Blood Sexual Twin- File.4 冷気と遊戯

 

 

「それじゃ始めようかねぇ〜・・気分のいいクールなゲームをねぇ〜・・」

 突如現れたブラッドの女性、ミーナが冷気をつかさどり、ルナに迫ろうとしていた。ルナは両足を凍らされて、動きを封じられていた。

(このままじっとしているわけにいかない・・すぐにナナちゃんを追いかけないと・・!)

 いきり立ったルナが両足に力を込める。ブラッドの力を解放して、両足を束縛している氷を打ち砕く。

「ありゃりゃ。氷を破られちゃったよ・・やっぱりすごいねぇ、あなたは。」

「言ったはずよ。今はあなたの相手をしている時間はないって・・・!」

 苦笑いを浮かべるミーナだが、ルナは戦意を尖らせたままだった。

「そんなに焦ることないのに〜・・仕方ないね〜・・涼ませてあげるよ・・・」

 ミーナの態度が徐々に冷徹になっていく。その戦慄を感じ取り、ルナが緊迫を覚える。

 ミーナがかざした右手から氷の刃が放たれる。ルナは紅い剣を出現させて、その刃を弾き飛ばす。

「ほう。なかなかやるねぇ。だけど私の氷と冷気はこんなもんじゃないよ!」

 ミーナは感心の声を上げると、氷の刃を複数出現させて解き放つ。ルナは剣と跳躍でその連続攻撃をかいくぐっていく。

 だがミーナは冷気を放出し、再びルナを氷付けにしようと迫る。ルナは身を翻して回避しようとするが、わずかに氷が付着していた。

「いくらなんでも、私の冷たい霧をそう簡単にはかわしきれないよねぇ?」

 ミーナはさらに言いかけると、動きの鈍ったルナに向けて吹雪を放つ。かわしきれなかったルナの両足が氷に包まれる。

「しまった!・・また、足が・・!」

「それじゃ、じっくりゆっくり涼しくしていこうかな・・下から体を凍りつかせていくよ・・」

 驚愕するルナに向けて、ミーナがさらに冷気を放出する。その冷気を受けて、ルナの両足を凍てつかせている氷が広がり、体へと駆け上っていく。

「このままじゃ氷に包まれて、動けなくなってしまう・・何とかしないと・・・!」

 危機を覚えたルナが意識を集中し、力を全身に収束させる。その力を爆発させて、自分の取り巻いた氷を打ち破る。

「へぇ〜・・私の氷を破るなんてね・・こりゃ、完全に凍りつかせるのが楽しみになってきたよ〜・・」

 ミーナが感嘆の声を上げて身構える。ルナも彼女を退けることに専念し、剣を構える。

 そのとき、街のほうから紅い閃光が煌いた。その光にルナが眼を見開く。

「おや?こりゃまた熱そうな光だねぇ・・」

「あの光・・ナナちゃん!?

 眼を凝らすミーナと、驚愕をあらわにするルナ。

「しばらく離れたほうがいいみたいだねぇ・・今回はここまでにしておくよ・・」

 ミーナはルナに言いかけると、冷たい霧を放って姿を消す。ミーナがいなくなったことに毒づくも、ルナはナナを追い求めて駆け出していった。

 

 力の暴走に苦悩し、混乱に陥ってしまったナナ。自分の力を抑えることができず、彼女は再び閃光を解き放っていた。

 崩壊に陥った通りの真ん中で、ナナは立ち尽くしていた。破壊の限りを尽くす自分に、彼女は絶望感を覚えていた。

(ダメ・・もう、どうにもならない・・・)

 あふれ出てくる力に悩まされるナナは、再び夢遊病者のように歩き出していく。

(もうイヤ・・このまま、誰かを傷つけてばかりでいなくない・・ムチャクチャにすることしかできないなら、いっそのこと・・・)

 ついには自らの死を望むようになるナナ。だが力は彼女の危機に呼応するかのように、彼女を死から遠ざけていた。

(お願い・・誰でもいいから・・何でもいいから、私を殺して・・・)

 生きることも死ぬこともできず、ナナは1人涙していた。

「ナナちゃん!」

 そこへルナが駆けつけ、ナナに呼びかけてきた。その声を聞いて、ナナが振り返る。

「ナナちゃん、落ち着いて!気持ちを落ち着けて、力を抑えて!」

 ルナがナナに呼びかけるが、ナナは力を抑えようとしない。

「ダメなの、ルナ・・自分でも抑えられない・・・」

「諦めないで、ナナちゃん!ナナちゃんがダメだって思ったら、それこそどうにもならなくなるよ!」

 沈痛の面持ちを浮かべるナナに、さらに呼びかけるルナ。だがナナは自分の体を震わせるばかりだった。

「ダメ・・私の中の何かが、みんなを壊そうとしている・・・!」

「ナナちゃん!」

 ルナが歩み寄ろうとしたとき、ナナが再び力を暴走させる。

「ナナちゃん!・・本当に、すごい力・・ナナちゃんに、こんなに力があったなんて・・・!」

 ナナの力に脅威を感じるルナ。だが彼女を助けるために、退くわけにはいかない。

「やらせない・・これ以上、ナナちゃんやみんなを苦しませるわけにいかない・・・!」

 必死に一歩一歩足を前に出していくルナ。そしてついに、ルナはナナの肩に手をかけた。

 そのとき、ナナの力がルナに流れ込んできた。暴走する力が、ルナの体をも蝕もうとしていた。

「ナナちゃん、私の血を吸って!私の血で、ナナちゃんを落ち着かせてあげるから!」

 ルナが呼びかけると、ナナを強く抱き寄せた。その抱擁に導かれるように、ナナがルナの首筋に牙を入れた。

 ブラッドとしての本能の赴くまま、ナナはルナの血を吸い始めた。その吸血による恍惚を感じ、ルナがあえぎ声を上げる。

「あ・・・ぁぁぁ・・私の血が・・ナナちゃんに・・・」

 押し寄せる高揚感にさいなまれて、息を荒くするルナ。感情の制御が利かなくなり、彼女は無意識に失禁してしまう。

 力任せに噛み付いてきていたナナだったが、ルナの血を得て徐々に冷静さを取り戻しつつあった。あふれ出していた力の光が和らぎ、彼女の中へ収束されていく。

「ルナ・・・私・・私は・・・」

 脱力したナナがその場に崩れ落ちる。ルナも続いてその場にひざを付き、うなだれる。

「ルナ!・・しっかりして、ルナ・・・!」

「ナナちゃん・・・よかった・・・」

 ナナの呼びかけに微笑みかけるルナ。完全に冷静さを取り戻していないため、ナナの中にはまだ混乱が残っていた。

「もう、大丈夫だから・・・たとえまた力を制御できなくなっても、また私が支えるから・・・」

「ルナ・・・ありがとう・・本当に、ありがとう・・・」

 微笑みかけるルナの言葉を受けて、ナナが感謝の言葉を返す。

「これからはもう距離を置いたりしない・・どんなことがあっても、あなたのそばにいるから・・・」

 ルナが力を振り絞って、ナナを優しく抱きしめる。このときナナは、自分がルナに頼りにされていないわけではないことを実感する。

「ルナ・・ゴメン・・私、もっとルナを信じていれば・・・」

 ナナがルナに向けて謝意を見せる。すれ違いから始まった2人の絆が、この交錯で強まろうとしていた。

 そのとき、ルナは冷気を感じて眼を見開く。だがルナもナナも力を消耗しており、思うように動けない。

「気になって来てみたら、何だか丸く収まっちゃったみたいだねぇ〜・・」

 そこへ現れたのはミーナだった。1度は撤退した彼女だったが、ナナの力を気にしてここにやってきたのだ。

「ミーナ・・・!?

「久しぶりだねぇ〜・・やっぱり気になって来ちゃったよ〜・・でもまだ熱が残ってるみたいだから、冷ましてあげようってねぇ〜・・」

 緊迫を覚えるルナに向けて、ミーナが気さくに声をかける。ルナとナナを取り巻く冷たい霧が、2人を凍てつかせていく。

(力を使い果たして、冷気を跳ね返すことができない・・・このままだと・・・)

 苦悶の表情を浮かべるルナが、ナナとともに氷に包まれていく。もはや彼女たちには、氷を弾き飛ばす力は残っていなかった。

 やがてルナとナナが完全に氷に包まれた。眠るように氷付けにされた2人を見つめて、ミーナが頷いてみせる。

「やっぱり涼しいっていうのはいい感じだよねぇ〜・・2人の美少女の氷付け・・たまんないねぇ〜・・」

 ルナとナナを閉じ込めている氷に手を触れて、笑みをこぼすミーナ。ルナには氷を打ち破る力は残されていなかった。

 

 ルナとともに氷付けにされてしまったナナ。だが彼女の意識は完全に途切れてはいなかった。

(私、結果的にルナに助けられたってことだよね・・・私の弱さのせいで・・・)

 自分が引き起こした事態に苦悩し、ナナは自分を責める。

(何かを信じればよかった・・私にとっての大切なものは、私のすぐそばにいたんだから・・・)

 悲しみに暮れるナナの見つめる先に、ルナの顔が浮かび上がる。

(もっと、ルナに頼ってもよかったかもしれないね・・ルナにも、傷つけてしまうかもしれないって思ってしまって・・・)

 悲しみと悔恨のあまり、眼から涙をあふれさせるナナ。

(これからはしっかり信じよう・・ルナのことを・・・私自身のことを・・・)

 思い立ったナナの胸元にひとつの光明が発せられる。

(これは私の力・・私が信じれば、必ず応えてくれる・・・)

 自分の力に思いを込めて、ナナは意識を集中する。胸元の光明が輝きを強め、彼女の体全体を包み込んだ。

 

 氷塊に閉じ込められたルナとナナをまじまじと見つめるミーナ。

「さ〜て、そろそろ退散するかなぁ〜・・騒ぎになりそうだからねぇ〜・・」

 ミーナはきびすを返して、ルナたちの前から離れようとする。

 そのとき、2人を閉じ込めている氷塊から、突如光があふれてきた。その輝きにミーナが笑みを消す。

「えっ・・・!?

 疑念を抱いたミーナが氷塊に振り返る。光を宿した氷に亀裂が生じる。

「まさか!?・・もう私の氷を破る力なんて・・・!?

 予期せぬ事態に驚愕するミーナ。やがてルナとナナを閉じ込めている氷塊が粉々に粉砕される。

 氷付けから解放されたルナとナナ。意識の戻らないルナを抱えていたのはナナだった。

「今の光・・まさか、アンタが・・・!?

「そうです・・これは私の力・・ルナを守りたいと思う、私の力・・・」

 声を荒げるミーナに、ナナが沈痛の面持ちを見せて言いかける。

「私はルナを守る・・あなたがルナを傷つけるつもりでいるなら、私は鬼にも悪魔にもなる・・・!」

 言い放ったナナがかざした右手から、紅い閃光が放たれる。眼を見開いたミーナがとっさに横に飛び退き、閃光をかわす。

「すごい威力・・やっぱりあの光はアンタの仕業だったみたいね・・」

 脅威を感じるあまりにたまらず笑みを浮かべるミーナ。

「だったらもう1度冷やしてしまえば、火傷することはなくなるよね・・・!」

 ミーナがナナに向けて冷気を放つ。だがナナの放った閃光によって冷気が吹き飛ばされる。

「なっ!?

 全力の冷気さえも跳ね除けられ、愕然となるミーナ。ナナが眼つきを鋭くして、ミーナに言いかける。

「もうやめて・・今度は、本気であなたを・・・!」

 冷淡に告げるナナに、焦りを覚えるミーナ。何とか自分らしさを保とうとして、ミーナはため息をつく。

「もう、熱くなっちゃってぇ〜・・こりゃ敵わないなぁ〜・・今回はここまでにさせてもらうよ〜・・」

 ミーナは気さくに言いかけると、吹雪を解き放つ。ナナが力を発して吹雪を拡散させるが、吹雪が霧となり、周囲の視界がさえぎられてしまった。

 霧が晴れたときには、既にミーナの姿はなかった。力を抑え込んだナナが安堵し、その場にひざをついた。

「よかった・・・うまく、力を使えた・・・」

 自分の力を制御できたことに、安心感を覚えるナナ。だがそのとき、彼女は突如めまいと疲労感を覚え、倒れてしまう。

「ハァ・・ハァ・・これが、ブラッドが力を使うってこと・・・体に、力が入らない・・・」

 血の枯渇による疲労にさいなまれるナナ。そのとき、ルナが眼を覚まし、体を起こしてきた。

「ナナちゃん・・・ナナちゃん、まさか・・・!?

 疲弊したナナを目の当たりにして、ルナが愕然となる。

(力は制御できても、力の度合いまでは制御しきれてなかったのね・・・)

 深刻さを感じたルナが、自由に動けないでいるナナを抱きしめる。

「ナナちゃん、帰ろう・・私の家で気分を落ち着けよう・・・」

 ルナはナナに言いかけると、家に向かって歩き出す。ナナは小さく頷きかけると、ルナの腕の中で眠りについた。

 

 ナナが眼を覚ましたのは、ルナの自宅の私室だった。ベットで横たわっていたナナは、体を起こして周囲を見回す。

(ここ・・ルナの家・・・私、ルナに・・・)

 ルナが自分を運んできてくれたことに、ナナは素直に喜んだ。そこで彼女は、床で横たわっているルナがいることに気付く。

「ルナ・・・ありがとう・・あなたのおかげで・・本当に・・・」

 ルナに向けて改めて感謝の気持ちを覚えるナナ。

「あなたが支えてくれなかったら、ブラッドの力に振り回されてた・・凍ったままになっていた・・・」

「そんなことないよ、ナナちゃん・・・」

 ナナの囁きにルナが答えてきた。その言葉にナナが戸惑いを見せる。

「ルナ、起きていたの・・・?」

「今、眼が覚めたところ・・・ナナちゃんが力を抑えることができたのは、あくまでナナちゃん自身の強さだよ・・」

 ルナの言葉にナナが戸惑いを募らせる。するとルナが起き上がり、ナナを優しく抱きしめる。

「ルナ・・・!?

「まだ力の消耗のコントロールはできていないみたいだけど、慣らしていけば問題はないと思うよ・・ナナちゃんなら絶対にできる・・」

 ルナに励まされて、ナナの心は揺れる。ここまで支えられたことに、ナナは動揺を抑えることができなくなっていた。

「ルナ・・私のこと、もう呼び捨てでもいいよ・・何だか私たち、ひとつになったような気持ちになってるから・・・」

「そうね・・これからもよろしくね・・ナナ・・・」

 優しく微笑んで声を掛け合うナナとルナ。するとナナがルナに寄り添ってきた。

「今夜はルナのそばにいたい・・ルナがいないと、寂しくなってしまう・・今までだったら、1人でも寂しくなかったのに・・・」

「ナナ・・・きっと、今まで抱えていた重荷が軽くなったのね・・・いいよ・・私も、ナナのそばにいたいと思っていたから・・・」

 ナナの誘いにルナが導かれる。2人は想いに導かれるかのように寄り添いあい、ついに唇を重ねた。

 それから2人はベットの上で、全ての衣服を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿で横たわっていた。2人は直に互いの肌のぬくもりを感じ取っていた。

「あたたかい・・ルナ・・・」

「ナナもよ・・・気分がよくなってくる・・・」

 囁くように声を掛け合うナナとルナ。ルナがナナの胸に手を当ててきた。

「ルナ・・・?」

 突然のルナからの接触にナナが戸惑いを見せる。ルナはナナの胸を優しく撫で回していく。

「ナナも触れてきていいよ・・ここは私とあなたの2人だけだから・・・」

「ルナ・・・うん・・・」

 ルナに導かれて、ナナも彼女の胸に手を当ててきた。初めて触れる他人の胸の感触に、ナナも高揚感を覚える。

「この感じ・・血を吸われたときに似ている・・・」

「うん・・吸血も接触も、血の流れが激しくなる・・それで気分がよくなってくると思う・・・」

 徐々に高揚感を募らせていくナナとルナ。

「今夜はここまでにしておくね・・いきなりやりすぎると、ナナが持たなくなってしまうから・・・」

「うん・・でも、ルナとなら、どんなことでもやれそうな気がするよ・・・」

 ルナの言葉にナナが微笑みかけ、小さく頷く。2人は体を寄せ合うと、瞳を閉じて口付けを交わした。

 もはや2人の関係はただの知り合いではなくなっていた。互いになくてはならない存在となっていた。

 安らぎを募らせながら、ルナとナナはそのまま眠りにつき、一夜を過ごした。

 

 

File.5

 

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