Blood –Sexual Twin- File.10 支配と石化
連れてこられた部屋の光景を目の当たりにして、ルナとナナは驚愕を覚えた。部屋には何体もの全裸の女性の石像が立ち並んでいた。
「これって・・・!?」
たまらず声を荒げるナナ。リナが石像たちを見回して、優越感を覚える。
「ナナ、あなたには初めて教えることになるわね・・ここにいるのは元々は人間の女たち。それを私が美しいオブジェにしてあげたのよ。」
「それじゃ、みんなあなたにさらわれた・・・!?」
リナが語りかけた言葉に、ナナが困惑するばかりだった。
「みんな感謝していると思うよ。美しくなれたことを、永遠を手に入れられたことを。」
「ふざけないで・・あなたに何もかもムチャクチャにされて、感謝しているはずがないでしょう!」
笑みを強めるリナに憤慨するルナ。だがリナは悠然さを崩さない。
「どちらにしても、世の中の女は全員私のものになる。その体を私に差し出すことになる。もちろんあなたたちもね。」
「冗談じゃないって!私たちは、あなたのものになんてならない!必ず抜け出して、あなたをやっつけて・・!」
リナの言葉に反発するナナ。だが力が残っていないため、手足の錠を外すことができない。
「今のあなたたちにそれができるはずもない・・このまま私のものになるしかないのよ。」
哄笑を上げるリナの前で、歯がゆさを募らせるルナとナナ。
(どうしてこんなときに力が出ないの・・私の力は、こんなものじゃないはずだよね・・・?)
自分に強く言い聞かせるナナ。
(ルナを守ろうという気持ちは、こんなものじゃないはずじゃない・・だったら、こんなところで立ち止まっている場合じゃないよ・・・)
意識を集中するナナの体から淡い光が宿る。
(お願い・・私に、ルナを守るための力を・・・!)
集中力が高まったとき、ナナが全身から閃光を放出する。その衝撃にリナが眼を見開く。
「まさか・・まだそんな力が残っているなんて・・・!?」
ナナの底力を垣間見て、リナが毒づく。ナナが力を振り絞り、手足の錠を強引に引きちぎる。
「私もルナも、あなたに絶対に負けないから!」
「ナナ!」
奮起するナナに、ルナが声を荒げる。リナもナナに脅威を覚え、身構える。
「これほどまでに力があったとは・・正直、驚かされたわね・・・」
「私はルナと一緒に帰る・・あなたに邪魔はさせない・・・!」
リナに向けて鋭く言い放つナナ。ルナを磔にしている手足の錠を引き剥がし、自由にする。
「ルナ、大丈夫!?」
「ありがとう、ナナ・・でもその体で、こんな力を使ったら・・・」
感謝すると同時に、ルナはナナの心配をする。
「リナをやっつけたいのが本音だけど、ここはもう逃げたほうがいいと思うよ・・」
ナナの言葉にルナが頷く。だがリナがそれを見逃さない。
「何度も言わせないで。あなたたちは私から逃げることはできないのよ。」
「ううん、逃げてみせる・・あなたのものには、絶対にならない!」
リナの言葉にあくまで反発するナナ。
「強情なのね・・ならば何度でも捕まえて、このコレクションに加えてあげる・・・!」
リナが眼を見開き、白い髪を伸ばす。ルナとナナは横に飛び退いて、その髪をかわす。
「何度も捕まるわけにいかないって!」
ナナがとっさにリサに向けて言い放つ。リサがルナとナナを狙って、さらに髪を伸ばしていく。
ルナとナナは回避を繰り返しながら、部屋の扉を探る。
「何でもいい・・近くに出入り口さえあれば・・」
ルナが部屋の周りを必死に見回す。すると彼女はついに、部屋に扉を発見する。
「ナナ、あそこから!」
「ルナ!」
ルナの呼びかけにナナが答える。だが2人の前にリナが立ちはだかる。
「逃がさないと言っているでしょう?」
悠然とした態度で2人を狙うリナ。
「強行突破だよ、ルナ!抜け出せればこっちのものだよ!」
ナナの呼びかけを受けて、ルナが力を振り絞り、紅い剣を出現させることに成功する。
「ここで逃げられなかったら、何もかもお仕舞いだからね!」
ルナは間髪置かずにその剣を突き出す。その刀身が、リナの右肩を貫いた。
その攻撃に顔を歪めるリナが怯み、その場にひざを付く。
「今のうちに、ナナ!」
「うんっ!」
ルナとナナが扉に向かって走り出す。リナの横をすり抜け、部屋を出たときだった。
そのとき、ナナの体に鋭い何か貫通してきた。その衝撃にナナが吐血する。
「ナナ!?」
血を流すナナの姿に、ルナが眼を疑う。走りこむ勢いのまま、ナナが前のめりに倒れ込む。
「ナナ!」
ルナが立ち止まり、ナナに駆け寄る。激しい痛みのあまり、ナナは意識がもうろうとなっていた。
「少しひどくやってしまったけど、逃げられるよりはいいわね・・」
そこへリナが現れ、ルナに声をかけてきた。もはや打開の糸口が見出せず、ルナは愕然となる。
「もういいわよね?今度こそ私のものになってもらうわよ。」
リナがルナとナナに鋭い視線を向ける。彼女の額に亀裂が生じ、大きく開かれた。
カッ
新たに開かれた第3の眼から、まばゆいばかりの光が放たれる。
ドクンッ
その光を受けたルナとナナが強い胸の高鳴りを覚える。その衝撃にさいなまれて、2人は呆然となる。
「この衝撃・・これが、石化の・・・!?」
「これであなたたちも私のもの。これから自分がオブジェになっていくのをじっくり堪能しなさい・・」
呟きかけるルナにリサが言いかけたときだった。
ピキッ ピキッ ピキッ
突如、ルナとナナの靴と靴下が引き剥がされた。あらわになった素足が白く冷たくなり、所々にヒビが入っていた。
「この石化・・お姉さんのときと同じ・・・!」
「思い出すといいわ、ルナ・・あなたのお姉さんの気持ちを・・」
愕然となるルナに、リナが妖しく微笑みかける。石化した両足は、ルナの意思に反して動かなくなっていた。
「もうどんな抵抗も意味はない。あなたはこのままオブジェになって、私のコレクションに加わるのよ・・でも不安になることはない。愛し合っている2人一緒なんだから・・」
ピキッ ピキキッ
リナが言いかけると、ルナとナナにかけられた石化が進行する。石にされた下半身があらわになる。
成す術を失くし、頬を赤らめるルナ。瀕死に追いやられていたナナは、虚ろな面持ちを浮かべていた。
「ナナ・・・ゴメン・・私・・・」
ナナを気にかけながら、ルナが攻撃を加えようとする。だがかざそうとした右手を、リナに押さえられる。
「往生際は悪くしないほうがいいわよ。見苦しいだけだから・・」
リナに囁かれて、ルナは愕然となる。全ての打開の策を潰され、抵抗する意思を見せなくなってしまう。
「そう。それでいいのよ。あなたたちはもう何もしなくていい。オブジェになればいいだけなんだから・・」
リナはルナの手を離すと、2人をまじまじと見つめる。
「ルナ・・・私のせいで、こんな・・・」
「違うよ、ナナ・・私が守りきれていたら・・・」
互いに言葉を掛け合うナナとルナ。2人はもはや体だけでなく、心までも疲れ果てていた。
ピキキッ パキッ
石化がさらに駆け上がり、ルナとナナの体を固めていく。衣服が完全に引き裂かれ、2人は一糸まとわぬ姿となっていた。
「ナナ・・もういいよ・・もう私たちのすることは、何も・・・」
「そうだね・・このまま一緒に・・・」
ルナの言葉にナナが小さく頷く。2人は互いの石の体を優しく抱きしめた。
「石になってるけど、ナナのあたたかさは、きちんと感じ取っているよ・・」
「私もだよ、ルナ・・・あったかい・・・」
互いのぬくもりに安らぎを覚え、ルナとナナが微笑みかける。
パキッ ピキッ
石化は2人の手の先まで到達し、首元にまで及んできていた。
「ナナ・・・」
「ルナ・・・」
ルナとナナは互いの体と心に自分の全てを預けた。
ピキッ パキッ
唇までも石に変わり、2人は声を出せなくなる。2人の眼から涙があふれてくる。
フッ
その瞳にヒビが入り、同時にその涙があふれ、石の頬を伝う。ルナとナナは完全に石化に包まれた。
「フフフフ。やったわ・・これでこの2人も私のもの。美しいオブジェとして、私のコレクションに加わることとなった・・・」
石化した2人を見つめて、リナが歓喜の笑みをこぼす。
「この世界にいる美女は全員私のものとなる。たとえブラッドであっても、それは変わらない・・」
リナはナナの石の頬に手を添えて、自分が掌握したことを改めて実感する。
「あなたも相当苦労してきたのね。今なら分かる。でも私のものになれば、その苦労をもう感じることもない・・」
ナナの顔を見つめて、リナが妖しく微笑む。リナにはナナとルナの記憶が理解できていた。
リナによって石化された人は、彼女に心のうちが筒抜けとなってしまう。掌握を証明するかのような現象を、リナ自身がもたらしていた。
「では行くとするわね。私のコレクションルームへ・・」
リナは白い髪を伸ばし、ルナとナナの体に巻きつける。そのまま2人を持ち上げ、彼女は部屋に戻っていった。
部屋の真ん中に2人を置くリナ。そして再び2人を見つめる。
「光栄に思うことね。私のコレクションの中で指折りのオブジェとして、あなたたちが選ばれたのよ。フフフフフ・・」
ルナとナナを最高峰に据えて、リナが哄笑をもらす。
「あなたたちの心をもっとよく知っておきたいわね・・その体、たっぷりと弄ばせてもらうわよ・・」
リナが手を伸ばし、ルナの石の肌に触れる。そのまま彼女の体を撫で回していく。
「これが支配されるということよ。こうして好き放題にされているのに、抵抗するどころか指一本動かせない・・オモチャのように遊ばれるしかないのよ・・」
背中や腕や足、さらには胸に尻まで触れていくリナ。だが完全に石になっているルナとナナは何の反応も見せない。
「そう・・あなたたちはもう、私のものなのよ・・・」
しばらく2人の体を撫で回したところで、リナは2人の体から手を離す。その手の指先を舐めて、彼女は快楽を覚える。
「私のコレクションの中にいれば、あなたたちは苦しみを感じることはない・・あなたたちにとっても、幸せなことだけど・・?」
「おや?こりゃクールなことになってるねぇ〜・・」
感嘆に浸っていたところで突如声をかけられ、リナが笑みを消す。振り向いた先には、ワインを口にしているミーナの姿があった。
「あなた・・どうしてここに!?・・どうやって中に・・!?」
「どうって・・玄関から入ってきたけど〜・・?」
問いかけるリナに、ミーナが気のない返事をする。
「すごいね、こりゃ・・石にするだけじゃなくて、着ているものを引き裂いちゃうんだから・・みんな涼しくなっていいじゃないの〜・・」
「当然よ。私のコレクションに加わったオブジェに勝る美は存在しない。みんな感謝を感じているはずよ。」
ミーナが言いかけた言葉に、リナが微笑んで頷く。
「丁度、新しくコレクションに加わったのがあるの。しかも私から見て指折りのオブジェよ。」
「おや?この2人、ルナとナナじゃないの〜・・2人もあなたにやられちゃったの〜・・?」
「やられた・・そういうことになるわね。でも相手が私だから、負けることは絶対に恥じゃないから・・」
ミーナの問いかけにリナが淡々と答える。ミーナは石化されたルナとナナの裸身をまじまじと見つめる。
「美しいでしょう?この2人はオブジェの最高峰というべきもの。2人も苦痛や不幸を感じる必要がなくなって、安らぎを感じていると思うわ。」
「安らぎねぇ〜・・私としちゃ安らぎに思えるんだけどね・・・」
語りかけるリナの言葉を聞いて、ミーナの表情が曇る。
「この2人、私が遊んでいたんだけど・・・」
ミーナがリナに向けて冷たい視線を投げかける。だがリナは悠然さを崩さない。
「まるで、獲物を取られた獣の感じね。相当ご立腹のようね・・」
「これでも怒りっぽいほうだとは思ってないけど・・さすがに今回ばかりはねぇ・・・」
言いかけるリナを見据えて、ミーナが意識を集中する。彼女の体から白い冷気があふれ出してくる。
「石もいいけど、氷のほうも堪能してみる?ただし、被害を受けるのはあなたのほうだけど・・」
「悪いけど被害者にはならないわよ。それとも、あなたも私のコレクションに加わりたいの?」
互いに言葉をぶつけ合うミーナとリナ。ミーナの周囲に氷の刃が出現する。
「あなたもブラッドとはね・・場所を変えさせてもらうわよ。私のコレクションをムチャクチャにされたくないもの・・」
「ご自由に・・あなたが凍らされることに変わりはないから・・」
言いかけて部屋を出るリナと、それを追うミーナ。廊下に出たところで、ミーナが氷の刃を放つ。
「真っ向から攻めてくるの・・けっこう大胆ね・・」
リナは妖しく微笑みかけると、衝撃波を放ち、向かってくる氷の刃を叩き落とす。砕かれた氷を眼にして、ミーナが一瞬驚く。
「あなたもなかなかのものだけど、相手が悪かったわね・・」
「あなたも見かけと違って暑苦しいじゃないの・・私が冷やしてあげる・・・」
再び声を掛け合うリナとミーナ。ミーナが氷の剣を出現させて、リナを見据える。
「少し痛い思いをすることになるけど、我慢してもらうよ・・・」
「生憎、我慢するのは好きじゃないの。自分も周りも楽にならないと・・」
ミーナが口にした言葉にリナが淡々と返す。次の瞬間、ミーナが一気に飛びかかり、ルナの懐に入り込んできた。
間髪置かずに氷の剣をふりかざすミーナ。だがリナはその一閃を衝撃波で威力を殺しつつ、受け止める。
「えっ・・・」
「こんなものなの?・・私は寒いよりも熱いほうが好きよ。というより、興奮するのが好きなのよ・・」
眼を見開くミーナに、リナが囁くように言いかける。
「あなたにも、その興奮を感じさせてあげる・・」
リナは氷の剣の刀身を引き込み、ミーナを引き寄せる。
「あなたも、私のものになりなさい・・・」
リナが石化をかけようと第3の眼を開こうとする。
だがそのとき、ミーナが全身から吹雪をまき散らす。その冷たい風に視界をさえぎられるリナ。
「悪あがきを・・でも霧で姿を隠すのは、あなたの十八番だけではないのよ・・」
リナは笑みを取り戻すと、自身も白い霧を発して姿をくらます。2人の姿は2種の霧によって完全に隠された。
リナによってルナとともに石化されたナナ。だが彼女の意識はまだ失われてはいなかった。
(私・・確か、リナに石にされて・・・)
心の中で、自分に起きたことを思い返していくナナ。
(指一本動かせない・・感覚までなくなってる気までしてくる・・・)
石になった体に戸惑いを募らせていく。
(氷付けにされたときも、水晶に封じ込められたときも似たような感じだったけど、今回の石化は違う・・固まっていると感じながら、とても不思議な気分を感じてる・・自分が自分でないような感じが強い・・・)
どうしたらいいのか分からず、ナナは途方に暮れていた。自由に動くことができず、彼女は今いる暗闇の中を流れていくだけだった。
そのとき、ナナはその暗闇の中で現れた光景を見つけ、眼を凝らす。その光景に彼女は驚きを覚える。
1人寂しく泣いている少女。ナナにはその少女が誰なのか、すぐに分かった。
(ルナ・・・!?)
その少女、幼き頃のルナに、ナナは動揺を隠せなかった。