Blood –Sexual Twin- File.11 過去と夢
リナへの抵抗もむなしく、ナナとともに石化されたルナ。意識を取り戻した彼女が眼にしたのは、果てしなく広がる暗闇だった。
(・・ここ・・は・・・)
周囲を見渡そうとしたルナだが、体は彼女の意思に反して動こうとしない。
(私、リナに石にされて、ナナと一緒に・・・)
ルナは自分たちに起きたことを思い返し、沈痛の面持ちを浮かべる。結果、リナの魔手から抜け出ることができなかった。
(リナに何もかも奪われてしまった・・・逆らうことさえできなくなってしまった・・・ナナまで・・ナナまで巻き込んでしまった・・・)
やるせなさのあまりに悲しみを膨らませるルナ。だが彼女の眼から涙があふれてこない。
(泣くこともできないなんて・・・これが、アイツのものになるということ・・・)
もはや絶望することしか許されていないと痛感し、ルナは視界を閉ざして現実逃避に走ろうとしていた。
そのとき、かすかに飛び込んできた光景に驚愕し、ルナは閉ざしかけた瞳を開く。
(あれは・・・)
ルナは見つめる光景に意識を傾ける。心の中で募らせていた疑問が明らかになっていく。
それは幼き頃のナナだった。ナナは1人寂しく泣きじゃくっていた。
(ナナ・・・子供の頃のナナ・・・でも、これはどういう・・・)
ルナは眼の前にいるナナに対して、疑問を覚える。
ルナはナナの幼少期を知らない。すぐにナナだと気づけても、子供の姿で自分の前にやってこれるはずがない。彼女はそう思えてならなかった。
(何が、どうなってるの・・・)
押し寄せてくる疑問を払拭することができないまま、ルナは流れに身を任せて、ナナに近づいていった。
(ナナ・・・ナナ・・・!)
ナナに対する気持ちを膨らませるルナ。動かなかった彼女の右手が、ナナに向かって伸びていく。
(ナナ!)
ルナがナナに呼びかけ、そばまで近づいていく。だがルナが伸ばした手は、ナナの体をすり抜けてしまった。
(えっ・・・!?)
予想外のことにルナは眼を疑った。ナナは彼女に気付くことなく、泣き続けていた。
(ナナに触れられない・・ナナのいる世界では、私には実体を持たない・・・)
ルナは自分の置かれた状態を把握した。自分はこの世界のものに触れることのできない傍観者であると自覚した。
(私は、ただ見ていることしかできないんだね・・ナナ・・・)
自分を無力に感じて、ルナは沈痛の面持ちを浮かべた。
一人ぼっちのルナが寂しく歩いていく様を、ナナはじっと見守っていた。彼女もルナに触れることができず、困惑を抱えていた。
(ルナ・・これからどこに行くっていうの・・・?)
ひたすら真っ直ぐ進んでいくルナに対し、ナナは一抹の疑問と不安を感じていた。
しばらく歩いたところで、ルナは足を止めた。そこは古びた屋敷だった。
「私はブラッド・・私は吸血鬼・・人の血を吸って生きる、血塗られた存在・・・」
ルナは無表情のまま呟きかける。その姿があまりにも辛く感じられ、ナナは困惑していた。
(ルナ・・ルナもみんなから冷たい眼で見られてたんだね・・ブラッドだから・・・)
ルナが吸血鬼故に周囲から迫害されていたことを感じ、ナナは彼女と自分を重ねていた。
自暴自棄に陥ったまま、ルナは屋敷の中に入っていった。廊下も部屋も古びており、ほこりやクモの巣が散りばめられていた。
「吸血鬼は闇に生きる存在・・日の差さない棺の中で、私は生きる・・・」
ルナは呟きながら、屋敷の地下にある棺を見つめる。それを眼にしたナナがたまらなくなる。
「ダメ、ルナ!その中に入らないで!自分の殻にこもらないで!」
ナナが体を前に突き出して、手を伸ばす。だがルナに触れることができず、彼女を止めることができない。
(触れられない・・こんなときにまで触れられないなんで・・・)
自分の虚無感を責めるナナが、悲痛の面持ちを浮かべる。悲しみのあまり、彼女は自分の胸に手を当てる。
「ルナ、私に生きる希望を与えてくれたのは、ルナなんだよ!あなたがいなかったら、私は今も闇の中にいたかもしれない!」
ナナがルナに向けて必死に呼びかける。
「ここにいるあなたは、昔の私と同じ・・周囲からの冷たい態度に打ちひしがれて、何もかもふさぎこんでいた・・震えていた私をに、ルナ、あなたが手を差し伸べてきてくれたんだよ・・」
ナナの眼から大粒の涙がこぼれ落ちていく。
「だから今度は、私があなたに手を差し伸べる・・・」
想いを募らせたナナが、再度ルナに手を伸ばす。必ず触れられるものと信じて。
その伸ばした右手が、ルナの左肩をつかんだ。
「ルナ!」
同時にナナが呼びかける。するとルナが棺に向かっていた足を止める。
心の奥底に封じ込めていたルナの感情が、表に表れていく。彼女はゆっくりと振り返り、ナナに眼を向ける。
「ナナ・・・もしかして・・ナナなの・・・?」
「ルナ・・私が分かるんだね・・・よかった・・・」
ルナに声をかけられて、ナナは喜びを込めた笑顔を見せた。
幼き頃のナナをじっと見つめていたルナ。ナナは周囲から疎まれ、迫害されていた。
吸血鬼のように思われる要素を持っていたナナは、人間でありながら吸血鬼と思われていた。そのため、いじめや暴力を受けることも多々あった。
(ナナ・・ナナも私と同じように、周りの人から理不尽にされていたのね・・・)
このいじめを止めたい気持ちに駆り立てられていたルナ。だがこの世界に触れられない彼女は、ナナを守ることができなかった。
(ここまで・・ここまで自分が弱いと思ったことはないかもしれない・・ナナを守ることさえできないなんて・・・)
込み上げてくる悲しみをこらえることができず、ルナは涙する。傷だらけになり、ナナは1人で泣いていた。
どうしてこんなにも不条理なのだろうか。なぜ自分だけがこんな思いをしなければならないのか。
ナナの心には次第に黒い感情が芽生えていた。だが彼女には、その感情を表に出す勇気もなかった。
やがてナナは大人になっていき、ルナにとって見覚えのあるまでに成長していった。
(この日まで、ナナは吸血鬼といわれて、疎まれ続けてきたのね・・・)
ナナの薄幸な経験に、ルナは眼を背けそうな気持ちを必死にこらえていた。
「イタタ・・ゴ、ゴメンなさい!大丈夫でしたか!?」
「う、ううん、大丈夫・・悪いのは私のほうだから・・・」
そして、ナナとルナは出会った。それがナナの、ブラッドとしての人生の幕開けだった。
(こうして、私とルナは出会った・・この闇に満ちた事件に巻き込まれて、その中でナナは、私と一緒に生きたいって言って・・・)
自分の中にある記憶を思い返していくルナ。彼女の背後に、幼き頃のナナが現れる。
「ナナも、辛いことを経験してきたんだね・・でもあなたは、どんなに辛いときも我慢してきた・・」
ルナが言いかけると、ナナが小さく頷く。
「そして、本当の強さが我慢することではなく、立ち向かっていくことだって・・」
「その立ち向かう勇気を与えてくれたのは、あなただよ、ルナ・・あなたと出会わなかったら、私は暗闇の中で怯えたままだった・・・」
「私はきっかけを作っただけ・・その勇気を持ったのは、あなた自身よ、ナナ・・・」
言葉を交わして、ルナもナナも安らぎを募らせていく。
「私も強くなる・・あなたが勇気を持って歩き出したように・・・」
「私も信じているよ・・ルナは私よりも、ずっとずっと強いってことを・・・」
ルナの決意に答えたときだった。ナナの姿が霧のように消えていこうとしていた。
「ナナ・・・」
「私を見つめて、ルナ・・そして一緒に暮らしていこう・・・あなたなら、必ず見つけられる・・・」
戸惑いを見せるルナに笑顔を見せると、ナナは彼女の前から姿を消した。
(ありがとう、ナナ・・私は行くよ・・・)
ナナに向けて心の声を投げかけると、ルナは自分たちのあるべき世界へと向かっていった。
互いに霧を発しながら、攻防を繰り広げていたミーナとリナ。だが能力の威力はリナが上であり、ミーナは次第に追い込まれていった。
「くっ・・私がナナに続いて、こんなに追い詰められるなんて・・・!」
「当然よ。私はそのナナをものにしている。ナナに勝てないあなたが、私に勝てるはずがないじゃない。」
毒づくミーナをリナがあざ笑う。ミーナが氷の剣を手にして、リナを見据える。
「それが通用しないことは、いい加減理解できているはずよ・・私のものになりなさい。そうすれば悪いようにはしないから・・」
「生憎、私は勝手気ままにやりたいのよ・・周りに振り回されるような生き方は、私には合わないの・・」
リナの呼びかけを一蹴すると、ミーナは微笑みながら飛びかかる。だが一閃を放ったその剣は、リナに当たった瞬間に砕け散った。
「どうやら力のほうは限界のようね・・」
妖しく微笑みかけると、リナがミーナを捕まえる。力を消耗していたミーナは、リナの拘束から抜け出ることができなかった。
「これで終わりよ。あなたもあの2人のように、美しいオブジェにしてあげる・・・」
リナがミーナに言いかけると、額の眼を開眼させた。
カッ
その眼からまばゆい光が放たれる。
ドクンッ
その眼光を受けたミーナが、強い胸の高鳴りを覚える。困惑する彼女を放し、リナが微笑みかける。
「これでもう、あなたは私のもの・・」
ピキッ パキッ パキッ
リナが言いかけた直後、ミーナの衣服が引き裂かれていく。あらわになった左腕、左胸、下腹部が石へと変化する。
「くっ・・体が石に・・これが石化・・直に味わうのは初めてだよ・・」
完全に勝機を見失ったミーナが、思わず物悲しい笑みを浮かべる。それを見てリナが笑みを強める。
「あなたも堪能できているようね・・あなたも美しいオブジェとして、私のコレクションに加わるのよ・・」
「ずい分なこと言うじゃない・・このまま涼しくなってくれれば、私はとりあえずいいんだけど・・・」
「それはいいこと、いいこと。でもちょっとだけ、私の時間に付き合ってもらうわよ・・」
リナは言いかけると、石化して身動きの取れなくなっているミーナの石の胸に手を当てる。
ピキッ ピキッ
その間にも石化は進行し、ミーナの両足の先まで到達していた。その変化にミーナが戸惑いを覚える。
「こ、こりゃきついわね・・完全に石になる前に遊ばれるわけ・・?」
「そうよ。あなたはもう私のもの。何をされても、あなたは私に逆らうことはできないのよ・・」
リナに体を触れられて、ミーナが頬を赤らめる。リナは顔を近づけ、石化していないミーナの右胸の乳房に口をつける。
「ちょっと・・これは涼しくないじゃないの・・・」
「そう?私はとても気分がいいわよ?」
苦言をもらすミーナの体を、リナはさらに弄んでいく。その接触に快感を覚えて、ミーナがあえぎ声をもらす。
「涼しいのがあなたの好みのようだけど、こういうのも悪くないと思うけど?」
「こ、こりゃ熱くなりすぎでしょうに・・・」
妖しく微笑んでくるリナに、ミーナがあえぐ。リナに石化した腕や足、胸や尻を触れられて、ミーナはさらに快楽を覚えていく。
「もういいよ・・涼しくさせてくれるなら、好きにしていいよ・・・」
「そうさせてもらうわね・・大丈夫。悪いようにはしないから・・」
呟くように言いかけるミーナに、リナが小さく頷きかける。リナはミーナから手を放し、彼女の裸身を見つめる。
ピキッ ピキキッ
石化が進行を再開し、ミーナの右腕と右胸を固めていく。一糸まとわぬ姿となった彼女の首元や頬にも、石化が侵食していく。
「これでずっと・・私も涼しくなれるかな・・・」
ピキッ パキッ
呟きかけるミーナの唇も髪も石に変わっていく。
フッ
その瞳にヒビが入り、ミーナは完全に石化に包まれた。彼女もリナの力に支配されてしまった。
「これでまた、私のコレクションが増えたわね・・私に敵う者は、この世界に存在しない。たとえブラッドであってもね・・」
リナがミーナの石の裸身を見つめて、妖しく微笑みかける。
「ちょっと難易度は高めだったけど、その分大きな収穫だったわね、今夜は・・」
リナは言いかけると、ミーナを抱えてコレクションルームに戻っていった。
「これだけ多くの女を私のものにしてきた・・でも女はこの世界にまだまだたくさんいる・・その女全員をものにしたとき、爽快な絶景となることは間違いない・・」
さらなる期待と欲望に胸を躍らせるリナ。
「私は実現させてみせる。そのすばらしい理想を・・その理想が現実となったとき、私の心は満たされる・・・」
喜びのあまりに哄笑をもらすリナ。彼女はミーナを抱えて、コレクションルームに戻ってきた。
だがそのとき、リナは部屋の中に違和感を覚え、笑みを消して眼を見開く。
「えっ・・・!?」
たまらず声を荒げるリナ。石化された女性たちの中に、ルナとナナの姿がなくなっていた。
互いを求めて心の世界を駆け抜けていくルナとナナ。しばらく進んでいったところで、2人はついに再会することができた。
「ナナ・・・」
「ルナ・・・」
かけがえのない人の顔と、一糸まとわぬ裸身を見つめて、2人は戸惑いを見せる。
「私、知ることができた・・ナナのこと・・ナナが今まで経験してきたことを・・・」
「私も知ったよ・・・ルナも私と同じように、辛くて寂しい思いをしてきたことを・・・」
自分の見てきたことを告げると、ルナとナナはそれぞれ右手と左手を伸ばし、手を握り合う。
「これは言葉では表せない・・表したくない経験・・・」
「一人ぼっちは寂しいよね・・だから私たちは、こんなにすがりたくなってく・・・」
「ナナ・・私があなたがいなかったら、この先生きていけない・・・」
「私もだよ・・ルナ・・・」
ルナとナナが微笑みかけて、体を寄せ合っていく。
「ナナ・・・」
「ルナ・・・」
気持ちに引き寄せられるかのように、2人は口付けを交わした。2人の気持ちが再び結びついた証明だった。
しばらく口付けをした後、ルナとナナは唇を離す。互いの顔を見つめ合い、2人は改めて声をかける。
「帰ろう、ナナ・・私たちのいるべき場所へ・・・」
「そうだね、ルナ・・・帰って、また楽しい時間を過ごそう・・・」
ルナとナナは振り返り、暗闇を照らす光を眼にする。2人は迷うことなく、その光へと向かっていった。
リナによって石にされていたルナとナナ。だが本当の心の強さを得たことで、2人はリナの力を跳ね除け、石化から解放された。
「ルナ・・・元に、戻った・・・」
「うん・・・帰ろう、ナナ・・私たちの家に・・・」
当惑を見せるナナに、ルナが小さく頷く。
「本当はみんなを助けたいけど、今の私たちにはその力は残っていないから・・・」
「近いうちに助けることになるから・・・今度は一緒に力を合わせて、全力で立ち向かおう・・」
沈痛の面持ちを浮かべるナナにルナが言いかける。2人は一緒に歩き出し、部屋を飛び出していった。