Blood –sucking impulse- File.1 美少女をさらう吸血鬼
BLOOD
ヴァンパイアの中でも最も能力の高いとされている
自分の血を媒体にすることで様々な力を自在に操ることができる
その能力故に、人々から忌み嫌われてきた
新たな都市として確立したアークシティ。ビル街、裏路地、港など、高度な発展を遂げている都市である。
しかし最近、この都市の間で美女の誘拐事件が起こっていた。警察も必死の警備と捜査を行っていたが、被害者の行方も犯人の詳細も分からないままだった。
業を煮やした警察はついに、アークシティにおける特別編成チーム「アークレイヴ」の出動を要請した。上位ランクの事件に対して動くアークレイヴは、様々な武器、機器を駆使して事件を速やかに処理するプロフェッショナルの集まりである。
その彼らが、街に不安をもたらしているこの誘拐事件に挑むこととなった。
アークレイヴの入隊試験は年に2回、春と秋に行われる。試験は16歳以上なら誰でも受けられるが、知識、体力ともにそのハードルは高く、多くの受験者の中で入隊できるのはほんの一握りなのである。
栄光への架け橋は、狭き門なのである。
そんな栄光を夢見て、一生懸命になっている2人の少女がいた。
咲野葉月(さくのはづき)。ブラウンのショートヘアをしていて、少しおっとりした面持ちを見せる。
上条(かみじょう)ミサ。すらりと下がった黒のロングヘア。正義感が強く悪いことは許せない性格である。
幼なじみで無二の親友同士である彼女たちは、このアークレイヴの入隊を目指していた。ミサは悪から人々を守りたいという一心から、葉月はアークレイヴによる恩を返すために、この入学試験に臨もうとしていた。
模擬試験の成績は、ミサより葉月のほうが上だった。慢心していない葉月と、少し不安の面持ちになっているミサ。
そして本試験当日、2人は試験会場前で足を止めていた。
「あ〜あ、何だか自信ないなぁ。しっかり勉強してきたつもりなんだけど、それでも不安が残るのよねぇ・・」
ミサが不安の面持ちを見せると、葉月は笑みをこぼした。
「大丈夫よ。ミサは一生懸命やってきたんでしょ?努力は必ず実を結ぶものよ。」
「そ、そうだよね・・・?」
「それに、ミサはこのアークレイヴに入って、悪い人を懲らしめるんでしょ?その熱意さえあれば。」
葉月に励ましの言葉をかけられ、ミサの不安が次第に顔から消えていった。
「そうよ。あたしは人々を脅かす悪を打ち倒すのよ。そのためにも、まずアークレイヴに入って、表舞台に立たなくちゃね!ね!?」
「えっ!?う、うん、そうだね・・」
活気付いたミサに苦笑いを見せる葉月。
(ちょっと気合入れすぎちゃったかな・・・?)
胸中で冷や汗を浮かべる葉月に、ミサは気付いている様子はなかった。
「でも、あたしより葉月のほうが可能性あるよね?今までの模擬試験、なかなかいい成績だったんでしょ?」
「そんなことないよ・・」
「それに比べて、あたしはあんまり芳しくなかったからね。」
謙そんする葉月と作り笑顔を見せるミサ。
「さて、そろそろ行くとしましょうか、ミサさん。」
「そうね。2人で受かって、2人一緒にアークレイヴに行こうね。」
互いを向き合って頷く葉月とミサ。これから2人の新しい人生が始まるはずだった。
そしてその日から数日後に、アークシティを騒がす誘拐事件が始まった。
試験が終わって1ヶ月後、試験結果を待ちわびていた葉月。
彼女は数年前に事故で両親を失っている。その事故から彼女を奇跡の生還へと導いてくれたのは、アークレイヴだった。彼らの迅速な行動がなければ、今、彼女は生きていなかった。
その恩に答えるためにも、彼女はアークレイヴ入隊を心に決めていたのだ。しかし自宅から通うのは困難なため、今まで住んでいた自宅を売り、本部近くにある寮に住むことに決めていた。合格者には合否通知日から寮の申し込みができるのである。
荷物の整理をしている葉月。そこへ自宅のインターホンが鳴り響いた。
「あ、はぁい。」
葉月は少し慌てながら玄関に向かう。ドアを開けると、そこには笑顔が似合う郵便配達の青年が立っていた。
「咲野葉月さんですか?郵便物1点ですね。」
そういって青年は1枚の封筒を葉月に手渡した。
「それでは、失礼いたします。」
一礼して青年は立ち去った。彼がバイクを走らせて去っていくのを見て、葉月は玄関のドアを閉めて封筒を確かめた。試験の合否通告だった。
(合格してるかな・・・)
「うわっ!」
緊張を胸に秘めていたところで、葉月は床に置いてあった箱に足をつまづいて転ぶ。前のめりに倒れて額がわずかに赤くなる。
「イタタタタ・・ドジっちゃった・・・」
苦笑いを浮かべて、改めて封筒を見つめる葉月。
そのとき、葉月の携帯電話の着信音が鳴った。葉月はまたも少し慌ててその電話に出る。
「はい、もしもし・・あっ、ミサ?」
電話の相手はミサだった。慌てて出たために、葉月は相手を確認せずに電話に出たのだった。
“もしもし、葉月!?やったよ!あたし、合格したよ!アークレイヴに入れるんだよ!”
「合格?やったじゃない、ミサ!やっぱり頑張った甲斐があったんだよ。」
歓喜の声を上げるミサに、葉月も笑みをこぼす。
“それで、葉月はどうだったの!?もちろん、合格だよね!?”
「えっ、今、通知が届いたとこなの。」
“ねぇねぇ、開けてみてよ。”
ミサに急かされながら、葉月は封筒の封を切る。ミサは彼女の合格は間違いないと思って疑わなかった。
中の通知を取り出し、書かれた合否を確認した。そこに書かれていたのは、
「ふごう・・かく・・・?」
“えっ・・!?”
その合否に呆然となる葉月のもらした声に、ミサが驚きの声を返す。
“ちょっと、葉月・・・ウソ、だよね・・・?”
未だに呆然となっている葉月に、ミサの悲痛の声がかかる。
“葉月、合格だよね!?葉月が不合格なはずがないよ!だって今までいい成績だったじゃない!”
悲痛の叫びを上げるミサ。しかしその声が耳に入らず、葉月はその場に座り込んで泣き崩れた。
夜の裏路地を必死に駆けていく1人の少女。藍色のポニーテールをした中背の少女である。
門限が迫っているわけでも、約束の時間があるわけでもない。彼女は何者かに追われていた。
世間を騒がせている誘拐事件の犯人、白髪のブラッドに。
もう少し走れば広場に出る。そうなれば必ず警察官がいるはず。そう信じて彼女は足を速めた。
そこへ黒い影が、包み込む闇のように彼女の前に立ちふさがる。悲鳴が上がり、少女は姿を消した。
葉月は途方に暮れていた。夢の架け橋が閉ざされ、家も売り払ってしまい、どうしたらいいのか分からないまま、街中を彷徨っていた。
そこで思い立った彼女が取った行動は、仕事探しである。生活のための資金を得なければどうにもならない。
しかしいくつもの店を回っても、雇用が間に合っている、不釣り合い、給料を出せる余裕がないなどの理由で、彼女を雇ってくれるところはなかった。
打つ手を全て失くし、葉月はどうにもならない絶望感にさいなまれていた。
(どうしたらいいの・・ミサ・・お父さん、お母さん・・・)
悲痛の面持ちを浮かべて、彼女は自分の携帯電話を取り出した。これだけが今の彼女の思い入れのある唯一の所持品である。
そして彼女の脳裏に幼い日々が蘇る。無邪気な子供だった自分と、笑顔を見せてくれた父と母。
しかしあの交通事故で、両親は亡くなり、あの楽しい日々は幕を閉じた。彼女の心に焼き付けられた事故の惨劇。煙を昇らせている車。悲鳴と助けを求める声。道路に散乱した人の血。
血。
「うぐっ・・!?」
そのとき、葉月は激しい不快感に襲われた。嗚咽が体を蝕み、彼女は壁に寄りかかって口に手を当てる。
何かを吐き出したいのではない。何かを欲しているのだ。それも本能的な衝動で。
何とか追い求める衝動を抑え込んで、葉月が我に返って落ち着こうとする。精神的な苦痛にさいなまれ、呼吸が荒くなっていた。
(な・・何なの・・今の・・・!?)
どうなっているのか分からず、葉月はさらなる混乱に包まれた。脱力してその場に崩れ落ちる。
ただでさえ人生が無茶苦茶になっているのに、突然の発作に襲われた。何らかの病気なのか、それとも悪い記憶からの逃避なのか。考えれば考えるほど、彼女の混乱は深まるばかりだった。
ふと空を見上げると、夕日が沈んで暗くなろうとしていた。
(お日さまが・・沈んでく・・・)
ささやかなことを考えて、葉月は夕暮れから夜になる空を見つめ続けていた。
彼女のいるこの通りには人通りが全くない。そんな寂れた場所にぽつんと取り残されている彼女。
「もう私・・生きていなくてもいいよね・・・?」
生きる希望さえなくした葉月が物悲しい笑みを浮かべる。
そこへ1つの人影が彼女をさらに暗く映し込んだ。彼女が顔を上げると、そこには1人の青年がいた。
黒のコートに身を包んでいるが、肩の辺りまである髪は真っ白だった。
「こんなところにかわいい子がいるなんて。けっこう意外だな。」
青年が笑みをこぼし、気さくな態度で呟く。
「悪いんだけど、オレと一緒に来てもらおうかな。」
青年は笑みを消さずに、葉月に手を伸ばす。彼女は促されようとも逃げようともせず、虚ろな眼をしたままだった。
伸ばしてきた手につかまれ、そのまま青年に抱かれる葉月。青年は彼女を連れて、音も立てずに姿を消した。
その青年こそが、アークシティを騒がせている白髪のブラッドなのである。
連続美女誘拐事件は、アークレイヴでさえも真相への道のりは険しかった。
「全く、我々がこうも悩まされるとは。こんなことは組織で初めてのことだ。」
小さな不精ひげを生やした男が愚痴をこぼす。彼はアークレイヴ副隊長、ライアン・ハートである。
「しかしこちらは手がかりひとつないんですよ。警備以外に犯人を突き止める手段は、今のところないですよ。悪魔の力を探知するディアスサーチャーも相変わらず無反応ですし。」
隊員の優男、佐々岡(ささおか)マイクも参ったという面持ちを見せていた。
「我々の包囲網に一切引っかからないとは、敵ながら恐ろしい相手だ。」
ライアンが歯がゆい面持ちを見せる。
2人が苦渋している作戦室に、1人の青年がやってきた。長い黒髪を1つに束ねた、顔つきのいい若い男である。
青年の登場にライアンとマイクが席を立って敬礼を送る。この青年こそがアークレイヴ隊長、夢野仁科(ゆめのにしな)である。
「そんなにかしこまらなくていいよ。気を楽にしてくれたまえ。」
気さくな態度を見せる仁科に、ライアンとマイクが渋々敬礼を解く。
「今回の入隊試験の合格者は、すばらしい人材ばかりで悩んだよ。ホントなら入れるヤツはもっといたんだけど、いくらなんでも全員を入れたら本部に入りきらなくなっちまうし。苦渋の決断だっていうのは否めないけどな。」
仁科が試験について語りだす。それどころではないという面持ちで、ライアンもマイクも困り果てていた。
「そうだ。今回入った新人くんたちの何人かを、現場に出してみようと思うんだが、どうかな?」
「隊長・・!?」
切り出した仁科の提案に、ついにライアンが怪訝な反応を見せた。
「いくら何でも新人をいきなり現場に出すのは危険すぎます!しかも上位ランクに指定された事件。あまりにも荷が重すぎるのでは・・!」
「もちろん先輩の隊員を同行させるさ。それに、期待してみるのもいいかもしれないよ。若い連中の発想力ってやつをね。」
あくまで気さくな態度を崩さない仁科に、ライアンはすっかり気が滅入ってしまった。
「まぁ、何かあったら、責任はオレが取るからさ。やれることは何でもやったほうがいいさ。」
そう告げて仁科は笑いながらこの場を去っていった。所属が長いが、ライアンは彼の緊張感のない言動に呆れるばかりだった。
葉月が眼を覚ましたのは、薄暗く見慣れない部屋の中だった。周囲を見渡してみるが、なかなか視界が暗闇に慣れてこない。
「ここは・・・?」
「眼が覚めたみたいだね。ゴメンね。いきなり気絶させちゃって。」
呆然となっている彼女に、気さくな声がかかってきた。虚ろな眼のまま振り返った葉月。
そこには1人の青年がいた。街中で彼女を連れ去った青年と声は似ていた。
しかし淡い光が灯った部屋の中にいる彼は少し違っていた。髪は完全なショートヘアで黒かった。
「ここはオレの秘密の部屋さ。まぁ、オレの力じゃないと出入りはできないけど。」
「えっ・・・?」
青年のこの言葉に、葉月は周囲を見回す。明かりに照らされた部屋には、出入り口となるドアや窓が全くなかった。
そんな彼女は、信じられない光景を目の当たりにした。
部屋の中には女性たちの石像が並べられていた。そのどれもが、衣服を一切身に付けていない裸の白い石像たちだった。
「驚いたかい?こんなに裸の女性の石像を並べていて、とってもおかしな人だと思ったかい?」
気さくな言動を見せる青年。しかし葉月は虚ろな面持ちをしたままで無反応である。
「でもこれらは実はね、本物の女性たちなんだよ。オレが彼女たちをここに連れてきて、きれいなオブジェに変えていく。オレは変わっていく彼女たちの様子を見て楽しんでいるわけ。」
淡々と語る青年だが、葉月は聞いていなかった。生きる希望を見失っている彼女は、もうどうなってもいいと思っていた。
「さて、そろそろ君もオブジェにしてみようか。どんな反応を見せてくれるのかな?」
期待を込めて、青年が葉月に手を伸ばす。呆然となっている彼女は、促されるままに立たされる。
「さぁ、オレの眼を見て。オレの光る眼を見れば、君もオブジェになれる。」
笑みを見せながら、青年は葉月の眼を見つめる。その眼が淡く光り出し、その輝きが増していく。
カッ
そしてその眼の光が解き放たれる。
ドクンッ
葉月に強い胸の高鳴りが襲う。しかし茫然自失の彼女はその感覚に驚いてはいなかった。
「さて、見せてもらおうかな。君がどんなふうにオブジェになってくれるのか。」
子供のように無邪気に微笑む青年。
「君は胸からいってみますか。丁度いいふくらみをしてそうだし。」
ピキッ ピキッ ピキッ
彼が言い終わると、葉月の上着が引き裂かれる。破かれた拍子で、ポケットに入れていた携帯電話がこぼれ落ちる。
さらけ出された上半身、ふくらみのある彼女の胸は白く冷たい石になり、ところどころにヒビが入っていた。
「やっぱりいい感じの体をしてるね。でも・・・」
期待感に胸を躍らせようとしている青年だが、腑に落ちない面持ちを浮かべて顔をしかめる。
「そんなふうに生きてる心地がしてないような顔をしてるんじゃ・・・」
彼の言うとおり、葉月は虚ろな表情をしたままだった。自分の体が変化していることにも気付いていないのか、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「まぁいいや。ひと通り石化を進めていけば、いつかいい反応を見せてくれるはず。」
ピキキッ パキッ
石化が葉月の下半身を蝕みだした。スカートが引き裂かれ、一糸まとわぬ姿にされる。
しかしそれでも彼女は呆然としたままだった。住む家も夢も失った彼女は、生きる気力さえ見出せなくなっていた。
「美しい・・きれいだよ・・・でも何か反応を示してくれないと・・」
一瞬笑みを見せるが、すぐに困り果てた面持ちになる青年。
「こういうのは石化した後に楽しむのが多いんだけど・・」
ため息混じりに告げると、青年は葉月の石の胸に手を当てて撫で回す。この行為をされては何らかの反応を見せるはずだった。
しかしそれでも葉月は反応を見せない。まるで人形のように無反応だった。まるで生きながら死んでいるのだった。
「どうしたんだろう・・・そんなに内気な子なのかな・・・?」
一抹の疑問を感じながら、青年は葉月を優しく抱きとめた。
「そんなに自分を抑え込まなくたっていいんだよ。ここにいるのはオレと君、そしてオブジェになった女性たちだけ・・・」
優しく語りかける青年。しかし葉月の頑なな心は解き放たれなかった。
パキッ ピキッ
石化が彼女の頬を、髪を、心を白く凍てつかせていく。
「仕方がない。このまま石に変えてしまおう。」
少しがっかりした面持ちを見せて、青年が葉月から離れる。
ピキッ パキッ
そして唇も固まり、
フッ
その瞳からも生の輝きが消えた。葉月は生きる希望を失くしたまま、誘拐犯のブラッドによって裸の石像にされた。
「これでまた、オレのコレクションが増えて、心の埋め合わせができた・・はずなのに・・・」
この日もまた、美女を誘拐して石化、その女性の反応を楽しみながら快楽を堪能しつつ、心も体も自分の物にするはずだった。しかし今回はその快楽が感じられず、青年は落胆を見せていた。
彼は再び葉月の石の胸に手を当てる。今度は快楽を共感するためではなく、彼女の心を読み取るためだった。
彼によって石化された人に触れることで、彼はその人と心を通わせることができる。葉月の閉ざされた心に向けて、彼は念を込めた。
(ん〜・・やっぱり心を開いてないみたいだね・・・)
頑なになっている葉月の心に、青年は困り果てる。
(ということはこうしても反応しないのか・・・)
考え込みながら、彼は彼女の秘所に手を伸ばす。しかし彼女の心は反応しない。
「これじゃどうにもならないな・・仕方がない。」
諦めた青年は指を鳴らす。すると石化されていた葉月の体が、石の殻を弾かせながら元に戻る。石の束縛から解放された彼女が、その場に倒れ込む。
意識を失った彼女を見下ろして、青年は小さく笑みをこぼした。
「とりあえず今は元に戻しておくよ。いつか心が開いてくれたときにまた石化して、君のいい反応を楽しませてもらうよ。」
今度こそ快楽を堪能することを期待しながら笑みを浮かべるブラッドの青年。これが彼と葉月の運命の物語の始まりだった。