コピーメイカー

 

 

私はコピーメイカー。

様々なものをそっくりそのままの形でコピーする能力を持っている。

ただし生き物をコピーすることはできない。

 

生き物はコピーできないが、生き物が無機質なものに変化した場合はコピーすることができる。

 

そして私のもうひとつの能力は、様々な世界に入り込むことができる。

フィクションとされている世界でも、自由に出入りが可能である。

 

この2つの能力を使って、私は私のコレクションを構築する・・・

 

 

 ある森に隣接した谷。そこで1人の姫が、髪が蛇になっている怪人に捕まり、頭をつかまれていた。

 眠りから覚めた姫はその直後、怪人の髪の蛇の1匹に首をかまれてしまう。彼女の体が石に変わりだし、震えながら伸ばしかけた手も白に近い灰色となって固まっていく。

「マ・・マシュラ・・・」

 仲間の戦士の名を口にすると、顔までも石に変わり、姫は物言わぬ石像と化した。

「この娘を助けたければ、私を倒すことだな・・」

 怪人は戦士たちに言い放つと、石になった姫を崖下の湖に落とした。その湖は酸でできており、急がなければ溶けてしまう。

 戦士たちが助け出すまで、姫に手を出す者はいないはずだった。

 

 姫が落とされた酸の湖。その中を物陰から見つめる人物がいた。

 独自のコレクションを構築しようとしていたコピーメイカーだった。

「なかなかの質の石化ではないか。まるで寸分違わぬ彫刻だ。だがそれを酸の湖に投げ入れてしまうのはいただけないな・・」

 石の姫を見て感想を口にするコピーメイカー。そしてコピーメイカーはおもむろに手をかざす。

 すると姫の体を淡い光が包み込んだ。その光がコピーメイカーの手の前に移っていく。

 その光が、石像へと姿かたちを変えていく。石になった姫と瓜二つの石像に。

 それがコピーメイカーの能力だった。対象をそっくりそのままの形でコピーすることができる。生き物をコピーすることはできないが、生き物が別の物質に変化すればコピーは可能となる。

 その能力を駆使して、石になった姫をそのままの質、形でコピーしたのである。

「彼女のようなきれいな姫君の石像、溶かすのも元に戻すのも惜しい。私のコレクションとして留めておくぞ。」

 コピーした姫の石像を見つめて、満足げに呟くコピーメイカー。コピーメイカーは姫の石像を、自分の屋敷に向けて転送した。

「本物の姫も時期に助かるだろう。では私は次の標的を目指すとしよう。」

 悠然さを浮かべたまま、コピーメイカーは姿を消した。

 

 昆虫のような巨大な怪物と戦うヒロイン。怪物が吐き出したどす黒い液を右足の先に浴びながらも、ヒロインはその怪物に勝ったように思えた。

 だが仲間たちと喜びを分かち合っていたヒロインの足についていた液が広がり、彼女の体を包み込んでいく。その液が全身に行き渡ると、ヒロインの体が灰色になり、呆然とした面持ちのまま前のめりに倒れた。

 騒然となった仲間たちによって保護されたヒロインだが、怪物の行方の捜索に時間を割いていた。

 研究所にて置かれているヒロイン。その彼女を、コピーメイカーは狙っていた。

「フン。羽虫でありながらこれほどの石化をもたらすとは。賞賛に値する・・」

 石化しているヒロインの姿を見つめて、コピーメイカーが笑みをこぼす。

「そのすばらしさ、元に戻してしまうのは惜しい・・」

 コピーメイカーは言いかけると、ヒロインに向けて右手をかざす。彼女の体から淡い光があふれ、彼女の石像のコピーに変化する。

「君のすばらしき姿は、私のコレクションの中で永遠に留めておくぞ。」

 コピーメイカーは言いかけると、ヒロインの石像のコピーを連れて姿を消した。

 

 不気味な暗雲が漂うひとつの塔。その上層部で1人の青年が、馬に似たモンスターと戦っていた。

 人質にされていた少女が放った神々しい光で力を失ったモンスターは、青年の反撃で敗北を喫した。

 だがモンスターは死に際に全身から不気味な煙を放った。その煙を受けた青年と少女の体が石になってしまった。

 石化によって体の自由を奪われてしまった青年と少女。その2人を、コピーメイカーは見つめていた。

「しばらくすれば非合法の商人が持ち出していくことになる・・それまでが好機・・・」

 コピーメイカーは呟きかけると、石になっている青年と少女に右手をかざす。2人からあふれた光が、2人に瓜二つの石像となる。

「このすばらしい石像が、8年までの代物であるのは惜しい・・このまま永久的なものとしてくれる・・」

 コピーメイカーは悠然と呟きかけると、コピーした2体の石像を転送した。

「本来ならこれで終わりだが、この物語にはもうひとつの世界が存在している・・」

 コピーメイカーは笑みを見せると、再び移動を始めた。この世界と平行して存在しているもうひとつの世界へ。

 その裏返しの世界。青年は先ほどと同一人物であるが、人質にされている少女は先ほどとは別人である。

 先ほどと同様に、青年はモンスターを倒した。だがモンスターは死に際に石化の霧を放つことはなかった。

 だがこの後、青年と少女の前に装束を身にまとった不気味な人物が現れた。その者は2人に呪いをかけ、先ほどの霧と同じ効果をもたらした。

 石化され、動かなくなる青年と少女。装束の人物は不気味な笑みを浮かべながら、その場から姿を消した。

 その世界にもコピーメイカーは現れた。

「その男の選択によって分かつもうひとつの物語・・そこでの娘もまた上質の石像となった・・」

 満足げに言いかけるコピーメイカーは、少女に右手をかざす。

「同じ男の石像が2体あっても、あまり意味はないからな・・」

 少女から光があふれ、彼女と瓜二つの石像へと変化していく。

「これでこの世界での全ての石像を複製することができた。では次の世界に向かうか・・」

 コピーメイカーは言いかけると、コピーした少女の石像を連れて姿を消した。

 

「あなたたちをコレクションに加えさせてもらいます・・・!」

 不気味なオーラを放つ女性が、ヒロインたちに向けて鋭く言いかける。そのオーラをまとったまま、女性は飛びかかる。

 これを迎撃するヒロインたち。だが彼女たちを捕まえた女性の眼と、髪が変化した蛇の眼がギラリと光る。

 するとヒロインたちの体が、顔から灰色へと変わっていく。その影響で脱力して腕をだらりと下げた彼女たちは、呆然と立ち尽くした体勢のまま動かなくなった。

 女性の力によって次々と石化していくヒロインたち。だが石化を行使した女性も、体力を著しく減らしていた。

 それでも館長のため、女性は力を振り絞った。そしてついに、6人のヒロインのうち5人を物言わぬ石像へと変えた。

 館長の命令を完遂した女性だが、力を使い果たして倒れてしまった。館長の前に石化したヒロイン5人が並べられていた。

「すばらしいコレクションだ・・・」

 館長はそう呟くと、ヒロインたちを博物館の奥の展示室へと転送した。

 展示室は結界が張られており、特定の人物以外が入ることはできない。その中に、呆然と立ち尽くした姿で石化されたヒロインたちが置かれていた。

 その展示室に入り込んでいたコピーメイカー。無言で立ち並ぶヒロインたちを見て、喜びを覚える。

「確かにすばらしい石像だ。だがこれにすら満足しないとは、館長の感性には理解に苦しむな・・」

 コピーメイカーは呟きかけると、ヒロインたちに右手をかざす。彼女たちからあふれ出た光が、瓜二つの石像に変化する。

「このコレクションとしての価値、私が有効利用してやろう・・」

 コピーメイカーはそう言いかけると、コピーしたヒロインたちの石像とともに姿を消した。

 

 裕福さを物語るほどの大きさを誇る邸宅。その奥の大部屋に、コピーメイカーは来ていた。

 その部屋では、一糸まとわぬ女性の石像が大量に立ち並んでいた。

「実にすばらしい・・よくこれだけの美女をコレクションしたものだ・・それも全員裸にして・・・」

 石像を見回して笑みをこぼすコピーメイカー。ここにいる石像の全てが、元々は人間であることを知っていた。

「だが、せっかくのコレクションも、いくつか壊してしまっている・・実にもったいない・・」

 この石化をもたらした加害者を嘆くコピーメイカー。気持ちを切り替えたコピーメイカーは、石化した美女たちに向けて右手をかざす。

「中に完全に石化していない者もいるようだが・・・彼がここにいない今のうちに・・・」

 石化している美女たちから光があふれ、瓜二つの石像が次々と出現する。コピーメイカーはそれらをすぐさま転送していく。

「これだけコピーして移動させるのは骨が折れる・・では街に向かおう。この世界における美しき石像は、ここにいる美女たちだけではないのだからな・・」

 悠然と呟きかけると、コピーメイカーは部屋から姿を消した。

 

 その頃、街中でヒロインと怪人が戦っていた。だが一瞬の油断を突かれ、ヒロインが怪人に捕まってしまう。

 直後、怪人の眼から不気味な光が放たれた。その光を浴びたヒロインの衣装が崩れ出し、素肌が石に変わりだしていた。

 この怪人こそが、美女をさらい、邸宅の部屋で石化してコレクションしている誘拐犯である。だがヒロインに顔を傷つけられた彼は、ヒロインをさらおうとせず、この場で石化をかけたのだった。

「私のコレクションに加わる資格もない!終わることのない昼と夜の繰り返しを見守り続けるがいい!」

「な、何なの、コレ!?

 鋭く言い放つ怪人と、石化していく自分の体に驚愕するヒロイン。石化の影響で彼女は思うように動くことができず、石化の進行で衣装がどんどん引き剥がされ、石の素肌をさらけ出していく。

「安心したまえ。お前はまだオブジェにはしないから・・」

 ヒロインを背にして、怪人がその場にいる少女に言いかける。彼の伸ばした髪が彼女を捕まえていた。

 その間にもヒロインは石化に蝕まれていた。手袋もブーツも壊れて手足の先が現れ、かつらも崩れて彼女の本当の髪も石になって現れていた。

「・・・ゴ・・ゴメン・・・タ・・タスケ・・ラレ・・・ナ・・・」

「ヒッヒッヒッヒ、ヒッヒッヒッヒ・・」

 少女に謝るヒロインと、それをあざ笑う怪人。頬も唇も石になり、ヒロインはさらわれようとしている少女を見つめることしかできず、涙を浮かべる。

 その涙が流れた瞬間、ヒロインは完全に石化に包まれた。

「スパークガール!!!

 少女の悲痛の叫びが響く。彼女は怪人によって連れ去られ、この場には石化したヒロインが残された。

 怪人の力で石化され、生まれたままの姿の石像にされたヒロイン。その裸身を、コピーメイカーは見つめていた。

「これもまたすばらしい石像だ。果敢に挑むも逆に石にされる正義の味方・・肩書きもすばらしい・・」

 背中にくっついたワイヤーに吊るされているヒロインを賞賛するコピーメイカー。

「顔を傷つけられた程度で見捨ててしまうとは・・能力と実績はすばらしいが、考え方は理解に苦しむ・・」

 怪人に対して賛否を口にするコピーメイカー。

「まぁいい。彼がコレクションに加えなくとも、私がコレクションに加えてやろう。今の君にはその資格があるだけではなく、最高峰に並ぶことになるかもしれない・・」

 コピーメイカーはヒロインに手を伸ばし、瓜二つの石像を生み出した。しかしワイヤーを結ぶ機具は彼女の背中にあったが、ワイヤーは通っていない。

「さて、この世界での最後のコレクションが、もう少しで生まれることになる・・・」

 コピーメイカーは満足げに頷くと、再び先ほどの邸宅へと戻っていった。

 

 邸宅では様々な異変が起きていた。

 先ほど怪人が連れ去った少女は、街を騒がせている怪盗だった。その怪盗に叩きのめされた怪人は、怒りと欲望を膨らませて巨大化し、暴走の果てに死亡。

 その怪人の欲望を得て、石化の力をつかさどる魔人が姿を現した。その驚異的な力に敵わず、怪盗は石化の視線を受けてしまった。

 その瞬間を、コピーメイカーは見逃してはいなかった。

(この瞬間だ。この瞬間を逃せば、あのすばらしき石像を手中にできなくなる・・)

 コピーメイカーはとっさに右手をかざし、石化した怪盗の複製を行う。間一髪のところで、コピーメイカーは複製に成功するのだった。

 直後、落下した怪盗は床に落ちて、粉々に砕けてしまった。

(後にあの魔人が復活させることになるが、石化まで解いてしまうからな・・)

 呟きかけるコピーメイカーが、複製した怪盗の石像を抱えて見つめる。

(千載一遇と呼べる一瞬の好機から得たコレクション・・価値が高い・・・)

 コピーメイカーは言いかけると、石像を持ったまま邸宅の廊下を歩いていく。

(この世界に築かれたコレクションも終焉を迎える・・だがこのすばらしさは、私のコレクションとしてこれからも続いていくことになる・・・)

 歓喜を込めた哄笑をもらすと、怪盗の石像を持って姿を消した。

 

 様々な世界で石像を複製し、収集してきたコピーメイカー。だがコピーメイカーの本当の仕事は、ここから始まるのである。

 コピーメイカーはいくつもの部屋を持っている。その部屋のひとつひとつには、様々な世界で手に入れたコレクションが置かれ、主に世界別に分けられている。

 コピーメイカーは今、収集したコレクションを部屋ごとに振り分けようとしていた。

「では、うまく部屋に飾るとしよう。まとまりのあるのが、コレクションとして華があるというものだ・・」

 複製した石像たちを見回して、思考をめぐらせるコピーメイカー。少し考えてから、コピーメイカーは石像の配置を開始した。

 怪人の毒牙にかかった姫。怪物の毒液を浴びたヒロイン。呪いを受けた青年と少女たち。

 そして女性の力を受けた5人のヒロインたちも、1つの部屋に並べられることとなった。

「やはり全員が揃っているほうが見栄えがいい。さて、問題は・・」

 感嘆の言葉を口にしてから、コピーメイカーはヒロイン5人の置かれた部屋を出る。廊下にはまだ、怪人によって石化された全裸の美女の石像たちが、廊下に並べられていた。

「大部屋を2部屋使って、適当に置くとしよう。どのような配置にしても、花に陰りが出ることはないだろう・・」

 その石像たちを大部屋に次々に移動させていくコピーメイカー。最後に怪人に挑んで逆に石化されたヒロインと、魔人によって石化された怪盗を置くだけとなった。

「問題はこの2人だ。2人は宙に浮いた状態のまま石化したからな・・どう飾るべきか・・」

 2人の配置について考えを巡らせるコピーメイカー。

「うまく吊るして固定しよう。そうすれば見栄えがさらによくなる・・・」

 妙案を練り上げたコピーメイカーは、怪盗とヒロインの石像をつるし上げた。石像の体に破損、損傷させないようにして。

「これで落下することもないだろう・・どの角度からも見られるから、好都合となる・・・」

 2人の石像を見上げて、コピーメイカーが不敵な笑みを見せる。

「心地よい・・実に心地よい収穫だった・・・だがまだコレクションにすべき代物を全て発見したとはいえない・・・」

 だがコピーメイカーはまだ満足してはいなかった。それどころか、心の中にある欲望は強まる一方だった。

「次はどのようなものをコレクションにできるか、楽しみだ・・・」

 次の標的を期待して、コピーメイカーは新たな行動を起こす。次に足を踏み入れる世界はどこなのか、それは運命のみぞ知る。

 

 

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