Blood –Eternal Lovers- File.4 人形
永遠の呪縛からの脱出のため、終わりなき旅を続けていくララとルナ。2人は人だかりを避け、小さな通りを進んでいた。
「街に出たほうがいいのでは?・・そのほうが安全では・・・」
「街は雑音が多い。私の心を逆撫でする。それに人込みを狙って暗躍する輩も多い。人がいることなど関係なく大胆に襲い掛かってくる輩もな。」
ルナが言いかけた言葉をララは拒絶する。ララは人の闇をイヤというほど見てきた。それに対する拒絶が、彼女の中で強まっていた。
「そこまで人が信じられないの・・・?」
「世界はお前が信じているような理想郷ではない。お前が信じている善人は、愚かな人間によって容易く食いつぶされる。その世界に何を求めたとて叶うことはない・・」
あくまで他人に懐疑的であるララに、ルナは困惑を募らせていく。
「私を助けたのは、単に興味が湧いただけなのね・・・」
「そういうことだ。だから私に情があるなどと、間違っても思わないことだ。」
冷淡に振舞うララに、ルナはこれ以上言葉をかけられなかった。
しばらく小さな通りを進んでいくララとルナ。その中の十字路を通り過ぎたところで、ララは足を止める。
「どうしたの、ララ・・・?」
「・・・いや、何でもない・・気のせいか・・・」
ルナが問いかけると、ララは顔色を変えずに答え、再び歩き出していった。疑問を抱えるも、ルナはララを追いかけていった。
それから一夜が明けた。そのときもララとルナは通りを進んでいた。
ララは昨日から警戒心を強めていた。彼女の様子に疑問を感じながらも、ルナは問いかけることができないでいた。
(ララ、いったいどうしたのかな?・・昨日から様子がおかしい・・・)
それでもララへの疑問を捨てきれないでいるルナだった。
(昨日の気配が間違いであると思うのはまだ早い。私を狙う敵は、まだ諦めてはいない・・)
ララは今も周囲への警戒を強めていた。しかしその敵が未だに彼女たちの前に姿を見せていなかった。
(だが近いうちに姿を見せるだろう・・私を手にかけるために・・・)
警戒心を強めたまま、ララは通りを進んでいった。
しばらくララとルナは歩き、草原に行き着いていた。そこでララは改めて足を止めた。
「ララ・・・?」
疑問を投げかけるルナをよそに、ララはついに自分たちを狙う敵の正体に気付いた。
「ここまでくればさすがに分かる。そろそろ姿を見せたらどうだ?」
ララが冷淡に声をかけてきた。すると草むらから1人の少女が現れた。
「女の、子・・・?」
少女の登場にルナが戸惑いを覚える。少女は無表情でララとルナを見つめていた。
「お前は誰だ?何を企んでいる?」
「お人形さん・・・お人形さん、もっと増やしたい・・・」
ララが問いかけると、少女は無表情のまま呟くように答える。
「お人形?・・あの子の手にも持ってる・・・」
ルナが少女を見て当惑する。少女の手には人形が握られていた。
「お人形、集める・・お姉さんたちも、お人形に・・・」
少女が呟いたとき、ララがとっさに紅い剣を出現させて身構える。少女の持っていた人形の眼から光線が放たれたが、ララが回避したことで外れた。
「その光で人を人形に変えるのか・・その力で多くの人をさらってきたといったところか・・」
ララは鋭く言いかけると、剣の切っ先を少女に向ける。
「その人形、意識は残っているのか?」
「分かんない・・だってお人形さんだから・・・」
ララの問いかけに少女は表情を変えずに答える。それを聞いてララがため息をつく。
「お前も期待できない存在だったか・・私の永遠を断ち切ることは、お前にもできない・・・」
ララは呟くと、少女に鋭い視線を向ける。しかし少女はそれでも顔色を変えない。
「私の前から消えろ。でなければすぐに葬り去る。」
「ダ、ダメだよ、ララ!こんな小さな女の子に・・!」
忠告を送るララをルナが呼び止める。
「話し合えば分かってくれる!子供なんだから!」
「だからどうした?戦いにおいて外見の年齢も関係ない。そう考えているヤツは世界の大半を占めている。」
呼びかけるルナだが、ララは聞き入れようとしない。その間にも少女は2人を狙っていた。
「お姉さんたち、お人形さんになってよ・・・」
少女は言いかけると、人形から再び光線が放たれる。
「どけ!邪魔だ!」
ララはルナを横に突き飛ばすと、自分も光線をかわして駆けていく。少女に迫ったララは、紅い剣を振りかざす。
少女は幽霊のようにふわりと飛んで、この一閃を回避する。
「そんなの、当たんないよ・・大人しくお人形さんになってよ・・・」
「私は誰の指図も受けない。お前の人形になるつもりはない。」
不満を口にする少女に、ララは冷淡に言葉を返す。
「意地悪言わないで・・一緒に遊ぼうよ・・・」
少女はララに言いかけると、草むらの中に身を潜めた。ララが注意を向けるが、少女は気配を消していた。
「どこに行った!?・・気配まで消すとは・・・!」
毒づくララが周囲を見回す。彼女は五感を研ぎ澄まして、少女の行方を追う。
そしてララはついに、少女の姿を発見する。
「隠れるのを諦めたか。そのまま逃げてしまったほうが利口だったのだがな。」
「お人形さんを残して、家に帰れないよ・・・」
不敵な笑みを見せるララに、少女が小さく言いかける。そこでララは少女が人形を持っていないことに気付く。
「お前、人形はどうした?」
「お人形さんは、もう1人のお姉さんのところに行ったよ・・」
ララが問いかけると、少女は答えてルナのいるほうに眼を向ける。彼女が持っていた人形が、ルナの背後にいた。
「ルナ、後ろだ!」
「えっ!?」
ララが呼びかけ、ルナが振り返る。その瞬間、人形が眼光を放ち、ルナを捉える。
「何、これ!?・・・体が、動かない・・・!?」
眼光に包まれたルナが体の自由を奪われる。そして彼女の体が徐々に小さくなっていく。
少女の力によって人形にされてしまったルナ。彼女は草地に落ちて、そのまま動かなくなる。
(手も足も動かない・・もしかして私、人形になってるの・・・!?)
心の声を上げるルナ。だがその声は周囲には伝わらず、体も意思を受け付けなくなっていた。
人形となったルナを見下ろすララ。彼女はルナの変化にも全く表情を変えない。
「やはりその光で人形に変えるのか。だが今ので他の重要なことも知ることができた・・」
ララは言いかけると、少女の持っていた人形のほうに向かっていく。距離を詰めたところで、ララは剣を人形に向けて振りかざす。
人形はふわりと飛翔して、ララの一閃をかわした。
「人間を人形に変えていたのはお前ではない。お前が持っていた人形・・コイツが本体だ。」
ララが人形に鋭い視線を向ける。
人々を人形に変えていたのは、少女が持っていた人形だった。少女はその人形の誘惑に魅入られ、操られていたのである。
「この人形を始末すれば決着が着く。もっとも、私にはそこの娘がどうなろうと関係ないがな。」
「・・・よく分かったね・・騙される人が多かったんだけど・・・」
語りかけるララに声をかけたのは、少女ではなく人形だった。人形は眼を不気味に輝かせていた。
「お姉さんもすぐにお人形にしてあげるから・・・」
「何度も言わせるな。私はお前の人形になるつもりはない。あくまで私に敵意を向けるなら、今度こそ切り裂くぞ。」
呼びかけてくる人形に、ララは冷淡な態度を見せる。だが人形も少女も退かない。
「覚悟を決めておけ。一瞬で終わる。」
ララは冷淡に告げると、剣を振りかざし、人形を切り裂いた。人形は簡単に両断され、草地に落ちた。
「イヤアッ!お人形さんが!」
少女が悲鳴を上げて、切り裂かれた人形に駆け寄る。人形を手にとって、その悲惨な姿をじっと見つめる。
「お人形さん・・・お人形さん・・・」
壊れた人形を見つめて、少女が涙する。彼女を背にして、ララが紅い剣を消失させる。
「私の求める終局はどこに・・・」
噛み締めるように言いかけると、ララは振り返らずに歩き出した。
人形が倒されたことで、人形にされていたルナが元に戻った。
「あ、あれ?私・・?」
小さくなっていた体が大きくなったルナが、自分に起きたことに当惑する。歩いていくララに気付いたルナは、慌てて立ち上がる。
「待って、ララ!・・励まさなくていいの?・・あの子、このままじゃかわいそうだよ・・」
「励ましてどうする?私たちはあの娘の人形を壊した。私たちが励ましたところで逆効果になるのが関の山だ。」
心配の面持ちを浮かべるルナだが、ララは毅然とした態度を崩さない。心配を募らせるルナだが、悲しむ少女にかける言葉が分からず、困惑するしかなかった。
「ゴメン・・どうしたらいいのか、私には分かんない・・・」
少女への謝意を感じて、ルナはララを追いかけていった。
少女の持っていた人形が壊れたことで、人形にされていた人々が元に戻った。人々は戻ったことに安堵と困惑を浮かべていた。
人々が真相を理解できないまま、事件は集結へと向かうこととなった。
その騒然さの傍らで、ララとルナは歩き続けていた。ルナは少女のことが頭から離れなくなっていた。
「あの娘のことが気になるのか?」
ララが声をかけるが、ルナは答えない。この沈黙をララは肯定と捉えた。
「疑念や敵意を抱けば、どんなことをされてもその矛先の相手を信じることなど不可能だ。理屈ではなく本能的にな。」
「ララも同じだっていうの・・・?」
ルナが聞き返すと、ララは肯定の沈黙を見せる。
「連中を受け入れることなど、私にはありえない。受け入れたときは、私の全てが否定されるときだ。」
「そんな・・信じるということは、相手の気持ちを知ろうとするところから始まるんだよ・・そうやって否定ばかりしていたんじゃ、信頼し合えるわけがないよ・・」
「ならば連中を私が受け入れれば、連中が私を受け入れると思うのか?」
ララが言いかけた言葉に反論できず、ルナが口ごもる。
「もしも連中に信頼を持っているなら、この世界はもっとマシになっていた。だが現実は、私たちの願いを無慈悲に蹴散らしていく。」
「そんな・・でも・・でも・・・」
「信じ抜いたところで、裏切られるだけだ。ならば最初から信じないほうが身のためだ。」
現実の非情さを口にするララに、ルナは困惑を募らせていた。それでもルナは信頼を持ち続けようとした。
「だが、お前だけには敵意は向けていない。現時点ではな・・」
「ララ・・ここは喜ぶべきなのかな・・・」
続けて言いかけたララの言葉に、ルナは戸惑いを感じた。ララが何を考えているのか、ルナは再び分からなくなっていた。
「今夜も付き合ってもらうぞ。今度はお前の自由にさせてやる。」
「えっ!?・・また、アレをやるの・・・!?」
ララの呼びかけにルナが赤面する。
「お前は私に全てを預けた。逆らうことはそれにも反することだ。」
「分かったよ・・でも、逆に傷つけないで・・痛いのが辛いのは、ララも分かってるはずだから・・」
「心配するな。その間はお前を傷つけるつもりはない。」
不安を浮かべるルナに、ララが不敵な笑みを見せてきた。
「あまり口を出すな。私の気分が変わるぞ。」
ララの呼びかけにルナが頷く。2人は落ち着ける場所を求めて通りを歩き続けた。
一夜が明けて、ララとルナは廃屋で休息を取ることにした。そこでララは衣服を脱いで、ルナに身を預けた。
(とてもきれいな肌・・ずっと旅をしてきたのに、傷ひとつない・・・)
ララの素肌を見つめて、ルナが戸惑いを覚える。不老不死の体を持っているララは、旅や戦いで負った傷もすぐに消えてしまうのである。そのため彼女の体はきれいだった。
「こんなきれいな体に触れていいのかな・・・」
「きれいな体か・・褒め言葉に聞こえないのが虚しいな・・」
ルナが口にした言葉を聞いて、ララが物悲しい笑みを浮かべる。
「それじゃ、行くよ、ララ・・・」
「あぁ・・やってくれ・・・」
ルナが言いかけると、ララが小さく頷く。するとルナはララの胸に手を当てて、彼女の鼓動を感じ取る。
(ララの心臓の音が伝わってくる・・ララも緊張しているのが分かる・・・)
その鼓動にルナも戸惑いを膨らませる。
「・・どうした?・・遠慮せずに触れて来い・・・」
そこへララの声がかかる。ルナはその言葉に突き動かされるように、ララの胸を撫で回し、さらに揉んでいく。
「く・・・2度目だというのに、勢いを込めて攻めてくる・・・」
ルナの接触に快感を覚えていくララ。ルナはララを押し倒すと、両手で両胸を揉み解していく。
「この私が、これほどまで・・・ダメだ・・我慢ができない・・・」
押し寄せる快感に耐えられなくなったララ。彼女の秘所から愛液があふれてくる。
それでもルナはララへの接触をやめない。彼女もまた、自分の中で膨らんでくる快楽に酔いしれていた。
「待て、ルナ・・少し、落ち着け・・・」
ララが呼び止めようとするが、ルナには聞こえていない。
「やめろ、ルナ!」
ララがたまらず怒鳴って、ルナを突き飛ばす。そこでルナはようやく我に返った。
「あ、あれ?・・私、何を・・・?」
「ハァ・・我を失うほどに酔っていたのか・・・」
自分が何をしたのか分からないでいるルナを見て、ララが呆れてため息をつく。
「お前は無意識に欲していたようだ。私にすがりつくことを・・」
「私、そこまでルナのことを・・・」
ララが告げた言葉に、ルナが沈痛の面持ちを浮かべる。
(この私が、ここまで畏怖させられるとは・・まるで血を渇望するかのように、アイツは私の体を弄んできた・・自分でも気付かないほどに、アイツは自分の性欲に泥酔してしまっていたのか・・)
ララはルナに対して緊張を感じていた。下手をすれば本能的な要因で、主従関係が逆転するかもしれない。彼女はそう考えるようになっていた。
「ゴメン、ララ・・私、知らない間にあなたにひどいことを・・・」
「自惚れるな。お前に謝られるほど、私は追い詰められてはいない。」
謝るルナにララが憮然さを見せる。普段のララを見て、ルナはひとまず安堵を覚えた。
「今夜は興醒めした。もう寝ることにする・・」
ララはルナに言いかけると、自分の服を着て再び横になる。
「今度は気をつけないと・・またララにひどいことをしてしまったら・・・」
ルナは自分に自制心をかけてから睡眠を取ることにした。彼女の隣でララは考えを巡らせていた。
(私はルナへの情を抱いているのか?だとしたらそれはなぜだ?)
思考を巡らせながら、ララはルナに意識を向ける。
(ルナがどうなろうと私には何の負担にもならないはず。なのに苦痛を感じるのはなぜだ?・・何だというのだ、この気分は・・・?)
膨らんでいく歯がゆさを拭えずにいるララ。彼女はこの夜、このわだかまりを感じていたため、眠ることができなかった。