Blood Sexual Twin- File.9 闇夜と微笑

 

 

 驚異的な力を発揮したナナの前で、ミーナがルナを閉じ込めている氷塊に手を当てた。ルナの命は今、ミーナの手の中にあった。

「私の力で凍らされている彼女は全くの無防備。私がちょっと力を加えるだけで、彼女の命も粉々になるよ・・」

 ミーナがナナに向けて淡々と言いかける。

「彼女をホントに助けたいと思ってるなら、あなたも大人しく氷付けに・・」

 ミーナが言いかけた瞬間、笑みを消した。その直後、彼女の右肩を細い光線が貫いた。

 ナナがミーナに向けて光線を放っていた。直前に彼女の殺気を感じ取り、ミーナは回避しようとした。もしも反応していなかったら、心臓を貫かれて即死していただろう。

「こりゃシャレにならないよ、まったく・・ここまでくるとホントの悪魔だね・・」

 焦りを覚えたミーナが白い霧を放つ。ナナは彼女を追わず、ルナを助けることに専念した。

 ルナを閉じ込めている氷塊に力を込め、ナナは粉砕する。解放されたルナを受け止め、ナナは呼びかける。

「ルナ!しっかりして、ルナ!」

「・・ナナ・・・ゴメンね・・油断してしまって・・・」

 ルナが答えると、ナナが安堵の笑みをこぼす。安心したナナが、ルナを強く抱きしめる。

「ルナ・・本当に、よかった・・・」

「ナナ、苦しいよ・・強く抱きすぎだって・・」

 喜びを見せるナナと、苦笑いを浮かべるルナ。

「ところでナナ、ミーナはどうしたの・・!?

「逃げられちゃった・・ルナを助けるのが先だと思って・・」

 ルナの問いかけにナナが答える。ミーナの姿は完全にこの場から消えていた。

「とにかく戻ろうよ、ルナ・・あなたも私も、今日は疲れてるから・・」

「そうね・・今は休まないとね・・」

 ナナとルナが頷きあい、家に戻ることにした。

 

 街から離れた静かな通り。その道を歩く数人の少女たちがいた。

 少女たちはカラオケの帰りで、帰路に就いたのは日が落ちてからだった。

「ふぅ・・ちょっとやりすぎちゃったね・・」

「門限過ぎちゃってるけど、気にしない、気にしない・・」

 少女たちが口々に言葉を交わしていく。それぞれの家に別れる分岐点に差し掛かろうとしたときだった。

 少女たちの周囲に、突如白い霧があふれてきた。その異変に少女たちが不安を覚える。

「何、この霧・・・?」

「この都会に霧が出るなんて・・・」

 少女たちが濃くなっていく霧に不安を募らせたときだった。

「キャアッ!」

 少女の1人が悲鳴を上げた。彼女は突如伸びてきた何かに足を引っ張られたのである。

「もうお前たちは逃げられない・・フフフフフ・・」

 霧の中に響き渡る不気味な哄笑に、少女が恐怖を覚える。霧の中に光る眼光が、彼女たちを狙っていた。

 その夜、少女たちが自宅に戻ることはなかった。

 

 ミーナとの戦いから一夜が明けた。ルナとナナは昨晩に起きた、新たなる奇怪な事件を知る。

 少女数人が忽然と姿を消してしまった。警察は誘拐の線を濃厚にして、調査に当たっていた。

「また誘拐事件かな・・またブラッドが・・」

「まだ断定はできないけど、警察もその方向で調べてるようね・・」

 ナナの呟きに、ルナが真剣な面持ちで答える。

「今度は複数の人数をいっぺんに集めてるみたい・・いなくなった美女たちも犯人の手がかりも見つかっていない・・」

「今度も囮作戦で行きましょう。ただし今度は2人一緒にね・・」

 続けて言いかけるナナに、ルナが提案する。ルナは以前にナナに心配させたことを後悔していたのだ。

「私たち2人なら、どんなことも乗り切れる。そうでしょう?」

「うん・・もう絶対に、ルナに寂しい思いはさせないから・・」

 ルナの問いかけに答えるナナ。2人は信頼を込めて抱擁をした。

「これからもずっと、ルナを守っていくから・・ルナが私に、生きる理由をくれたから・・」

「それは私も同じ気持ちだよ・・ナナがいなかったら、私は今も闇の中をさまよっていたと思う・・」

 互いに感謝の意を示す2人。この絆がある限り、どんなことも乗り切れると信じて。

 

 この日の夜、ルナとナナは行動を開始した。新たなる美女誘拐事件の犯人を突き止めるべく、2人は人気の途絶えた夜の道を歩いていた。

「また現れるのかな、美女をさらいに・・?」

「単に美女を狙っているのなら、また現れるはずよ・・こうして歩いていれば、向こうから現れるはず・・」

 ナナが言いかけると、ルナが周囲に注意を払いながら答える。2人は警察の眼にも注意を傾けていた。余計な厄介事を起こしたくなかったからである。

「この辺りなら十分狙いやすいと思うけど・・」

「もしかして、逆に警戒しているのかもしれない・・これだけ狙いやすくされたら・・」

 人の気配がまるで感じられないほどの静寂な場所に行き着いたナナとルナ。そのとき、ナナは唐突に語りかけた。

「そういえばルナにまだ話していなかったね・・昔の私のこと・・」

「ナナ・・・」

 ナナが切り出した言葉に、ルナが戸惑いを見せる。

「私の両親、私が子供のときに亡くなったの・・別にブラッドとかそういうのに殺されたんじゃなくて、ただの事故で・・」

「・・・ナナの辛い過去は、もっと前から始まっていたのね・・」

「それから親戚の家で過ごしてたんだけど、あまり迷惑はかけられないって、高校に入るときに寮生活を決めたの・・」

 物悲しい笑みを見せるナナに、ルナも困惑する。ルナは改めて、ナナと昔の自分を重ねていた。

「私も同じよ、ナナ・・・」

「えっ?・・ルナも・・・?」

 ルナが切り出した言葉に、ナナが驚きの声を上げる。

「私の両親も、私が幼い頃に亡くなった・・怪物に殺されたの・・・その怪物は殺されたと聞いたけど、悲しみはなかなか消えなかった・・」

「ルナ・・・」

「そんな私を支えてくれたのがレナお姉さんだった・・お姉さんがいたから、私はふさぎこむことはなかった・・・でも・・」

 語り続けていくルナの表情が徐々に曇っていく。

「数年前、お姉さんがさらわれた・・正確には石にされたの・・」

「石に・・・!?

 ルナの口から出た言葉に、ナナが息を呑む。

「その石化は、身につけているものを全て破壊して丸裸にしてしまうものなの・・お姉さんは私の眼の前で石にされて・・・」

 ルナは言いかけて言葉を詰まらせた。その姉がそのまま連れ去られたことを、ナナには容易に想像できた。

「もしかしたら、その人が今回の事件の犯人かもしれないと・・」

「うん・・私の思い過ごしならいいのだけれど・・・」

 不安を見せるナナに、ルナが沈痛の面持ちで頷く。だがナナは心の中にある嫌な予感を拭うことができずにいた。

 そのとき、ルナとナナの周囲に白い霧が立ち込めてきた。その異変にナナが緊迫を覚える。

「この霧・・・まさか・・・!?

 ルナが突如恐怖と戦慄に駆られて、体を震わせる。

「ルナ、どうしたの!?・・もしかして・・!?

 ルナの異変を目の当たりにしたナナも不安を覚える。すぐ近くに、邪な力を持った何者かがいる。

「これでお前たちはもう逃げることはできない・・・」

 立ち込める霧の中に、不気味な声が響き渡る。ナナは注意を払い、その声の主の居場所を探る。

「姿を現して!その気になれば、こんな霧なんて・・!」

 ナナがその犯人に向けて言い放つ。すると白い霧の中から黒い影が現れてきた。

 黒い衣服に体を包み込んだ長い白髪の女性。不気味さが全身からあふれ出ている女性だった。

「あなたが、昨晩に女性たちをさらった・・!?

「この私を誘い出すつもりでいたようね・・ずい分と物好きなことだけど、後悔することになるわよ・・フフフフフ・・」

 問いかけるナナに、女性が不気味な笑みを浮かべて答える。

「その姿・・その声・・・間違いない・・・あなたは姉さんをさらった・・・」

 ルナが低い声音で、女性に言いかける。彼女を見た女性が眼を見開く。

「あら?懐かしい顔ね。久しぶりね、十六夜ルナ・・」

「軽々しく私の名前を呼ばないで・・・!」

 妖しく微笑みかける女性に、ルナが憤りをあらわにする。

「あなたが矢吹ナナね。あなたのことは小耳に挟んでいるわよ。」

 女性に声をかけられて、ナナが息を呑む。

「自己紹介をしておくわね。私は石野(いしの)リナ。」

 女性、リナが不気味な笑みを浮かべて語りかける。

「あなたたちはもうここから逃げられない。この霧は狙った獲物を閉じ込めるためのものだから・・」

「そうやってお姉さんを閉じ込めて、石にしたというの・・・!?

 淡々と言いかけるリナに、ルナが声を荒げる。

「次の標的はあなたたちの番よ。美しいオブジェになれるのを、光栄に思うことね。」

 リナは言い放つと、長い白髪を揺らめかせてきた。その髪が伸びて、ルナとナナを狙う。

「これ以上、あなたの思い通りにはさせない!」

 いきり立ったルナが紅い剣を手にして、リナの髪を切り裂く。

「あら?あなたもブラッドになっていたのね?」

 その剣を眼にしたリナが眉をひそめる。

「でもそのくらいのことで私を止められると思っているの?」

 リナは眼を見開くと、右手を突き出して衝撃波を放つ。その衝撃に押されて、ルナが突き飛ばされる。

「ルナ!」

 ナナが声を荒げ、ルナに駆け寄る。だがルナはすぐに立ち上がり、リナを鋭く睨む。

「ブラッドになっても大したことはないのね。せいぜい人間だったときよりわずかに力が増したぐらいというところね。」

「ふざけないで・・あなたは私が・・私の手で・・!」

 悠然さを見せるリナに、ルナがさらに苛立つ。そこへナナが手を出し、ルナを制する。

「落ち着いて、ルナ。取り乱したら、自分自身もムチャクチャになっちゃうって言ってくれたのは、ルナだよ・・」

 ナナに呼びかけられて、ルナは我に返る。困惑を募らせた後、ルナは気持ちを落ち着かせる。

「ゴメン、ナナ・・リナが許せないばかりに、こんな気持ちになってしまって・・・」

「気にしないで。誰だって怒ったり取り乱したりすることはあるから・・」

 謝意を見せるルナに、ナナが微笑んで言いかける。

「仲がいいのね、2人とも。安心しなさい。2人とも一緒に連れて行くから・・」

 そこへリナが妖しい笑みを浮かべて声をかける。それを聞いたルナとナナが真剣な面持ちを浮かべる。

「いい加減真面目にやらせてもらうわ・・あなたを倒して、お姉さんやみんなを解放する・・・!」

「ムリな話よ、それは・・あなたたちも私のものになるのよ・・」

 言い放つルナに対し、リナが笑みを強める。

「ルナを傷つけたあなたを、私も許さない・・・!」

 そのとき、ナナが全身から紅いオーラを放出させる。彼女に眼を向けたリナが笑みをこぼす。

「それがあなたの力なのね、ナナ。どれほどのものなのか、私が確かめてあげる。」

 リナがナナに向けて右手をかざす。ナナが眼つきを鋭くして、リナに向けて閃光を解き放つ。

 だがリナはその閃光を受け止め、振り払って弾き飛ばしてしまった。

「えっ!?

 攻撃が通じなかったことに驚愕するナナ。リナが白い髪を伸ばして、ナナの手足を縛りつける。

「しまっ・・キャッ!」

 体を持ち上げられ、思わず悲鳴を上げるナナ。手足を縛られ、ナナは体の自由が利かなくなっていた。

「ナナ!・・ナナを放しなさい!」

 ルナが剣を振りかざし、リナの髪を切り裂こうとする。だが別の髪に体を締め付けられてしまう。

「しまった!体が・・!」

「フフフフフ・・これで2人とも捕まえたわよ・・」

 苦悶の表情を浮かべるルナとナナを見つめて、リナが妖しく微笑みかける。

「あなたの攻撃は相当のものだったわよ。私の手に傷をつけるとは・・」

 リナは言いかけて、ナナの光を受け止めた右手を見つめる。その手のひらは火傷の跡で満ちていた。

「このお礼はしておかないといけないわね・・遠慮せずに受け取りなさい!」

 眼を見開いたリナがさらに髪を伸ばす。体中を髪で締め付けられ、ルナとナナがうめく。

 その苦痛にさいなまれて、2人は意識がもうろうとなる。

「傷を付けられることはあまり快いものではないの。だから私が受けた痛みを、そのままお返しさせてもらうわよ・・・!」

 リナが伸ばしている髪にさらに力を込める。押し寄せる激痛に耐え切れず、ルナが手から剣を離してしまう。

「こんなところで・・せっかく得た、私とナナの幸せを・・・!」

 必死に抵抗しようとするルナだが、意識が途切れ、脱力する。動かなくなった彼女を見て、リナが笑みを強める。

「結局、私に振り回されるしかないのよ。あなたは昔から・・・あなたもそろそろ限界のはずよ・・大人しく私のものになりなさい・・」

 リナがナナに視線を向ける。ナナは意識を保とうと懸命になっていた。

「諦めない・・諦めたら、そこで何もかも終わってしまうから・・・!」

「見かけによらず強情なのね・・でも私から逃げることはできないのよ、あなたも・・」

 力を振り絞るナナを、リナがあざ笑う。

「そんなことない・・あなたなんかに、ルナは渡さない・・あなたなんかに、私たちは捕まらない!」

 叫ぶナナから紅い光があふれ出る。彼女は強引に髪を引きちぎろうとする。

「ムダよ。力を注いだ私の髪はワイヤー以上の強度があるのよ。簡単に破れるはずが・・」

 リナが言いかけたときだった。ルナが持てる力の全てをつぎ込み、閃光を放出する。その力が、彼女を縛る髪を切断する。

「バカな・・・!?

 自分の力が破られたことに驚愕するリナ。束縛から解放されたナナが、リナに眼を向ける。

 だがその直後、ナナを覆っていた紅い光が突如消失する。彼女の体が力なくその場に倒れ込む。

「驚かせてくれるわね。よくここまでやったと褒めておくことにするわ・・」

 リナが安堵を浮かべて、倒れているナナを見つめる。ナナは髪から脱出するあまり、力を使い果たしてしまったのである。

「これで今度こそ、あなたたちの抵抗は終わり。このまま私のものとなることに変わりはないの。」

 リナは淡々と呟きかけると、ナナを抱える。

「では行くわよ。私の屋敷に・・」

 気絶しているルナとナナを連れて、リナは白い霧の紛れてこの場を去っていった。

 

 ルナとナナが眼を覚ましたのは、暗闇に満たされた部屋の中だった。

「・・んん・・・」

 重いまぶたを開けて、ルナが周囲を伺う。部屋には明かりがついておらず、暗闇だけが広がっていた。

 自分のいる場所がどこなのかを確かめようとするルナ。そこで彼女は、自分が手足を縛られて磔にされていることに気付く。

(完全に捕まっているということね・・力が残っているなら、このくらい・・・)

 必死にもがくも手足の錠を外すことができず、ルナが歯がゆさを覚える。

「ルナ・・・」

 そのとき、ナナがルナに向けて弱々しく声をかけてきた。

「ナナ・・眼が覚めたのね・・・」

 ルナが微笑みかけるが、この状況を打破できないことに変わりはなく、深刻さを募らせる。

「ゴメンね、ルナ・・私、力が残っていないの・・・」

「私もだよ、ナナ・・私たちの力でも、リナを止められないなんて・・・」

 沈痛な面持ちを見せるナナと、打開の策を必死に模索するルナ。

「意識が戻ったようね、2人とも。」

 そのとき、突如闇から響き渡った声に、ルナとナナは戦慄を覚える。その闇の中から、リサが姿を現した。

「リナ・・・!」

 ルナがリナに向けて鋭い視線を向ける。しかしリナは妖しく微笑むばかりだった。

「ようこそ、2人とも。私のコレクションルームへ・・」

「コレクション・・・!?

 リナが言い放った言葉にナナが息を呑む。その直後、暗闇に満ちていた部屋に明かりが灯る。

 その部屋の光景を目の当たりにして、ルナとナナは驚愕を覚えた。部屋には何体もの全裸の女性の石像が立ち並んでいた。

 

 

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