Blood Eternal Lovers- File.3 隷属

 

 

 魔物によって蝋をかけられ、蝋人形にされてしまったララとルナ。だが2人の意識は途切れていなかった。

(まさかこの私が、こんな不様をさらすことになるとは・・・)

 ララが胸中で自分を蔑む。しかし彼女は今、思うように動くことができなかった。

(ララ・・ゴメン・・・ララを助けようと思って・・・)

 そこへルナの心の声が伝わってきた。

(お前か・・私に助けなど必要ない。お前が足手まといになるしかない。)

(でも・・それでも私は・・・)

(今度からは勝手な行動は慎め。絶対的な勝利が揺らぐことになる・・)

 困惑するルナにララが鋭く呼びかける。

(でも今度って・・私たち、指一本動かせないんだよ・・・)

(私をなめるな。この程度で私が完全に封じ込められたと思っているのか?)

 さらに言いかけるルナだが、ララは不敵さを崩していなかった。

(私とお前はブラッド。血を媒体にしてあらゆる力を扱う吸血鬼。この程度の呪縛では押さえ切れはしない・・)

 ララは言いかけると、意識を集中して力を集束させる。その力を感じ取って、ルナが緊張を覚える。

(何、この感じ・・体も心も押されていくような・・・)

(お前も時期に理解することになる・・ブラッドの力がどういうものなのか・・・)

 ララは言いかけると、集束させていた力を解き放つ。彼女たちを固めていた蝋が、その力がもたらした紅いオーラに吹き飛ばされる。

 蝋の呪縛に捕らわれていたララとルナが、体の自由を取り戻す。

「元に戻れた・・こんなことができるなんて・・・」

「この程度なら抜け出すことは容易い。よほどの変質をかけられていなければ、自力で何とかできる。」

 戸惑いを浮かべるルナに言葉をかけながら、ララは自分についている蝋のかすを払う。

「ここにはあの人に蝋人形にされた人たちがいる・・助けてあげたいけど・・」

「私はヤツの犠牲になった連中を助けるつもりはない。だが、このままヤツにやられたままでいるのは癪に障る・・」

 弱々しく呟くルナと、冷淡に告げるララ。

「ヤツは次の獲物を探しに出た。戻ってきたところを仕留めてくれる・・」

「でもその前にみんなを助けたほうが・・・下手をしたら死んでしまうよ・・」

「言ったはずだ。私は他の連中を助けるつもりはないと。」

 ルナの言葉を聞きいれようとしないララ。だが現状からララのほうが正しい判断だった。

 蝋人形にされた人々を救うには、魔物を倒すのが妥当。それはルナも納得していた。だがララの非情さには納得ができていなかった。

「そろそろ戻ってくるはずだ。お前はそこにいろ。」

「ララ・・・」

 呼びかけてくるララに、ルナが戸惑いを見せる。ララはルナを置き去りにして、部屋を飛び出していった。

 

 街に出た青年は言葉巧みにメイドカフェからメイドを1人連れ出し、そのまま誘拐することに成功した。気絶したメイドを抱えて、彼は屋敷の大広間に戻ってきた。

「さて、眼が覚めたら早速蝋人形にするとしよう。それまでこのメイドの寝顔でも眺めているとしようかな・・」

 横たわったメイドを見下ろして、青年は微笑んだ。彼は彼女と少し距離を取り、束の間の時間を過ごすことにした。

 だが、青年の小休止は瞬く間に打ち破られた。

 突如大広間の扉が破られ、1本の剣が飛び込んできた。気付いた青年は即座に回避する。

「この剣は・・・まさか・・・!?

 眼を疑った青年が出入り口に振り向く。その先には蝋人形から元に戻っていたララが立っていた。

「そんな!?僕の蝋を打ち破るなんて!?

「あの程度で私を押さえ込めると思っていたのか?」

 驚愕をあらわにする青年に、ララが冷たい視線を投げかける。彼女が解放されたことに、彼は畏怖を覚えていた。

「今度はもう貴様の蝋には捕まらないぞ。この手で息の根を止めてやる。」

 ララは鋭く言いかけると、壁に刺さっていた剣を引き寄せて手にする。

「こうなったら、今度はもっと頑丈に固めるから・・・!」

「言ったはずだ。今度はもう蝋には捕まらないとな。」

 いきり立って青年の姿から本性を現した魔物に対し、ララは冷淡な態度を崩さない。

「もうアイツは来ない。私は何のためらいも邪魔もなく、貴様を葬れるわけだ。」

「調子に乗るな!せっかく真っ白な蝋人形になれたっていうのに!」

 不敵な笑みを見せるララに、魔物が憤慨をあらわにする。

「あ・・あれ・・・?」

 そのとき、意識を失っていたメイドが眼を覚まし、周囲を見回す。そして魔物の姿を眼にして恐怖を覚える。

「キ、キャアッ!」

 悲鳴を上げるメイド。その声に気付いた魔物がゆっくりと振り返る。

 たまらず立ち上がり後ずさりするメイド。魔物が蝋を吹きかけ、メイドの足を固めて動けなくする。

「ダメだよ、逃げたら・・怖がることはないんだからさ・・・」

 魔物は言いかけると、一気に蝋を吹きかける。その蝋を浴びたメイドが完全に固まってしまう。

「その油断が、お前の命取りとなるのだ・・・」

 そこへ声がかかり、魔物が笑みを消す。彼がメイドに注意を向けた瞬間、ララはその懐に飛び込んできていた。

 不意を突かれた魔物が、ララの放った一閃で切り裂かれた。

「そ、そんなことが・・・!?

 愕然となる魔物が、鮮血をまき散らして事切れる。刀身についた血を振り払い、ララがため息をつく。

「この程度の相手に手間をかけるとは・・私もいつの間にか甘くなったか・・」

 ララは呟きかけると、手にしていた剣を消失させる。魔物の絶命によって、メイドたちを固めていた蝋が消失する。

「あ・・あれ・・・?」

「魔物にやられて・・元に戻ったの・・・?」

 意識を取り戻したメイドたちが動揺をあらわにする。そしてルナもその大広間にやってきた。

「ララ・・・終わったの・・・?」

「あぁ。お前の邪魔がなくて、すぐに終わった・・」

 ルナが問いかけると、ララは冷淡な態度のまま答える。魔物は体を両断されて動かなくなっていた。

「行くぞ。ここには私を満たすものはない・・・」

 ララはルナに言いかけると、きびすを返して大広間を出て行く。

「あっ!待って、ララ!ララ!」

 ルナが慌ててララを追いかけて、大広間を後にした。その場にはどうしたらいいのか分からず困惑するメイドたちが残されていた。

 

 屋敷を後にしたララとルナは、森の中にあった無人の小屋を見つけて、そこで小休止していた。既に外は朝日が昇っていた。

「まだ不満があるのか?お前も強情なヤツだな。」

 ララが憮然さを見せるが、ルナは沈痛の面持ちを浮かべたまま答えない。

「私は勝つために最も適した手段を選ぶ。それがお前たちが考えているような卑劣な手段と呼べるものでもな・・」

「ララ・・・」

「だが私から見れば、世界に存在する人そのものが卑劣だ。自分のためならば他者を平気で騙し、あざ笑う・・愚劣極まりない・・」

「そんな!人が全員、そんな考えをしているわけじゃない!優しくきれいな心を持っている人はたくさんいる!」

「きれいな心?まさにきれいごとだな・・」

 ルナの切実な気持ちをララがあざ笑う。

「私はこれまで世界を回ってきた。この長い時間、いくつもの変化も見られた。だが人間の愚かさだけは改善されない。それどころかその愚かさは日に日に増していくばかり・・」

「そんなことは・・そんなことは・・・」

「少なくとも私はお前よりも長く生きている。私のこの考えは、これまでの時間がもたらしているものだ。この考えを覆すことはできない。お前も、誰も。」

 ララの言葉に反論できなくなり、ルナが口ごもる。ララの考えは、蓄積された経験が物語っていた。

「私は何者にも侵されない。私の心を脅かす存在は、確実に葬り去ってくれる・・」

「だったらどうして私を・・それとも私にも、永遠という苦痛を与えるために・・・」

 ララの考えを受けて、ルナが歯がゆさを浮かべる。

「勘違いするな。私がお前をブラッドにしたのは、お前の覚悟が強く本物であると感じたからだ。お前は私に助けを請うために全てを投げ打った。だから私はお前を掌握した。それだけのことだ。」

 ララは冷淡な態度を崩さずに、おもむろに立ち上がる。

「さて、そろそろ私の心を満たしてもらうぞ。」

「満たすって・・何をするの・・・?」

「着ているものを全て脱げ。お前の裸身を私にさらせ。」

「えっ?えっ!?

 ララが告げた言葉に、ルナが思わず声を荒げる。

「早くしろ。それとも私に無理矢理服を破られたほうがいいのか?」

「わ、分かった・・すぐにやるから・・・」

 ララに攻め立てられて、ルナは渋々服を脱ぐことにした。するとララも自分の服を脱ぐ。

 一糸まとわぬ姿となったララとルナ。ルナの裸身を見つめて、ララが不敵な笑みを浮かべる。

「では私に体を預けろ。何が起ころうと抵抗を考えるな。」

 ララは言いかけると、ルナを抱き寄せてそのまま横たわる。何をされるのか分からず、ルナは動揺を膨らませていく。

 ララは突然、ルナの胸に手を当ててきた。そのまま胸をもまれて、ルナは一気に動揺を高まらせる。

「な、何を!?・・や、やめ・・・!」

「抵抗するな。下手に抵抗すれば、お前は私に傷を負わされることになる・・」

 悲鳴を上げようとしたところでララに言いとがめられ、ルナは押し黙る。ララにさらに胸を撫でられて、ルナは困惑していく。

「この気持ち・・あのときに似ている・・血を吸われて、ブラッドになったときと・・・」

 ルナはララからの接触を心地よく感じていた。彼女はこれが恍惚、快楽であると悟った。

「このような気分を感じるのは、体内の脈動が激しくなっているからと聞いたことがある。今こうされているときも、血を吸われているときも、体の中の血液の流れが激しくなり、脈動、鼓動も荒々しくなっていることが共通している。」

 ルナの体に触れるララが淡々と語りかける。

「強まる恍惚は歯止めが利かなくなり、酔いしれていく。お前も時期に恍惚の海に堕ちていく・・」

 ララは言いかけると、ルナの胸の乳房に口をつける。吸いつけられるような感覚に、ルナの快感は強まっていく。

「やめて・・そんなに吸われたら・・・!」

 快楽のあまりに悲鳴を上げるララ。彼女の乳房から口を離すと、ララがルナを見つめる。

「解放しろ。お前が抱えているものを解き放て・・」

 ララが言いかけたこの言葉が引き金となるかのように、ルナの秘所から愛液があふれてくる。愛液は2人のいる床に広がり、滴っていく。

「出てしまった・・我慢ができなかった・・・」

「我慢する必要はない・・このまま私に身を委ね、全てを解き放て・・・」

 愕然となるルナに、ララが囁きかける。ララは顔を近づけ、ルナの胸を頬ずりして揺らしていく。

「気持ちいい・・もっと・・もっとやって・・・」

 ルナはいつしか、ララに触れられることを望むようになっていた。その心は完全に快楽に沈んでいた。

「次はお前が、私を弄ぶ番になりそうだ・・・」

 恍惚を感じたまま眠りについていたルナを見つめて、ララが笑みをこぼしていた。

 

 ララからの接触で強い快楽を感じたルナ。眠りについていた彼女が眼を覚ましたときには、時刻は正午に差しかかっていた。

「眼が覚めたようだな・・」

 そんな彼女にララが声をかけてきた。自分の身に起こったことを思い返していた。

「私、いつの間にか眠ってしまっていたんですね・・・」

「お前、このような経験をするのは初めてだっただろう。慣れていない部分が感じられた。」

 微笑みかけるルナに、ララが淡々と言いかける。

「時期に慣らしていけばいい。私たちには、終わりがないのだから・・」

「私たちには永遠の命があるから、この命に終わりはない・・だから時間がたくさんある・・・」

「その終わりのない時間に終止符を打つ。それが私の唯一にして最大の目的。」

 沈痛の面持ちを浮かべるルナに、ララが眼つきを鋭くして言いかける。

「お前を狙っている誘拐犯の能力に、私の求める答えがある。私はそう睨んでいる・・」

「私は友達を、みんなを助けたい・・だからララに助けを求めたの・・・」

「お前の考えなど知ったことではない。お前は私についてくればいい。」

「私はみんなを助けたい!どの気持ちは今でも変わらない!それはこれからもずっと変わらない!」

 冷淡な態度を取るララに、ルナが切実な気持ちを言い放つ。その言葉と態度に、ララが笑みをこぼす。

「ブラッドの力もまともに使えないのに、大きな口を叩く。お前の場合は自惚れでないだけましか・・」

「それと、いつまでも“お前”って呼ばないでください!私はルナです!理念ルナ!」

「分かっている・・その勇ましさと覚悟に免じて、お前のその頼みを聞き入れてやる・・」

 食い下がるルナに対し、ララはため息をつく。

「これからも私について来い。そして次は、お前が私の体に触れてくるのだ、ルナ・・・」

「ララ・・・うん・・分かった・・・」

 ララの呼びかけに、ルナが微笑んで頷いた。ルナはララが名前で呼んでくれたことが嬉しかった。

「では行くぞ、ルナ。お前が言う誘拐犯を探し出す。」

「うん・・何にしたって、あの誘拐犯に会う必要があるから・・・」

 ララの呼びかけにルナが答える。2人は脱いでいた服を着て、小屋を出て行った。

 

 小さな通りを1人の女子高生が駆けていた。彼女はひたすら自分を追うものから逃げていた。

 だが女子を追いかけていた少女が、彼女の前に回りこんできていた。少女は人形のようなドレス調の白い洋服を着ており、黒い洋服を着た本物の人形を抱えていた。

「逃げられないよ・・私のお人形さん・・・」

 少女が呟きかけると、人形の眼から光線が放たれる。その光を浴びた女子の体が硬直する。

「やめて・・・やめ・・て・・・」

 女子の声が徐々にか細くなる。光に包まれている彼女の体が小さくなっていく。

 やがて収縮された女子が地面に落ち、動かなくなる。少女の力によって、女子は人形にされてしまった。

「お人形さん・・私のお人形さんがまた増えた・・・」

 少女は呟きかけると、人形になった女子を拾い上げる。その姿を見つめて、彼女は微笑みかける。

「もっとお人形さんを増やしたい・・もっと・・・」

 少女はさらに人形を求めた。彼女は人間を人形にして、自宅に持ち帰っていた。

「それじゃ帰ろうか・・ちゃんと置いてあげないと・・・」

 少女は呟くと、自分の家に戻ろうとした。だが彼女が視線を向けていた十字路を2人の少女が横切るのを目撃する。

 その2人こそララとルナだった。

「あの人たちもお人形にしたいな・・・次に持ち帰ってあげる・・・」

 少女は微笑みかけると、音もなく姿を消した。そして彼女は自宅に、自分の部屋に戻ってきた。

 その部屋の周りの棚には、多くの人形が並べられていた。そのほとんどが元は人間で、少女によって人形にされた人だった。

「また人形が増えた・・でももっと増やさないと・・・」

 少女は呟きかけると、人形にした女子を棚に置いた。彼女はララとルナを次の標的としていた。

 

 

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