Blood –Eternal Lovers- File.8 掌握
死を求めて移動を続けているララとルナ。だが2人は、誘拐犯に関する手がかりを得られないでいた。
「これだけうろついているというのに、食いついても来ない・・近くにはいないのか・・・」
「はっきりしてこないのも、不安だよね・・・」
ため息をつくララと、不安を浮かべるルナ。
「しばらくこの辺りを回ってみよう。いなければ場所を変える。」
ララは言いかけると、再び歩き出した。そのとき、ルナが突然笑みをこぼし、ララが眉をひそめる。
「何がおかしい?」
「ゴメン・・でもララ、すっかり変わったって思って・・・」
「何を言っている?私は私だ。それだけは絶対に変わらない・・」
ルナの言葉を受けてララが憮然とした態度を見せる。だがララは内心、自分の心の変化を理解していた。
(すっかり変わったか・・本当に変わってしまったと、私も思う・・・)
そう考えながら、ララはルナとともに歩いていった。
その日の夜、ララとルナは人気のない通りに差し掛かっていた。2人は一夜を過ごせる場所を探すことにした。
「明日はここを離れよう。もうここにはいないだろう・・」
「前はこの辺りで襲われたんだけど・・もういなくなってしまったのかな・・」
呼びかけるララに、ルナが沈痛の面持ちを浮かべる。2人はこの近辺に誘拐犯はいないものと思っていた。
「わざわざ移動する必要はないわよ・・」
そこへ声がかかり、ララとルナが足を止める。聞き覚えのある声を耳にして、ルナは体を震わせていた。
「この声・・まさか・・・!?」
恐る恐る振り返るルナ。彼女の視界の中に、自分を狙う誘拐犯の姿が飛び込んできた。
「お前か、例の誘拐犯は・・?」
ララが問いかけると、女性は妖しく微笑んできた。
「私はラン。世界中の美女をより美しくするために存在しているのよ・・」
「女をさらって石にしている・・そういうことだろう?」
「あなたたちも美しくしてあげる。それこそあなたたちにとっても幸せなことだけど?」
「生憎私は美しさなど興味はない。醜くなろうとも朽ち果てたい。それが私たちの願いだ。」
「そう?でも私にはどうでもいいこと。美しくなれることが、女にとってこの上ない至福なのよ・・」
女性、ランがララを見つめて目つきを鋭くする。しかしララは動じることなく、ため息をついていた。
「救世主のつもりでいるようだが、結局は貴様の私利私欲。女を石にすることにだけ喜びを感じている・・」
「知った風なことをいうじゃない・・そういう強気なところ、私は嫌いじゃないわ・・」
嘲ってくるララだが、ランはさらに笑みをこぼす。
「ひとつ聞く。お前に石にされた者は、意識が残っているのか?」
「意識?さぁね。私はあるつもりでいるけど、本当のところは分からないわね・・」
「そうか・・ならばあまり期待するべきではないな・・」
「確実に意識がなくならないと満足しないみたいね・・・」
再びため息をつくララに、ランも肩をすくめていた。だが直後、ランの眼に狂気が膨らんだ。
「どっちにしても、あなたたちもオブジェになるだけよ・・」
「力ずくか・・だが私は他の女とは違うぞ・・・!」
言いかけるランに鋭く言い返すと、ララが紅い剣を出現させる。
「それがブラッドの力・・自分の血を代償にして発揮される・・久しぶりに見るわね・・」
「その口ぶり・・以前にブラッドに会っているのか?」
「私のコレクションに加えた女性の中には、ブラッドも含まれているの。だからブラッドだからオブジェにされないというわけにいかないから・・」
「勘違いしているな。私はお前のように自分には酔っていない。常に己の力量を理解している。」
ララは言いかけると、ランに向けて剣の切っ先を向ける。
「私の期待に添えないなら目障りなだけだ。すぐに消え失せないなら、ここで貴様の首を切り落としてやるぞ。」
「怖いことを言うわね・・その強気な態度が、オブジェになったときに消えるかどうか、試してあげる・・・」
会話が終わると同時に、ララがランに飛びかかる。彼女が剣を振りかざすが、ランは軽々と回避する。
ララがさらに剣を振りかざしていくが、ランはその全てを軽い身のこなしでかわしてしまう。
「どうしたの?そんな動きじゃ私を斬れないよ。」
悠然とした態度を見せるランに、ララが苛立ちを募らせる。
「そろそろ私がやらせてもらおうかな?」
ランが反撃に転じて、ララに向けて手を伸ばす。その手の平から閃光がほとばしり、ララが吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
「ララ!」
うめくララと、たまらず叫ぶルナ。踏みとどまったララがランに視線を戻す。
「コイツ、光を操れるのか・・こんな攻撃を仕掛けてくるとは・・・!」
「私は光と闇を操ることができるの。闇は光があるからできる。光を操れれば闇も操れる。簡単な理屈よ。」
うめくララに、ランが淡々と語りかける。
「御託はいい。その程度では私に勝つことはできないぞ・・!」
「それはどうかな?ウフフフフ・・」
いきり立つララに対し、ランは悠然さを崩さない。
「大丈夫。ここでは何もしない。あなたたちを連れ帰るだけ。」
「ふざけるな。お前などに未を委ねるつもりはない。」
妖しく微笑むランに、ララが再び飛びかかる。だが振り下ろした剣が、ランに軽々と受け止められてしまう。
「なっ!?」
「さっきは光を操ったけど、今度は闇を操ってあげる・・」
驚愕するララに、ランが囁くように言いかける。彼女の体から黒い霧があふれ出てきた。
「何っ!?おのれ!」
霧はララに取り付き、縄のように縛り付けてきた。ララは全身に力を込めるが、霧を振り払うことができない。
「ムダよ。闇は光と同じくらい強力なんだから。そう簡単には破れないよ。」
「ララ!」
言いかけるランに、ルナが飛びかかる。だが簡単に黒い霧に捕まってしまう。
「キャッ!」
「ルナ・・・!」
悲鳴を上げるルナと、うめくララ。身動きの取れなくなった2人を見つめて、ランが微笑みかける。
「これで2人とも捕まえた。それなりに楽しめたほうかな。」
ランがララを引き寄せ、頬に手を添える。黒い霧の拘束によって、ララは持っていた剣を落としてしまう。
「果たしてあなたはどんなオブジェになってくれるのかな・・」
ララに微笑みかけてから、ランがルナに視線を移す。
「これで心残りがなくなって、気分がよくなりそうね・・」
「私の友達はどうしたの!?無事なの!?」
「大丈夫よ。あなたのお友達もコレクションに加えてあげたわ。美しいオブジェになって、喜んでいることでしょうね・・」
ランの答えを聞いて、ルナが不安を募らせる。友達が石化されたまま、ランの手の中にいるのがたまらなかった。
「これから連れて行ってあげる。友達と一緒なら寂しくならないでしょう?」
ランは言いかけると、体から発している黒い霧を拡大させていく。その霧に溶け込むように、3人はこの場から姿を消した。
徐々に漆黒の霧が晴れていく。ララとルナが眼にしたのは、見知らぬ部屋の中だった。
「いらっしゃい。ここが私の家の中。そしてこの部屋が私のコレクションルームよ。」
そこへランが声をかけてきた。その声に促されて周囲を見回したルナが眼を疑った。
部屋の中には全裸の女性の石像が立ち並んでいた。全てがランによって石化された女性たちである。
「元からきれいだった女性ばかりだった。それを私がオブジェにすることで、さらに磨きをかけたのよ。」
「何を言ってるのよ・・誰もそんなこと望んでないじゃない!」
微笑みかけるランに、ルナが悲痛の叫びを上げる。
「普通はこんな力があるなんて信じられなかったのよね。でも実際はあった。それを知ってそれを体感したことで、感じたことのない喜びを感じることができた・・いいことじゃないの。」
「石にされて、裸にされて・・それで喜ぶ人なんていないよ!」
悠然と語りかけるランだが、ルナは頑なにその言葉をはねつける。その言動にランがため息をつく。
「このすばらしさが理解できないなんて、寂しいものね・・・」
呟きかけると、ランは再び漆黒の霧を体から発する。ララが紅い剣を出現させて身構える。
「言葉をかけても分からないみたいだから、実際に経験してみることね。そうすればさすがに分かるはずだから・・」
「ならば試させてくれ。私はお前を葬り去るつもりだがな・・・!」
言いかけるランにララが剣を振りかざす。だが剣は霧に受け止められてしまう。
「そんなに慌てなくても、すぐに体感させてあげるから・・」
ランは言いかけて、ララから紅い剣を奪い取る。
「まずは見ていて。少し前に新しい人を連れて来ていたの。そろそろ起こしてオブジェにしないと・・」
ランは言いかけると、後ろに倒れているショートヘアの少女を起こす。
「起きて・・そろそろ楽にしてあげるから・・・」
ランに呼びかけられて、少女が眼を覚ます。直後、少女の体を漆黒の霧が締め付けてきた。
「イヤァ!放して!助けて!」
「大丈夫よ。言ったでしょ?すぐに楽にしてあげるって・・」
悲鳴を上げる少女に、ランが妖しく語りかける。
「あなたたちに教えてあげるわ。光は時に全ての秘密を暴いてしまうことを・・」
ララとルナに言いかけると、ランは少女をじっと見つめる。
カッ
彼女の眼からまばゆい光が放たれ、暗闇に包まれていた部屋をきらめかせる。
ドクンッ
その眼光を受けた少女が強い胸の高鳴りを覚える。
ピキッ ピキッ ピキッ
その直後、少女の衣服が突然引き裂かれた。あらわになった体がひび割れた石へと変わっていた。
「な、何なの、コレ!?体が・・・!?」
自分の体の変化に驚愕する少女。その様子を見て、ランが妖しく微笑みかける。
「やっぱりいいスタイルをしているわね。このままもっと美しいオブジェになってね・・」
「イヤ・・あたし、このまま動けなくなるなんてイヤ!」
ピキッ パキッ パキッ
悲鳴を上げた瞬間、少女にかけられた石化が進行する。手足の先まで石に変わり、彼女は身動きが取れなくなってしまった。
「そんな邪険にしないで。あなたはこれからずっと美しくいられるんだから・・」
「やめて・・石になんてなりたくない・・・」
ピキッ ピキッ
少女はさらに石化に包まれて、声を発することもできなくなっていた。
「ウフフフフ。あなたも私のコレクションの仲間入りね・・・」
フッ
微笑を浮かべるランの前で、少女は完全に石化に包まれた。彼女はランの力で、一糸まとわぬ石像と化してしまった。
「こうしてみんな理解していくのよ。石化が実際に存在していて、それが最高の美しさにつながっているって・・」
ランがララとルナに振り向いて語りかけていく。
「あなたたちも同じようにオブジェにしてあげる。あなたたちも楽になれるのよ・・」
「イヤよ!あなたのものになんて、絶対になりたくない!」
微笑むランに悲痛さを込めて言い返すルナ。
「でも楽になれるのよ。痛い思いとか辛い思いとか、そういうイヤなものを抱え込まなくて済むのよ・・」
「抱え込まなくて済む、か・・苦痛から、永遠から解消されるのか・・・」
ランの誘惑に、ララは心を揺さぶられていた。
「何だったら、うまく意識が残らないように念じてあげてもいいわよ・・そんなに死を受け入れたいなら、そういうのもアリかもしれないわよ・・」
「これで私は、この永遠の呪縛から逃れることができるのか・・・」
ララは完全にランの誘惑に引き寄せられていた。
「私は永遠の呪縛に囚われ、終わりなき生き地獄を味わい続けてきた。その苦痛から逃れるために、私はこれまで世界を回ってきた・・これでこの永遠に終止符を打つことができるなら・・」
「ダメだよ、ララ!そんなことしたら、死ぬことより辛いことになる・・それはララの望んだことじゃ・・!」
「私が望んだのは永遠からの脱出だ!たとえこの身がどうなろうと、それが叶うならば本望だ!」
ルナの呼び止めにも、ララは考えを変えようとしない。
「それじゃ、抵抗しないで、大人しくオブジェになってね・・・」
そこへランが歩み寄り、ララに迫ろうとした。永遠から逃れようと、ララはランに身を委ねようとした。
そのとき、一条の刃がララとランの間を突き抜けていった。その刃がランの頬をかすめてきた。
刃を放ったのはララではなく、ルナだった。彼女が紅い剣を出現させて、ランの接近を阻んだのである。
「私はあなたのものにならない・・たとえ敵わなくても、最後まで抵抗する!」
ルナがランに向けて鋭く言い放つ。今までのような弱々しい雰囲気が、彼女から消え失せていた。
「ルナ、邪魔をするな!私はこれでこの呪縛から解放されるんだ!」
「それでララが納得するとは、私は思えない・・・」
ララが呼びかけるが、ルナは聞き入れようとしない。ランが笑みをこぼして、ルナを見つめる。
「抵抗されるほうが、コレクションに加えたときの喜びも大きいもの・・それも、あなたが相手になってくれるなんて・・」
「私はもう辛い運命に振り回されるのはイヤなの・・だから、たとえララに恨まれることになっても、私はあなたを倒す・・・!」
ルナが再び紅い剣を手にして、その切っ先をランに向ける。
「・・あのときあんなに怖がってたあなたから、そんな言葉を言われるなんてね・・・いいわ。真剣勝負と行こうね・・・」
ランがルナの意思を汲み取って、真剣な面持ちを浮かべる。その中で、ララは困惑を隠せないでいた。
「ここで好機を逃せば、お前もまた終わりなき生き地獄を体感し続けることになる・・お前はそれでいいというのか・・!?」
「ララが望んでいたのは、単に永遠から解放されたいだけじゃない。自分の納得する結末を迎えたいとも望んでいる・・」
「全てを手に入れることはできない・・永遠を得たとしても例外でないことは、お前も分かるだろう・・」
「分かってる・・だからこそ、1番納得できる選択肢を選びたい・・それは私以上に、ララが望んでいること・・・」
ルナの言葉に対して、ララは苦悩する。永遠の呪縛からの脱出と、自分の心の充実。どちらを取るべきか、彼女は迷いを感じていた。
「ランのものになるのが本当の幸せなのか、私が試す・・・!」
「女性にとって美しくなることこそが、本当の幸せだって言うのに・・」
鋭く言いかけるルナに、ランが妖しく微笑みかける。彼女の体から漆黒の霧があふれ出てくる。
その霧に向かって飛び込んでいったルナ。彼女の突き出した剣は霧を突き破り、ランに届いていた。
「えっ・・・!?」
霧を打ち破られたことに眼を疑うラン。胸を剣で刺された彼女は、そのまま仰向けに倒れる。
「やったの?・・こんなに簡単に・・・?」
あっさりと倒したことに当惑するルナ。だがランは死んではいなかった。
「まさか闇の霧を破ってくるなんてね・・・」
突然微笑んできたランに、ルナとララが驚きを覚える。ランはゆっくりと立ち上がり、胸に刺さっている剣を引き抜いた。
「どういうことなの!?・・まさか、あなたも永遠の呪縛を・・・!?」
「そこまで思いつめないで。ブラッドというだけでも、不死身と呼んでもいいほどの生命力があることは知ってるでしょう?」
声を荒げるルナに、ランが淡々と言いかける。
「それじゃ、あなたは、ブラッド・・・!?」
「そう・・ただし私の体の中には、ゴーゴンの肉が混ざってるんだけどね・・」
ランが打ち明けた言葉に、ルナもララも驚愕するばかりだった。ランはゴーゴンの肉と力を得たブラッドだった。