Blood Sexual Twin- File.5 思いと想い

 

 

 ナナがルナに救われた日から一夜が明けた。先に眼を覚ましたのはナナだった。

 ナナはこれまで起こった自分のことについて思い返していた。生きるためにルナに血を吸われてブラッドとなったが、その力を制御できず、周囲の人間を殺めてしまった。

 ルナの力と想いを受けて、ナナは何とか暴走を抑えることができた。だが力の消耗は、確実にナナの血の枯渇を引き起こしていた。

(私の力なんだから、私がしっかりしないといけないよね・・ルナに頼るのと甘えるのとは違うから・・・)

 ナナは自分の胸に手を当てて、気持ちをしっかり持つ。

「眼が覚めていたのね、ナナ・・」

 そのとき、眼を覚ましたルナが声をかけてきた。

「おはよう、ルナ・・ルナのおかげで、私はこの朝を迎えられてる・・」

「前にも言ったはずよ。全てナナの力だって・・これからは私が支えることはあるけど、ナナのことはナナが決めることになるから・・」

 挨拶をするナナに言いかけるルナ。その言葉に頷いて、ナナも微笑みかける。

「また助けてもらうことになると思うけど・・私、自分の力をしっかりとコントロールしたい・・・」

「ナナ・・・私も私にできることを精一杯やるよ・・私の力は今は、ナナのためのものでもあるから・・」

 互いに決意を口にしたルナとナナ。2人は笑顔を見せあうと、朝の時間を満喫するのだった。

 

 街から離れた海辺。そこでは水着姿の少女たちが、海での時間を満喫していた。

「ちょっと休憩にしよう♪」

「そうね。ここら辺で軽く食べておこうね。」

 少女たちが小休止のために海から上がり、出店に向かおうとした。

 そのとき、その1人であるショートヘアの少女が足を止める。彼女の足元から、緑色の液状の何かが現れた。

「な、何、コレ!?・・気持ち悪い・・・!」

 悲鳴を上げる少女を、液体が一気に取り込んだ。必死にもがく少女だが、水中にいるかのように体の自由を抑制されてしまう。

 さらに少女の着ていた水着が溶け始めた。その液体には溶解の効果があるようだ。

(えっ!?このまま裸に!?

 胸中で驚きの声を上げる少女だが、その液体から抜け出すことができない。やがて水着が完全に溶け、彼女は一糸まとわぬ姿となる。

 次の瞬間、少女を取り込んでいた液体が一気に硬質化する。まるで水が氷になったかのように固まった液体の中で、少女は意識を失った。

「ち、ちょっと・・キャアッ!」

「誰か!誰か!」

 周囲にいた人々が悲鳴を上げる。少女は水晶と化した液体の中で、全裸で閉じ込められてしまった。

 

 海辺で多発される奇怪な事件は、ニュースとして広く知れ渡ることとなった。それはルナとナナの耳にも入った。

「またおかしな事件が起こったね・・」

「ブラッドの仕業か、あるいは別の何かか・・」

 テレビのニュースを見て、ナナとルナが呟きかける。人間の仕業でないと、2人は推測していた。

「調べたほうがいいかな?とても警察の手に負えることじゃ・・」

「そうね・・でも調べるのは一緒に。調べている間に襲われることもあるから・・」

 互いに言い合って、ナナとルナが頷く。2人は海辺での事件を調べるため、外に繰り出した。

 その途中の通りの真ん中で、ルナが唐突にナナに声をかけた。

「ナナは今は無闇に力を使わないほうがいいよ。」

「えっ?」

「ブラッドの力は血を代償にする。ナナの場合、力の度合いと血の消耗が激しいから、下手に使ったら命に関わる・・」

「うん・・危なくなったときだけ使うようにするよ・・・」

 ルナからの忠告を受け止めるナナ。ナナも自分の力に対する不安を完全に解消できたわけではなかった。

「とにかく慎重に行こう。犯人は神出鬼没だから・・」

「今までのもそんな感じだったよね・・」

 声を掛け合うと、再び真剣な面持ちに戻るルナとナナ。2人はついに、事件の起きた海辺へとたどり着いた。

 そこでは既に警察の調査が行われていた。だが難航していることは、ルナたちの眼にも明らかだった。

 2人はシーツで覆われているひとつの塊を目撃する。その塊こそ、被害者を閉じ込めているものと2人は思い立った。

「いったい、どこから出てきたのかな・・・?」

「分からない・・どこに潜んでいるのか、気配も感じ取れない・・」

 周囲を見回すナナとルナ。しかし事件の犯人の正体も気配も、まるで得体の知れない状態だった。

「岩場のほうに行ってみよう。あそこなら人も出入りしない場所だから・・」

 ルナの言葉にナナが頷く。2人はまだ警官が行き着いていない海辺の外れの岩場に向かった。

「でも、この辺りは岩だらけで、下から何かが来ればすぐに気付くんじゃ・・」

「そうでもないよ。岩だってひび割れたり、いくつかの岩がくっついているのもあるし・・」

 ナナが言いかけたことにルナが説明する。それを聞いたナナが不安になり、思わず足元を気にする。

「大丈夫だよ、ナナ。もし犯人が現れて、力を使ってきたなら、その気配をすぐにつかむから・・」

「ルナ・・でもそれじゃ、ルナに甘えることになってしまうよ・・私も、その気配をつかめるようになるから・・・」

 励ますルナに、強気の態度を見せるナナ。それを見たルナも笑みをこぼす。

 そのとき、ルナとナナは足元に奇妙な違和感を覚えた。下に眼を向けると、緑色の液体が足元に充満していることに気付く。

「い、いつの間に!?

「気配を全然感じない・・もしかして!?

「そうそう。その通りだよ。」

 声を荒げるナナとルナの前に、1人の男が現れる。男は不気味な笑みを浮かべて、2人を見つめていた。

「これは僕の体から出たもの。僕の思い通りに動くけど、気配なんて感じさせないよ。」

 淡々と言いかける男の前で、液体が一気に吹き上がる。ルナが力を放出して食い止めようとするが間に合わず、彼女とナナは液体に取り込まれてしまう。

 液体の中で抵抗するルナだが、思うように動けず、体勢を崩される。その間にも、液体の溶解効果によって、2人の衣服が溶け始める。

「僕の液は少し特殊でね。服や金属などは溶かすけど、人の体には無害なんだよね。」

 不気味な笑みを浮かべる男の見つめる先で、ルナとナナが液体の中でもがく。既に衣服が溶け、2人は全裸をさらけ出していた。

(何とかしなくちゃ・・でも、液が張り付くようで、集中できない・・・!)

 切り抜けようと考えるナナだが、思うように動けないでいる。

「さらにこの液はね、僕の意思でクリスタルのように硬くなるんだよ。」

 男が言いかけると、液体が徐々に固まり始める。その変化が、中にいるルナとナナにも伝わる。

(まずい・・このままじゃ固められてしまう・・何とか力を・・・!)

 ルナが危機の打開のために力を振り絞るが、硬質化していく液体に体を蝕まれてしまう。

(力が入らない・・・ナナ・・・)

(ルナ・・・)

 ルナとナナが互いの体を抱きしめる。2人が意識を失って瞳を閉じた瞬間、液体が完全に固まって水晶となる。

「やった・・またまた美女を水晶の中に入れたぞ。しかも今度は2人一緒だ。」

 男が感嘆の笑みを浮かべて、ルナとナナを見つめる。2人は一糸まとわぬ姿で、眠るように水晶に閉じ込められていた。

「美女の裸をじっくり見るためには、こうするに限る。反抗されることもないからね。」

 男はルナとナナの裸身を見渡していく。見渡していくに連れて、彼は次第に歓喜を募らせていく。

「うんうん。この2人は今までの美女の中で1番かもしれない。思わず抱きついてしまいそうだよ。」

 男がたまらず水晶を抱きしめようとする。人の通らない岩場のため、この光景を目撃する人は他にいなかった。

 

 全裸の状態で、ルナとともに水晶に閉じ込められてしまったナナ。だがナナの意識はまだ途切れてはいなかった。

(何とかしないと・・このままだと私たち、ずっとこの中に閉じ込められたままになってしまう・・しかも裸のままで・・・)

 胸中で呟くナナが、全身に力を込める。

(こういうときこそ、私の力を使うとき・・・)

 ナナの体から淡い光が宿る。彼女の視界にルナの姿が現れる。

(ルナ・・私の力で、ルナを助け出してみせる・・・)

 ナナはルナに向けて手を伸ばす。その手がルナの手をつかむと、彼女の体に光が伝達する。

(ルナ・・・あなたにも、私の力を・・・!)

 ナナの願いが今、力となって外にあふれ出していった。

 

 ルナとナナを閉じ込めている水晶に体を寄せる男。2人を掌握したことに、彼は有頂天になっていた。

「このまま抱きしめていたいけど、他の美女もものにしないといけないし・・またここに戻ってくるとしようか。」

 男は水晶から離れると、次の標的を求めて移動しようとする。

 そのとき、水晶から突如淡い光が灯り始めた。その変化に男が足を止める。

「あれ!?・・何が起こったの・・!?

 驚きをあらわにした男が振り返る。光は徐々に強まり、水晶を満たしていく。

「そんな!?・・たとえ力を持っている人でも、水晶に入れられたら意識が戻るなんてこと・・・!?

 動揺の色を隠せなくなり、後ずさりする男。すると水晶が光に押されて粉々に吹き飛ぶ。

「うわっ!」

 その衝撃で男がしりもちをつく。砕けた水晶の中から、ルナを抱えたナナが現れた。

「ききき、君、いったい何なんだ!?

「私たちはブラッド・・自分の血を力に変える吸血鬼・・・」

 声を荒げる男に向けて、ナナが冷淡に告げる。

「ルナを守るためだったら、私は何でもするよ・・力を使うことに、もう迷いはない・・・!」

 ナナは言いかけると右手をかざし、男に向けて紅い光線を放つ。動揺していた男は、その光線をかわすことができなかった。

 光によって貫かれた男の体から鮮血が飛ぶ。吐血もした男が脱力し、その場に倒れ込む。

「痛い・・痛いよ・・そんなの・・イヤだよ・・・」

 悲痛の声を振り絞るも、男は動かなくなり、事切れる。右手を下ろしたナナも沈痛の面持ちを浮かべていた。

「やっぱり、人を殺すのは心苦しい・・いくらルナを守るためでも・・・」

 ナナは罪の意識を感じていた。人一倍の優しさが仇となっていた。

「ルナ・・眼を覚まして、ルナ・・・!」

 ナナがルナに向けて呼びかける。するとルナが意識を取り戻し、ナナに眼を向ける。

「ナナ・・また、あなたに助けられたみたいね・・・」

「ルナ・・・よかった・・気がついて・・・」

 当惑するルナに安堵を見せたナナが、突如脱力してその場にひざを付く。

「ナナ!?

 ルナが慌てて足を地面に付け、ナナを支える。力の使用による血の消耗で、ナナは疲弊していた。

(やっぱり力のコントロールがうまくいっていない・・本当に切り札というべきね・・)

 ナナの加減の利かない力に、ルナも深刻さを覚える。このままでは命の危険にさいなまれるのも時間の問題である。

「ゴメンね、ルナ・・また、ムチャして・・」

「ううん・・ナナは私のために力を使ったのよね・・・だから、あなたを責めるなんてできない・・・」

 謝るナナに対して、ルナが首を横に振る。ルナも自分を救ってくれたナナに素直に感謝の意を示していた。

「とにかく、犯人は倒れた・・ブラッドではなかったけど、力を持った異形の存在であることも確か・・」

 ルナの言葉を受けて、ナナが男に眼を向ける。絶命した男は灰となり、風に吹かれて霧散していった。

「殺すことは私も心が痛む・・でもやらないと、他のたくさんの人が傷つく・・・」

 心境を告げるルナに、ナナは戸惑いを見せる。傷つけることの罪を感じているのが自分だけでないことを、彼女は知った。

「今日はもう帰ろう・・辛く考えるのもいい加減にやめておかないと・・・」

「そうだね・・帰ろう、ルナ・・・」

 ルナの言葉にナナが頷く。2人は立ち上がり、岩場を立ち去ろうとした。

「ち、ちょっと待って・・私たち、裸・・・」

「えっ・・・!?

 ナナが言いかけた言葉に、ルナが声を荒げる。

「そういえばあの液で服を溶かされてたのよね・・・どうしよう・・これじゃ帰れない・・・」

「な、何とか猛スピードで帰れば・・な、何とかなるんじゃないかな・・・」

 赤面しながら言葉を交わすルナとナナ。2人はナナの提案を推し進めることにした。

 ブラッドの力を駆使して、ルナはナナを抱えて眼にも留まらぬ速さで移動した。2人は何とか問題なく家に戻ることができた。

 

 男の死によって、水晶に閉じ込められていた少女たちは解放された。だが全裸であることに気付き、赤面したり悲鳴を上げたりと、恥じらいを見せていた。

 その傍ら、家に戻ってきたルナとナナは、寝室で安堵の吐息をもらしていた。

「一時はどうなるかと、冷や冷やしてしまったよ・・・」

「本当・・昼間の道で全裸で歩くなんて、とんでもないことだよ・・・」

 思わず苦笑いを浮かべるルナとナナ。2人は体の汚れを落とすため、バスルームに向かった。

 熱いシャワーに打たれながら、ルナとナナは互いを見つめていた。

「ナナの体、すごく形が整ってるよ・・でも傷だらけ・・・」

 ナナの体を見て、ルナは物悲しい笑みを浮かべる。

 ナナはブラッドに転化する前も吸血鬼と揶揄され、理不尽な言動やいじめを虐げられてきた。体の傷も付けられたが、そのほとんどがはたから見ても分からないほどに薄くなっていた。

「私の眼にはきちんと見えている・・でも傷が深いのは体ではなくて、心のほうだということは、私にも分かる・・」

「吸血鬼じゃなかったのに、吸血鬼のような特徴があっただけで、みんなから・・・今は本物の吸血鬼になったから、あまり気にすることはなくなったけど・・・」

 囁くように語り合うルナとナナ。シャワーを浴びたまま、ルナはナナの体を抱きしめる。

「もうあなたを傷つけさせない・・まだ私の力が足りないかもしれないけど・・ナナ、あなたを守りたい・・あなたと一緒にいたい・・離れたくない・・・」

「私もだよ・・ルナ・・ルナ・・・」

 抱擁による高揚感を膨らませる2人。ルナがナナの胸に手を当ててきた。

「ナナの胸、柔らかくてさわり心地がいい・・気分が楽になってくる・・・」

「ルナ・・くすぐったい・・また、あの気分になっちゃう・・・」

 ルナに触れられて、ナナが高揚感を膨らませる。その快楽にさいなまれて、ナナがルナにすがり付いてきた。

「もう、一心同体ということだよね・・・?」

「うん・・もう私たちは、切っても切り離せない関係になってしまった・・・」

 囁き合うナナとルナが、シャワーの雨の中で口付けを交わす。

(もう戻れない・・戻りたくない・・今の私は、ナナがいなかったら生きていることにならない・・・)

(私とナナの血が、お互いの体の中を流れてる・・この気持ち、私たちでも抑え切れない・・・)

 唇を重ねている間も、心の中で想いを募らせていく2人。

(ナナ・・・)

(ルナ・・・)

 もはや2人の心を止めることは誰にもできない。2人自身であっても。

 

 

File.6

 

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