Blood –sucking impulse- File.3 連れ去られた新米

 

 

 この日も宅真は夜の街を舞い上がっていた。そして新たに警備に配属されたアークレイヴの包囲網をもかいくぐり、彼はまたも美女を連れ去ることをやってのけた。

 今回さらってきたのは、赤いポニーテールをした幼さの残る少女で、外見から見て15、6歳に思えた。

 出入り口のない部屋の中で、宅真は彼女に石化の力をかけていた。少女の女子制服が引き裂かれ、あらわになった胸が白い石になって固まり、少女はひどい動揺を見せていた。

「な、何、コレ・・体が、動かない・・・!?」

「動けないのは当然だよ。君はオレの石化にかけられてるんだからね。最後には石化に包まれて、君はきれいな裸のオブジェになるってわけさ。」

 頬を赤らめる少女に、宅真は淡々と答える。彼女の見せる動揺や恥じらいこそが、彼の心を満たすだろう快楽となっていた。

「お願い、助けて!何でもするから、あたしを元に戻して!」

 眼に涙を浮かべて必死に助けを求める少女。しかし宅真は彼女の悲痛の様子を楽しんでいた。

「何でもするって言っても、君はもう十分にオレをいい気分にさせてくれてるじゃないか。」

 宅真の言葉の意味が分からず、少女はかける言葉が見つからず黙ってしまう。

「君が見せた叫び、涙、動揺が、オレの心を満たしてくれるんだ。そういった心の変化がオレの楽しみなのさ。」

 何かが違う。自分がいる場所とは次元そのものが違う世界に、この青年は立っている。少女は直感でそう思わずにはいられなかった。

  ピキッ パキッ パキッ

「あっ!」

 石化が下半身を蝕みスカートが破れ、少女が声を荒げる。宅真の前に全裸をさらけ出すことになり、彼女は困惑して言葉が出なくなってしまった。

「んん、そんな顔だよ。君のそんな心の揺らぎがオレの気分をよくしてくれるんだ。」

 体の中を駆け巡る快楽に酔いしれながら、宅真は少女の石の秘所に手を伸ばす。たまらない刺激に少女が眼をつむってその刺激に耐えようとする。

 しかし押し寄せる刺激に耐え切れなくなり、少女はたまらずあえぎ声をもらす。

「いいよ、その声。その反応。オレの心にも強い刺激をもたらしてくれる・・」

 宅真が快楽の高まりに吐息をもらす。少女の秘所から手を離し、快感を覚えて顔を歪める。

「さぁ、もっと見せてくれ。オレに君の心を見せて、オレの心を満たしてくれ・・・」

  ピキキッ ピキッ

 欲情に駆られた宅真は、少女にかけた石化を進行させる。彼女の手足の先まで白く固まり、頬さえも白く染め上げる。

「やめて・・・たすけ・・て・・・」

 助けを求める少女の声が弱まっていく。

  ピキッ ピキッ

 その声を出していた唇さえも白く固まり、

     フッ

 涙を浮かべていたその瞳さえも石化し、少女は完全な石像となった。周りにある女性たちと同様に、宅真の快楽のコレクションに加わることとなった。

 息を荒くしていた宅真が、変わり果てた少女の姿を目の当たりにする。心も魂も高く昇らせていた快楽も次第に冷めていく。

(確かに気分はよかった・・・オレの心を満たしてくれるはずだった・・・だけど・・・)

 体を駆け巡っていた心地よさに喜びを感じていた宅真だが、消えていく心地よさを感じて笑みを消す。

(満たされない・・・この喜びが・・オレの心を満たす前に消えていってしまう・・・)

 部屋の壁にもたれかかって、体の力を抜く。

(いったい誰が・・・誰がオレを満たしてくれるんだろう・・・)

 本当の快楽と心の充実を追い求めて、宅真はさまよっていた。Sブラッドに進化していて、能力の使用による血の消耗が極端に抑えられているとはいえ、彼は満たされない虚無感にさいなまれていた。

 

 出入り口のないコレクションから自室に戻ってきた宅真。そこでは葉月がぼうっと外を眺めていた。

「昔が恋しくなったのかい?」

 宅真が声をかけると、葉月は慌しい様子で振り向いてきた。

「今までの生活から離れて新しい生活を始めると、いつしかその昔のことが懐かしくなっちゃうものなんだよね。」

「私、別にそんなんじゃ・・・」

 葉月が弁解しようとするが、困惑を見せる彼女を見て、宅真は微笑んだ。

「君はウソがつけないんだね。いいよ。オレはそういう正直なところも好きだから。」

 宅真が笑みをこぼすと、葉月も小さく笑みを作った。

「家族のことを思ってたのかな?それとも友達のこととか?」

「ううん。私の親はもういないの。いるのは友達で・・」

 葉月は頷いて、窓の先の外を見つめながらミサのことを思い返す。

「今頃どうしてるかな・・・彼女、アークレイヴに入ったの。」

「アークレイヴ?アークシティが配備している特殊部隊かい?」

「うん。実はそのアークレイヴに向けて私も彼女も頑張ってたんだけど・・彼女は受かって私は受からなかったの・・」

「もしかして、その受かった友達に・・」

「ううん、別にそんなんじゃないよ。彼女は彼女。私は私だから。私が勝手に先走って空回りして、それで何もかもなくした・・・全部私の自業自得だから・・・」

 満面の作り笑顔で何とか取り繕おうとする葉月。そんな彼女の寂しい姿を見て、宅真はこれ以上言葉をかけようとはしなかった。

 

 次の日の夕方、ブラッドに対するアークレイヴの警備に、新入隊員たちが加わることになった。彼らには先輩の隊員が同行することとなり、ミサにもマイクが就くこととなった。

「今回は初めての任務になるね。いきなり大変な仕事からだけど・・気を引き締めなくちゃいけないんだけど、そんなに気張らなくてもいいよ。」

「あっ、はいっ!」

 緊張を見せているミサが、マイクの励ましの言葉に返事する。半ば声が裏返っている彼女に、マイクは苦笑を浮かべた。

「まぁ、今までやってきた試験や訓練通りに心がければいいよ。何事も初心を忘れなければいいから。」

「了解です!」

 敬礼を送る彼女を見て頷いてから、マイクは真剣な面持ちに戻る。彼女の様子をうかがいながら、街の警備を始める。

(よしっ!次の試験で葉月もアークレイヴにやってくる。結果として先輩になるんだから、恥ずかしいマネを見せないようにしないと。)

 胸中で意気込みを巡らせるミサ。腰に下げた銃に手を添えて、いつ戦いになってもいいように身構える。

 他の隊員たちも警戒態勢を敷いてから1時間がたとうとしていた。警備する隊員たちを襲う緊迫が次第に強まっていく。

(どうしよう・・すっごく緊張してきたよ〜・・・!)

 ミサもあまりの緊張のあまりに顔を硬直させていた。

 そのとき、周囲の風が不気味な揺らぎを見せた。その変動にミサがとっさに振り返る。

 その先にいる人物を目の当たりにして、ミサが押し黙ってしまう。

「どうしたんだ!?」

 そこへマイクが駆けつけてきた。彼もその人物を眼にして、一気に緊張を覚える。

「ブラッド・・・!」

 彼が呟いたとおり、その人物は白髪のブラッド、宅真だった。

「動くな、ブラッド!お前を拘束する!」

 マイクは腰に収めていた銃を取り出していきり立つ。しかし宅真は顔色を変えずに、困惑を見せているミサに視線を向ける。

 そして彼女に向けて宅真が歩き出す。警告を聞かなかったと判断したマイクが銃の引き金を引く。

 放たれた弾丸は真っ直ぐに宅真に向かって飛んでいく。その弾丸が命中しようとしていた直前、彼の姿が突然消える。

「何っ!?」

 驚愕するマイクとミサ。発砲された弾はその先の壁に当たる。

 周囲を見回そうとしたそのとき、マイクの眼前に宅真が現れる。虚を突かれたマイクの腹部に拳が叩き込まれる。

「マイクさん!」

 ミサが駆け寄ろうとするが、振り返ってきた宅真を前にとっさに足を止める。彼の背後でマイクが気絶させられてその場に倒れる。

「君、かわいいね。アークレイヴにもこんなかわいいのがいるのか。」

 宅真がミサの姿を見て、まじまじと笑みをこぼす。

「よし。今回は君をもらうとしようかな。アークレイヴの隊員をさらうのは初めてになるかな。」

 宅真が今度の標的をミサに定める。その呟きを耳にして、彼女が動揺を見せる。

「動かないで!・・動いたら・・・」

「撃つというのかい?でもそれで止められないことぐらい、君にも分かってるはずだよね?」

 必死に警告しようとするミサと、それに全く動じない宅真。

「できれば手荒なことはしたくない。オレと一緒に来てくれるとありがたいんだけど。」

「冗談じゃないわ!アンタに連れてかれちゃったら、何をされるか分かんないじゃない!」

 微笑みかける彼に、彼女はいきり立って言い放つ。

「きっと暗い部屋に監禁されて、奴隷のような扱いをされるに違いないわ!そんな悪徳でハレンチな行為、あたしは許さないんだから!」

 よからぬ想像をしながらも正義感を見せ付けるミサ。

「君は気が強いんだね。感心しちゃうよ。そういうのをものにするのもいいかも。」

 宅真が微笑みながらミサに向かって歩き出した。ミサは必死の思いで発砲する。

 しかし弾は宅真から外れる。その直後、宅真が一気にミサに詰め寄り、持っていた銃を取り上げる。

「あっ!」

 驚愕するミサを、宅真が背後から抱きかかえる。彼女がとっさに抗おうとするが、振り払うことはできない。

「捕まえたよ。さて、これからオレをじっくりと楽しませてもらうからね。」

「や、やめて!離して!」

 ついに補足した美少女を見て、宅真が満面の笑みを浮かべる。ミサの心を不快感が駆け巡っている。

「待て!」

 そのとき、他の場所を警備していた隊員たちが、ライアンを筆頭に駆けつけてきた。

「そこまでだ、ブラッド!上条隊員を放せ!」

 ライアンが宅真に言い放ち、隊員たちが銃を構える。

「全員で登場かい?けど彼女はオレがいただいていくよ。それじゃまた。」

 笑みを崩さずに宅真はミサを抱えて夜空に向けて飛び上がる。隊員の数人が発砲するが、彼には当たらない。

「くそっ!まさか我々の隊員がさらわれるとは・・愚の骨頂・・・追うんだ!逃がすんじゃないぞ!」

 毒づいたライアンが隊員たちに指示を送る。それを受けて隊員がいっせいに駆け出す。

 慌しくなる彼らを見下ろして、宅真が不敵に笑う。だがその笑みがすぐに消える。

 彼の眼下に1人の男が飛び込んできていた。アークレイヴ隊長、夢野仁科である。

「あれは・・・」

 いつもと違う真剣な面持ちで仁科を見据える宅真。仁科はミサを抱えている彼を追おうという様子は見せていなかった。

 一抹の疑念を胸に秘めて、宅真は夜の街から消えた。アークレイヴの新米、ミサを奪い取って。

 

 薄暗く出入り口のない部屋の中で、ミサは意識を取り戻した。何とか意識を覚醒させて、自分がいる場所の周囲を確かめる。

「ここは・・いったい・・・」

「眼が覚めたみたいだね。」

 彼女の呟きに、部屋の片隅にいた宅真が答える。

「アンタもしかして、あたしを連れ去ったブラッド・・・!?」

 驚くミサの問いかけに宅真は微笑みながら答える。

「あたしをこんなところに連れてきてどうしようっていうの!?やっぱり奴隷扱いにして・・・!」

「奴隷にするために女性をさらってきたりはしないよ。ただ、オレの心を満たすために、いい反応をしてくれたらいいんだよ。」

「いい反応・・・!?」

 宅真の意味深な言葉に眉をひそめるミサ。その疑念を気に留めずに、彼は彼女に手を差し伸べる。

「さぁ、立って。そしてオレの眼を見て・・・」

 彼に促されてゆっくりと立ち上がるミサ。しかし我に返るとすぐに差し伸べられていた手を振り払う。

「ふざけないで!そう簡単にアンタの思い通りにはならないわよ!」

 苛立ったミサが宅真に言い放つ。突然大声で言われて、彼はきょとんとしている。

「あたしは負けない!アンタのようなブラッドには、絶対負けないんだから!」

「すごく強気な子だね。思わずそそられちゃうよ。けど、君はオレには勝てない。このままオレの快楽となり、オレのコレクションに加わることになるんだ。」

「コレクション・・!?」

 再び眉をひそめるミサ。宅真の髪が黒から白に変わり、青い瞳に徐々に輝きがあふれてくる。

 

     カッ

 

 その眼光が放たれ、ミサを照らす。

 

    ドクンッ

 

 ミサはとっさに眼を伏せるが、強い胸の高鳴りが彼女を襲っていた。

「む、胸が・・・!」

「これで君はオレのものになった。君がどんなに否定しても、君はオレの手から逃げられないよ。」

 一瞬あえぎを見せるミサに、宅真は微笑んで淡々と答える。その言動が彼女を逆撫でする。

「ふざけないで!あたしはアンタなんかに絶対に負けない!ブラッドには決して負けないんだから!」

「果たしてそうかい?」

  ピキッ ピキッ パキッ

 彼が言い終わると、ミサの制服のズボンが引き裂かれる。さらけ出された両足が白く冷たく固まる。

「ちょっと、何なの、コレ!?・・足が・・動かない・・・!?」

 ミサが変わり果てた自分の足に驚愕を見せる。しかし石化した足は、彼女の意思に反して全く動こうとしない。

「アンタ、あたしに何をしたのよ!」

 彼女が宅真に問いつめると、彼は笑みをこぼす。

「見れば分かるだろ?オレは君に石化の力をかけたんだよ。これで君は時期に裸のオブジェになる。」

「じ、冗談じゃないわよ!このままアンタのおもちゃになんてイヤよ!」

 微笑ましい態度を見せる宅真に、ミサが頬を赤らめながら抗議する。しかし彼はその叫びに全く動じない。

「アークレイヴの制服も案外もろいんだね。丈夫な生地を使って耐熱性にも長けてるって聞いてたけど、オレの石化に巻き込まれてこの通りボロボロだ。」

 崩壊していくミサの制服を見て、宅真が微笑む。ミサは敵と見なしている眼前の青年に見られて、恥じらいを感じていた。

「さぁ、君はどんな反応を見せてくれるのかな・・じっくり見させてもらうよ。」

  ピキキッ ピキッ

 石化が進行を速め、ミサのはいているズボンを完全に引き裂いた。秘所をさらけ出すことになり、ミサはさらなる動揺を見せる。

「いいよ、そういう風に恥ずかしくなってくれると、オレの心も喜びで満たされていくってもんだよ。」

「だから、冗談じゃないって言ってるでしょ!アンタはあたしのおもちゃじゃないって・・!」

「んん、おもちゃ扱いするつもりは全然ないんだけど。まぁ君がオレのものになるっていうんだから、同じことか。」

 さらにわめくように言い放つミサに、宅真は苦笑いを浮かべて口元に指を添える。

「あたしは負けない!たとえあたし自身が全然違うものにされても、指一本動かせなくなっても、あたしはブラッドには絶対負けられないのよ!」

  ピキッ パキッ パキッ

「あっ!」

 あくまで宅真に屈しようとしないミサにかけられた石化がさらに進み、上着さえも引き裂かれていく。

「もう少しで君の体はオレに完全に支配される。君はこの現実から逃げられない。さて、どんなふうにオレを楽しませてくれるかな。」

 宅真は微笑みながら、ほとんど身動きができなくなっているミサの頬に手を伸ばす。しかしミサは差し出されたその手に噛み付く。

「うっ!?」

 宅真は虚を突かれた面持ちを見せながら、噛まれたその手を戻す。あまりに意外だったため、彼はその手を押さえながら唖然としていた。血は出ていなかったが、その手は歯型がついて赤くなっていた。

「何度も言わせないで・・あたしはブラッドには負けない・・パパとママを殺したブラッドを・・あたしは・・・!」

 その言葉に宅真は眼を見開く。ミサはブラッドを心の底から憎んでいた。両親を殺したという理由で。

「今ここであたしが負けたら、パパとママが浮かばれないし、あたしの正義も粉々になっちゃう!だからあたしはアンタには絶対に負けないのよ!」

 あくまで強気な態度を見せ続けるミサ。彼女のブラッドへの憎しみに、宅真は困惑を隠せなかった。

 

「お疲れ様でした、マリンさん。」

 新しい仕事場でのバイトを終えた葉月。店を出て宅真の自宅に戻る。

(どうしよう・・マリンさんに勧められて夜ご飯食べちゃったけど、たっくん、大丈夫かな・・・?)

 その途中で不安を浮かべる彼女。

 それを振り切ろうとして、彼女はふと足を止めた。その脳裏に親友、ミサのことが蘇る。

(そういえば・・ミサと連絡とってないや・・・どうしてるんだろう・・アークレイヴに慣れたかな・・・?)

 小さく笑みをこぼしてミサのことを思う葉月。

「とにかく、たっくんの家に戻らないと。もう1度ミサに会うにしても、彼と話はしておかないと・・・」

 呟いて、彼女は宅真の自宅に急いだ。彼女の心の中に、親友に会いたいという気持ちが広がっていた。

 その親友が今、宅真に連れ去られて彼の快楽のために石化されていることに、葉月は考えもしなかった。

 

 

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