Blood Sexual Twin- File.12 全裸と抱擁

 

 

 ミーナを石化させ、部屋に戻ってきたリナ。だがルナとナナの姿がないことに気づき、彼女は眼を疑った。

「そんな!?ルナとナナがいない!?

 リナがたまらずミーナを置いて、ルナとナナを探す。だが部屋の中のどこを探しても、2人を見つけることができない。

「私に石化されて、動けるはずなんてない!まして石化を解くなんてなおさら!」

 さらに2人を追い求めるリナ。だが部屋にも廊下にも、2人の姿は見当たらなかった。

「ありえない・・オブジェが、勝手にいなくなるなんて・・・!」

 この事態が信じられず、リナが憤慨をあらわにする。

「万が一ということがあるかもしれない・・外に出て探しに出ましょう・・・」

 思い立ったリナはルナとナナを探しに部屋を出た。廊下を歩く間も、彼女は2人がいなくなったことに疑問を抱いていた。

「私の石化は、私が解こうとしない限り解けない。私を上回る力であれば強引に破ることができるが、私を超える力なんてあるはずがない・・・!」

 混乱しそうになっている気持ちを抑え込んで、リナはひたすら自分に言い聞かせていた。自分こそが最高の力の持ち主であると。

 

 リナの石化を打ち破ったルナとナナは、人目を避けて自宅へと戻ってきていた。無事に戻れたことを、2人は素直に安心していた。

「ふぅ・・本当にどうなることかと思ったよ・・・」

「私も・・このまま裸の石になったままかと思っていたよ・・」

 吐息をついたところで、ルナとナナはベットに横になる。互いの顔を見つめ合って、2人は戸惑いを見せる。

「ルナ・・裸の石像にされて、どんな気分だった・・・?」

 ナナに唐突に問いかけられて、ルナがさらなる戸惑いを覚える。

「丸裸なのに、自分では全然動けないまま、体を触られていく・・私、とても奇妙な気分を感じるの・・ルナに触れているときとは違うような・・」

「ナナ・・・そうね・・私もそんな気分を感じていた・・ナナがそばにいなかったら、私はその気分に飲み込まれていたと思う・・」

 率直な気持ちを告げるナナに、ルナも困惑気味に答える。

「あれが、アイツのものになるということ・・本当に、おもちゃのように弄ばれるだけ・・指一本動かせず、されるがまま・・・」

「そこに、お互いの気持ちの交わりはない・・・」

 言葉を交わしていくうちに、心のあたたかさを欲するようになる2人。

「やっぱり、こうして人としての肌と肌を触れ合わせるのがいいって・・・」

「うん・・何だか、思い知らされたって感じだね・・・」

 言い終わると、ルナとナナは体を寄せて、そのぬくもりを確かめる。

「やっぱり気持ちがいいよ・・こうして、ルナと一緒にいると・・・」

「私もだよ・・・何度だって言える・・私はあなたがいないと、生きていけない・・・」

 そしてナナとルナは口付けを交わした。口の中で舌を絡ませ、心をも通わせていく。

(私とあなたは一心同体・・この2人だけの時間を、誰にも邪魔はさせない・・たとえリナ、あなたでも・・・)

 ナナへの想いを募らせながら、ルナは決意を胸に宿していた。この幸せな時間を引き裂こうとするリナを、今度こそ倒すことを。

 それから間もなくして、ルナとナナは眠りについた。

 

 リナとの戦いと石化、その脱出。これらを切り抜けるために血と体力を消耗したルナとナナ。

 2人はリナの追跡に備えて、束の間の休息を取ることにした。

「ブラッドは血を媒体にして力を発動する。普通の生活をしていれば、自然に力を使えるくらいにまで血は戻る・・」

「そのために、ずっと家にいなくちゃいけないなんて・・・」

「外に出れば人目につく。そうなればリナに見つかってしまう・・回復していない状態で戦うことが無謀だということを、私たちは認識している・・・」

 ルナに言い聞かせられて、ナナは沈痛の面持ちを浮かべる。

「少しの辛抱だよ、ナナ・・リナなんかに、私たちだけの時間を壊させたりしない・・・」

「だったらルナ、ベットにいようよ・・・」

 深刻な面持ちを浮かべるルナに、ナナが提案を持ちかける。

「気持ちを楽にしていけば、早く回復する気がするの・・それに、同じ待つなら・・」

「ナナ・・・分かったわ・・・」

 ナナの言葉を受け入れて、ルナは微笑んで頷いた。2人は着ているものを脱ぎ捨て、ベットに横になる。

「やっぱりこうして、一緒にルナとの時間を過ごすのが1番・・・」

「しばらくした間に、ずい分わがままになったものね、あなた・・」

「あなたがそうさせたのか・・それともブラッドの血がそうさせるのか・・どっちにしても、悪いことじゃない・・・」

「ブラッドの血ね・・そうかもしれないわね・・ブラッドとしての本能が、あなたと私、お互いを引き寄せ合っているのかもしれない・・・」

 ナナの言葉にルナが笑みをこぼす。2人は手を伸ばし、互いの胸に触れる。

「この胸の中に、いろいろなものが込められているのね・・ルナのことが、何もかも・・」

「ナナの胸にもナナのことが・・ナナのことを知った今なら分かる・・」

 互いの気持ちを理解して、安らぎを込めた笑みを見せるナナとルナ。2人はそのまま抱擁をして、体をすり合わせる。

「ナナが石になっていくときの、体がひび割れていく音が伝わってきた・・ピキピキって・・リナに支配されていく音が・・・」

「私も感じたよ、ルナ・・石になって、固くなっていくのが、私の中を駆け抜けていったよ・・・」

 石化されたときの感覚を思い出して、ルナとナナが怯えをかき消そうとするかのように、強く抱きしめあう。

「このあたたかく柔らかい体が、冷たく固い石に変わっていく・・怖いというより、奇妙な気分を覚えてくる・・・」

「永遠の時間と不幸への脱却を得る代わりに、自由を奪われてその人のものになる・・・」

「ルナだったら、どっちがいいかな?・・・私は、こうして触れていく自由がないと・・・」

「ナナ・・・私も同じかな・・誰かにされたりするのは、私には合わないと思う・・・」

「やっぱり、リナに石にされているより、今のようにルナと触れられるほうが・・」

「そうね・・私も、こうしているほうが、ずっと幸せよ・・ナナ・・・ナナ・・・」

 ナナと語り合っていくうちに、ルナは涙を浮かべる。ルナは泣きじゃくるようにナナに寄り添った。

「これからはずっと一緒だよ、ルナ・・どこまでも、いつまでも・・・」

「うん・・・ありがとう、ナナ・・ナナ・・・」

 微笑みかけるナナに、ルナはひたすら頷いた。2人はこの一昼夜、肌のふれあいを過ごしたのだった。

 

 そしてそれからまた一夜が明けた。1日の休養で、ルナとナナの体力は完全に回復した。

 夜の間にリナによる誘拐事件は発生していない。奇妙なことと思いながら、ルナとナナは安堵することにした。

「リナ、私たちのことを狙ってるんだね・・・」

「せっかく手に入れたのに逃げられたのよ・・躍起にならないはずがない・・」

 ナナが切り出した言葉にルナが小さく頷く。

「今度は私たちが仕掛ける番・・もうアイツの思い通りにはならない・・」

「うん・・行こう、ルナ・・・」

 決意を新たにして、ルナとナナは歩き出していった。リナから自分たちの幸せを守るために。

(もう絶対に、あなたのものにならない・・必ずこの幸せを守ってみせる・・・)

 一途の決意を胸に宿すルナ。ナナも同じ気持ちであることを、彼女は察していた。

 2人は先日リナにさらわれた場所を訪れていた。そこならば人気がなく、リナもすぐに感付いてくるだろうというルナの判断だった。

「ここで待っていれば、リナは必ずやってくる。そのときが、大勝負のとき・・」

「もしまた石にされてしまったら、リナは2度と私たちを元に戻さないようにしてくるはず・・絶対に負けられない・・」

 ナナとルナが呟きながら、周囲に注意を払う。リナはいつどこから狙ってくるか、完全に予測できているわけではなかった。

 そしてしばらく待ったところで、ルナとナナは緊迫を覚えた。

「やっと来たみたいだよ・・・」

「リナ・・・」

 呟きかけたナナとルナの周囲に白い霧が立ち込める。2人はリナが現れたのを察知した。

「ようやく見つけたわよ、2人とも・・・」

 その霧の中から姿を現したリナ。彼女は追い求め続けてきた獲物を見つけたときの獣のような眼をしていた。

「ずっと私たちを追いかけていたみたいね、リナ・・・」

「当然よ。せっかく手に入れたオブジェが逃げられるなんて、信じられなかったんだから・・・」

 鋭く言い放つルナに、リナが妖しい笑みを見せる。だが彼女の顔からすぐに笑みが消える。

「今度は逃がさない・・もう1度オブジェにした後、逃げられないように徹底しておく。完全に、私のものにしてあげる・・・」

「そうはいかない・・私はルナと一緒に、これからも楽しくて自由な時間を過ごすんだから!」

 冷淡に言い放つリナだが、ナナも感情を見せて言い返す。ナナも自分たちの幸せのために躍起になっていた。

「場所を変える?それともここでやる?」

「あら?私にその権利を与えてくれるの?・・なら、2人とも来てもらうわよ・・」

 ルナの問いかけを受けて、リナが笑みをこぼす。濃くなった霧に包まれて、ルナ、ナナ、リナは姿を消した。

 

 ルナたちがやってきたのは、リナの屋敷。石化された女性たちのいる部屋とは別の大広間だった。

「本来ここは表向きの客と食事をするための部屋だけど、もう表の顔を装う必要はないわね・・」

 リナは大広間を見渡しながら、ルナとナナに語りかける。

「私のコレクションルームで暴れられたら困るからね。ここなら広さもあるし・・」

「なるほど。でもあなたは思い違いをしている。私たちは2度と、あなたのものにはならないということ・・」

「言ってくれるわね・・でもあなたたちが私のものになるのは決まっていること。私に眼をつけられた瞬間からね・・」

 言い返してくるルナだが、リナは妖しい笑みを消さない。

「おしゃべりはそのくらいにしていくわ・・後はじっくり、私の時間を堪能するだけ・・」

 リナが言いかけると、全身に力を収束させる。そこから放たれた衝撃波が大広間を揺るがす。

「負けられない・・それはルナだけじゃない。私も同じだよ!」

 だがナナもとっさに衝撃波を放ち、リナの力を相殺する。ルナも紅い剣を出現させて構える。

「力が回復しているようね・・でもたとえ万全の状態でも、私に敵わないことに変わりない。あのミーナという女のようにね。」

「えっ!?あなた、ミーナと・・!?

 リナの言葉にルナが驚く。リナは笑みを浮かべながら、話を続ける。

「彼女は涼しいのを望んでいたみたいよ。オブジェになったことで、その望みも叶ったというわけ。」

「あなた・・ミーナまで・・・」

 悠然としているリナに、ルナの感情が高ぶっていく。

「どこまで・・人の心を弄ぶつもりなの!?

「今さらそんな愚問を。世界中の女を私のものにする。何度も言ってきたことよ。」

 激情をあらわにするルナに対し、リナが哄笑を上げる。そこへナナが真剣な面持ちで声をかけてきた。

「リナ・・あなた、どうして女性を狙ってるの?・・本当に、ただほしいからなの・・・?」

「ナナ・・・」

 ナナが切り出した質問に、ルナが戸惑いを覚える。

「聞いてどうするの?あなたたちは私のものに・・」

「ただ支配だけだなんてない・・必ず何かあるよ・・私にもルナにも、いろいろあったから・・・」

 あざ笑うリナだが、ナナは質問をやめない。その様子を見て、リナは笑みを消した。

「私には親がいなかったのよ。親のぬくもりを知らなかった・・でも同年代の女友達とスキンシップをしたとき、その感触が忘れられなかった・・だから私は、ブラッドの力をこのように利用しているの・・」

「だから、女性をさらって石にしていたの・・・あなたも、寂しかったんですよね・・・」

 同情を投げかけるナナに、リナが眉をひそめる。

「こうしてすがりつきたいような気持ちがあったから、こんなことを・・・」

「甘えがあった・・支配したいという甘えが・・・でも私は、そんな甘える私が好きなのよ・・」

 さらに言いかけるナナに対し、リナは笑みを取り戻す。

「私はこのぬくもりを手に入れたい。そのぬくもりを持つ女は、全て私がもらうわ。」

「あくまで求めるんだね・・私とルナが、2人だけの幸せを願うように・・」

 詰め寄ろうとするリナに、ナナが物悲しく告げる。

「1度私たちを石にしたから分かるよね?・・私たちの過去を・・」

「えぇ、分かるわ。でも私には関係のないことよ。」

 言葉を跳ね除けて、リナがナナに向けて手を伸ばす。だがルナが剣を振り下ろしてきたのに気付き、リナはとっさに手を引っ込める。

「それは私も同じ。私もあなたのことは関係ない。ただ、ナナに手を出すことは許さない。それだけ・・」

「そうね・・理由を求めることは、お互い面白くないわね・・」

 鋭く言い放つルナに対しても、リナは妖しく微笑みかける。リナは両手に紅い光を出現させ、力を込める。

「あなたたちが私の心をえぐるようなことをするから、少し興奮してきてしまったわ・・少し痛い思いをさせることになりそうよ・・・!」

「生憎私たちは、弄ばれるより痛めつけられるのに慣れてるから・・」

 互いに不敵な笑みを浮かべるリナとルナ。

「私たちの絆を壊すことは誰にもできない・・たとえリナ、あなたであっても・・・!」

 ナナがリナに言い放ち、ルナの持つ剣の柄を握ったときだった。2人に握られた紅い剣が輝きを発した。

「えっ・・・!?

 リナはその光景に眼を疑った。ルナの力によって生み出された剣にナナの力が入り混じり、強靭な力となっていた。

「2人の力を掛け合わせたのね・・まさに2人力というところかしら・・」

 力の正体に感付いたリナだが、さほど動じる様子を見せない。

「たとえ何人の力を合わせても、私には通用しない。それはあのとき理解しているはずよ。」

「ううん。あのときはまだ、完全に力を合わせていなかった・・わずかだけど、力がバラバラだった・・」

 呼びかけるリナに、ナナが真剣な面持ちで言い返す。

「でも今度は違う・・完全にゼロ距離で、確実に力が合わさっている・・・」

「私にもちゃんと伝わってきている・・ナナの気持ちが、私の作り出したこの剣の中に宿っている・・・」

 ナナに続いてルナも言いかける。紅かった剣は光の強まりによって白く輝いていた。

 次の瞬間、ルナとナナはリナの背後にいた。その一瞬にリナが眼を見開く。

 さらに次の瞬間、リナの右腕に大きな切り傷が付けられた。鮮血をまき散らす自分の腕に、リナは眼を疑った。

「そんな!?・・私の体に、ここまで傷が付けられるなんて・・・!?

 愕然となるリナが傷ついた腕を押さえて振り返る。

「これは・・・!?

 リナはさらなる驚愕を覚える。ルナとナナの持つ剣は白い光を放ち、鋭く研ぎ澄まされていた。

 

 

File.13

 

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