Drive Warrior Gears

Episode03「ロードサイド」

 

 

 様々な魔法世界の人々が集まって結成された特殊チーム「ロードサイド」。彼らはヴァンフォードによる暗躍の阻止に全力を注いでいた。
 そのロードサイドが秘密裏に設けた施設に、アリシアとブレイドはヒカルを連れて帰還した。
「アリシア、ブレイド、戻ったんだね・・」
 レモン色の髪の少女、キャミィが現れて、アリシアたちに駆け寄ってきた。
「あれ?その人は・・?」
 キャミィがヒカルに目を向けて問いかけてきた。
「すぐに治療を試みる。状態は深刻だ・・」
「分かりました・・すぐに治療を!」
 キャミィは走り出して、治療の準備に向かう。アリシアたちも彼女の後を追うように走っていった。

 ロードサイドの診察機にかけられて、ヒカルは状態を調べられていた。彼女のいる診察室を窓越しで見守っている女性がいた。
 ミュウ・ハイラックス。ロードサイドで医療と開発を行っている。
 深刻な表情を浮かべているミュウに、アリシアが姿を見せてきた。
「この人、助かりますか・・・?」
 アリシアが心配の声をかけると、ミュウが首を横に振った。
「アリシアたちの不安通りだったわ・・彼女、デバイスが破壊されていて、生命活動が止まっている・・」
「そんな・・・」
 ミュウの口にした言葉を聞いて、アリシアが困惑を膨らませる。
「彼女は体内に植え付けられているデバイスによって生命活動を行っている。そのデバイスが損傷して、その活動が止まってしまった・・」
「それならデバイスを直せば、この人を助けることも・・」
「デバイスは精密に彼女の体に組み込まれているのよ。わずかのずれでも、そのわずかの蘇生の可能性をつぶすことになる・・」
 助ける方法を見出そうとするアリシアに、ミュウが深刻さを込めて言葉を返していく。
「迅速かつ慎重な処置が必要となるわね・・悪いけど出ていってもらえるかしら?集中しないといけないから・・」
「ミュウさん・・・分かりました・・お願いします・・・」
 ミュウに言われて、アリシアは心配を抱えたままこの場を離れた。
(アリシアにあそこまで心配されちゃうなんて・・本当にいい人なのね・・・)
 心から心配してくるアリシアの思いを汲み取って、ミュウがヒカルを見つめて微笑みかける。
(可能性が低くても何とかしないと・・アリシアに嫌われちゃったらイヤだし・・)
 ミュウは気を引き締めて、ヒカルを蘇生させる方法を必死に探ることにした。

 その頃、ブレイドはロードサイド施設内の管制室を訪れていた。そこにはオペレーターを行っている双子の姉妹、ウィザード・エキスパートとウィッシュ・エキスパートがいた。
「ヴァンフォードの動きはどうなっている?」
「目立った動きは見せてないみたい。向こうも魔力を消耗したってところかな・・」
 声をかけてきたブレイドに、ウィザードが気さくに答える。
「ブレイドとアリシアが連れてきた人、ヴァンフォードの戦士じゃないの?アリシアを助けたのだって、あたしたちを一網打尽にするために仕組んだ罠じゃないの?」
「あれでもアリシアは人を見る目はある。もしも自分たちを陥れようと考えているなら、あれだけ助けようとはしないだろう・・」
 ヒカルに疑いをかけるウィザードに、ブレイドが冷静に言葉を返す。
「私たちと、友達になれるかな・・?」
 ウィッシュが気弱に問いかけてきた。
「今は予断を許さない状態だ。回復する可能性が極めて低い・・」
 ブレイドの言葉を聞いて、ウィッシュが悲しい顔を浮かべる。
「だが回復すれば、きっと仲良くなれるだろう。アリシアが心を寄せていたからな・・」
「よかった・・きっとよくなるよ・・そして新しいお友達になれる・・・」
「ウィッシュ、どっかでガンコになるからね。そうなるとあたしでも手に負えなくなることがあるよ・・」
 ブレイドが続けて口にした言葉を聞いて、ウィッシュが安心して、ウィザードが彼女に呆れる。
「それよりも、ヴァンフォードの本拠地を見つけて、一気に叩いたほうがいいんじゃないの?これじゃらちが明かないよ・・」
「ヴァンフォードの居場所を突き止めることができても、ヤツらを倒す術を持っていない。自殺志願につながることになる・・」
 不満げに訊ねてくるウィザードに、ブレイドは表情を変えずに注意する。
「分かってるって。ちょっと言ってみただけだよ・・」
 ウィザードが不満げに言うと、ウィッシュが笑みをこぼした。

 ヒカルの無事を祈っていたアリシア。1人部屋にいた彼女をキャミィが訪ねてきた。
「アリシア・・入ってもいいかな・・・?」
「キャミィ・・・うん、開いているよ・・・」
 声をかけてきたキャミィにアリシアが答える。キャミィがドアを開けて部屋に入ってきた。
「アリシア、あの人、きっと助かるよ・・アリシアが心から信じた人なんだから・・・」
「キャミィ・・ありがとう・・そう言ってもらえると嬉しいよ・・・」
 キャミィが声をかけると、アリシアが笑顔を見せる。だが彼女の笑顔が作り笑顔であることを、キャミィは気付いていた。
「ミュウならあの人を救えるって、私信じてる。ミュウはデバイスとかの開発の他に、人や使い魔の治療のエキスパートでもある。アリシアやブレイドだって、ミュウのおかげで何度も助かったじゃない・・」
 キャミィが語ってきた言葉に、アリシアも頷く。
 ミュウは医療技術も卓越している。アリシアたちが受けた負傷を何度も治療して治してきている。
「でも・・どんな医者でも、治せないものはある・・死んでしまった人を生き返らせないように・・・」
「それは分かってるけど・・でも、治ってほしい、助かってほしいって思うものだよね・・・」
「それは、そうだけど・・だからこそ、あの人を助けてほしいと願った・・・」
 キャミィに答えていくアリシアが、ヒカルの無事をさらに強く願うようになっていた。
「本当に助かってほしい・・でないと私・・私・・・」
「助かるよ・・アリシアが心からそう信じて願ってるんだもん・・叶わないなんてないよ・・」
 困惑を募らせていくアリシアに、キャミィが笑顔を見せて手を差し伸べてきた。
「キャミィ・・・そうだね・・私たちが信じてあげなくてどうするのよね・・・」
 涙を拭ってから、アリシアも笑顔を見せてキャミィの手を取った。
「それじゃ、今のうちに休むとしようか・・いつまたヴァンフォードが襲ってくるか分かんないもんね・・」
「そうだね・・でもあと少しだけ起きているよ・・」
 キャミィに笑顔を見せるアリシア。彼女がベッドに腰を下ろしたのを見てから、キャミィは部屋を出た。
(治ってほしい・・このまま目を覚まさないなんて、絶対に納得できない・・・)
 そのベッドに横たわって眠りにつくまで、アリシアはヒカルの目覚めを願い続けていた。

 ヒカルの帰りが遅いことに、ガイもリンも心配になっていた。
「ヒカルちゃん、いったいどうしちゃったんだ・・」
「やっぱり警察に連絡して、探してもらったほうが・・・」
 どうしたらいいのか決断できないでいる2人。
 彼らが家の中のリビングを右往左往している中、タクミは自分の部屋にいた。彼はベッドの上で横になっていた。
(アイツ、どこで何をやっているだよ・・父さんも母さんも心配しているじゃないか・・)
 ヒカルに対して不満を感じていくタクミ。彼も彼女が帰ってこないことを心配していた。
(オレには何もしてやれないってことなのかな・・もう待つしかないってことなのかな・・・?)
 無力と無気力を感じながら、タクミはいつしか眠りについた。

 ヒカルを助ける方法を求めて、ミュウはロードサイドにある情報と自分自身にある知識を巡らせていった。休みなく作業を続けていた彼女の疲労はピークに達していた
「きっと・・きっと何か方法があるはずよ・・それを見つけられれば・・・」
「研究や医療のときはいつも冷静なお前が、妙に焦りを見せているな・・」
 肩を落としていたミュウに、ブレイドが声をかけてきた。
「それだけ難しいのか、彼女を助けるのは・・」
「ブレイド・・あなたでもこの原理は分かるはずよね?死んだ命は生き返らないって。仮にそれを可能にしても、誰かの命を差し出すぐらいのリスクが伴うものよ・・」
「それは分かるが・・」
「クローン技術を応用して蘇生されるという話も聞いたことはあるけど、あくまでクローン。姿かたちだけじゃなく、記憶もコピーできるけど、人格も魔力資質も違う別人となってしまうのよ・・」
 深刻な面持ちで語りかけるミュウに、ブレイドもさらに現状に対して思いつめていた。
「せめて1つでも糸口を見つけることができれば、何とかなるかもしれないのに・・」
 ミュウがさらに悩んで肩を落とした。
 そのとき、彼女が操作していたコンピューターが、ヒカルからの反応をキャッチした。
「この反応・・・!」
 ミュウがコンピューターを操作して、反応の詳細をチェックする。
「これって・・まさか・・・!?」
「どうした・・・!?」
 息をのむミュウにブレイドが声をかける。
「彼女の体に埋め込まれているデバイスが・・停止していたはずのデバイスが、再び活動を・・・」
「では、彼女の生命活動が再開・・!」
「デバイスがメッセージを送ってきているわ・・・!」
 ブレイドが言いかけたところで、ミュウが再びコンピューターを操作する。ノイズと画像の歪みを生じながらも、カイザーが彼女にメッセージを送ってきていた。
「このデバイス・・アレを求めている・・・!」
「アレ・・・?」
 ミュウが口にした言葉に、ブレイドが眉をひそめる。
「グラン式、ドライブチャージシステム・・・!」
 ブレイドに向けて言いかけるミュウは、緊張を募らせていた。

 次の出撃に備えて、ローザたちは休息していた。そんな中、ローザはフロンティアの管制室にやってきた。
 ヴァンフォードのオペレーターたちが、アリシアたちの行方と強い魔力の在り処を捜索していた。
「どう、調子のほうは?」
「申し訳ありません。アリシア・テスタロッサとブレイド・ストラトス他、レーダーに引っかかりません。」
「高い魔力も探知できません。」
 ローザの問いかけにオペレーターたちが答える。
「慌てるのはよくないけど、いつまでも時間があるとは思わないことね。マスター・コスモは、そこまで気が長いわけではなのだから・・」
「重々承知しております・・」
「どちらでもいいわ。見つけたらすぐに私たちに知らせて。」
「了解しました。」
 オペレーターに呼びかけると、ローザは管制室を出ていった。その先の廊下にラムがいた。
「もしも見つかったら、今度はあたしが行くからね、ローザ。」
「行くのは構わないけど、前みたいに動けなくなったりするのはやめてよね。」
 強気に言うラムに、ローザがからかってくる。
「もうそんなことにはなんないわよ!今度はあたしが手柄をあげてくるんだから!」
「期待しないで待っているわ。手柄を立てられなくてイヤな気分を感じているのは、あなただけじゃないんだから・・」
 ローザに不満を見せて、ラムはこの場から歩き出していった。
(そう。このまま何もしないわけにはいかない・・マスター・コスモのためにも、必ず・・・)
 危機感を募らせるローザも、廊下を歩き出していった。

「グラン式ドライブチャージシステム・・使用者の魔力を込めて、魔法の威力を高めるものか・・」
 ミュウの言葉を聞いて、ブレイドが呟く。
「魔力の弾丸を装てんして威力を一時的に急増させることのできるベルカ式カートリッジシステム。カートリッジシステムを組み込んだインテリジェントデバイスを参考にして、近代ベルカ式と二分する形で編み出された魔法術式のことよ。」
「そのドライブチャージシステムを組み込むつもりか?・・デバイスへの負担が大きくなるのだぞ・・」
「その組み込みの申し出をしてきたのは、デバイス本体なのよ・・」
「何っ・・!?」
 ミュウが口にした言葉に、ブレイドが眉をひそめる。
 デバイスは人工知能が備わっているものでも、あくまで機械的な思考にとどまることがほとんどである。使い手に熱い思いを寄せることは珍しいこととされていた。
「このデバイス、本当にこの子のことが好きなのね。一心同体の状態とはいえ、デバイスがここまで心や情を見せてくるとはね・・」
「それで組み込むのか?組み込んでも助かるとは限らないし、さらに危険な状態になる可能性もあるのだぞ・・」
「やらなければこの子は死を迎えるしかないのよ・・賭けてみるしかないわ・・マスターを信じるデバイスの進言を・・」
 疑問を投げかけるブレイドに、ミュウが真剣な面持ちで言いかける。彼女はカイザーにドライブチャージシステムを組み込むことにした。
(瀕死の状態のこの子とデバイスに組み込み作業を行うことも、この子を死と隣り合わせにすることに変わりはない・・でも、それ以外に方法が見つからないのなら・・・!)

 アリシアたちの他、ロードサイドには複数の部隊が存在している。ロードサイドは互いに得た情報を交換しているが、ヴァンフォードといった敵に備えて、連絡は必要最低限にしていた。
 ウィザードは別世界で行動しているロードサイド部隊の安否の確認を取り合っていた。
「こちらはメンバー全員無事です。そちらは?」
“2日前、ヴァンフォードの1部隊と交戦。アヴェンティ、デリカ、ベレットの3名が戦死。現在12名です。”
「了解。ところでそちらから取り寄せたいものがあるんです。」
“取り寄せたいもの?”
「グラン式ドライブチャージシステムです。デバイスの修繕に用いたいのです。」
 ウィザードがドライブチャージシステムの受け取りを申し出てきた。ただしデバイス、カイザーがヒカルの体内にあるものとは伝えなかった。
“了解。そちらに転送します。”
 別部隊からの応答とともに、ドライブチャージシステムがウィザードのもとへ転送されてきた。
「ドライブチャージシステム、確認しました。ありがとうございます・・」
“了解。ではまた後日に。”
 別部隊との連絡を終えて、通信を切ったウィザード。その直後にミュウとキャミィがやってきた。
「届いたのね・・」
「うん・・これがあの人がよみがえる希望になるんだね・・?」
「それは、彼女とデバイス次第としか言いようがないわ・・」
 問いかけるウィザードに、ミュウが深刻さを込めて答える。
「本腰を入れるのはここからよ。正確、迅速、慎重に彼女を助けるわよ。」
「あたしも手伝います。あの人を助けたいって気持ちは一緒です。あたしも、アリシアも!」
 ヒカルの治療を本格的に行おうとするミュウに、キャミィも意気込みを見せる。2人はヒカルのいる医務室に向かった。
「さーて、あたしも気合入れるとするかな。」
 ウィザードも気を引き締めて、レーダーを注視した。その途端、彼女は血相を変えた。
「コイツは、まさか・・・!?」
 一気に緊張を膨らませるウィザード。先ほど連絡を取っていたロードサイドの別部隊に、1つの巨大な魔力が近づいてきていた。

 ロードサイドの短時間の通信と転送は、ヴァンフォードのレーダーに引っかかっていた。
「ロードサイドの1部隊を発見しました。ですがブレイド・ストラトスの部隊ではないようです。」
 オペレーターの報告を耳にして、ラムが駆け込んできた。
「アイツらじゃないのね・・ヴァンフォードのためになる、高い魔力資質の持ち主は?」
「現時点では高い魔力は感知できません。」
 ラムの問いかけにオペレーターが答える。しかしラムは笑みを浮かべていた。
「手ごたえのない相手がいなくてもいいわ・・ストレス解消になるんだったら・・・」
 ラムが管制室を飛び出して、ロードサイドの部隊のいる地点に向かっていった。
「やってやるわ・・アイツらを叩き潰して、マスター・コスモを喜ばせなてあげないと・・」
 憂さ晴らしの意味も込めて、ラムは部隊打倒に乗り出していった。

 ウィザードとの連絡を終えた部隊の隊長は、次の有力情報の収集に乗り出すための準備を進めていた。
「ヴァンフォードはどこに潜んでいるか分からないからな。監視を怠るな。」
 部隊長が隊員たちに檄を飛ばす。オペレーターたちがレーダーを注視していく。
 そのとき、レーダーが接近してくる魔力反応を捉えた。
「こちらにまっすぐ近づいてきます!正体不明!」
「ヴァンフォードである可能性が高いな・・すぐに迎撃できるように備えろ。」
 オペレーターからの報告を受けて、部隊長が隊員たちに呼びかける。隊員たちが各々のデバイスを手にして、迎撃に備える。
「この魔力数値・・ヴァンフォード幹部クラスです!」
「何っ!?」
 オペレーターが上げた声に、部隊長も緊張を覚える。
 部隊の滞在地点のそばに、ラムが転移してきた。
「お前、ヴァンフォードの・・!」
 隊員たちがラムの前に出てきて、デバイスを構えた。
「やっぱりここにいたのね・・今のあたしが相手だったのを後悔するといいわ!」
 笑みを浮かべたラムが全身から魔力を放出する。彼女はその魔力を両手に集めて、隊員たちに飛びかかる。
 隊員たちがデバイスを使った魔法射撃で迎え撃つが、ラムのパワーに押されていく。
「どうしたのよ!?そんなんじゃあたしのストレス解消は務まらないわよ!」
 ラムが叫びと一緒に手に集めていた魔力を放つ。爆弾のように魔力をぶつけられて、隊員たちが次々に吹き飛ばされていった。
「隊長、このままでは・・!」
「お前たちは体勢を立て直せ!お前は緊急信号を!」
 声を荒げる隊員に、隊長が指示を出していく。
(こうなっては背に腹は代えられない・・頼るしかない・・・!)
 隊長が心の中で、自分自身の苦渋の決断に歯がゆさを感じていた。

 ラムの襲撃を受けた部隊からの救難信号は、アリシアたちにも届いていた。
「あたしの通信で、あっちの居場所が知られちゃったのか・・!?」
 この事態にウィザードが動揺を見せる。するとウィッシュが彼女の手を取って、首を横に振ってきた。
「ウィザードのせいじゃないよ・・ウィザードの連絡で、ドライブチャージシステムがこっちに来たんだから・・・」
「ウィッシュ・・そんなこと言われたって、全然安心できないんだから・・!」
 ウィッシュに励まされて、ウィザードが頬を赤らめて突っ張った態度を見せた。それを見てウィッシュが笑みをこぼした。
「何にしても、このまま見捨てることはできない・・救援に行かなければ・・」
 ブレイドが呼びかけるが、ミュウは救援に躊躇を感じていた。
「向こうの部隊の救助はしたいけど、ここの戦力を向こうに回して、ここが万が一襲われるようなことがあったら・・」
「だから主力全員で行くことはない。オレが1人で行く。その後どうするかは状況を見極めてからだ・・」
 ミュウに言いかけてから、ブレイドがアリシアに振り向いた。
「アリシアはここに残ってくれ。オレが1人で救援に行く。」
「ブレイド・・でもそれじゃ、ブレイドが・・」
「オレはそう簡単にやられたりはしない。それにお前が守ってあげないといけないヤツは、ここにいる・・」
 動揺を見せるアリシアの肩に、ブレイドが手を乗せてきた。彼に励まされて、アリシアが安堵を感じていく。
「分かったよ、ブレイド・・でも、無事に帰ってきて・・・」
「もちろんだ。簡単にやられるために向こうに行くものか。」
 アリシアの言葉に、ブレイドが笑みを見せて返事をする。
「ここと彼女を頼むぞ・・」
「えぇ。彼女の生還を信じさせてもらうわ・・」
 ミュウからの返事を受けて、ブレイドが別部隊の救援に向かった。

 ラムの放つ魔力と打撃で、部隊は壊滅へと追い込まれていた。焦りを募らせる部隊長を、ラムがあざ笑ってくる。
「つまんない。こんなんじゃとてもストレス解消にならないって・・」
「貴様・・調子に乗って・・・!」
 部隊長がデバイスを構えて、ラムの攻撃に備える。抵抗の意思を消さない彼に、ラムはため息をつく。
「それどころかストレスが増えそうね・・だって、ムダな抵抗っていうのを見せられるのがすっごくイライラするんだよね!」
 ラムが言い放って、両手から魔力の光を放つ。周囲に魔力をぶつけられて、部隊長たちが爆発にあおられて怯む。
「くっ!・・限界なのか・・このままでは・・・!」
 部隊長が危機感を募らせていく。
「これじゃストレス解消にならないから、もう終わりにするわね・・せめて派手に終わらせてやるから、ありがたく思ってよね!」
 ラムが部隊長たちに向けてさらに魔力を放った。
“Blitz rand.”
 そこへ稲妻を帯びた一条の刃が飛び込んで、ラムの魔力を切り裂いて爆発させた。
「何っ!?」
 ラムが驚きの声を上げて、部隊の隊員たちが戸惑いを浮かべる。巻き起こる煙の中から現れたのは、救援に駆け付けたブレイドだった。
「ブレイド・ストラトス・・・!」
「アイツの相手はオレがやる。お前たちは他の者たちをまとめて体勢を整えろ。」
 息をのむ部隊長にブレイドが呼びかける。部隊長が隊員たちと一緒にこの場を離れていく。
「丁度よかった・・ストレス解消には物足りないって思ってたとこだったのよ・・・!」
 笑みを見せてくるラムに対して、ブレイドが剣型アームドデバイス「トランザム」を構える。
「単独で攻撃を仕掛けてきていたのがせめてもの救いか・・」
「何だかバカにしちゃってきてるみたいだけど・・そういうのは腹が立つのよね!」
 呟きかけるブレイドにいら立って、ラムが両手から魔力の球を投げつける。
“Genie rand.”
 ブレイドがカートリッジを装てんしたトランザムを振りかざす。風の刃が巻き起こって、ラムの魔力の球を全て1度で切り裂いた。
「正々堂々、真剣勝負がオレの本音なのだが、お前をいら立たせる手段も、状況によっては使うこともいとわない。」
「調子のいいこと言っちゃって・・おとなしくさせてやるから!」
 冷静さを崩さないブレイドにラムが飛びかかる。彼女が出してくる手を、ブレイドは後ろや横に動きながらかわしていく。
「逃げてないで、ちょっとは攻撃してきたらどうなのよ!」
「攻撃してもらいたいなら、望みどおりにしてやるとするか。」
 怒鳴ってくるラムに対して、ブレイドがトランザムを構えて反撃に出る。彼の繰り出す剣の連続を、ラムが体を動かしてかわしていく。
(あたしが・・こんなことでやられたりしないんだから・・・!)
 ラムがいきり立ってブレイドにつかみかかろうとする。だがトランザムの刀身を彼女は体に叩き込まれる。
 その衝撃で一瞬呼吸がままならなくなり、ラムが息苦しさを痛感して後ずさりする。
「ここでこれだけのことをやったんだ。聞けるところまで聞き出すから、覚悟しておくことだな。」
 ブレイドが言いかけて、ラムの眼前にトランザムの切っ先を向ける。苛立ちを見せるラムだが、息苦しさが治りきらず言葉を出せないでいた。
 そのとき、上空からブレイドとラムのいる場所に荒々しい光が飛び込んできた。ブレイドがとっさに飛び上がって回避し、光はラムの前の地面にぶつかって爆発を起こした。
「また功を焦って返り討ちにされるとはな。」
 ラムの前に降り立ったのはガリューだった。ガリューはラムには目を向けず、ブレイドを睨みつけていた。
「ブレイドの相手はオレがやる。ラムは他のヤツを片付けてこい。」
「ふざけないで!このまま負け犬になれっていうの!?」
「このままブレイドと戦えば、その負け犬の汚名も晴らせなくなるぞ。」
 ラムが怒鳴るが、ブレイドに言いとがめられて言葉を返せなくなる。
「ヤツはオレが始末する。オレもお前も負け犬にはならない・・」
「言ってくれるな、ガリュー・・ここでお前を倒させてもらうぞ・・・!」
 魔力を込めて全身に力を入れるガリューに、ブレイドがトランザムを構えて向かっていった。

 部隊の救援をブレイドに任せて、ミュウはヒカルの体にドライブチャージシステムを組み込もうとしていた。迅速かつ慎重な手術を要し、彼女だけでなく、その様子を見守っていたアリシアとキャミィも緊張を感じていた。
 ヒカルが目を覚ましてくれることを願って、ミュウが彼女にドライブチャージシステムを挿入した。彼女の体にあるカイザーが、ドライブチャージシステムを取り入れていく。
(すごい反応・・このデバイス、この子を助けようとしてフル稼働している・・まだ破損が軽くないのに・・)
 カイザーがヒカルを助けようとしていることに、ミュウは驚かされていた。
(本当に優しいのね、あなた・・私も、絶対に救い出さないといけないわね・・)
 さらに気を引き締めて、手術に集中するミュウ。
 ドライブチャージシステムを挿入されたことで、徐々に動力を取り戻していくカイザー。その反応に呼応するように、一瞬ヒカルの手の指がかすかに動いた。


次回予告

魔力を一点集中させるドライブチャージ。
爆発的に発揮される魔力への対抗。
生まれ変わった魔法の戦士の新たなる力。
ついにヒカルが、奇跡の復活を果たした。

次回・「ドライブチャージ」

少女が踏み入れる、新たなる境地・・・

 

 

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