても・・」
 意気込みを見せてくるリオに、ヒカルが苦笑いを見せる。
「あまり天宮さんを困らせるのはどうかと思うよ、2人とも・・」
 さらにアスカがやってきて、カレンとリオに声をかけてきた。
「私は別に困らせようとは・・」
「そうだよ!一緒に張り切って頑張ろうって言っただけだって!」
 カレンとリオがアスカに向けて不満の声を上げる。
「だいいちアスカ、アンタ不気味なんだよ!そんなんじゃお客様が怖がっちゃうじゃないか!」
「しょうがないよ・・これが私なんだから・・・」
 さらに文句を言うリオだが、アスカは暗い雰囲気を変えようとしない。
(こっちも大変なことになってるみたいだね・・・)
 ヒカルはカレンたちのやり取りを見て、ただただ苦笑いを浮かべるばかりになっていた。

 この日の仕事を終えて、ヒカルは自分の部屋に戻ってきた。1日の仕事をやり終えて、彼女は大きく背伸びをした。
「ふぅ・・今日も大変だったよ~・・」
 1日の仕事に加えて、カレンたちの相手をして、ヒカルは疲れを感じていた。
“Work here is also getting used.It is also the exchange with you.(ここでの仕事も慣れてきていますよ。みなさんとの交流もです。)”
(そうだといいんだけどね・・・)
 カイザーが励ましの言葉を送ると、ヒカルが苦笑いを浮かべる。
(カイザー、私の体は大丈夫かな?・・私としてはもう大丈夫になっていると思うんだけど・・・)
“The body and magic are recovered completely.Although using magic itself does not have a problem,cautions are required before getting used to the present magic.(体も魔力も完治しています。魔法を使用すること自体は問題はありませんが、今の魔法に慣れる前は注意が必要です。)”
 ヒカルの問いかけにカイザーが答える。
(だったら慣れるように練習してみよう。練習していけば、今の魔法に耐えられるようになると思うから・・)
“If it comes out and carries out,let's have you of a Road-side attend.Since I do not have full knowledge of all these magic, either.(でしたらロードサイドのみなさんに立ち会っていただきましょう。私もこの魔法の全てを熟知しているわけではありませんので。)”
 呼びかけるヒカルにカイザーが助言を呈する。
(そうだよね・・グラン式ドライブチャージシステム・・ちゃんと覚えないと・・・!)
“I will also cooperate.(私も協力させていただきます。)”
 意気込みを強めるヒカルをカイザーが励ます。
 そのとき、ヒカルの持っていた携帯電話が鳴り出した。かけてきたのは、
(ミュウさん・・・!)
 ヒカルは当惑を感じながら、ミュウからの電話に出た。
“もしもし、ヒカルちゃん。どう?体の具合とか大丈夫かな?”
「はい。私としても大丈夫ですし、カイザーも回復していると言っています。」
“そう。でも1度チェックさせてもらってもいいかな?体もデバイスも自分だけでは分からないこともあるから・・もちろんあなたたちのことを信じていないわけではないから・・”
「分かっています・・明日は仕事がないから、そっちへ行きます。」
“それならあなたの家の近くで待ち合わせましょう。私と・・アリシアが迎えに行くから。”
 ミュウと会う打ち合わせをするヒカル。彼女はアリシアの笑顔を思い浮かべていた。

 ヒカルとの連絡を終えて、デバイスのチェックをするミュウ。彼女のいる研究室にブレイドがやってきた。
「ヒカルに連絡を取ったのか・・」
「えぇ。明日に待ち合わせをしてからこっちに連れてくる。体とカイザーのチェックをするわ。」
「グラン式ドライブチャージシステムが、ヒカル自身に完全に適合しているのか。今後使っていって負担が出てくるのか・・」
「でも問題が発覚しても、ドライブチャージシステムを外すことはできないわ。彼女はカイザーによって生存していて、今はカイザーはドライブチャージシステムを組み込まれることで活動している。取り外すことはできないわ・・」
「デバイスであり命であるか・・大変なものを背負っているのだな、ヒカルは・・」
 ミュウからの話を聞いて、ブレイドが深刻さを募らせていく。
「ヒカルさんはベルカ式デバイスであるカイザーを埋め込まれた戦闘機人として改造された。埋め込んだ相手との戦いは、私たちとしてもとても軽視できるものではないわ・・」
「そうだな・・アリシアも、いや、ロードサイドの誰もがそう思うところだろう・・」
 ミュウの言葉にブレイドが同意する。
「命を弄ぶ存在は、ヴァンフォードだけではなかった、ということだ・・」
「今はヴァンフォードが相手になっているけど、私たちの戦いは、ヴァンフォードを倒せば終わりということではないのね・・」
「だがヴァンフォードを倒せば、ひと段落するのも確か・・」
「そのために、アリシアやヒカルさんを巻き込んでいる・・悪者ね、私たち・・・」
 ブレイドと話をしていくうちに、ミュウがアリシアとヒカルに対して罪悪感を感じていく。
「2人とも自分から私たちに力を貸したいと言ってきているけど・・それでもあの子たちに戦いをさせているのが辛い・・」
「いつか償いと感謝をしないといけないな・・もっとも、オレはお前よりその方法が少ないが・・」
 ヒカルとアリシアに対する謝意と苦悩を募らせていくミュウとブレイド。
「ヴァンフォードはまだ動きを見せていない。もっとも、ヤツらが表立って動きを見せることは少ないが・・」
「その間に万全を期すわ。もちろんヒカルさんとカイザーの状態もきちんとチェックするわ。」
 ミュウとの会話を終えて、ブレイドが彼女の技術室を後にした。
(オレが、オレたちが決着を付けなければならない・・アリシアたちに負担をかけないためにも・・・!)
 ヒカルとアリシアへの気遣いを胸に、ブレイドはヴァンフォードとの次の戦いに備えるのだった。

 そして翌日、ヒカルはミュウに言われた場所に来た。その海沿いの広場にはアリシアがいた。
「アリシアちゃん・・アリシアちゃんが来てくれたんだね・・」
「うん・・ミュウさん、手が離せなくて・・私がわがままを言ったのもあるけど・・」
 ヒカルが声をかけると、アリシアが微笑んで答えてきた。
「体の調子はどう?・・どこかおかしいのを感じたりしない・・?」
「うん。疲れも取れたし魔力も回復したし、魔法を使うには問題ないよ。」
“I am not abnormal, either.(私も異常はありません。)”
 アリシアの心配の声に、ヒカルに続いてカイザーも答える。
「行こう、ヒカル・・ミュウたちが待っているよ・・」
「うん。行こう、アリシアちゃん。」
 声を掛け合うアリシアとヒカル。遠くのロードサイド本部にいたミュウが、空を見上げた2人を本部に転移させた。

 ロードサイド本部に来たヒカルは、早速ミュウによる身体チェックを受けることになった。
 体の状態や魔力の循環、カイザーとの連動性など、あらゆる部分をチェックされていった。
「全てのチェックが終わったわ。体も魔力も問題なし。カイザーとの連動もスムーズよ。」
“Thank you.Abnormalities are not perceived as me.(ありがとうございます。私としても異常を感知していません。)”
 ミュウが報告をすると、カイザーも自分の状態を告げてきた。
「あとは今の状態のあなたが、どれだけドライブチャージシステムを使いこなせるかね・・」
「ドライブチャージ・・この前使ったんですけど、勝手が違うみたいですね・・」
「えぇ。ドライブチャージシステムを扱うグラン式は、近代ベルカ式と二分する、ミッドチルダ式と古代ベルカ式、2つの魔法術式の特徴を合わせた術式だからね。」
「グラン式・・近代ベルカ式・・・」
 ミュウの説明を聞いて、ヒカルが戸惑いを感じていく。
「グラン式は自分の魔力を集中させて、弾丸を打ち出すように解き放つのが特徴よ。」
“Although I had loaded with the bullet of magic before, your intention and your magic are more needed after this.Probably,it will be better to have been informed if consumption of magic becomes intense more than former.(以前は私が魔力の弾丸を装てんしていましたが、これからはあなたの意思、あなたの魔力がより必要になってきます。今まで以上に魔力の消耗が激しくなると心得たほうがいいでしょう。)”
 ミュウが説明を語りかけると、カイザーもヒカルに注意を促す。
「ここは初心に帰ってみること。初めて魔法を使って、問題なく自由に使いこなせるように地道に練習してみよう。」
「ミュウさん・・すみません、私たちのためにそこまでしてくれて・・・」
「いいのよ、気にしなくて。むしろ私たちがあなたを巻き込んでしまったようなものだから・・・」
 申し訳ない気持ちを感じるヒカルに、ミュウが弁解を入れる。
「ヒカルさん、今は自分が手にしている魔法を自分のものにすることが先決よ。使い方を理解しないまま、不本意に力を使って暴走させてしまうのはよくないからね。」
“I would also like to help as much as possible.(私もできる限りお手伝いしたいです。)”
 ミュウがグラン式、ドライブチャージシステムについてヒカルに教えることを進言して、カイザーも助言を告げる。
「ミュウさん・・カイザー・・はい。やってみます。」
 ヒカルが気を引き締めて笑みを見せた。
「それじゃ早速やってみます。よろしくお願いします。」
「張り切っているわね。それじゃこっちに来て。」
 意気込みを見せるヒカルを、ミュウがロードサイドの訓練場に案内した。
「ここなら魔力が外にもれることはないから、ヴァンフォードに感づかれることはないわ。」
 ミュウが声をかけると、ヒカルがこれから訓練することに対して緊張を感じていく。
“Please relax.Because what is necessary is just to carry out mental attitude like usual practice.(リラックスしてください。いつもの練習のような心構えをすればいいのですから。)”
「カイザー・・うん・・そうだね・・いつも通りやればいいよね・・」
 カイザーからの助言を受けて、ヒカルが微笑んで頷いた。
「よろしくお願いします!厳しくして構いません!」
「こちらこそよろしくね、ヒカルさん。あまり気を張り詰めすぎるのもよくないから、気楽になろうね。」
 意気込みを見せるヒカルにミュウが言いかける。
「まずはゆっくりと魔力を集中させていく練習をしましょう。それがドライブチャージの基礎になるから。」
「分かりました。やってみます。」
 ミュウの言葉を受けて、ヒカルが目を閉じて意識を集中させる。
“It may be difficult to treat magic well with feeling like former.Please take care.(今までのような感覚では魔力をうまく扱うのが難しいかもしれません。気を付けてください。)”
 カイザーからの注意がヒカルの頭の中に届く。ヒカルは慎重に魔力を集中させようとする。暴走してしまったときにすぐに魔力を抑えられるように。
(ゆっくり・・じっくり・・魔力を集めていく・・・)
 ヒカルが両手の中に魔力を集中させていく。手の中に小さな光が現れる。
(魔力を集中させる・・前のときよりも感じが全然違う・・・)
 カイザーがドライブチャージシステムを組み入れる前と後では、魔力を扱う感覚がまるで違うことを思い知らされるヒカル。うまく扱おうとすればするほど、彼女の集中が揺らいでいく。
「いけない!魔力を消して!」
 そこへミュウが呼びかけて、反応したヒカルがとっさに集めていた魔力を消した。その反動で彼女が押されてしりもちをつく。
「うわっ!」
「大丈夫、ヒカルさん!?」
 驚きを見せているヒカルにミュウが駆け寄る。驚きのあまり、ヒカルはミュウの声に反応するのが遅れた。
「は、はい、大丈夫です・・いきなり声をかけられたものだから、ビックリしちゃって・・」
「ムリはしないで、ヒカルさん・・落ち着いて順序よくやればいいから・・」
「はい・・思っていたより全然難しいですね・・・」
 ミュウに励まされて、ヒカルが苦笑いを見せた。
「オレは少しここを外す。また戻ってくる。」
 ブレイドがヒカルとミュウに声をかけてきた。
「別にコソコソ隠れていなくても、悪いようには思われないぞ。」
 廊下に出たブレイドが、隠れていたアリシアとウィッシュをつまみ出した。
「ブレイド・・でも、恥ずかしくて・・・」
「隠れながら見守っていても、別にいいでしょう・・・?」
 気弱に言いかけるアリシアとウィッシュに、ブレイドが肩を落とした。
「勝手にしろ。見つかってもオレは助けないけどな・・」
 ブレイドはため息をついてから、2人の前から去っていった。
「ヒカルさん、頑張っているみたいですね・・」
「うん・・ヒカルさんなら、新しく手に入れた魔法も使いこなせるはずだよ・・私は信じて待つことにするよ・・」
 ウィッシュが声をかけると、アリシアが微笑んで答える。
「アリシア、ヒカルさんのことが好きなんだね・・アリシアのヒカルさんを見ている様子を見ていて分かるよ・・」
「そんな、ウィッシュ・・私は、あの人に助けてもらったから・・・」
 ウィッシュが微笑みかけると、アリシアが動揺をあらわにする。
「それに、私がヒカルさんを巻き込んでしまったから・・・」
「アリシア・・アリシアのせいじゃない・・ヴァンフォードが攻めてきたから・・・」
「そのヴァンフォードとの戦いに、私はヒカルさんを巻き込んでしまった・・もう取り返しがつかない・・」
 ウィッシュが励ますが、アリシアはヒカルを巻き込んでしまった自分を責めていた。
「ヴァンフォードは1度目を付けた相手をどこまでも狙ってくる・・ヒカルさんも、もう・・」
「アリシア・・それは、アリシアのせいじゃない・・ヴァンフォードが狙ってくるから・・・」
 苦悩を深めていくアリシア。ウィッシュが励ましの言葉を投げかけるが、アリシアは元気を取り戻すことができないでいた。

 いら立ちを抱えていたラムは、ストレス解消のために別の世界へ向かっていた。彼女の後ろには数人の兵士たちがついてきていた。
「あたしが魔力を持ってるヤツを片っ端から叩きのめすわ。死ななかったらそれなりに見込みがありそうだから、連れてって調べちゃって。」
「分かりました。」
 ラムが気の抜けた態度を見せて言いかけて、兵士の1人が答える。
「それじゃ、あたしを満足させてよね・・・!」
 ラムが笑みを強めて、中央に城がそびえ立つ街に向かっていった。彼女が両手に光の球を作り出して、街の建物に向かって放り投げた。
「キャアッ!」
 街が襲われて、住んでいた人々が悲鳴を上げて逃げ出していく。
「さぁ、あたしのストレスを発散させてくれるヤツ、さっさと出てきなさいよね!」
 ラムが呼びかけて、さらに光の球を街に放っていく。彼女は強い相手が来て、それを倒してストレスを解消しようとしていた。
 そんなラムの前に3人の男たちが飛翔してきた。
「出てきたね・・ちょっとはあたしを納得させてよね・・・!」
 ラムは笑みを見せて、男たちに向かっていった。

 ドライブチャージの扱いに苦労するヒカル。うまく魔力を集中させることができず、疲れ切ってしまった。
「ふぅ・・全然うまくいかない・・カイザーを体に入れたときは、それからそんなに時間をかけないでできてたことなのに・・」
 ヒカルが訓練がうまくいかないことに気まずくなっていた。
“It is rare to make anything suddenly infinite.It succeeds only after repeating practice.(どんなこともいきなりできることは限りなく少ないです。練習を繰り返して初めて成功するものです。)”
 カイザーがヒカルに励ましの言葉を送る。
「ありがとう、カイザー・・時間がたっぷりあったら、ホントに地道にコツコツと練習を積み重ねていけたのに・・」
 カイザーに感謝の言葉を口にして、ヒカルが現状を思い浮かべていく。
「ヴァンフォードは今もどこかで、誰かを襲ってる・・そう思うと・・」
「ヴァンフォードを止めるのは、ヒカルちゃんだけじゃないよ。」
 不安を募らせているヒカルに、ミュウも声をかけてきた。
「ブレイドもアリシアちゃんも、魔力のレベルは高いほうよ。私も護身程度だけど、魔法は使えるわ。」
「ミュウさん・・でも、それでも私は・・・」
「その気持ちはとても嬉しいわ。きっとアリシアも喜んでくれる・・でも少しぐらいは私たちを信じてもらえないかな・・?」
「ミュウさん・・信じていないわけじゃ・・・」
「あなたのわがままでやってみてもばちは当たらないと思うわ・・」
 ミュウにも励まされて、ヒカルは戸惑いを募らせていく。
「私、みなさんにさらに迷惑をかけてしまっても・・・」
“Let's listen to what you say here.After you of your present thing are more detailed than you and I.(ここはみなさんの言うことを聞いておきましょう。今のあなたのことは、あなたと私よりもみなさんのほうが詳しいですから。)”
 困惑していくヒカルにカイザーが呼びかける。ヒカルはカイザーやミュウの言う通りにすることにした。

 ヴァンフォードの動きを常に捉えようとしていたロードサイド。ウィザードとウィッシュが扱うレーダーが、強い魔力の反応を示した。
「いたよ!これはあの暴れん坊の魔力だよ!」
 ウィザードが声をかけると、ブレイドもレーダーをチェックする。
「ここから距離は近いですね・・みんなにも知らせて・・」
「いや、ヒカルとミュウには知らせるな。今は慌ただしくせずにヴァンフォードを打ち倒す。」
 警報を鳴らそうとしたウィッシュを、ブレイドが呼び止めた。
「今はヒカルはドライブチャージの訓練をしている。ヴァンフォードが現れたことを知れば、訓練をやめて現場に行くことになる。」
「まだドライブチャージをうまく使えない状態でヴァンフォードと戦ったら・・・」
 まだドライブチャージの訓練中のヒカルに、ブレイドとウィッシュが不安を感じていく。
「だったらヒカルだけに秘密にしておけばいいじゃん。何でミュウにまで・・?」
「ヒカルはどうやら勘が鋭いようだ。ミュウがこのことを知っていたら、どこかで気づいてしまうことになるだろう・・」
 疑問を投げかけるウィザードに、ブレイドが答える。彼はあくまでヒカルに知らせないように気を回していた。
「だからヒカルはもちろん、ミュウにも知らせない。ここは内密に対処に当たる。」
「分かりました。アリシアにもそのように伝えておきます。」
 ブレイドの言葉にウィッシュが頷いた。
「後で2人が文句言ってきても、あたしは知らないからね。」
「分かっている。2人の文句はオレが引き受ける。アリシアにこのことを伝えるのもな・・」
 不満げに言いかけるウィザードに答えてから、ブレイドは部屋を出た。その廊下でアリシアと会った。
「アリシア・・丁度よかった。一緒に来てくれ。」
「何かあったの・・?」
 声をかけるブレイドにアリシアが問いかける。
「移動しながら話す。戦闘になる。」
「もしかして、ヴァンフォードがまた・・」
 アリシアが言いかけるのを、ブレイドが口元に指を当てて静かにさせる。2人は言葉を交わすことなく、外に飛び出した。
(ここまで来れば、念話を聞かれることもないだろう・・)
 ブレイドが念話でアリシアに話を切り出した。
(またヴァンフォードが破壊活動を行っている。ヒカルに悟られたくなかったので、彼女にも、彼女のその場にいるミュウにも知らせたくなかった・・)
(そうだったんだね・・私も、ヒカルさんには今は訓練に集中していてほしい・・そのために私が・・)
 ブレイドと念話を交わして、アリシアがバルディッシュを手にする。
「行くぞ、アリシア。ここまで来たなら、一気にヴァンフォードのいる世界に向かうぞ。」
「うん・・・!」
 ブレイドの呼びかけにアリシアが頷く。2人はウィザードがコンピューター操作で行った転移魔法を駆使して、ラムたちのところへ向かった。
(私が頑張らないと・・私がヒカルさんを守らないと・・・)
“Assault form.”
 バルディッシュを起動させて手にするアリシア。彼女はブレイドとともに、ラムたちが襲撃している世界に向かった。

 ラムの襲撃によって街の中心地は壊滅的な被害を被っていた。この世界での強者3人が迎え撃ったが、ラムの魔力と打撃によって撃退されてしまった。
「こんなもんなの?こんなんじゃやっぱりストレス解消にはほど遠いっての!」
 物足りなさを感じて、ラムが不満を見せる。しかし彼女はすぐに笑みを見せてきた。
「でもアンタらぐらいなら、マスター・コスモの生贄にしてもいいかもね・・ちょっとついてきてもらうよ。言っとくけど刃向かうともっとボコボコにするからね。」
 ラムは言いかけると、男の1人を引っ張っていく。
 そのとき、ラムが小さな石を当てられた。目つきを鋭くして、ラムが石の飛んできたほうに振り向く。
 その先には柱の陰に隠れて震えている1人の少年がいた。
「あたしにこんなマネしてくるなんて・・そんなにあたしをイラつかせたかったの・・・!?」
 ラムは男を放してから少年に近づいていく。少年が怯えてラムから逃げ出していく。
「その上やり逃げ?・・あたしをバカにすんのもいい加減にしてよね!」
 不満を膨らませたラムが少年を追いかける。必死で逃げようとする少年だが、ラムにすぐに回り込まれてしまう。
「あたしにはイヤなことが多いの。ものをぶつけられるのも、鬼ごっこで自分が鬼になるのも・・」
 睨みつけてくるラムに、少年が怖がってしりもちをついてしまう。
「でも痛めつけたり壊したりするのは大好きなの・・1番のストレス解消になるからね・・・!」
 ラムが右手に魔力を集中させて構える。少年は怯えて、悲鳴を上げることもできなくなっていた。
 そのとき、ラムの手足が突然出現した光の輪に押さえられた。
「バインド!?」
 電撃のバインド「ライトニングバインド」に手足を拘束されて、ラムがうまく。彼女の前をアリシアが通り過ぎて、少年を抱えて安全な場所に運んだ。
「大丈夫・・・!?」
「う、うん・・・あ、ありがとう・・・」
 アリシアが声をかけると、少年が戸惑いを感じながら答える。
「ここを離れて、安全な場所へ逃げて・・」
「うん・・・」
 アリシアに呼びかけられて、少年は笑顔を取り戻して走り出していった。彼を見送ってから、アリシアはラムに視線を戻して真剣な面持ちを浮かべる。
「ホントにしつこいね、小娘・・お前もあたしをそんなにイラつかせたいの!?」
「だとしても、お前がそのストレスを解消することはもうない。」
 怒鳴りかかるラムの前に、ブレイドも姿を見せてきた。ブレイドがトランザムの切っ先をラムに向けてきた。
「このままついてきてもらうぞ。そしてヴァンフォードのことを話してもらう。」
「ふざけてるね・・イライラしてるとこにこんなことして、その上お前らの言いなりになるなんて死んでもイヤなこった!」
 言いかけるブレイドに怒鳴り返して、ラムが手足に力を込める。
「ムダだ。お前は魔法効果の体性が弱い。力ずくで破ることなど無謀としか・・」
 ブレイドがラムに向けて言いかけていたところで、ラムが手足にかけられていたバインドを強引に引きちぎった。
「えっ・・!?」
 思っていなかったことにアリシアが驚く。バインドを打ち破ったラムが不敵な笑みを見せてきた。
「今までのあたしと思ったら大間違いだよ・・!」
 構えを取るラムの両手に魔力の光を宿す。
「今度はアンタたちが、あたしにボコボコにされる番だよ!」
 ラムが目を見開いて、アリシアとブレイドに飛びかかっていった。


次回予告

助けてもらったこと。
助けられなかったこと。
ヒカルに対する様々な思いが、アリシアの中で駆け巡っていく。
交錯する思いの中、アリシアが見出したものは?

次回・「心の雷鳴」

金色の光が導く未来・・・

 

 

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