Blood Naked Hearts- File.5 強襲

 

 

 連れ込んできた女性の体を蹂躙し弄ぶ男。彼は女性の反応や恐怖を堪能していた。

「君もいい反応を示してくれた。感謝しているよ・・」

 男が女性に対して感謝を口にする。

「でも君でも、私を心から満足させるには至らなかった・・やはり彼女しかいないのだろうか・・・」

 しかし男はふと表情を曇らせた。彼女は記憶を思い返していた。

「今どこにいるのだろうか・・サキ・・・」

 サキのことを考えて、男、カースは欲情を募らせていた。

 

 森の中で眠っていたサキだが、カースといたときの夢を見て目を覚ました。

(また、アイツの夢か・・思い出したいのか、思い出したくないのか・・・)

 カースのことを考えて、サキが頭に手を当てる。

(遅かれ早かれ、ヤツとまた会い、決着を付けなくてはいけないな・・私は、ヤツをこのまま野放しにしておく気にはなれないから・・)

 カースへの敵意を胸に秘めて、サキは再び眠りについた。

(アイツ、何か様子がおかしかった・・・)

 サキの様子を見て、アスカが眉をひそめる。

(アイツも、何かあるっていうの・・・!?

 サキに対して疑問を感じていく。

(そんなの関係ない・・私はコイツを倒すためだけに・・・!)

 込み上げてきた迷いを振り切ろうとして、アスカはサキを見据える。

(コイツのせいでみんなが・・私がコイツを倒さないと・・倒さないと・・・!)

 サキを倒すことを自分に言い聞かせるアスカ。しかし思えば思うほどに、アスカはためらいを感じるようになっていった。

(何で・・きちんと知らないと、納得ができない気がしてならない・・・)

 複雑な気分を拭いきれないまま、アスカも眠りについた。

 

 アスカとサキの様子を物陰からうかがっていた影がいた。

(あの吸血鬼・・隙を見せない・・完全にオレたちを警戒している・・・)

 影がサキに対して警戒を強めていく。

(アイツは強い・・裏をかいても勝てない・・・だが、そこにいるヤツを使えば・・・)

 影が視線をサキからアスカに移して、不気味な笑みを浮かべる。

(2人が離れたところを狙うとしようか・・)

 影はサキとアスカを狙って、監視を続けることを決めた。

 

 次の朝、サキは先に移動を始めようとした。気づいたアスカも慌てて追いかけていく。

(ここまでついてくるとは・・吸血鬼になっているとはいえ、大したことだ・・・だが、そろそろ振り切らせてもらうとするか・・)

 サキが後ろのアスカを気にして、心の中で呟いていく。

(遅かれ早かれ、私がヤツと対峙することになる・・アイツがどうなろうと知ったことではないか、邪魔になっても困るからな・・)

 サキは思い立って、一気に加速して駆け出した。

「あっ!待て!」

 アスカが慌ててサキを追いかける。アスカも常人離れした速さで進んでいた。

 だが力に慣れていないアスカは、徐々にサキに離されていく。

「待て!逃げるな!このまま自由になんて・・!」

 アスカがサキに向かって声を振り絞る。しかしついに彼女はサキを見失ってしまった。

「どこ・・どこに行ったのよ・・・!?

 血眼になってサキを探していくアスカ。彼女はサキへの憎悪を募らせて、地面を強く踏みつける。

 そのとき、アスカの視界が突然鮮明になった。彼女はより広く、より遠くのものが見えるようになった。

(どこ・・アイツはどこ・・・!?

 アスカが目つきを鋭くして、サキの行方を探る。彼女の視界が、遠ざかっていくサキを捉えた。

(いた・・・!)

 アスカがサキに向かって駆け出す。彼女の動きは一瞬、目にも留まらぬ速さを発揮したが、すぐにふらついて倒れてしまう。

「あ、あれ・・・?」

 自分が何をしたのか分からず、当惑するアスカ。彼女はその一瞬の記憶がなくなっていた。

「力が入らない・・せっかく見つけたのに・・これじゃ、追いかけられない・・・!」

 疲弊を振り切ることができず、アスカは前に進むことができなかった。

「どうやら無意識に、吸血鬼の力を使ったようだな・・」

 そのとき、アスカに向かって声がかかってきた。彼女の前に1人の怪物が現れた。

「だがそのために力を使いすぎたようだ。立つことも動くこともできないようだな。」

「バケモノ・・私を狙って・・・!」

 不敵な笑みを浮かべる怪物に、アスカが毒づく。

「オレが狙うのは、お前と一緒にいたあの吸血鬼だ。そのために利用させてもらうぞ、お前を・・」

 怪物がアスカに向けて手を伸ばしてきた。疲弊したアスカに抗う力は残っていなかった。

 

 アスカを振り切ったと思い、サキが足を止める。

(振り切ったのか・・だが一瞬、強い力を感じた・・これは間違いなく、アイツの吸血鬼の力・・・)

 サキが眉をひそめて、思考を巡らせる。彼女はアスカが瞬間的に発揮した力を感じ取っていた。

(また無意識に出したのか・・もう少し振り切りをしたほうがいいか・・)

 警戒を感じたサキは、アスカを振り切ろうとさらに足早の移動をした。彼女はアスカの吸血鬼の力に脅威を感じていた。

 

 疲弊した状態で抵抗ができず、アスカは怪物に捕らえられた。意識を失った彼女を見つめて、怪物が不気味な笑みを浮かべていた。

「このままコイツを食らって力を付けてもいいが、別の使い道がありそうだ・・」

 サキを倒すための手段にアスカを使おうとする怪物。怪物はアスカの腕をつかんで引っ張っていく。

「アイツの移動のスピードが遅くなった・・向かえば追いつけるぞ・・・」

 不敵な笑みを浮かべて、怪物がアスカを連れてサキのいるほうへ向かっていった。

 

 アスカを振り切ったと思い、サキは林の中で足を止めて休息を取っていた。

(あれからヤツの強い力は感じていない・・振り切ったと見ていいだろう・・)

 アスカのことを考えて、サキが肩を落とす。

(だが、他のヤツらが私を付け狙っている・・これで隠れているつもりなのだろうが・・・)

 腰を下ろしていたサキがゆっくりと立ち上がる。

「姿を見せろ。それとも隠れたまま死にたいか?」

 サキが低く告げると、木々の木陰に隠れていた怪物たちが続々と姿を現した。

「おのれ・・どこまで敏感なのだ、貴様は・・・!?

「気配を殺して隠れた気になっていたが、生き物を手にかけたお前たちの血のにおいまでは隠しきれない・・」

 いら立つ怪物たちにサキが冷淡に告げる。

「いつまでも何度もうろつかれても鬱陶しい・・ここで始末する。」

 サキが両手を鳴らして、怪物たちに近づいていく。

「こうなったら、一斉にかかってズタズタにしてやる!」

 怪物たちがいきり立って、サキに一斉に飛びかかる。

「どいつもこいつも、短絡的だ・・」

 サキが肩を落とすと、怪物に向かって拳を振り下ろす。

「ぐあっ!」

 彼女に頭を殴られて、怪物たちが地面に叩きつけられて昏倒していく。

「お前たちごとき、吸血鬼の力を使うまでもない・・」

 両手を動かしていくサキに、怪物たちが畏怖して後ずさりしていく。

「コイツ・・どこまでもオレたちをなめくさりやがって!」

 いきり立った怪物たちが一斉にサキに飛びかかる。だがサキが振りかざす両手に顔や頭を叩きつぶされていった。

「身の程知らずが・・これでお前たちに追われることはなくなるがな・・お前たちには・・」

 サキはため息をついてから、休める場所を探しに行こうとした。

「やはり一筋縄ではいかないな、お前は。」

 声をかけられて足を止めるサキが、また肩を落とす。

「まだいたのか・・私としたことが、見逃すとは・・・」

 後ろに現れた怪物に、サキが目つきを鋭くする。

「だがわざわざ私の前に出てくるとは、よほどの命知らずのようだ・・」

「オレが何の作戦もなしに、わざわざお前の前に現れると思うか?」

 ここで振り向いたサキに、怪物たちが不敵な笑みを浮かべてきた。怪物がつかんでいたのはアスカだった。

「コイツを最近連れ回していたのは見ていた。お前と何か関係があるのだろう?」

 怪物がサキにアスカを見せつける。怪物に腕をつかまれていたアスカは、意識を失っていた。

「妙なマネをすれば、コイツがどうなるか分からないぞ・・」

「そいつがどうした?そいつがどうなろうと、私には関係ない。私を逆恨みしていてもいるしな・・」

 怪物が脅しをかけるが、サキは冷淡に言葉を返す。

「それならば、邪魔者として早々に始末すればよかったものを・・わざわざ泳がせるとは・・・」

「羽虫にいちいち腹を立てるのは珍しいことだろう・・?」

「ただの羽虫同然のつもりならばな・・・」

 表情を変えないサキに、怪物が不敵な笑みを見せる。

「お前がコイツに吸血鬼のことを話して、力の使い方も教えようとしていたのも、オレは見ていたぞ・・」

 怪物が向けてきた指摘に、サキが目つきを鋭くする。

「ただの気まぐれにしては、えらく深入りしているようだが・・」

「本当にただの気まぐれだ。お前も余計なことを考えるな・・」

「気まぐれの域を超えているだろう・・邪険にしていたが、無意識に感情移入してしまっている、ということか・・」

 笑みをこぼす怪物に、サキがいら立ちを感じていく。

「どこまでも勝手なことを・・その口を黙らせる必要があるようだな・・・!」

「このまま手を出せば、コイツも巻き添えになるぞ?」

「関係ない・・そいつがどうなろうと・・・!」

「ならばオレを始末したらいい。コイツ諸共な・・」

 怪物が向かってくるサキにアスカを見せつける。サキが怪物を狙って拳を振りかざそうとした。

 だがサキの拳が怪物とアスカの直前で止まった。彼女は拳を押し込めず、震わせている。

「どうした?攻撃しないのか?」

「攻撃してやる・・お前など・・・!」

 不敵な笑みを見せる怪物に、サキが拳を振りかざそうとする。しかし彼女の意思に反して、拳はこれ以上先に進まない。

「やはり、お前は無意識にコイツのことに入れ込んでしまったようだ・・完全に躊躇が現れているぞ・・」

「私は・・そんなことは・・・!」

「口や頭では違うと否定していても、頭の奥底は躊躇しているのだ。でなければ既に、オレもコイツも死んでいるはずだ・・」

 怪物の言葉に抗おうとするサキだが、躊躇を捨てきれずに震えるばかりだった。

 次の瞬間、怪物が左手を出して、サキの右の脇腹に爪を突き立てた。

「ぐっ!」

 サキが刺された脇腹に苦痛を覚えて顔を歪める。爪を刺された脇腹から血があふれ出す。

「冷酷非情の吸血鬼が聞いて呆れる不様だな。」

 うずくまるサキを見下ろして、怪物があざ笑ってくる。

「これでお前を始末できる可能性が出てきたというものだ・・誰も震え上がらせた吸血鬼の力を、オレがものにできる・・・!」

 怪物が目を見開いて、傷ついたサキに迫る。

「私を・・甘く見るな!」

 サキが力を振り絞り右手を振りかざす。ところが後ろに飛んだ怪物に軽々とよけられる。

「動きが鈍っているようだな・・」

 嘲笑してくる怪物をサキが鋭い視線を向ける。しかし脇腹の負傷で彼女の動きは鈍っていた。

「すっかり強さが鈍ってしまったようだな・・だが吸血鬼としてのその力は、切り捨てるにはもったいない・・」

 怪物がアスカを抱えたまま、サキに近づく。サキが右手を振りかざすが、怪物に軽々とつかまれてしまう。

「ぐっ・・!」

 顔を歪めるサキが怪物に振り回されて地面に叩きつけられる。体に衝撃が駆け抜けて、サキが吐血する。

「ではいただこうか・・お前の血を・・吸血鬼としての力を・・」

 怪物がサキを引き寄せて、体に食らいつこうとする。

「は・・・放して・・・!」

 そのとき、怪物が捕まえていたアスカが意識を取り戻して、声を発してきた。

「気が付いたか・・だがまだ体力は回復していないし、吸血鬼の力を思うようには・・・!」

 怪物が不敵な笑みを浮かべて、アスカを無視してサキに迫ろうとした。

「その手を・・放して・・・!」

 怪物に捕まっていたアスカが、その手を握り返してきた。

「ぐっ!・・この力・・!」

 怪物が腕に痛みを覚えてうめく。アスカがつかんできた手から強い力が出ていた。

「これ以上・・私たちを・・ムチャクチャにしないで!」

 アスカがつかみ返した怪物を力強く投げ飛ばす。不意を突かれた怪物が地面に叩きつけられる。

「コイツ、吸血鬼としての力を・・!?

 うめく怪物が、アスカにそのまま腕をへし折られる。

「ぐあぁっ!」

 腕の激痛で怪物が絶叫を上げる。アスカが手を放して、怪物がたまらず離れる。

「まさか、1番侮っていたこの娘に痛手を負わされるとは・・!」

「私たちをムチャクチャにする怪物を、私は許さない・・・!」

 アスカが鋭く言いかけて、怪物に向かって飛びかかる。彼女が突き出した手の爪が、怪物の体に突き刺さった。

「ぐっ!・・オレが、コイツにやられるなど・・・!」

 吐血する怪物を、アスカがさらに突き飛ばす。致命傷を負わされた怪物が、昏倒して動かなくなった。

 アスカは息を荒くしたまま、サキに振り返ってきた。

「お前たちがいるから・・私たちは!」

「おい、よせ!」

 目を見開いて飛びかかってきたアスカに、サキが怒鳴りかかる。アスカが突き出してきた手を、サキは素早くかわす。

(コイツ、また力に振り回されているな・・・!)

 アスカが吸血鬼の力に振り回されていると気付き、サキが毒づく。

(今度こそ仕留めるしかない・・私が生き残るために・・・!)

 サキがいきり立ち、アスカを倒そうと右手を突き出す。が、アスカは突きをかわして、サキに迫ってきた。

 アスカが突き出した右手の爪が、サキの左腕をかすめた。

(吸血鬼の力が増している・・だがそれは同時に、血の枯渇を早めることに・・・!)

 追い込まれていくサキが、アスカへの対処について思考を巡らせていく。

(血がなくなるまで待つのが確実だが、それがどこまでなのかは判断しきれない・・・!)

 自分にとって生き残れる方法を模索していくサキ。

(やはり仕留めるしかないか・・!)

 答えを見出したサキが、吸血鬼の力を発動して、紅い剣を作り出す。彼女は向かってきたアスカに剣を振りかざす。

 だがアスカの右腕に当たった剣は、彼女を切ることができない。

(切れない!?傷もつかないだと!?

 強靭になっているアスカの体に、サキがさらに驚く。次の瞬間、アスカの左手がサキの首をつかんできた。

「ぐっ!」

 首を絞めつけられて、サキがうめく。吸血鬼の衝動の赴くままに、アスカが力を込めていく。

(ヤツの力は、私を超えるほどになっているのか!?・・・このままでは殺される・・・!)

 危機感を直感して、サキが本能的にアスカの両腕に抗おうとする。しかしサキはアスカの腕を振り払うことができない。

 そのとき、アスカが目を見開いて、突然サキをつかんでいた両手から力を抜いた。

「わ・・私・・・何を・・・!?

 自分が何をしていたのか分からず、アスカが困惑を浮かべる。吸血鬼の力に振り回されていた間、彼女は記憶が飛んでいた。

「やはりお前、力に振り回されていたか・・」

 アスカの様子を見てサキが呟く。彼女の前でアスカが意識を失って倒れた。

「このまま・・ヤツを野放しにするわけには・・・」

 アスカの吸血鬼の力の強さに危機感を募らせるサキ。彼女は今のうちにアスカを仕留めようとした。

 

 

File.6

 

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